青春ガールズロックと黄昏ティーチャー。SEASON3 作:黒マメファナ
いつもの幕間、今回は「開花フリージア」と題して幻のSEASON2をダイジェストでお送りします。
フリージアの花言葉は「あどけなさ」「純潔」「親愛の情」
特に白いフリージアということで「あどけなさ」「純粋」「純潔」の意味を持つ「Innocence」がヒントのキャラクターのことです。
昨年の夏のこと、オレは憂鬱ですらあった。それはもう、真剣に同期の精神科医に愚痴をこぼすほどには。
なにせ少し前にメンヘラクソ悪魔こと氷川日菜が大学生の男とホテルに入っていくのを見かけたことがきっかけだった。日常が、無邪気に信じちまってた明日ってのが瓦解した瞬間だ。
「……お前、別の男と付き合ってるだろ」
「あ、うん。そだよ?」
絶句した。なんつうか去年をお見だすような言語が通じてねぇのかと思うやりとり。お前、ああいや違うのか。オレはいつだってこの悪魔のことを解ったつもりでいただけ、寄り添えはするが理解はしてねぇってスタンスなの忘れてたのかもしれねぇな。
爛れた関係を結ぼうと、どんだけ長い時間を共に過ごそうとも、オレは氷川日菜を理解出来ねぇ。
「そうか」
「あれ、もしかして妬いちゃった? あたしにカレシができたの知って、カズくんはどう思ったの?」
「どうもこうもねぇよ、バカヒナ」
本当にコイツはバカで、オレはそんなヒナのめちゃくちゃな言動にイラつきを隠せなかった。しつこく誘ってくるから自信あるならと思ってヤってみただけ。それでオレが妬いて、生徒会長だからと自分を放置したオレを振り向かせたかった。千聖ばかり構っていた状況に、荒っぽくもありながらこのままじゃ全てが崩壊すると警告をくれた。
──凪いでる状況につまんなさそうにしてたからって理由には怒ってやったがな。
「はぁ……」
「だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫じゃねぇ」
「え、ええ……っと、あ、そ、そうだ……ケーキ食べませんか?」
「もらっていいか」
「はい!」
羽沢珈琲店でも気分が上を向かねぇのはそれが原因だがヒナへの嫉妬を拗らせたとかそういうんじゃなくて、嫉妬したことに対するアイデンティティの崩壊を引きずっていた。
オレは教師として、卒業したらアイツらに道を示す予定だった。そのためなら別の男に押し付けることもやぶさかじゃねぇとすら思っていた。だが、そうするには教師として立ち直ったオレに、その前から傍に居てくれたアイツらに愛着が湧いちまったんだよな。
「ん、うまいなこれ」
「お母さんが広島の瀬戸内から取り寄せたレモンのケーキなんですよ!」
「いい酸味と甘味だな、優しい味だ」
「……えへへ」
そのリアクションでどうやら羽沢の習作らしいことを察した。なるほど、優しい味なわけだ。副会長であり
そんな羽沢にプライベートでも助けてもらってるのは悪いなぁとは思うけど。
「そういえば、最近新しいバイトの子が来てくれることになったんです」
「へぇ、若宮以外にか」
「はい、ご両親がいくつかの飲食店を経営してる子で──」
「……なるほどなぁ」
経営者の娘で、自分もそういう体験をしようと高校生になってすぐバイトとは、それはそれはなんとも意識の高いお嬢さんだ。
羽沢と違って庶民感がなさそうなのは
「どういう繋がりだ? 同じ飲食店だから不思議じゃねぇが」
「いえ、バンドです」
「……ああ、ガールズバンド」
「はい」
まーたガールズバンドか。上原が今は「大ガールズバンド時代」だとか言ってたけど本当に楽器を持ってるやつが増えた。そういう意味じゃ「Afterglow」は先見の明があったというかその時代、流行を引っ張る側だったんだな、なんてことを考えていた。
──この頃のオレは本当に思春期かっつうくらいに漠然とした不安を抱えていた。卒業していくヒナ、千聖、紗夜にオレが高校教師として、そしてオレ自身として何が出来るか。その先、アイツらをどう扱えばいいのか。悩みが尽きず、禁煙すると決めたためため息が増えていった。
「辛気臭い顔してるねセンセー」
「……リサ」
「あ、つぐみ、アタシにも同じのちょうだい」
「はい! あ、ケーキは」
