マダ、マダダ。
我ガ目的ヲ達成スルマデ、我ハ絶エル訳ニハイカヌ。
……ッ!
遅カッタジャナイカ。
我ノ仇……そして同時に、我ノ元パートナー。
1
突然、視界が暗くなった。
サンダーは真っ暗闇の視界の中、必死に相棒の名を叫ぶ。
「聞こえるか、バチュル! 大丈夫か!?」
「心配はない。だが……、凶悪な存在が、いる」
「ああ。正確には、来た、のか」
サンダーも『悪』の気配を感じた。
ダークレアコイルのダークが「未知」の訳ならば、新たな影の気配はdark……『悪』そのものだ。
何も見えない無人発電所の一部屋で、ポケモンとは思えない足音が響いた。
こつこつ、と。
これは、
「(『人間』の足音!)」
続けて、新たに現れた人間の声と思われるものが響く。
「久しいな、レアコイル」
声と同時に、周囲は明るくなった。
そこでサンダーが見たのは、見たことのない人間の姿だった。
傍らには、見たことがあるような見たことがないような生物がいた。
一言で言うならば、怪物。
しかし、圧倒的な力をもったダークレアコイルを指す怪物とは意味が違う。
異形の者、という意味の怪物がいた。
『それ』は、浮いていた。
頭部はガブリアス。
首から下は、ガルーラの胴体と思われ、袋があり、そこにガルーラの子供とは似ても似つかない生物が収まっている。
足はなく、人魚の下半身のように尻尾のようになっている。ドラパルトの尻尾のように見える。
「俺は辿り着いたぞ。究極の行き着く先に。
なあ、
呼ばれたポケモン?はなんと、人間の言葉に返した。
『はい。わたくしこそ、究極の行き着く先。新ポケモンです」
「……???」
サンダーとバチュルは、突然現れた人間とポケモンと名乗る存在に困惑していた。
困惑していたが、本能で、その人間とキメラと呼ばれた存在に対し、ひどく嫌悪感を感じた。
「てめぇらは、何者だ?」
サンダーは敵意をむき出しにして、人間とキメラに問うた。
人間は、答える。
「『てめぇらは、何者だ?』。ふん、おまえのような存在に名乗る名前はない」
キメラは答える。
『わたくしもレクリス=アダマンタイト様に同意します。
そもそも、わたくしは名など持たぬゆえ。
合成ポケモン、または改造ポケモンを表す『キメラ』と、レクリス様には呼ばれておりますが』
レクリスとキメラ。
純粋な悪が、そこにはいた。
2
サンダーたちとダークレアコイルが戦っていた頃。
無人発電所前には二人の人間と三匹のポケモンを一瞬で戦闘不能にした、フリーザーの姿があった。
そこに、一人の人間と、一匹のポケモンのようなものがやってきていた。
『ワタシは貴方のために、ここに来ました』
フリーザーは人間に向かって、言った。
「? お前は、誰だ?」
『ワタシはフリーザー。伝説の三鳥として名を馳せた、英雄です』
「だから、それは誰だ?」
フリーザーはエスパーエネルギーを使って、彼の脳を破壊しようとする。
『無駄です』
レクリスの隣にいる、ポケモンのようなものから、人間の言葉が発せられた。
『?!』
フリーザーは驚愕した。
フリーザー以上のエスパーエネルギーで、ポケモンのようなものが、フリーザーを一瞬で昏倒させた。
ばさり、と水色のからだが地面に落ちる。
「こいつは、誰だ?」
いまだ思い出せない人間ー−−レクリスは、ポケモンのようなものに問いかける。
『フリーザー……と言いたいところですが、
いわゆるガラル地方のフリーザーでしょう。カントー地方の本物のフリーザーは、……どうやらこの世にはもういないようです』
「ふん」
レクリスは周囲を見回して、歴代チャンピオンが二人とも倒れているのを見た。
レクリスはフリーザーを見ながら、ポケモンのようなものに命令する。
「
『主のままに』
ポケモンのようなものは、ガルーラのような手を、昏倒するフリーザーの翼にあてる。
するとフリーザーのからだは粒子状となり、その粒子はポケモンのようなものの体内へと入っていく。
「キメラ。お前は究極のポケモンへと進化している。ポケモンの新たな段階、新ポケモンにだ。
どうだ、こいつの力は使えそうか?」
『はい。粒子より得られたデータから、この個体の憎しみのエネルギーを抽出します』
