えー、まずはお待たせしてしまったことをお詫び申し上げます。
何とか四苦八苦しながらカタチには出来たので、ひとまず上げます
ここまでは何とか順調に事は進めていると言ってもいいでしょうか。
昨日に続く形で、今度は特別近衛騎士団というマッド様にとってより近しいところに爪痕を残すことが出来たのはこれからプラスに働くことでしょう。
……奇妙な形でナマリエ総長という新たな師が誕生したのは、些か予定外でしたが。
(ただ、彼女の場合は些か行き過ぎているような……参考書も些か内容が偏っていますし)
総長から貸し出された数々の『参考書』、それは俗に言う恋愛小説に類されるものに偏っている。
その中でも特に、女性側が痺れを切らして強行突破を図る描写が含まれる作品は確かに多い。
お陰で色々参考にはなったのは確かですが……総長からしたら、私がそのような感情に悩んでいるように見えたということなのだろうか。
思えば、クリスティーナやティルティもどこか含みがあるような言い回しをしていたような気もしますし……
(私としては、あくまで雑多のような扱いで置いて行かれたくないというだけなのですが……)
……それと、マッド様から『ダチ』と呼ばれるとどうしてもイラッとしてしまうのもありますか。
明確な相棒の立ち位置のキュイ、言わずとも分かるというほどの連携を見せるオルタ、妹面して必要以上に構って貰えているジュンというお邪魔虫を意識すると猶更その苛立ちは強くなる。
このように人を振り回すロクデナシな人でなしにも一泡吹かせたくもなるし……その先にある愉悦と癒しを求めている自分もいるわけで。
これが恋慕の情と称することが出来るのか、それはまた怪しいところなのでしょうが……。
「何だよ、何見てやがる……俺に何か憑いてんのか?」
「っ!?……えっと、マッド様がしれっと替え玉と入れ替わって逃走していないか確認しただけです」
「ああそうかい。ご期待のところ申し訳ないが、残念ながら俺はそこまで万能じゃないもんでね」
なんて思考に更けていたら、ついついマッド様の方に視線を向けてしまっていたようで。
とりあえず取り繕って誤魔化すことは出来ましたが……って、それ可能ならとっくにやっているってことですよね。
こんなところで逃亡を許したらそれこそ公爵令嬢として名折れもいいところ──絶対阻止です。
「おやおや、まさかの腕組みで良質な甘味供給とは……流石はユフィリア様、どんどん豪胆になってきますね」
「少しは人目ってのを気にしろってんだボケナスが──って、ここぞとばかりにしれっと魔力使って束縛するな!」
「抓ったり張り倒すよりかはマシでしょうに……むしろ恥ずかしいのは私の方なので、あまり騒がないで頂けませんか?」
「そこで更に力強めるなよ、いつぞやの如く当たってる気がするから今すぐ止めろ」
え、絶対にやなんですけれども。
……コホン、たとえどれだけ恥ずかしくともこれも対マッド様特化……それ故に致し方なし。
人目も気にならないと言えば嘘になりますが……更なる外堀と慌てふためく彼の姿を見ることでむしろお釣りが来るほどです。
無論、こうするのが特段イヤではないという前提の下でやってのけているのですが。
──既に慣れた道順が故に目的地までの時間が短いことが少しばかり悲しくなってしまうところですが。
「……この先は蛇やら鬼やらってところか?」
目的地である謁見場所を挟んだ扉の前で、この主従は随分と意味深なことを呟いていた。
……確かにマッド様からすれば分水嶺なのでしょうが、それでも言い方というものがあるのでは?
