まさかまさかで1か月オーバーもかかってしまい大変申し訳ありませんでした。
ひたすら書いて消して書いて消して、その繰り返しで……。
これでも正直納得いかないところですが、とりあえずドウゾー(´・ω・`)
突発的に起こった龍の丘での悪魔との遭遇戦は結果的に色々と成果をもたらした。
フィオナ指揮官やレオナ副官、ついでにガークも含む一部の兵の明らかな戦力向上が一番大きいだろうか。
元々カルリッツ父さんが手塩にかけて育てているところに、彫魂石を渡せば……まあ、あの程度の悪魔なら問題なしということ。
あちらもあちらで呼吸をするように昏い愉悦やら何やらをぶつけてくるが、あの程度で揺らぐような柔な鍛え方されてないからねえ……。
仮にその辺の貴族が相対したとして……まあ間違いなく空気に呑まれてまともに力も発揮できずに以下省略ってなるのが関の山。
本来ならば、その手の連中がこの国の主翼にならねばならねえんだが……まあ、これまで伝統だの何だのぬるま湯に浸かってきた結果だな。
そんな中で反骨精神の元で刃を磨いてきた連中が伸し上がるのは当然の事だろうよ。
大きく見れば、間違いなく追い風が強くなりつつある状況──とはいえ、俺個人としてはそうとも限らないわけで……
「……とりあえず、今日のまとめでもしておくかね」
凱旋して早々、俺は工房という名のオアシスに速攻避難をかましていた。
上手いことジュンが一瞬だけ注意を引いてくれたお陰で、どうにか暴走令嬢=ユフィを撒いて単独行動に。
とりあえず、少しでも気を休める為にも日常業務に取り掛からなければ……それこそ真面目に潰れそうだ。
「新たな枝の掘り下げが必須事項……そして、悪魔の住まう次元『魔界』との境目の揺らぎの調査も必要だな」
筆を走らせてこそいるが、別にお偉い方である父上ないし母上に提出するわけでもなし……ただの個人的な書き殴りだ。
とはいえ、これまでを振り返り纏めるだけでも思わぬところで思慮範囲が広がる可能性はある。
それが例え失敗でも無かったことには絶対にしてはならない……エリオ姉さん経由で知り合った教授やら先生方の教えの一環で俺のルーチンの一つ。
精神的休養を求めるならば、いつもの場所でいつもの作業に立ち返るのが一番効果的。
何もしないと、それこそいらぬ思考に染まるというのはレオン先生、イグノックス、デイジー師匠が口を揃えて言ってたしな。
「そして、あの召喚術には精霊に対する感覚を掴むことは欠かせない……か」
そこまで思考が至ると、自然と筆は止まってしまう。
あの時は火事場の底力に引き上げられた形だったからこそ、何とかなったところもあった。
ここから汎用化に持ち込むとなると、どうにもアイツの手を借りる必要は出てくるわけで。
いや、そもそもあの召喚術自体が俺のやり方と合わない面もあるからそこまでする必要性はない気もする……が、そうも行かない。
「新たな道があるのに、足を踏み入れないのはプライドが許さない……ですよね?」
まさしく次なる呟きを先んじられる形で発せられていた。
本来なら聞こえないはずのその声質に、まるで驚かないでいるのがこれまたおかしなもんで。
喜ばしいことかと言われたらこれまた微妙なんだがね……。
「おいユフィ。ここは姉上の工房同様、基本立ち入り厳禁なんだが?」
「キュイやティルティはしょっちゅう入り浸っていると聞きましたが……それなら私も例外に入れて下さってもよろしいのでは?」
……プリシラ辺りから合鍵を貰いやがったか。
傍から見れば愉快痛快なドタバタ劇、それを見逃す地雷系侍女ではまずない。
恐らく、そこからラス達にも情報伝播しているのも間違いなし……そうなれば、絶対に俺にとって本意ではない騒ぎ方になる。
だからこそ真っ先に一人になりたかったんだがなあ……。
「さて、マッド様。先ほどの件についてですが──」
「ああうん知ってた。はいさらば、束の間の休息時間」
しかも今回はお助け札でもある義妹もいないというオチまである。
すなわち、逃走の選択肢が最初から存在しないということで。
正直なところ、まだ混乱は落ち着いていないから勘弁願うところなんだが……。
しゃあない、とりあえずは重い腰を上げるしかないな……っと。
「そんな如何にも面倒くさそうな顔をなさって……流石に傷つきますよ?」
「ポーカーフェイスのまま言われても説得力がねえな。そもそも、さっきどれだけアホなことやってのけたかって自覚あるか?」
「ああ……その辺りについてはご安心ください。マッド様以外にはやる選択肢が浮かぶことすら有り得ませんので」
「ああうん、その様子だと全く懲りてねえな。何がご安心くださいだこのバーサク令嬢が……」
あの後に平然と来れるその精神には素直に感服してやってもいいが。
とはいえ、アグレッシブ通り越してのバーサクっぷりは流石にどうなんだって話だが。
「色々奇行に慣れてる俺が相手だからって、ダチ同士だからこその分別ってもんがだな──」
「そういう往生際の悪さは、戦いのときだけ発揮して頂けますか?」
俺がそう言い終わるや否や、唐突に発せられる奇妙な圧。
発生源は言うまでもなくユフィなんだが……おい、まさかまだよろしくない脳内物質が残留してやがるのか?
