コイル伝    作:綺羅良 影

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第5伝『無人発電所の青い鳥』

 

覚悟のオーラは、ポケモンの能力を一時的に高める。

 

発動の条件というか、発生の原理としては、次の通りになる。

 

1.ポケモンの感情が激しく揺れ動く。

 

2.感情が揺れ動くことによって、ある神経細胞が活性化する。

 

3.ある神経細胞の活性化によって、『覚悟のオーラ』状態へと移行する。

 

サンダーが覚悟のオーラを発したのは、バチュルが死んだ(と思い込んでいた)悲しみと、レアコイルに対する怒り、自分への情けなさ、といった激しい感情の揺れ動きからだと考えられる。

 

しかし、覚悟のオーラを使いこなすためにいちいち感情を揺れ動かすことは体力的にも精神的にも非常に疲労する。

 

そこで発見された方法が、いきなり2.と3.の手順に入る方法である。

 

「要は覚悟のオーラを発生させるための「ある神経細胞」を活性化させればいいだけだ」

 

「でもよバチュル、それって、意図的に起こせるのか?」

 

「起こしているからこうなっているのだ」

 

現に黄金の気をまとっているバチュルが言うならば、方法はあるのだろう。

 

「どうやって?」

 

「修行だな」

 

「……」

 

サンダーは苦い顔をする。

 

「修行をしなくても出来るポケモンは存在する。本能というか、意識的に出す方法をからだでわかっているポケモンが。

たとえばエスパータイプのポケモンは修行をしなくても、覚悟のオーラ状態に移行できる」

 

「ずるいな」

 

「貴様がひこうタイプで空を飛べるってのも、他のタイプからしたら羨ましいと思うが?」

 

「そういうもんか」

 

「そういうものだ」

 

で、本題。

          

「その覚悟のオーラを()()()()出せないと、オレたちはダークレアコイルに反撃が出来ないってことなのか?」

 

バチュルは首を振る。

 

「そういうことではないのだがな。まあ、成功確率は上がる」

 

そこでサンダーは、さっきバチュルに耳打ちされたばかりの内容を思い出す。

 

『あいつに一太刀入れる方法だが、まず、私が奴の足止めをする』

 

『足止め?』

 

『ああ、それで一瞬のスキが生まれたら、貴様が素早く奴を攻撃するんだ』

 

『攻撃って……、だってあいつ、お前より速いんだろ? オレが敵うはずがないだろ』

 

『いや、覚悟のオーラをまとえれば或いは』

 

と、そこまで思い出したところで、

 

「結局オレがまとえないと失敗じゃねえかよ」

 

サンダーは結論を出す。

 

「いや、私はそう悲観してはいないよ。貴様はきっと覚悟のオーラをまとえると信じている」

 

「は、はあ」

 

よくわからないが、ここでうだうだ言ってても仕方がないだろう。

 

ダークレアコイルに一矢報いる方法がこれしかないのなら、かけてみるしか。

 

「よし、じゃあ、まず私をしばらくかばってくれ」

 

「?」

 

「準備がいるのでな。この作戦には。

だからサンダー、貴様はとりあえず私の身を守りながら粘ってくれ」

 

「!? お前ですら手こずってるのに、オレがどうやって、」

 

「期待しているぞ、王子様」

 

 

 

「ついたぜ」

 

二人の人間が、無人発電所にたどり着く。

 

「サンダーがいないな」

 

「きっと奴も、「あいつ」と戦ってんだろうよ」

 

グリーンはそう言って、モンスターボールを投げる。

 

中からは白い光とともに、カメックス……ではなく、ダグトリオが現れた。

 

「でんきタイプの巣窟に、カメックスだと可哀想だからな。任せたぞ、ダグトリオ」

 

ダグトリオの3体はそれぞれが違う笑顔でにこにこして、返事をした。

 

「レッド、お前は誰と行くんだ?」

 

「リザードン、といきたいところだけど、こいつもでんきタイプには弱い。だから」

 

