転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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というわけで、個人的にかなり難航した部分。
どっかで聞いたことのある話とかセリフがそれなりにオンパレードです。
フラグぶっ壊しの最終段階、開始ぃ!(磯野感)


10.破天荒は壊しながら導く

 

唐突に告げられたその言葉によって、鋭利な刃物で刺されたような感覚に陥ってしまう。

この感覚を味わうのは二度目だ。

……最初は、言うまでもなく先ほどの口喧嘩の時です。

言われたくないことを再度聞いてしまったが、今回は急激な怒りや反抗心が湧く気配がありませんね。

マドラーシュ王子殿下の表情が、先ほどまでとまるで違うものだからでしょうか。

そこに憤怒や嘲笑などはまるでない。

王族らしからぬ軽い雰囲気はさっぱりと消え、その風格は同一人物とは思えないほどだ。

アルガルド様が普段纏っている次期国王としての空気よりも重いとすら言える。

深淵すら窺えそうな空気に、思わず気圧されそうになってしまう。

それと同時に、その奥底には原初の闇に通ずるものも感じた。

──きっとこの流れには、何か意味があるはずだと本能で察していた。

 

「生きてるという自覚に誇り……それはマゼンタ公爵令嬢として、次期王妃として生きていることに対して、という意味ですか?」

「想定通りの答えだが、残念ながら違うな。むしろその手の余計なものを全部取っ払った上でのことさ」

 

朧げに思い浮かんだ回答でしたが、マドラーシュ様は予想していたとばかりに切り捨ててしまう。

しかし、私自身のことというのは一体……?

私は公爵令嬢、アルガルド様の婚約者で次期王妃で……。

余計なものというのは、これらのこと?

いえ、そんなことは……。

 

「兄上の隣に立つ次期王妃として相応しくあるべく、ただただ己を律する……心がけとしては悪くないかもしれねえな。だが、それも行き過ぎると自身と役割を同化する羽目になっちまうぜ?」

「己が身を粉にしてでも役割を果たすのは、国を治める者として当然のことでは?」

「時と場合を考え、度が過ぎないようにしろってことだ。役割に殉じる為にずっと自我を殺してたら、そんなのただの駒になっちまうぞ」

 

ただの駒……国にとってはその方が都合がいいのではないでしょうか。

彼は頑として否定しているが、その理由がどうにも読めない。

しかし、何故か彼の否定には説得力というか……理が感じられるのだ。

私がこれまでに耳にすることも目にすることも無かった『理』は、今の私が感じてはいけないはずの好奇心を掻き立てていた。

無論、その裏では未知への恐怖もあるが今は何とか堰き止めることは出来ている。

 

「特にユフィリア嬢の場合、周りの押し付けとか期待に応えているのがほぼ大半だろ?兄上の隣に立って何も申し分が無い能力を得ようと、愚直に努力した先にある『完璧な次期王妃』という偶像……周囲はそれを完璧に纏うことを期待している。そしてアンタは、その期待に過不足なく応えた。なるほど、そりゃあ期待する側からすれば称賛ものだろうよ。だが、もうその時点で永久地獄入りが確定なんだよ。他人からの求めに対してひたすら応えてしまうってのは、始まりこそちゃんと考えないとあまりに危険なのさ。特に求められているものに『完璧』って言葉が付随されるってことなら猶更タチが悪い」

 

『完璧』という期待に応えることが永久地獄入り……?