まあ、そんなどこかズレた表現もマッド様らしいと言えばそれまでですが……。
それでもいざ覚悟が決まっただろうか、大きく一呼吸をついてから先頭を陣取っては扉に手をかけ──
「はっ……しょうもねえ上にずさんなことこの上ないな!」
溜息を吐きながらも、マッド様の行動は迅速そのものだった。
まるで扉の先をここまでずっと組まれた腕を咄嗟に解きながらも、私の前面に立って半ば庇うような体勢に。
あまりの急展開に頭が追いつかなくなりそうですが……何とか現実に立ち返る。
とりあえず何が起こったのかと隙間から様子を窺うと、マッド様がその襲撃者を抱き止めているような体勢でいることだけかろうじて理解出来た。
「……流石はまがい物とはいえ大精霊を超えし特異点ね。頭でも撫でてあげるべきかしら?」
声の高さと、かろうじて見えた黒いドレス……そして膝裏にまで届きそうな白金色の髪。
……明らかに女性ですね、しかもぱっと見私と同い年くらい。
そして極めつけに、呆然としている私を他所に随分とまあ馴れ馴れしいご様子で……。
「この程度俺じゃなくても出来るっての、ガキどころか赤ん坊扱いしてんじゃねえよ」
「まあ、そちらのやたら背丈の高い侍女も気付いていたものね……それにしても、風で聞いた噂そのままのようね」
「引きこもりのクセに俗世の噂くらいは拾ってるってわけか──って、いでででで!?おいユフィ、今度はどういう発作だ!?」
……『どういう発作だ?』ではありませんよ、このバカ。
昨日あれだけ人の事を置いてけぼりにするなと言い聞かせたというのに、どうやらすっぽ抜けているようですね?
「……これではどちらがひよっこなのか分かりませんね、鳥頭なマッド様?」
「誰がチキン野郎だこら。不意打ちを穏便に止めただけだってのに……とりあえず異議を申し立ててやる」
「では、とりあえずその異議は却下させて頂きましょうか」
「それならせめて木槌くらい持ってこいこのエセサイバンチョが!」
「ぷっ……あははははは!その様子だと、どうやら本当に杞憂に終わりそうで何よりだわ!」
内心で溜息を吐きながらも次はどう突っ込んでやろうかと思考を巡らせようとしたその時、場違いであろう笑い声が部屋中に響いていた。
その発生源は、既にマッド様の手から降りた黒いドレスの女性なのは言うまでもなく。
……って、そんなに爆笑されるようなことをした覚えはないのですが。
とりあえずいつもの魔力込め抓りを継続しながら、そちらに抗議の視線を向けようとするが……先にその僅かに緑がかった黄金の瞳に見つめられる。
するとどうか……何故かまるで心臓を掴まれるような感覚を覚えてしまった。
「あら、思った以上に初心のようね……まだまだ染まりきってはいないのかしら?」
「──っ、何を仰っているのかまるで分からないのですが」
「まあ、元が元だから無自覚であるのも仕方なしね……ところで、その物騒なのを早くしまって貰えない?」
彼女の言葉に呼応するように、咆哮が低く響き渡る。
ふと周囲に目をやると……いつの間にか顕れたのか、金属製を思わせる3体の白銀の竜が威嚇するように睨みつけ唸り声を上げていた。
そして、その光景を引き起こしたであろう当人からは……その場すらも飲み込む強烈な気配が放たれている。
当然のように目の前の彼女を凌駕戦せんとばかりで、お陰で先ほどまでの息苦しさはいつの間にやらどこかへ消え去って行った。
「……見習いが故に不手際も多いが、一応俺が助手と見込んだヤツなんでな。妙な真似するとこいつらも黙ってないぞ?」
「こちとら別に取って食おうってわけじゃあないのだけどねえ……そもそもついさっきはアレだけ言い争ってたのに、何だかんだお熱い関係なのかしら?」
「そっちのしょうもねえ悪戯が原因だろうが。引き籠りも度が過ぎるとボケの元だぜ、婆さんよ」
「あらあら、婆さんなんて随分な物言いじゃない……?これでも見目麗しくあろうと気を遣ってるつもりなのだけれど」
「見栄えだけでも中身がそれだけ虚ろじゃあ目も当てらねえと思うがな?」
ぱっと見いつものマッド様の口振りですが、明らかに目が笑っていない……むしろ静謐な殺気がひしひしと伝わるほどだ。
