この素晴らしいエビマルに祝福を!   作:エビマルをすこれ

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1ヶ月なんて経ってない。経ってないんだ!!


襲来!アンブローズの巻

「ど、どうぞ....粗茶ですけど...」

 

「....あら、ご丁寧にどうも」

 

 目の前で物憂げに紅茶を見つめる美女、アンブローズ。

 腰まで伸びる長い銀髪は美しく、身長はえび先輩と同じくらいだった。...高っけぇ。知的な丸メガネをかけ、黒を基調とした服装は、どこか人間離れした雰囲気を醸し出している。

 そのスタイルは、暴力的とまで言えるほど豊満な....豊満...

 スレンダー美女の異名を欲しいままにするほど魅力的だ。

 

「なにか?」

 

「いえ何も」

 

 勝ったとか思ってない。

 

 彼女はおそらく、えび先輩の元仲間だ。

 えび先輩がいた世界で、えび先輩と仲間と共に魔王討伐を目指した英雄達の一人。

 そんな人が今、目の前に座っている。

 

 そんな彼女は今紅茶を凝視している。

 なんだろう。毒とかはいってないか警戒しているのかな。先に1口飲んで見せた方がいいかもしれない。

 

 彼女はぼくが紅茶を飲むのを見てから、ふぅと一息つくと、紅茶を一気に呷った。

 カップを口につけ、天を見上げたまま静止するアンブローズさん。その体勢のまましばらく止まり、ゆっくりと顔を下げてくる。

 彼女の顔は真っ青に染まっていた。

 

「...ありがとう...美味しかったわ...」

 

「無理しないでください!?苦手なら別の物持ってきますんで!?」

 

 アンブローズさんは口を押さえながらプルプルと震え、ありがとうと小声で伝えてくる。

 ガラスのコップにクリエイトウォーターで水を注ぎ持っていくと、再び一気に飲み干した。

 

「ふぅ....お見苦しい所を見せてしまったわね。昔の仲間のせいで香草の匂いがトラウマなのよ...」

 

 忌々しげな表情を浮かべ誰かを呪うアンブローズさん。何がトラウマなのかは分からないが、その原因がえび先輩でないことを祈ろう。

 

 彼女はコホン、と咳払いをして話し始めた。

 

「さて..まず初めに聞いておきたいのだけれど、あなたはアロヴァンの人?」

 

「あろヴぁん?..聞いた事ないです」

 

「あら本当に知らないみたいね..じゃあどうして『エンチャント』について知ってるのかしら?」

 

 ウィズさんからの手紙には書かれていなかったのだろうか?

 

「ええと..この街の近くのダンジョンに魔導書があってですね....これなんですけど..」

 

 たまたま近くに置いていた魔導書の原本をこちらへ引き寄せアンブローズさんへ渡す。

 彼女はそれを受け取り中身をパラパラと流し見し、なるほど、と魔導書を閉じた。

 

「初心者向けの教科書ね。懐かしいわ。私も最初はこれを見ながら勉強したものよ」

 

 彼女はしみじみと、懐かしそうに表紙をさすっている。

 えび先輩に天才と言われている彼女にも、初心者の時代があったのだと少しだけ嬉しくなる。

 

「まあすぐに読み終わっちゃってオリジナル術式の研究をしたんだけど」

 

 天才はいる。悔しいが。

 

「なるほどね....でもこれニュータブル語でしょう?あなた読めないわよねこれ?」

 

「ぼくの仲間が翻訳してくれまして..」

 

「お名前は?」

 

 途端、彼女から圧が放たれる。おそらく意図したものではなく、感情の揺らぎから盛れ出してしまったものだと思う。本気ならもっと重苦しいはずだ。

 

「..エクス・アルビオって言うn「アルビオ!?」」

 

 驚いた様子の彼女は、椅子を倒しながら机に手をつき立ち上がった。

 

「アルビオがこの世界に来てるの!?同姓同名の別人じゃないわよね!?金髪タレ目のムカつく奴よね!?」

 

 あっけに取られているうちに距離を詰められ、肩を揺さぶられる。流石はえび先輩の元仲間なだけあって力がぼくより強く、何とか肯定の意を伝えると、彼女は床に座りこんでしまった。