レッドのモンスターボールからは、黄色いねずみが現れた。

 

「ピカチュウか。確かに、でんきタイプならばでんきタイプの技は半減。戦いやすいな」

 

「うん。あとこいつは、僕のことを一番わかっている。頼りにしてるぜ、相棒!」

 

ピカチュウは電子音のような鳴き声で、元気に返事をした。

 

「じゃ、行くとするか。……?」

 

グリーンは無人発電所に一歩踏み込もうとする足を、引っ込めた。

 

「どうした」レッドが聞く。

 

「なにもんだ!?」

 

グリーンはいきなり叫ぶ。

 

「………!」

 

レッドも、何者かの気配を感じたようで、ピカチュウを手で制するように守る。

 

 

 

『流石、セキエイ高原の歴代チャンピオン。

数々の歴戦を積んできたことはありますね』

 

 

 

「こいつっ、直接脳内に……っ?」

 

グリーンは頭に手をあてる。

 

レッドは顔をしかめて、「ピカチュウ!」とゴーサインを出した。

 

『無駄』

 

脳内に直接なだれ込む声は、頭の芯をぐらぐらさせる。

 

ねっとりしていて、高い、しかし女性の声ではなく、男性の声。

 

ピカチュウが発電所内へ電撃を飛ばそうとするが、その前にピカチュウは後方に吹っ飛んでしまった。

 

「ピカチュウ……ッ!!」

 

吹っ飛んだピカチュウは、氷漬けになっていた。

 

『駆け寄ろうとしても、無駄です』

 

「やめろレッド、」

 

グリーンがレッドを呼び止めるも空しく、レッドも氷の像と化してしまう。

 

「お前、無人発電所に何の用だ!」

 

グリーンが叫ぶも、謎の声は冷静さを崩さない。

 

『そのままそちらにお返ししたい言葉ですね、グリーン。

貴方たちこそ、ここから立ち去るべきです』

 

「ここには、レクリスっつートレーナーが捨てたコイルがいるはずだ! 奴を止めなきゃならねえ、だから、邪魔をするな!」

 

『そういうわけにはいきませんね。ワタシはあの方の命令に逆らうことはできま……おっと』

 

声が途切れた。

 

「ダグトリオ、よくやっ」

 

謎の声の発信源とされるであろう無人発電所に、グリーンが話して時間を稼いでいる間に、ダグトリオは潜り込んでいた。

 

そしてダグトリオは謎の声の主に攻撃した、はずだった。

 

発電所の出入り口付近の地面が氷漬けになる。

 

「まさか、ダグトリオの不意打ちを避けたっていうのか!?」

 

でんきタイプの巣窟である無人発電所に生息するポケモンで、ダグトリオの速度についていけるポケモンはいないはずだが。

 

『その理由は至極当然のことです』

 

声には出していない謎に、声は答えた。

 

ぬうっ、と無人発電所から影が現れた。

 

それは、鳥だった。

 

青い、鳥。

 

「てめえ……こんなところで何をしているっ?」

 

興奮気味に問い詰めるグリーン。

 

その相手は、

 

「フリーザー!!」

 

『久しぶりですね、グリーン。ワタシが『伝説の三鳥』として世界を救って以来のご対面です』

 

かつて世界を救った『伝説の三鳥』の一角。

 

氷の零鳥フリーザーの姿が、そこにはあった。

 

 

 

 

『ワタシの目的はただひとつ』

 

テレパシーで送ってきているのか。

 

『声』を聴きながら、グリーンは考える。

 

「(ちょっと待て。おかしくないか?)」

 

ごく当然のように「それ」をしているが。

 

普通疑問に思うことがある。

 

「それ」は、

 

「(()()()()()()()()()()()()()()使()()()()だ!?)」

 

至極当然の疑問。

 

なぜ、こおり/ひこうタイプのフリーザーが、通常エスパータイプの使うテレパシーを使えるのか。

 

しかし、そんな疑問が解ける前に、『声』に耳を傾けないわけにはいかなかった。

 

というのも、

 

『ワタシの目的は、レッドさんを殺すことです』

 

「はっ?」

 

レッドを、殺すだって?

