はい、というわけで祝☆100話目でございます。
スローペースになってしまっても、何だかんだここまで来ることはできました
そんなこんなでちょっとテンション高めな回でもあります、どうぞ
久しぶりに籠りっぱなしで遅れを取り戻す、それだけの時間は確かにあった。
……が、私は見事に失念していた。
どれだけ時間があっても、素材には限度があるということを。
新たな魔道具を生み出そうにも、理論構築だけではやってられない……そこには試行錯誤が必要になるものだ。
その為の精霊石の在庫が切れかかっていることを、見事に失念してしまった。
そこで、その報せを聞いてしまった……いやもう本当、ただの偶然だ。
「飛んで火にいる夏の虫ってのは、まさにこのことでしょ!」
前世でも時折聞いた諺と共に、気付けば私は魔女帚と共に空を駆けていた。
──魔狼や東部にて見かけられるトカゲ型の魔物が、スタンピードのような勢いで王都に向かっている。
誰にも見咎められないように、それこそいつも通りに王都に降りてすぐに聞こえてきた物騒な一報。
緊急で素材をかき集める必要があった私にとっては、まさに天からの何とやらですらある。
それに、これはある種の挽回の為の一戦と定義づけていた。
(……この間はまるでいいとこなしだったからね)
先日の防衛戦は、完全にマッドくんやラスくん達が大立ち回りを見せていた。
その裏でも、ユフィは顕魂術と従来の魔法を併用してみせたりアルくんは王宮内戦を制していたり。
対する私は、ひたすら後手を踏んでその挙句あっさりと戦力外通告──仮にもドラゴンをも討伐して、よく分からないけど『稀人』とも称されておいて。
……このままでは、それこそ私は……!
「って、違う違う。今はとにかく素材だよ素材!」
色々と倒した報奨として魔石やら何やらをかき集めて、その帰りで精霊石も回収してやるんだから!
私は全然やってやれるんだと表明しつつ、更に研究の為の引き籠りも続行!これぞまさしく一石二鳥!
後でイリア経由で父上や母上に怒られるかもだけど、それでもお釣りは来るはず!
さあ、目的地である『龍の丘』も見えてきたわけなんだけども……
「思ったよりも進軍が止められてる……駐在組が抵抗出来てるってこと?」
規模としては、ドラゴンという親玉がいない以外は黒の森のスタンピードと見ていいはずだ。
それがあまりに唐突に降ってくるものだから、王都では冒険者たちが更なる情報を求めたり装備を整えたりとてんやわんやだった。
確かに龍の丘には騎士が駐在しているが……その規模は決して大きいものではないはず……
想定外の事態に多少の困惑を抱きながらも地上へ降りると、すぐさま見覚えのある顔を見つけることとなった。
「トカゲ歩兵の方が来たな……ランプ男爵子息、再度頼めるか!?」
「大船に乗ったつもりでいてくださいよ、フィオナ指揮官!その代わり、周りの小粒の処理は任せましたよ!」
「マドラーシュ殿下のお弟子さんを泥船になど以ての外!指揮官、周囲の掃除は我々にお任せを!」
指揮官らしき金髪の女性の前に出るのは、私の舎弟……のようなもののガッくんだった。
ええっと、確かこの間正騎士に昇格したんだっけ?
それなら何でこんなところにいるのかが疑問なんだけど……って今はそれどころじゃない!
あのトカゲ、見たことないけど数はなかなかだし少なくともかなり素早い感じだ。
別の女性騎士が狩っているグレイウルフ辺り含め、この辺りで出てくる魔物とは一線を画すレベルなのは間違いなし。
明らかにガッくんには荷が重い……そう判断して、割り込もうとしたその時。
「ラスがいないんだったら、この俺が火付け役にならないとな!食らえトカゲ共、これが記念すべき最初の俺発祥の顕魂術『
高らかな宣言と共に、ガッくんの身から急激な魔力が迸っていた。
それと共に、彼が担う両刃剣の刀身に火の魔力が帯びていく。
そこからすぐさま炎として具現化され、前世でも見たような覚えがある龍の形にすんなり様変わりを果たす。
ドラゴンじゃなくて龍……この間のアルくんを参考にしたガッくんの意志の下でトカゲ達の行動を縛っていた。
……待って、ガッくんって確か魔法全般が不得手とか何とか言ってなかったっけ?