「俺は旧ポケモンを乗り越えた新ポケモンを従えた。俺は歴史に名を遺すだろう。そして、俺はもう、何にも恐怖しない!」
そう高らかに叫び、キメラは答える。
『はい、人間の歴史に大きく名を遺すでしょう』
その後、キメラは小さな声でつづけた。
『わたくしの歴史のためにも』
3
「レッド、グリーン! 大丈夫か!? おい、レッド! グリーン!!」
ロトムの入ったポケモン図鑑・スマホロトムで電話をし、二人の名を呼びかけるが、返事はない。
レクリスは、自分のポケモンをすべて処分しようと述べたあと、まず第一に「Lのポケモン」がいるとテレビで報道されている無人発電所に向かった。
処分とは、逃がすことだと思っていた。
もちろん、持っていたポケモンはすべて逃がしたが、逃がしたあと狂暴化・暴走化したポケモンにまで手を出すとはマサキは思わなかった。
レッドとグリーンにレクリスを止めるよう頼んだが、まさか二人もちょうど無人発電所に向かっていたとは。
そしてそこで、レクリスが異形のポケモンを従えているとは想像もしていなかった。
レッドの持っているスマホロトムを、ハッキングしてテレビ通話で発電所前の様子を見たのだが、意味不明だった。
レクリスが、ガブリアスとガルーラとドラパルトを合体させたような生き物に命令し、その生き物がフリーザーを粒子状にして体内に取り込んでいる。
しかし、その技術には心当たりがあった。
それは、ポケモンボックスシステム。
ポケモンを電子的な情報に変換できるシステム。
マサキの発明したシステムだ。
しかし、電子情報はあくまで電子情報。
現実世界の物体を粒子にすることなんて、不可能。未知の存在のはず。
未知の存在……?
未知?
「まさか、これもダークマター、か!?」
まさになんでもありな存在なダークマターなら、それも可能なのではないか。
しかし、ポケモンを合体させるなんて……。
「あ」
まさか。
まさか!?
マサキは部屋の奥にあった、昔つくったポケモン交換システムのことを思い出す。
実験中、マサキはポケモンと位置の交換をするよう、ひとつのカプセルの中に自分を、もうひとつのカプセルの中にはピカチュウを入れた。
実験は失敗し、マサキはピカチュウと合体した……。
「まさか、あの技術を使って……!?」
レクリスは名を遺すためなら何だってする男だ。
倫理的な問題がどうとか、彼にとってはご飯を箸で食べるかスプーンで食べるかという程度でしかない。
だったら、便利な方を選ぶ。
自分に都合の良い方を選ぶ。
そういう、『悪』なのだ、あいつは。
マサキは急いで身支度をして、無人発電所へと向かった。
4
無人発電所の広い一室。
バチュル・サンダーとダークレアコイルが激闘を繰り広げ、
煙が出てもう廃品回収行きとなった発電設備ばかりが無造作に置かれたその一室で、
バチュル、サンダー、レクリスと異形の「キメラ」、
そして再度暗黒のエネルギーで浮遊を再開するダークレアコイルの姿があった。
「……待チカネテイタ、我ガ主ヨ」
「!?」
倒したはずのダークレアコイルから、発せられた声は、それまでの怪物の声とは違う、ポケモンの声、生物感のある声だった。
サンダーは警戒するが、バチュルに制止される。
「もう私たちに殺気は向けられていない」
私たちに、という言葉から推測するに、私たち以外の何者かには殺気を抱いているということになる。
その標的となっている人間は言わずもがな。
「レアコイル。どうやらお前はここ、カントー地方で新たな力に目覚めたようではないか。
はじめからそうなっていれば、俺はお前を捨てずには済んだ」
「フン、残念ナガラ私ハソウハ思ワナイ。
未知ノエネルギーニヨッテ 私ガ災厄ヲ振リマク存在ダッタナラ、先ニ私ガ主ヲ捨テテイタ」
「ふん、『先に私が主を捨てていた』か。
ははは、面白いことを言う。流石俺が捨てたポケモンだ」
「殺スゾ」
「ああ、来いよ」
ダークレアコイルから、絶たれたと思われた闇のオーラが噴き出し、レクリスに向かって飛んでいく。
が、
『わたくしがいながら、レクリス様、勝手に話を進めては困ります。
せっかくわたくしというパートナーがいるというのに』
人間とポケモンどちらも伝わる不可思議な言葉は、レクリスの現在のパートナーである異形の怪物「キメラ」から発せられたものだ。