私が国の為に在ろうとしたその結果を、マドラーシュ王子殿下はまるで呪いだと言わんばかりに断じています。

この時、自分の生き方が否定されたからか少しばかりの反抗心があったのかもしれません。

意識していたかは分かりませんが、表情が動いた気がしますので。

しかし、その先にあるマドラーシュ王子殿下の理を聞かないといけない。

ここで反抗心を下手に爆発させたら、それこそ先ほどの二の舞だ。

私は何とか抑え込み、引き続きマドラーシュ王子殿下の言葉に耳を傾ける。

 

「『完璧』っていうのは曖昧なものだ。相手の後出しやその時に応じての後付けでいくらでも変わるから、維持するのもただただ面倒なだけだ。『完璧な王妃』ってもはや何だってんだ、目につくあらゆることを片っ端から満点でこなす理想人間か?随分都合のいい人間を作り出そうとしてやがるもんだ。まあアンタからすれば才能の範囲で応えられるから応えたに過ぎないだろうが、連中がもういいなんて一度でも言ったか?完璧の追究を止めてくれたか?」

 

──鈍器で殴られるような衝撃を感じた。

今の自分を形成するものに、明確なヒビが入ったような気がした。

これ以上彼の言葉を聞いたら、取り返しがつかなくなるかもしれない。

もう戻れなくなるから、耳を塞いで逃げろと言う自分がいる。

だが、聞かなければならない。

『ここで逃げたらとんでもないものを逃すのでは』

そう思う自分が、そこにいた。

──私は導かれるように、耳を塞がないで進むことを選択した。

 

「そんなわけはねえよな?むしろ期待は更に膨れ上がる始末さ。それでもユフィリア嬢はまた応えてしまった。そうしたらもうお互い止まらないし止まれない。期待の膨張、需要にこたえるの繰り返し……もう最悪の無限地獄さ。どこかで切り崩さないといけないのに、積み上げたもののせいで止まれもしない。あの時の憂鬱そうな顔からして、表向きは上手く装えても、裏では結構しんどかったんじゃないか?」

「……あの時の私、見られていたんですね」

 

私を最初に見た、まさにあの時から推察されていたのですね……。

抜け目が無い、というべきなのでしょうか。

ここまでのマドラーシュ様の仰ったことにおかしなところは特にない。

感情を多少乗せているところはあるかもしれない。

しかし、根はちゃんとした理屈が敷かれている。

王族として生きる道が最初から与えられなかったからこそ、私のその姿が痛々しく見えたのでしょうか。

先ほどの口ぶりからは、その期待の上乗せを続ける周りに対して怒りを抱いている風にも見受けられました。

──もしかして、私の為に怒ってくれているのでしょうか。

そうでしたら……とても身に余る、光栄なことなのかもしれません。

ただ……そこを指摘されても私はまだ抜け出せそうにない。

 

「確かに、マドラーシュ王子殿下の仰る通りです。次期王妃の私への期待の声が止まることはありません。重荷に思うことも……まあ、たまにありました。ですが、その期待に応えることは私の使命で義務です。国の礎になるというのは、その先にあるのではないでしょうか」

 

その期待に応えなければ私たちの代で国が崩れてしまうかもしれない。

その礎になるためなら、心を殺すことに躊躇してはならない。

永久に続く地獄だろうと、心を殺してしまえば乗り切ることは不可能ではないはず……。

 

「国の礎、ねえ……折角の人生という大舞台、しかも自分は主演としてその場に立ってるんだぞ?それが国の駒しかやらねえってなんじゃそりゃって話じゃないか?主役が自ら背景に甘んじるとか、一体どういう了見だっての」

 

──人生という舞台?主演?

浮かんだことも無い比喩表現に、私はこの時どんな顔をしていたかが分からない。

マドラーシュ王子殿下の悪戯が成功したような顔をしていたので、それなりに変な顔になっていたということでしょうが……。

 

「『人生ってのは、死ぬまでの暇つぶし。だからこの瞬間を楽しむ』──俺の兄貴分の言葉だ。俺はそこから派生させて、人生は自身が主演の舞台と定義している。その主導権はどこまでも自分にあるってことさ。だからこそ他人から役割を与えられるだけ、更にそれに殉じるだけなんて論外の極みにしか思えない。外から与えられた役割で凝り固まるより、やり過ぎない程度に好き放題する……まさに楽しんだもの勝ちっていう方がよっぽどスカっとするもんだろ」

「死ぬまでの暇つぶし……それに人生は楽しんだもの勝ちなんて、あまりに身勝手が過ぎるのでは?」

 

