この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
見てない人いたらぜひ見て欲しい。健康にいい。
未だに口角が上がったまま戻らねえよ..
カーテンの隙間から薄い陽光が差し込む。
何重にも重ねた毛布を捲ると、玲瓏な空気が肌を突き刺した。
寝具に残る温もりに包まれたまま、もう一度眠りにつきたいという甘い誘惑を理性で抑え込むのに時間がかかってしまうが、何とか脱出しカーテンを開く。
窓の外を見下ろすと、道に薄く雪が積もっており、今もはらはらと雪が降ってきている。
そう、季節はもう冬になった。
師匠と王都でクエストをこなすようになって数ヶ月経ち、クソ領主に負わせられた借金も約2000万エリス程完済した。
けれど、あれだけ頑張って2000万エリス。師匠のレベルが15程上がったのは良かったが、このままのペースでは完済まで数年はかかるだろう。
この世界にそこまで長期滞在する気がないのに、その大半を借金返済に費やすのはさすがに嫌だ。そろそろ本気で領主を星にする計画を立てようかとも思っている。
また魔王軍幹部のようなものが現れれば全力で狩りに行くのだがそう都合よくは現れない。
また真っ白なため息をつきながら1階へと移動する。
「寒う....あっエビ先輩起きてたんだ。おはよ」
暖炉に火をつけて、簡単な朝ごはんを作っていると師匠が降りてきた。
「おはようございます師匠。だいぶ寒くなりましたね。あと朝ごはんできてますよ。パンとスープと目玉焼きとねる〇るねるねです」
「ぼくそれのねるね〇ねるね抜きで」
2番の粉を入れながら、今日の予定を話し合う。
まあクエストに、行くだけなのだが、なんと冬になって再びアクセルのクエストを受けることができるようになったのだ。
というのも、冬の間は弱いモンスターなどは冬眠をしたり、活動が抑制化されたりするため、初心冒険者達の受けれるクエストが軒並みなくなってしまうのである。
更には本来暖かい間、寒い北方の山に生息している凶暴な魔物などが人里に降りてきやすくなるので、この時期に貼られるクエストは総じて危険なものが多い。
そのため、普段は初心者育成のためクエスト受領を遠慮している俺達もクエストを受けていいという許可が下りた。
王都でもクエストは受けれるのだが、向こうの冒険者は冬でも関係なく活動するパーティが多い。そのため報酬のいいクエストは取り合いになるのだ。
なので冬の間は競合の少ないアクセルで活動することになった。
久しぶりにギルドの扉を開くと、いつもと変わらぬ騒がしさが身をつつんだ。冬の間はクエストに行かないだけで普通にギルドにはいるらしい。
むしろこの時間から呑んでいる冒険者もいるので、普段よりも騒がしかったりするくらいだ。
顔なじみの冒険者達に声をかけられながらクエストボードへと向かうと、カズマパーティがいた
「何受けるんですか?」
「おおエビオ!久しぶりだな!...そうだ!いいクエスト見つけたんだが一緒にどうだ?」
そう言って手渡された紙に書いていたクエストは、雪精の討伐。
...なるほど。カズマはとうとう一か八かの大勝負に出たらしい。
負った借金を一撃で返すつもりのようだ。そういうのは全然嫌いじゃないし、彼ならなんとかなるという安心感もある。
ただ、だとしたらなんで俺を誘ったんだろう?
「なんでってお前....一緒に借金を負った仲じゃないか。一緒に頑張ろうぜ?」
「道中で強いモンスターに出会ったらエビオに任せるつもりですねこの男」
「こらめぐみん、本人はバレてないつもりなんだから黙っててやるんだ」
「そそそ、そんなんじゃねーし!でどうだ?予定があるなら無理にとは言わないが...」
「いえ、お言葉に甘えさせていただきます。いいですよね師匠」
「問題ないよ。すぐ行くの?」
「いや、準備もあるから2時間後、正門前に集合でどうだ?あと雪山だから防寒着は忘れないでくれ」
「分かりました。じゃあ2時間後で」
ということで、この場は一旦解散となった。
*****
2時間後、正門前にて比較的もこもこしたカズマパーティと、
ガチガチに装備を着込んだ俺と師匠が合流した。
普段は使わないガチ装備である。もし仮にこれを着てベルディアの討伐に向かったのなら余裕でボコせた程のエンチャントを施してある逸品である。
師匠にも魔法の威力と効率をあげる指輪と、各種能力をあげるブレスレット、氷属性耐性が着いたネックレスを貸した。何故か最初すごく拒否されたのだが、無理やり押し付けると顔を赤くして静かになってしまったし、装備の詳細について伝えるとめちゃくちゃ魔法撃たれた。あまりに理不尽だと思う。あとはお守りも持たせたし準備は完璧だ。
気になるのはカズマパーティだ。これから決死の戦いを挑みに行くにしてはやや軽装、ほぼ防寒具の役割しか果たしていないように見えるが....
