この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
一面に広がった銀世界に、赤い花が咲いた。
それは、残された者の心を乱すには充分すぎるものだった。
「カズ.....マ......?嘘ですよね?だって....こんな....」
狼狽えるめぐみんをダクネスが抱きしめる。
アクアはカズマの死体のそばにしゃがんでおり、表情を伺うことはできない。
2億エリスと引き換えに得たのは、カズマの死だった。
「...大丈夫ですか師匠。」
「うん....なんとかね。正直まだ感情が追いつかないっていうか...現実と思えないっていうか....エビ先輩は平気なの?」
「平気ではないですよ。最後の最後で気を抜いてしまった俺の責任です..」
「それを言うなら私もだ。エクスの責任では無い。我々にできるのは、カズマを手厚く葬ってやることだけだ。ほら、めぐみん」
淡々と言葉を紡ぐダクネスだったが、その表情を見れば、動揺する自分を抑え、無理にでも冷静になろうとしているのがわかった。
ダクネスとめぐみんが、アクアの元へと近寄ったその時、
「『リザレクション』!」
「「あっ!」」
カズマの死体の周りに、淡い光を放つ魔法陣が現れた。
「....あれ?おかしいわね。おーいカズマ〜?もうリザレクションかけたんだから帰ってきていいわよ〜?」
アクアの発言で、ダクネスとめぐみんの表情が笑顔に変わった。
おそらくアクアのかけた魔法は蘇生魔法だろう。
「はぁ〜?ちょっと、誰よそんなケチくさいこと言ってる女神は!!このエリートのアクア様に向かって!!名を名乗りなさいよ!!」
何やらいろいろと問題が起こっているらしく、カズマの体は依然横たわったままであった。
「はぁ〜?エリスってあの上げ底エリス??この世界を担当しているからって国教にもなって、通貨の名前になったエリスね??ちょっとカズマ!それ以上ごねるようだったらお得意のスティールでその胸パッド奪ってやりなさい!!」
「お、おいアクア!敬虔なるエリス教徒である私の前でエリス様を愚弄するな!」
先程までのシリアスな空気はどこかへ行ったので、文字化けして使い物にならない冒険者カードで唯一正常な、討伐したモンスターが記録される部分を見る。
そこにはしっかり冬将軍の文字が刻まれていた。
あれだけやって実は逃げられてましたと、蘇ったカズマに土下座しなくて良いことが確定し、ようやく人心地ついた。
あとはアクアに膝枕されるカズマの復活を待つだけだ。
「....ん?ここは....?」
少ししてカズマが目を覚ました。
これには蘇らないのではと不安で目元に涙を浮かべ始めていためぐみんも、たまらずカズマに抱きついた。
蘇ったばかりでキョロキョロと周りを見るカズマと目が合ったので、暖かい目を向けておく。
別にかつての意趣返しとかでは無い、とかでは無いがもう少しだけニヤニヤしておこう。
カズマがこちらを睨みながらも顔を赤くしているのを見て、アクアがゲスな笑みを浮かべた。
「あらぁ?カズマさんったら照れてるの?この麗しくも可憐な女神様の美しい御御足を後頭部で感じて不相応にも劣情を抱いてしまったの?プークスクス!でもぉ、カズマにはまず言うべきことがあるわよね?」
カズマは先程までの赤らめた顔を、驚くべきスピードで真顔にさせて口を開いた
「チェンジで」
「上等じゃないのよこのクソニート!!そんなにあの子が気に入ったならもっかい会わせてやるわよ!!」
素早い動きでマウントポジションをとり、拳を構えるアクアをめぐみんとダクネスが抑える。
カズマは自分の体をぺたぺたと触りながら、真っ赤に染まった雪を見つめていた。
「なあエビオ?俺はどうやって死んだんだ?」
「斬首されてましたね」
「斬っ!?」
顔を青くしながら首を触るカズマだが、アクアの蘇生の技術が完璧なのか傷一つ残っていない。
冬将軍を倒した今、この場に残る必要は無いため、
周囲に残っている雪精を狩りつつ、一行は帰路に着いた。
******
ギルドに戻り、ルナさんから懸賞金である2億エリスをもらい、カズマパーティと山分けにした。
手元に残った1億エリスは師匠と相談し、全額を借金返済に当てた。残り8000万エリス。減ったようでまだまだある。
雪精の討伐報酬の200万エリスは生活費や道具代に回すことになった。
冬将軍討伐から数日、
今日も今日とてギルドへ向かっていると、どこからか楽しげな歌声が聞こえてきた
「わた〜しを〜♪推〜してくれるの〜なら〜♪爆裂をあ〜げる〜♪」
「すごい物騒な歌うたってません!?」
「おやエビオではないですか。...というか聞いていたのなら言ってください。恥ずかしいではありませんか」
「ああ、すいません。いやでも歌詞は物騒でしたけど歌は上手でしたよ。なんの歌ですか?」
「それが私にも分からないんですよね。今日見た夢の中でキラキラした場所でこの歌をうたってたので....というか今日は1人なんですね」
「そうなんですよ。なんでも俺の本気装備のエンチャント調べたいからって部屋にこもってしまって...」
冬将軍討伐から帰ってきたその日、師匠に身ぐるみを剥がされ持っていかれてしまった。
そこから今まで師匠の顔を見ていない。部屋の前にご飯を置いておくと、気づいた時にはなくなっているので、ご飯は食べていると思う。
ニートと同居する家族はこんな感じなのだろうか。
「一体何がアルスをそこまで掻き立てるのでしょうね...」
それは本当に謎だ。出会ってすぐの師匠はこうではなかったはず...