表情こそ変わっていないが……明らかに機嫌が急転直下しているのだけは分かる。
──なんて物言わずに観察していたら、急接近しては再度胸倉を捕まれてしまっていた。
まあ、この程度なら先ほどの距離感バグとは違ってちょい物申してやるくらいだからまだマシ──
「……どうやら、ナマリエの参考書引用その2が必要のようですね」
「は?まだ何かあるのか──っておい!?」
物騒かつ意味不明な詠唱と共に、乱暴且つ雑な拘束から即座に解放される。
──かと思いきや、今度は指を思いっきり顎に添われまた寄せられていた。
俗に言う顎クイってやつだよなこれ……?
本来俺がやるべき側じゃねえのか?いやまあ、ガラじゃねえから絶対やらんが。
思わぬ二重奇襲のお陰で、俺の視界はその綺麗とは言える顔で埋め尽くされてしまう。
……ガークが見てたらまた羨ましがるんだろうが、交代できるものならしてほしいもんだ。
「ここまでしても、まだ私を『ただの』友人として扱いますか?」
「……凡が嫌だってんなら、引っ付き虫属性ありの変な友人に昇格ってことで手を打ってやってもいいが」
「必死に目を逸らしながら軽口を叩いても滑稽に見えますよ」
俺の容赦ない悪態を受け流すどころか悦に浸るとか、完全に悪女のソレなんだが?
ユフィ自身もきっちりと素が整っていることもあり、それはもうきっちりとハマって見せつけてすらいる。
まあ、状況が状況だから見惚れてやるどころかひたすら腹立たしいだけなんだがな。
「悪役令嬢ごっこはもう十分堪能しただろ?とっとと離れやがれ、俺は俺で色々忙しいからな」
「ここで引いてしまえば、それこそ明日には元通りなのは目に見えていますので絶対にやです」
「別に無視したわけじゃねえってのに、随分と大袈裟な物言いだな……」
「……ただただ先を見据えてばかりで、まるでこちらを一切顧みない人でなしにとってはそうなのかもしれませんね?」
人でなしねえ……本来ならむしろ望むところだと喜び勇むべきなんだが。
ここでそれやると、何かヤベえ予感がするからあえて自重しておく。
この年代のなりふり構わず女子ってのは恐るべし、アポロン姐からの有難い忠告には従っておかねえとだ。
「そもそも、何故私がこちら側に着いたか覚えていらっしゃらないようですね」
「は?んなもん、時勢を見極めて置いてかれないためだろ?だから後輩育成経験も兼ねて、アイツらに任せたわけで……」
「……かろうじて半分は当たっていますが、結局そこからですか」
半分って何だよ、むしろどこが間違ってるんだ?
