機動戦士ガンダム水星の魔女外典 イージス・ソウル   作:七時の権兵衛

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出会い

 視界が青いデータに侵される。

 それでも僕はやらなければならない。

 たとえこのデータストームが僕の体を蝕もうとも、続けなければならない。

 

「コール」

 

 聞こえるかい?この先にいる人たち。

 僕はM195762。議会連合傘下、オックスアースの実験体。

 男性体195762匹目の実験用チューブベビー。

 好きなものは炭水化物で出来たもの――噛み続けるととっても甘くておいしいんだ。

 嫌いなものは失敗――やっちゃうと死なない程度に殴られるんだ。痛くて苦しいんだよね。

 

「コール」

 

 今日は僕が作られてからちょうど18年らしいんだ。

 大人たちはみんな言うんだ。そろそろ処分、って。

 既にM195763は完成していて、僕ももう限界。だからこうやってお話しするのは今日が最後かもしれない。

「コール」

 

 だからね、もし聞こえてるんなら答えて欲しいんだ。

 

「コール」

 

 ――学校って、どんな場所なのかなあ。

 

【……面倒臭い場所だよ】

 ? だれ?

【お前風に言うならデータストームの向こう側の存在】

【自覚的に言うならこういう形でしか発言できない出来損ないの幽霊】

 

「何が起こっている?!」

 

 そっかぁ……じゃあお願いがあるんだ

【なんだ?】

 

「分かりません!原因不明の大量のデータストームが、うわっ!」

 

 弟、M195763を助けて欲しいな。

【どうして? それでお前に何の得がある?】

 得とかじゃないよ。兄は弟を守るもの、だから。

【そうか】【じゃあ今から言う言葉を実際に声に出せ】

 

「あ、あぁ、あぁぁぁああぁぁあああああ!!」

 

 声、出るかわかんない。

【出来る出来ないじゃない】【やれ】

 はは、幽霊さんは厳しいね

 

「あ、悪魔だ……」

 

【Gott ist tot】

「ごーと、いすと、とーと」

 

【メインコントロールシステム起動】

【XGF-D:ガンダムナウシズ発進します】

 


 

 A.S.(アド・ステラ)120年

 議会連合によって秘匿されていたオックスアース社の特殊実験施設は壊滅した。

 原因不明のデータストームによって職員は全員死亡または意識不明。実験当時モビルスーツとパイロット、後継者は行方不明。

 この事件は議会連合オックスアース社双方ともに隠蔽に動き、そもそも実験施設は存在しなかった。

 


 

「ねえ幽霊さん。僕はこれからどうしたらいいのかな」

【……学校にでも行ったらどうだ】

「僕が?行けるの?」

【その程度、俺がどうにかする】

 

 宇宙空間。本来はモビルスーツ一機では生き残ることのできない孤独の海。

 そこに僕と弟が乗り込んでいた。

 コックピットから出る音声、幽霊さんの案内の通りに真っ暗なソラを漂う。

 

「というか、データストームはどうなったの?スコア2に入ってるのに何の違和感もない」

【……お前は特別なニンゲンだったってわけだ】

「ふーん?弟が使ったらどうなるの?」

【十中八九苦しむだろうさ】

「じゃあ、僕が守らないとだね」

 

 僕の腕の中で眠るまだまだ小さい子。僕の弟。僕の家族。

 この子だけは、守らないといけない。だから

 

 

 

 

【死んだと思ったら、こんなことになるとはな】

 

 栄養失調気味で、それでも高い上背の少年が眠りについてしばらく。

 俺はモニターを明滅させながら独り言ちる。

 宇宙開拓時代。まだアドステラになっていなかったとき。それが俺の生きた時代。

 火星からごくわずかに取得できた謎の元素、今ではパーメットといったかそれを機械に組み込む実験に俺は参加し、データストームによって死んだ。

 当時はデータストームなんて言葉もなかったから急性心不全として処理され、パーメットの研究は続けられた。

 

 それが何の因果か周りは危険性を知っているのにかつての俺と同じように実験に使われる少年少女たちを俺は見ているしかできなかった。

 

 苦しい、死にたくない、死にたい、殺して、殺さないで――誰か助けて

 

 今でも俺の中で怨嗟が渦巻いている。俺が俺でいられるのは、単に長くいすぎたから。

 ずっと聞こえてくる声の中で、あいつは唯一、()()をしようとした。

 それが切っ掛けなのか、少しずつ自由になれた。少しずつ勝手に動けるようになった。

 でも、あいつがもうすぐ殺されるとわかった。必死に声を出した。でも聞こえなかった。

 もうほとんど諦めていた。だから、学校の答えも適当に言った。

 でも聞こえた。

 

 そこから、何とか動いて、今に至る。

 

 今でも怨嗟の声は鳴りやまない。

 でも俺はもう逃げない。諦めない。

 この兄弟を守り通して、大往生させるためなら、俺は

 

「【盾になる】」

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