例え平民でも、そんな思考をしていいのかと言われたら……。

ましてや私は貴族です。

公爵令嬢で、将来的にはこの王国の王妃なのに身勝手なことを考えるなんてとても──

 

「ふうん、身勝手ねえ……まあ、あんまり行き過ぎると水掛け論になりかねない。ちょっとした俺の経験談でも話すから軽く聞いてほしい」

「経験談……ですか?」

 

まさかの流れに少々面食らってしまった。

てっきり、このままの流れで議論するものかと思っていたもので……。

まあ、題材はそのままだからある意味延長線上なのが救いでしょうか。

 

「とある場所で暇つぶしに演劇を見ていたんだが、初出演なのか滅茶苦茶カチコチな演者がいたんだ。しかもお約束と言わんばかりに割と大事な場面で盛大にセリフを間違えちまって、当然その流れは台本から一旦外れてしまう。さて、この回はどうなったと思う?」

「えっと……台詞を台本通りに言い直してそのまま普通に進めた、またはそのまま進めたくらいしか……」

 

いきなり演劇の話を振られて、思わず無難な回答を返してしまった。

そもそも、間違えたならば言い直すしか無いと思うのですが……。

あの、マドラーシュ王子殿下……何でそんな『まあ、そう答えるよな』って顔をするのですか。

その表情、何となくモヤモヤというかチクチク来るので止めて頂けません?

 

「そしたら何と、その場で一緒にいた別の演者が見事にアドリブで繋いでしまった。しかも大まかな流れこそ変えてないが、少しばかり喜劇風味にするやり方だった。元々その時の悪役がやや間抜けそうな見た目だからこそ行けた僅かな改変だったが、俺はあの場ですぐに計算したんだろうよ。その結果思わぬ方向に味が出て、俺も同伴していた侍女も、他の客も想定外の不意打ちを貰ったもんだから、いい意味で笑いが起きてたな。終わった後の評価も当然のように上々。台詞間違いのはずが、『あそこから立て直したのも逆に凄いし、むしろありでは?』って声もあったぞ。俺はそのきっかけのセリフ間違いが気に入って、たまに使うくらいだ」

 

恐るべき柔軟性ですね……でも、演劇としていいのでしょうかそれは。

演劇とは台本や決められた演出あってのもので、余計な外的要因は避けられるべきものでは。

──もしかして、彼が言いたいことは。

 

「型に嵌らないことは、時に想定外の利を産み出す……というところでしょうか」

「まあ、そういうこった。本来なら型という秩序に従う演劇でもこういうことは起こり得る。それで一種の秩序が乱れても、生じた混沌を上手く制御して調和させてみせたんだ。『必ず型に嵌めないといけない』ってガチガチな秩序の上にある固定観念に囚われてたら、まず実現できないことだろうよ。人生でも同じことさ。秩序にのみ従い、型に嵌まってばかりだといずれ足元を掬われる。そうなっちまったら最後、見た目は生きてるが中身は死んでる人間みたいな何かに転落さ。『人生は刺激があるから面白い』とも言うからな。秩序で守られるだけの安寧だけで人は生きられない。むしろ自分を盛大に出した上での混沌をベースに生きた方が、よっぽど生を謳歌出来るんじゃねえか?」

 

……確かに、その演劇は面白おかしく終わったから良かったと思います。

秩序が乱れた結果変化が生じて、それで文化の発展繋がるなら、それは素晴らしいことでしょう。

でも、私の人生において、そんなことが起こり得るのでしょうか。

己という混沌を楽しむなんて身勝手が、果たして許されていいのでしょうか。

 

「中身が例え死んでいると同じだったとしても、外から見た私が生きている風を装ってでも……やはり守るべき秩序はあるのでは……?」

「何で自分にとっての地獄を生み出すばかりの秩序を守る必要があるんだ?周りの期待という名の願望にばかり応えてるだけで、アンタは本当に満足しているのか?俺の話を一切遮らなかったんだ、薄々は疑問を抱いてるんじゃないのか?ユフィリア・マゼンタという人間本来の姿ってのは、そういうところにあるんじゃねえか?それこそがアンタの人生における主演さ。全うしろよ、本来の自分ってやつをな」