レクリスに向かった闇のオーラは、ぎゅいんっと軌道を変えて、キメラの元へと近づいていく。
「ふん、語弊があるな。キメラ。お前は俺のパートナーではない。アイテムだ。俺の名を遺すためのな」
キメラに触れた闇のオーラは、徐々にその存在を消していく。
いや、キメラのからだがそれを纏っているのがわかる。
キメラは、闇のオーラ……ダークマターを吸収している。
「オレは、何を見ているんだ?」
サンダーは、ついていけない状況を眼前にして、呟く。
「私たちは関わらない方がいい、サンダー。
いまここで行われているのは、ポケモンバトルではない。異形同士の戦いだ。私たちに入り込む余地はない」
バチュルはそう返すと、ダークレアコイルの方を向く。
「ただこの状況で言えるのは、あのレアコイルの元パートナーがそこにいる人間で、人間の現パートナーが「あれ」だということだ」
「その「あれ」ってのが、理解できないんだよ」
「ああ、私もだ」
存在するありとあらゆるポケモンの「部品」を無理やり縫合して作られたような人工物。
レクリス曰く「キメラ」という存在は、サンダー・バチュルといったポケモン側からの視点でも嫌悪感を感じるほどの威圧を放つものだった。
「ある程度正気に戻ったレアコイルが、あの人間に向けて殺気を放っているということは」
「未知のエネルギーに支配される前も、レアコイルはあの人間のことを心底恨んでいたんだろう」
バチュルは発電所内の天井を見上げる。
「パートナーに捨てられ、その理由も理不尽なものだと知り絶望の果てに死んでいったレアコイルは、怨みを増幅させるダークマターに目をつけられ、からだを乗っ取られ、暴虐の限りを尽くした……。そんなところだろうか」
「しかしよ」サンダーは言う。
「その恨みとやらは、本当にあったのか? ポケモンってのは、やっぱり元のパートナーに会えて嬉しいもんじゃないのかよ?
殺したいと思うほど、ポケモンは恨めるものなのか?」
「殺したいかは別だが、カントー地方には非業の死を遂げたポケモンが、ポケモンの墓場であるポケモンタワーで彷徨っていたという事実もある。
復讐をするには、それなりの理由は、たしかにあるものだ」
「そういう、ものか?」
まだ、復讐を遂げるということが、そのレアコイルにとって良いこととはサンダーには思えなかった。
だって、復讐を果たしたところで、マイナスになっちまった心が、プラスになるはずはないのに。
「貴様は優しいポケモンだな」
「あん?」
突然バチュルにそういわれ、サンダーは困惑する。
「もちろん私にもわからない。殺してでも復讐をしたいという気持ちはな。
だが、復讐をすることによって、何かが決着することだって、あるのかもしれない」
サンダーはバチュルの言うことに、賛同はできなかった。
「レアコイル、俺がお前に会いに来たのは他でもない、後始末をしに来た」
レクリスが告げる。
「俺は今までの俺を捨てた。そして新たな名を遺すために、「キメラ」をつくった」
キメラを見て、レアコイルを見る。
「レアコイル、お前はこれから
「全ク、腐リキッタ人間ダヨ」
レアコイルはでんじほうを撃つ。
しかし、またキメラの方に電気エネルギーは吸い寄せられ、キメラの養分となる。
『このでんじほうのように、貴方はわたくしの養分になるのです。そして、レクリス様の望む究極のポケモンへと進化を遂げるのです』
宙に浮いて、尻尾をゆらゆらさせているキメラだったが、ドラパルトのような尻尾は姿かたちを変えて、四足の足が生えてくる。
上半身もぐにゃりと粘土のように、メタモンのように変形させた果てに、サイドンの上半身となる。
キメラは上半身は2つの腕を持つサイドン、下半身はヒードランの四足といった六足形態になっていた。
4本の足で、じたばたと地面を震わせるキメラ。
じめんタイプの物理技・じしん。
じしんによって割れた地面から、マグマがせりあがってくる。
ほのおタイプの特殊技にしてヒードランの専用技・マグマストーム。
レアコイルはじしんとマグマストームを喰らい、瀕死寸前の状態になる。
『わたくしはポケモンの常識は通じません。専用技だろうと、タイプだろうと、種族だろうと! わたくしはいくらでも変えられる。
