この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
今日も今日とてチクチクする藁の中から目が覚める。そろそろ宿暮らしにシフトチェンジするべきだろうか。師匠は既に宿暮らしをしているし。毎日クエストに行く以外することがないのでそこそこお金は溜まっている。毎日ギルドで待ち合わせるのも面倒だし、家を買うのもいいかもしれない。その時は師匠にも半分出してもらおう。
そんなことを考えながら、なんとなくギルドに向かった。1人で。師匠は今日他のパーティーから助っ人を頼まれているらしい。俺は呼ばれませんでしたけど。特にすることがないのでギルドにきた。いつものようにクエストにでも行こうか...おや?
「クリスさんじゃないですか!お久しぶりです!」
「あぁ!エクス君!ちょうどいいところにいたね!」
クエストボードの前にクリスがいた。
ちょうどいいところ..なにか困っていたのだろうか。
どうせ暇だしとりあえず承諾しておこう。
「俺に任せてください。」
「まだ何も言ってないよ..」
頼まれはするらしい
「実はね、友達とダンジョンに行こうと思ってたんだけど急用ができたって断られちゃってさ、一緒に来てくれない?」
ダンジョン...そんなものもあるのか。ダンジョンということはお宝がいっぱいあるに違いない。いや、なくてはならない。
「ぜひ行かせてください!」
「おぉ..なんだかすごい邪な気を感じたよ..じゃあ早速行っちゃおうか!」
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クリスに連れられダンジョンへと向かう。必要最低限の装備はクリスが用意してくれているようだ。
「そういえばクリスさんってこっちにいる時は何してるんですか?」
前から気になっていたことをなんとなく聞いてみた。
「こっち?うーん..普通にクエストしてたり、教会とか孤児院に顔出したりしてるよ!」
「エリス教の教会..今度師匠と行ってみようかな..」
「あれ?私がエリス教徒って話したっけ?」
「え?そこ以外ありえなくないすか?」
「え?」
「え?」
なぜだかいまいち会話が噛み合わない。原因に心当たりはないし、話す内容を変えてみようか。
「エリス様は普段天界でなんの仕事をしてるんですか?」
「ええっと、エリス様は普段この世界でモンスターによって命を落とした魂の導きとかをやってるね」
「へぇ〜、この世界で死んだらエリス様に導かれるのか、やっぱ忙しいんですか?」
「そうですねー..冬以外は命を落としてしまう方が一定数いらっしゃいますね...」
心から悲しそうに...若干女神モードになりながらつぶやくクリス。
「ん!?....い、いや、なんでもない...」
「大丈夫ですか?少し休みますか?」
「いや、大丈夫こっちの話だから...」
あからさまに焦点が合わなくなっているが大丈夫だろうか。
「ていうか、女神様ってこの世界に降りてきて大丈夫なんですか?上から怒られたりしないんですか?」
「ちょっと待って!?」
クリスさんは顔を真っ青にし立ち止まる。見れば手足は震えてるし、汗をかいている。やはり疲れているのだろうか。
「さ、さっきからなんか勘違いしてない?私はクリスだよ!?」
「はい、この世界ではそうなんですよね?」
おかしい、話せば話すほど顔色が悪くなる。もしや病気なのではないだろうか。
「えぇっと...気づいてる感じなのかな?」
蚊の鳴くような声で聞いてくるが、なんのことだろうか。
「え?エリス様が病気かもしれないことですか?」
「えぇ!?私今病気なの!?」
全く意味が分からない...2人して頭を抱えてしまい、全てが合致するまでかなりの時間を要した
「き、気づいてたなら早めに言ってほしかったかな..アルスさんも知ってる感じ?」
恐る恐るといった様子で聞いてくるが、師匠は気づいているのだろうか...おそらく気づいてないはずだ。師匠アホだし。
「大丈夫じゃないすか?少なくともそんな話にはなりませんでしたよ?」
「よかったぁ〜、ぜえっっっったい秘密にしてね!」