術って言ってたから多分あっちなんだろうけど……それにしたって、そんなすんなりと上手く行くものなのか。
まさか、アレは虚偽申告だったりとか……?
「よし、ここで一網打尽だ!各々
なんてこと考えている内に、ガッくん以外の騎士もみんな顕魂術使ってるんですけどー!?
まあ、あくまで炎に巻き込まれないようにする対火属性の簡易防御術なんだろうけれども……
既に実用段階にある、ここが何よりも何よりも大きかった。
……
そもそも、あの王城防衛戦からまだ1か月も経っていないはずだよね……?
完全に浦島太郎状態で、これでは前世的概念の引き籠りと何ら差が無いんですが。
結局、私が割り込む余裕は一切与えられることが無かった。
「ふう一丁上がり……お、やっぱり来てたんですねアニスフィア様」
「ガッくん……何で君がこんなところにいるのさ?」
「いやあ、こっち方面で人手が欲しいってことで真っ先に指名されまして。一応これでもカルリッツ様の直属ですので」
カルリッツ……って確か、グランナイツの一人でありマッドくんにとってのもう一人の父だったっけ。
スプラウト騎士団長から少しだけ話を聞いたこともある。
殊更防衛戦において特に強みを発揮する、騎士団の屋台骨やら大黒柱やら渋い呼ばれ方をされていたような。
「正騎士就任早々、随分とまあ出世したものだね……結構大変なんじゃないの?」
「それはもう、たったの2週間で既にあっちこっち向かわされてますからね……実戦経験と思えば悪いことでもないですが」
いやいや、それ絶対ただのグランナイツ式スパルタだと思う。
それはありがたいって……それは些か、どこぞのマッドくんに毒され過ぎじゃない?
まあ、セラやプリシラと同じくガッくんもマッドくんの弟子だから期待されているんだろうけれども……。
今回の件でも、街の冒険者たちは右往左往していたっていうのにこのどっしりっぷりだからさもありなんと言うべきか。
仏っぽい顔をしているガッくんだから、らしいと言えばらしいけど……。
「ところでガッくん?随分と見事な『術』を披露してくれてたねえ?」
「え?ああ、マドラーシュ様からも直に彫魂石も貰い受けたから……って、どうしたんですかアニスフィア様!?」
「あれですか、魔法が使えない私に対する当てつけってやつ!?あんな盛大に火の竜ぶつけて、ガッくんのクセに生意気だー!」
「いやいやなんでそうなるんですか……って、わわわ次来てやがるし!?」
そっちの方がよっぽど見た目魔法なんだよ!?これが羨ましくて何だって言うのか!
なんて風に、慌てふためくガッくんを追い回そうとするが、横から割って入ってきた。
さっきまで気配なんてしなかったのに……って、その辺の土くずから発生してる!?
「ちょ、そういうのアリなわけ!?」
「出てくるものは仕方ないですって!出がかりを一気に掃除しますんで、とりあえず下がっててください!」
既に経験しているからなのか、ガッくんの動きはまさに迅速そのもの。
先ほどと同じく火属性の魔力を滾らせた得物を今度は地面に突き刺す。
すると、今度は地面に罅を走らせながら炎龍が駆けて行った。
どうやらそれなりの遠くの方では、土から作られた異形が動いているようだ。
遠距離に届くように放ったのは、そちらをけん制する狙いがあるのだろう。
でもねえ……!