 

この道を進むことに疑念を抱きつつあるのもまた事実だ。

ただ、私にそれが出来るのかが分からない。

そもそも、その未知の領域に足を踏み出そうという勇気が出てこない。

むしろ目を背けて逃げ出したい、それくらい怖いことです。

決められた道から逸れることで決定的な何かを失ってしまうのではないか。

そんな恐怖ばかりが襲い来る。

……完全に八方塞がりで、二進も三進も行かない状況だ。

その状況から来る混乱や焦りから、私はもうわけが分からなくなっていました。

 

「アルガルド様との婚約は、国王陛下とお父様の間で決められたもの。そこに私たちの意思はありませんでした。でもそれがこの国の貴族として生を受けた者の務めだからと……それを柱にして、これまで生きて来ました。仰る通り、これまで心を殺して皆の期待に応えるだけでそこに私の願望も何もありません。ですが、この根幹を自分から捨ててしまったら……私はユフィリア・マゼンタと名乗ることすら許されなくなり、人形どころか、何も持たない虚無な存在に成り果ててしまうのでは?」

 

ただひたすら求められ、ただひたすらに応えただけ。

確かにマドラーシュ王子殿下からすれば、その行為は駒になりきる愚かな行為に見えるのでしょう。

しかし、そうすることだけがこれまでの私を維持することに繋がってきたのだ。

その決められた道を愚直に進むのが私に出来る唯一の選択肢で、拠り所だったのだ。

 

「周囲の期待が重いと感じることもあります……あの時もそう。人がいないところを求めて……それで貴方と会った。ですが、重圧はきっちり受け止めなければならない。国の礎ならば、そのような弱音、そもそも喜怒哀楽は必要ないはずです。何せ国を動かす駒なのですから。ですがマドラーシュ王子殿下……貴方は刺激を求め、人生を楽しんでしまえと仰りました。私たちがそんな身勝手なことをしたら、このパレッティア王国はどうなるのですか!義務も、使命も捨てたら、王国は……いえ、そもそも私自身の生における、これまでの全てはどうなるのですか!?」

 

これまではただただ目を背けていた。

その責務をただ全うすることが己の存在価値だと愚直に信じていたから。

ですが、そんな自身の根幹が崩れ去ろうとしている。

『先に進め』と本能が叫び、『これまでの自分で踏み止まれ』と理性が諫めている。

どちらが正しいかなど、分かるわけがない。

だから……私は縋る様に叫んでいた。

 

「人形であることに疑問を持ってしまったからには、もう戻ることは出来ない!そのまま進めば、私は一度虚無に落ちることでしょう!私はそれが怖い……。ですが、現在に対して確かな疑問も持ってしまった。これまで通り愚直に歩むことなんて、まず出来ないでしょう。進むことも、戻ることも……待っているのは苦難のみです。こんな状況下で、私は一体どうすればいいのですか?どうすれば、こんな臆病な人形は人間になれるのですか!?お答えください、マドラーシュ王子殿下!」

 

ああ、これは見事にやってしまった。

先ほどと同じように思うがままに、その時の感情を吐き出してしまいました。

マドラーシュ王子殿下の顔を見るのが、怖い。

折角色々と忠告をして頂いたというのに……見事にそれを蹴るような真似をしてしまったのだから。

最初の時のように怒っていても不思議はないでしょう。

足音はしていないから、無言で立ち去ることはしていないのは幸いでしょうか。

──恐る恐る、私は顔を上げて目を開くと……。

 

「知らん、そんなことは俺の管轄外だ」

 

先ほどの私の叫びなんて聞いていませんと言わんばかりに、ここまでの流れを見事に断ち切っていました。

そこに怒っているような素振りは微塵も感じられない。

いえ、それは安心したのですが……今何て言ってました?