エリス様直々に頼まれては断ることは出来ない。天罰くらいそうだし。
そんなこんなでダンジョンについた。ここは最近見つかったダンジョンだが、既にほかのパーティーが入ったあとらしい。
「だから、取りこぼしとか隠し部屋を見つけるのが今回の目的だね!」
ダンジョンに入り、階段を下る。中は暗く明かりはない。ただ元の世界での経験から夜目はきくため、あまり問題はない
「暗視スキル取ってないのに見えるってズルくない?」
少し膨れた様子のクリスがこちらを見てくるが、完全に見えるわけでは無いためスキルがあった方が確実なのは確かだろう。
「広い部屋に出ましたね。周囲にモンスターの気配はありませんね」
「なんで敵感知もどきまでできるのさ!これじゃあ私がいる意味ないじゃん!」
「えぇ...できるのは今までの経験ですね。色んなところで闇討ちされるので勝手に身につきました。」
「...」
俺の元いた異世界での話を聞いてクリスは黙ってしまった。別にそんなことばかりではなかったが、元の異世界では割と日常的に命を狙われたりしていた。まあ全部返り討ちにしましたけどね
さらに奥に進んでいくと、アンデッド系のモンスターがちょこちょこ出てくるようになった。出てくるようになったのだが、恐ろしい速さでアンデッドを駆除していくクリスがいるため戦いに参加することは出来なかった。
「っと、ここが最奥だね。色々探しながら来たけど特に何も無かったね。」
壁をペタペタ触りながらくまなく調べるクリス
着いたのは学校の教室くらいのそこそこ大きな部屋。既に宝箱は開けられていて、ボスモンスターもいない。
「うーん、道中も隠し部屋とかなかったし、ここも何も無いっぽいし帰ろうか。せっかくここまで来たのになぁー」
がっくりと肩を下ろしながら帰り支度を始めるクリス。確かに道中もくまなく調べていて何も見つからなかった。一見この部屋も何も無いように見える。ただ一箇所だけ気になるのは..
「こっちに何かある気するんですよね。」
壁の一箇所に違和感を感じていたのだ。色も模様もほかの壁と一緒だが、ほんの少しだけ模様の高さがズレている
「....うわほんとだ。1ミリくらいズレてるね。なんでそんなに離れてて気がつくのさ」
「経験ですかね、あとは勘です。」
俺はおもむろに剣を抜き...壁を思いっきり蹴りつけた。
壁は音を立てて崩れ、隠し部屋が現れた。
「...」
クリスが何か言いたげにこちらを見てくるが、無視して中へ進む。
部屋は小さく、壁面は全て本で埋まっており、部屋の中心には椅子に座ったまま白骨化した魔法使いらしき死体があった。
「...うん。成仏してるね。」
「ここは...本棚ですかね。」
「特に罠感知に反応もないね。なんの本なんだろ..読めない..」
「特別変なことは書いていないですね。小説だったり、魔法の本とかがあります」
「え?この文字読めるの?」
その表紙にはこの世界の言葉でない...俺がいた異世界の文字が書かれていた。別におかしな話では無いだろう。俺だってあの世界から日本へ、そしてこの世界へ来た。過去にあの世界から渡ってきた者もいたのだろう。
本には《保存》のエンチャントが施されているため、新品同様のまま残っていた。
「とりあえず何冊か持って帰っていいですかね。あと多分床がどこか開くので探して貰ってもいいですか」
クリスが床を調べると、隅の方の床がガコンと音を立てて凹み、反対側の床が開く。本来はこの部屋もあんな感じで開いたはずだ
「....うわ、ほんとに開いた。お宝がそこそこあるね。...なんでわかったの?」
「流行ってたんですよ。自分の宝を床に隠すの。向こうで」
元の世界では、不意に家ごと吹き飛ばされたりするため、大切な物は床にしまっておくのが一般的だった。
お宝を回収し、ダンジョンを後にする。
俺の世界に興味が湧いたのか、色々質問してくるクリスに昔の思い出を語りながら無事アクセルに帰ってきた。お宝は山分けし、今度からもたまにでいいので手伝って欲しいこと、クリスの正体は内緒にすることを改めて頼まれ、そのまま別れた。
その夜俺の世界の魔法に興味を持った師匠に魔法の本を1冊音読させられるのだった。