「ガチすぎないか?...いやでも雪山ならそんなもんなのか?」
カズマもカズマで不思議そうにしている。なにか大きなすれ違いをしているような気がしないでもないが、さすがに大丈夫だろう。
まさか冬将軍の存在を知らずにこのクエストを受ける者はいないだろうし。
「ねえねえもう準備は出来たんでしょう?じゃあ早く行きましょう!」
虫取り網を掲げたアクアがカズマの服を引っ張りながら進んで行く。本当に大丈夫なのだろうか??
一抹の不安を抱えながら一行は雪山へと向かった 。
ぎゅむぎゅむと雪を踏みしめながらなだらかな斜面を登って行くと、開けた場所に出た。そこらじゅうに雪精がふわふわと浮かんでおり、早くもアクアが虫取り網を振り回しながら雪精を追いかけ始めた。
この宙にたゆたう無害そうな雪精は、一匹討伐する事に10万エリスもの報奨金を得ることが出来る。この後に控えてる化け物のことを考えなければ、凄まじく美味しいクエストだと言えるだろう。
「じゃあ師匠、魔力消費しすぎないよう気をつけてくださいね」
「はいよぉ。じゃあちょっと離れててね。ゴホン、『地の底より燃え上がりし業火よ、我が力の元に爆炎となりて現れよ』」
師匠の周りが赤い輝きを放ち始めたので少し離れる。
「『ヘルフレイムノヴァ』!!!」
師匠を中心に、黒味を帯びた炎が球体となって広がっていった。
それを逃れるようにこちらへとんできた雪精を3匹ほど切り払う
「...すげえ、あれが本物の魔法使いに、ちゃんと剣が当たる前衛か。うちのと変わってくれねえかなあ..」
「おい、詳しく聞こうじゃないか。というか、爆裂魔法使いがいるのに何が不満なのですか!」
「不満に決まってるだろうが!クエストに行くたびに色々ぶっ飛ばしやがって!ただでさえ借金で報酬から天引きされてるのにそこから修復代引かれて毎回かつかつなんだよ!!」
カズマパーティも色々大変なようだ。
「師匠、今ので何匹くらいやりました?」
「うーんと、7匹だね。エビ先輩がやったのと合わせて100万エリス?」
「そうなりますね。カズマたちも結構やってるみたいなんでそろそろでしょうか。」
師匠と話していたその時、山頂から吹き下ろしの強風が降りてき、舞い上がった雪によって視界が白く染まる。
吹雪が晴れたとき、それはいた。
「出たわね。カズマ!何故冒険者がこんな美味しいクエストを放置しておくのか教えてあげるわ」
アクアがそれから目をそらさずにカズマに声をかけた。
「あなたも日本に住いたんだし、昔からこの時期になると天気予報やニュースで名前くらいは聞いたことあるでしょう?」
白一色に染め上げられた鎧兜からは、ベルディアとは比にならぬ殺気が放たれており、こちらから覗くことのできない眼は確かにこちらを睨んでいた。
「雪精達の主にして、冬の風物詩とも呼ばれる、冬将軍の到来よ」
「バカッ!このクソッタレな世界の連中は、人も食い物もモンスターも、みんな揃って大バカだ!」
アクアの説明をうけ、カズマは涙目でそう叫んだ。
やっぱ知らなかったんだ....