 

『人間はポケモンと違い、氷漬けになってしばらくすれば死ぬ。

ワタシの目的はもう達成したのも同然なのです』

 

フリーザーは、フフフフフフフフフフ、と気持ち悪い笑い声を漏らしながら喋る。

 

『どうです? 格下と思い込んでいた者に命を奪われる気分は! フフフフフフフフッフフフフフフフフフ……』

 

こいつは、レッドと面識がある?

 

レッドに何かの恨みがあって、レッドを殺しに来た?

 

いや、そんなことは今はどうでもいい!

 

「レッド……ぐ、ぐぅはっ!?」

 

グリーンの腹部から、大きな穴が開いていた。

 

腹部を突き刺したのは、フリーザーから放たれた巨大なツララ。

 

じわじわじわじわ、と。

 

腹部を貫いたツララが、赤黒く染まっていく。

 

空いた穴の縁から、ぼたぼたと鮮血が地面へ落ちていく。

 

「はぁはあ」

 

『「つららおとし」。見事に大きな穴が出来ましたね。ツララは邪魔でしょう、引っこ抜いてあげましょう』

 

途端、赤いツララは消滅し、そこには氷漬けになったレッドと、腹部に巨大な穴を空けたグリーンと、気色の悪い笑みを浮かべた氷鳥が残された。

 

なんだよ、これ?

 

俺は無人発電所に調査に行った。

 

しかも、仮にも歴代チャンピオンが2人でだ。

 

それが、こんなあっさりと、ポケモンに殺されて終わりだってのか。

 

「意味が、わからない……」

 

浅い呼吸で、グリーンは呟く。

 

『意味? 意味はわからないでしょう。わかるのは事実。ワタシがあなたたち2人を殺した。それだけです』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

グリーンの意識は、そこで途切れた。

 

 

 

無人発電所の前は、まったく不可思議な状態であった。

 

グリーンは、ダグトリオがやられたときのために、保険としてゲンガーを出していた。

 

ゲンガーは、ダグトリオと一緒に無人発電所に向かってはいない。

      

ゲンガーは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

フリーザーが出てきたところまではまだ理解ができた。

 

でも、そこからだ。おかしいのは。

 

『流石、セキエイ高原の歴代チャンピオン。

数々の歴戦を積んできたことはありますね』

 

そうフリーザーが、テレパシーを送った直後に、

 

 

レッドの身体は硬直し、グリーンはうつ伏せになって倒れた。

 

 

モンスターボールから出ているのは、レッドのピカチュウ、グリーンのダグトリオとゲンガー。

 

そのうちゲンガー以外のポケモンの目は焦点があっていない。

 

呆然とする三匹に向かって、フリーザーは告げる。

 

「いま、あなたたちを指揮するトレーナーたちの脳に、幻覚を引き起こす波長を送りました。

ポケモンの技で言うと、『ちょうおんぱ』ですかね。人間はポケモンより遥かに弱い。ポケモンなら混乱で済むものを、彼らにとっては命に係わるほどの猛毒なのですから」

 

「っつーてっと、お前はグリーンとレッドに、何か幻覚を見せた結果、この状況になってるわけか」

 

ゲンガーは、からだ半分を影にして地面に潜り込ませ、いつでも攻撃ができるように構える。

 

「おや、あなたは無事だったようですね」

 

「俺はゴーストタイプ。ノーマルわざの『ちょうおんぱ』は効かねえんだよ」

 

そう返しながら、疑問はある。

 

フリーザーに、ちょうおんぱが使えるのか、と。

 

「ポケモンの技は、その技に含まれるタイプエネルギーの量の比によってタイプが決まります。

 

