転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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長らく書きたかったんだけど、色々あってかかってしまった。
ユフィリア様猛攻回第4弾ですが、これまでとは一味違います。(多分)



102. 令嬢は狂戦士の魂の一端を会得したようです

 

『どれほどの格上だろうと、何だかんだで勝ち筋を手繰り寄せる』──あの人をよく知る者は、必ず口を揃える。

かくいう私自身も、二度だけだがその異端性を垣間見る機会に恵まれていた。

黒の森でのドレッド・ドラゴンと王宮での疑似大精霊となったモーリッツ……どちらも、ただの人間が相対するには強大極まる相手なのは言うまでも無く。

それでもマッド様は勝者の座をもぎ取って見せた……そここそが自分の定位置だと言わんばかりに。

だからこそ、負けるなんて心配はこれっぽっちもしていなかった。

慣れ親しんだ濃密な魔力と共に、快晴なのに一筋の雷が降り注ぎ、直後には紅蓮の竜が渾身の掌底打ちを叩き込まれ、きっと念には念をと縦一文字に切りつけ。

流麗とはまさにこのこと……これまで見た通りの、まさにあの人らしさ全開の終幕であった。

それを見届けるや否や、私は既にそちらに全速前進でと言わんばかりに駆けていた。

 

(……ああ、そこも相変わらずでしたか)

 

……あくまで負ける心配をしていなかっただけのことだ。

先ほど述べたマッド様を象る異端っぷりは、言い換えれば勝利への異常な執着と執念。

先ほどの『何だかんだ』の部分はとんでもない振れ幅がある……それも上の方だけ青天井という物騒なおまけつき。

今回もまた、どれほどの無茶苦茶を押して勝ちに持っていくのか……そこだけがとにかく気がかりだった。

だからこそ、先ほどの殲滅の最中でもちらちらと何事も無いか確認していたわけで……。

 

「あら、これはまた珍しいですねマッド様。主役たるもの、舞台の上では最後まで立ち続けるものでは?」

 

思わず厭味な言い回しが出てしまったが……それは仕方ないですよね。

駆けつけて早々、色々と疲労困憊なご様子なバカ破天荒な姿を目の当たりにしてしまったのだから。

何でこうも易々と、私の嫌な予感を遠慮なく踏み抜いて行くのでしょうね。

 

「随分な挨拶だな……っていうか、まさか雑魚殲滅をほっぽって来たんじゃねえだろうなおい」

「どこぞのおバカさんがまた予想だにしない暴れっぷりを見せないか、気が気でなかったもので」

「自分を差し置いてこの俺の心配とは、ユフィも随分と偉くなったもんだな……っておい、疑惑の目を向けながら近づいてくんなコラ」

 

先ほどまでの覇気が弱まっているからか、尖った口調も強がりにしか聞こえなかった。

いつもならばもう少し余裕のある、それこそ皮肉たっぷりな返しをしてくるはず……この差異には違和感しか覚えず。

まるで野良猫のような警戒っぷりを見せるが、それに怖気づくことなくその場で感知診断を開始する。

セリアードやプリシラには程遠いが、それでも並の感知は出来るくらいだと自負している。

少なくとも、私にとって一番知っている魔力ならば……って

 

「何でこんなに魔力が減ってるのですか……って、それは聞くまでもないですね」

「別に腕や足の一本をくれてやったわけでも、まして視覚やら聴覚を破棄したわけでもないんだ。気にすることでもねえだろうに」

「普通の魔法使いや顕魂術を使う者ならばまだ納得できます。しかし、マッド様とあっては話は大きく変わってくるのでは?」

 

マッド様の顕魂術はとにかく魔力消費効率の良さが最大長所だ。

これもまたあらゆる人物からの共通認識で、それこそここ数年は魔力切れどころか、最大貯蔵量の半分も使ったことがあるかも怪しいというトンデモ証言もあるくらいで。

そんな人間の皮を被ったバケモノが魔力枯渇に近しいなど、天変地異の前兆ですらある。

それを引き起こした、先ほどの紅蓮色のドラゴンを召喚した術にもそれが言えることでしょう。

精霊も巻き込んでいることも考えれば、相当緻密な魔力制御も必要でしょう……それをぶっつけ本番で為してしまったのだ。

どう考えてもこれまでの顕魂術とは桁違いの規模の要求値が求められていて、それこそ単に呼び出しただけというわけには行かないはず。

果たして本当に魔力過剰消費だけが疲労の原因なのか──

 

