超昂大戦SS 絆のブライダル! 虜囚の花嫁と明日へのブーケトス   作:環 藍河

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第2章 丘の上のウェディング・ヘル! 魔女の罪、英雄の非業、そして烙印の枷

……

 

「…痛たたっ…。…んもう。所詮はアルダークのコマンダーね。デートのエスコートもまともにできないの?」

強がるアメイズが目覚めたのは、結婚式場の衣装室。

ドレッシングルームを併設した一室は、花嫁衣装が和装洋装よりどりみどり、鈴なりに並ぶ。

純白・ピンク・オレンジ・ライムグリーン…眼前に並べられるウェディングドレスを纏うマネキンは、いずれも色鮮やかなジュエリーを散りばめていた。

ティアラ・ネックレス・コサージュ…そのそれぞれに踊る七色の輝石が、プラチナのキャンバスに映える。一体、合計で何百カラットになるだろうか。

 

それは、アルダークと交戦中であることを一瞬忘れそうになる、幸せな風景。

この部屋できっと、何百組ものカップルが人生最高の一日を思い浮かべ、永久の誓いを託す勝負服を選んだことだろう。

 

「ん…?」

さらにその前にはショーケースが調えられ、美しきエンゲージリングが何十、何百と輝きを放っていた。

十二の誕生石をテーマとした控えめなリングから、大粒のダイヤモンドをふんだんにあしらった、贅を尽くした逸品まで勢揃い。

いつか、この一つ一つの輝きの数だけ、伴侶への永遠の誓いが捧げられるのだろう。

「ふう…ん? どういうつもりかなー? 私、宝石にはちょっとうるさいのよ?」

 

だが、アメイズがリングを見定めようとケースを覗き込んだ、次の瞬間。

暗転した衣装室、宝石の輝きは、その最悪のルーツをアメイズに映し出す。

「…っ!!」

 

 《オラあっ、喋る暇があるなら、1ミリでも掘り進めやがれっ、このろくでなしども!》

 【貴様っ、原石をくすねたなあっ! こっちへ来いっ!】

 〔ゲホッ…がはあ…っ!!〕

 《チッ、きったねえなあ! 原石が血反吐まみれじゃねえかよおっ!》

 【お前等の命なんざ、この原石ひとかけらの価値もねえんだ! ぐずぐずすんなっ!】

 

ティアラとネックレスのダイヤは、独裁国家で女子や幼子を徴用し、深く暗き鉱山で粉塵にまみれ、塵肺を患いながら掘り出された、コンフリクト・ジュエル…俗に言う「紛争ジュエル」。

この国では、男は若者から老骨まで例外なく出口なき内戦に徴用され、理不尽な戦場で戦闘不能の役立たずになるまで鉄砲玉として扱われ…そして、命からがら故郷に戻ると、迎える妻子は漏れなく血の痰を吐き、あるいは落盤事故で手足を失い、少なからず命を落としていた。

 

 (ごめん…ごめんね、ママは…もう、ダメ…。)

 (ママ…ママあ…、どうして…どうしてぇ…?) 

 

そして、ブリリアント・カットの煌めきを引き立てる、エンゲージリングのピンクゴールド。

その輝きの裏には、金属精製工場が垂れ流す廃液で汚染された生活用水を呑み続け、神経障害や骨不形成・胎児畸形に喘ぐ住民の嗚咽があった。

 

……

先ほどまで、門出の幸せを包んでいたドレスとジュエルの聖なる輝き。

だが今はその眩しさこそが、落とす影の黒さと昏さを一層引き立てる。

未来を誓う輝石は…幾多の生命と不幸をむさぼり食う、悪魔の石たちだった。

 

 「…ひどい…ひどいわ!」

 

その痛ましさに、思わずアメイズがつぶやく怒りは…

新婦の幸せも貧困国の民も踏みにじる、敵コマンダーへの憤怒。

だが…。

 

《はあーーーーっ?! 寄りによって、貴様が言うのか、エスカ・アメイズ!

 いや、多国籍複合企業NAUが指導者・雪城エリーよ!》

「!!」(どうして…私の正体を…!?)

 

《笑わせるなあっ! 貴様もまた、この血塗られた輝きに手を貸した!