 

「……え、かんかつがい?管轄外って……え?」

 

この人は一体何を言ってやがるんですか……?

支離滅裂にも程がありませんか?

不安になっていたのが一気にバカらしくなってきました。

この瞬間だけ、目の前の第二王子に対する敬意が見事に消え失せてしまう。

 

「あれだけ立派に諭しておいて、知らないってなんですか!?やっぱり貴方はバカだったのですか!?」

 

もはや、考えるより先に出てきてしまった。

……だって仕方ないでしょう!

さっきまでの真面目で、諭すような雰囲気はどこに行ったんですか!

なんだかんだ王族らしいところもあるんだなって見直していたところだったの……。

それが一気に台無しですよ!

というか私、またバカって……ああもう、そんなことはどうでもいいです!

 

「勢いに乗りたいお年頃なのは分かるが、一旦落ち着けって。熱暴走寸前だぞ?」

「誰のせいですか誰の!そもそも貴方は何で笑っているのですか!?」

 

私、ある意味では先ほどよりも怒っているんですからね!?

こちらはそれはもう色々と根幹が崩れかけたり、流れを見事に切られたり……。

挙句の果てに振り回されて頭の中が滅茶苦茶だというのに、暢気なものですね!

 

「悪い悪い、ついユフィリア嬢を振り回すのが面白くて質の悪い冗談が出ちまった。っていうか、やれば出来るじゃねえか」

「やれば出来るって何ですか。そこは冗談ではなくて真面目に答えてください」

 

思わず手が出そうになるが、そこは何とか抑え込みました。

次何かおかしなことを言ったら容赦しませんが。

少ししてマドラーシュ様のその表情に先ほどと同じく王族らしさが戻っていた。

……何でそんなに素早く切り替えが出来るんですか。

 

「アンタなりの苦悩ってやつを吐き出してくれたってことさ。誰だって自分の根幹ってのは死守したくなるものだ。対して、一度信じたものに疑問を持ってしまったもそれはそれで苦しい。臆病とか言ってたが、ユフィリア嬢のそれは人間としての正常反応ってやつさ。その苦しみこそが、まさに人間の証だよ」

 

苦しみこそが……人間の証?

えっと、そんな簡単に認めてしまってよろしいのですか?

また何か流れを叩き切るような追加の言葉を警戒するが……そんな気配はない。

どうやら、この発言は何も問題は無い……ということでよろしいでしょう。

……何でこんなにも警戒しないといけないのでしょうか。

 

「でしたら、何故管轄外なのでしょう。マドラーシュ王子殿下から見てどっちを選ぶべきなのかという、簡単なお話のはずですが」

「俺とユフィリア嬢は全く違う人間なんだぜ?人生は各々が主演っていう華やかな言葉にも当然裏ってのがある。──その中での答えは、自分できっちりと見つけなくてはならないってことだ。仮に俺が答えを見つけ、教えたとしても……今度は縛られるものが周囲の期待から俺の言ったこと……下手すれば、俺自身に移るだけでまた人形に逆戻りさ」

 

なるほど、ちゃんと意味のある言葉だったのですね。

後に足された補足もあって納得は出来ました。

もし、彼から直接答えを教えられたとしたら……。

恐らくはそれにただただ従ってしまい、その後も答えを求め続けてしまうことでしょう。

それでは、ただの繰り返しだ。

変な言動も多々ありますが、彼の言葉は理に沿っている部分も多い。

『彼に従えば、間違うことはない』……こんな思考になりかけていた自分がいることも否定出来ません。

──そうならそうと、最初からちゃんと答えて頂きたかった。

戯れが過ぎるその返答で、すっかり色々と霧散してしまったのですよ?

……まさか、これも計算の内だったりとか?

