この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
「.....だ、大丈夫か?エビオ」
俺がギルドの机に突っ伏していると、頭の上からカズマの声が聞こえた。
「ああいえ、ここ3日ほど寝ずに活字を見続けたので...」
「本当に何をしてたんだ?」
アンブロが来てから3日、俺と師匠はあの魔導書の翻訳に励んでいた。
何回ページをめくっても、上から下までびっしりと詰まった文字が出てくる。その上ところどころ文字が潰れており読めない。さらに魔法用語がバンバン出てくるためその度に教科書からその説明文を探さなければいけない。
初めはノリノリで取りくんでいた師匠も、2日目からは一言も喋らなくなった。3日目になってようやく発した言葉が、「1日休憩!寝ます!!」だった。
そんなことをカズマに話すと、こんな提案をされた。
「いい店を知ってるんだ。着いてこいよ」
◆◆◆◆◆◆
アクセルの街のとある区画、とある通りの、その路地の奥。
看板を見る限りその場所は飲食店のようだが、それにしてはこの店に入るものの纏うオーラは違う。
あるものは最終決戦へ挑む気迫を見せ、あるものは遠い故郷に帰省したような安心感を見せる。
つまるところここは...
「サキュバスのお店ですね」
「なんだ知ってたのかよエビオ」
カズマに連れられてきたいい店とは、以前魔族の気配を感じ討伐しようとし、通りすがりのダストに止められたあのサキュバスの店だった。
「俺はこの世界のことをクソったれだと思っているが、この店は例外だな。どんなことをしてもNOT GUILTY。だって..夢...だからなぁ!」
ひとりでテンションが上がっているカズマ。早速扉を開こうとしていたので引き止める
「おいおいなんだよエビオ。お前はダストと違って金はあるだろう。お前には色々感謝しているが、それはそれ、これはこれだ。」
なんだかとても失礼な勘違いをされているようだ。
「いいですかカズマ。いくら相手が魔物でもやっていい事と悪いことがありますよ。人間の法ではNOT GUILTYでも、倫理的にGUILTYなことはあるんですから」
「俺が何すると思ってんだよ!?夢を見せてもらうだけだって!サキュバスのお姉さんもそう言ってただろ!?」
なんだか話が噛み合わない気がする。
「夢を見せてもらうって言うのは...?」
「え?いやだからサキュバスの能力で好きな夢を見せて貰えるだろ?それで現実ではありえないようなことも色々..」
少し顔を赤くして説明をしてくれるカズマ。
どうやらこの世界のサキュバスは、思いどうりに夢を作れるらしい。
俺の世界にいたサキュバスは寝込みを襲ってくるだけだったので勘違いしていたようだ。
「すみません、色々勘違いしてました。行きましょう」
困惑したままのカズマを連れて扉を開ける。
扉を開くと、甘ったるい香りが鼻に突き刺さってきた。
中は普通の喫茶店のような造りになっているが、全体的に色合いがピンクだった。
来客を知らせる鈴の音がなり、すぐに奥から1人、サキュバスが歩いてきた
「いらっしゃいま..ヒィ!?」
あぶない、反射的に殺気を飛ばしてしまった。これに関しては前世からの条件反射なのでしょうがない気がする。
「お、お客さん、驚かせないでください!残機が1つ飛ばされるかと思いましたよ!?」
「あぁ、すいません。つい癖で」
「癖で殺気飛ばすの怖すぎだろ。俺も背筋がヒュってなったぞ」
「コホン、改めまして、いらっしゃいませお客様。そちらは常連さんですね。奥へどうぞ。そしてお客様は初めてですよね?うちがなんの店かは聞いていますか?」
やたらとくねくねしながら話すサキュバス。
「カズマから聞いてるので大丈夫です」
「かしこまりました!ではカズマ様の隣の席へお進みください」
そこらじゅうを半裸のサキュバスが闊歩する店内を奥に進むと、スカした表情を浮かべながらシートに記入していくカズマがいた。
「カズマ、指定できるシチュエーションについて聞いてもいいですか?」
「おう。ビギナーのお前さんの質問に、サキュバスのお姉さんに常連さんとまで言われるこのカズマさんが答えようじゃないか」
「ありがとうございます。まず、故人は登場させれますか?」
「こじっ!?」
「可能ですよ。エビオ様がご存知の方ならどなたでも」
一瞬で素に戻った常連さんの代わりに、近くにいた白髪のサキュバスが答えてくれた。
「それは本人ですか?それとも俺のイメージの具現化ですか?」
「そうなりますね。本人の魂をおよびするのは我々の分野ではありません。私たちにできるのは、お客様の記憶の中の人物をこちらで解釈して見せることのみです」
やっぱりそうか。まああまり期待はしていなかったが。
「ご期待に添えずに申し訳ありません。今なら料金は発生していないのでキャンセルすることも可能ですが..」
「いえ、大丈夫です」
俺にとってそっちは本命では無い。別に試したいことがあったのだ。
シチュエーションの欄に記入して、サキュバスに渡す。
「....?ありがとうございます。では今夜お客様の枕元へおじゃまさせていただきます。泥酔された状態で眠ってしまいますと夢を見せることができないのでお気をつけください」
ペコりと一礼をし、店の奥へ戻っていくサキュバス。
隣からカズマが不思議そうな目でこちらを見てきたが、すぐに自分の記入用紙の続きを書き始めた。