「むしろ近距離がお留守になってちゃあ世話ないと思う、よ!」
これ幸いにとガッくんの背後を取ろうとしていたのは、大きな鎌を持った下っ端死神然とした異形。
してやったりとばかりに斬りかかっていたから、更に横からマナ・ブレイドで一閃してみせた。
効かないなんてことは特になく、すんなりと一刀両断されてひとまずは安堵の息を吐く。
「っと……お手を煩わせてしまって申し訳ありません、アニスフィア様!」
「むしろ余計な手出しだったかもだけど、まあ何もせず手ぶらってわけにも……ぶえっくし!」
この時、唐突な熱が私の内から発せられた。
それはレイニの時と似たような感覚……そして、刻印経由の強烈な熱発生のおまけつき。
あの時以上に急なことだったから、何とか誰もいないところに顔を向けるので精いっぱいだった。
「急にどうしたんですか、クシャミなんて……あ、まさかあっちの魔力に当てられましたか?」
「あっちって……え、駐在兵以外にも誰かが戦ってるの?」
「あれ、知ってて来たものだとてっきり思ってましたが……ああほら、今ちょうどここからでも見えますよ」
促された方に目を向けると、かろうじて見えたのは……レイピア片手に大暴れしている長い銀髪の美少女だった。
私自身人脈が広いわけではないが、この条件で当て嵌まる人物はこの国ではただ一人。
……のはずなんだけど、その変わりように私は思わず目を擦ってしまった。
「え……あれってユフィ、なんだよね?」
「え、誰がどう見てもそうなんじゃあ……確かに、どこか吹っ切れてるなあって気はしますけど」
ユフィとはそこまで長い付き合いというわけではない……時間だけならばむしろ短いとすら言える。
それでも、その短さを補えるだけの濃い経験を共有はしてきた。
私が持っていないものを持っている理想の人──そのはずなのに。
あの姿からは、その面影の一片すら失っているようにすら見えてしまう。
吹っ切れたとかそういう次元ではなく……苛烈に狂気のままに捨て去ってしまっているかのようだ。
まさしく隣にいる私の同類のように……なんでこうなっちゃうのさ。
そんな遠目で眺める友の困惑など知る由も無ければ、今の彼女にとっては知ったことではなかった。
今はただ、迫りくる敵を蹴散らしながら踏み台にしながら、その背中との距離をただただ縮め……何なら一発吹かしてやりたいという欲のままに動いている。
それは、まさに闘争心ないし対抗心という獣性。
彼女の位置を揺るがし、何なら蹴飛ばす存在が次々と現れたからこそ得ることが出来た……飛躍の火種。
ただでさえ燻っていたところに着火したのだから、その勢いはかの破天荒の想定をも超えるほどである。
「ったく、信仰対象をも利用するとは手癖が悪くなったもんだな!悪役令嬢ユフィリアとして君臨するのも時間の問題ってか!」
「あらゆる手段を以て上を向き突き進む、それは何も貴方だけの常套手段ではありませんよマッド様!『フレイムシュート』!」
『ファイアストーム』などの熱風系統を一方向の指標にまとめた一撃が放たれる。
今度は火属性と風属性、2種類の精霊を取り込んでの術行使だがその効力は初手と同じく上々と言うべきか。
ユフィリアの眼前で行列を作っていた下っ端風な悪魔たち、その6割ほどを焼き払っているのだからその威力は推して知るべし。
「流石に、これで倒しきれたら苦労はしませんか。ならば接近戦で……!」
とはいえ、先日と違って確かな手応えはある。
それは些細だが、十分大きな自信に繋がっていく。
初撃に続いて更なる勢いに繋げてしまえと、ユフィリアの行動はこれまでにない迅速っぷりを見せる。
上手いこと残存した強化魔力を、今度は爆発的加速に活かして残った雑魚を散らしに全速前進にかかる──が
「やれやれ、ビギナーズラック全開は勘弁しろっての……」
世の中落とし穴が潜んでいるのも常というもの。
恐れ慄いている残存悪魔たちへの追撃に気を取られれば、脇の注意が甘くなる。
とはいえ、その隙が命取りである。
死角への思慮が欠けたユフィリアに対して、虎視眈々と奇襲を狙う影は地中に潜んでいたのだから。