その場、その時に適したポケモンに変化することができます。レアコイル、抵抗しても無駄なのです。
抵抗しても苦しむだけ。ならばわたくしとひとつになった方が、楽ですよ」
「いい加減黙って死ねよ、レアコイル。
俺も暇じゃねえんだ、お前を吸収したら、ジョウト・ホウエン・シンオウ、俺が捨てたポケモンどもの
鋼は解け落ち、マグマによってどろどろとなっていくレアコイル。
今まで修復に使っていた暗黒のエネルギーはすべてキメラに吸収されたため、レアコイルはこのままぐずぐずと崩れ落ちていくだけ。
バチュルはそんなレアコイルを見て、そしてレクリスの方向を向いて、言った。
「人間、貴様はこれで名を遺せるとでも思っているのか?」
「なに?」
レクリスはポケモンの言葉は理解できないが、何を言われているのかは理解できた。
それは不思議な現象で、お互い通訳なしにも関わらず言っていることがわかった。
言葉ではない何かで、バチュルとレクリスは会話をしていた。
理由は不明だが、その事実は、確かにあった。
「貴様のような人間を名に遺すほど、ポケモンと人間は腐ってはいない」
「くっくっく……ふふふふふ、ふふふははははははははははははははは!!」
レクリスはわらった。
いや、笑ってはいない。
バチュルを見る瞳には、醜い炎が宿っていた。
「黙れこの下等種族がッッッ!!!!!!!」
レクリスは咆哮し、後方にいるキメラを見もしないで、がしっと左手で首根っこを持ち上げる。
「所詮こいつ、そしてこいつを形作っているポケモンはッ、人間様にとっての道具なんだよッ!
俺はようやく恐怖を支配したんだ! ようやく恐怖を道具に出来た!
昔の俺を恐怖させたポケモンはッ! もうこの世にはいない!
いるのはッ! この支配者である俺とッ、道具たるポケモンだけなんd」
「耳障リダ。今スグ消エ散レ」
「……あ?」
左手から聞こえる声。
しかし、そこにはキメラがいるはず。
が、そこにいるはずのキメラはいなかった。
いや、いたのだ。
キメラは、いた。
しかし、上半身が、違った。
先までの上半身がサイドン、下半身がヒードランのキメラではなかった。
ヒードランの下半身から上にあるのは、鋼の球体が3つ、磁石がうち2つの球体に上向きについていた。
『まさか
意識も直にわたくしが吸収しますが、面白いのでこれはこれで。
一時的に貴方に主導権を渡しておきます』
そうキメラが告げた直後、同じからだから爆発かと見まがうほどのエネルギーが放たれた。
ダークレアコイルだった頃の「超電磁砲(レールガン)」である。
『もう一度言います、レクリス様。
わたくしはポケモンの常識は通じません。専用技だろうと、タイプだろうと、種族だろうと! わたくしはいくらでも変えられる。』
レールガンの向かう先は、もちろん憎き元パートナー・レクリス。
思考がどんなに常識離れしていても、肉体は人間のままのレクリスは、レールガンが通る際の熱波だけで、意識を失った。
残ったのは、レールガンによる衝撃で屋根が吹き飛び、もう屋内とは呼べなくなった広い部屋。
バチュルとサンダー、人間の死体と、レアコイルを完全吸収し終えた合成ポケモンのキメラのみとなった。
酷く激しい戦いを、通路から見ていた「あるポケモン」の姿は、果たして誰にも気づかれなかった。
5
『俺はようやく恐怖を支配したんだ! ようやく恐怖を道具に出来た!
昔の俺を恐怖させたポケモンはッ! もうこの世にはいない!』
マイナンは激しい戦いの最中の部屋の外の通路で、ある声を聞いていた。
その声が、忘れられなかった。
『どんなに辛いことがあっても、それを生み出す側には立つな。それは、逃げることと一緒だ』
同時に思い出されるのは、エレキッドの子供を痛めつけようとしたときに現れたサンダーの言葉。
俺は、あの人間のようにはなりたくはない。
通路でそう思ったとき、俺は自分のすべきことを見つけた。
これ以上、悲劇を起こしてはならない。
急いで無人発電所の出入り口に向かうと、ちょうどそこで別の人間と出会った。
「お前は、マイナンか?」
人間の男だ。
少しほかの人間のしゃべり方が違う気がする。
カントー地方出身ではないのか?