例えば、ワタシの「れいとうビーム」。

ビームというからには熱エネルギーが含まれているので、ほのおタイプのエネルギーの成分が含まれています。

ですが、それ以上にこおりタイプエネルギーが含まれているので、分類上はこおり技になるのです。

 

結局、わざのタイプなんてエネルギーの比によって決まるもの。

ワタシはエスパーエネルギーを用いて「ちょうおんぱのようなもの」を出しました。

なので、エスパータイプ版超音波です。しかし、あなたには効きませんね。なぜでしょうか」

 

「さーな。もしかしたら、俺は影(ゲンガー)だから、かもな」

 

ちゃぽんっ、とコイが池で跳ねるような音で、ゲンガーは影に潜った。

 

地上から姿を消したゲンガーは、潜りながら告げる。

 

「俺には幻覚は見えなかったが、お前がレッドを心底嫌っているのはわかったぜ。

じゃあなぜ、グリーンまで巻き込んだ。

明らかに、レッドへの復讐が第一目的じゃあねえだろ」

 

「では、何が目的でしょう?」

 

ばさっ、と翼で上空へ舞い上がるフリーザー。

 

「それを聞くのは、てめーをぶちのめしてからでも遅くはねえ」

 

なぜ、エスパータイプでもないフリーザーがテレパシーやエスパーエネルギーを使えるのか。

 

なぜ、無人発電所の『門番』をしているのか。

 

なぜ、世界の救世主だったフリーザーが、俺たちの敵になっているのか。

 

それは、こいつをぶちのめせばわかることだ。

 

ゲンガーとフリーザーとの戦いが、無人発電所前で行われる。

 

 

 

バチュルが、何やらエネルギーを練っている間に、オレはこいつをかばわなくちゃならない。

 

「いくら等倍といっても、あいつの『とくこう』はもう化け物だ。喰らったら翼が消し飛ぶ」

 

ダークレアコイルは近づこうとしなければ、わざの連発はしない。

 

だからといって、近づかなければ、オレの『ぼうふう』だって『10まんボルト』だって、当たらない。

 

近づかなくても、奴の思考は正常ではないため、いきなり大技を撃ってくることはある。

 

それが、いまだった。

 

「あれは……、レールガン!?」

 

しばらく撃ってこなかった超電磁砲は、かすっただけで皮膚が爛れる。爆風を浴びただけでも、ダメージは入ってしまう。

 

どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっッッッ!!

 

サンダーから見て20m右方の地面が、超電磁砲が通った跡として、削れ、ところどころ赤く燃えている。

 

爆風が、来る。

 

「くそ、それなら、風には風で!」

 

サンダーは両翼の筋肉を後ろにゆっくりと引きつけ、熱風が来るタイミングで、思い切り前へ動かす!

 

ひこうタイプの特殊技・ぼうふう。

 

びゅおっっ!と空気が震える音とともに、爆風にまとっていた熱は散っていった。

 

「ふう……、おいバチュル、いまどんな感じだ」

 

振り返ると、バチュルはこっちを見ていた。

 

「な、なんだよ。さっきから見てたのか?」

 

「ああ。なかなか強いんだな」

 

「お前から言われると皮肉にしか聞こえねえよ」

 

「貴様、さっきのは、なんだ?」

 

さっきの?

 

「ああ、『ぼうふう』か。最近使えるようになったんだ。オレの実力が上がったのか、気のせいかは知らないが」

 

「それを私にうってくれ」

 

「………」

 

え?