 

「要は、自分を救えるのは結局のところ自分だけ。そうすれば全部自己責任で後々楽でもあるからな」

 

自分を救えるのは自分だけ……ですか。

凄い暴論に聞こえますが、どこまでも行っても正論でもある。

次期王妃として課した義務や使命も、周囲の期待に応え続けることを選び続けたのは、紛れもない私だったのだ。

確かに、周りの期待や願いはそこにあった。

結局私自身が勝手に鎖を生み出し、そして自分で縛った……。

──認めるのは辛いが、それは明らかに自己責任だ。

それでも……少しだけ、最後に抵抗したい。

酷薄な貴方に反論をお許しください。

 

「本当に王族らしくなくて、酷い人です。私に対してたくさん指摘して、根幹を否定して、揺るがしておいて突き放すのですから。そこは最後まで面倒を見るべきなのでは?」

「仮に王になれたとしても、俺がそう考えることは絶対に無いだろうな。どうせ1回救ったら、またお願いしますってなるのが目に見えてる。玉座にふんぞり返ってる間、ずっと望まれるがままの救世主役なんてつまらねえことやってろと?反吐が出るし勘弁してくれよ。逆の立ち位置から見ても、『誰かに頼めば救われる』なんて誰も彼も縋るばかりなんておぞましすぎる。自分で決めて、悩んで、回り道しながらもある程度好き勝手に生きた方がスカッとするもんだ。存在意義ってのも、その先で勝手に生まれてくる。それくらいに考えていた方が人生ってのを謳歌出来るってものさ」

 

ああもう分かっていましたよ。

この方はすぐにこうやって返してくる。

仮にも王族なのに、何故そこまで血筋に囚われない奔放な振る舞いが出来るのですか。

同い年のはずなのに、何故人の生についてそこまで悟ったようなことをつらつらと述べられるのですか。

沸き上がるこの感情は──悔しさと羨望?

……それにちょっとした嫉妬ですね。

次期王妃として抱いてはならないと捨て去っていた感情ばかりですね。

色々と滅茶苦茶にされたから、戻ってきてしまいましたね。

 

「……ユフィリア嬢なら、そうなれるよう導いたり共に考えたりくらいならしてもいいと思ってるがな」

「……え?」

 

そんな感情に懐かしさを覚えていたら、王子殿下はどこかバツの悪そうな表情になっていた。

先ほどまでの人を食ったような表情とは打って変わって、である。

あまりの変化に、何度目か分からない戸惑いを覚えてしまった。

 

「流石にそんな暗中模索にも限度があるだろって状態のユフィリア嬢を、このまま放り出すってのは俺が納得できないからな。さっきまでの拠り所だった人形であるユフィリア・マゼンタを壊してしまったのも。紛れもない俺だからな。その責任を取るってことで、自分で立てるようになるまでは出来る限り先導してやる。その様子だと、そういうダチもいなさそうだからな」

 

──何でそこで突き放したままにしないのでしょうか。

冷たいのか優しいのか、どちらかにしてください。

あまりに対極すぎて、振れ幅が大きすぎます。

振り回される方の身にもなって頂けないでしょうか……。

そして、納得できないからという理由で友人になろうなんて……。

王子殿下らしい、どこか身勝手な言い分で苦笑を浮かべそうになりましたよ。

王族と貴族が友人同士というのは、特段おかしなことではありませんけど。

……それと、途中で随分とおかしい言い回しがありましたね。

 

「壊した責任って、なんだかマドラーシュ王子殿下らしくないですね。あれだけ使命や責務を否定していたのに……」

 

このことを指摘したら、明らかにマドラーシュ王子殿下が固まりました。

……もしかして、何も考えずに口が滑ったとかそういうことですか?

 

「あっ……やっべ、言われてみたらかなり紛らわしい言葉だぞこれ。しかもそれを兄上の婚約者に言ってどうするんだ俺!?いや、無論そこにそういう意図は無いっていうか……ああもう、そこだけ忘れろ!記憶の彼方に追いやってくれ!後、使命とか責務については盲信するなってことで、必要な時もあるとは思ってるからな!」

 

そんなことを言われたら絶対に忘れてはいけませんね。

というかマドラーシュ王子殿下、その懸念が今更では?

