第1話投稿から1年(最初は非公開だったけど)、時が経つのって本当に早いものです。
ストックを急遽変更する羽目になって投稿ペースが落ちていますが、書きたいことはまだまだあるのでゆるりと続けて行ければと思っております。
そして、今回は全編フル新場面書き足しで時間がかかって申し訳ありませんでした。
とりあえず納得は行く流れにはできました
せっかくの早朝からの奇襲をかの破天荒に見舞うも、ものの見事に空かされる。
挙句更に新人研修という名の放置プレイ、まさに受けて流して見舞うのカウンター芸。
戦場でのマドラーシュに例えるなら、絶妙加減の受け流しからの
ユフィリアも今回の突貫にはそれなりの自信があったからこそ、今回ばかりは敗北感がそれなりに募ってしまう。
……どういう自信で、そもそも勝ち負けの問題なのかというツッコミは無しにしてあげてほしい。
マドラーシュの秘密主義やら何やらに対してユフィリアが攻城戦を仕掛け続ける3年の間で幾度も起こった痴話喧嘩未満の小競り合い(byナマリエ、クリスティーナ)、これはもはやお家芸なのだから。
その上見事なまでの逃走を許してしまったので、仮にも先輩となるラスと行動することになったのだが……
「特別近衛騎士団長。何故私たちは城から出ているのでしょうか?」
「ええっと……その、マッドの意志も汲み取って新人教育は街で行おうかなって……」
「いくらマッド様が雲隠れしたとはいえ、近衛がそれでいいのですか……?」
「もはや俺にとってはこれが日常だからね……おっと、ここでもちょっと野暮用があったんだった」
とはいえ、そもそも彼らの主がどのように動いていたかを思えばその点はどうしようもない。
型破りと言う意味では、単なる伝統芸と纏めてしまえばギリギリ納得できるところだ。
更に言うなら、そこそこ自由に動いていた騎士という意味ではグランナイツという事例もあるのだ。
……と、このような考えが至る辺りユフィリアもだいぶ思考が染まってきていると言えるか。
「これが街の見回りならばかろうじてまだ分からなくもないのですが……」
「あはは……まあその、ラスですから」
「うん、いつものようにお人好し全開だね!」
ラスが率先して行っているのは、早い話が民間のお助け行為だ。
端的に言うと雑用であり、本来ならば騎士がやるようなことかと言われたら明らかに違うであろう。
自分から率先してやることは勿論、その様子を一切咎めない周りも果たしてどうなのか。
ちなみに、既にここまでの段階で2件ほど頼まれ事を消化していたり。
「ラスのこの行動について、マッド様は何も仰らないのですか……?」
「うーん、むしろ陰の同類だって話だよ?昔から同じように街に繰り出しては困り事を色々な形で解決して、その上あえて自分の成果にしないようひた隠しにしていた……ってセラが誇らしげに語ってたけど」
「ただ魔物その他の脅威と戦うだけじゃ足りない……そんなレオン様の背中をマッド様が追って、更に自分も一緒にってラスはいつも言っていますね」
歴史の陰に追いやられたとはいえ、知る人からすれば彼は間違いなく英雄と称されるに相応しい人物なのだから。
その為ならば、狂おしいほどに先に先に向かうだけの
それこそ後ろなど顧みない、ついてくるなら勝手にという傍若無人ないし暴君っぷりも兼ねている。
それでいて、その過程で発する泥臭さをまるで外に出さない徹底ぶりときた。
他のグランナイツの面々……特にカルシオンやイグノックスという二人の兄貴分の影響も色濃く継いでいるのが決め手となっている。
その気質のお陰で、どれだけ置いてけぼりを貰っては内心歯がゆい思いをしてきたことか。
(……少しくらいは顧みて欲しいものですよね)
何なら、今の半ば放置されている状況も同じように文句を言いたいほど。
内心でため息を吐きながら、置いていかれないように歩を早めようとしたところで──
「おや、セリアードにロムじゃないか……それに加えてずいぶんな大物を釣れているようで」