「うん、ケーキはチーズケーキで♪」
そんなオレのオアシスとなってくれてたのが、今井リサ。カラダの関係こそねぇもののオレの状況を知って、そして同じく三年生として五人全員と顔見知りのリサはまさしく癒やしと呼べる存在だった。
同時に、リサにとっては芽吹いた種を大切に育ててる段階だったわけだが。
「ヒナのこと、気にし過ぎない方がいいって。ヒナだってまた元に戻ったワケだしさ」
「そうなんだろうけど、それがいいことなわけじゃねぇんだよ」
「どうして?」
「オレがヒナや、お前らにとって先生でいられるのは後もうちょっとで、卒業すりゃ世間的にも目が変わってく」
爛れてはいるが表面上は教師と生徒であって、大人と子ども、看守と収監者という分け方にも出来る。
だがその檻、軛と表現するべきそれから解き放たれれば、その後にもオレとアイツらが爛れた関係を持てば、或いはこうして二人で休日にテーブルの向かいに座れば、それはもう男女だ。今までの体裁じゃどうにもならなくなる時が来る。
「元生徒と元教師、じゃ納得できないの?」
「それに当てはめるにはちょっと距離が近いだろ」
「ちょっとじゃないケドね」
「……とにかく、少なくとも卒業までに何かしらの
オレとモカはこういうところが根本的に似てるところだ。教師としての地位が不動で、永遠とすら思っていた。ずっとあの屋上で黄昏てる教師、それで制服を脱げば生徒は他人になると。それは去年のせいで全てぶっ壊された。だから停滞じゃなくて前進するためには、この生徒と教師って関係だったもんに決着をつけなくちゃいけねぇんだ。
「アタシ的には、カンタンな話だと思うんだケドなぁ」
「カンタンじゃねぇよ、すぐに分かる」
「──見つけた」
「ん?」
「あれ」
結局、目の前の生徒に愚痴を零して零して、カラになったカップに嫌悪感をいっぱいに満たしているとふいにそんな声を間近で聴いて振り返った。そこにはあんまりここらじゃ見ねぇ制服の、真っ白なセーラー服に身を包んだ、髪もトーンを失ったような真っ白で、肌も白く透明感のあり──だがあどけなさと幼さを感じさせる大きな瞳は青緑、
「黄昏のヒト」
「……オレのことか」
「私の、太陽」
なんだろう、厨二病? そういうのは宇田川妹がいるからキャラ被りならよそでやってほしい。ただリサはどうやらそのポエム少女のことを知ってるようで苦笑いをしている。いや解説しろ、名前を呼べ、自己紹介する気ねぇぞコイツ。
オレのヘルプコールが漸く届いたようで、リサはその少女の名前を呼んだ。
「ましろじゃん、どうしたの?」
「……リサさん、あ、えっと……そこの、黄昏のヒトを、見つけて……」
「センセー」
「あ、ああ……清瀬一成だ」
「清瀬、せん……せい?」
「おう、羽丘の教師だ……それで?」
「え、えっと……く、倉田……倉田、ましろです……月ノ森一年、倉田ましろです」
月ノ森女子学園──という名前はピンと来た。なんせ大学時代に就職先候補に挙がって真っ先に外した場所だからな。
近隣の私立女子高は実は
「あのお嬢様学校の」
「そうそう、ましろは月ノ森生」
「あ、あ、あのでも、別に、私自身は、ふつーというか、お金持ちでも、大した才能も、ないし……」
自分で言って落ち込んでいくのが目に見えてわかった。なんなんだこいつ、よくわからんが不思議ちゃんオーラは感じ取った。宇田川妹とは別物で、ヒナともまた別のコミュニケーションの取りにくさを肌で感じていた。そもそもこの倉田ましろという人物のデータは欲しかったが、それより気になってることはなぜ初対面のハズの倉田がオレを探してたかってことだ。
「センセー知り合いじゃないの?」
「違ぇよ、どう頑張ってもオレのリアクションはファーストコンタクトだろうが」
「まぁセンセーだし、またこころ辺りに巻き込まれて他校の生徒のセンセーやってそうだなって」
「巻き込まれてるが花女の生徒だけに留まってるよ」
もうそろそろ始まる文化祭は見事、というかなんというかバカヒナの暴走によって花女と羽丘の同時開催らしいからな。
その関係でこころの方を手伝って、クラスの方も手伝って、ヒナに振り回されて、リサの所属する「Roselia」のキーボードで生徒会長の白金やら副会長で戸山繋がりでもある市ヶ谷やら、なんやかんやと交友が広まりつつある。勘弁してほしい。