ちらりとシチュエーションの欄を覗くと、すごく細かな字でびっしりとその内容を書いている。
俺は見なかったことにしてその店を後にし、どこか空いてる宿がないか探すことにした。
◆◆◆◆◆◆◆
「いやー、エビオがここに来るのは初めてじゃないか?最近姿を見ないから心配だったんだが、元気そうで何よりだよ」
暖色系の明かりに包まれた空間に、ダンディな声が響く。
お客さんは俺だけのようなので、カウンター越しに2人で雑談をしていた。
「まあ俺お酒苦手なので...今は割と面倒なことになってますけど、まあそのうち帰ってきますよ。モイラ様からなにか聞いてないですか?」
「へ?モイラ様から?特には聞いてないけど...」
「あー、じゃあまだアポ取れてないんですかね。じゃあベルさん、俺と師匠は元気だってみんなに伝えてもらってもいいですか?」
「ああそゆこと。任せな。そんなことよりなにか飲むかい?色々話すこともあるだろ?」
「あー、じゃあ弱いやつ貰ってもいいですか?こないだお酒で失敗したばっかなんですよ」
「あいよー」
そう言ってベルさんはシェイカーをシャカシャカしだした。
「そういえばなんですけど、ここから日本に帰ることってできないんですか?」
「ざんねんながらそれは無理だな。お客様1人につき、出入口は1つだ。入ってきたところから出るしかない。」
「まじかー。ワンチャン師匠だけでも送り返せないかと思ったのにな」
「ちゃんと責任をもって連れて帰ってくるんだな.....ん?お客さんか。誰だ?」
ベルさんがなにかに気づいて扉へ目を向けてすぐに、その向こう側から何かがすごい勢いでとびこんできた。
「うぎゃぁ!?」
扉をぶち破ってなお勢いがおさまらなかったそれは、ベルさんのバーの床に転がった。
「大丈夫かいお客さん?正規の方法で来ないからそうなるんだよ。ちょっとまちな」
ベルさんが目を瞑り、ドアと転がってきたものに手をかざすと、壊れた扉は元に戻り、飛びこんできた客の怪我はなくなっていた。
そう。ここは夢の世界の住人こと、にじさんじ所属ベルモンド・バンデラスのお店、『bar-デラス』。人々がここに来ることを願って眠りにつけば、誰でもこのバーに来ることができる。
その世界の主であるベルさんにとって、壊れた扉を直すことや、この世界で負った傷を治すことなど造作もないことらしい。
ベルさんは人類が誕生するよりも前から生きているらしく、俺がどう頑張っても勝てない相手の1人である。
「いたた...ここはどこ...ってお客様!!!」
起き上がった彼女、サキュバスのお店で俺に説明してくれた白髪のサキュバスは俺を見つけて大声をあげていた。
「お客様に夢を見せようとしたらすごい力で引っ張られたんですけど!?一体何がどうなってるんですか!?ここはどこなんですか!?」
彼女は少しパニックになっているらしい。
「まあまあお客さん落ち着いて。てかエビオの知り合いか?」
不思議そうにしているベルさんに、彼女についてと今日行ったお店に着いて説明する。
「なるほど。エビオの夢をいじろうとしたけど、エビオは既にここの夢に来ていたから、力まけして引っ張られたのか」
次にパニックになっているサキュバスにこの場所の説明をする
「えぇ...こんな場所があるなんて、サキュバスクイーン様からも聞いてないんですけど...ていうかなんでそんなことしちゃったんですか!!」
「どうなるか気になったので」
「私で実験しないでください!!」
プリプリと怒るサキュバスの前に、ベルさんがグラスを置いた。
「まあまあ、せっかくうちに来たんですから、くつろいでいってください。エビオから説明されてましたがあらめて。夢の世界のバーのマスター、ベルモンド・バンデラスと申します。以後お見知り置きを」
バスの効いた良い声で自己紹介をしながら、流れるような所作でお酒を作るその様は、男の俺が見てもかっこよく感じるものだった。
グラスに注がれた淡い色のお酒からはどういう理屈かオーロラが立ち上っている。少なくとも地球のお酒では無さそうだ。
「え、あぁ...じゃあちょっとだけ..」
顔を赤くしながら席に着くサキュバス。おちたな。
「...ッハ!?だめだめだめ、私にはバニル様がっ!?」
「へぇ。お嬢さんにはいい人がいるんですか。どのようなお方なんで?」
「バニル様は..かっこよくて....///」
身をくねらせながらバニル様とやらについて語り始めた。
「...残機が無数にあって...目からビームがだせて...///」
「チャイカみたいなもんか...?」
それはチャイカさんに失礼じゃないかと思ったが...あの人ならできそうだ。
「それじゃあベルさん、さっき頼んだことお願いしていいですか?」
「ん?おう。なんだもう帰るのか?」
「まあ元々聞きたかったことも聞けたので。あっちに帰ったらゆっくり話しましょう」
「あいよ。あんまり遅くなるなよ?」
「任せてください。英雄ですよ?」
そう言い残して、俺はバーの扉を開けた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
外から明るい光が部屋に差し込み、意識が覚醒する。
「あー...今日も一日頑張りますか... 」
『デストロイヤー警報!!デストロイヤー警報!!冒険者は至急ギルドへ集まってください!!!』
「....へ?」