冬将軍。国から2億もの賞金をかけられた特別指定モンスターの一体。その正体は、この世界に来たチート持ち日本人の思念によって実体化した冬の精霊である。
賞金こそベルディアよりも1億少ないが、その実力は魔王にも届くと言われている。
それが今こうして俺たちの前に敵対して現れている。
冬将軍は鞘から刀を抜き、1番近くにいたダクネスへと斬りかかった
「くっ!?」
ダクネスがそれを大剣で受け止めたが、あっさりと真ん中で叩き折られた
「ああっ!?私の剣がっ....!?」
分かりやすく狼狽えるダクネスに再び刀を振り上げる冬将軍を横から蹴り飛ばす。
「めぐみん!爆裂魔法の準備をしといてください!タイミングは作ります!アクアは支援魔法を!カズマとダクネスは2人を守ってください!」
「ちょっと待って!?戦うつもりはなかったんですけど!?雪精を解放して土下座して許してもらう積もりだったんですけど!?」
「うるさいぞ駄女神!そういうのはクエスト受ける時に説明しろ!どっちにしろもうやるしかないんだよ!」
「ああもうどうにでもなれ!『パワード』!『スピーダー』! 『ガードナー』!!!」
やけくそ気味のアクアから支援魔法が飛んでくる。
ベルディアの時も思ったが、能力強化の倍率がおかしい気がする。さすがは女神の支援魔法と言ったところか。
蹴り飛ばされた冬将軍が、再び接近して来る。
構えられた冷気を放つ刀が一瞬ぶれたかと思うと、その剣先はこちらの首元へ一直線に向かって来ていた。
「『ライトオブアロー』!!」
師匠が放った魔法の矢が冬将軍の手に突き刺さり、攻撃が中断される
「『スローダウン』!!..抵抗されるのか。『グラビティ』!!」
冬将軍は師匠の重力魔法を喰らい、足元が深く雪に突き刺さる。
「オラあああああああ!!」
その隙を逃さぬように、全力で叩き切る。
冬将軍の体は2つに分かれるが、その瞬間吹雪が強まり、晴れた時には再び完全な冬将軍に戻っていた。
精霊の体は純粋な魔力の集合体のようになっているため、今の一撃で致命傷になる訳では無い。
だが冬将軍は切られた箇所を抑え、片膝を着いている。確実にダメージは入っているようだ。
再び冬将軍が刀を抜き斬りかかってくる。英雄をして完全に見切ることが出来ないそれを剣で流し、肩口を切らせながら再び両断する。何度かそれを繰り返すと、冬将軍の鎧が砕けたまま再生しなくなった。
「エビオ!詠唱が完了しました!何時でもいけます!!」
「分かりました!行きますよ師匠!!」
「あいよぉ!!『空を断ち、大地を穿つ暴風よ、』」
師匠が魔法に詠唱を始めたので、もう一度冬将軍に接近し、切りつける。
冬将軍はそれを受け止め、鍔迫り合いのような状況になる
「『アルス・アルマルの名の元に現れ、全てを吹き飛ばしたまえ』!」
俺は自分の剣ごと冬将軍の剣を上へ弾き飛ばし、素手で冬将軍の体を掴み押さえつける。
「『ヒューレン・フラミニア』!! 」
師匠が起こした暴風は、俺ごと冬将軍を空へ持ち上げた。
「ちょ、アルス!これでは爆裂魔法が打てませんよ!?」
「大丈夫!『サモン』!『エクス・アルビオ』!!」
師匠の横に魔法陣が現れ、俺が召喚された。
「えぇっ!?そんな魔法見た事ありませんが...まあいいでしょう!『穿て!!エクスプロージョン』!!!」
めぐみんの放った爆裂魔法は、宙を舞っていた冬将軍に見事命中した。
「めぐみんやったわね!!2億よ2億!!これで高いお酒が沢山飲めるわね!そうと決まったらさっさと帰って祝杯を上げましょう!!」
間髪入れずにアクアがフラグをたて始めた。こういう時に「やったか?」といったニュアンスの言葉を言うのはご法度なのだが....
「このバカ女神が!!なんでお前はそうお約束が好きなんだよ!!そんなこといったら!」
突然の背後から、冷たい殺気を感じた。
剣は先程飛ばしてしまったので、拳を背後に向けて振るうが手応えは無い。
気づいた時には冷気を放つ白刃が、自身の喉元へ届こうとしていた
「くっ、『スティール』!!!」
自身の首と胴を断とうとした白刃は、冷気のみを残し姿を消した。
どうやらカズマがスティールを成功させたようだ。
「おおっ!取れた!...ってあれ?」
「カズマ!今カズマが盗んだ刀は冬将軍の体の1部で、魔力の集合体よ!冬将軍は盗まれてもすぐに再生成できるから気をつけて!」
「だからそれを早く言えよ!!...あっ...」
気づいた時にはカズマの頭が宙に飛んでいて、残された体がドサリと音を立てて倒れていた。
そのまま刀を返し、こちらを切りつけようとする冬将軍を真っ二つに両断する。冬将軍を復活させる吹雪が吹くことはなく、冬将軍は地に伏したまま霧状になって消えていった。