 無辜の民を苦しめ、悪党から収益を吸い上げた、咎人だろう!》

 

「…否定はしないわ…。」

 

かつてエリーは、NAU傘下ブランドのジュエル調達計画書の重大な欠陥を見落とし、承認したことがある。

原因は、功を焦った幹部の一人が、出所の怪しい宝石に手を染めてしまったこと。

だがエリーもクラリスも…他の幹部全員がその不幸なルーツに気づくことなく、決裁してしまった。

皮肉にも、この年に発表したNAUブランドのモードは大反響。エリーたちは図らずも、独裁者の国庫と武器商人、それに公害の元凶を大いに潤してしまった…!

 

《魔女さまってのは因果な種族だなあ!

多国籍企業NAUの稼ぎは、魔女が人間社会で幅をきかせるための資金源だろお?!

要するにお前ら魔女は、自らが生き延びるために! 結局は他の弱あ~い人類を踏みにじって生きてやがる!》

「違っ…違う…わよ…!」

《絶対に無いと言い切れるのかあ!? ああん?

宝石だけじゃねえ! 食糧、エネルギー、兵器! 貴様等の貿易は、搾取と貧困、環境汚染に差別まみれだろうが!》

(くっ…!!)

 

《はあーーーっはっはっはっ、笑わせる! 迫害され続けた被害者ヅラしやがってるが、お前たち魔女もまた、血塗られた金で生き永らえる、罪深〜い外道どもの集まりじゃないかあ。》

「…う、ううっ…!!」

 

《なあ、エリーちゃん。もう…終わりにしようぜえ。

弱者を踏みにじり、不幸を呼ぶスキームは、お前たち魔女が生き続ける限り、エンドレスで続くんだぜ?

根元を絶つなら、今、この場で。魔女の…お前達の絶滅でしか、この不幸の連鎖は、止められないぞお?》

「…ああっ…!」

《恋人様の自決用に、そこに純銀製の武器を取り揃えたぜえ。ナイフにサーベル、銃弾まで選び放題。魔女さまの不幸のスパイラルを断ち切る、清めの凶器さあ! はあーーーっ、はっはっはあーーーっ!!》

 

ルビーの披露宴会場と同様、この衣装室にも精神攻撃の電波が充満していた。

その責め苦に背中を押され…取り返しのつかない過去の誤ちに、エリーはうつむき、自らの不徳と屈辱を噛み締め…

(そうだ…。私が…消えれば…。

 魔女の…エリザベスの血塗られた宿命を、私で最後に…?)

絶望と希死念慮に、心を侵食されていく。

 

……

 

「…ぐえ〜っ、最悪…、てゆーか悪趣味…」

コマンダーの罠に嵌められて落とされたのは…結婚式場のキッズルーム。

天井にはメリーゴーランド、柔らかい床には積み木に輪投げにジグソーパズル、ブックシェルフには絵本やコミックまで、披露宴の間だけ預かった子どもを夢中にさせるアイテムをふんだんに揃えた一室。

 

「…! 懐かしい〜っ!」

トパーズが手に取ったのは、10年ほど前のヤルトラマンシリーズ作品、ヤルトラマン・エトスのムック本。うららの幼少期にヒーローへのリスペクトを決定づけた、彼女のバイブルであった。

 

だが。

 

 「なっ…、何よこれっ、…ああっ…」

 

そのあり得ない描写に、トパーズは嗚咽し、激昂する。

 

 「そ…そんなあああーーーっ!!」

 

ボロボロに擦り切れるまで読み返し、その都度胸と目頭を熱くさせたエトスの英雄伝説・ヒロイックサーガは、そこには無かった。

 

先輩ヤルトラマンたちから伝承したスパシウム光線も。

ひと度敗れた悔しさを胸に、辺境惑星で特訓し獲得したスラッシュリングも。

エトスが編み出した必殺技は…ことごとく敵に解析され、総て無惨に破られる。

 

膝を地に付け、遂には泥沼にまみれ、跳ね返された自らの必殺技で滅多切りにされ…。

エトスは怪人に蹂躙され、とうとう胸のタイマーをもぎ取られ、いばら状の拘束帯でその亡骸を十字架と伴にする。

 

 …この日、地球人類は終焉を迎えた…。《True END》

 

「うがああああーーーーーっっ!!!」

 ばんっ…ばしいっ!!

 

悪辣な改造を施されたヒーロームックを、トパーズは床に叩きつけた。

「はあっ…はああっ……

こ…こんな、鬼畜外道のエンディング…認めるもんか…っ!!」

聖典を汚い爪で引き裂かれたトパーズは、目を紅く腫らし…うめくように理不尽への怒りを吐く。

 

だが…その衝撃でブックシェルフから溢れ落ちた本たちが、トパーズの逆鱗をさらに抉る。

「…っ、ああっ!

