1
こりゃあ、良い。
「これは、俺が悪いんじゃないんだからな」
突然、俺が住む無人発電所が騒ぎ出した。
いつもは俺が騒ぐと、周りのやつらが寄ってたかって俺を殴る癖に。
「これは、天罰なんだからな! お前らが俺にやってきたことと、何の変わりもないんだからな!!」
無人発電所には、身寄りのない電気ポケモンが多く住んでいる。
住んでいるということは、ポケモン一匹一匹の居住スペースがある、ということ。
何が原因かはわからないが、発電所はパニックになっている。
今がチャンスだ。
今が、俺を殴ってきたあいつらへ仕返しをする番なんだ!
俺は奴らの居住スペースに立ち入ると、お金になりそうなものを次々とバッグに入れていった。
「なに、してるの?」
心臓が、止まるかと思った。
振り返ると、俺より小柄なエレキッドがいた。
大きさといい、声の高さといい、こいつは子供だ。
でも、見られた。
俺が火事場泥棒をしている現場を、こいつに。
「今は緊急事態……だよな、そうだよな……」
俺は自分に言い聞かせた。
「俺だって、自分を守る権利はあるはずだ。なぁ、エレキッド君よ。なぁ!?!?」
「ひぃっっ!」
子供のエレキッドが逃げようとするが、逃がさない。
小さい子をあやすようなエネコ撫で声で、しかし確実に悪意をもって、俺は言う。
「自己紹介しようか、俺はマイナン。君は?」
「やめ、やめてっ」
「おい」
俺はエレキッドの頭部の電極を掴んで、ぐいっ、と上に持ち上げる。
「お前の名前は『やめ、やめてっ』って言うのかよ、ァア!?
自己紹介されたら、否定するって学校で教わってんのかよォオオオオオオ!!!?」
「ひ、ひぃっ、ひっぐ……ひっぐ」
「泣いて許されるんならよォ、俺はいま「こう」にはなってねえんだぜエレキッド君よぉおおおおおおおおおお!!」
俺は電極を掴んだ腕を真上に振り上げ、その勢いでガキを地面に叩きつけようとする。
こりゃあ、軽い。
あいつらも、俺をこんな風に、下に見ていたのか。
ははっ、こりゃあ良い。良い気分だぜ、これはっっ!
「……て、やめて」
「うおああああああおおおおおおおおおおおお!!!」
俺の腕がガキを叩きつける瞬間。
俺の腕から急に重さがなくなった。
「おめえは、迷子で右往左往している子供を、そうやって扱うって学校で習ったのか?」
「おおおおおおおおおっ………、おあ?」
後ろから、低い声がした。
エレキッドのガキは、俺の腕から離れて、はるか前方にいた。
いまのは、風か?
「なんだてめえ、俺は今むかむかしているんだ、下手すりゃてめえも、」
振り向いたとき、その顔を見たとき、息が止まった。
からだも、止まっていた。
まるで金縛りにあったみたいに。
圧倒的な恐怖が、俺のからだを動かさない。
びゅんっ、と。
低い声の主は俺の横を目にもとまらぬ速さで抜けると、エレキッドのガキの前に塞がる。
俺と向かい合うように。
「て、て、……てめえはっ、何だッッ!」
必死に恐怖を抑え込んで出した言葉は、それだけだった。
低い声は、俺の問いに答える。
「オレはサンダー。
そういうお前は……マイナンか。どうする、今なら謝罪で許してやる。
オレにじゃあねえぞ、この子供に、だ」
俺は精一杯の力で、足を動かし、情けない声を出して、その場から逃げた。
あいつらから盗ったバッグも放り出して。
俺は、また、逃げた。
2
火事場泥棒は、いる。
数年無人発電所で門番をしているから、パニック状態になった発電所内で、パニックに乗じて他人のものを盗むやつは、今まで散々見てきた。
オレはそーいうポケモンを、本気に軽蔑している。
今逃げたマイナンも、オレは許すことはできない。
だが、あのマイナンも、オレと同じような気がした。
オレは泥棒なんてしないが、あのマイナンも、何かから逃げているポケモンだと、オレは思った。
何から?