ふと、聞き慣れない声が飛び込んできた
一体何事かと振り返ると……真っ先に目に飛び込んだのは装備の数々。
板金で出来たヘルムやら、明らかに魔法使いが扱うようなローブ、更には奇妙な気を発する曰く付きの品まで。
その奥からは、最近ようやく慣れてきた魔力も感じ取れる。
その上で改めて声の発生源に目を向けると……そこにいたのは、緑髪の小柄に眼鏡をかけた亜人種──キュイと同じミケ族であった。
恐らく、この装備屋らしき店の主なのだろう。
「あー、ネネトじゃん!アタシ達は忙しいんだから、手短にね!」
「むしろその前段階じゃないのか?こちらもすこーしばっかり手伝ってほしいことがあるんだけど……ラスは既に先約済みかな?」
「うわ、そこで真っ先にラスを探す辺り面倒事を全部こっちに押し付ける気だー!」
「あんまりそういうこと言っちゃ駄目だよロム?──ほら、色々品物が積み上がってて本当に大変そう……」
そして始まるのは妖精(?)との憎まれ口の応酬だ。
とはいえ、少なくともそのやり取りからは嫌悪感の様なものは感じられない。
むしろ漫才に寄っているほどで、思わずツッコミ役に回りたくなるような空気感である。
そして、ユフィリアはその手の空気にある種のデジャヴを感じ取っていた。
「セリアードは相変わらず思慮深いねえ…マドラーシュ殿下が癒し認定するのもよく分かる」
「コラ、そこでセリアードに擦り寄ろうとしないでよね!そういうことがあったら報告するようにとマッドに言われてるんだから!」
「え、待ったそれは流石にマズイ……っと、これは失礼しました。御新規様を置いてけぼりは感心できないですね」
そこまで言うと、ネネトと呼ばれた店主はユフィリアの方に向きなおる。
そして、先ほどまでのフランクな空気を一変させて懇切丁寧な雰囲気を纏う。
その様変わりっぷりもまた、どこかの誰かさんに近しいものがあった。
「僕はネネト、装備の目利きでしたら右に出るものは居ないと自負しております。以後お見知りおきを、ユフィリア・マゼンタ様」
「私自身はあまり街には顔を出したつもりはないのですが……」
「ははは、貴女は僕にとって最高の客人たるマドラーシュ殿下の身内同然な御方。億が一にも失礼があってはなりませんからね……その辺りは抜かりなくですよ」
やはりか、と特段驚くこともなく受け入れられた。
最近やたらと感じ取ることが多い、マドラーシュの知人に共通する空気感が彼からも薄っすらと感じ取れたから。
まさか、街の商人からもそのような気配を嗅ぎ取ることが出来るとは思いもよらなかったが。
しかし今のユフィリアにとっては、急激に溜まったモヤモヤが広がる要因にすらなってしまう。
「マッド様の身内……果たして『ひよっこ』と呼ばれた私がそこに入ってよろしいのでしょうか」
「え、『ひよっこ』?もしかして、マドラーシュ殿下がそんなことを?」
「うん、今朝思いっきり言い残してどっか行っちゃってたよ……まるでカルシオンみたいだったね」
「ははは、かの『紫の刃』譲りならとことんらしいじゃないか。公爵令嬢が相手でもそんなことをしでかす辺り、表に出張っても変わらないようで安心だ!」
「笑いごとにしないでください……はあ」
想定以上に『ひよっこ』発言は刺さっているようだった。
以前に比べれば軽度ではあるのが救いだが、それでも多少鬱屈モードに入っているのは否めず。
過去にも幾度となく逃した魚ではあるが、今回は捕まえられる気でいたからこそ落差も激しいということか。
……果たして本当にそれだけなのか?そう問うのは当然野暮である。
「おっと、そんな意図はまるで無かったのですが……これはお詫びをしなければなりませんね」
「え?何もそこまでしなくても……」
「いえいえ、これはこちらの不手際ですので……どうでしょう、マドラーシュ殿下の裏情報で一つ手を打って頂ければと」
傍から見て聞けば怪しい話にしか思えないだろう。