「……これはきっちり確かめる必要がありますね。というわけで失礼します」

「イターッ!?ちょ、オイコラユフィいきなり触るんじゃねえよ!?」

 

ぱっと見では、衣服があまり乱れていないから分かりづらかったが……少し触っただけでこの反応とは。

気が抜けていた、というのもあるのでしょうが……この痛がりようは黒確定だ。

ある程度の面倒事を放ってでも駆けつけた甲斐があるというもの、これならば痩せ我慢の隙を与えることはせずに済む……

 

「……治癒をかける前に詳細を診ておきたいので、あまり暴れないでもらえませんか?」

「いらねーよそんなもん……どうせ打撃痕か火傷ばっかりだろうし、それくらいならツバつけとけば治る」

「そんなあっさりと治る傷ではないでしょうが……相変わらず、いらぬところで頑固ですね」

 

まあ、既に主導権は私が握っているのでどうとでもなりますけれども。

そうですね……分からせる意図も兼ねて、あえてキツめに行きますか。

 

「ぐおっ!?──おい、傷口に塩を塗るような魔力注ぐんじゃねえよ!?わざとやってんのかコラ!」

「え、別にそんなことはありませんが……ただの医療行為ですので我慢してください」

「今の間からしてぜってー良からぬことを考えてるのは丸分かりだぞおい」

 

……まあ、これまで散々やられっぱなしだった分のお返しは大いに含まれていますけど。

それも含めての自業自得、クリスティーナからも強気に出てしまえと太鼓判は頂いている。

よって、これくらいは許容範囲……誰が何と言おうとそういうことにしてしまえばいい。

『大したことないって言いながら酷い傷すらも隠すから、いっそ奇襲して痛がらせてしまえ』──二度も直面すれば、確かにその通りですね。

 

「申告通り、打撃痕と火傷までですが……何でこんなに数が──まさか、あのドラゴンと傷を共有していたとか?」

「……あれだけの巨体同士で殴り合ったり火炎合戦の取っ組み合いだ。これくらいは割り切らねえとな」

「ぶっつけ本番で起きた想定外をそんなあっさりと割り切らないでください」

「時にはそういうアドリブが要求されるのも舞台主演ってやつだろうに。俺はそこに殉じて動いているだけで、とやかく言われる筋合いは「あ、魔力が滑りました」オイコラ生殺与奪の権利を主張するように痛めつけんじゃねえ!」

 

ならば少しはそのトチ狂った口を閉じてください……全く、こちらの気も知らないで。

クリスティーナやエリオが頭を抱えるのも無理はありませんね。

しかもこれを10年も続けているのだから……もはや尊敬の念が絶えませんね。

そんな彼女たちから役目を継いだからには、私も腹を括らなければならない。

 

「……これでとりあえず応急処置は完了です。次は清算に移りましょうか」

「清算って……ああ、あの賭けについてか。あの脳筋の横槍で色々あやふやになっちまった気もするが……」

「え、その程度ならば当然続行ですよ?そしてその結果、大体倍くらいの差で私の圧勝となりましたが」

 

変えようのない結果を淡々と口にすると、一瞬だがマッド様の時が止まってしまっていた。

ほんの僅かな静止の直後、目を白黒させ……いきなり額に指を当てだした。

見事なまでに混乱しているようで、これだけでも少しは『してやったり』と胸がすく思いだったり。

 

「……あー、しれっと幻聴効果も貰ってたのか?それとも俺の耳、いつの間にかおかしくなったか?」

「五感は特に弄ってないと先ほど自己申告していましたし、他の要因による魔力の乱れはありませんからご安心を」

「だったらなおのこと意味が分からんのだが?一体どういう理屈で俺がボロ負けだってんだよ」

「あくまで『討伐数』で決めるという取り決めですからね……何もおかしなことではありませんし、第三者がいても同じことではないかと」

 