いや、今はそれどころではない。
「この騒ぎに駆けつけてきた人間か? 今はあいつ……門番はいない。
だが、ここに入ってはダメだ!
これ以上、悲劇を生み出してはいけない!!」
俺をいじめていた奴ら。
俺は、あいつらに復讐をすることが、正解だと思っていた。
でも違っていた。
俺は、あいつらと真反対のことをすることで、俺の心に平穏が訪れることを知った。
「レクリスはどうや!?」
人間は必至にその名前の人間のことを聞いた。
その名前に心当たりはないが、おそらく「あの人間」のことだろうと思った。
「きっと、大丈夫。
俺が言えた義理じゃあないけど、ここの……無人発電所の奴らは強い。あんなやつに、ポケモンは負けはしない」
その言葉を聞いて、人間ー−−マサキは「そうか」と一息ついた。
「レッド、グリーン。
あのサンダーに、ここを任せておいて正解だったろ?」
マサキの後ろには、こちらも初めて見る人間が2人いた。
「ったくよ。マサキ、お前が俺たちに頼んだんだからな?
まさかフリーザーがいるなんて俺たち知らなかったんだぜ。
おかげで俺たちは無人発電所前で無様に寝っ転がっていただけさ」
ちゃらついている雰囲気の人間の男が、「なあ」と無口そうな人間の男に確認する。
「いや、寝っ転がっていたのはグリーン。君だけだよ」
「はっ?」
「あのあと、ゲンガーが俺を起こしてくれてね。
一緒にフリーザーと戦っていたんだが、レクリスの殺気を感じて、フリーザーに気づかれないように倒されたふりをしたんだ」
「倒されたふりって、意識のないふりをしたって、あのフリーザーはエスパーなんだ。ふりなんて一瞬でばれるぜ」
「だから僕はゲンガーに「さいみんじゅつ」をかけてもらって、ゲンガーは影に潜ってもらったんだ」
「………」
結局、俺を起こさなかった理由は不明のままなんだが。
そう言いたげなグリーン。
置いてけぼりなグリーンとは別の置いてけぼりをくらっているマイナンに向けて、マサキは言った。
「確かに、おれたち人間は今回力になれなかった。
すべてポケモンに任せっきりやった。それは、申し訳なく思う。すまんかった」
マサキは頭を下げる。
「でもな? まあ、言い訳っぽくはあるんだが」
そう前置きをして、
「ポケモンと人間は対等な立場や。お互い、助け合って生きている。それを今回肌身で感じて、おれ感動したわ」
反省しているのかいないのか、いまいちわからない人間だ。
「一応、ぼくは発電所内でレクリスを捕らえる。
きっと奴はこの発電所に敗北しているだろうけれど、人間の不始末を最後までポケモンにさせるのは勝手が過ぎる」
レッドは言うと、マイナンにお辞儀をしてから、発電所内に入る。
グリーンは入っていくレッドを見て、マイナンに言う。
「俺もさっき知ったから混乱気味だけどよ。レッドの名誉のために、言っておくぜ。
あいつがレクリスの殺気で咄嗟に倒れたふりをしたこと、責めないであげてくれ。
マサキが言うには、レクリスの連れていたポケモンのような存在……あれは、人間をも吸収しかねないらしい。
人間を吸収したポケモンがどうなるかはわからないが、まあ、レッドは逃げて正解だったと思う」
グリーンも無人発電所に入っていく。
「俺も責任感じてんだ。もう終わっちまったろうが、俺の目にも見させてくれ」
最後に残ったのは、マイナンとマサキ。
「人間って勝手だと、思うか?」
マサキはマイナンに問うた。
マイナンが答える前に、マサキは続ける。
「おれはそう思う。
おれが勝手に作ったものが、悪用されて、こんなことになっているなんて、たとえ知らなかったとしても、許されることやあらへん」
この男は、反省しているかしていないのか、わからなかったけれど、責任は人一倍感じているようだ。
「だから、償う」
「ポケモンと人間は平等や。ここは人間の世界であり、同時にポケモンの住む世界。
こんなおれたちが、住まわせてもらっているこの世界を、こんな風にして、本当にすまなかった」
深く、本当に深く、マサキは頭を下げた。
