この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
草木も眠る丑三つ時、静寂に包まれた王都を二つの影が動いていた。
一方は普段の盗賊衣装を身にまとい、1枚の布で口元を隠している。
もう一方は黒いチャイナ服に、丸型のサングラスをつけている。
「....やっぱりふざけてない?」
「えぇ?どこがですか?」
「そのサングラスだよ!首から下はまだいいよ?闇夜に紛れてるし動きやすそうだし。でもそのサングラスはなに?正体隠す気ないでしょ!」
「いやいやいや、顔 隠すならサングラスに限るでしょ!サングラス外したらそんな顔だったの!?ってなりません?」
「いやいるけどさ!聞いたことないよ丸型サングラスの盗賊!せめてこれで口元も隠して!」
そう言ってクリスがつけているものと同じ布が渡された。
渋々それで口元を隠す。
「いややっぱ納得いかないっすね。クリスさんだって顔の7割くらい出してるじゃないですか。髪と目元見られてたら絶対バレますって」
「そうかなぁ...」
「てことではい。これどうぞ」
懐からサングラスを取り出し、クリスに手渡す。
「い...いやだ」
「何が嫌なんですか!」
「嫌に決まってるでしょ!格好悪いよ!王都で噂の義賊のトレードマークがサングラスになっちゃうよ!」
「なんの問題があるんですか!クリスさんの目的は神器回収でしょ!それが続けれなくなる方が問題ですよ!」
「うぐっ..」
クリスは少し悩んだあと、渋々サングラスを装着した
「似合ってるじゃないですか」
「うるさいよ!今日のところは仕方なくつけてあげるけど!次からは自分で普通のもの用意するから!グラサン盗賊団は今夜限りの結成だからね!」
「もう少し声量下げてもらってもいいですか?人がいるってバレると面倒なので」
「さっきから急に正論言うのやめない!?そういえば初めて会った時からこんな感じだったよね!?」
初めてというのは転生の時のことだろうか。
至って真面目なことしか言ってなかったと記憶しているのだが。
「なんでそんな釈然としない顔ができるのさ!!....私人選間違っちゃったのかなぁ...」
どこか遠いところを見つめるクリスを背に、本日の目的である屋敷を見つめる。
屋敷の周りはレンガ造りの高い壁で覆われており、門の前には二人の兵士が扉を守るように立っている。
これをどう攻略するかが腕の見せ所となってくるわけだ。
早速用意していた物をアイテムボックスから取り出す。
用意したそれに火をつけようとした瞬間、クリスにその手を掴まれた。
「一応聞くけど、それはなあに?」
「ダイナマイトですけど」
「却下ァァァァァ!!!」
用意したライターとダイナマイトを没収されてしまった
「ダメに決まってるでしょう!?さっきバレると面倒って言ったのはどこの誰さ!!」
「爆発する前に気づかれると面倒だったので」
「だとしても中にいる人に危険が及ぶかもしれないものはダメ!」
確かにこの世界を担当している女神にとっては、無闇に人を傷つけることは許容しがたいのだろう。
だがこの英雄を見くびらないで欲しい。
真の賢者は、一の矢が外れた時のために二の矢を用意しているものなのだ。
俺は再びアイテムボックスに手を入れた。
「....それは?」
「地球破壊爆弾ですけど」
「規模がでかくなってるじゃん!ていうかそれ四次元なポケットだったの!?」
「そこにいるやつは誰だ!」
「まずいっ!?」
クリスが騒ぐから気づかれてしまった。
作戦を変更し、まずは正面の兵士の無力化から始めることにする。
音を立てずに素早く兵士たちの背後に回り込み、うなじに手刀を落とす。
「痛ってぇ!なんだ貴様..ぐえぇっ!?」
上手く決まらなかったので普通に絞め落とした。
もう片方の兵士が応援を呼ぼうとしたが、クリスに気絶させられてしまった。
「ミッションコンプリートですね、親方」
「もうなんでもいいよ...でも親方じゃなくて親分にして。そして今から私は君のことを下っ端と呼びます」
細かい所を気にする親分の後ろをついて行く。
潜伏スキルの共有の必要が無いことは事前に説明している。
スキル無しで気配を完全に消す様を見せた時は、色々諦めたような顔をしていた。
中は事前にクリスに渡された見取り図通りで、このまま何事もなければスムーズに仕事を終えることが出来そうだ。
そんなことを考えていると、前を進むクリスからハンドシグナルを送られる。
『前方 足音 三人 隠れる』
どうやら兵士の巡回らしい。
クリスの指示に従い近くの観葉植物の影に身を潜めた。
俺とクリスの横を兵士たちが鎧をガシャガシャ言わせながら通っていく。
兵士たちが通路を曲がり姿が見えなくなったので、再び宝物庫への歩を進めていく。
少し進んだところで再びクリスが止まった。
『前方 話し声 二人 近づいてくる 隠れる』
クリスと一緒に近くの机の下に潜り込む。
気配を消していると、二人の話し声が聞こえてきた。
「はぁ〜、もう門番の交代の時間かよ。」
「どうせこんな時間に誰も来ないのにな。寝てたら起こしてくれよ?」
「わあってるよ。お前も俺が寝てたら起こせよ?ご主人様に見つかったら減給どころじゃ済まないんだからよ」
...少々まずいことになったかもしれない。
二人の兵士は入口の方へと向かっている。入口にいた兵士達の異変に気づかれるのも時間の問題だろう。
ここで入口の兵士のように気絶させてしまってもいいのだが、気絶させる前に叫ばれてしまうと、屋敷中の兵士に気づかれるだろう。