……これは、私の為に怒ってくださっているという認識でよろしいのでしょうか。
それならば……見習いやら助手やらな不適切な表現については不問にして差し上げましょう。
──ただ、そんなマッド様に張り合えるこの方も大概常人ではないのは明らかですね。
このままでは、殺気のぶつけ合いだけで被害が及びかねない……ただ、私では正直止めようがない。
なんて逡巡していたら、部屋の奥から足音が聞こえてきました。
「……リュミ殿、お戯れはそれくらいにして頂きたいのですが」
「マドラーシュもこれ以上煽らんでくれ……いくらお前とて、この方はあまり無礼を働いていい相手ではないのだぞ?」
あわや危機一髪のところに制止をかけたのは、珍しく不動の表情を崩しているお父様だった。
それはもう深々しく溜息をついている辺り、明らかに心労が窺える。
「あらごめんなさいグランツ坊や。見定めのはずがつい興が乗っちゃったわ」
「おいおい、俺は助手越しに売られた喧嘩を買っただけで正当防衛じゃないか?」
「……貴方の場合、例え正論でも火に油になりかねないのですから少し抑えなさい」
後から現れた陛下、そして王妃様は見るからに肝を冷やしているご様子だった。
これで役者は揃ったのですが、それでもマッド様は相変わらず不遜全開で不敵な表情のまま。
未だに白銀の竜たちを収めていない辺り、まるで警戒を緩めていないということも分かる。
流石にこのままではマズイし、何なら私はまた蚊帳の外に置かれてしまう……そう思って、何とか口を開く。
「ところで……この方は一体どこのどなたなのでしょうか?」
「いきなり現れた国王と王妃ですらも頭を下げかねない人物、そりゃあ疑問符だらけになるでしょうねえ?そう、私が見たかったのはまさにその反応よ」
「うわー、センス皆無のボケっぷりだな……精霊契約者ってのはみんなそんななのか婆さん?」
「……流石は調和の女神の新しい弟子ね。随分と不躾な育ち方をしてるのが気になるところだけれども」
いつもの3割増しほどの不敵っぷりに、流石の王妃様も咎めざるを得なかったのだが……見事に固まってしまっていた。
あまりに荒唐無稽で唐突だが、誰一人としてそう揶揄することが出来ず。
何なら、横槍がてら指摘された方──マッド様曰く精霊契約者も若干ながら余裕が崩れてしまっていた。
「はっ、この程度俺じゃなくても看破できるっての……そうだよな、セラ?」
「勿論でございますマッド様。その程度の些事、筆頭侍女ならばこなしてなんぼのものです」
……まさしく、相変わらずのこの主あっての従者ですね。
「この国の伝説そのものが相手と分かって尚お構いなしと来るか……どこまでその不敵っぷりを貫くつもりなのだ」
「その伝説とやらも所詮はただの常識の範疇。そんなものでこの俺を縛れるなんてとんだお笑い種だね」
確かに、精霊契約者とはこの国の建国にすら関わったとされる伝説上の人物に類される。
それ即ち、王族にとっても雲の上の存在ということ──だが、確かにマッド様にとってはまるで関係ない。
つい昨日顕れたあの紅蓮の魔竜が、何よりの証なのは私もよく知るところで……
「流石は私たちの地平にすら至ってしまった特異点ね。古の存在であるドレッド・ドラゴンに渓谷の神獣、魔の入り混じった紛い物の大精霊をも撃退しただけのことはあるわ」
「……まさか、それらの戦いを全て見ていたのですか?」
「これでも一応、どうにもならない有事が起きたら助けるって約束があるから黒の森に住んでいる身なのよ──お陰様でお株はすっかりと奪われちゃったけれども」
「はっ、婆さんはとっくに隠居だろ。俺のようなクソガキの方が主演に相応しいのもまた、必然の理だからな」
「……確かに隠居したいのはやまやまなのだけれども、何でいちいち煽るようにしか言えないのかしら?」
黒の森に住んでいる……普通ならばあり得ないように思えますが、想像は出来なくもない。
それ以前に、精霊石の産出が多いとされる場所だから……まさしく都合の場所なのだろう。
現に、まだ剣を握って間もないマッド様がそこで短期野外演習をこなしたなんて逸話もあるほど──さほど驚く話でもありませんね。
「不躾な質問となってしまい恐縮ですが……一体どのようなご用件で?」