そんな悪魔らしさ全開の狡猾っぷりを理解し、挙句先駆けの一手を打てるのはやはりこの男。
乱戦でこそその手の悪意は真価を発揮するもの。
短い期間で悪魔やら悪魔憑きを相手取ったマドラーシュにとっては、ある種の同類……故に理解するのもそうかからず。
故に、逆利用することで対処は可能──年不相応な老獪さ、経験に基づくとんでもない周辺視野はここでも発揮されていた。
今回、先の更なる先として放たれたのは十八番の一環である
鞭という名の鎖には僅かばかりの黒竜由来の呪詛が含まれており、獲物は強制束縛状態である。
「こうなっちまえば、俎板の魚ってやつだ」
無力化を確認するや否や、即座に居合の構えを取る。
そして、自然体に限りなく近づけながら千紫万紅を抜き放って見せた。
極薄の水属性魔力を刀身に纏わせることで、その斬撃性能は瞬間的かつ飛躍的に高められている。
結果、咄嗟に飛び出た軽口の通り……ブレイド達は反撃の暇も与えられずまばらな分割死体に早変わり。
何気に偉志ノ大陸にいるであろう友人の技を模倣しているが、細部が異なるので言いっこなしというのが破天荒談である。
「……横取りなんて、随分と余裕がないのですね?」
「自信過剰は自滅を招く。お前の今の技量じゃあ筆を選ばずとは行かねえんだ、多少は弁えろっての」
マドラーシュが横槍を入れたのは、単にユフィリアの注意散漫が理由だけではない。
そもそも、今のユフィリアの使っている武器は汎用品のレイピアなのだ。
魔力に合わせたオーダーメイドであるアルカンシェルとは何から何まで勝手が異なる。
そこから生じるであろう不利は、かつて武器を散々壊してきたマドラーシュは痛いほど理解していた。
「……アルカンシェルが無いなら、それ相応の戦いをするまでのこと。マッド様こそ、変な手心を加えながら後で言い訳はなしですからね?」
「面倒な頑固者だねえ……まあいい、だからこそ張り合いがある!」
ますます激化する売り言葉に買い言葉。
新たな自信を持ったユフィリアと、その危なっかしさに野次を入れながらもさりげないフォローを入れるマドラーシュ。
一見すると滅茶苦茶で、噛み合いなどあってないような雰囲気と捉える者が大半だろうが……ジュンだけは違っていた。
(明らかにお兄様は遊んでるけど、それでもよくもまあ食らいつくものね)
2歩ほど引いたような立ち位置で、同じく雑魚処理を徹底していたからこそ見えている。
競り合いながらも成果は上々という様子は、彼女としても苦虫を噛み潰しながら舌を巻かざるを得なかった。
(自身の才と向き合い直してる最中ってところかしらね……忌々しいけど、合理的だわ)
ユフィリアが行っているのは、一時的に精霊を自身に取り込み──挙句掌握下に置く独自技術。
本来ならば祈るという形式で魔法の触媒になる精霊を、逆の指向性の魔力で手繰り寄せては己が力として内包させてしまう。
精霊の申し子と呼ばれながらも魔学や顕魂術という異端に触れた、まさに今のユフィリアならでは。
自身と同様悪魔という未知の脅威に怯えている様に共感しながらも苛立ち、積み上げた鬱屈を爆発させた結果起こしたそれをやりたい放題と言わず何と言うか。
お陰で、未だ叩きつけられる悪魔たちの悪意を受けても折れない自我の獲得にも繋がるというおまけつきだから笑うに笑えない。
(ああ、だからこそますますもって気に入らないわね。ポッと出の分際であそこまで加護を貰えて……ムカつくったらありゃしないわ)
足手まといが減るのは確かに素晴らしいことだが、それでも敵視の対象であることに変わりはない。
……とはいえ、その目から嘲りの情が消えたのはすなわちそういうことで。
彼女の根本もまた、何だかんだマドラーシュと似通っている……今はそういうことにしておこう。
当の本人は与り知らぬところで評価が上がっていることを露とも知らず、ではあるが。
「──ここらで一気に突き放させて頂きます。『アシッドレイン』!更に『グランドダッシャー』!」
酸の雨が部分的に降り注がれ、更に自身の位置を基点とした魔力由来の地走りも同時に引き起こす。