自分から。
「手前の責任は手前でとる。それは、覚悟のいることだ」
「……?」
かばったエレキッドはようやく泣き止んだ。
オレの言葉に、きょとんとしている。
「小さなエレキッド。今はわからなくてもいい」
それでも、オレは小さい少年に声をかけた。
「どんなに辛いことがあっても、それを生み出す側には立つな。それは、逃げることと一緒だ」
相当クサいことを言っちまったな、と言って、俺は最大限の笑顔をつくった。
「さ、おめえの母さんが待ってる。オレの背中に乗れ」
小さいエレキッドを背に乗せて、低空飛行で発電所内をサンダーは駆ける。
3
彼は次々とポケモンを処分していった。
処分といっても、殺処分ではない。
それだと保安部隊(通称ジュンサー)に捕まるからだ。
あとただ単に、面倒だったからかもしれない。
ただ、逃がすだけ。
しかし、この「ただ逃がす」が問題であった。
ポケモンは生物なので、本来の生息域というものがある。
水棲ポケモンは水辺に、鉱石ポケモンは洞窟に、といったようにだ。
しかし、レクリス=アダマンタイトはそんなことを一切気にしない。
興味がない。
ただ、邪魔になった。
自身が無様に名を遺すことを防ぐために、邪魔だった。
だから捨てた。
彼がポケモンを捨てるのはこれが初めてではない。
ポケモントレーナーになってある程度経験を積んだころ、彼はポケモンの能力値を可視化することのできる装置を手に入れた。
それは有名なエンジニア、マサキが発明した『ポケモンボックス』。
従来の預かり機能に加えて、ポケモンの能力値が「視える」人物に協力してもらい、その人物を人工知能化してシステムに組み込んだ。
レクリスはポケモンボックスで、捕まえたポケモンの能力値を一匹ずつ見ていき、能力値が低い個体はその場で捨てた。
能力値は遺伝で決まるという性質を利用し、ポケモンのタマゴを次々と孵化させるが、能力が低い個体は幼体のまま捨てた。
彼にとって必要なのは能力値が高いポケモンのみ。
それ以外は彼にとって邪魔でしかない。
そうやって彼に捨てられたポケモンは、レクリスの頭文字をとって、『Lのポケモン』と呼ばれるようになった。
伝説のポケモントレーナーの一時は所持していたポケモンなため、世界中のレクリスに憧れるトレーナーたちは、Lのポケモンを乱獲していった。
しかし、Lのポケモンすべてが捕まえられたわけではない。
ひと気のない場所やあまり知られていない秘境などに、Lのポケモンは、主を失ったまま、彷徨っていた。
そのレクリスに捨てられ、他のポケモントレーナーにも発見されないままであったポケモンは、狂暴・暴走化した。
無人発電所のレアコイル(コイル)も、その一匹であった。
4
「く……」
バチュルは、自身の体温がわからなくなっていた。
痛みと疲労で熱いのか。
恐怖で震えて寒いのか。
もう、彼女の身体は限界を迎えようとしていた。
「(「くものいと」を何発も当ててみたが、熱で焼き切られる。内部に入れようとしても、また内部の熱で焼き切られてしまう……)」
むしタイプの補助技・くものいと。
名前の通り、蜘蛛の糸を吐き出して、相手を拘束する。
はじめは素早さを少し下げる程度だったのだが、最近は素早さをがくっと下げるくらいの効果がある。
それは気のせいか、もしくは私の実力が上がったか。
『110001011110001111100111111000101』
電子音と共に、ダークレアコイルから衝撃波が押し寄せる。
はがねタイプの補助技・きんぞくおん。
聞いた者や波に触れた物の耐久力を大幅に下げる。
ポケモンの場合は、特殊技版の守備力である「特殊防御力」ががくっと下がる。
バチュルは、とてつもない金属音の衝撃波で、近づくことすらままならない。
かといって、遠くから蜘蛛の糸を吐いても、ダークレアコイルの放つ熱で焼き切れる。
ダークレアコイルの高速でんじほうから、逃れ、金属音を身に浴びる。
これだけでもバチュルの体力は大きく削れていた。
それらに加えて、
「(来る)」
バチュルは覚悟のオーラをまとい、回避に専念する。
ダークレアコイルの3つの磁石から、炎、氷、雷のそれぞれが飛び出してくる。3つのエネルギーが次々と飛んでくるのを、避けるのに必死であった。
ノーマルタイプの特殊技・トライアタック。
炎、氷、雷の三属性のエネルギーを同時に放ってくる大技。
当たれば、確率で「やけど」「こおり」「まひ」いずれかの状態異常にかかってしまう。
今まで彼女がいたところは、炎が燃え盛り、凍てつき、そして放電が同時に発生するという不可解な現象が起こっていた。
一番の問題は、このトライアタックだ。
彼女も、電磁砲や金属音までなら体力は大きく削れるが、対処ができる。
しかし、トライアタックは、どうしても「通常時のバチュル」では避けることができない。
「(トライアタックは、3つの目玉がそれぞれ標的がどうやって動くかを見ていて、それを3つの脳(?)で演算して、一番私に当たりやすい地点へ向けて撃ってくる。私は電磁砲連発と金属音を回避で精一杯っていうのに)」
通常時のバチュルならば、トライアタックは避けられない。
しかし、意識的に覚悟のオーラをまとった彼女ならば、素早さは飛躍的に上昇するため、回避が可能だ。
「(だがこのまま防御一辺倒では、攻撃など……)」
いくら回避が可能なところで、反撃が出来なければ、ポケモンの域を超えたダークレアコイルとの持久戦では負ける。
この状況を打開するには、何か策がないと。
トライアタックを外したダークレアコイルは、今度は高速でんじほうを撃っていく。
「(でんじほうのPPは少ないはずなのに、どうしてあんなに撃てるのだ?