次期国王の婚約者と第2王子がこんな怪しいところで会っているのですから。

頭の回転も早くて行動力もあるのに……どこか詰めが甘い方ですね。

私の根幹を見事に壊してくれた、ある意味の仇のはずなのに。

しょうがなくて、おかしくて……だからこそまるで目が離せなくて。

──この第二王子は、私にとっての刺激という概念そのもののようです。

 

「契約の言葉としてこの上なく忘れがたいので、その要望は却下させていただきます。それとも、簡単に自分で口にしたことを撤回してしまうのでしょうか?あまりに早い掌返しは、それこそ王族の沽券に関わるのでは?」

 

マドラーシュ王子殿下の返答はない。

何を言っても無駄だからと白旗をあげたのだろう。

先ほどは王族らしくなくていいって言ってたのに……変なところで律儀ですね。

踏み倒そうと思えばいくらでも出来るはずなのに。

まあこちらも色々と振り回された身ですので。

ちょっとだけしてやったりな気分に浸っても、罰は当たらないだろう。

これくらいの意趣返し、許容範囲ということにして頂けますね?

そういう隙を見せるのが悪いのですから。

 

「私もあんまり表立って王子殿下と会ってしまうと立場が危うくなるので、時折こうして話を聞いて頂けるだけでも十分です。これにて契約は成立です」

「……ああ、もうそれでいいよ。何はともあれ、これから俺たちは友人ってことで……これからよろしくな、ユフィリア嬢。──いや、もうユフィリアって呼んだ方がいいのか」

「では、そのように。では私も……マドラーシュ様、これから末永くよろしくお願い申し上げます。……人形としての私を壊した責任、ちゃんと取って頂きますからね」

 

まさにこの日が、人間としてのユフィリア・マゼンタが生誕……いえ、再誕の日でした。

あまりに短い時間で劇薬と称するのも生温い刺激を貰い、かつての私は一度粉々に砕けた。

そこから虚無に落ちるところに一筋の導きがもたらされた。

──どちらも原因は目の前の第二王子だ。

壊しておいて、後から手を差し伸べる……そこに一切の悪意はないときたものだ。

本当に破天荒でちぐはぐで……鮮烈で痛快で、どこか抜けている方。

この時の私は……今までで一番自然な笑顔になっていたはず。

責任を取ってもらう……ふふ、いい響きですね。

月明かりが差す中で言えたら尚良かった気がしますが、それは贅沢が過ぎますか。

最悪の出会いが一転して最高のきっかけになるなど、果たして誰が想像できたことでしょう。

神がもしいらっしゃるのでしたら、この出会いに最大の感謝を捧げたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはもう自然な、多分これまで見た一番美しい笑みと共にユフィリア嬢……もといユフィリアとの長いようで短い論争は終わった。

にしても、最後は随分と綺麗で可愛い笑みを浮かべたもので。

あんなん俺なんかに見せるんじゃねえよ……いや別に勘違いすることも浮かれることもしないがな?

まあ、兄上とかの方に飛び火する心配は無くなったから最低限の目的は達成したからそこはいい。

ただ、見事に後から気づいたことなんだが……何で俺は自分から危ない橋渡ってるのかねえ……。

自分でも流石にこれはバカみたいにすっぽ抜けすぎだろって思ったね。

完全にこれは王国内でバレたらアウトー!って地雷案件だ。

いくら当人同士が友人付き合いって言っても、傍から見たら完全に密会なわけで。

まあ、ユフィリアもそこを理解した上だから……俺側が上手くやるしかねえよな。

その上で水面下での顕魂術開発と亜人種への布教と教導だってしなきゃいけねえし、冒険者稼業もまだまだ続けたい。

更には偉志ノ大陸との外交もきっちりやらないといかん。

こんなタスクまみれの状態で、リスキーな交友まで加えたらいい加減過労死すんじゃねえか?

