コイル伝    作:綺羅良 影

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※この物語は「ポケットモンスター」の二次創作です。
本家「ポケモン」に登場するいかなる人物・組織・団体とは似ているようで違い、一切関係ありません。


第2伝『過去。怪物。覚醒。』

 

 そのコイルは、捨てられていた。

 

ホウエン地方にある電気街キンセツシティから東にある浜辺で、波を受けながら、倒れていた。

 

「うぅ、うう……」

 

からだが重い。

 

「……」

 

捨てられたコイルは体力を回復する術もなく、このまま餓死して死んでいく。

 

磁力も弱まっている。

 

いつかはゼロになり、このからだの持ち主はこの世からいなくなる。

 

残るのは、銀色の、ねじを付けた球体。そして2対の磁石。

 

ポケモンは死ぬと、カントー地方シオンタウンにある墓地、通称ポケモンタワーに埋葬されるが、そのコイルにそのようなパートナーはいない。

 

いや正確に言うならば、いなくなった。

 

そのコイルのパートナー、すなわちポケモントレーナーはホウエン地方では名の知れたトレーナーだった。

 

「…………」

 

瞳から光が消えた。

 

そして魂は、この世ではない「どこか」へ去っていった。

 

 

 

 

「ガガガ……ジジ………ジジジジジジジジジジジジジジジジガジジジガジジガガガガガガガガガ……」

 

目を焼かれるほどの光量が、サンダーに襲い掛かる。

 

それは彼が攻撃を受けているからではない。

 

尋常ならざる力を持つ怪物レアコイルを相手どり、ちょこちょこと回避するバチュル。

 

滑稽にも思えるその光景を見ているサンダーにも、凄まじい光の暴力を感じることができたからだ。

 

「(あいつ……たしか海の向こう、イッシュ地方からやってきたと言っていた。

……イッシュ地方のポケモンは、こんなに戦闘民族みたいなのか?!)」

 

オレが門番をしていた無人発電所に単身でやってきた小さい客。

 

この無人発電所には化け物がいる、とオレが警告したにもかかわらず、あいつは奴と戦おうとした。

 

そんな無謀なことを、と思っていたが、やはりオレの勘は当たっていたというべきか。

 

あのレアコイルと同じ闘志を感じたのだ。

 

だからオレはあいつを追い出さなかった。

 

「伝説の三鳥」時代には会わなかったタイプの、ポケモンだ。

 

「ッッ!! おいバチュル、「アレ」が来るぞ!」

 

「承知した!」

 

レアコイルは合計6つの磁石の方向を中央に揃える。

 

するとそこに先ほどとはくらべものにならないほどの電気エネルギーが球体として現れた。

 

でんきタイプ最高威力のわざ。

 

でんじほう(電磁砲)。

 

通常は一発放たれていても恐ろしいのだが、レアコイルはそこかしこに電磁砲を撃ち出した。

 

「…………っ」

 

間一髪で、数発の電磁砲をよけるバチュル。

 

しかし、レアコイルの狙いはそれではない。

 

無人発電所にはその名の通り発電設備には事欠かない。部屋にある発電設備が次々と破壊されて、爆発が連鎖的に起こる。

 

「バチュル……!!」

 

サンダーが叫ぶも、バチュルは爆発による炎に巻き込まれる。

 

バチュルのタイプは、でんき/むしタイプ。

 

無論、炎には弱い。

 

「ジガ、ジガジジジジ……ジジジジガ……」

 

レアコイルの砲撃を避けようと、バチュルはレアコイルから放たれた電磁砲を避けながら、本体であるレアコイルに近づいては離れ、近づいては離れを何度も繰り返していた。

 

だが、その小さなポケモンの反抗も、怪物レアコイルは許さなかった。

 

「くそっ、バチュル……!!」

 

サンダーも、辺り一面広がる炎の海に、茫然としている場合ではない。

 

この戦いは負けたのだ。

 

また、犠牲を出した。

 