 

オレは、呆然とした。

 

「なにをぼーっとしてる。はやくしてくれ」

 

「あ、ああ!」

 

よく意味がわからないが、意味ならあるのだろう。彼女にとって。

 

サンダーは両翼の筋肉を後方でひきつけてから、

 

「何をする気だ!?」バチュルに問う。

 

「私に任せろ! だから、はやく!」

 

「……わかった、歯ぁ食いしばれよ!」

 

こいつが考えたことだ、何か策があるのだろう。

 

後ろに引いた分を、思い切り前へ。

 

豪風がバチュルを、とんでもない速度でダークレアコイルのもとへ連れていく。

 

バチュルはポケモンの中で一番体重が軽い。

 

サンダーの起こす暴風なら、一瞬のそのまた一瞬でたどり着くだろう。

 

『10001110110101011101100010101』

 

ダークレアコイルが近づいてくる標的に攻撃の照準を合わせ……る前に、

 

「くっついた!」

 

サンダーが言った直後だった。

 

ダークレアコイルの球体にひっついたバチュルは、口から糸を吐く。

 

しかし、それはただの『くものいと』ではなかった。

 

電気をまとった、頑丈そうな蜘蛛の糸が、ダークレアコイルの球体に巻き付いていく。

 

球体のからだ=眼球に網のように張り巡らされた本当の「蜘蛛の糸」が、ダークレアコイルの動きを阻害する。

 

『ジジFガ、、、ジ1』

 

「私はこの網糸を貴様に浴びせる必要があった! それは、このためだッ!」

 

ダークレアコイルの三つの球体のうちの1つの赤い目から、電気ではない未知のエネルギーが放たれているのをバチュルは肌で感じた。

 

「貴様の核を、捉えた!」

 

おそらくその赤い目の奥に、こいつを動かす核がある。

 

そう確信したバチュルは、超至近距離で、からだを細かく振動させる。

 

それは予備動作。

 

ポケモンのわざの予備動作。

 

ノーマルタイプの物理技・でんこうせっか。

 

必ず邪魔されない必中の一撃を、バチュルは、核に向かって突っ込む。

 

瞬間、機械部品が壊れたような嫌な音が響く。

 

「やった、か……?」

 

遠く離れたサンダーが、そう呟いた直後、

 

『ォオオゥウウゥウォオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア*+@>f:!!!!!』

 

ダークレアコイルは、耳が塞ぎたくなるような呻き声を上げた。

 

その声と同時に、

 

「っ! バチュル、後ろだ!」

 

はりつくバチュルの死角から、ダークレアコイルは、巨大な磁石をバチュルに向かってぶん回す。

 

サンダーが声をかけるが、バチュルの技を出した直後の硬直で、間に合わない。

 

じゃあ、どうする!?

 

「うおおおおおおおおあああああああああああああああああああ」

 

オレが、行くしか。

 

オレが、あいつを助けるしか、ねえだろ!

 

きゅいいいいいいいいいいいいいいいん、と。

 

甲高い音がサンダーの両翼から放たれる。

 

両翼は美しい黄金色をまとい、からだ全体に凛々しき金色のオーラがまとう。

 

瞬間、『しんそく』のような速度で、サンダーはダークレアコイルに急接近し、バチュルを襲おうとする巨大磁石を右翼から放たれた鋭い閃光で弾く。

 

「ほら、できた」

 

無邪気な声でこちらを見て、バチュルは今までにないような笑顔をもって言った。

 

オレは、このとき、こいつに惚れたのかもしれない。

 

いや、もう惚れていたのか。

 

「怪物!! お前の暴走ももう終わりだッ、この元『伝説の三鳥』サンダー様が、お前を成仏させてやる!!」

 

覚悟のオーラをまとうサンダーは、高速でからだ全体に電気エネルギーを血液のように循環させる。

 

それが閾値を達したところで、サンダーは怪物に向かって、放電する。

 

「『らいげき』!」

 

ドゴンッッ!!

 

3つの磁石から力が失われるのが、サンダーでもわかった。

 

「今だ、バチュル!」

 

「ああ、了解」

 

バチュルは、隙だらけになったダークレアコイルの赤い目の玉に『くものいと』を突っ込む。

 

球体といっても、隙間がないわけではないため、目玉の小さな小さな穴に極細の糸を入れていく。

 

ダークレアコイルは、磁石も壊れ、本体も正常に動けない状態のまま、浮遊を停止した。

 

そして、静寂が訪れた。

 

 

 

 

「これで、終わったのか?」

 

「ああ、助かった」

 

無人発電所の怪物ー−ーダークレアコイルは、ダークレアコイルとして復活する前の状態のように、地面に落下していた。

 

サンダーは、バチュルがやったことについて疑問に思うことがあった。

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「お前、オレに奴の攻撃が当たらないよう守れ、って言ってたよな?