言ったもの勝ちに聞こえるかもしれませんが、別に私はおかしなことはこれっぽっちも言っていない。

実際のところ私たちの間でそう取り決めて、言質も取ったのだから。

きっちりその証拠も切り取ることが出来れば、確実に詰められたのでしょうが……そんな都合のいい技術は存在しない。

 

「……一応こっちはあの脳筋野郎を狩ったから、そこのところを考慮に入れて欲しいんだが」

「『討伐対象の規模』を考慮するなんて許した覚えはありません。どれだけ討伐対象が大きかろうと1点は1点です」

「労力と点数がまるで割に合ってねえ……ああなるほど、これが分かってて役割分担にすんなり頷きやがったのか」

「お遊びと適当に流すのではなくきっちり細かいところも詰めるべきでしたね」

 

脇の甘さをこれでもかと見せつけたマッド様に落ち度があるのは言うまでもなし。

こうなるように仕向けたのでは?と問われれば否定は出来ません。

とはいえ、私もマッド様に散々してやられた身なので……これくらいは可愛いものではないかと。

ここぞとばかりに眼力を強め、絶対にそこだけは妥協しないという意思表示を続けると……ほどなくしてマッド様は白旗を揚げたようだ。

 

「ああくそ、仕方ない……すっげえ癪だが、今回のところは特別に譲っておいてやる」

 

せめてもの減らず口を聞いた瞬間、『よし』と拳を握り締める。

引っかかった自分が悪い、泥沼に拘るくらいならば仕方なしと前に進む方が建設的と……狙い通りですね。

──なかなかにずる賢くなったなと我ながら感心するところでもありますが、これも色々と学んだ成果。

要するに、私がこうなったのもマッド様自身が原因……言うなれば自業自得でしかない。

 

「では早速──勝者の権利を執行するといたしましょうか」

「ちっ、やっぱ忘れてなかったか……自害しろとかレオン先生ないしデイジー師匠に勝ってこいとか、そういう無茶苦茶はナシだからな?」

「……そんな物騒ないし意味不明な要求を私がするとでも?」

「だったらその不穏な空気をどうにかしろよなあ……って、おい今度は何だよ!?」

 

精霊を取り込んで魔力を強化、意図的に火事場の馬鹿力を発揮しては強引にこちらへと向き直させる。

これもまたクリスティーナから受け継いだゴリ押し戦法の一つ……そこに加えて、胸倉を強く掴む。

流石にやりすぎではって?……ナマリエに読まされた最近流行ってるらしい小説の受け売りであり、もう少し虚を突きたかっただけ。

とはいえ、これにはマッド様も完全に為すがまま……逃げ場も隠れ場も無しとはこのこと。

 

「私の要求はただ一つです。いつまでものらりくらりしないで、この場で私と婚約していい加減責任を取ってください」

 

そんな袋小路に囚われた破天荒に対して、私は華麗に引導を叩きつけてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二名の超越種が助力がてらと地上に降り立った時には、既にある程度事は済んでしまっていた。

彼女たちの弟分が相手勢力の大物を撃退し、そこを皮切りに雑兵たちは恐れを為して撤退していく。

そこに追撃をかける様を見届け、今回もきっちり最大戦果を挙げた大将を労いに向かったその時──一世一代とすら称せる大爆撃口撃が起こった。

 

「わーお、あのマッドに対して胸倉掴むなんて……思った以上にやるじゃない、あの娘」

「その上あの物騒な婚約宣言……年不相応の百戦錬磨とあれど固まるのは致し方ないのでしょうか」

「カルシオンならまだしも、レオンやイグノックスがその辺りを仕込むなんてまずあり得ないでしょうからねえ……」

 

突貫を貰った当人が固まっているのをいいことに言いたい放題である。

とはいえ、あの年不相応で生意気とすら称せる不敵全開の破天荒がこうも振り回されるのは稀有以外の何物でもない。

紫の刃や変装マイスターなエルフがいれば、まず間違いなく大爆笑の嵐が起こっていたこと間違いなし。

そうこうしている内に、その異常事態に感づくギャラリーも増えていく始末。

果たしてここからどうなるのか──ニケとアポロンの内心は九分九厘の躍動感という有様であった。

 

「あー、コンニャクないしコニャック?随分と変な要望だが、腹でも減ってんのか?」

 

