新キャラ、それもグランナイツメンバーが来ると話の幅が広がってありがたいです。
そして、ここで転天キャラ二人目のご登場です。
ただ、彼女については注意書きをしておくとweb版の設定準拠になっております。
パレッティア王国東部の状況に変化が訪れたのはいつからか。
恐らく、現地民の大半は4年前と回答することだろう。
きっかけは言うまでもなく、どこぞの第二王子のやりたい放題ついでの開拓活動だ。
フィルワッハと双子の島を繋ぐ街道の基盤を作り上げ、その過程でドラゴンを討伐したことは今でも語り草になっているほど。
無論、それをやったのは『無慈悲な七つ夜』、または『無慈悲な主役』の二つ名を持つケルビムという冒険者ということになっているが。
そして、それだけで止まるならば彼は破天荒と呼ばれることはないだろう。
マドラーシュは更に東へと……それこそカンバス王国の国境ラインまで差し掛かるほどにまで突き進んでいた。
それはもう、差支えがないギリギリを突くように。
実際は、カンバス側には実質緩衝地帯とすら言えるシモハ砂漠と呼ばれる地域が存在することから、さほどギリギリでもないのだが……。
何はともあれ、国防の観点で見ると少々無駄に思える動きではある。
一般的には、王国の脅威とされているのは西のアーイレン帝国というのが主な理由だ。
そもそもが王国との因縁がそれなりに長い国であり、マドラーシュもこちらに対しても最低限目を離さない程度の警戒は敷いている。
しかし、彼はあまりに情報が無いカンバス王国の方に目を向ける比重を高めていた。
その理由は、何から何まで未知で気に入らないから。
至って単純なもので、どこまでも彼らしく……そして、全く説得力が無いわけでもない言い分だ。
実際に、この遠征に同行指定していたのは、マドラーシュの教育において慎重派であるデイジーとカルリッツだったのだから。
さて、そんな西と北に隠れる形で開発されていく東部だが、以前に比べれば人の往来が増えるのは必然である。
しかし、人の往来が増えるということはそれだけ木を隠す森が増えることと同義だ。
二重の意味で森に溶け込むように建てられた、何の変哲もない……あまりに普通が過ぎる木造の一軒家。
本来ならなんてことない普通の場所で、その異常事態は起こっていた。
「今日もまた、随分と手酷くやられましたね……」
「どいつもこいつも抵抗してくる有様だからな。何とか人質を取る形で不意を突けたが……ったく、魔法もどきなんか身に着けてより面倒になったものだ」
そこそこまともな恰好の男が2名と、それなりの数のならず者達。
そんな対極的な者たちが集まる様は、傍から見れば異様と言える。
更にその傍らには、気絶させられた上縛られている亜人種が数名が纏めて檻の中に囚われの身ときたものだ。
これらの要素を鑑みて、まさしく誘拐現場と回答しない者が果たしてどれだけいるのであろうか。
「顕魂術とやらを侮っていましたね。まあ、これだけいれば何とか例の実験は可能でしょう……!?」
「……そっちも気が付いたか。となると、気のせいではないらしい」
何かを感知した二人に対してならず者たちは困惑を見せる。
一見すると怪談話でも起こりそうな温度差だが、その原因は至って単純だ。
この二人とその他の差は、その感覚があるかないか……ただそれだけのこと。
「周囲の見張りは頼みますよ。私たちは、少しあちらの様子を見てきます。ネズミが紛れ込んでいるかもしれませんからね」
「こっちは数だけの雑兵でしかねえから不安で仕方ねえんだ。とっとと戻ってこいよ、魔法使いのお二人さん」
果たしてそれは軽口なのか、はたまた本音なのかは分かりかねるところだ。
とはいえ、不穏分子は確実に排除すべきなのは事実だ。
──もし偉大なる精霊を悪戯に使う輩がいるならば、軽く懲らしめてやろう。
そんな傲慢な考えと共に、二人の魔法使いは異常の元へ向かっていった。
「さて、じゃあこっちは引き続き見張りをするぞ……。クソ、一気に心許なくなったな」
「今ではあんなナリだが、かつてはクーデターに加わってたほどの貴族ですからねえ。まあ、少々の辛抱ですぜ」
聞く人間次第では間違いなく聞き捨てならない言葉もあるが、この場では誰も咎めることはない。
単に雇われたならず者にとって、雇い主の出自などどうでもいいのことなのだから。
暫くの間同類同士で雑談をしている内に、メイン戦力2名がいない不安も少しずつ解れていく。