「……本来ならば傍につけるべきであるラス達特別近衛騎士をわざわざ私の為に割いて下さったことは感謝しています。しかし、その間マッド様は何の気兼ねも無しに人の与り知らぬところで無茶苦茶し放題──結局私は箱入りだからと、体よく蚊帳の外に追いやっているだけではありませんか」
「そこまでお前のことを過小評価してねえっての。あくまで時期を見計らってたってだけで、いずれのことは考えてたさ」
「いずれとはいつですか。先ほどはあのお邪魔虫に引けを取らない戦果を上げましたし、更にはキュイのようにマッド様の新たな術のきっかけも作ったというのに……それでも尚籠の中の鳥という立ち位置に甘んじていろと?」
怒涛の如く詰め寄ってくるユフィ、当然俺は返答に窮することに。
さっきの龍の丘での一戦は、対悪魔──すなわち天敵相手ということもあり否でも評価せざるを得ない。
更に、勢いのままとはいえ精霊を利用した顕魂術なんてキュイの十八番を奪うようなやりたい放題まで見せつけてきたわけで。
「……ホネがあるってのはひとまず認めてやらんとだな」
「随分と渋々なご様子ですね?あの自称義妹やオルタにキュイ、何ならセリアードやレイニにはあれだけ気前よくしているのに」
「今のユフィを変に図に乗らせたくないってだけだが?妥協してやっただけでもありがたく思って欲しいもんさ」
「はあ……その減らず口全開の上からはもう持病の領域のようですね。とはいえ、先ほどの負け分があることをお忘れなきよう」
イヤなタイミングでイヤなことを思い出させてくれる。
ジュンやキュイ、オルタと同等に近しく扱えってことだからこれで満足してくれるものかと高を括ってたが……。
「そもそも、アレは冗談かこの駆け引きを引きずり出す口実じゃねえのかよ……」
「以前にも宣言しましたよね?私はいずれマッド様の隣に立つに相応しい人材になってみせると。勢い任せな部分は否定しませんが……遥か先の標としてはちょうどよいかと」
「いや待て、だったらその目標設定は些かおかしくねえか?そもそも俺が助手認定した時点で達成できてるだろうがよ……」
「はあ……まだまだ人の事を見くびった上でのとんだロマンチスト発言ですね」
何で以前にあったやり取りをそのまま返されなきゃならねえんだ?
しかも何だよ、『え、こんなことも分からないの?』的なイヤーな顔しやがって。
ただでさえマウント取られてるってのにこれだと、猶更イライラしてくる……が、そこを見せたらユフィの思うツボだと第六感が告げている。
「助手認定程度では、義妹やら相棒やら怪しい戦友関係より下ではありませんか。そんな立場で甘んじるなど、何より私の矜持が許容しませんとも」
「ジュンやらオルタやらキュイを意識しすぎじゃねえの?ったく、どういう矜持の燃やし方だよ……」
「それこそ『恨みや妬みは使いよう』でしょうに。そもそも私をこんな風におかしくしてくれたのはどこの誰なのでしょうね?」
「んなもんお前が勝手にそうなったに決まって「あら、何か聞き捨てならない発言が」ああはいはい俺のせい俺のせいな。とりあえずそういうことにしてやるよこのアンポンタンめが」
どこぞの千が特徴な首領の気持ちが若干分かりかけたくらいだ。
俺のよく知るあの銀髪お姉さまに類似する黒色オーラかましてくれやがって……お陰で怯みループ入りかけたじゃねえか。
ったく、参考書渡したらしいスイーツ脳スナイパーといい師匠ラインナップが洒落にならなさすぎだろ……。
「では、きっちりその辺りを自覚したようですので……願いはきっちり聞き入れて貰いましょうか」
「その辺りは明日以降に父上とグランツ公に確認だ。ただの出まかせだったらたまったもんじゃねえし」
「政治的な部分も確かに含みますが、そんなのもののついでで些細なことですよ?」
コイツ、仮にも国王からの打診だってのにダシとして使いやがったぞ。
姉上やらアル兄さんにならまだしも、父上と母上にその不敬っぷりはどうなんだ……。
それでいいのか公爵令嬢、とんでもない不良令嬢だがそれでも許容範囲内なのかグランツ公!