そんなワクワクから、『なんでやねん!』とズッコケるのは一瞬であった。

本当に聞き間違えたのか、はたまた聞こえないフリか現実逃避かは判断がつかないところ。

それでも、あまりに空気を読まない……デリバリーならぬデリカシーが無い発言である。

これには流石に爆発か──と思いきや、ユフィリアは微笑を浮かべていた。

……どことなく氷属性の魔力が漂っている気がするが。

 

「はあ……相変わらず困った人です、ね!」

 

胸倉から手を離す形で一瞬を自由を与えるが、それが却って虚を突く形となる。

直後、マドラーシュの背後に空気の壁……『エアハイク』の亜種が発生する。

その結果、屋外それも平原のど真ん中で壁際に追いやられるという珍事──後ほどニケはこれを『エア壁ドン』と噂にばら撒いた。

逃走絶対不可避の状況、そこからユフィリアは耳元に迫り……

 

「聞こえなかったようなのでもう一度だけ──私と婚約してください。いいですか、こ・ん・や・くです。これなら聞き間違いようもありませんよね?

 

わざとらしく息がかかるように囁いてみせるユフィリア。

この時に限った話だが、妖しさに勝るその雰囲気はまさに年に似合わずといったところ。

 

「いちいち耳元で囁くんじゃねえよおい!?くすぐったいから今すぐ止めろ、んでもって離れろ!」

 

まさかのとんでもない不意打ちに、流石のマドラーシュとて動揺を隠せず。

完全に主導権を握られている状態で、画面上部にモラルゲージがあれば間違いなく真っ赤間違いなしであろう。

 

「ナマリエから借りた書物の一節通りにしただけでここまでの効果覿面とは……我ながら驚いてます」

「あのドアホスイーツ脳から借りた上に参考にしてんじゃねえよ、お前までスイーツ脳になる気か!」

 

もはや『無慈悲な主演』は見事に振り回され放題である。

先ほどまでの悪魔相手の立ち回りとは打って変わり、完全に受け手に回らざるを得ない。

この上ない屈辱、ないし恥辱──しかもそこから逃避すら出来ないのだから猶更洒落になっていない。

これが殺し合いの場ならばどうとでも反撃は出来たのだろうが……生憎彼にとって管轄外の領域。

傍から見れば意外でしかない弱点露呈だが、これを読んでいた者が少数ながらいたというのも笑えない話だった。

 

「そもそもお前はこの間アル兄さんとの婚約解消したばっかだろうが!前にも釘を刺した気がするが、そんなに尻軽扱いされたいのかよ!?」

「こんな状況でも私の心配なんて、相変わらずお優しいことで──ですがそこのところはご安心を。この件は私の発案ではありませんので」

「……お前のその言い草……おい、まさかそういうことか?」

「ええ、先日陛下と王妃様から打診がありまして。ついでにお父様も納得ずくなのであしからず」

 

マドラーシュの想定していた最大の障害=希望、それは自分の立場から来る微妙極まる状況。

兄であるアルガルドとの婚約を解消してからそう間を置かず、今度は弟である自身とそんな関係になるなど普通なら滅茶苦茶だろう。

傍から見れば、この状況下において最も理性的なのはマドラーシュであるのは明白……何とも皮肉な話だが。

他の面々を考慮すると、ラス達はそもそも好意的に見ていると報告があったのでむしろユフィリアの追い風ですらある。

何より凶悪なのは、陰の師として暗躍(破天荒比)が見受けられるクリスティーナの存在であった。

彼女がGOサインを出しているということは、エリオやデイジーは勿論ラインヒルトの後押しもあると疑えもする。

完全に外堀が埋まっているとはまさにこのことか。

しかし、それでもマドラーシュの矜持(プライド)は折れる気配は微塵も無かった。

 

「まだまだ抗うのですね……なんだか可愛く見えてきました。なるほど、これが『尊し』という概念……」

「んなアホ概念理解する暇があったらキュイから悪知恵の一つでも学べ。というかさっさと離れやがれ、暑苦しいわ」

「え、絶対にやです。せっかく主導権を握ることが出来たことですし、もう少しこのままでいさせてください」

「……ああくっそ、物見遊山が来て完全に珍獣動物園じゃねえかよこれ!」

 