しかし、この時のユフィリアはある意味で正常ではなかった。
──冷静沈着さを保つようなポーカーフェイスを維持しつつ詰め寄るその様は、見る人間が見ればホラーでありシュールでもあった。
「──裏情報とは、一体どのような?」
「あの御方は普段は余裕そうに振舞っていますが、裏では……まあそんなところです。やはり気になっちゃうんですね?」
「……それは、まあ」
気にならないわけが無かった。
ただでさえ幾度もかのやりたい放題破天荒の秘密主義に煙を撒かれ、突き放されてきたのだから。
グランナイツやラス達……ティルティやオルタは知っていて、ユフィリアは知らないなんて側面などいくらでもあるのだ。
時間の差や付き合いの方向性が異なるとはいえ、今はもはや飲み込めるような状況でもない。
その差を埋められる、ある意味では絶好の機会になる……のかもしれない。
「……この手の情報となれば、そちらも危ない橋となりますね。その分やはり値は張りますか?」
「初回で且つ詫びも兼ねておりますので、タダとさせて頂きますよ。が、そうですね……強いて言うならこれからも色々御贔屓にして頂ければ……」
「ってこらそこのぼったくりミケ族!いたいけな公爵令嬢様をなんて方法で釣ろうとしているのですか、恥を知りなさい恥を!」
「ユフィリア様も何で裏取引紛いに乗りかけてるのさ!?」
寸でのところで待ったが掛けられた悪魔の契約もどき。
それを断ち切ったのは、ネネトとはまた違った種類の耳を持った亜人種……リブレ族の女性だった。
同族ではないが、知り合いないし同業者であることは初見で何となく察しがつくもので。
更に驚愕と少々ばかりバツが悪い顔になったネネトを見れば、さもありなんといったところだ。
「ジュディにラス、何故この場に君たちが……って、セリアードにロム!いつの間にか気配がしなくなったと思ったらそういうことだったのか!」
「イヤな予感がしたから呼んだんだけど、正解だったね!マッドから簡単な気配遮断を習っておいてほんっとうに良かった!」
「まさか、こんな時に役立てるなんて思いもよらなかったのですけれど……」
しれっと場を読み動かす、戦場におけるヒーラー兼バッファーに必要とされるそれを日常でもきっちりと発揮する。
それでこそマドラーシュの愛弟子であり、その中でもレイニと並んで素直な気質のセリアードならではのファインプレー。
こんなところで戦闘技術を生かすなというのは、彼らの間では一切通用しない。
使えるものはどこでもなんでも使う、それこそが破天荒の流派ならではの考え方なのだから。
更にはリーダーであるラスまできっちり引っ張ってきている辺り、危機に面した際のパターン管理も万全である。
「あの、ラス?裏取引とは一体……」
「こういう沼に引きずり込むようなやり口もネネトの常套手段なんだよ。全く、ユフィリア様がそんな風にやり込められたなんてマッドに知られたらそれこそ……」
「多分新術の実験台にされてたかもねー?でもユフィリアも迂闊すぎ!」
「あ、あはは……何のことやらか。今後も是非ご贔屓にと、そういう意味であってですね……」
明らかに目が泳いでいる時点で図星であろう。
この時点で、ユフィリアの中で目の前のミケ族の注意人物度合いが上昇したのは言うまでもない。
ある意味明朗快活と共に金の亡者っぷりを発揮するキュイよりもあくどい、ここが決め手となった。
まあ、その分あちらは止めるのが苦労するという致命的欠点があるが……何だかんだで仕方ないと言わせてしまう塩梅なのだ。
ある意味では人望の差とも言えようか。
「さて、このぼったくりミケ族は置いておくとして……初めまして、ユフィリア様。ポーション製造も兼ねた雑貨屋をやっているジュディと申します!以後、お見知りおきを!」
「同じような挨拶なのに、今となっては雲泥の差に感じられますね……勿論こちらの方がより誠実に感じられるという意味で」
「それこそが私のモットーですからね!私の辞書にぼったくりなんて言葉は一切ございませんので、そこはご安心を!」
