この素晴らしいエビマルに祝福を! 作:エビマルをすこれ
少し前を師匠とダクネスさんが談笑しながら進んで行く。それを後ろからクリスと見守る。
2人と一緒にクエストへ向かうことになり、それぞれのスキル構成や得意なことを共有し人通りの流れを確認した際に、意外にもダクネスが話のまとめ役となり、話し合いはスムーズに行われた。あの変態性に目をつむれば案外常識人なのかもしれない。
「そういえばクリスさんって、ダクネスさんと結構長い付き合いなんですか?」
前を進む2人に届かないくらいの声量で、隣のクリスに話しかける
「そうだけど...どうしたの?」
「いや1つ聞きたいことがあってですね....ダクネスさんって貴族の方ですか?」
「うわぁ....ちなみになんでそう思ったの?」
クリスの反応を見るに、俺の予想はだいたい合っているのだろう。
「理由は何個かあるんですけど..普通自分のことただのダクネスって言わなくないですか?」
「なるほど...ほかには?」
「あとは...俺の容姿を見てから改めて名前を確認したこととか」
「それは...どうゆうこと?」
「具体的には顔を...ですかね。金髪碧眼。この世界の貴族の特徴だったりしません?」
「なんでそこまでわかんのさ。益々わかんなくなってきたよ」
「いやまああるあるネタなんで。どの世界の人間もゴールドは大好きなんですよ。なんでそれが体の一部になってる人は人気を得やすいっていうか成り上がりやすいっていうか..」
人が世界に誕生し、文明を発展させていくにつれ、身分というものが出来上がっていく。その際異世界では魔法により3段飛ばしで文明が加速していくため、わかりやすいシンボルを持つ金髪のものが高い身分を得やすい傾向にある。
「あとは細かい所作とか話し方が冒険者っぽくないなーと」
「まいったなー、君の前では隠し事できないねこりゃ。まだ
なんかすごいルビふられてなかった?今の一瞬クリスがめちゃくちゃ怖かったんですけど。
「ああ、あとモイラ様に俺とアルスさんがこっちの世界に来てるって伝えて置いて貰っていいですか?」
「...君の言い方的に運命を司る女神様と知り合いなの?本当に人間なんだよね?私ですらあの人のアポ取るの難しいよ? 」
「二人共なんの話をしているんだ?そろそろ目的地に着くぞ」
話に集中しているうちに一撃熊が目撃される畑が見える位置まで来ていた。聞きたいことも話したいことも伝えれたのでよしとしよう。
******
「そろそろ一撃熊があの畑に下りてくる時間帯ですね」
目的地に到着し、近くの草むらに隠れる。本来なら野生動物相手にこの程度の隠密は効果をなさないのだが、盗賊であるクリスのスキル『潜伏』により、格上か、アンデット系モンスター
以外には気づかれることがなくなっている。
辺りを見回しながらじっと待っていると、前方からモンスターの気配がしてきた。
「みんな、敵感知スキルに反応があったよ。」
気配を感じると同時にクリスが敵を感知する。クリスのスキルと俺の自前の敵感知の範囲はほぼ同じくらいなのだろう。
これまでの経験を経て得ることのできた
今回の作戦としては、不意打ちでクリスが拘束し、そこを師匠が魔法で滅多打ちにすると言うもの。拘束が解けたら俺とダクネスさんで抑えながら再び拘束のチャンスを狙っていくことになっている。
火力が師匠の魔法だけとなっているが、困ったら雑に殴り飛ばせばいいので魔法の練習のつもりでいいと師匠には伝えてある。
一撃熊が視認できる距離まで近づいて来た。のっしのっしと歩くその姿は全長約5メートル程で、前腕が異様に大きくなっており、甲殻に覆われている。確かにあれに殴られては、大抵の生き物がワンパンされることだろう。
ふと潜伏スキルのために皆で合わせている手がぷるぷる震えていることに気づいた。目を向けて見ると震源はダクネスのようだ。武者震いか?ダクネスをよく知るクリスの方を見てみれば、青い顔をしていた。
猛烈に嫌な予感がする。
「も、もう辛抱たまらん!行ってくりゅ!!」
頬を赤く染めながら林から飛び出して行くダクネスをただ見送ることしか出来なかったのは仕方の無いことだろう。
「うおおおおおおお!」