「……まあ、往生際悪くそう仰ると思い一応プリシラとセラには手配してもらっておりますけれども」
「ああそうかい、そこまで計算づくってか。腹立たしい先読みっぷりだぜ」
「この3年間で積み重なった私の鬱憤、その一端をご理解頂けて何より……いたっ」
「ここぞとばかりにムカつくドヤ顔するんじゃねえ」
そっちが抓り芸なら、俺はデコピンで対抗してやろうじゃねえの。
この手のしょうもない魔力操作技術ならば、俺の方が一日の長があるのは当然至極。
まあこれ以上頭がおかしくなられたら堪ったもんじゃねえから、軽めにしておいたので有難く思え。
「……それはそれとしてだ。今日のところは話は終わったはずなのに何でお前はまだひっついてやがるんだ?」
「そう言って、また上手いこと逃げる算段なのはお見通しです。今夜はきっちり見張らせてもらいますから」
「こちとらあの脳筋悪魔とのダメージが残ってるんだが?どうせ『どうあがいても、絶望』な包囲網敷いてるんだ、ここは三度目の正直で見逃しやがれそしてさっさと帰れ」
「え、絶対にやです。ここばかりは矜持に賭けて食い下がって見せます」
この暴走令嬢の脳内辞書で『矜持』って調べたら何て出るんだ?
まさしく二度あることは三度あるってヤツだが、どうしてまたコイツはすぐに同衾したがるんだ慎みってものがないのか。
しかし、こうなっては文字通り噛みついたスッポンが如く梃子でも動かないのは明白……結局のところ、このひっついた状態のままユフィを自室まで連れ帰る羽目に。
……こんな状況になってもなお羨ましいとか寝言ほざけるのかねえガーク君よ。
悪役令嬢に一時的に進化したユフィリア襲来から一夜明け。
結局は再度の寝室襲撃をなし崩しで許してしまったマドラーシュだが、そこは百戦錬磨の回避術が冴え渡る。
下手に付き合うから泥仕合になる──それならば、とっとと寝て夢の世界へ大逃亡をかませばいいだけのこと。
そもそも同衾までなら過去に二度あったので、ほんの少々は慣れているという事実もある。
『そもそも王族と公爵令嬢、というか15歳同士というお年頃が何度も同じベッドで寝てるだけってどうなのか?』
──というごく一般的な問いは、この際言いっこなしということで。
「はあ……人の寝起きの悪さに付け込むのは果たしてどうなのでしょうか」
「昨日散々やらかしてくれたお返しだが?普段滅多に拝めない日の出を見せてやってる分感謝してほしいくらいだ」
朝日が昇るか否か、そんな頃合いに行われるのは早朝鍛錬。
イグノックスから引き継がれ早10年、マドラーシュの血肉の一部となっているいつもの朝の始まり。
起きて隣に美少女公爵令嬢が居ようとも、知らんがなと言わんばかりに平常ルーチンに入る鉄壁精神はもはや筋金入りであった。
それでこそヴァンパイアの魅了すらも素で弾き飛ばす男、まさに人の形をした人でなしと称されるだけはあるか。
「まあ、以前は問答無用で避けられていた分こちらの方がましですけども」
「そうしろって言ったのは誰でもないユフィだ。後から泣き言言ったって一切聞いてやらねえからな?」
「そこをなりふり構わず食らいついて、度が過ぎるようなら分からせる……それでこそマッド様の婚約者足る最低条件、なのでしょう!?」
「ふうん、まさに俺好みの回答で悪くは無いが──婚約者じゃねえ助手だ!まだ暫定だからそこだけ訂正しろ!」
途中までは良かったのに、最後だけで見事に台無しである。
柳に風で流せば良いのでは……と思うが、マドラーシュとしては口を挟まざるを得ないのだろう。
そのお陰で、真面目な空気はあっという間に霧散してしまっているのだが。
「どうせ本日確定するのでしょうから、今の内に受け入れた方が身のためではないでしょうか!」
「しゃらくせえ、俺はきっちり最後まで足掻かせてもらう!たとえどこぞの塔が赤い原因になってでもな!」
「そういう抵抗は悪魔とか暗部に対してすればよいものを……つくづく変なところで強情な困り者ですね、貴方という人は!」
皮肉と憎まれ口の応酬……というより、久々の痴話喧嘩か。
その最中で木刀で打ち合いまでしているのだから、もはや王族らしさに貴族らしさは裸足で逃げ出すほどだろう。
