この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
毎度の事ながら誤字報告感謝です。まじで助かってます
いつものように2人分の朝食を作っていて気づく。
「あっ、エビ先輩いないじゃん...」
昨日の夜、エビ先輩が王都へと出発した。
なんでも急用ができたらしく、ぼくは家で留守番しているように言われた。
なんの用事かは聞かされていない。聞いてもはぐらかされてしまうだけだった。
王都に向かうとの事だったからテレポートで送ろうか聞いてみたけど、1度馬車で行ってみたいと断られてしまった。
....怪しい。
あの面倒臭がりなエビ先輩が自分から馬車に乗りたいだなんて...
景色をみたいにしても、まだ走っていきますと言われた方が納得出来る。
その方が早いだろうし。よっぽど楽だろう。
家を出る時も
「研究のしすぎには気をつけてくださいね。何かあったら『サモン』を使ってください。こっちの用事がひと段落したらすぐに飛んでくるので。ご飯もしっかり食べるんですよ?あとは...」
といった具合に延々とぼくに言い聞かせていた。母親かよ。
まだ保護者ムーブが抜け切ってねえなあ。
こないだやらかしちゃったからあんまり強くは言えないけど。
数日前の朝、気がついたらベッドで寝ていた。
ぼくが研究室として使っている部屋にはベッドは置いていないので、起きるとしたら机のはずだった。
朧気な記憶をひとつずつ辿っていくと、だんだんと顔が熱くなっていくのがわかった。
「あぁー....なぁにしてんだよぼくはー....」
こういう時、都合よく忘れていて欲しいのにぼくの頭はしっかりと記憶している。
エビ先輩が聞いたら、「人より頭がでかいんだから当たり前じゃないですか」とか言いそう。腹立つ。
頭でかいって言ったら同じだけ可愛いって言わなきゃダメなのによぉ。
まあ1回そのルールにして恥ずかしくてやめたのはぼくなんだけど。
なんであいつは普通に言えちゃうんだ?普通可愛いっていうのが恥ずかしくなって頭でかいっていうのをやめない?
なにが「頭でかいって言ってから可愛いって言うの面倒なんで先に言っときますね。可愛いですよ師匠」だ。
「あああああぁぁぁぁぁ.....」
ダメだ、1回頭を切り替えよう。真面目なこと考えなきゃ..
エビ先輩の本気装備はまだぼくの部屋に置いてある。
あれからも少しづつ研究を進めているけど未だに進捗は3%程度。隠匿された部分に至っては全くと言っていいほど解読ができていない。できる気がしない。
元々ぼくの世界とは違う魔法だから、習熟度が足りてないってのもそうなんだけど、それを差し引いたってこれはおかしい。
ダンジョンから持ち帰ってきた翻訳済みの本達を何度読み返しても、あの装備に使われている術式の法則が見えてこなかった。
さすがに1人では解読ができそうにないので、今日は知り合いに意見を求めに行こうと思う。まああの魔法を解読出来るかもしれない知り合いとか、2人しかいないんだけどさ。
食べ終えた朝食を片付け、準備をする。
手に持ちきれない分の荷物は魔法で浮かせて家を出た。
******
「__てことなんだけど...」
「なるほど、それでこの紅魔族随一の頭脳を頼りに来たと言うことですか。私を頼るそのセンス、なかなかのものだと褒めてあげましょう」
めぐみんは早速持ってきた本に目を通しながら、ぼくが装備から読み取れた術式を転写したものや、現在わかっている情報を書いた紙を見ている。
しばらくしてめぐみんが頭を抱えた。
「これは.....難解ですね。なんなんですかこれは。私をして初めて見る魔法理論ですよ....」
「やっぱりそうだよね...ほかの人の視点からヒントでも貰えたらと思ったんだけどさぁ....」
「うーむ...こっちの本に書いてあることはかろうじて分からなくもないですが...こっちの紙に書いてあるものは微塵も分からないですね...初級魔法と爆裂魔法くらい違いますよこれ..」
「だよねぇ...どうしようかなあ...」
「こないだエビオが1人だったのはこれを解読していたからなのですね....どうしてこれを習得しようと?」
「え?そんなの強くなるために決まってるじゃん」
あとは未知の魔法に興味があるというのもあるけど、やっぱり強くなるためってのが大きいと思う。
「..私が思うに、もうアルスは十二分に強いと思うんですけど。多種多様の魔法を扱い、その威力は爆発魔法を超えるものもある。爆裂魔法ほどじゃないにせよ、広範囲高威力の魔法だって扱えて、しかも継戦能力が高いってどんな化け物ですか。正直、そこまで必死に強くなりたい理由が思いつきませんよ」
「それだけじゃだめなんだよ」
「はい?」
「あの英雄の隣に立つには、それだけじゃ足りないんだよ」
強くなりたい理由。挫ける度に思い出す、脳裏に焼き付いたあの記憶。
「英雄...エビオですか」
「エビ先輩は無駄に強いくせにさ....いや、やっぱりなんでもない」
あんまりペラペラ喋っていい話でもないだろう。めぐみんには悪いけど秘密にさせてもらう
「そこで話を止められると気になりますが...まあいいでしょう。話を戻しますけど、すみませんが私にはこの魔法の解読は難しいですね。生涯をかけて研究するならいつかわかるかもしれませんが、あいにく私は爆裂魔法を生涯愛すると決めたもので...」
めぐみんは申し訳なさそうにそう告げた
「ううん、ごめんね急に押しかけて難題ふっかけて」
