有るところに地球と瓜二つの異世界が有った
ただ違うのは魔法や異種族(デミヒューマン)、そして魔物やドラゴン、ダンジョンといったものが存在した
この物語はそんな世界の辺境伯家の側室に産まれた男から始まる一族のお話
サクラ辺境伯家
その歴史は約200年ほど遡る
当時まだ小国であったベルン王国(デンマーク)は海運により富を蓄積し、進んだ魔法技術により10代前の国王ガン・フォン・ベルン(この世界ではフォンは貴族以上に付けられる名前)によりペタン王国(フィンランド)、スノーヒル帝国(ノルウェー、スウェーデン)と血縁による3国同盟を締結、背後の憂いを失くし、周辺諸国を併合、これにより北ドイツ連邦と同等の領土を獲得し、ベルン帝国へと昇格
ベルンの飛躍と呼ばれる軍事拡張に男爵家出身で能力で将軍まで登り詰めたギース・フォン・サクラ(サクラ三世)が活躍し、褒美として北東地域(東プロイセン地域+ダンツィヒ+ポーランドの一部地域)を拝領した
これがサクラ辺境伯家の始まりである
それから約200年
帝国は幾度の戦争を勝ち抜き、領土を更に拡張し、ポーランド北部も獲得
首都をベルリンと同じ場所に移動し、その都市を初代皇帝からあやかりガングラードとされた
サクラ辺境伯も帝国と同じく苦難を乗り切り家を存続し、今代のザキア・フォン・サクラ(サクラ七世)には正室、側室3人の4人に男子が6人、女子が10人の認知している子供達がいた
認知していない妾も含めると更に15人は増える
サクラ七世の弟(叔父さん)を含めると継承権第10位が物語の主人公ヒムラー・フォン・サクラとなる
「主様、新たに産まれたヒムラー様ですが……6属性の魔法適正があることが判明しました」
「……そうか。出来損ないを産んでしまったか」
この世界では魔法は人類全てが扱うことができる
エルフは風、ドワーフは土や火といった種族ごとに偏りがあったりする
魔法は6つの属性がある
光、火、風、水、土、雷
光の属性が優位で他5属性は同格
そして適正が1つである方が優位とされた
属性が1つであれば火100%他0%となり他の魔法が使えない分特化した魔法はより強力となる
逆に6属性であると1属性約16%となりどんなに頑張っても特化の魔法使いや魔剣士には及ばないとされた
出来損ないと呼ばれる由縁である
「……まぁそれでも俺の子供であることには変わらん。最終的にどこかの開拓村の村長にでも押し込めれば良い……6属性持ちだと外交のカードにもならんからな」
特化の魔法使いの子供はより特化の子供を産みやすいとされた
魔法の遺伝である
貴族は血縁関係や派閥争いで特化を後継者とすることで魔法的優位性を確立し、平民より単体で強い力を保持し続けてきた
勿論平民も魔法が使える為、より少ない適正の者が重宝されることもある
「とりあえずクルップの奴を教育係にしよう。奴も平民出身だが頭が切れる。魔法があまり使えなくても家に利する者になれば良い」
「わかりました。クルップに伝えておきます」
「ヒッヒッヒッ!」
ヒムラー少年が産まれて5年が経過し、ヒムラーはすくすくと……軍隊の様な生活を送っていた
「ヒムラー様、まだ腕立て伏せ30回です。これでは昼食の甘味は抜きですかな?」
「まだ……まだ……」
「あと20回頑張りましょう」
日の出と共にラッパで起こされ、寝間着を脱いで半裸になり、体操及び腹筋、背筋、スクワット、腕立て伏せをそれぞれ50回3セット、そのまま町内を1周させられる
雨の日でも関係なく行われる
「ファイトぉぉぉ! 121212! ファイトぉぉぉ! 121212」
4歳頃から始まり、できないと甘味が抜かされたり、鉄拳が飛んでくるのでヒムラーは必死である
「ああ、今日も1日が始まったな」
「クルップ様も病的よね。辺境伯様の息子のヒムラー様を一人前にさせるためとはいえ……」
「魔法の才能が無いからって……ヒムラー様がかわいそうよ」