「つい昨日兆しを感じて、散歩も兼ねて見定めに来たのよ。ついでに噂で持ち切りのお若い暴君の顔も拝みにきたのだけれども……」
「……申し訳ございません、リュミ殿。この者は下手な継承権争いを避けさせた双子の弟……故にまるで王族らしからぬ振る舞いだらけで」
「いちいち頭を下げなくていいわよオルファンス。あのバケモノを筆頭とした面々の背中を見ながら育ったのなら無理も無いわ」
あのバケモノというのは、恐らくグランロード・レオンを指しているはず。
精霊契約者である彼女からもそう喩えられるなんて、本当にどれだけ規格外なのやらか……彼以外のグランナイツも含めて。
そういう意味では、マッド様もまるで頭を下げる様子が無いのは頷けなくもないですが。
「そしてそのお陰でこちらのお嬢さんも──って、いつまでもこの呼び方は不便ね」
そういえば、お互いに名乗ってすらいませんでしたね……私の方が一方的に知っているばかりだ。
どこか胡散臭い笑みはそのままに、彼女は優雅にカーテシーの姿勢を取る。
先ほどまでの圧は収まっているものの、周囲を舞う精霊に変わりはなく──まさに幻想的な絵柄と言えた。
「ネタ晴らしやら何やらで色々遅れてしまったけど、とりあえず名乗らせてもらうわ──私はリュミ、ただのしがない精霊契約者よ」
「精霊契約者にしがないも何も無いと思うのですが……ユフィリア・マゼンタと申します。それで、その見定めというのは──」
「私としては答えてあげてもいいけれども、流石に本題から外れ過ぎているからまずはそちらを片付けたら?」
「本題って──あっ」
……私としたことが、それはもう見事なまでに失念してしまっていた。
そもそもお三方のお時間を頂いたのはそのためだというのに……。
あまりに色々二転三転してしまい、本来の目的を忘却の彼方に追いやりかけていた。
「ちっ……余計な入れ知恵してんじゃねえよ婆さん」
「こっちだって威嚇されたり正体をバラされたりなんだから、これでお相子にしましょう?」
「うっせえ、どっちもアンタの身から出た錆だろうが。何なら耄碌解消がてらもう一発……って冗談だから耳は止めろユフィ!?」
「……これ以上場を物騒かつややこしくしないでくださいバカマッド様」
「リュミ殿も、あまり煽らないで頂けないでしょうか」
寸でのところで耳を引っ張ってやり、半ば強引にマッド様の矛を収めさせる。
全く、隙あらばやりたい放題のかましたい放題……止める方の身にもなって頂きたいです。
……ところで、さっきから背後のセラから生暖かい視線を感じるですが。
強いて例えるならば、先ほどのナマリエ総長とどこか似ているような。
一体どこにそのような要素があるのかが分からないので、あえて振り返らないことしか出来ませんが……やはりどこか引っかかりを感じるところだった。
精霊契約者なんて大半からすればトンデモVIPが出て来やがったが、まあ何とか既定路線へ。
セラ以外の全員がようやく着席して、改めて面会の場は始まることとなった。
が、ここで穏やかな始動を許す俺ではないわけで。
「さてさて早速ですがお三方。随分と楽しいことを企んでいたようで……」
「待て待て待て、何故そのような物騒な笑みを浮かべついでに冒頭からこの場に暗雲をもたらしているのだ!?」
「え、この俺にいきなり人生の墓場なんて面倒極まるもの突きつけておいて今更何を言ってるのですか?」
先ほどまで精霊契約者とやり合っていたから余韻もあってか、我ながら口振りが軽い軽い。
その勢いに乗じての開幕早々電光石火、今回の議題そのものへの楔という体の先制パンチを打ち込んでやる。
お陰で父上はいきなり面食らって、グランツ公と母上も目を白黒されてるが……
面倒事を押し付けてきたのはあちらだし、まあこれくらいは許されるだろうさ。
「……つい昨日きっちり当人同士で話をつけたので、今日のところはほぼ意思表示と確認のみと聞いているのですが」
「残念無念また来週、そんな事実はどこにもありませんよグランツ公。正しくは俺が一方的にただただ婚約しやがれって突撃されては言質を取られたってだけのこと」
「既に色々とツッコミを入れたいところなのだが……ひとまず、昨日何があったか一から説明してくれ」