「いえいえ、嬉しかったですよ。爆裂魔法の使い手としてでなく、魔法使いとして頼ってもらえて。また何かあったら言ってください。次こそは力になってみせますよ」
「やっぱりめぐみんって爆裂魔法以外のとこはまともだね」
「それこの前エビオにも言われたんですけど...あなた方は私をなんだと思ってるのですか」
その後は少しだけ世間話をして別れた。
*****
「__てことでウィズさん、今大丈夫ですか?」
次に訪れたのは、ウィズ魔道具店。
聞いた話によると、ウィズさんは元凄腕のアークウィザードだったそうで、とある異名を持っていたとか。
「はい!ちょうどお客さんもいませんし」
ちょうどではなく、いつもじゃないかとは流石に言えなかった。
「ここでは少し狭いので奥へどうぞ」
どこかワクワクした雰囲気を感じるウィズさんについて行くと、生活感のない部屋についた。
机の上に紙束と羽根ペン。そのまわりに積み上げられた本達。
それ以外のものが何も無い。
「ここでは普段帳簿をつけたり、本を読んだりしてるんです。決して家具を買うお金が無いわけじゃないですよ?」
目を泳がせながら言い訳をするウィズさんを見て苦笑いを浮かべてしまう。
聞く話によれば食費も大変との噂だが、あの品揃えを見れば納得できる。
一体どうやって生きているのだろう。
とまあ、そんなことはさておき、持ってきたものを机の上に広げる。
ウィズさんはニコニコしながらその内の一部を手に取った。
魔法が好きなのだろう。ぼくもその気持ちは分からなくは無い。
早いぺースでページが捲られていくとともに、ウィズさんの表情は厳しいものとなって行った。
「すみません、本命の術式を見せてもらってもいいですか?」
「あっはい、どうぞ」
ウィズさんの様子からは、先程までの朗らかなものは感じられず、その表情は真剣味を帯びており、声色はどこか焦りを感じさせるものだった。
「...これを、エクスさんが持っていたんですね?」
「..はい...そうですけど」
ウィズさんは再び顎に手を当てて考えこんでしまう。
「結論から申し上げますと、私はこの魔法を知っています」
「えぇ!?どういうことですか!?」
何かを決心したようなウィズさんから飛び出してきたのは驚きの発言だった。
この魔法を知ってる?エビ先輩の世界の魔法を?
「それを説明するためにはまず、私の事から話さなければいけませんね。私は現在、魔王軍幹部の1人を務めています」
再び爆弾発言が飛んできた。
魔王軍の幹部....?
「魔王軍幹部とは言っても、結界の管理だけを担当するなんちゃって幹部ですけどね。話を戻すと、この魔法は私の同僚のアンブローズさんの魔法に酷似しています」
「魔王軍幹部の...同僚...?...あっ....」
『ああ、あとちなみになんですけど、消えた魔法使い、この世界にいるかもしれません』
「そういうこと....?」
「..何か心当たりが?」
「...ぼくとエビ先輩はここじゃない遠いところから来たんだけど、その装備はエビ先輩の昔の仲間が作ったんです。その仲間は旅の途中で突然消えたって...」
「まだ分かりませんが同一人物の可能性は高いかもしれませんね...ただ、そのアンブローズさん....」
「アンブローズさん...」
「なんと...」
「なんと...」
「とってもいい方なんですよ!私と同じで中立派の魔王軍幹部ですし!とっても気さくで面白い方なんです!」
思わずズコーッと前に倒れてしまった。
そんなコテコテなお笑いしなくてもいいじゃん
「私はその魔法について完璧にはわかっていないのですが..どうします?お手紙書いてみましょうか?」
そんな簡単にアポ取れるもんなんだ。
でもこれは僥倖なのかも?あの魔法を作った本人に会えるのか。
いやでもさすがに危ないか...?ぼくはアンブローズさんがどんな人か知らないし...
でも知りたい...一刻も早くあの魔法について知りたい...
待てよ...?エビ先輩は昨日王都へ向かった。早ければ明日には到着する。
ぼくが『サモン』を唱えて待機状態にしておけば、エビ先輩は用事が終わり次第すぐに帰ってくる。
エビ先輩さえ帰ってくれば最悪の事態に陥っても何とかなるのでは....?
ウィズさんが手紙を書いて送ったところで、到着するのは早くても3日後、魔王軍関係者ならもっとかかってもおかしくない。
つまりここでウィズさんに手紙を書いてもらうことはただの時短でしかないわけだ。
Q.E.D.証明完了ってわけ。
「よろしくお願いします!」
「わかりました!早めに送っておきますね〜」
その日はるんるん気分で帰宅した。
もうすぐあの魔法について知れるかもしれないと思うと、ワクワクが止まらなかった。
*****
ウィズさんに手紙を送って貰ってから、次の日の朝。
まだ外は薄暗いというのに、来客を知らせるベルが鳴っている。
「だれだよぉ〜...こんな朝から....」
未だ眠い目を擦りながら玄関へと向かって歩く。
意識は半覚醒といったところで、頭はまだ回っていない。
肌寒さを感じるのと、寝癖がついたままなのを隠すためにフードを被る。
最低限の身だしなみを整えたところで玄関の鍵を開けた。
「うち新聞はとってないんですけ...ど....?」
「初めまして。ウィズの紹介で来ました。アンブローズと申します、以後お見知り置きを」
目の前に立つ女性の正体を知り、頭からサーっと血の気が引いていくのがわかった。