オレは、昔と何も変わっちゃいない。

 

守るべきものを見失って、本来助けが必要なものは目の前からいなくなる。

 

あのとき、オレが足止めをしていれば。

 

あのバチュルは。

 

生きていたかもしれないのに。

 

「この、化け物がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

サンダーは咆哮する。

 

サンダーの黄色い両翼が、青白い光を散らす。

 

怒りのエネルギーで、両翼からは、サンダーが今まで纏っていた電気を上回る高圧電流がこぼれそうなほど発されていた。

 

もう悟ってしまった。

 

このままオレがいたところで、救われたポケモンなんていない。

 

みんな、死んじまった。

 

そして残るのは、役に立たない自分のみ。

 

そんな自分が突撃したところで、なにか変わるというわけでもないけれど。

 

ただ、オレが守れなかったポケモンたちへの償いとして。

 

オレが消えるのなら、ーーーーー。

 

 

 

 

「いや、私が否定しよう。

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

燃え盛る業炎から、戦士の声が聞こえた。

 

その声ははっきりと、サンダーの耳に届く。

 

「私は負けてはいない。見ろ、ヤツのからだを」

 

サンダーはバチュルから目を離し、怪物レアコイルの方向を向いた。

 

そこには、光の災厄を振りまいていた機械ポケモンはいなかった。

 

ただ、蜘蛛の糸にからまり、空回りの暴走をしているレアコイルがいた。

 

「ポケモンのからだ、いや、人間のからだもそうか。

生物は、エネルギーを発するときに使う筋肉がそこかしこにある。

もちろん機械仕掛けのレアコイルに筋肉はないかもしれないが、だがあいつは「機械」ではない。

 

感情を持つ「ポケモン」なのだ。

 

ポケモンならば生物といえ、生物ならばエネルギーを使う筋肉もどきがある。

そこを締め付けられれば、奴は発電器官を動かすこともできないし、力を入れることもできなくなる。

 

私はあいつの周りを行ったり来たりしていただろう? 

 

あれは口から糸を吐いて、発電器官のある筋肉もどきを締め付けていたのだ。

もちろん、あの手のような磁石が届かないような箇所を探して、な」

 

バチュルが吐いた糸でぐるぐる巻きになっているレアコイルは、徐々に元気を失っていく。

 

「あと私の糸は体内、いやあの場合は機械部品か、あれに侵入させることもできる。

 

これはイッシュ地方の蜘蛛ポケモンだから出来るということではないぞ。

 

私はこれでも修行した身、だからな」

 

サンダーは、目の前で静かになっていき浮遊力を失った怪物を見下ろした。

 

炎から帰還したバチュルに、サンダーは感心よりも先に、ある疑問が浮かんだ。

 

「でもそれって炎から生き残った理由にはならないよね?」

「ああ、あれは気合いだ。理屈などない」

 

 

 

糸に絡められ、浮いていたからだも地に落ちたレアコイル。

 

そこには生命力など感じない瞳があった。

 

虚空を見つめ、しかしそこには何も映らない。

 

映ったところで、その映像を処理する器官はもう機能を停止してしまっている。

 

はずだった

 

「オ、オオオオ……オレ、オレ……ハ、オマエヲ……許サナイ」

 

サンダーとバチュルが怪物退治成功に喜んでいるその後ろで、怪物レアコイルの瞳には、生命力を感じさせない、暗黒の光が宿った。

 

無人発電所の中空から、禍々しい色をしたオーラが、レアコイルに次々と流れ込む。

 

怪物を締め付けていた糸は、ぶちぶちっと音を立てて千切れる。

 

暗く絶望を感じさせるオーラをまとったレアコイルは、赤黒い3つの瞳をばらばらに動かしながら、浮遊を再開する。

 

「オレヲ捨テタ、アノ、トレーナーヲ、オレハ、……コロス」

 

怪物レアコイルは、死んだ後に、再び立ち上がった。

 




つづく
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