その言葉を待ってた!──というわけで、かくかくしかじかな説明パートを挟むこととなった。
『グレンベールの穴蔵』での一連の流れ、そこから急遽起こったゴリアテ率いる悪魔混じりのスタンピード……そしてユフィの暴走も簡潔に。
半ば物騒な案件の報告会になってもいるが、それもまた俺の狙いでもあったりする。
「最近国中で噂になっていた悪魔やら悪魔憑き、それらが大挙として押し寄せてくる前代未聞のスタンピード……今朝方からこちらでも耳にしてはいましたが」
「恐怖やら絶望を植え付けその挙句糧にして増長する、まるで別系統の魔物とすら言える存在──その餌になりやすいのが精霊ないし魔法使いであるならば、この国にとって天敵でしかありませんな」
「その辺についてはこの期間でかき集めた資料をお渡しするとして……最大の問題は、そんな天敵にバカ正直に突っ込んだこの暴走状態のユフィリアお嬢様さ。若気の至りってのも限度があると皆様方からも色々説教してほしいんだが」
思わせぶりな言葉に合わせ、その場の全員の視線がユフィに向く。
俺の言わんとすることはきっちりと汲み取ってくれたようで何よりだ。
これだけの無茶苦茶無法っぷり、流石にあっさりと頷けやしないだろうよ。
「……つい勢い余って突っ走ってしまったと自覚はしております。ですが、私としましても反省も後悔もするつもりはございません」
「今回はあの脳筋ダルマがボスだったから命拾いしただけだ。己を省みるくらいはしやがれ」
「……昨晩は根性があると褒めて頂いた覚えがあるのですが」
「駆け出し丸出しなアホ極まる匹夫の勇まで認めた覚えは無いが。しかもそのどさくさに紛れての婚約なんざ、もはや意味が分からねえっての」
いくら政治色が強めの婚約とはいえ、ここまで無茶な背景が混ざっちまったら流石に通す道理があるのかって話だ。
まあ、母上は変な形でユフィの味方になりかねないから怪しいが……父上とグランツ公はそこで立ち止まってくれるはず。
特にグランツ公は俺のやりたい放題をまだまだ苦々しく思ってるはずだからな……何だかんだ娘思いでもある。
俺という危険因子に誑かされて、何ならこのままでは家としても危ないのでは?なんて思い至ってくれるだろう。
そもそも、まるで暴走を留めるところを知らないユフィがおかしいし全面的に悪いってことでQ.E.D!
既に俺の脳内では『オイオイ、これじゃあMEの勝ちじゃないか!』ってセリフも準備完了──
「やれやれ……想定以上に早く、且つ派手に動いたものだな」
「……衝動的が過ぎたことは否定いたしません。しかし、全てはこのトンデモだらけのバカ王子と対等に渡り合うためとご理解くだされば」
「……それこそがお前の忠義だと、つい先日叩きつけられたからな。これ以上言うことは何もあるまい」
……ってアルェー?何かまるでお説教とはかけ離れたやり取りが聞こえるのですが。
明らかに想定した流れからズレまくってる……これはどういうことですかね。
というか、グランツ公のこの表情はまさしく──『ああうん、知ってた』一色だ。
……おい、早速なんか暗雲が見えてきてるのだが。
「えーっと……グランツ公。そちらから見た俺ってまだ危険因子で警戒対象ですよね?」
「マドラーシュ王子には万が一の凶の可能性が大いに含まれている、その考えは今でも変わりありませんが」
「だよな?それだったら、いくら政治的側面を絡めたとして娘がそんな人間に嫁入りするだなんてなったら普通は止めて然るべきでは?」
「……なるほど、仰りたいことは理解した。しかし、その辺りの懸念は杞憂でございます──私と道を違えてでも自分なりの忠義を貫くと豪語したことが発端であるが故に」
「……それって要するに反抗されてるってことじゃないか?」
「まあ、そういうことになるのでしょう……我々にとっても利はあるので黙認させて頂きますが」
完全に消極的賛同じゃねえかよ、どうしたグランツ公!
アンタこそが最優先攻略対象にして安牌だったはずなのに……これまたとんでもない計算違いだった!
ワンショットキルなセリフが負けフラグに様変わりするとか、見事なまでの土星破壊バーンダメージ自爆だな!?