ネネトが内に含む者がある切れ者商人ならば、こちらはまさに快活溢れる陽の商人とでも言うべきか。
あの手この手の駆け引きなど一切せず、利益よりもまずは信用・信頼あってこそ。
ささやかな挨拶と人懐こさを感じさせる雰囲気だけでも、そんな気風を感じさせるには十分な要素である。
「ちなみに、ジュディも同じくマッド様とは……」
「それは勿論、当店一番のお得意様ですよ!更にはこの王都で商いを始める際に、それはもう大変お世話になりまして……」
「それを言ったら僕だって同じくさ。今でも独自で取引してもらっているし、貢献度は僕の方が上だろうけど」
「アンタはその分他でぼったくってるんだから足し引きゼロでしょうに……」
双方足を向けて寝られない、まさにそう言わんばかりであった。
その上で贔屓にしているというのは、もはや破格の扱い以外の何者でもない。
仮にも王族なのにどうなんだという話でもあるが……そこは今更だからあえて流しておくことに。
我こそはと殺到しての地獄絵図待ったなしになっていない辺りは上手くやっているのだろうから。
「……皆、それぞれのやり方でマッド様の活動を支えているのですね」
「結局、誰も彼も救われっぱなしでは気が済まないんだよ。その上で出来る限りで追いかけてる……何もユフィリア様や俺たちだけじゃないってことだよ」
「縋るのではなく、追いかけ追い越す気概を持って欲しい……これもマッド様の口癖ですからね」
人の振り見て我が振り直せとはまさにこのことだった。
このタイミングで彼の足跡に関する生の声を聴くことが出来たのはユフィリアにとって絶妙なタイミングである。
ラスが言っていた、『意思を汲む』という言葉の真意もここでようやく理解することとなった。
それと共に、何故マドラーシュが酷な言い回しで突き放したのか……その真意に対する視界も拓けてくる。
(……ちょっと突き放されただけなのに拗ねて八つ当たり染みたことをするだなんて、我ながらどうかしていましたね)
難関であろうと想定していたグランツの許しを得て、オルファンスにシルフィーヌの太鼓判を得て。
更にはクリスティーナから託されたからこそ、義務感と共に突っ走っていた──今思えば、どこか浮かれていたのだろう。
それほどまでこの3年間隠し通してきたり、マドラーシュに煙に撒かれてきたことがストレスだったのかもしれないが……それは免罪符にしてはいけない。
それこそ彼が毛嫌いする存在と同類になりかけていて……そこに待ったをかけたのだ。
結局はいつも通りのやり取り、先回りされるような原因は自分にもあったということ。
そこまで理解が及ぶと、真っ先にいらぬ世話をかけてしまった先輩たちに深く頭を下げる。
「ラス、セリアード、ロム……静かながら癇癪を起こしては拗ねて八つ当たりなんて無礼極まりない真似をして、申し訳ありませんでした」
同年代同士で貴族が平民に頭を下げる……何とも奇妙な光景に見えるかもしれない。
確かにこの場での公的地位はユフィリアが最上位かもしれないが……それとこれとは話が別である。
自分が今いる立ち位置は、あくまでマドラーシュ率いる次世代陣営の一角──そこに生まれ持った血筋の優劣など関係しない。
ある種の当たり前から目を背けたことへの罪悪感もあって、場所が場所なら土下座すらしかねない勢いですらあった。
「ははは、そんなことは俺たちは気にしてないよ。むしろしょうがないと思ってるくらいさ」
「キュイの問題行動とか、カルトのイヤミ、後はマッドの無茶振りに比べたら全然可愛いものだからね!」
「ロム、それは流石にどうなのかな……でも、ユフィリア様の調子が戻って本当に良かったです」
彼らもまた、地位やら血筋などはまるで問題視していない。
あくまでマッドの下に集い、そしてそれぞれのやり方で支えたり追いかけたりする同志。
今この時、ユフィリアは盟友という形でかけがえのない関係を築くこととなった。