未だ止まる気配の無い魔狼たちに向けその連続術は放たれ、緩んだ地盤に足を取られては魔力的土砂の暴力に巻き込まれる。
こうなっては当然為す術無しで、有言実行と言わんばかりに殲滅カウントを激増させていた。
──そして、そんなところにどこからともなく降り注がれるのは幾重にも重なる雷撃。
「これだけ倒してもまだ湧いてくるのですか……!」
殲滅攻撃直後を狙った悪意マシマシの一撃、それを放ったのは悪魔憑きの魔狼たち。
取り憑かれてようとも薄っすらと残っているのか、野性的な勘でスキを察知したのだろう。
とはいえ、いい加減ユフィリアも慣れてきたのか……かろうじて発動の感知が間に合わせて見せた。
そこから魔力の発生源の方角を向き、反撃体勢に入るが……これでも時すでに遅し。
「殲滅する時は右左確認してからってな?」
少し視線を外した隙に、あるはずの光景はすんなり様変わりしてしまっていた。
その先にあったのはきっちり解体された魔狼たちの姿と、何てことない風の破天荒。
セイリオスと千紫万紅の血を払うその姿は、お約束が如く一切の返り血すら浴びてすらおらず。
彼の実の姉がもたらした、似たような状況を見たことがあるが……それに比べたら、あまりにあっけなかった。
「……もういっそ、暗殺者に転向した方がよろしいのでは?」
「こんなんただのこういう落穂拾い、本場の連中の影も踏めてねえだろうがよ」
範囲殲滅を完全に相方任せとして、その上で脇を狙う輩に照準を合わせて更なる間隙を縫う。
傍から見れば体力温存が主という狡猾な面が強く出ているが、見方を変えれば徹底的な役割分担とも取れる。
足手まといだ何だ言いながらも援護に回らせた、それ即ち多少は戦力として見てくれているということ。
ある意味、この場に割って入った目的の一部は既に為されていたりもする。
無自覚の可能性も踏まえて、あえてユフィリアから口に出すつもりは更々無いようだが。
「やれやれ、この分だととっくに逆転じゃねえか?」
「斬りすぎて算数すら忘れてしまいましたか?まだこちらが3点上ですよ」
「へえ、こっちの分まで数えてくれてるとはありがたい。せいぜい手元が狂わない程度にしておけよ?」
「……あくまで虚偽申告を防ぐためです、勘違いしないでください」
当然ながら、そのカウントはついででしかない。
勢いづいては憎まれ口を一気に増やしてこそいるユフィリアだが、裏ではきっちり理性も働かせている。
今回の競争においては相手を虎視眈々と観察することが必要だということは重々理解しているのは言うまでも無く──そもそも、ようやく巡ってきた機会をフイにするほど愚かでもない。
これまでは色々な人間の伝聞のみで、間近で見ることが叶わなかったのだから猶の事。
ここぞとばかりに注視するのは当然のことだが……傍から見れば随分な熱視線に見えなくも無い。
当人がそんな野次を聞けば、間違いなく火を噴くように否定するだろうが。
「……随分と調子に乗ってるじゃないのよ。バカの一つ覚えみたいに精霊纏って暴れ散らかしちゃってまあ」
「殻を破ったってだけでも評価できるさ。ラス達に同行した僅かな経験も生かしてるのも加点だ」
「はあ……甘やかしすぎたらどうなるか分かったものじゃないわよ?」
「おいおい、これでも元々が貴族ってことでそれなりに厳しくしてるつもりだが?なーに拗ねてんだよジュン」
「はあ!?拗ねる必要なんてどこにあるってのよ……っ!?」
無自覚な義兄を更に叱り飛ばそうとしたところで、その圧は突如発せられた。
気のせい……かと思ったが、すぐさまそれは無いと理解する。
マドラーシュとユフィリア、更には周囲の悪魔やら悪魔憑きまでも何事かと動きを止めていたのだから。
そんな中、徐々に圧は強くなり……遠くの空間が突如裂かれる。
「雑魚共が随分と騒がしいから何事かと思えば、随分と活きのよい餌が多いようだな!」
裂け目から現れたのは、巨大な獣人染みたナニか。
大きさも当然ながら、そのディテールも他の悪魔とは一線を画していた。
一切隠すことない、獰猛で豪快極まる魔力はその場を震わせ……精霊どころか同胞すらも慄かせる。