そもそも物理的に迫られている現状がほぼ詰みなのだ。

一応逃げる術は無いわけでもないが、あまりに荒っぽくなって洒落にならなくなる──その一線だけは踏み越える気はない。

その拘りもまた、自らの首を絞めているのが悲しいところなのだが。

そして、ユフィリアとしても逃す理由などどこにもありはしないのも厳しいところだ。

この3年間の仕返しとばかりとチャンスを掴めたことが主な要因だが、そうでなくても明らかにどんどんノリが良くなっている。

恐るべし、色々吹っ切れた公爵令嬢──ニケとアポロン含むオーディエンスの大半は内心でそんな野次すら飛ばしていた。

そんな中……破天荒の救世主たる人物はひっそりと動いていた。

 

「人が面倒事引き受けてやってる間にナニしでかしてるのよ色ボケ公爵令嬢が!」

 

その場に響くわ、可愛らしい怒号。

いつの間にか忍び寄った3体の人形が、完全密着状態を解除せんと強引に割込んでいた。

 

「これぞ垂らされた蜘蛛の糸!よくやった最強の義妹、後でなんか追加でご褒美だ!」

「そんなの後でいいから、アンタは一旦下がりなさい!」

 

些細な妨害でしかないが、その若干の空白があれば破天荒の逃走手引きとしては十分極まる。

これ幸いにとマドラーシュは的確な速攻離脱し、脱兎の如く暴走公爵令嬢の有効範囲から外れて行った。

 

「せっかくいいところでしたのに……流石は泥棒猫兼お邪魔虫、妨害行為は一丁前ですね」

「こんな真昼間で盛ってたバカに1発叩き込んだだけでしょうが。執着が過ぎて倫理観無くすとか、そりゃあお兄様もドン引きでしょうよ」

「都合よくマッド様に拾われ、その恩恵に与っただけの義妹が割り込むことではないと思いますが。今すぐ馬に蹴られて欲しいところですね」

「あの状況で味方する馬がいるのかしらねえ……上級悪魔にいい感じのいた気がするから、そっちを連れてきたら?」

 

先ほどとは打って変わり、冷気漂う極寒の空気が新たに場を支配していた。

皮肉全開の舌戦を繰り広げる二人の間だけが火花すら散っている。

それらが生み出す極度な緊張感は、一部の強者以外を飲み込むには十分であろう。

お陰で野次馬たちのざわめきは鳴りを潜め、周囲は静寂一色だ。

そんな中、二人は暫しの間口を閉ざしていたわけだが……それもすぐに終わった。

ユフィリアはレイピアを、ジュンは最も愛用する人形(ココ)を。

冷たい笑みを互いに向けながら、得物を取り出し──早撃ちのように魔力を放っていた。

起こるべくして起こる私闘の火蓋は唐突に切って落とされることとなった。

 

「せっかくの機会だから、アンタは1回ここで叩き潰してやる!」

「あら、奇遇ですね!ものすっごく癪ですが、同じことを考えていました!」

 

片や、今では敬愛しつつある兄的立場にすり寄る雌猫紛いに立場を弁えさせるため。

片や、得体の知れないぽっと出の分際で妹面をするお邪魔虫の相対的価値を貶めるため。

互いにこの場においては不倶戴天と言える動機を抱え、それはそれは見事に殺気を叩きつけ合う。

 

「あざといばかりでなく、鬱陶しい人形たちですね……!」

「ふふん、こちとらこの技術ただ一つで傍仕えであることを許されてるのよ。あざといのはあんな手段使って強引に近づくアンタの方でしょうが!」

「自分だけの専売特許とばかりに言わないでください。先ほどマッド様が行った召喚術は、私の突発的発案が元とのことですが?」

「はっ、そんなんで自慢になるわけないでしょうが。しかも挙句婚約者なんて名乗り出て、身の程を弁えなさい!」

「さっきも言った通り、子供はおとなしく部屋で人形遊びでもしていることですね!これは一応王族と貴族の問題でもあるのですから!」

「そんな尺度で測る時点で底が知れてるのよ愚鈍!」

 