それもまた、型に嵌った『完璧令嬢』の枠を壊しては本来の彼女を歩むための第一歩となるのは……言うまでもないことだろう。
同じ頃、マドラーシュは自身の離宮にとんぼ返りしていた。
一見すると思わぬ突撃をかけてきたユフィリアから戦略的撤退を図って戻ってきたように見えるが……実態はやや異なる。
実際、彼自身もユフィリアにばかり構っていられないのも紛れもない事実だ。
一旦グランナイツ会館に赴いては先の動きについて腹心たちと話し合いをしていたまでのこと。
ただただ忙しいから、というありふれすぎた言い訳を述べて逃げたわけではないのだ。
「……静かになってる辺り、無事ラス達は動いてくれたようだな」
「ナマリエ様、カルト様、ウィン様はそれぞれ護衛任務や魔物調査に赴いて、キュイ様は何やら儲け話が見つかったと飛び出したらしいですので……ラス様とセリアード様がついたのでしょうね」
「これで少しは強迫観念染みたイヤな気配が落ち着くといいんだがな……あのまま傍に置いたとて、何にもならないのは目に見えてる」
気配というが、特に根拠も論拠もない……本当にただのカンでこそある。
しかし、実の姉譲りに加えてパルヴァネの修行により霊的な強化が施されたソレはもはや馬鹿に出来るようなものではない。
その上で石橋を叩いたのだから、それは結局のところいつも通りと言えばいつも通りだ。
「それでラス様達に委ねたところまでは理解できますが……あのように突き放すようなことまでせずとも良かったのでは?」
「凹むならその程度、一発奮起するならとりあえず保留……まあどうせ後者になるだろうがね。そういうヤツだよアイツは」
「全く……それを本人の前で言えばもう少し違っていたでしょうに」
「それはユフィを調子に乗せるだけだろうが、絶対にお断りだね」
口振りと本音がまるで一致してない、まさに面倒臭さ全開の実状であった。
それでいて、何だかんだと苦言を呈しながらも信用している捻くれ度合いも平常運転。
結局のところ、あーだこーだと突っぱねない辺りは情はきっちりあるということだ。
更にはその予測がドンピシャリな辺り、その理解度も深いから余計にややこしい。
珍しくツッコミに回るセラだが、正論を述べたくなるのも至極当然であった。
「……ところで、だ。何か気配が密集してないか?」
「気のせいではないようですね……想定していたのは一人だけなのですが、この様子だと4人ほどでしょうか?」
特別近衛騎士団プラス1名は各々出払っており、オルタは別件で暫く離宮から離れているので気配がすることは無いだろう。
それでもまだ人員は二名残っているが……それでも明らかに数が合わない。
頭の中で疑問符をいくつも浮かべながらも、特段火急の気配もしないのでゆっくりと部屋に向かうと……
「人形自体の材質も呪詛に耐えうるようになっているのね……ねえジュン、1体くらい譲ってもらえない?またはお近づきの印として製作でも構わないわ」
「ココもそうだけど、1体1体心血注いで自作したとっておきなのよ!?譲るなんて誰がするものですか!後、いきなり製作依頼も馴れ馴れしすぎでしょ!」
「ふうん……それなら言い値でも買うわ。これでも懐は言うほど寒くはないし、最悪アイツにツケてやるわ」
「どこぞの守銭奴猫と一緒にしないでくれるかしら!?っていうかツケるって、貴族のやることじゃないでしょ!」
部屋に入る数十歩前から聞こえてきたのは、こんなやり取りであった。
まるで値切る客とそれを渋りまくる店主のようなノリにも聞こえる。
当然ながら、双方見事に聞き覚えしかない声と口調だ。
そして、そんな現場を前にどうすればいいのやらかと立往生している者もまた2名。
「あ、マッド先生いいところに来てくれました!」
「ティルティ様が彼女を見つけるや否や、水を得た魚のように暴走を始めてしまい……私たちではとても止められそうになく」
「ちょいと聞いただけで大体状況は理解出来た。全く、何でこう今日は変な巡り合わせが多いんだ?」