……いや相手はもうポケモンではない。ポケモンの常識で考えること自体が間違っているのか)」
ダークレアコイルは電気エネルギーをそれぞれの磁石に貯めこむ。
「む?」
バチュルはダークレアコイルのからだに何か気になったのか、意識をそちらに向ける。
そんなことお構いなしに電気の塊のガトリングは止まらない。
それらを限界の近いからだを動かして回避していく。
しかし、彼女の表情は変化していた。
「トライアタックを撃つためにはそれぞれの球体の思考を集積させ、演算させる場所が必要なはず。
そこに奴を突破するための鍵があるかもしれな」
そう呟いている最中だった。
「おい、バチュル!! どうだ、善戦してるかっ!?」
やってきたのは、おそらくポケモンの避難をしていたであろうサンダーだ。
彼女は微笑む。
「そういう貴様は、ポケモンたちの避難は済んだんだろうな?」
「ああ、これで心おぎなく戦えるぜ」
それを聞いたバチュルは、サンダーの近くへとぴょんっと飛ぶ。
「それではサンダー」
「な、なんだよ急に。って、なにその金ぴかに輝いている毛並みは!?」
「まず聞け。これは貴様がいないとできないこと、そして貴様が「こうなる」番になる」
「?」
彼女はサンダーに早口で策を伝える。
ダークレアコイルのラスターカノンはサンダーに向かってくるたびサンダーを体当たりして避けさせ、自分はぴょんっと身軽に避けながら。
サンダーが戻って来てからバチュルの動きが身軽になっている。
「? そんなので、いけるのか?」
納得しきれていないサンダーは聞き返す。
「すべてはお前次第だ。頼んだぞ」
バチュルとサンダーは相手のダークレアコイルの方に視線を戻す。
「さあ」
ラスターカノンを撃ち終わり、次の攻撃の準備に入るダークレアコイル。
「反撃開始だ」
つづく
【設定補足コーナー 〜本家ポケモンとの細かな違い〜】(細かいこと気にしない人はスルーでもいいです)
・PPについて
パワーポイントの略。ポケモンのわざにはそれぞれ回数制限があり、それをPPと呼ぶ。威力の低いわざほどPPは多く、威力が高いわざほどPPは少なくなる。
たとえば「でんじほう」のPPは5。しかしポケモンではないダークレアコイルにPPの概念はない。PP切れを狙うのは愚策である。
また、パワーポイントは体力が全快していれば自然に回復する。逆に体力が少しでも消耗していれば回復しない。
「ヒメリのみ」という木の実を食べることでPPを回復することが可能。
・特殊防御力について
ポケモンには物理防御力(ぼうぎょ)と特殊防御力(とくぼう)の2つがある。
物理攻撃は物理防御力、特殊技には特殊防御力がそれぞれ対応している。
本作では、特殊技を物理攻撃として使った場合、防御側は物理防御力、特殊防御力のどちらか大きい方で対応する。
(まだ出ていないが、例えばラスターカノンのエネルギーを磁石に溜めて直接殴った場合など)
物理技を特殊攻撃として使った場合も、物理防御力か特殊防御力の値が大きい方で対応する。
(本作では「じしん」がそれにあたる。基本ゲームで物理技となっていても、明らかに物理攻撃っぽくないわざはここに当てはまる)
・トライアタックについて
本編に記載のとおり、三属性のエネルギーをそれぞれの磁石から発射し、同時に着弾させて、三属性のエネルギー反応が同時に起こる。
発射して着弾するまでは通常の炎、氷、雷エネルギーとなっている。
着弾すると、タイプがノーマルタイプのわざになる。
着弾する前にエネルギーに当たった場合、炎ならほのおタイプのわざとして計算される。他2属性も同様。
【設定補足コーナー 〜本家ポケモンとの細かな違い〜】おわり