 …、こっちも、これもおおおっ!!」

 

わかっているのに。

私の心の英雄達を貶め、苦しめるための本だということを。

…それでもトパーズは、ページを繰る手を止められない。

「嘘っ、嘘だっ、違うっ…!

 こっ…、こんなのってーーーーーっ!!」

 

人類の科学技術の結晶であるコンバットスーツに身を包むメタルヒーロー。

だが…地球人類を裏切った科学者が、制御回路図を売り渡し、侵略者のコンピューターウイルスに侵されメタルスーツはことごとく機能停止。

「お…俺が倒れても…地球はお前達の…手には…!」

その断末魔は朝陽に空しく吸い込まれ…英雄は暁の採石場で、哀れにも敵幹部のレイピアに胸を貫かれ、絶命。

超合金の希望は砕け…宇宙は秩序無き闇の時代に墜ちた。

 

……

スーパーヒーロー戦隊は、敵の狡猾な罠により分断され…各個撃破の憂き目に遭う。

 

 びしゅっ。

「か…はっ?」

 がくがくがくっ…ぐら…っ… どさっ。

 

 ブルーは狙撃銃に倒れる。

 

 しゅっ、ざくっ。

「きゃあああーーーーーーっっ!!」「イエローおおおっ!!」

 ぐさっ。ざしゅっ。

「えっ…?!」「ピ…ピンクううううっ!!」

 どしゅっ。

「『ぐあああああーーーっっ!!』」

 ぶしゅーーーーーーっっ……ばたっ。

 

イエローは電磁鞭に手足を縛られ、とどめの高圧電撃に耐えかね…絶命。

ブラックとピンクはソニックブーメランに二人抜きされ、天国での再会を誓うように折り重なり…散った。

 

 しゅっ。ぶしゅっ。ざしゅっ。

「がはっ…うあっ…ぐはあーーーーあっ!!」

 ぐしゃっ。 …どくっ…どくどくっ… 

「あ…ああっ…!」

「とどめだ、レッド。先に逝った四人と共に、この星の絶望を見届けよ。」

 

四人の復讐を誓うレッドもまた、誇りのソードを無慈悲に叩き折られ、人類最後の希望ごと、袈裟懸けに断たれた。

 

……

「あはっ…あははっ…そうだよね…。

痛いのも我慢して…怖いのも歯を食いしばって…護ってきたけど…。

世界なんか、キレイでもキラキラでもなかった…。

みんな…みんな…大っキライ…!!」

「信じない…。ウソよ…! いつだって、3人でプチピュアだよ…。

 …そっか、夢だ。私…夢から覚めてない、それだけだ。…それだけ。」

 

伝説の少女戦士たちは、一人は護るべき人類の心の暗部に毒され、自らを闇に堕とす。

次の一人は愛した友の変心を受け容れず、現実から…戦いから逃避。

 

「一人でも、私はプチピュア…最後まで…!」

支え合った二人が壊れ、残された最後の戦士。

誇り高く自らを鼓舞し、健気に…しかし無謀に戦場に立つも、本来の力には程遠く…。

 

 伝説の最後の1ページは引きちぎられ、幻と潰えた。

 

……

…この本も。あの漫画も。

トパーズが次々に手に取る、ヒーローたちの栄冠の軌跡だったはずの聖典は、改竄を経て、闇の経典と化していた。

 

《はーっはっはっ、どうかねトパーズ、勧善懲悪ヒーローより、よっぽどリアルだろう!?

我等アルダークがダイビートを打倒した暁には、これらを映像化し、ネット・TVともジャックしてエンドレス放送だ。全ての未就学児にトラウマと絶望を植え付けてやる!》

「こっ…このっ、ゲスめええーーーっ!!」

 

 自分の始まりを汚された。

 生きる道を教えてくれた英雄たちを、侮辱した。

 憧れ、誓い、自分を磨く覚悟をくれた、大切な存在を、あざけり笑われた。

 

トパーズは身を震わせ、憤怒する。

「隠れてないで、出てきなさいよっ!

みんなの夢を汚い爪で穢した罪、その身であがなわせてやるううっ!!」

《夢を? 穢したぁ? 俺がぁ?