……しかし、状況に慣れ始めた頃というのが最も怖いとも言う。
魔法使い2名が様子を見に行って10分弱ほどで、その最初の異変は起こった。
「何だ、この音……おい、誰も焚火なんてしてねえよな?」
「いやそんなこと誰もするわけ……うわ、眩しっ!」
「うわあぁ!?何だこの風は!」
いつの間にか設置されていた焚火に気を取られた次の瞬間、ならず者の集団全体を閃光が包み込んだ。
あまりの眩しさに目を覆うとともに、異常事態を察するが時すでに遅しだ。
何せ、その時既にならず者たちは見事に吹っ飛ばされているのだから。
突風を凝縮したようななにかは、目を覆っている者たちをまるで掃除するかのように纏めていく。
「目だけでなく、耳もきっちり塞ぐんだぞ」
「りょーかい。ああ、高度は足場で補ってくれよ!」
乱入者らしき声は聞こえてきたが、まとめて吹っ飛ばされた影響で人山と化したならず者たちが視認することは叶わずだ。
そもそも最初の目暗ましの影響すら残っている状況なので、どちらにせよ視覚情報に頼ることは出来ないのだが。
せめてもみくちゃの状態は逃れようと、ならず者たちは闇雲に身体を動かす。
しかし、乱入者たちの追撃が止むことはまずあり得ないわけで。
「お前たちには誘拐の容疑がかかっている。ひとまずはおとなしくしていてもらおう」
「お、何かカツ丼でも用意してそうなセリフだな!」
まるで犯罪者を捕える際の兵士のような言葉と共に放たれたのは、再度の閃光と爆音、更に雷の魔力だ。
この組み合わせは、目を眩ませるだけの生易しいものではない。
例えるなら、広範囲のスタングレネードに電撃を加えたようなところだろうか。
視覚を奪うだけでなく、聴覚をも阻害し挙句身体を痺れさせる凶悪極まりない攻撃。
人間に対してならば相当な制圧手段と化し、魔物に対してならば込められた光属性の魔力で一掃すら狙えるだろう。
当然、ならず者たちに対抗する術などあるわけがなかった。
「ち、畜生……!あの貴族崩れは、一体どうしたってんだ!?」
「ひとまずネンネしてろ、どうせあっちで再会出来るんだからよ」
一向に戻ってこない魔法使いに苛立ちをぶつけるならず者のリーダー。
そんなどうしようもない状況だったが、気絶という形で詰みから救われることとなった。
次に目を覚ました時は、護送中か牢の中なのかはいざしらず。
どちらにしろ、自由の身ではないことは確かだろうが。
「にしても、レオン先生のソレは相変わらずエグいことこの上無いよな。つくづく味方で良かったよ」
影響範囲外ギリギリで見ていたからこそ分かる、その圧倒的制圧力に襲撃者の一人……マドラーシュはひたすら舌を巻いていた。
対人でも対魔物でも通用するその術、『シールドオブアイギス』はマドラーシュが知る中でも三指に入る凶悪度合いを誇る
圧倒的光属性を誇り、ちょっとした人間離れした加護を持つグランロード・レオンだからこその顕魂術とも言えるだろう。
なお、先日の稽古試合でもこの顕魂術だけは使わせないように必死に立ち回っていたりもする。
「色々な場所を回っていた中でのイメージの1つでしかないがな。あくまで巡り合わせが良かっただけさ。お前やイグノックスも似たことがあれば、きっとこれ以上のことが出来るだろう」
「だといいけどなあ……全く、グランロードの背中はまだまだ遠いね」
「またそんなこと言って、陰で無茶するつもりじゃないの~?」
師と弟子の間に背面から割って入るのは、襲撃者カルテットの別動隊2名の片割れ、クリスティーナだ。
本来なら滅多に取られない背後を平然と取られ、マドラーシュは思わず冷や汗をかく。
が、そんな素振りは一切見せない……否、見せられないというべきか。
「そちらも問題は無いようだな。イグノックスは……元貴族とやらを縛り上げている最中だな?」
「正解で~す。あっちが素性を堂々とペラペラ喋っちゃったせいで、抑えるの大変だったんだから!」
「……まあ、イグノックス兄さんだからな。じゃあ、こっちもちゃっちゃと縛り上げちまおう。クリスティーナ姉さんは攫われた面々のケアを頼む」
黒竜討伐戦直後のいざこざからの失脚事件は、グランナイツ全員の貴族への疑心暗鬼に繋がったのは言うまでもないこと。
その中でもイグノックスとクリスティーナは、かつての故郷の滅亡においての因縁もある。
魔法至上主義とそれを掲げる貴族への嫌悪感という意味では、特にイグノックスはマドラーシュと並び得るとすら言えるだろう。
