この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
不規則なリズムで揺れる荷車の中で、特に面白みもない景色をぼーっと眺めながらため息をつく。
「暇すぎる....」
先日、自室の窓に1枚の手紙が挟まれていた。
クローバーの封蝋で閉じられたそれを開けてみると、そこには日時と場所のみが記されていた。
記された場所は王都のとある貴族の屋敷。先日約束したクリスとの義賊活動の知らせで間違いないだろう。
急いで準備して馬車に乗ったはいいものの、あまりにもすることが無さすぎる。
これなら走って行けば良かったかもしれない。
「フフッ」
同じ馬車の中から笑い声が聞こえた。
音のした方へ目を向けて見ると、両脇で寝ている少女達にがっちりと腕を掴まれている金髪の少年が座っていた。
「ああ、すみません。そんなにつまらなそうにしている冒険者の方は初めてみたのでつい」
そうやって口に手を当てて笑う彼は実に様になっている。
まるで主人公のように見えなくもない。
というか彼の纏うオーラからは、今までに無数にみてきた英雄になろうとするもの特有のものを感じる。
ぱっと見た感じではあるが、実力だって相応にあり、それを背負っていくだけの信念の強さも感じられる。
一目見ただけでここまでそう思わせられたのはいつぶりだろうか。きっと自己暗示にも近い彼の意思がそうさせるのだろう。
ただ....
「ああ、自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。御剣響夜と言います。こっちは仲間のフィオとクレメア」
「エクス・アルビオと言います。ミツルギさんはポケモンとかやった事あります?」
「おっと!?これは驚いたな...あなたもそうなんですね。えーと、ポケモンですね?もちろんやった事ありますよ?」
「初めに貰ったポケモンだけで戦いすぎて、手持ちの中でレベル差がついたことは?」
「?...ありますけど...」
「後半でそのポケモンが負けて、残りのポケモンが全抜きされたことは?」
「ありますけど...さっきからなんの話ですか?」
「あなたの現状と未来の話です」
「!?」
ミツルギは目を見開いて驚いた。
「仲間を守りたいのは分かりますが、最低限のレベリングは必要ですよ」
ミツルギは視線を落として考え込んでしまう。
いきなり知らない奴からこんなことを言われたのだから当然だろう。
「....ご忠告感謝します。ですが、一目見ただけでそこまで決めつけられるとあまりいい気はしませんね」
「決め付けではなく事実ですよ。装備だけはいいものを使っているようですが焼け石に水です。市民に伝説級の装備を使わせたところで戦えるようにはなりませんし」
さすがに市民ほど戦いに疎い訳では無いだろうが、ミツルギとともに冒険をする仲間としては明らかに力量が足りない。
もしこれが、寝ている間も自身の強さを錯覚させるほどの技量の持ち主達だった場合は土下座しよう。
「....ちょっと、あんたさっきからなんなの?キョウヤのことが羨ましいからって適当なこと言ってんじゃないわよ!」
いつの間に起きていたのか、クレメアと呼ばれた少女が叫んだ。
「そうよ!ひとりで冒険してて寂しいから私達に突っかかって来てるんでしょ!気持ち悪いのよ!」
これはミツルギが守ってくれると信じきっているのか、自分達を強いと勘違いしているのか。
どちらにせよミツルギパーティはとても危うい状況ではある。
起きた彼女達の立ち振る舞いをみて、改めてそう思った。
「じゃあこうしましょうか。次の休憩地点に着いたら勝負しましょう。そちら三人対俺一人で」
「あんた舐めてるの?キョウヤは魔剣の勇者って異名を付けられるほどの実力者よ?」
「キョウヤにかかればあんたなんてイチコロよ!ね?キョーヤ?」
世界を救わんとこの世界にやってきた少年の仲間がこれなのはあまりにもミツルギが可哀想だ。
彼が彼女達とパーティを解消する気がないのであれば、ここで一度現実を分からせた方がいいかもしれない。
*****
「敗北条件は..そうですね。剣や槍による攻撃が相手に当たった時か行動不能に陥った時です。大怪我を負わせるようなことはなしにしましょうか」
「うん、それでいこう。フィオもクレメアもそれでいいね?」
「キョウヤがいいなら大丈夫よ!」
「身の程を分からせてあげましょう!」
馬車から少し離れた荒野で俺達は向かい合う。事前に乗り合わせたアーチャーの方に周囲の安全確認をしてもらったので、暫くは大丈夫だろう。
安全のために剣や槍先には布を巻いている。
「それじゃあこの石が地面に着いたらスタートで」
石を上に放り投げると、ミツルギパーティが武器を構えた。
石が地面に落ちた瞬間、フィオが腕を前に突き出しスキルを発動させる。
「あいつの真似をするのは癪だけど、ミツルギを馬鹿にしたあんたが悪いんだからね!『スティール』!」
スキルを発動し終えたフィオの手には、俺の私物が握られていた
「なにこれ..?読めないんだけど」
「ねる〇るねるね!?なんでこんなもの持ってるんですか!?」