──じゃなくて、倉田はなんでオレを探してたのかって話だろうが。逸れてるんだよな。
「たそ、えっと……清瀬先生は、素敵な、魔法使いだって……こ、えっと、内緒にしてほしいって言われてたんだった」
「大丈夫だ、犯人解った」
こころじゃねぇか。あの金ピカ太陽サマはなにを気軽にオレを他人に紹介してやがる。
ただ、こころの言う魔法使いとこのファンタジック少女の瞳が訴える魔法使いは意味が全く違うと思うんだよな。こころは比喩的な意味であって、倉田は本物を探していたような感覚だ。
「……羽沢珈琲店に行けば黄昏の太陽みたいなあったかくて素敵な魔法使いがいるって言ってたのにこころさん話が違うよ」
「……なんて?」
「えっ、あ……えっと……人違い、でした」
「人違いではねぇんだけど、思ってたのと違ったってところか?」
「ま、センセーだしねぇ」
「うるせぇ」
センセーは第一印象そんなによくないし、と言われてもう一度だけうるせぇと返す。
だが、倉田はそれだけじゃねぇ何かの迷いを抱いたように視線をあちらこちらに彷徨わせていた。まだコイツの持ってる要素を読み取りきれてねぇからどういう考えでオレに失望したのかはよくわかんねぇな。
「その、あ、の……ごきげ……さようなら」
「……おう」
そのまま倉田は律儀に頭を下げて去っていった。噂通り挨拶がごきげんようなのかあの学校、後から姉妹とかそういう感じのが出てきそうだな、世界観間違ってるだろ。
オレとリサは顔を見合わせる。どうやらリサもましろのことはほんの少ししかしらねぇようだった。まだ知り合って浅いらしく、流石の世話焼きハイスペックギャルもこのモヤッとした気持ちを晴らしてはくれねぇ。
「……しょうがねぇ、ああいう思春期に付き合うのも教師の仕事のうちかな」
「いやぁ、他校だケドね」
「けどこころが寄越してきたんだ、やれるだけやってみるさ」
「後、センセーがやる気出して先生すると大抵ロクでもないことになりそう」
「安心しな──去年のオレとは違ぇってところを見せてやる」
期待していなさそうなリサの表情はスルーしておいて、オレは倉田の情報収集をし始めた。いつもの五人が外れて遠回りしていたところで羽沢が言っていた新しいバイトの子、というのがその倉田と同じバンドに所属している二葉つくしだと紹介される頃には、文化祭のゴタゴタもあり夏休みに入りそうになっちまっていたが。
「……あ、えっと……清瀬、先生……でした、っけ」
「おう、久しぶりってほどでもねぇけど……どうだ、魔法使いは見つかったか?」
「……いいえ」
「そんな都合のいい存在はこころでも見つけれねぇけどな、一応オレはこころからそれを名乗っていいと言われてるんでな」
「でも……あなたは、先生……大人、です」
「そうだな、オレは大人でお前はガキだ。だから対等な目線でクチは利いてやれねぇし、説教臭くなっちまう。けどま、お前の言葉を厨二病だ、痛いだと流すこともしねぇよ」
そしていつの間にか、オレはいつものクズ教師に戻ってしまっていた。けど驚くほどにこの純白で純粋な、白くてあどけない
「清瀬先生、ごきげんよう……ふふ♪」
「よう倉田、今からバンドか?」
「はい、でも途中で先生を見つけたから……寄り道しちゃってます」
「そうか」
「そろそろ、私のこともましろって呼んで欲しい」
「オレが気分になったらな」
「シロ、でもいいんです。先生になら、ペットみたいな呼び方でも」
「黙れ、早くいけ」
まぁ結果がこれなので、リサにはほらねと言われた。やっぱオレがやる気出すとロクなことにならねぇのはそうだな。もうやらん、少なくとも今の五人+二人以外には真っ当に教師として、大人としてしか接さねぇと決めた。倒錯小動物と化した倉田はリサに笑われるほどには関わり方としては失敗だった。
──その失敗の責任は誰が取るかって言えば、その前の年にやらかして五人とカラダの関係を持ってるオレが知ってる。未来っつう真っ暗な闇の中にいるオレ自身だ。
……純、潔……?
次回から金曜日の19時15分の週一投稿になりますので今までに比べれば少しお待たせしますがどうぞお楽しみに!