とはいえ、互いに喧嘩腰でありながらもそこに険悪な空気はまるでなし。
「まさに、仲がいいんだか悪いんだかというものですねえ……久々の尊き光景です」
「ヒール全開の表情でイキイキしたかと思いきや今度は狼狽する様を見せつけるだなんて……朝から私を尊死させるつもりですかマッド様は」
そんな滅茶苦茶極まる光景を、それはもう至福の時と言わんばかりに眺める人影も複数あり。
その筆頭は、日常の中にある主の尊き一コマを瞬きせず見逃さない謎の使命を掲げる侍女2名。
特に後輩の方の地雷系は、マドラーシュとユフィリアのひりつくじゃれ合いを見ることが少なかったのでその豹変っぷりはひとしおのようで。
「特にマドラーシュ様の剣戟が激しくなっているように見受けられるが……アレは止めなくて大丈夫なのか?」
「いや、なんだかんだで公爵令嬢様はついて行ってるぜ?あのバカ、口ではああ言いながらも鍛錬相手として面倒見てやがる」
「ということは、あの口喧嘩もただの軽口なのか……?」
「随分な変わりようなのは俺も同意してやるがな」
別のところでは、同じく通りがかったウィンと同時刻で鍛錬を重ねるカルトもこの奇妙な光景を眺めていた。
やや心配性なウィンは懸念を示すも、特別近衛騎士団の中でもマドラーシュの解像度が実は深いカルトがすんなりと宥めていたり。
同じく普段から皮肉の応酬でじゃれついているからこそ、その辺りの鼻の良さは人一倍であった。
「へえ……吹っ切れた挙句に直談判、その結果接近成功とは流石ユフィリア様ね」
そこに新たに現れるのは、本来ならばこの時間帯ではなかなか見られることの無い姿だ。
朝に動くのはまさにレアケース、そう言いたげに今日も彼女は黒一色を着こなしてみせていた。
「こんな朝早くからお見えになるとは、珍しいこともあるのですねクラーレット侯爵令嬢」
「これでもユフィリア様を煽った張本人だもの。一応見守る責くらいはあると思ってね?」
「まさかの火付け人かよ……劣等感って、どの辺を突いたんだ?」
「ユフィリア様の与り知らないところでマッド様が知らない女子と仲睦まじくしてる──この事実をありのままに突きつけただけよ」
あちこち歯抜けしているが、マドラーシュの周囲にいる者としては必要十分な情報量である。
あの破天荒が秘匿している存在、それも女子と言えばかの人形遣いしか浮かびようがない。
しかも、最近は悪魔関係の調査兼暗部残党潰しで少数精鋭で動いていたことも部下としてきっちりと把握している。
そこに劣等感を突いたという表現にあの結果と来れば、よほど鈍くなければ結論は出てくるだろう。
「……そういうことか。アイツに新しい呪い植え付けるとは、随分な食わせものなもんだな?」
「クリスティーナとは違った姉心ってやつを発揮させてもらっただけよ。そろそろアイツが振り回される様ってのも拝みたくなったし」
「ははは……クラーレット侯爵令嬢も、何だかんだ彼を慕っているということですね?」
「昏い愉悦を向けてやるにはこれ以上に無い人材じゃない?まあ、本妻の座はユフィリア様に譲ってやるけど」
「ホンサイってなにー?ユフィリアの口からコンニャクって聞こえて来たけど、その仲間?」
「どわあ!?チビ、お前どこから出て来て……って、結局全員集合かよこんな朝っぱらから」
突如カルトの足下から飛び出てきたキュイを筆頭に、ラスとセリアード、更にはナマリエも続々とやってくる。
が、ラスはそもそもカルトと同じく早朝鍛錬組で、セリアードも日課である魔力制御訓練の最中……特段不自然なことでもない。
「何だか面白い香りがする口喧嘩が聞こえて来たかと思ったら、まさかの急接近発生でアタシは朝から大歓喜そのものよ!そしてティルティ、アンタやっぱり分かってる口だから後日一杯やりましょうか!」
「え、何か物凄い面倒なのに目を付けられたんだけど!?」
「ナマリエー、ティルティが困ってるから止めてあげなよー!じゃないとコンニャクぶつけるぞー!」
「……えっと、何でそこでコンニャクが出てくるの?」
先ほどまでの口喧嘩を耳にしていなければ、一体何のことやらかである。