「あら、どうかなさいましたかマッド様?随分と顔が青いようですが」
「……どこぞのバカのせいで最高に最悪な気分になっただけさ。というか何だよ忠義って、お前らしくねえぞ?」
「これでも一応公爵令嬢の身、それくらいは持ち合わせていますが」
「だったらやたら噛みついたり、小言入れたりは何なんだよ一体。そりゃあイエスマンも勘弁願いたいところだが……」
「……誰の為にそこまでしていると思っているのですか、このあんぽんたん」
「は?俺はそこまでしろって頼んだ覚えはないんだが」
「ええそうですね、あくまで私が勝手にやるべきと定めてやっていることですが何か問題でも?」
なーにが『何か問題でも?』だ、これ以上にないほどタチの悪い開き直りしやがって。
というか、肝心のグランツ公まで買収されてるってなったら……昨日より酷い泥沼すら見えてくる。
いや、下手すりゃとっくに背面崖っぷちってか?
「……というか母上、グランツ公。変な笑み浮かべてステルス見守り態勢に入らんで頂けませんかね?」
「いえいえ、これまで傍若無人のやりたい放題のマドラーシュ王子の見えなかった側面に感心しているだけですとも」
「年長者に囲まれて変な風に捻くれていた貴方も、そんな顔が出来るものなのですね……」
グランツ公はそれまた痛快と言わんばかりに、母上は完全に生暖かさ前面展開といったところ。
特に後者は完全にナマリエやらクリスティーナ姉さんに近しい感じで……ああクソ、何か嫌な気分になってくる。
そしてそんな中で唯一、父上だけは何とも言えない感じで額を抑えていた。
こちらもこちらでよく分からん反応なんだが……いや、これは同情なのか?
「くく……お互い、意外なところで似てしまうものだなオルファンスよ」
「……ああ、全くだ。あまりに既視感だらけで頭が痛くなってくるほどだ」
そんな父上に対して、グランツ公は意地の悪い笑みを向けていた。
てっきりカズヨシさんのように常時鉄面皮だと思い込んでいたから、正直意外な光景ですらある。
ただ、さっきからお互い様だのデジャヴだの当人同士の暗号紛いで通じ合ってるのは頂けないんだが。
──なんて思っていたところに、父上が改めてこちらに向き直って口を開く。
「……マゼンタ公爵家の歴史は古く、それでいながらも王家の一員であったことを片時も忘れたことはない──どれだけ血が薄まったとしても、その生まれに誇りを持ち続けているほど。故に、燃え上がったらそれはもう頑なそのものでな」
「あー……まあ、分からんでもないが」
「それでいて、儂にとってはグランツは親友でありながら兄のような存在であってな……故に昔から相当面倒をかけっぱなしで頭が上がらんのだ」
「実の兄を差し置いてそこまで思ってくれているとは……光栄の極みとはまさにこのことか」
「ええい、絶妙に厭な笑みを向けながら言うでない」
まあ、俺から見て伯父に当たるその人物は一昔前にやらかした張本人。
当然ながら、父上にとっては討たねばならない相手だったわけで……この階級ならよくある話だが、それでも血族同士の争いはしんどいものだ。
ちなみに、祖母の方は随分と早く逝去なさっていて……祖父は結果的にクーデターの発端となってしまったことが負担となったのか精神的負担から衰弱で以下略。
まさに父上は天涯孤独に近しいところにいたわけで──そんな中で数少ない頼れる存在がグランツ公だったわけだと。
それならまあ、義理でも兄貴分になるのは必然だろうな。
「まあ確かに、お二方については理解も納得も出来るところだが……俺たちとはまるっきり関係なくないか?」
「いや、お前たちにとっても他人事ではないであろう?先ほどからユフィリアとは口喧嘩ばかり、我々よりも随分と仲睦まじそうではないか」
「これまで並の貴族というだけでそっぽを向いてきたというのに、ユフィリアの場合のみまさに互いの地位など知ったことかと言わんばかりに激しく火花を散らして……オルファンスとグランツのそれよりも微笑ましく見えますよ?」
「何なら手綱すらも握ってみせるとまで豪語するほどの気概も持っている様子。こうなってしまっては最後、本当にもう燃え尽きるまででしょうな」
「まさに激情大爆走、いいぞもっとやれですよユフィリア様」
いやいやいや、燃え尽きるまでって何がだよ怖いんだが!?
んでもってセラさんや、どこがいい感じなんだよちょいと黙ってろやこの元祖大爆走女子め!