だからこそ、過度とすら言えるほどに同調しているとも言えるのだが。
さて、気絶しているならず者たちの拘束を終え、誘拐の被害者も全員自由の身になる。
捕まる前に抵抗したことも相まって、軒並み負傷しているがそこはグランナイツ屈指のサポーターにお任せあれだ。
魔法よりも遥かに効率の良い顕魂術の数々で的確に治療を進めている。
「顕魂術で自衛の術を持っても、これくらいで後れを取るようではな……」
「俺たち以外には日常生活の方での扱いも出来る方向で顕魂術を開発してもらっているし、その方針にしたのも誰でもない開発者のマッドだ。あまりそういうことを言うものじゃないと思うぞ?」
「そうそう、みんながみんなマッドみたいな頭のおかしい速度で成長するわけじゃないんだよ?イグノックスはもう少し採点緩くするべきだと思うな~?」
「しれっと人のことアタオカ扱いするお姉さまもどうかと思いま~す……いてっ」
「人の口調を真似しちゃダメだよ~?」
唯一厳しいことを言うイグノックスだが、騎士団内でも鬼の臨時教官と言われることも多い。
しかし、ただ厳しい指摘を繰り出す傲慢な男と敬遠されているわけでもない。
口調は確かに険しいし、思ったこともすぐ口にするので初見では誤解する者も多々いる。
しかし、その分行動は実直かつただただストイックで、単に自他ともに厳しいだけと理解すればその誤解も氷解することも少なくはない。
マドラーシュもその姿勢に感化されたわけで、同じように慕う者も少なくはないのだ。
まあ、デイジーやカルリッツのフォローあってのことなのは言うまでもないことだが。
「さて、この怪しい小屋もガサ入れするとしますかね。俺は行くのは確定として……」
「何でマッドは行くの確定なのかな~?ここはイグノックスとレオンに行ってもらって、私と仲良くお留守番が適切だと思うけど」
「……バカかお前は。マッドの感知能力と応用力を考慮すれば、むしろ行くべきだろう。こういう場面でいちいち子供扱いするな、現実を見ろ」
「またバカって言った~!姉貴分としては、どれだけ強くなっても心配なんだからしょうがないじゃない!こんなところでもスパルタしてどうするのよ!」
弟分の処遇を巡る痴話喧嘩も、もはや何度目になるのだろうか。
毎度毎度喧嘩のタネにされる当本人は、この時点で既に放置を決め込んでいた。
自分が下手に入っても火に油なことを理解できないほど、この破天荒は馬鹿でも無ければ間抜けでもない。
「とりあえず、夫婦喧嘩に入るような勇気はないんで……俺たちでさっさと行っちゃいましょうか」
「そうだな。こんな時でも夫婦喧嘩をするような二人なら、勝手に見張りもやってくれることだろう」
それだけを互いに口にすると、勝手に潜入要員となった二人はそそくさと小屋の中に入っていく。
触らぬ神に祟りなしというが、流石に薄情が過ぎる気がするがこれもいつものこと。
これがマドラーシュ含む曲者揃いであるグランナイツの日常であり、平常運転なのだ。
ちなみに、治療が終わった拉致被害者たちもマドラーシュとレオンを見習い、皆が皆我関せずを貫いていた。
誰も止める者がいなくなった、本人たち以外は夫婦喧嘩と公認されているその口論は……ならず者たちの意識が戻るまで続いたとか何とか。
東部の森林の中に建っている普通の小屋は、その内側も至って平凡そのものだった。
置かれている家具の類やその配置からも、普通に見たら何も違和感がない。
しかし、裏の世界最強とすら称される強者と世界で他とない感性を持つ第二王子の第六感は告げている。
『あまりに普通が過ぎる』……と。
この場に施された装飾は、その一つ一つは確かに日常そのものに思えるだろう。
しかし、その数があまりに多く……あたかも普通の家屋に寄ろうとしている。
まさに、臭い物に蓋をするかの如くだ。
「ふむ……この空間そのものの違和感は肌で感じるが、それ以上に絞れんな……おい、マッド?」
どこから手をつけようかと考えているレオンに対し、マドラーシュは真っ先に本棚の方に向かう。
そしてそこに収められている本ではなく、本棚そのものの注視を始める。
明らかにこの手の捜索に手慣れている風にも見えた。
「あっちは貴族崩れだからな。こういうのは、お決まりのパターンってのがあるんだよ」
「お決まりのパターンだと……?」