イリアとレイニの救援要請を聞いて、マドラーシュは思わず天を仰いでしまった。
それこそ『どうしてこうなった』と叫びたくなる衝動に駆られかけるが、そこは何とか抑え込んでいる。
ユフィリアの突貫に続いて、今度は形式こそ違えど呪いを扱う者同士のばったりと来れば致し方ないか。
とはいえ、予想できる範疇の出来事であるのは間違いなく救いである。
当然、その為の対応策も破天荒はきっちりと用意していた。
「とりあえず……近所迷惑で後で面倒被るのは俺だからいい加減静かにしろこの陰キャ属性共め!」
放たれたのはマドラーシュ発祥闇属性汎用術の一角『ダーク・ウィップ』。
本来ならばその名の如く闇色の鞭を発するだけだが…これまた若干のパワーアップを遂げていた。
まさかそれをいの一番に体感するのが身内となるところには、マドラーシュも苦笑いしか浮かべるしか無かった。
「ジュンは被害者なのに何で一緒に呪いを受けなきゃならないのよ……ついでにしれっとこの子の呪いをパクるなんて、とんだ盗人王族じゃない」
「たったあれだけの期間で
「……まるで反省の色が無さ過ぎて、説教する気も失せてきた」
試用も兼ねた軽い鎮圧術はあっさりと実を成していた。
事後処理の合間に練り上げたイメージ、そして僅かな時間工房に籠って多少の試行錯誤で完成した新たな搦め手。
宣言通り、旗印同士の一騎打ちは踏み台と化したということだ。
「よくよく考えたら、姉上側の方は家主以外全員こっちに来ちまってるが……大丈夫なのかこれ」
レイニとイリアについては特段問題は無い。
師弟関係は継続しているからこその通いと、その付き添いであることはすぐに理解できることだ。
ユフィリアについてはもう半ば諦め状態なので、これも仕方ないことにする。
「……引きこもり家主と二人であの離宮にいろって?それは流石にちょっと人でなしが過ぎるわよ、マッド様」
「おや、引き籠りというと……アニスフィア様は復帰早々研究漬けですか」
「クリスティーナ姉さんがいながらよくもまあそんな暴走が出来たもんだな……いや、まさかの依怙贔屓か?」
それは単純にマドラーシュの有様が酷かったから……というより、イグノックスに瓜二つだったから。
こちらの方がある種の身内贔屓なのだが……まあ姉心弟知らずとはこのことか。
「ですが、それはレイニ様の件が落ち着いた今ならば仕方ないのでは?皆様にとっても予想の範疇でしょうに」
「セラの言うことは尤もなのですが……今の姫様にはどこか違和感がありまして」
「姉上自身に違和感?──レイニはまあ付き合いが短いから分かりづらいとして、ティルティも同じくか」
「……まあ、柔らかく言ってやればそうなるのかしらね。私からすれば普段の3割増しでイカれてるってのが的確なんだけど」
10年以上仕えているイリアは当然ながら、ティルティもアニスフィアとは長い付き合いだ。
悪辣な口調ながらも、違和感を訴えるのはまさに腐れ縁だからこそ。
それを的確な相手に零しているのだから、何だかんだと言ったところか。
しかし、マドラーシュと言えど簡単に打開策が見つかるような問題ではなかった。
「いつもの延長線上なのか、それとも別の何かがあるのか……まるで区別がつかねえな」
「そんなんだったらもう放っておくしかないんじゃない?あっちが扉を閉じちゃってるんだったら、それこそ見捨てるか上手いこと構えておくかのどっちかよ。アタフタしてる方がよっぽど疲れるし、バカらしいわよ?」
部外者が故の、なかなかに酷薄なジュンの言い回しだが……マドラーシュとセラは静かに頷いて見せる。
マドラーシュとしても、以前のように突っ込めばいいというわけではないのだ。
あの時は変な距離を取られて、その理由に対して物申したかったから通用したわけで。
的確な事柄を突きつけられない突撃では何も意味をなさない。
何だかんだ姉弟で似たところがあるからこそ分かる八方塞がりである。