トパーズちゃんよお、だったらむしろ、俺に感謝しろよお!

俺はお前を…ヒーローの哀れな最期、死亡フラグから救ってやってるんだぜええ!》

「?! どういう意味だあっ!」

 

《ヒーローが最後に勝つなんざ、お子ちゃまの絵本だけの話しってことよお!

そんな絵空事に憧れてヒーロー目指すバカってのは、最後は罠にハメられて処刑台って、相場が決まっているんだよお!》

「そんなわけ…あるかあああっ!!」

 

《へえ~、ま~だわかんねえんだ。なら、もう一つ見せてやるぜ。見よ!》

突如落とされる照明。

代わってプロジェクターが結ぶ映像には…

 

 黄昏の空にどす黒く浮かぶ、三つの十字架。

 

いずれも手首足首は無骨な鉄枷に捉えられ、もはや絶命へのカウントダウンを受諾するのみ。

「はあーーーっはっはっはあ! ダイビート最強の三人が、このザマだあ!」

「トキサダあ! 超昂戦士どもお! てめえらの無力はこいつらの墓標に詫びるんだなあ!」

「処刑執行だあ!! 斉射隊、構えー!」

エスカレイヤーに、ハルカに、エクシール。

エスカチームを…ダイビートの戦士全員を幾度も奮い立たせ、道を示してくれた超昂レジェンドたち。

その希望に、敬意に、何基ものガトリング砲とレーザー砲が向けられる。

 

「ルビー…ごめんね…。もっと…あなたの希望に、なりたかった…。」

「上弦衆のみんな、サファイア…どうか、私の無念を…継いで…。」

「トパーズさん、アメイズさん…泣かないで、天に還るだけだから…」

 

「放てーい!」

 どがががががががががががががっ、ががががががあああっ!!!

 びしゅううっ! ぴしゅうううっ!!

無慈悲に響く、薬莢の弾け飛ぶ乾いた音と、光線の灼熱に肉の焼け焦げる音が…先輩の最後の言葉をかき消す。

 

「…エスカレイヤー…さん…っ!」

「ハルカ様っ、ハルカ様あーっ!」

「エリス師匠ーーーっ! ちくしょう、ちくしょおーーーっ!」

「…救えなかった…。私たち、無力だ…」

大空のスクリーンに浮かぶ、憧れ追いかけた希望の、血塗られた末路。

救助行動が叶わなかったエスカチーム四人の悔恨の嗚咽は、茜空に溶けて消えた。

 

《トパーズちゃ~ん、ぜ~ったいに、こうならないって…言い切れるのかあ~?!》

「あ…、ああ…っ…?」

精神攻撃電波で弱り切ったトパーズの心を根底からえぐる、コマンダーのディープフェイクムービー。

《ま~だ諦めねえなら、次はお仲間、エスカルビーの処刑執行ムービーだあ~。

ウラジミールからエスカトパーズに、お前の背中を押しちまったヒーローだもんなあ。

エスカレイヤーの惨殺で、すっかり闘志と平常心を失ったルビーなんざ、なぶり殺しだあ!》

「や…やめろおおおおおおっ!!!」

 

《だあー、かあー、らあー。

ヒーローに憧れて、自分もヒーロー目指しますう、な~んて言ってるトパーズちゃんは…

自殺願望の、お・バ・カ・さんっ!!

俺たちアルダークはあ、それをわからせてやるのさあ。

あらゆる邪道と非道を駆使し、何度でも蘇り、トパーズちゃんの理想の戦士たちを次々に根絶やしにしてえ。

二度と戦おうなんて思えないよう、お前の憧れを!

ひとかけらも残さず!! ぶっ潰してやるのさああーーーーっっ!!!

ヒャアーーーっハあーーーーっ!!》

 

「…あはっ…はははっ…」

 

キッズルームにこだまする、トパーズの非力な笑い声。

その闘志の原動力は、もはや風前の灯火であった。

 

……

 

(…学校の視聴覚室か…会議室?)