(……これまでとは段違い、見た目だけでその格は理解できるところですね)
理性的に観察こそ出来ているのがユフィリアにとっては救いとも言えるか。
魔力として取り込んでいる精霊が再度ざわめいているせい、ということもあるのだが……。
どちらにせよ、このまま対峙するべきかどうか──その判断を仰ごうと、横を向くと。
「おおー、ようやく本丸のご登場ってか?ほれ解説役、仕事が回ってきたぞ」
「誰が解説役よ……連中の使役予定リストにあった上級、その名もゴリアテ。まあ、そこそこの当たりね」
「あーそうそう、名前が身体を顕すゴリラっぽい悪魔だったな!はは、実物はより筋肉オンリーみたいだ!」
『この状況を前にして、何で平常心丸出しなのですか!?』──と、空気を読まずに横槍を入れたくもあった。
せっかく克服したというのにそこをすんなりと上回ってくるのだから……余計に凹んですらいた。
そこに、同じ圧を感じながらも楽しそうにするマドラーシュとジュンと来れば……ユフィリアの心境は言わずもがなであった。
──ついでに、そんな珍獣を見るような感想を向けられたゴリアテの方も既に青筋が立っているようだ。
「貴様ら……人間の分際で、この俺をコケにするか!」
ゴリアテと呼ばれた巨大悪魔がけたたましい咆哮を上げながら取った行動は一行の予想を裏切るものであった。
てっきりその剛腕を純粋に振るうかと思いきや──周囲に散らばる死骸を手に取りだし、胴体にある第二の口で食い破るという奇行。
ただの捕食行為かと思いきや──その摂取物を即席の火属性魔力に変換するという曲芸を見せていた。
その濃度たるや、溶鉱炉やら火山口をも思わせる熱気っぷり。
当然ながら、こんな真昼間の平原で起こしていいものではなかった。
「吹き飛べ、ザコ共がぁ!」
「しまっ……!?」
まるで品性が見当たらない第二の口から放たれるのは、単純ながら強烈な火炎魔法といったところか。
とはいえ、その威力はまさしく大悪魔の放つに相応しいもの。
余波に当たる魔力圧と熱風でも危うく吹き飛ばされかねないほど。
というより、周囲の下っ端は既にどこぞへと吹っ飛ばされており……圧に呑まれかけていたせいで、一歩反応が遅れたユフィリアも万事休すかと思いせめてもの緊急措置を構えていた。
……が、その備えはあっさりと必要なくなってしまった。
「少しは芸に通じているようだが……それだけじゃあやってられねえだろ?ほれ、他にもっと無いのか?」
貴族令嬢を抱えて助ける主役、知らない人間からすれば黄色い声援待ったなしだ。
いくらユフィリアとて、安堵と共に赤面の一つでもしてもいい場面だが……救助などもののついでなんて姿勢を見せられたら、冷めるのも一瞬だ。
襲撃者をおちょくって挑発する方を優先しては色々と台無しにしてしまう、まあマドラーシュらしさ全開ではある。
……それでも口を尖らせたくなるのが、悪役方面に転じた令嬢ならではだ。
「……そんなしょうもないことを聞いてどうするのですか。というより、喧しいので音量を落としてください耳が痛くて仕方ありません」
「音量調節くらいセルフサービスでやっておきな。初の上級悪魔相手に萎縮してるお前にはちょうどいいと思ったんだがねえ……」
「萎縮なんてしていませんが?──そもそも、こんな大物が出て来るなど全く、一切合切、一言も聞いていないのですが?」
「雑魚散らしに徹すればいずれボスのご登場、この界隈のスタンピードではお約束ってな。こっち側の教科書では出てくるから、よーく覚えておくように」
「そんな教科書、絶対に世に出させたりしませんのでご安心ください」
「……アンタ達、もうちょっと場を弁えた方がいいんじゃないの?」
あまりのあっけらかんな返答を前に、もはやユフィリアもヤケクソ気味に返してすらいた。
戦場におけるクレイジー全開破天荒と肩を並べるのは実はこれが初めてだが……とっくに同レベルの言い争いをしている時点で彼女も似たり寄ったりだ。
何だかんだ、マドラーシュの唯我独尊っぷりに食らいついては噛みつく様はまさしく痴話喧嘩。