というか、手綱を握るとか何とやらまで……クリスティーナ姉さんの姿を模した背後霊すら見えて来てんぞ。
キュイ謹製の爆弾を油まみれで抱えながら突っ込んできているような幻覚すら見えてくるというか、何かとにかく勢いがヤバ気。
そこを指し示すように、暴走令嬢のわるーい笑みは最高潮に達してすらいるように見える。
「と、このようにお父様と王妃様、陛下からのお許しはとっくに出ておりますので……さっさと覚悟を決めてくださらないでしょうか?」
「そこで無理やりに首を縦に振らせようとするやつがいるか!?へし折る気かお前は!」
どこぞのダメジャーのような事態になったらどう責任取ってくれるんだよ!?
とりあえずジョージ・ケツメルを呼べ!話はそれから──
「ぷっ……くくく……あはははははは!まさか、予兆が出るほどの願いがソレだなんて予想できるわけないじゃないそんなの!まさか警告に来ただけなのにここまで笑わせられるだなんてね……!」
ええい、次から次へと他人事のように!
さっきまでおとなしくしてたかと思ったら余計なヤツの琴線にまで触れちまった、面倒くさいな全く!
「人が袋小路待ったなしって時に楽しそうにしてんじゃねえよ傍聴人婆さんめ!ボケっとしてねえでどうにかしろや!」
「まさしく因果応報。このいたいけな精霊契約者候補をここまでひん曲げたのはどこの特異点サマかしら?」
「……何か、しれっと好ましくない言葉が聞こえたような──気のせいですよね?」
奇遇だな母上、俺もちょうどそう思ったところだ……ちなみに、父上も同じくなご様子。
好ましくないというか、それこそ厄介事の前兆とも言えるような……いやいやまさかな?
ここは『見なかった、聞かなかった、言わなかった』の三猿回避戦法からのなんちゃらの猫戦法発動と行こう。
とりあえず、認知さえしなければ無かったと同義ってことでここは一つ──
「揃いも揃って耳が遠いフリは止めなさい。魂の内に一定以上の精霊を抱え、どうしようもない願いを内に秘めてしまった寵児且つ問題児──それこそまさに、精霊契約に至る資格を持つ者。この娘はまさに、その領域に達しているわ」
「こんにゃろ、キュイの問題行動が可愛く見えるほどのことしでかしてくれたなユフィ!?」
「え、ちょっと待ってくださいマッド様!?そもそも私ですらも初耳なのですが……!?」
ええい喧しい、この期に及んで今の状況で最も面倒極まる厄介事を持ってきやがって!
ああ、父上と母上もあまりの隕石急襲に目を白黒させてるが……そりゃあ無理もないよなあ!
むしろ、何でグランツ公だけ『知ってた』と言わんばかりに苦笑で済ませてるのかが気になるくらいだ!
「やはり、わざわざ森から出てきたのはその為でしたか……やれやれ、皮肉なものです」
「グランツからしてみればそうとしか言えないわよねえ……何せマゼンタ家にとっては二代続けて、随分と頭が痛いでしょう?」
「二代続けて?……ということは、お父様にも精霊契約の資格があったということですか!?」
まーた新たに発覚した衝撃の真実ぅ!