雄叫びを上げながら剣を振り上げ、一撃熊に向け振り下ろすダクネス。一撃熊も不意を突かれたのか無防備な状態でそれを迎えた。
一閃
力強い太刀筋は見事に障壁を砕き切りながら地面へと振り下ろされた。
断ち切られたのが一撃熊の横の木でなかったら完璧だったのだが。
「グオオオオオオオ!!!」
一撃熊がダクネスへ向け威嚇をする。
それを両手を広げて受け入れるダクネス。
クリスが呆れながら縄を構えるが、既に一撃熊はその巨腕を振りかぶっていた。
とりあえず師匠に目配せしてダクネスの前へ駆ける。
金属のひしゃげる音が周囲に響き渡る。巨腕がダクネスに振り下ろされるギリギリで間に割り込むことに成功した。
一撃熊の渾身の一撃を受けた右腕にはヒビが入ってしまい、爪によって皮膚が裂かれ血だらけになったので、左腕で一撃熊の鼻頭に一撃を叩き込み動きを止める
「んな!?」
驚愕した表情を浮かべるダクネスを蹴り飛ばし、緊急回避する
『トールライトニング!!』
先程までいた場所に無数の雷が降り注いだ。少々オーバーキルな気がしないでもない。それに眩しいし音がうるさい。
雷が止むと、そこには焼けこげた一撃熊の死体があった
「一応クエスト自体は達成ですね。作戦は意味ありませんでしたけど」
それに師匠はこの世界の魔法を練習中のため、師匠の世界の魔法で倒してしまうのはあまりよろしくない。
ダクネスの元まで駆け寄ると、幸せそうな顔をしながらお腹を押さえて気絶していた。
「本っっっっっっっ当にごめんなさい!!!」
クリスが腰を直角に曲げて謝り出した。別にクリスさんは悪くないと思う。
「まあ全員無事でクエストクリア出来ましたし結果オーライですよ」
「その腕は絶対無事じゃないよね!?」
今だ血の滴る腕を見て勘違いしているのか泣き出しそうな顔でわなわなするクリス。
「あー、師匠水ください」
「あいよー」
師匠に血を流してもらい、鎧をはずすと、切り裂かれていたはずの傷口はなくなっている
「...え?なんで?ポーション飲んでたっけ...」
「いや自然治癒ですけど」
「本当に何者なの!?」
英雄なんだからこれくらいすぐに治って当然だと思うのだが。
「まあえび先輩だし....」
「....んぅ、私はいったい....」
クリスがドン引きしているタイミングでダクネスが目を覚ました。割と強めに蹴ったのにこんなにも早く目を覚ますの?頑丈すぎません?
「とりあえずバカネスは帰ったら説教だからね」
「おいちょっと待ってくれクリス!一体何がどうなってるんだ!?一撃熊はどうなった!草むらに潜んでいた辺りから記憶がないんだが!?」
なんとダクネスは蹴られた衝撃で記憶を飛ばしていた。割と好都合ではあるかもしれない。
「ダクネスさんは一撃熊に突っ込んでってそのまま殴り飛ばされました。記憶が無いのは当たりどころが悪かったんじゃないですか?」
「確かに未だにお腹にひびき続けるこの重い痛みっ....だがなぜ鎧が裂かれ素肌が顕になっていない?」
色々腑に落ちないところがあるようだが、押し通すことにしよう。
ギルドに報告した際、2人が報酬の受け取りを拒否したのでありがたく師匠と山分けした。
*****
その日の夜。いつも通り藁の寝床で眠っていると、不思議な空間で目を覚ました。
床は白と黒のタイルで構成されており、見渡す限り壁がない空間。転生する際に訪れた場所である。
唐突に後ろに存在感を感じ振り返ると、そこには女神エリスがいた。
「突然のお呼び出し申し訳ありません...あとダクネスにはきつく言っておいたのでその謝罪も一緒に...」
ほんの少しだけ気まずそうに頬をポリポリ掻くエリス様がそこにはいた。
「立ち話もなんですし...」
エリス様が指をパチンとならすと、何も無かったはずの空間に椅子と机、そしていくつかのお菓子が現れた。
「どうぞお座り下さい」
促されるまま椅子に座りエリス様と向き合う
「...これ食べていいですか」
「遠慮せずにどうぞ」
小綺麗な包み紙を開けクッキーを口へ放り込む。甘くて美味しい。どうやら夢ではないようだ。こっそりポッケに入れながらエリス様の顔を見ると真剣な表情になっていた
「あなたをここへお呼び出ししたのはほかでもありません。改めて魔王討伐の依頼をしたいのです」
それはこの世界に来る際に請け負ったと思うのだが....?