幽閉された暗室で、サファイアは現場の状況を把握しようと、五感を研ぎ澄ませた。

20人も入るかわからない程度の空間に、椅子が一つ。正面にはプロジェクターとスクリーン、左右には音響機器が備えられた、試写室であった。

 

《それではこれより、新婦・加古野ヒビキ様の生い立ちを振り返るスライドショーを上映いたします。》

 

コマンダーの、悪意を隠そうともしないナレーションと共に、部屋全面に映し出されるヒビキの幼少時代。

「なっ…こんな写真、どこで…!!」

兄・ハガネに甘え、父に抱き着き、母の膝で眠る…

次々とめくられる遠き日のアルバムに像を結ぶのは…今の凛々しいヒビキからは想像もつかない、あどけない稚児。

(あのヒビキちゃんがねえ…)(ほんとに立派になったよ…)

本当にヒビキの結婚披露宴でこのスライドショーが上映されたら、参席者一同から、感嘆の声が漏れたであろう。

 

(このコマンダー…上弦衆の、裏切り者…!?)

自分の素性を暴く敵への怒りと、思惑の見えない敵への戦慄を、サファイアは押し殺す。

 

そして、本当の新婦生い立ち紹介のスライドショーならば、この続きは加古野ヒビキが凜々しく逞しく、何より美しく花開く…そんな成長の日々のお披露目だっただろう。

かと思われた、次の瞬間、銀幕は暗転し…続けざま、これでもかと壁いっぱいに投影されたのは。

 

 (加古野ヒビキ。試験結果を申し渡す。…力量・才覚とも、未だ、その域にあらず。)

 (…重く、受け止め…、精進いたします…!)

 模擬戦で打ちのめされ、龍輪功の適性もゼロ、過去最低の烙印を何度も焼きごてで刻まれた、閃忍試験での惨めなヒビキの姿。

 

 (正統の…世継ぎが元服する日まで…、想破を…上弦衆を…託す…!)

 (上弦衆は…人ならざる者が人を統べる、欺瞞の徒党。偽頭領、誅伐すべし…!)

 凶刃に倒れし前頭領・戦部タカムネの最期の姿と…遺言。

 その頭領の命脈を絶ち、想破の誰もが将来を嘱望した男は、一転して不倶戴天の敵へ。

 跳梁跋扈する滅忍衆を操る、兄・加古野ハガネの影。

 

 そして…地に堕ちた加古野の家名。

 上弦衆重鎮たちの悪意に満ちた陰謀が、試写室を生臭く包む。

 (後継は他におらぬのか!? あの愚息と、あの能無し娘など、家督図から消してしまうのだ!)

 (養子縁組できる閃忍を、いち早く探さねば…!)

 (…つくづく、加古野は罪深き子らを成したものだ…!)

 

「…めろ…。」

《おやあ? 新婦様、なにかご不満でもぉ?》

「やめろおおっ!! 兄の愚行と私の無能は、加古野の血とは関係ない! 父を…母を…愚弄するなあああっ!!」

自らへの憐憫と嘲笑なら、いくらでも…それまで抑えに抑えた憤怒。

だが、加古野の家への侮辱とすり替わった瞬間、サファイアは怒髪天を衝く。

 

《ふははははははあーーーっ! 笑わせるなあっ! 事実だろうが!》

「なっ…!?」

《恨むなら自身の不運を呪うのだなあ! なまじ、代々が伝説級の閃忍を輩出した名家になど産まれたが故に、貴様は一生涯、悶え苦しみ続けるのだ!》

「黙れ下郎が! 私は…加古野家に生を受けたことを、誇りこそすれ、後悔などしていない!」

色をなすサファイアの叫び。

 

だが、それをも嘲り笑うコマンダーは、挑発を止めない。

《百歩譲って、貴様がそれで良しとしよう。

だあ~、があ~、なああ~?》

己の優位をサファイアに解らせようと、舌なめずりするような下卑た声で。

 

《貴様は結婚相手にも、いつか孕むご子息さまどもにも、その烙印を刻み付けるつもりかあ!?》

コマンダーは絶望の宣告を突きつける。

 

「なっ…何だとっ!?」

《解ってないから、お前は愚かなのさあっ! いいかあ!?

無能の母から産まれるガキは、やはり無能なんだよおおおっ!

閃忍にもなれず、得体の知れぬ未来人のおもちゃにすがって、戦士でございと生き恥をさらし続けるお前があ!

加古野の御家復興を成し遂げるガキなんざあ、産めるわけがないんだよおおおっ!!》

「う…うぐっ…。」

 

《そおおんな、お前にい! まともな連れ合いが見つかるわけがなかろおっ!

いいかあ? お前と契ったその日から、お前の男の二つ名は『頭領殺しの義弟』!