「俺の場合は偉志ノ大陸仕込みだからズレはあるかもだが……まあ、小物の考えることなんざ万国共通だろ」
過去の経験をきっちりと糧にし尽くす、まさにマドラーシュならではだ。
偉志ノ大陸仕込みと語っているが、実際は友人や知人のやってることに自分から首を突っ込んでいただけだ。
特に現地住民を脅かすごろつきや盗賊団の調査から制圧に関しては、ほぼ必ずと言っていいほど参加している。
無論、ヘルプに徹して手柄を横取りなんて無粋なことはしていない。
特に相手の拠点を調べる際にはあらゆる偽装を見てきていることは大きく、その経験が生きる形となっていた。
この時の経験を更に消化するために、エリオの助手として遺跡や神殿を探索するようになったのも大きい。
当人からすれば基本的なこととしか思っていないのだが、レオンは知らぬところで生徒が成長していることに感心していた。
「っていうか、そんなに感心することでもねえだろ?むしろ今までどうやって切り抜けてきたんだよ」
「そのような仕掛けについては、ルドミラやカルシオン、後はエリオが担当していたからな。イグノックスやクリスティーナも地道にやっていたが……」
「……なあ、それ一人の時はどうしてたんだよ?」
「大体は強硬手段でどうにかしていたぞ」
マドラーシュは思わず無言で天を仰いでしまう。
──目の前にいる世界最強クラスの騎士が実は脳筋だった。
平時で聞いたとしても、笑い飛ばすべきなのかツッコミを入れるべきなのかさぞ悩んだことだろう。
それと共に、レオンと共に行動することが何気に多いカルシオンの苦労をそれとなく知った時でもあった。
普段はやたらとカルシオンがからかっていてばかりだが、あれは手綱を握っている時の延長線上なのだと。
そして今、同じ状況に立たされていることをマドラーシュは理解した。
「だから、今回も怪しいところを壊せば自然と隠し通路も」
「あーはいはい、そういう筋肉に満ち溢れた解決方法は最終手段にしような?」
魔物らしきものを従えていたという証言について、聞いた時からどうにも引っかかっている。
単にその辺の魔物を捕獲して従えているというだけでも一大事というには十分だ。
しかし、彼の嗅覚は更なる事態の匂いを感じ取っている。
それこそが、今回の調査及び強襲を引き受けた要因だ。
別に貴族崩れの持ち物がどうなろうと知ったことではないが、調査においての不都合は可能な限りご遠慮願いたい。
──この醜悪な臭いの元を知らなければ、それこそ夜もまともに眠れやしない。
マドラーシュにとっては未知に対する嫌悪感に当たる事象だ。
だからこそ、脳筋的強引解決手段は意地でも止めなければならなかった。
「ふぅん、やはりそのやり口か。あっちの野盗の方がよほど隠す気があるんじゃねえか?」
「以前興味本位で手に取っては3秒で投げ飛ばしていた資料の類を、よくもまあ読む気になったものだな……」
「必要なのはその本自体の概要だけで、それも適当に数ページピックアップすりゃあ分かるものさ。後はこいつらの概要そのものを周りに合わせて並べれば……」
本棚で用いられた仕掛けは至って単純なものだ。
一見するとただ順序よく本が並べられているだけだが、その法則が成り立たない段が1つだけある。
その段のみ資料が置かれているのだが、それぞれ何の概要も書かれておらず、ぱっと見では何が何だか分からない代物だった。
そこでマドラーシュが思い出したのは、この手の資料や本の書かれ方だ。
歴史的資料のはずが宗教観ばかりだったり、事実のみを書けばいいところを無駄に詩的にしていたり。
特に前者は、ただでさえ過度な精霊信仰が蔓延している世の中を嫌うマドラーシュにとって苦痛以外の何物でもなかった。
だからこそ、目にしてもすぐに無表情で投げ飛ばしたわけで。
話を戻すと、マドラーシュは『何の概要も書かれていない、貴族特有の書かれ方が為されている資料そのものが仕掛けにおける暗号なのでは?』と考えたのだ。
そこでその段の資料を全て数ページだけ漁って、概要というか資料のタイトルそのものを簡潔に推測する。
後は他の段に合わせるように順番を並べ替えるだけだ。
本棚自体の幅が大したサイズではないので、並べ替える手間はそこまででもないのが幸いだった。
一気に並べ替えを終えると……本棚のすぐ隣で一瞬だけ異音がして、ただの壁の一部に入口が形成される。
「ぬるりとは来てねえが、まあ一発自摸ってことで」