困惑した表情を浮かべているのを見てエリス様が続ける。
「この世界では長い間。本当に長い間人間と魔族が争っています。何度も劣勢になる人類に救いの手を差し伸べているのは神々の慈悲深さだけではないのです。」
静かにそして真剣な表情で話し始めた。長くなりそうな気配を感じたのでお菓子の包みを何個か手元にとっておく。
「あの世界は神々と悪魔にとって重要な位置にあります。お互いにあの世界を取られるとまずい、けれども直接的な介入は禁止されているため、悪魔側は魔族に、神々は人類に間接的な介入を施しているのです」
それが転生者にもたらされる特典なのだろう。長い間転生者に神器や能力を与えてきたが状況が好転しないため、たまたま転生することになった異世界の英雄にこうしてお願いをしに来ている訳だ。
「...ということなのですが、受けていただけませんか。当然元の世界に戻れることとは別になんでも1つ願いを叶えて差し上げます....どうでしょうか?」
心配そうにこちらを見てくるエリス様。その表情からは彼女にとってあの世界が天界の命運とかとは関係なく大切であることが伝わってきた。だが....
「心苦しいのですが、積極的に魔王討伐に乗り出すのは難しいです」
「そう.....ですか...理由を聞いても?」
「あの世界においても師匠は充分強いですが、まだ魔王軍幹部に勝てるほどではありません。師匠の実力が充分育つまでまだ時間がかかるでしょう。俺が無理矢理この世界に連れて来てしまった手前、無茶な真似はできません。」
グリフォンや一撃熊程度なら師匠を守りながらでも簡単に相手できるが、魔王軍幹部や、魔王相手にそれができるかと言われると、無理だと言わざるを得ない。
明らかにしゅんとするエリス様を見て俺は続ける
「それが1つ目の理由、2つ目の理由は、あの世界にはもう勇者がいるからです」
「勇者...ですか?」
「そうですね。エリス様は英雄と勇者の違いってなんだと思いますか」
エリス様は少しだけ考えて
「英雄は、圧倒的な武力によって功績を立てたものへ与えられる称号です。勇者は、その身に宿す勇気と、知略と、ほんの少しの勇気で魔王を打ち倒すもの...でしょうか」
「さすが女神様ですね。そしてそのものたちは総じて運命に愛されています」
「そんな人が...もうあの世界に?」
「はい。エリス様もそのうち分かると思いますよ」
「それは..英雄の勘ってやつですか?」
「もちろん」
俺の返事を聞いてエリス様は笑っていた
「じゃあ本当かもしれませんね。分かりました。あなたを信じて勇者を待ってみます」
「それでもダメだったら、師匠を隠して俺が1週間で魔王ヴォゴヴォゴにしてくるんで。任せてください」
「ふふっ、わかりました。今日は突然お呼び立てしてすみませんでした。最後に一つだけ」
エリス様は机と椅子を片付け、俺の足元に魔法陣を浮かべながら、クリスのようなイタズラっぽい笑顔を浮かべてこちらへ振り返った。
「あの世界は楽しいですか?異世界の英雄であるあなたにとって満足できる世界ですか?」
2つじゃん。という無粋なツッコミを飲み込み口を開く。
「当然ですよ。僕はそう思いますけど」
周囲が眩い光に包まれた
*****
チクチクする藁の中で目を覚ます。ポケットを探ってみるがクッキーは入っていなかった。