お前がガキなんざ作った瞬間、身ごもるうちからあだ名は『頭領殺しの甥っ子』だあ!

因循姑息の上弦衆どもだぞ、汚名は消えぬ、末代まで断じて消えぬ!》

「ぐ…ぐうううう~~っっ!!」

 

奥歯を今にも砕けそうなほど噛みしめ、サファイアは…ヒビキは激昂を抑える。

だが…精神攻撃に浸食されるヒビキの心を、次第にあらぬ弱気が支配していく。

 

 (私が…どんな相手を見つけようとも…。

  どんな子を育て…どんな家庭を築こうとも…。

  加古野ヒビキという、この呪われた存在は…。

  その毒に一緒にもだえる家族を増やすしか、できない…?)

 

《お前の祝言に、幸福などあろうはずがないわあっ!

上弦衆では未来永劫浮かばれない、絶望しかない人間を家系図に増やすだけさあっ、ああん!?》

「…ああっ…、うう…っ!」

 

……

閂市郊外、高台にそびえ立つ、瀟洒な結婚式場。

街を一望できる、永遠を誓う二人の船出の地は、今やイデアの壁に呑み込まれ、4名を精神攻撃で蹂躙する。

エスカチーム、あわや…陥落か。

 

…だが、時を同じくして。

ダイビート基地で、さやかの解析結果を受けたトキサダは…即座にエスカチーム救出作戦を立案する。

「ちょ…ちょっと、長官さん! それって…ムチャクチャじゃないっ!?」

「君の解析を信じるなら、打ち破るにはこれしか無いだろう?」

不敵に微笑むトキサダ。

(俺の戦士たちに、よくもやってくれたな、コマンダーども。

その下らない目論み、倍返しで粉砕してやる…!)

 

「私も賛成よ、トキサダ。」

「ユーノ!」

「結婚を…人の子たちの愛と希望を踏みにじる。そんな愚行は、この私…創造神アマツへの冒涜よ。

トキサダ。今回に限っては、作戦に投入する資金も人的資源も、糸目はつけなくていいわ。私に代わって、神罰を下しなさい。」

 

ユーノの憤怒も過去最大級。

かくしてダイビート史上最大規模の作戦の火蓋は切って落とされた。

 

……

ぷるるるるるっ、ぷるるるるるっ、…ピッ。

『はいはーい、只今おかけの発信元番号は、私の知ったこっちゃないヤツでーす。

…誰か知らんけど、乙女にオレオレ詐欺たあ、いい度胸だなあ、コラあ! おととい来やがれっ!』

 

「…ダイビート長官、戦部トキサダだ。

君がそう望むなら、タイムゲートで2日前まで戻っても良いが…。」

『えっ…ひゃあっ!? 長官さんっ!!

 さ、サーセン…って、な…何であたしの携帯なんか…?』

 

「君に是非とも、園崎アカリくんの救出のため、力と人脈を借りたい。」

『ア…アカリがっ!? 救出って、アカリがピンチなのっ!?』

「いいかい? 君に頼みたいのは…」

……

『おっしゃああっ! まっかせなさいっ、このアタシが声をかければ、百が千でもお茶の子さいさい!』

〘あー、それはアカリっちの人脈であってだな。なぜお主が自らの功績と胸を張るのか、甚だ疑問なのだが?〙

「ああ、君も一緒だったか。僥倖だ。では、手分けしてその方々に依頼を。集合時間と場所は…」

通信回線切断を待たず、トキサダが司令端末に必要情報を入力。

 

《入電、入電。輸送部隊に臨場要請です。

ダイビート職員および、民間から志願したエスカチーム救出隊員を、8小隊に分け搬送してください。

民間志願者との合流ポイントはエリアB-9…閂市駅前バスターミナル、時刻1630。

なお特記事項。隊員は平服で作戦参加。繰り返す、隊員は平服で作戦参加です!》

 

(…待っていてくれ、みんな。反撃だ!)

 




筆者です。第2章、ボリューム倍増でお届けします。
リメイク前と比べ、話のあらすじは変えていません。
表現をわかりやすく、描写を増やしてアメイズたちが何に苦しんでいるかが伝わるよう心がけました。
…そのために長文化しましたが、大丈夫でしたでしょうか?

話の本筋は次の第3章から少しずつ変わって行きますが、4人を強くカッコ良く描けるよう、今の環の全力で書く覚悟です。
よろしければ、続きに一層のご期待を…!
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