そこに含まれるナマリエを混乱状態にして矛先を変えたところまでは悪くない働きだが、お陰で今度はハテナマーク一色の場を作り上げてしまう。
何とも言えないこの状況を見かねて動くのは、マドラーシュ曰く騎士団屈指のツッコミ役の使命が故だろう。
「コンニャクじゃなくて婚約だろうが。さっきからどういう聞き間違いしてやがんだよチビ」
「え、コンヤク?……って、それなりにめでたいような感じのあれ?でもそれってアルおにーさんとユフィリアじゃなかったっけ」
「それは先日円満解消したんだがな……しかし、そうなると昨日の今日のような形になるがマドラーシュ様が許容するとは思えんぞ?」
「だったら、大方昨日にでも公爵令嬢様の方が吹っ掛けたんじゃねえのか?」
「これ以上ジュンやらオルタの好き勝手にさせるものかって勢い余って?……まあ、あり得なくもないわね」
もののついでに真相にたどり着いてしまっている辺りは流石捻くれ闇属性の二人と言うべきか。
ユフィリア暴走のトリガーをあえて引いたティルティは当然だが、それなりに機微に敏いカルトでも分かるほどということか。
一見暴論に見えて、少し考えれば『ああー……』となる推論は、ラスやセリアードの脳裏にも電流を走らせることとなった。
「そういえば昨日、ガークが自慢げに『遂にユフィリア様がマドラーシュ殿下に迫ったぞ!俺はこの目で見たぜ!』なんて知らせてきてたっけ……あれ?」
「街の方でもやたらマッド様とユフィリア様の話題が多かったような……ジュディさんやネネトさんもそれっぽくお話してましたよね?」
「とんでもないのだと、ユフィリアが三角関係に痺れを切らしてマッドを押し倒したとかしばいたなんて話もあったよね……」
「ちょっと待ちなさい?それアタシがこの間貸した参考書にあった展開そのものじゃないのよ!それを現実にするなんて、本当なら何とも恐ろしいご令嬢ね……!」
「あらあら、まさかここまできっちり伝播しているとは……我ながら最良の策だったようですね」
これこそ、まさにフィオナとレオナが姉妹揃って懸念していた通りの流れであった。
ペンは剣より強しとはまさにこのことであろうか。
それが民衆に何の気なしに広まるような噂ともなれば、どこぞの吸血種が武器としてしまうほどに面倒且つ凶悪だったり。
そして、その噂談義に終止符を打ったのはどこの誰でもなく今回の主犯であった。
早速詳細を聞こうとする中、稲妻が如くユフィリアに詰め寄ったのは
「ユフィリア様、本当にあの参考書通りにやったわけ?痺れを切らして突撃して共闘してそれでもこちら向かずだからと押し倒して胸倉掴んでやって喧嘩吹っ掛けたってことよね!?」
「マッド様の態度があまりに気に入らなくて、どうにかギャフンと言わせたい一心で辿り着いたのがあの参考書の一場面でして……後はほぼ勢いでした」
「流石は私、この手の先見の明がやはりあるってことね!参考書以外でも知識が必要になったらいつでも頼って頂戴?これからはユフィリア様を全力支援するから!」
「あ、ありがとうございます……?えっと、この流れは、ナマリエ師匠、ないし先輩とお呼びするべき……いえ、いっそ総長でしょうか」
「ふふ、まさかこの手の事で弟子を取ることになるなんて……って、待ちなさい最後の総長だけは止めてね?アタシは元傭兵、そんなヤンチャしてた時期なんて一切無いから」
何故そんなレディースを指すような呼び方が現れたのか、それはこれまた参考書の影響である。
どこか見たことあるからと現実に展開を持って行ってしまう程思考を侵略されているのだから、その程度はむしろ自然とすら言えるか。
そういう意味では、納得の師弟関係と言えなくもないか。
「おい、あっちで変な師弟関係が出来上がっちまってるぞ未来の旦那」
「ざけんな、まだ暫定というか俺としてはようやく助手扱いしてやってもいいほどなんだが?」
「でも、王都ではマッド様とユフィリア様の仲はそれなりに噂になってしまっていますよ……?」
「はあ……どいつもこいつもユフィの網に引っかかりやがって。暇人なのか?あ?」
「ま、まあそればかりは……マドラーシュ様は先日の王城防衛をきっかけで一気に時の人と化していますので、仕方ないかと」