肉親であり、最も効率よく打開策を示せるであろうマドラーシュまで匙を投げたのであれば3人としてもこれ以上は言及のしようがない。
「全く、引き籠るんだったら分かりやすくしてほしいもんだ……それこそジュンみたいにな」
「ジュン様は典型的な付き合い下手なだけですからね……だからこそマッド様やキュイ様に突撃隣の何とやらをしょっちゅう貰うわけで」
「何でそこでジュンを引き合いに出すのよ!?変な流れに巻き込まないでちょうだい!」
湿っぽい空気になりかけたところを引き戻すのもまたこの男の真髄だ。
尚、今回犠牲者として抜擢されたのはまさかの妹分。
なかなかの鬼畜な流れだが、それに即乗り出来るのはもう一人いたり。
「へえ……人形の自作もその一環ってわけ?ますます以て共感出来るわー、あのネコちゃん共々妹として迎え入れたいわー」
「だからあの爆弾魔ネコと一緒にするなっての!ああこら、気持ち悪い笑み浮かべて近寄ってくるなー!」
「なんて言ってるけど、これはただの威嚇行為と取って問題ないのよねマッド様?」
「そういうこった。兄貴分として許可するから、存分に構い倒してやれ」
「何でジュンの生殺与奪がいつの間にかアンタに掛かってるのよ!?そもそも妹を平然と差し出すなんてとんだクズ兄ねアンタ!」
もはや愉悦と罵倒が入り乱れしコント会場と化している。
先ほどまでの不機嫌はどこへやら、ティルティはそれはもう盛大にジュンを弄りにかかっていた。
初対面が故にジュンの警戒度はかなりのもので、呪詛染みた罵詈雑言をいつものようにぶつけにくる。
しかし、そこは自他共に認める呪い大好き令嬢。
この程度はもはやそよ風にしかならないのは言うまでもなく、すんなりとこちらも妹分扱いである。
余計な波風にならない分、保護者としてはありがたいが……彼にはまだ説明義務が残っている。
「ところで先生、この方は一体どちら様なのでしょうか?」
「もしや、ユフィリア様という優良物件がいながら側室候補を引っかけて……」
「暗部共の研究所で人体実験させられてたところを拾っただけだっての……」
「側室もイヤだけど、子犬だか子猫扱いもどうかと思うんだけど!?」
至極真っ当な質問のレイニに対して、洒落にならないことを言い放つイリアには呆れながらハリセンをかましだす。
ちなみに、側室発言に盛大に吹くセラとティルティにも見舞ったのは言うまでも無く。
そして言われた妹分(仮)の咆哮については……誰も聞かなかったことにした。
実際この場においても群を抜いて小柄なのだから、そりゃあ子犬だか子猫扱いにもなるものだ。
「……てっきり年下趣味に走ってしまわれたのではと思いましたが、そこは安心してよろしいのですよね?」
「何て疑念の表情を貼り付けてるようだが、愉悦由来の笑みが隠しきれて無い辺りはまだまだ甘いな」
「……失礼しました。マドラーシュ様については、この手の話になるとついつい弄りたくなってしまうのが侍女の性とのことでして」
「姉上が引き籠り状態だからって俺に色々矛先向けるのは止めてくれよなあ……ついでに、そんな性はとっとと捨てて欲しいね」
ある意味実の主に対してよりもノリノリの行動を見せる辺り、イリアも大概である。
恐らく姉と侍女とりかえばやという遊びに興じた場合でも、こちらはすんなりと仮の鞘に収まること間違いなし。
ちなみに逆側については、姉の胃が爆発する可能性が95%といったところだろう。
「凄い、イリアさん……即席の主従みたいですね。やっぱり物言い出来るようにするのがカギなのでしょうか」
「その通りですよレイニ。侍女たるもの、主に対して物怖じしては仕える意味がありませんからね」
「言ってることは間違ってないんだが、さっきのを引き合いに出すと一気に胡散臭くなるからな?」
どこかズレた目の輝かせ方にカルト並みのツッコミを入れる破天荒。
とはいえ、こんな方向性に走っているのはセラ及びプリシラと常時展開している尊み漫才が原因なのは言うまでもない。