そのとき、あの電気をまとった網状の糸を作っていたのか?」

 

バチュルは小さな顔を上下に動かす。

 

「そうだ。私の内部で作られる蜘蛛の糸に、高圧電流にでも耐えられるように私の電気エネルギーでコーティングしたんだ。

その糸を練るのも、コーティングするのも、集中力がいるのでな。だから貴様にかばってもらうよう頼んだ」

 

「名前は?」

 

「は?」

 

珍しくバチュルが、間の抜けた声を出した。

 

「名前だよ、あの技の名前。

……オレって技名を口に出して攻撃する癖があるんだ。まあそれがきっかけで周りからは「痛いやつ」だと昔は笑われもしたが……。

でもよ、気持ちを言葉にすることで、いつも以上に力が出せるときってあるだろ? そのためには技名を付けた方がいいと思うんだが、どうだ?」

 

気持ちを言葉にする。

 

サンダーは自分で言っていて、若干の違和感を覚えた。

 

オレは、こいつに気持ちをちゃんと言葉にして伝えたか?

 

「ふむ。まあ叫ぶのは苦手だが、名前くらいはいいだろう。

……ふむ。じゃあこれなんてどうだ?」

 

「ん、なんだ?」

 

「『微弱電磁纏イシ蜘蛛ノ網糸(エレクトロニクスアームドスパイダーネット)』」

 

「…………」

 

いくら痛いとか言われたオレでも、それは、……。

 

「な、長ぇと声に出すときに苦労するしさ、もっと短くしねえか?」

 

「そうか? これくらい格好よくないと、敵も怯まんぞ」

 

敵が怯むほどの格好良さだと思っているらしい、この小さなポケモンは。

 

「もっと略したらどうだ? あと要点が入っていればそんなに長くても済む」

 

「むう。そうか」

 

そこで、オレは閃いた。

 

「『電磁網糸(エレキネット)』ってのは、どうだ?」

 

「ううむ……。短すぎないか?」

 

長いからいいってもんじゃあねえよ。

 

「うん、ああ、うん。良いな。よしバチュル、これからその技の名前は、『エレキネット』と呼ぶことにしよう! な? はい、決まり!」

 

サンダーは強引にバチュルを納得させた。

 

少々気が弛んだところで、オレの体力がもう限界を来ていることに、気づいた。

 

「バチュル、お前も相当体力奪われたろ。奴はオレが何とかするから、こっから近い部屋で休んでけ」

 

「いや、貴様も『らいげき』でひどく疲れた様子だ。私なら大丈夫だ。貴様が休んで来い」

 

そうやってお互いが互いを譲らない。

 

「そういうお前こそ……ってこれじゃあオタチごっこだ。はっはっは!」

 

「ああ、それじゃあ一緒に休むか」

 

和やかな雰囲気になり、結局ダークレアコイルのことは一旦置いておいて、今は部屋で休もうと二人で歩く。

 

「……なあ、バチュル」

 

「? 急に改まってどうしたのだ」

 

サンダーは立ち止まって、バチュルの方を向く。

 

「気持ちってのは、言葉にしないと伝わらねえってオレ、さっき言ったよな?」

 

「若干違う気もするが、まあ似たようなことは言ったな」

 

心臓が、どくん、と脈打つ。

 

「で、その言葉……なんだが」

 

「?」

 

バチュルは小さな頭を、こくんと傾かせる。

 

小さな瞳が、こんなに愛らしいなんて、オレは今まで気づかなかった。

 

「オレ、さ。

お前のことが、」

 

オレが、そう言った直後。

 

 

 

 

視界が、真っ暗になった。

 

 




つづく
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