飛び交うのは辛辣だったり思わせぶりな軽口、そして魔法やら顕魂術。

具体的に言えば、酸の弾丸やら強烈な風圧やら呪詛混じりの毒ガスやら死神のカマやら。

全属性の適性を持ち、そこに精霊による魔力ブーストが入ったユフィリア、対するは人形を媒介とした器用極まる立ち回りが持ち味のジュン。

まさに対極的が過ぎるマッチアップ、だからこそ互いが互いを気に食わないというのも大いにあるのだろう。

この負の感情由来のバフが、本来なら戦闘経験の差から優劣が生ずる状況がいい具合の接戦になっている。

 

「やれやれ、案の定逃走安定だったってわけだ。恐るべしは火事場の馬鹿力からのビギナーズラックか?」

「アンタねえ……対象から無理やり外れては義妹に押し付けておいてその言い草はどうなのよ?」

「おいおい、俺がノコノコ戻ったらそれこそユフィの思うツボだろ?ジュンがやるって言うならお任せ一択だろうが」

「戦略的には賢明ではありますが……何だか情けない選択にも見えますね」

 

危機的状況を前にしてはプライドも何もあったものではない。

それが殺し合いの場でないのなら猶の事、管轄外と言い放って逃げる他あらず。

ジュンが割り込まなかったら、それこそどんな恥辱に塗れていたか分かったものではないのだから。

後からどれだけ言われようと、当人比の最悪からすれば死ななきゃ安いという概念がしっくりくるところ。

 

「しかし、この状況下では逃げようにもそうは行かないのでは……?」

「あっちもなりふり構わずなんだろうけど……こういう時のヤケクソ女子というのが一番怖いのよねえ」

 

搦め手込みとはいえ、賭け事の材料に使われ挙句負かされたが……そこには確かに油断もあった。

しかし、そこを差し引いてもユフィリアの執着ないし執念はマドラーシュに奇妙な感覚を与えているのもまた事実。

それこそが3年前から積みに積んだ仕返しで、振り回されている時点でじわじわと効いているのだろう。

この時点で、姐さんポジション2名の懸念はまさしくその通り。

イヤでも同じ土俵に登らされているのだから、安易な逃走はまるで許されないのだろう。

しかし、そこで安易に受け入れられるのかと言えば──というところまで思考を掘り進めた段階で慣れた気配が3つほど。

各々誰なのかを即座に察しては、精神的疲労を押してとりあえずの姿勢を保つこととする。

 

「先の悪魔殲滅戦、ご苦労だった。そっちの被害はどんなもんだ?」

「マドラーシュ殿下があの巨大獣人を、助手の方とマゼンタ公爵令嬢が大半を引き受けて下さったお陰で軽傷数名という程度で収まりました」

「今はああやって野次馬していますから、何だかんだ元気そのものですね……後が色々怖いんですけど」

 

ふと見やると、確かにやいのやいのとまた騒がしくしている様子だ。

時折聞こえる声の中には、『あのマドラーシュ様がついに……』なんていうものも混ざっているのを全員聞き逃すことはなかった。

即ち、先ほどのやり取りはこの場で共有されてしまっているということで……。

 

「ははは、これぞまさに男冥利に尽きるってやつじゃないですかねマドラーシュ殿下?」

「寝ぼけたこと抜かしてんじゃねえよガーク……こちとらまだ首を縦に振ってないってのに」

「いやいやいや、これまで女っ気が無かったなら突っ走った方がいいですって。俺たちは支持しますし、ラス達も同じくです!」

「そういう単純思考、むしろ羨ましくなってきたぞ……」

 

普段の3割増し増しのポシティブっぷりなガーク、それに比例するようなマドラーシュの頭痛も悪化の一途を辿る。

本来ならばガークの言い分が一般論そのものだろうが、それは今のマドラーシュにとっては毒そのもの。

これまで投げ捨ててきて、見向きもしていなかったのだからそれも仕方のないところか。

 

「とはいえ、こうなると民の間で噂になるのも時間の問題ですよね……」

「今のマドラーシュ殿下は、魔法省の膿を叩く大義を掲げた先導者でいわば時の人。王族としての相対的地位も上がっている中でマゼンタ公爵令嬢との噂となれば……」

「つくづくやってくれるよユフィのヤツ……しかも真面目なのか単に人をおちょくりたいのか、どっちかまるで分からんと来たものだし」

「……あの様子からするに、多分両方だと思うのですが……?」

 