 

「ウソ...かつての仲間の装備に施したエンチャントを解析している人がいるって言うから、あいつらの子孫か後継者だと思ったのに...本人がいるのは一番まずいわよ。大丈夫かなぁ、怒ってないかなぁ、怒ってるよなぁ...よし!」

 

 アンブローズさんは何を思い立ったのか勢いよく立ち上がり、魔法を唱え始めた

 

「何をする気ですか?」

 

「テレポートでここから逃げるのよ!」

 

「『スペルスブレイク』!!」

 

「何をするの!?」

 

 危なく逃げられるところだった。まだエンチャントについて何も聞いていないのに逃げられる訳にはいかない。

 

「ていうか何をそんなに恐れてるんですか?」

 

「だってぇ...魔王討伐の旅の終盤で逃げ出したのよ!?残された近接職2人からのヘイトなんて想像もつかないじゃない!」

 

「大丈夫ですって!えび先輩割と嬉しそうにアンブローズさんのこと話してましたから!なんなら今から呼びますか?」

 

「いぃぃぃぃやああぁぁぁぁぁ!!!確かに会いたい気持ちも無くはないけど!それ以上に後ろめたさが勝ってるのおお!!今あったら反射的に全力魔法を叩き込みかねないからやめて!」

 

 反射的に攻撃が出るタイプの人らしい。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「...落ち着きましたか?」

 

「...えぇ。何度もみっともないところを見せてしまって申し訳ないわね...それで術式の解析でしたっけ。どこまで進んだか見せてくださる?」

 

 アンブローズさんがひとしきり泣き叫んだあと、未だしゃくり泣く彼女をいいお茶菓子とコーヒーでなだめ、今に至る。

 

「なるほどねえ..まああれだけを読んでここまで解析できてるならすごい方ではあるわね。」

 

 コーヒーを飲みながらぼくが解き明かした箇所とその考察を書き記したものを眺めている。

 

「そうねぇ...ただ答えを教えられるのはつまらないでしょうし...」

 

 彼女はそう呟くと、どこからか2冊の魔導書を取り出した。

 

「こっちがその教科書の続きの上級編。でこっちが私が執筆したエンチャントに関する論文みたいなものよ。これをあげるから自力で解き明かしてみなさい」

 

 宙を漂いながらこちらへ渡された本を受け取る。上級編と言われた本は、初級編のものとだいたい同じくらいの厚さだった。

 問題はもう一方。ぼくでは読めない言語、ニュータブル語で書かれたそれは、日本でみた広辞苑を2つ重ねたくらいの厚さがある。

 もはや本の域にとどまっていない。

 

 ぎこちない笑顔で礼を言う。アンブローズさんはにこにこしながらどういたしましてと告げた。

 とりあえずえび先輩が帰ってきたら翻訳を手伝ってもらおう。

 

「ゆっくりと歩を進めちゃ、追いつけないわよ?」

 

 含みのある笑顔で語りかける彼女は、どこか懐かしそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「..元の世界のえび先輩について聞いてもいいですか?」

 

 勇気を出してそれを口にする。以前えび先輩に聞いた時は結局はぐらかされてしまった。おそらくこの先も正確な話を聞けることは無いだろうという確信がある。

 だが目の前の彼女なら、もしかしたら教えてくれるのでは無いだろうか。

 そう期待し彼女の顔を覗くと、すごく困惑した顔をしていた。

 

「えび....えび?」

 

「あぁ!えっと...エビオ..じゃなくてエクス・アルビオです」

 

「エクス..アルビオ...エビオ....ブフッ、た、確かにエビオね!いいあだ名じゃない、アハハッ」

 

 どうやらツボに入ってしまったらしい。元いた世界ではエビオとは呼ばれていなかったようだ。

 意を決して聞いてみたが、暫くは答えれそうに無さそうだ。

 彼女が落ち着くまで上級編のさわりを眺めてみる。

 ...とても難解だ。

 

 

 

「あー、笑った笑った。でなんでしたっけ?エビオの話ね?」

 