「ポケモンも、勝手だぜ」
マイナンは言った。
「え?」
「ポケモンだって人間だって、色々いる。
俺だって、おそらくみんなに迷惑かけた存在だ。勝手に復讐を名目に、悪さまで手を出した。
だから、お互い様ってことで、いいんじゃないか」
「ああ、ああ、そう言ってもらえると、救われる」
種族の違う二人が、話しているうちに、日は間もなく沈もうとしていた。
「じゃあ、マイナン。
発電所のポケモンによろしくな。同じカントー地方にいるもん同士、できるだけ平和にいこうや」
「じゃな」と手を振り去っていくマサキ。
一匹になったマイナンは、今さらながらの疑問を口にした。
「なんで俺、普通に人間と会話できてるんだ?」
6
「こんな結末、いいのかよ……」
「レアコイルが望んだことだ。彼の意思を尊重してやれ」
サンダーは、頭ではわかっていたが、心では理解できなかった。
レアコイルにとって、自分が吸収されていなくなってしまっても構わないほど、あのレクリスという男を憎んでいたのか。
『わたくしの中にレアコイルの感じていたことはすべてあります。
それをお伝えしましょうか?』
機械音声ぽいが生物の声とでも聞こえる不可思議な音声に、サンダーは不快感を示した。
「てめえは、一体どっちの味方なんだよ!
あの邪悪な人間の手下だったじゃねえか、それが今度はあの人間を殺すのを手伝った!
お前は、一体何なんだよ!!」
『さあ、わたくしは何なんでしょうね』
自虐気味に、声は続ける。
『人工的に造られたポケモンというのは、わたくし以外にもいるのですよ。
ミュウツー、ゲノセクト、タイプ:ヌル……彼らの情報もわたくしの中には入っています。
しかし、彼らとは違う点がひとつ。彼らは種族として認められ、名前を与えられました。
たしかに「キメラ」とレクリス様は呼びましたが、それも便宜上にすぎません。
本来の「なまえ」はありません。
では、わたくしは何なのでしょう?』
「知るかッ! 知ろうとしたところでっ、お前に同情するオレが、わからねえが情けなくなってくるんだ!」
『別にわたくしは、「誰が生めと願った」とは言いません。
わたくしは生まれてきたことを望まれたため、生まれてきました。そこに、わたくしの意思はありません』
ですが、とキメラは続ける。
『わたくしは不幸ではありません。わたくしは、幸せでもないのでしょうが』
「オレが聞きたいのは、オレが知りたいのは……」
「サンダー、もうやめろ。
貴様にも、私にも、答えを出すことはできん。
レアコイルの行動を面白いと感じ、協力したことも、このキメラという存在にさえわからないのかもしれないのだ」
キメラはかつてのパートナーであるレクリスの遺体を見下ろす。
『生んでくれた彼には感謝しています。
ですが、わたくしにはそれ以上も以下もありません』
「……」
『わたくしの歴史に彼が刻まれる。それによって、わたくしの存在意義は膨らんでいく。
わたくしは、わたくしのためにわたくしの歴史を刻む。そのために、わたくしは面白いものを探しているのです』
「よく、わからねえよ」サンダーは呟く。
『ここにいてもわたくしの歴史はこれ以上刻まれることはないでしょう。
では、さようなら』
「おいどこに」
サンダーが叫ぶ途中で、瞬時に上半身をフーディンへと変化させて、その場から消える。
「テレポート、か」
バチュルは消えたキメラのいた場所にぴょんぴょんと移動する。
「……ひとまず、一件落着といったところか」
「なんつー後味の悪い終わり方だよ」
サンダーはそう言って、避難所にいるポケモンに、ことが終わったことを報告するため、避難所へ向かった。
7
やはり私の跡継ぎは彼が相応しいと思っていたが、死んでしまったのなら仕方がない。
『悪』の芽はいずれ摘まれる。
そんなことはわかっている。
だから、そのひとときの悪の輝きに、彼は魅せられていた。
その男ー−−サカキは、探す。
新たな『悪』のかたちを。
終わらない。
サカキの『悪』を求める旅は、終わることはない。
つづく
次話、最終回