あっさりと緊張した空気が解ける様子に、第三者となりつつあるジュンは溜息を吐くくらいしか出来ず。
蚊帳の外になりつつあるゴリアテは……意外にも冷静な姿勢を見せていた。
「さっきから喧しいと思っていたが……そこの小僧。貴様からは随分と質の良い魔力を感じられるな」
より詳細な品定めを終えた結果、飛び出た言葉は意外にも賛辞そのもの。
とはいえ、向けられた視線は更に鋭く──文字通り獲物を前にした捕食者のソレになっていた。
ターゲットとなった本人にとっては、まさにそよ風でしかないようだが。
「そいつはどうも。で、それを知ったところでどうするつもりだ?」
「決まっている。貴様の血肉を一片ないし一滴残らず食らい尽くし吸い尽くし、近い未来魔界の王となるこのゴリアテ様の糧としてやるのだ!有難く思うのだな!」
「あらあら、随分と気に入られちゃったようねお兄様?」
「って、そんなことを言ってる暇があったら──っ!?」
雑気味に設置された空中足場、ユフィリアはそこに雑気味に放り投げられる。
あまりな扱いに文句を言おうとするもつかの間、マドラーシュは既に第一村人としてデコイとなっていた。
そんな中、ゴリアテは先ほどと同質の魔力を全て突進に費やし……巨体に似合わないスピードで突進。
速度と質量、そして魔力……単純にして強烈な三要素をそのまま暴力に変換していた。
1秒にもならない一瞬、その直後には破天荒の身はまさにトマトが如く、無残にすりつぶされていること間違いなし──
「魔界の王を狙うってんなら、もうちょい頭を丸くした方がいいんじゃねえの?継承権捨てたこの俺が言える義理じゃねえけどな」
なんて退屈かつ単純な道理をこの男が通すはずも無かった。
代わりに発生しているのは、豪腕同士の取っ組み合い。
最小限のアクションと共に炎魔の腕を具現させ、きっちりとゴリアテの不意打ちを相殺しきって見せていた。
「貴様、何だその腕は!?その辺の雑魚から奪ったのか!」
「おいおい、強盗扱いは勘弁願うぜ?ただの戦利品だっての」
「この、どこまでもヘラヘラと舐め腐りやがって……ならば更に出力を」
「これ以上汗臭くするってんなら、一旦並び直しな──『エヴォリューション・バースト』!」
魔力の追加注文をするその刹那を狙った、雷と光の混合魔力の号砲。
空いた左手で握っていたセイリオスの先から機光竜の首の一つが現れているので、規模こそ小さくとも威力はかなりのものだった。
致命傷を与えるには当然至らないが、巨躯をぶっ飛ばすには十分である。
「……引き付けて反撃なんて、もう少し上手いやり方もあるでしょうに」
「あら、この程度で根を上げるなんて随分ヤワな心臓をお持ちね?」
「あれだけの相手に対しても減らず口、挙句わざわざ無用な危険を侵す方がどうかしているのでは……?」
なんて口を尖らせるが、内心ユフィリアは安堵の息を吐いていた。
冷や汗ものの攻防を間近で見ていたから、というのもある──が、それ以上に。
「もう、目は潰すような真似はしなくても大丈夫なのですね?」
「五感を潰すのもなかなか悪くない経験だったけどな。何だ、その手のパフォーマンス希望か?それなら今度は……」
「絶対にやめてください、今度はどこを削るおつもりで……って、え?」
アルカンシェルがあればハリセン待ったなしなツッコミを入れながら、ユフィリアは違和感を感じていた。
疑問符を浮かべながら、ユフィリアは目を擦りながらも再度マドラーシュの方を見る。
正しく言うなら、彼の横には……本来ならばあってはならないものが残っていた。
「何故、龍が未だその場に留まっているのでしょう。それと妙に覚えのある気配がするのですが……?」
「ああ、これか?なあに、どっかの誰かさんが精霊を魔力として取り込んだのを見てちょいと閃いてね」
「おかしいですね、春の訪れはとっくに……更には堂々と盗用宣言ですか」
「魔法が使えないのと精霊が感知できない、これがイコールなんて誰が決めたのか?ってことで、俺が反証してやろうと思ってやってみた……後、誰が盗人だこんにゃろう」