 もうエビオ呼びに変わったらしい。

 

「と言っても、最後は知らないわよ?私の方が先だったし。それでもいいなら教えるわ」

 

「お願いします」

 

 ちょこちょこ思い出し笑いをはさみつつではあるが、アンブローズさんが語りだした。

 

「そうねぇ..初めて会ったのは、伝承に則って魔王討伐パーティを結成した時の顔合わせかしらねえ?エビオ以外の二人とは会ったことがあったから、初めましてはエビオだけだったかなぁ。元々冒険者にソロのヤバいやつが居るっては聞いてたから、どんなイカれたやつなのかは気になってたわ。

 

 でもね、顔合わせに現れたのは、当時18だった私よりも5つも年下の子供だったわ。そんな子供の癖にどこか達観した目をしたあいつを、私たちは心配したの。魔王討伐の旅は苦しいものになるから。そしたらあいつなんて言ったと思う?」

 

「なんかろくでもないことを言ってそう...」

 

「まあそんなところね。当時から人類最強と言われていた勇者に、『腕相撲しましょう!強化魔法もかけていいですよ!全力でかかってきてください!』って。3人ともあっけにとられてて当の勇者も思わず了承したの。

 

 周りのテーブルを片付けて、机に保護魔法をかけての勝負。当然勇者は自身に強化魔法をかけて構えた。対してエビオは噂通り、自身に魔法をかけずに勇者の手を掴んで構えたの。

 僧侶の掛け声で腕相撲がスタートして...」

 

「スタートして...?」

 

「私と僧侶、あと周りに避けていた机が吹き飛ばされたわ」

 

「えぇ...」

 

「当時の私達も同じ反応をしたわよ。何がどうなったら腕相撲で衝撃波が発生するのか...辺りを吹き飛ばした当の本人たちは、机で組み合ったまま、熱烈な勝負を繰り広げていたわ。

 

『あーヤバイヤバイヤバイ!!?一瞬力抜こ?せーので!せーので行こう!行きますよ?せーの!...抜けよぉ!!』

 

『抜けるわけねえだろバカ!このガキ!!あーミシっていった!今ミシって!!いや俺の骨じゃないよ!?こないだ王様から貰った国宝らしい装備からなっちゃいけない音してる!!じゃあなんでこの机は無事なんだよ!!アンブローズのやつ頭おかしいんじゃないのか!?』

 

『ええほんとだ!!床とかもうボロボロなのに机だけ新品じゃん!もうあの人で良くない!?あの人に武器と装備作ってもらって全員で行けば人数差で押し切れるって!あと力抜けよぉ!!子供相手に恥ずかしくないんですか!?勇者ですよね!?』

 

『お前みたいな子供がいてたまるか!?魔力なしでなんでここまで強いんだよお前!?面白いな!!仲間になれよ!!!』

 

『はい喜んで!!!あああぁぁぁ!?とうとう机が!?』

 

 で最後は盛大に土煙を上げながら全てを破壊して床を貫いてたわ。勝負は引き分けね」

 

「えぇ....」

 

「それから...あぁ、ごめんなさい。ちょっと魔王から呼ばれちゃったわ」

 

「まじですか...結局えび先輩がなんなのか分からなくなってきた」

 

「それに関しては私もわからないわよ」

 

 そう言い残しアンブローズさんは去っていった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「...てことがあって」

 

 えび先輩も過去エピソードを聞いたことを隠し、えび先輩に話した。

 

「やっぱアンブロいたんですね。聞いた限りだと闇落ちしてなそうで良かったです」

 

 魔王軍の幹部になっているのは十分闇堕ちでは無いだろうか。

 

「でそれが渡された魔導書ですね」

 

 えび先輩が指さしたのは上級編ではなく、広辞苑×2の方。

 

「じゃ!俺は用事があるんで!!」

 

「『グラビティ』!!」

 

「ぐあぁ!?」

 

 地に伏すえび先輩の肩をつかみ顔を寄せる。

 

「翻訳 、手伝って?」

 

「いやだあああああああああああああ!!」

 

 暫く寝れなそうだ。




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