有名になるということは、自然とスキャンダルにも注意が必要になってしまうもの。
それはひたすら先をと見据えてばかりのマドラーシュにとっての、致命的な間隙でもある。
「それにしても、他の女子と一緒にいるだけで嫉妬するだなんてねえ……ユフィリア様も随分と可愛らしくなったと思わない?」
「寝ぼけたこと抜かすな、ただ単におっかなくなっただけだろうが」
「その割には昨晩はユフィリア様をお持ち帰りした挙句お楽しみ「ただ一緒の部屋で寝ただけだ事実無根ぶっこむんじゃねえしばくぞコラ」ああその淡々とした照れ隠しもまた仰げば尊しぃ……!」
マドラーシュ尊しのマドラーシュ命な侍女の暴走、ここに極まれり。
唐突なトンデモ暴露に、もはや破天荒のツッコミは紫電一閃と言わんばかりの割り込みっぷりである。
咄嗟に使った術が『リトルグリフォン』の電撃掃射であるせいで、朝からご近所に見せられない光景を展開してしまっているのが玉に瑕か。
「って、二人が一緒に寝たのは事実じゃん!淑女としての諸々とか大丈夫なの!?」
「このような突撃こそがマッド様に最も効き目があるのは前から分かっていましたので。ジュンやオルタとの差をつけることも兼ねてそうしたまでのことですが……何か問題でも?」
「いやいや、でもこれ陛下たちは知ったらマズイんじゃあ……」
「そもそもこの婚約は陛下からの打診あってのことで、王妃様とお父様も了承済みです。だからそのような懸念は抱かずとも大丈夫ですよ」
「よ、用意周到過ぎる……ユフィリア、流石にえげつなさすぎじゃない……?」
「その頭のおかしいえげつなさがいいんじゃないのよ。こういう無自覚たらしバカにはそれこそが常套手段、流石は我が愛弟子ね」
どんどん懸念を突っ込む面々だが、ユフィリアも淡々と論理的に返していく。
その緻密さも兼ねた特攻っぷりには流石の百戦錬磨予備軍も恐れおののくほどだ。
こうなっては、主の旗色が悪いと否でも認知せざるを得なかった。
無論、一人だけ派手に熱狂している総長(仮)は別だが。
「ナマリエ総長もこう仰ってることですし……もう観念して責任を取って頂けませんか?」
「うっせえ、まだ抵抗の余地はあるっての──そうだよな、セラ?」
「流石はマッド様、まさにどんぴしゃりでございます。つい先ほど、陛下の方も準備が整ったのでお知らせに参りました」
「というわけだ、些か慌ただしいが俺たちは一抜けさせてもらう。せいぜい吉報を待ってろよ?」
再度口喧嘩のゴングが鳴り響くかといったところで、ある意味待ちに待った知らせは届く。
話の区切りをつけるという意味でもちょうどいい塩梅だったので、当事者二人はやや早足で話し合いの場に向かうこととなった。
……その際にも、憎まれ口の応酬の続きを忘れずに行っているが。
「……何だか、喧嘩すればするほどお似合いに近づいているような……気のせいでしょうか?」
「それ以上は止めとけセリアード、収拾がつかなくなっちまうからな」
まさに触らぬ神に祟りなし。
もはや彼らにとってもどうにもならないのだから、見守る以外に無い。
というよりも、もはや『後は若い者だけでいいだろ』という心境ですらあったが……それは言わずが華というやつだ。
ユフィリア様、怒涛の包囲網展開でした……ダラダラ書いてる割に雑ですが。
外堀の埋め方が勢い混じりながらもえげつなく、これまた完全にマドラーシュメタ全開。
これまた原作と異なり随分と憎まれ口を叩いてますが、これもまた気ままに逃げるマドラーシュと対等でありたいという好意の裏返しです。
婚約というのも対象に食らいつく為の建前というのが現状ですかね……どこかぶっ飛んでますが、それでこそ本作のユフィリア様というか。
そんなところも影響を受けているのがなんか微笑ましい……という風に書きたかったのですが、これが結構難しい。
その辺りも含めて、まるで納得の出来る文章が書けなかったから遅れてしまったわけで。
次回はあの御方が出るところだからまだ何とかなると思いたいですが……果たして今年中で行けるのかどうかです。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)