「めぐみんさんはこれからどこかに行くんですか?」
「いえ、今から宿に戻るとこですね。借金返済に当てた残りを実家に送ってきたとこなんですよ」
「めぐみんさんって普段の素行に反してまともなとこありますよね」
「そんなに我が爆裂魔法を喰らいたいならそう言えばいいじゃないですか!」
俺はその場から全力ダッシュで逃げ出した。
息を上げながらギルドに到着すると、珍しい人と出くわした。
「あっ!エクスくんだ!君は本当にちょうどいいところに来るね!」
「任せてくださいよ」
「だからまだなんにも頼んでないってば。とりあえずこの場では話せないことだから、着いてきて?」
そう言ってギルドの戸を開けるクリス。今着いたばっかなんですけど...
渋々着いて行くと、着いたのは森の中の小屋だった。
「ここは私が使ってる拠点のひとつなんだ。ここなら誰かに聞かれる心配もなく話ができるからね」
クリスは自慢げな顔をしながら小屋に入っていく。
中は綺麗に整理されており、所々に小洒落た家具や観葉植物が置かれている。
まさか秘密基地を自慢したかっただけなのだろうか。
そのためだけに長い距離を歩かされたのだとしたら納得がいかないが...
クリスは棚から茶葉の入った壺を取り、魔道具を使ってお茶を淹れてくれた。なんだかオシャレな味がする。
「エクスくんはさ、今王都で噂になってる義賊って知ってる?」
「なるほど、義賊活動をしているクリスの手伝いをしろと。いいですよ、任せてください」
「そこまで話が早いと気持ち悪いね」
女神がわざわざ義賊活動をする理由......
「神器の回収とかですか?」
「怖い!そこまでいくと本当に怖いよ!?なんで分かるのさ!?」
「まず人のいない場所まで連れてこられて、盗賊のクリスにその話をされたら義賊活動の協力依頼だってわかるじゃないですか。
依頼しなきゃいけないってことは趣味じゃないと思うんですよ。
じゃあクリスが欲しいのってどんなものかなって思った時に、考えられるのが人々に危険を及ぼすものかなーと。
女神自ら回収しに行く危険なものと言ったら転生者に与えた神器しか思いつかなかったので。」
「....正解だよ...だけどそこは私に気持ちよく説明させて欲しかったかなー...」
「神器がある場所だと...貴族の屋敷ですか?」
「そうだね。彼らは資金力にものを言わせて珍しいものを集めたりするからさ。その中に神器があることが多いんだよ。それにそういう貴族は大抵後ろめたいお金を貯めてたりするから、それも回収してエリス教の孤児院とかに寄付してるの。
エクスくんにはそのお金の2割を報酬として支払おうと思ってるんだけど、どう?」
「もちろんやりますよ」
そんな面白そうなことやらないわけが無い。その上お金まで貰えるのだ。クリスさまさまだ。
「じゃあ最初に行く屋敷なんだけどー」
「アルダープにしましょう」
「即答だね。どんだけ恨みがこもってるのさ。でもざんねんながらもう行ったんだー」
「えぇー!?まじかー、うわー...なんか出てきました?」
「それが何もなんだよねー..」
「ええ!?そんなことあります?ちゃんと調べました?」
「失礼な!ちゃんと調べたよ!....あれ?調べた...よね?」
突然挙動不審になるクリス。何やらきな臭い雰囲気を感じる。
「調べてなかったんですか?」
「いや、調べたことは確かなんだけど調べた記憶が..」
明らかに言ってることがおかしい。今まで気づかなかったのだろうか?
「いや、まあいいや。とりあえず決まったらまた知らせるよ。エクスくんの部屋の窓の鍵は開けて置いてね。多分数日もしないうちに行くからさ。」
「分かりました」
クリスは不自然に会話を切り上げて小屋から出ていった。
どうやらアルダープはただの悪徳貴族では無いのかもしれない
******
その日は結局受けれるクエストがなかったため家に帰ってきた。
「師匠ー!頑張るのもいいですけどたまには休んだほういいですよー?」
寝てるのか不明な師匠に扉越しで声をかけると、中から物音がした。
「エビ先輩...」
数日ぶりに開かずの扉が開き、中から疲れ果てた師匠が出てきた。
「お久しぶりです師匠。進捗はどうですか?」
「....ねぇ」
「え?」
「....わっかんねえよぉ!なんだよこれ!?重要な部分が全部隠匿されてるしされてない部分も難解すぎだろ!!こんだけ時間かけて全体の1%しか解読進んでないんだよ!?」
師匠は床に倒れ込みながら叫んだ
「何食ったらこんな術式思いつくんだよ!こないだ習得したやつに比べて次元が違いすぎない!?」
「まあ世界最高峰の魔法使いが作ったやつなので」
「だとしたらその人イカれてるよぉ...足し算の次に積分解かされてるような気分だよ...それくらいやってることが違いすぎるんだよ...」
「ちなみに師匠ちゃんと寝てます?酷い隈ですよ?」
「寝てないよぉ....寝ようとしても頭の中で術式がぐるぐるして寝れないんだよぉ..」
呪いでも仕込まれてるのだろうか
「とりあえず無理にでも寝ましょうね?」
「...運んで」
「はい?」
「ぼくもうここから動けない!動きたくない!!」
師匠は色々限界らしい。脳が正常な判断をしなくなってきてるようだ。
仕方がないので師匠を抱き抱え、ベッドまで運んでいく
「おめぇはよぉー..いつまでもぼくの先にいれると思ったら大間違いだからな?」
腕の中で師匠がそう呟いた。
「どういうことですか?」
聞き返してみるが返事はない。見てみれば既にすぅすぅと寝息を立てていた。
師匠をベッドに寝かせて部屋を出る。
あの疲れ様ならしばらく起きないだろう。