本家「ポケモン」に登場するいかなる人物・組織・団体とは似ているようで違い、一切関係ありません。
1
ここは、無人発電所。
その字が表すように、「人」はこの発電所にはいない。
「おい、ここはおめぇみてーなガキが入っていい場所じゃあねーんだよ」
門番が怒鳴り声を上げる。
門番といっても、もちろん人ではない。先も言ったとおり、ここは無人であるからだ。
だから門番は、人ではなかった。
「ここにはおめぇみたいなちっこい『ポケモン』なんて敵いっこない、恐ろしい化け物がいるんだからな!」
ポケモン。
門番は、ポケモンと呼ばれる生物であった。
「ふーん、なんてポケモン?」
来客者は物怖じせず、門番に訊き返す。
その堂々とした態度に、門番は心の中で少しだけ感じた。
「奴」と同じだ、と。
「……その前に、だ」
門番は問い返した。
「なんだ?」
「おめぇみたいなポケモン、この地方では見かけない。
おめえ、なんていうポケモンなんだ?」
門番は今まで纏っていた殺意ある雷の出力を下げた。
今話しているこいつは、この無人発電所ごときでやられるような奴じゃない。そう、門番は話していて思ったからだ。
門番は本来、ある地帯を守るために番をしている。
しかし彼は違った。
身の丈に合わない、立ち入ると命の危険がある来客者を守るために、番をしているのだ。
だが、こいつは小さいが、いざというときの爆発力がある。彼は今までの経験で、それを直感的に感じた。
門番は自分の紹介がまだだったか、と言って、黄色い両翼を来客に見やすいように動かした。
「オレはサンダー。この無人発電所の門番をしている。かつては『伝説の三鳥』っつー名前で世間を騒がせてたんだが、まあ、若いやつは知らんか。
おし、自己紹介も終わったし、次はおめえの番だ」
小さい来客者は頷くと、ぴょんぴょんとその場を飛び跳ねた。
「私の名前はバチュル。遠い海の向こうからやってきた。特技は威嚇だ。いま、お前の目の前でやっている」
「………」
ぴょんぴょん、と、カエルくらいの高さで跳び続けるバチュル。
門番の脳裏に、ここである不安がよぎった。
もしかして、オレが抱いたこいつへの期待は、間違っていたのではないか?と。
しかし、それは杞憂であった。ということを、門番は数時間後に知ることとなる。
「化け物の名前を知りたい」
バチュルが門番に問うた。
門番は答えた。
「化け物の名はレアコイル。『伝説の三鳥』時代のオレを軽々とぶちのめした、正真正銘の怪物だ」
2
イッシュの英雄。
それは伝説のポケモン・ゼクロムとレシラムを指す言葉、ではない。
ゼクロムとレシラム、二体の英雄は、彼らの力をはるかに上回る巨竜に滅ぼされた。
巨竜の名は、レックウザ。
大気を自在に操る緑色の脅威に、善戦したが、レックウザが宇宙から手に入れたという『謎の石』によってその姿を変化させ、ゼクロムとレシラムを葬った。
本来はホウエン地方にいて、陸と海を支配するポケモンの暴走を止める役割をもっていたレックウザ。
そんな彼がホウエンから飛び立ち、海を越えてイッシュ地方に来た理由はなんなのか。
イッシュとホウエンの学者だけでなく、全世界の学者が今もその研究を続けている。
話を戻そう。
さて、レックウザは今もなお人々を苦しめているのか。
それは否である。
なぜなら、ゼクロムとレシラムではない、イッシュの英雄がレックウザを退治したからだ。
英雄の名は、バチュル。
パソコンのマウスほどしかないサイズのポケモンが、レックウザを退治したという。
それから、そのバチュルは、イッシュの英雄としてイッシュ地方の歴史に名を刻んだ。
バチュル伝として。
3
彼女の小さいからだとは似合わない、だだっ広い空間がそこに広がっていた。
「さっき話したと思うが、もう一度説明するぞ」
「ああ、頼む」
黄色い体色の2体、サンダーとバチュル。
バチュルはサンダーの肩に乗っかって、サンダーは発電所の奥へ奥へと進んでいく。
「ここ、無人発電所は、10年前にオレが占拠していた発電所だ。
その頃から人間はここにはいなくてよ。
廃墟になると建物ってのは一気に風化するだろ?