仕方ないと危険を承知で兵士たちを気絶させようと動いた瞬間、クリスに止められた。
どうやらクリスは気づかれる前に、あるいは気づかれながらでもお宝の回収を強行するつもりのようだ。
宝物庫と思われる部屋にたどり着くと、警備の兵が二人扉の前に立っていたが、立ったまま船を漕いでいる。
クリスと共にバレないよう近づき、気絶させた。
扉には南京錠のような鍵が物理的にかかっていたため、音のならないように曲げて破壊した。
「..思ってたよりも下っ端が優秀で腹立つんだけど。突入前のおふざけはなんだったのさ」
「俺は何時でも真剣で優秀ですよ?」
「はいはい。そういうことにしますよ」
宝物庫の扉を開けた瞬間、屋敷内に警報が鳴り響いた。
「魔法的なトラップは確認できなかったから、多分さっきの二人が気づいて知らせたんだと思う。急ぐよ」
中に入って金目の物をアイテムボックスへ詰めていく。この屋敷の主である貴族の黒い噂の証拠となるものも一緒に。
証拠に関してはクリスが上手いこと白い貴族に見つかるようにしてくれるようだ。
これだけのお宝から二割も貰えるとなると、借金の支払いが一気に進みそうだ。
クリスは一番の目的である神器を探している。
予め聞いた話によれば、探している神器は透明マントのような物らしい。
それを使って暗殺やら証拠隠滅やらをしていたようである。
「あった!下っ端君!これも一緒に入れといてくれる?」
「被って逃げた方が良くないですか?」
「それもそっか。でも一人しか入れなそうだけど」
「俺はいいんで親分が被って逃げてください」
「むっ、私だってこんなのがなくても逃げ切れるよ!」
善意で透明マントの使用を進めたら変な意地を張り出してしまった。
「じゃあこうしましょうか。俺が親分をおぶってしゃがみ歩きで出口まで向かいます。」
「却下で。私がこれ被るから下っ端君は頑張って」
「こっちだ!!宝物庫が空いてるぞー!!」
そうこうしているうちに兵士たちが集まって来てしまった。
俺はクリスが透明マントを被ったのを確認して、ポケットから煙玉を取り出した。
足元で爆ぜた煙玉は、狭い宝物庫を一瞬で煙で満たし、俺達二人の姿を隠した。
「うわっ!?なんだこれは!!」
困惑する兵士達の間をするりと抜けて逃げる。
あとはこのまま出口を目指すだけだが、
「止まれ!!」
目の前に剣を構えた金髪の少年が立ちはだかった。
....見間違いじゃなければミツルギだろう
「魔剣の勇者を前にして逃げ切れると思うなよ!!」
雄叫びと共に剣を振り上げ、こちらへ走ってくるミツルギ。
生憎今は剣を装備していないので、あれを受けることは出来ない。躱してもいいが、ここは後ろへ数歩下がって構える。
ミツルギの剣が振り下ろされるタイミングに合わせて、俺は横の扉を開けた。
ミツルギは俺との間に突如として現れた扉へ剣を振り下ろした。
驚いて剣へ伝える力を乱してしまったミツルギの剣は、扉の中央あたりで止まった。
「んな!?」
困惑するミツルギを、ドア越しに蹴り飛ばす。
「ぐわああああ!?」
狙い通りミツルギの手から剣が離れている。
落ちている剣を遠くへ蹴り飛ばしミツルギへ振り向く。
既にミツルギは立ち上がっており、拳を構えこちらを見ていた。
「い、今のは油断しましたが、次はそうは行きませんよ」
正直、犯罪行為をしているのはこちらなので顔見知りをぶっ飛ばすのは少し気が引ける。剣を蹴り飛ばした時点で引いてくれたら良かったのだが...
背後から兵士の慌ただしい足音も聞こえてきている....
「大人しくお縄に着いてください。あなたはまだやり直せる」
相変わらず穢れを知らない勇者してるな....
あの純粋さには、ある種の懐かしさも感じる。
とはいえ捕まる訳にはいかないので普通にぶっ飛ばさせてもらおう。時間もないので正面から行かせてもらう。
ミツルギに掴みかかり、腹に気持ち弱めの膝蹴りを入れ、背後から向かってくる兵士へ向けて投げる。以上。
毎回雑に処理している気がしないでもないが、これで事足りるミツルギが悪いことにしよう。
念の為まきびしを撒いて出口へ向かった。
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脱出後クリスと合流し山分けをした。
今回俺が報酬として得た金額は約2000万エリス。
王都で数ヶ月クエストをこなして得ることができた金額を、一晩にして稼いでしまったわけだ。
「一応言っとくけど、一人で盗みに入ったりしちゃダメだよ?今回のお金は貴族が悪いことをして集めたお金だから成敗の意を込めて盗んだわけだし。それに一箇所にあれだけのお金を置いている方が珍しいからね。普通はもっと隠し場所を分散させるから」
「分かってますって。それはそれとして次の機会があったらぜひ誘ってください!」
「うーん...まあ働きぶり自体は良かったし...アイテムボックスは便利だし....でもなぁ...」
「...おっ?」
師匠が『サモン』を唱えたようだ。
ちょうど終わったところだし帰るとしよう。
「じゃあ次回があったらまた手紙ください!俺はこれで」
「えっ?あぁ..うん。ありがとねー」
ひらひらと手を振るクリスを見てから、俺は『サモン』を承認した。
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「おかえりー。早かったね」
「ただいま帰りましたー...ってあれ?緊急事態ではないんですか?」
「いやまあ緊急事態...だったのかな...?」
「...詳しく聞いてもいいですか?」