まあ、さっきの父上との馴れ初めやら友諠を聞いてれば納得しかないんだが……まさに蛙の子は蛙。
才気に溢れすぎた血筋って本当に怖いねえ……レオン先生&デイジー師匠とラスやら、ヨシトラおじさんとオルタ&ミココロとかも含めて。
「確かに、至ることが出来るとは告げられた。それでも望みはしなかったがな」
「精霊契約の手がかり、ただそれだけの為にたった3人で黒の森の奥深くまで訪れたというのにねえ……まあ、賢明な判断だけれども」
「当時のことを鑑みると、父上の権威増強の為か。それだってのにグランツ公の方が資質ありってなってしまったから──確かに面倒極まるね」
「まさにその通り……王族よりも権威を持ち、長く在ってしまう貴族などあってはなりませんからな」
「精霊契約なんてロクでもないからそれで正解よ。ヒトとしての理性をよくぞ働かせたと今でも褒めてあげたいくらいね」
グランツ公はその手のしょうもない野心とはどこまでも無縁、故に然るべき結果とも言える。
それこそ、こっち版のカズヨシさんと称することも出来るだろうさ。
……あの人の場合はより冷酷に、それこそ背筋が凍るような選択もすまし顔でやっちまいそうだけど。
俺としては、そんなところに痺れるし憧れてるし指標ともしているんだがね。
「あの……ご自分も精霊契約者なのになぜそこまで毒づくのでしょうか?」
「何故も何も、それが覆しようがない事実だからに決まってるじゃない。『精霊は尊き~』なんて言ってる時点で論外、むしろ厄災を招きかねない危険物よ」
そこについては多少癪だとしても同意しておいてやるよ婆さん。
現に暗部連中がやりたい放題してこの国はなかなかにしっちゃかめっちゃかだからな。
そんな密かに危うい状況をユフィもきっちり思い返したのか、納得の色が見え始めていた。
「確かに、今のこの国の状況だと精霊契約は王族より高い権威をもたらしかねない──それこそまさに人災の種と言えるでしょう。しかし、長く在ってしまうというのは一体……?」
「これも字面そのままとしか答えようがないわね……ずばり、貴女から見たら私はいくつに見える?」
「リュミ様の外見、ですか?それこそ、私と同年代にしか……」
「はい、残念無念また来週~この可憐な見た目は外面だけだ。その中身は妖魔王やら精霊王に匹敵するおぞましい何かかもしれないぜ?」
「……流石にそこまで魑魅魍魎になったつもりはないし、人外っぷりならあなただって人の事言えないでしょうに」
んだとコラ、俺なんかどこからどう見ても齢15の可愛げ皆無なクソガキだろうが。
って、何でまた全員して『そりゃそうだ』と言わんばかりに頷いてやがる。
こちとらレオン先生とかに比べればまだまだひよっこなんだ、同じように扱うのはあっちに対して失礼千万じゃねえか?
「……要するに、精霊契約を為せば不老となる。その結果、ヒトの身から外れてしまうということですか……?」
「端的に言えばそうなるのでしょうね。ついでに貴女は既に、望むか否かというだけの瀬戸際に立っている……だからこうして私は止めに来たというわけね」
「正直なところ、未だにピンと来ていないのですが……一つ、新たな疑問が。同じく精霊契約を以てこの国を興すという偉業を為した、このパレッティア王国における最初の王についてです」
「っ──すんなりとそこに行き着くだなんて、どこが混乱しているのかしらねえ……?」
この国は初代国王が為した精霊契約こそが礎となっている……と、これだけならば御伽噺のような綺麗なお話に過ぎない。
そしてそこに、精霊契約に至る=不老という形でヒトの環から外れるという事実を混ぜ込めば……あらまびっくりー!どこか底冷えするホラーの完成だ。
これぞまさしく、『本当は怖い精霊契約』……ふむ、書籍化したら売れそうだな?
現に、愉悦一色だった婆さんからも氷属性とは違った冷たい空気が発せられているから方向性としては間違ってないんだろうよ。
……何でか指摘したユフィではなく、俺に八つ当たりを向けている気がしてならんのだが。
「やれやれ……まあいいわ、せっかくの機会だもの。ちょっとばかり面白い真実を教えてあげる……当時を知る先達が語る、この国の始まりと共に起こってしまった悲喜入り混じる昔話をね」
今度は語り部風になりやがって……この手の年寄りが仰々しく昔話を語りたがるってのは万国共通?
それにしても、随分とまあ二転三転で忙しいことで……。
父上と母上も辛うじてついていけてるように見えるが……ここから先は知らされてないのかね。
俺としてはまあ、面倒な話から逸れてくれるからそう悪いことじゃないが……どうにもイヤな感じがしてくる。
何と言うか、決定的且つ致命的な何かが潜んでいるような……そんな気がしてならなかった。
というわけで、前々からフラグが立っていたリュミ様襲来回です
彼女を出すからには色々と明かさなければならない部分が激増……大苦戦の原因がここにございます。
更には、別方面の本格始動準備もあって負のスパイラルががが状態
まあそんな苦戦の結果、原作では重たい空気全開だったはずがコミカルと夫婦漫才が混ざりながらの精霊契約暴露回になりつつあるのは不幸中の幸いと言うべきでしょうか。
執筆意欲は全く落ちていないので、そう簡単には失踪しない……はずです。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)