オレはここの発電所が人もポケモンにも見捨てられた土地になるのが嫌で、オレがここらを占拠したんだ」
「ふぅん、意外な理由で驚いた」バチュルは真顔で言う。
「そんな風には見えんがな」
サンダーは肩からバチュルを落とさないよう意識しながら、続ける。
「んで、今からちょうど5年前くらいか。オレのところにあるポケモンがやってきたんだ」
ちかちか、と蛍光灯が点いたり消えたりを繰り返している。
「そいつの名はコイル。まあカントー地方にならどこにでもいるようなポケモンさ」
人もポケモンもいない発電所には、音がない。
響くのはサンダーの声と、サンダーが羽ばたくたびに聞こえる風の音。そして、蛍光灯の音……。
「オレが占拠したあとも、ビリリダマ……丸いモンスターボールみたいなポケモンや、ピカチュウっつーねずみポケモンたちがここに住み着いたんだけどよ。
オレは、居場所がなくなったポケモンを匿っていたんだ。だからそのコイルも、そんなポケモンの1匹だと思っていた」
「違っていた」
バチュルが言葉を紡ぐ。サンダーは頷いて、
「そうだ。そのコイルは違った。居場所を奪われたポケモンではなかった。むしろ……」
ばちんっっっっ!!!
そこで、真上にあった蛍光灯から電気が迸り、蛍光灯のガラスが割れた。
「ッッ!」
とっさにサンダーは体内で電流のサイクルを猛回転させ、黄色く光る右翼で落ちてくるガラスの破片を薙いだ。
「大丈夫か!?」バチュルは心配の声を上げる。
「ああ」サンダーは肩に意識を向け、心配いらない、と告げた。
「オレの体表面には常に電流が流れているんだ。直接ガラスには触れていない」
だが、とサンダーは周囲を見回した。
「これは、何者かの意図だろう」
バチュルが先んじて言った。
「殺気を感じる」
「ああ、オレも感じるぜ。ふむ、やっぱりおめえ、ただもんじゃあねえな」
「ふん、大したものではないよ」
かたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかたかた…………。
ずーんずーんずーんずーん……。
発電機が唸り、天井の蛍光灯のガラスが震えている。
近づいてきている。何者かが。
「こりゃあ、
「ああ、
二匹は警戒し、周囲の様子をうかがう。
そこに。
いた。
眩い光を上下左右斜右上斜右下前方後方全方位。
太陽が発する光のような、しかし太陽のような温かみではなくぴりぴりと肌を焼くような冷たさを纏った紫電が、「奴」を中心に放射状に放たれている。
灰色の球体。それが3つ。
それぞれの球体の左右には手のように磁石が取り付けられている。
3つの球体は三角形の頂点のように寄り添い、くっ付いている。
灰色の球体それぞれの中心に、目らしいものはない。ただ、丸い白があるだけ。
バチュルは感じた。
彼(ら?)のからだから発せられる、深い深い怨嗟の闇を。
我を忘れてただ破壊だけを目的とした、殺戮兵器のような冷たさを。
サンダーは感じた。
門番は門番の仕事を全うするべきであり、立ち入ってはならない場所が確かに存在することを。
そして、自分はここにいてはいけない存在であることを。
ここで、2匹の行動は異なっていた。
『伝説の三鳥』として名を轟かせた黄色い翼は、後退し、
パソコンのマウスほどしかない体躯をもった黄金の毛並みは前進した。
そこが、決戦の始まりだった。
イッシュの英雄と呼ばれる英雄と、復讐と怨嗟の絶望の光を撒き散らす災厄が、衝突した。
つづく