町の住民達は朝の風物詩となっているヒムラーのランニングを可哀想という目で見ていたが、辺境伯から命令をされて育てているクルップに誰も文句を言うことはできない
ランニングが終わり朝食を取る
クルップ一家は階級は中位の官僚であり、主に町の税収管理や騎士団の補給を扱っていた
クルップの長男、次男共に騎士団に入隊しており、クルップ同様の幼少期からスパルタ式に鍛えられていたため騎士団でも出世頭である
それに目を付けての教育係への就任であった
教育係をやりきれば褒美として次の町の代官になることも夢ではないのでクルップの教育の力の入れようは凄まじかった
メイドが作った朝食を取ると魔法の勉強である
光属性に適正があることから自身の指をナイフで傷をつけて治癒の魔法を使う
魔法を使えば使うほど練度が上がりより早く、より強力に魔法が使えるようになるというのがクルップの見解であり、幼少期に魔法を大量に使うことにより魔力のキャパをあげることができるとされていた
この魔力のキャパであるが単一属性有利な点はここにもある
魔力の上限が100とすると単一属性は100魔力を使うことができるが、水と火の複合だと水の魔力50、火の魔力50というように別れてしまいそれぞれ区切られたエネルギーになってしまっているのだ
だから単一の方が広範囲に高威力の魔法を使えるから有利なのである
6属性だと全ての魔力を使いきるのにも一苦労である
光は治癒、火は指に火を灯し、水は川で泳ぎながら水中呼吸、風はハンカチを風力で浮かせ、土は庭を耕し、雷で静電気程度の雷を手と手の間でバチバチさせる
「ヒムラー様が一人前になるためには徹底した効率及び技を磨くことです」
「技……ですか?」
「出力で劣るのならば効率で戦うしかありません。火力勝負、範囲勝負ではあなたは必ず負けてしまうのですから……だから知識量、肉体、技で勝つしかありません」
魔力の訓練もスパルタである
そして魔法だけでなく指揮や貴族的立ち振舞い等も学んでいく
「ヒムラー様は側室の6男ですので残念ながら辺境伯の地位を継承することはできません。良くてどこかの村を任されて準男爵の地位を得ることになるでしょう。もっとも準男爵は貴族ではなく平民となるためヒムラー様のご子息は他の平民と同じ地位となるでしょう」
サクラ七世辺境伯は長男である現在18歳の正妻の長男を後継者とし、継承権3位までを実子(3位にヒムラーの同腹の兄)、4位から6位までを弟達(ヒムラーからしたら叔父)、7位が才女とされる正妻の長女の姉、そして兄2人挟んでヒムラーがいる
この世界では基本的に男尊女卑であるが、能力が有れば女性でも家を継ぐことができたりもする
サクラ辺境伯家の配下である子爵7家のうち2家が女子爵である
ちなみに男爵は30家おり、男爵クラスは豊かな村か小さな町を、子爵は大きな町を管理している
男爵が村長か町長で子爵が市長、辺境伯が県長という見方で区別するとわかりやすいだろう
準男爵はそれよりも下である
今はまだ辺境伯の6男ということであるが、準男爵を拝命されると貴族籍かは外されることとなるだろう
クルップは魔法の才能が無いからと無能のレッテルをヒムラーに付けるのは惜しいと考えていた
5歳ながら読み書きと簡単な計算を叩き込み、肉体も同じ頃の息子達よりも優れている
機転も効き、何より学習意欲が素晴らしい
クルップはとにかくヒムラーに将来役立つと様々な知識を詰め込んでいった
6歳となったヒムラーはクルップの教育を受けながらも辺境伯家に伝わる書物庫へ良く出入りして書物を漁るようになっていた
「魔法の才能だけが絶対ではないハズだ……でも魔法が強くないと貴族だけでなく騎士団ですら上に行けない。何か……何かあるハズだ」
ヒムラーは足りない才能を知識と努力で補おうと考えた
更に魔法の効率化のために錬金術という学問にも傾向し始める
錬金術はこの世界では過渡期の学問であり、どれが正しいという回答も、教育方法もバラバラであった
その為ヒムラーは様々な本を読み込み、使える物を実証実験を行いながら取捨選択をしていった