色々な属性の宇宙人とお手軽融合したりとかしないからね?

 

「……やばい魔物との殺し合いで生き延びる方が絶対に楽じゃねえか、これ?」

 

……いざって時はグランナイツのみんなやセラの力を借りてでもどうにか誤魔化すか。

可能な限りはそうならないように努めるが……手が足りるかと言われたらそんなわけがなく。

だが、それ以上にユフィリアを放っておくことは看過できねえんだよな。

あの自我が希薄って感じが個人的に気に入らなくて、だからこそ鎖を壊すきっかけだけは与えた。

その上で、案外負けん気が強いのを垣間見れたのも収穫かね。

恐らくだが、あれこそアイツの一面の一つなんだろうよ。

何なら、今日だけでも鉄面皮全開やら色々思い悩んだり、後々怒りながらツッコミ入れたり──

なかなかの百面相っぷりで大草原とはこのことか。

だからこそこれからどうなるかを見守ってやりたいわけで……ああ、断じて婚約者奪うとか横恋慕とかそういう意図はないから。

そんな悪趣味ねえし、金だろうが何だろうがどれだけ積まれようが絶対にやらんぞ。

……だから、誰でもいいから壊した責任とかクサい台詞を放ったこの俺を1回セイリオスで串刺しにでもしてほしい。

ほら、愛剣で串刺しにされるのは恒例行事だって話もあるし……それくらい恥ずかしいことをぶっぱなしてしまったわけで。

あんなんぜんっぜん俺のキャラじゃねえ……あの言い回し、一体誰から学んだんだってんだ。

しかもあちらもお返しのように責任発言返ししてきたし!

お陰で余計に負けた気がする。

おのれユフィリアめ、これからどうやって弄ってやろうか……。

 

「お二人が並んで歩いているご様子はそれはもういい絵になっていましたよ。二人の仲に進展が見受けられないのならば、いっそ本当に奪うことを考えてしまっては?」

「盗み見した上に楽しそうな顔で俺を危険人物に仕立て上げるな。あくまで友人関係で貫くからな」

 

そんな地獄行き待ったなしの悪魔の囁きに乗るわけねえだろうが。

初回の時のような別れ方はせずにユフィリアは責任もってある程度のところまでは送り届けたぞ。

最大限注意は払ってかつ隠密全開で動いたから後は見られていないことを祈るしかない。

今日のところは、父親に帯同していたってのが不幸中の幸いだったよ。

見送りが離宮の出口までで済んで、本当に助かったぜ。

……ってちょっと待て。

今回はこれでで済んだが、次からはどうなるか分からないんじゃねえか?

下手すると、あちらの屋敷まで送らなければならない事態も想定しないとかもだぞ……?

──これはかなり寿命が縮みかねないぞ。

……今度偉志ノ大陸に行った時にでも隠密的な何かを買い取るないし教えてもらうか?

 

「創作でよくある通い妻のようですね。そんな状況になって慌てるマッド様は本当に可愛らしくて尊さ限界突破です」

「ええい喧しい!だから何でそういう風に持っていくんだ、いい加減止めてほしいんだが!?」

 

通い妻ってなんだ、まるで意味がわからんぞ!

あっちは兄上の婚約者で、俺に横恋慕趣味は無いって何度言えば分かるんだ。

これからもこんな感じで弄られるのか?勘弁してほしいんだが。

俺が招いたことなのは分かってるが、流石にここはひとつ言いたくもなる。

どうしてこうなった!




何かもう色々とセリフ引用とか何やらかんやらが凄まじいことになっております。
某神域なあの御仁の通夜編とか、どこぞの108人な3作目とか、シリアスブレイクするどこぞの銀河眼使いとか……。
そして白の姫の名台詞まで自己流で使ってしまうという何してんだよ感丸出しなやらかしも。
これは本作のユフィがパロっても良くないか?と電流が走ったのでやってしまいました。
何はともあれ、これでぶっこわルートスタートです。
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