懐にしまっていたねるねるね〇ねが奪われてしまったようだ。
おそらく剣を奪いたかったのだろうが、盗賊スキルである『スティール』は対象からランダムでアイテムを奪うスキルだ。
狙ったものを奪うには、カズマやクリスのような強運が必要だろう。
一瞬混乱していたように見えたミツルギだったが、すぐにこちらに向き直り、間合いを詰めてきた。
フィオとクレメアはミツルギを見たまま動かない。
ミツルギの攻撃を躱し、適当に斬り上げる。
初心者をいじめているようで心が痛むがしかたない。
「「キョウヤ!?」」
空中に打ち上げられ、キリモミ式に地面に着地したキョウヤ。
既に意識はない。
一応断っておくが、大きな怪我はしないように調節しておいた。
「さて...」
「よくもキョウヤを!」
クレメアが槍を構えて襲いかかってくるが、構えを見るに、槍熟練度はアクセルの冒険者と同じくらいだろう。
酷くはないが、ミツルギと並ぶには実力が足りなすぎる。
槍を剣で弾き足を払って転ばせる。
起き上がろうとする彼女の首筋に、布で巻かれた剣を当てる。
この世界に来てから一番あっけない戦いでは無いだろうか。
「なぜ彼の攻撃に合わせて動かなかったんですか?」
「うるさいわよ!キョウヤがあんな簡単に負けるわけないわ!あなたもあいつみたいに卑怯な手を使ったんで..しょ...」
「今そういうのいいんで、質問に答えて貰ってもいいですか?」
こんな状況になってもその姿勢を貫けるのは賞賛に値するが、今重要なのはそこじゃない。
ノイズにしかならないので少しだけ殺気を当てると、クレメア表情はみるみる強ばっていった。
「だって..キョウヤの指示がないと..邪魔に..」
目の端に涙を浮かべ、声を震わせながらそう答えた。
「そうですね。それがあなたとミツルギさんの力量差です。弱い奴が助太刀に入っても邪魔にしかなりません。唯一できるのは肉壁となることですが、彼の性格上それも不可能でしょう」
視界の端で震えたままキョウヤを見つめるフィオに視線を向ける。
「あなたも言いたいことは分かりますね?」
首を激しく縦に振るフィオを見て剣を下ろす。
「あなた達は、ミツルギの仲間にしては実力がたりません」
「そんなことわかってるわよ!でも...でもしょうがないじゃない!キョウヤみたいな天才に追いつけると思う!?」
半狂乱になって叫ぶクレメアと、静かに俯くフィオ。
彼女達も彼女達なりに悩んではいたらしい。
「しょうがなくないですよ。そんなことははっきりいってどうでもいいです」
俺の発言を聞いて、二人はポカンとして固まった。
「おそらくミツルギは本気で魔王討伐を目指しています。それは仲間であるあなた達の方がよくわかってますよね?」
二人は静かに頷く。
「本気で魔王を討伐するには、人間一人の力では限界があるので、ミツルギと肩を並べて戦う仲間が必要です。今のあなた達
がこの先ミツルギについて行ったとして何ができますか?」
二人は視線を地面におとした。
「ミツルギに必要なのは、ともに歩み、ともに成長する仲間です。背中に隠れて甘い蜜だけをすするゴミじゃありません」
二人は俯いたまま動かない。
「ミツルギにとって、あなた達がパーティにいる意味ってないと思いませんか?」
二人は地面に崩れ落ちた。
「まあ僕は思いませんけど」
「「.....え?」」
再びポカンとする二人。
「ミツルギからしてみれば、遠い故郷から出てきて初めてできたパーティメンバーですからね。大切じゃないわけないですし、きっと心の支えになっていることでしょう」
「待って、あなたは結局何が言いたいの?」
「分かりませんか?必要なのは、変化したあなた達です」
二人はハッとした表情を浮かべた。
「でもとか、だってとか、そんなことを言っている間にミツルギとの距離は開いて行きますよ。彼に追いつきたいなら、彼と共に歩みたいなら、血反吐を吐きながらでも努力してください。それが出来ないなら黙って去った方がミツルギのためですけどね」
俺としては、前者の方が好ましいが、それが無理なら後者を選ぶべきだとは思う。くだらない理由で沈んでいく英雄達はもう見たくない。
どちらにせよ選ぶのは彼女達だ。
*****
「....おっ?起きましたか」
「あれ...ここは..?」
あれから少し経って、ミツルギが目を覚ました。
まだ記憶が曖昧なようだが、すぐに思い出すだろう。
「そうか...僕は負けたのか...フィオとクレメアは?」
俺は黙って指を指した。ミツルギはその先へ視線を移すと、驚いた表情になった。
その先にいたのは、一心不乱に槍を振るうクレメアと、スキルの訓練をするフィオだった。
「あの二人..急にどうして...」
「ミツルギさんの隣で戦いたいそうですよ?」
ミツルギは再び驚いてから、嬉しそうに笑った。
「どうして僕達にここまでしてくれたんですか?」
「ただの気まぐれですよ」
決して暇だったからでは無い。
「あとそうだ!ねるねる〇るね!あれ貰ってもいいですか?久々に食べたくなって...」
在庫はアイテムボックスに無数に入っているため、取られた1個とは別にいくつかプレゼントした。