強いて言うなら、それを決め込んでいたのは彼の姉君だろうか。
実際彼女は精霊の気配を感じ取ることが出来ない……ユフィリアはそう聞いていた。
しかし、同じく魔法が使えないマドラーシュからはそんな証言をいっぺんたりとも聞いていないことも思い返す。
……そして、そのとんでもない仮説に辿り着いてしまった。
「まさかっ……後発的に精霊を感知できるように?自身の感覚を、そんなところまで昇華させたとでも!?」
「一歩先でただの二流。二歩目でかろうじて一流。三歩目にしてようやく、常識の外が垣間見えるというものだ」
「どうなってるのよその基準……まあ、らしいと言えばらしいけど」
彼にとって、一流と認める人間はそれこそ多くは無い。
更にその先となれば、それこそ……敬愛してやまない彼らとその他少々であろうか。
この発言は、いわばそちら側に行くための意志宣言とでも言うべきか。
そんな豪語と共に左手に握られるのは、長らくの愛剣であるセイリオス。
闇属性の魔力を纏わせながら振るわれた深海色の剣は、緻密な魔力制御と共に一定の音階を放っていた。
「……なるほど、まずは調和の女神様ってわけね」
「それは一体どういう……!?」
音階は三つの昏い光の輪を象り、機光龍の方もいつの間にか五つの光点に様変わりしていた。
術者の魂の一部と言える魔力が前者ならば、後者は差し詰め指揮下にある精霊であろうか。
ユフィリアが精霊を魔力として取り込んだのであれば、こちらは己が魔力で精霊を調律しているとでも言うべきか。
精霊を御するという意味では同じでも、より精密に扱っているのはマドラーシュの方である。
「万物を睥睨せし絶対なる覇者よ!千篇一律の天地を揺るがし、血の饗宴を巻き起こせ!」
舞台上と見紛いかねない仰々しい詠唱、空いた右手で天を指す。
あまりに堂々と宣言しているからか、本当に舞台の中央を陣取っているかの幻覚すら見えかけるほど。
その光景を彩るが如く、異なる2種の光は眩く輝き……。
それらは、見事なまでに
「調和と共に顕現せよ、我が魂!『レッド・デーモンズ・ドラゴン』!」
マドラーシュがもたらした調和を模した光から、ようやくその身を曝すことを許された紅蓮の魔竜ないし炎魔の竜。
まさに禍々しくも雄々しく──戦場という舞台に君臨せし主役であり覇者で、術者の精神の写し身とも言える。
第一声に当たるその咆哮は、世界に降りた直後の産声にしては猛々しいことこの上なく。
時代を切り裂く破天荒のやりたい放題は、この時また新たな段階へと突入した。
というわけで、遂にや り ま し た
技名は出ていても、本体は出てこない……なんて思ったかあ!?と言わんばかりのシンクロ召喚です。
流石に『レベル5のサイバー・ドラゴンに、レベル3のダーク・リゾネーターをチューニング!』は省略です、レベルってなんやねんですので。
バイスリゾネーターならぬサイドラリゾネーター……まあ、実際シンクロ出始めた時のサイドラは格好の素材でしたからねえ。
実のところ、モチーフだけで留めるか本体を出すかは結構長い間悩んでいました。
が、ふと『シンクロ→チューナー→調律→調和……あっ』となってしまったのが運の尽き。
ついでに、『原作に精霊顕現あるなら別に問題なくね?』ってことで凶行に至りましたとさ。
口上については、本家のものを部分的に繋げつつ本作風に纏めてみました。
それだけでなく、しれっと登場する最初のボス系悪魔その2のゴリアテ君(明確には最初のボスはユリゼン1回目かクリフォトルーツだけど、そこは密に、密に)
どこかで見たことあるやり取りだったり、それに振り回されかけながらも頑張ってついてく健気なユフィリア様だったりけっこー色々書いたつもりです。
最近沼に嵌った歴悪のあのカプにも影響されたお陰で、それはもうノリノリで皮肉やら憎まれ口の応酬が書けて楽しくて仕方ない。
なお、そんな変なイチャつきを見せる二人を見て姉上は何を思うかもジワジワ気味に書きたいですね
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)