「その様子だとレイニ様は侍女希望のようですね……将来が定まったようで何よりです」
「今日こうして足を運んだのはその報告の為だったんです。──あ、別に卒業とか独立を宣言するわけではありませんからね?マッド先生の講義もまだまだ受けたいですから……」
「最初のころを思えば随分と欲深くなったじゃないか。誰に付くかはまだ未定だろうが、どこに出しても通じるよう一同で面倒見てやるさ」
「引き続き面倒を見て下さるのはありがたいですが、レイニまでぶっ飛び侍女に仕立てるのは……」
「いっそのことイリアも仲間入りしちゃえばいいんじゃないの?そうすれば、この間のようなことがあっても返り討ちでこちらも安心できるし」
他人事と思って言いたい放題……と返ってくるかと思えばそうでもなく。
その様子から、やはり先日の一件で戦力外に寄っていたことが負い目になっているのか。
マドラーシュブートキャンプの受講者は更に増えるか、果たして……というのはさておき。
「そういえば、正式に通い妻になったらしいユフィリア様が見えないんだけど……まさかもう実家に里帰り?」
「案の定知ってたのなお前……今は先輩兼上司としてラスに新人教育させてるだけだ。徹頭徹尾悪意ある愉悦で満ち溢れた言い回しすんな」
「え、それって半ば下働きじゃないですか。先生、ユフィリア様相手でもまるで容赦なしですね……」
「……ふん、お高く留まった精霊かぶれには丁度いいクスリになるんじゃない?」
どこか苦笑ムードが漂いそうなところに待ったをかけたのは、そんな皮肉たっぷりな言だった。
まさに冷水をぶちまけたようなもので、場は一気に冷却される。
呟いている風を装っているが、その侮蔑の色はまるで隠す気もないようだ。
「あの、精霊かぶれとはもしかしなくても……」
「その公爵令嬢サマのことに決まってるでしょ?どう見たって実力はバカラスや爆弾ネコに劣ってるんだから、下になるのは当然じゃない?」
「……アンタ、いきなり随分と嚙みつくわね。ユフィリア様に何かされたの?」
「別にそんなんじゃないわ。単に気に入らないだけよ」
それで済むなら、何故そこまで苦虫をかみつぶしたような表情をするのか。
そう問いたくもなっていたが、ジュンは薄っすらと呪いを込めた魔力を発することで追撃を封じる。
しかし、それもいつまで持つか分からない。
そこで次善の策として、多少の事情を知り得る者に撤退の言い訳を促すこととした。
「そういえばハリボテ王子、アンタはジュンに用があってきたんでしょ?それって仕事関係でいいのよね?」
「あー、まあそうだが……何だ、体調はもういいのか?」
「むしろたった今いい調子になったところだし、気力も十分よ。時間がもったいないし、さっさとそっちに移りましょ?」
「……というわけだ。セラ、急で悪いが後は頼んだ」
「ふふ、仰せのままに。義妹のお世話も仕事の内ですものね?」
この日二度目の奇妙な集いは、嵐に始まり嵐に終わることとなる。
日常の中でも物騒が付き纏う──これもまた、マドラーシュ陣営の混沌っぷりを物語っていた。
こういうサブキャラとの付き合いも不足気味だよなあと思っていたので、急遽足してしまいました。
このあたりのキャラも使えるのがグランサガ混ざりの長所とも。
御蔭で締めでめっちゃ苦労する羽目に……ふと思いつきでやるからそうなる
お陰でユフィリアの直球どポンコツ成分出せたのはサティスファクションですけど。
そしてジュンはユフィリアに明確な敵意を持っていますが、これは本作ならでは=どちらの原作も踏まえた結果だったり
当人同士まだ会ってもいないのに戦いの火蓋が切られる辺り、なかなかのものです
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
-
グランサガの二次がレアすぎて
-
バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)