ボソリとレオナはつぶやくが、他の4人も内心ではほぼハモり気味なのは言うに及ばずだ。

ただ一人、当人であるマドラーシュだけが無駄にあれこれ悩まされているのだから笑うに笑えない状況と言えよう。

とはいえ、これまで目を逸らしていた彼にとっての雑事にぶち当たっているだけのことだ。

自我やら本能のまま、狂気的に突っ走ってきた問題児への対抗策としては上々。

これまで一切考慮にすら入れていなかった領域に引きずり込んだのだから、義妹の妨害込みでもユフィリアの一人勝ちだろう。

そこだけは分かっているからこそ、マドラーシュはひたすら苦々しく溜息を吐く以外出来ず。

 

「……とりあえず、イヤな笑み浮かべてばっかのガークはカルリッツ父さんの特別訓練参加決定ってことで」

「いぃっ!?ちょ、それは理不尽が過ぎませんか!?」

 

年不相応全開の、無慈悲とすら称せるあの余裕はどこへやら。

やり場のない感情からガークに八つ当たりをするその様は、年相応か更に下の子供のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……また一つ、布石は為ったようだな」

 

突如現れた悪魔の軍勢を退け、妙な祝祭ムードな龍の丘……の遥か上空。

雲海の間を悠々と留まるのは、未だ知る人少ない妙な飛行物体──とある国でのみ生産されているエアーシップ。

その操縦席に大物然で座しているのは、この私……ヴィルジール・フォル・ヴィラルドワ。

旧き時より生きるヴァンパイアが、時代の先端を行く乗り物を操る……これほどのギャップもそうあるまい。

それでこそ、この私のアイデンティティの一角なのだからおかしなことは無いのだがね。

 

「しかし、千篇一律を揺るがすか……まさに君らしい豪胆さというものだ」

 

長い時を生きる上で、誰にとっても大きな障害として浮かぶのは『退屈』という概念。

どうしても現れるその壁に抗うために、僅かな刺激を、非日常を、そして異端を追い求め続けるのが永き時を生きる秘訣。

私もまた、そうやって生き永らえてきたわけだが……今まさに、彼こそが今生最大の刺激足り得る存在となった。

3年前より兆候があったのは理解していたが、その成長速度は目を見張るものもある。

 

「そういう意味では、あの見るに堪えがたい腐敗も捨てたものではなかったというわけだな……」

 

というより、その状況すらも糧にしてしまうのが恐ろしいと言うべきか。

そもそもが精霊信仰に染まり切った王国で、魔法が使えないという最悪のスタートだったのがこれなのだから。

グランナイツという、これまた凶悪極まる変数があったからというのも否めないだろうが……そこを生かし切っているのも一つの才覚。

 

「まあ、次元をも揺るがしすぎて魔界の存在すらも引きずり上げたのは度が過ぎる誤算だが……結果、更なる宴の始まりならこちらからは言うことなしだ」

 

『可能性は混沌より生ずる』論を加熱させるには、まさに適切な環境になりつつある。

スパルタ全開の鬼畜理論に聞こえるが、踏み入らなければたどり着けない境地も存在するのもまた事実。

魔法省暗部が引きずり出されたことも含め、どんどん外圧はかけていった方が後の為。

あの紅蓮の魔竜──『レッド・デーモンズ・ドラゴン』はまさに革命の狼煙足り得るだろう。

 

「ふむ……せっかくだ。彼女の顔を見るついでに祝福の品でも届けにでも行くか」

 

下ではこれまた愉快なことになっているが、恐らく王都に戻れば更に顕著になること間違いなし。

永い時を生きた精神に草原を生やすためにも、ここは向かわないとだな。

 





というわけで、ユフィリア様大☆暴☆走でした。
まさかの婚約ゴリ押しモード発動、世界が変わればメッサー求婚(違)
対象とされたマッド様もタジタジな押せ押せっぷりですが、あちらも好意が無いわけではないから突っぱねきれないというのが現状。
ただ、下手にズブズブは勘弁願うというグランロード継承思考があるので……という感じですね。
ちなみに義妹ことジュンは嫉妬から噛みついているわけではありません。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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