「よくここまであっさりと解読できるものだな……エリオやルドミラでも苦労しそうな仕掛けだと思うぞ?」
「こればかりは貴族共の言い回しを知ってるか否か次第さ。色々教えてくれた我が友も褒めてほしいね」
「ユフィリア嬢か……そういう意味でのお前の星回りは、確かに最高潮だろうな」
「何でそこでユフィリア?いや実際その通りなんだが、なんだその言い回しは?レオン先生に弄られるのは何か癪だぞ」
意外に脳筋思考な伯父バカが相手だからとしれっと失礼な物言いのマドラーシュ。
しかし、そうやって弄られるのも元はと言えば自分で蒔いた種が原因だ。
ハッキリ言ってしまえば、どっちもどっちである。
光すら届かない、深淵とも言えるような地下空間。
……そもそも視界を封じられ、手足を縛られている時点で光も何も無いのですけどね。
暖かみという言葉とまるで無縁な床の上に、私は無造作に転がされていた。
このような場所に連れてこられたのは、もはや何度目になるのだろう。
今回も前座と言わんばかりにと父と伯爵夫人に嬲られ、もはや何も考えず、無表情のまま時間が無為に過ぎるのを待って。
その後、目隠しに猿轡とまるでこれから誘拐されるような風貌にされて。
馬車に雑に積み込まれて、ただのモノのような扱いでここまで運ばれてきた。
──今回の目隠し旅行の目的地は、一体どの地域に設定されているのやらか。
そんな冗談を考えられるくらいには、もう状況に慣れてしまっていた。
ここに至るまでの過程は、まさに底なし沼のような闇そのものと言える。
とある奴隷が使い物にならなくなったからということで、癇癪持ちの夫人が庶子である私を標的にしたのが始まりだったか。
それまでもまともな扱いは受けてこなかったが、この日からは急激に地獄に叩き落されたかのように苛烈な仕打ちを貰い始める。
最初の頃は、唐突降りかかってきた虐待行為に適応できなかった。
そうなれば、悲鳴やら涙やらの反応をいくつも見せるのは当然のことで。
その度に、伯爵夫人からは喧しいという理不尽な理由1つで暴力のお代わりを頂く。
更なる反応が見たいが為に、父から与えられる虐待行為も加速していくばかり。
そして、忌々しいことに……そんな残虐行為に対しても、人間の適応力というものは働いてしまう。
時には瞳の色が気に入らないからと目をくり抜かれそうなこともあったが、眼を細める癖を身に着けて対応した。
喧しいと言われたり、加虐を煽ってしまうのならば……そもそも無反応と無表情を貫いてしまえばいい。
その甲斐あってか、苦痛の時間そのものはある程度減らすことが出来た。
最終的には、もうそれが苦痛なのかどうかもあやふやになってきていましたね。
まあ、その代償として今度はモノ扱いで貸し出される時間が増えてしまいましたが。
あの二人から離れることが出来る時間でもあるので、それはそれでよかったのかもしれませんね。
……この地下空間で行われているのは、端的に言えば魔法関係の実験だ。
──無論、とても表沙汰に出来るようなことではないという注釈はついてくるが。
家畜以下の扱いの被験者ではあるが、ある程度行われていることに目星は付けている。
こうして床に寝転がされているだけでも、私以外の被験者の悲鳴と明らかに人ならざるモノが発する足音や咆哮が聞こえてくるので否でも推測が立ってしまう。
「これでもダメですか……やはり出力の調整は必要なのですかね」
「こうも魔石に食われていてはな……ヴァンパイアの方では成功例が出ているって話だったか」
「あっちは元が元ですからね。それに対してこちらは……」
魔石やらヴァンパイアやら物騒かつ胡散臭い言葉が聞こえるが、それは既知の範囲内だ。
これまではその魔石に秘める、魔物由来の魔力を体内に注ぎ込まれるまでに過ぎなかった。
その際には、見たことのない紫色の宝石らしきものも一時的に握らされていたこともありましたか。
この時ばかりは流石に、家で行われた虐待行為が可愛く思える程の苦痛に苛まれましたね。
ただでさえ魔物の魔力が回っているところに、とんでもないナニカに精神までも乗っ取られかけたのだ。
正直、この時に意識を手放してしまえば楽に死ねたのかもしれない。
しかし、私は抗ってしまった。
『死ぬならせめて、今は亡き母の元で死なねば』……そんなちっぽけな意志一つで。
生みの親を確信したのは、瞳の色が気に入らないと罵倒された時だった。
この時、私より前に虐げられていた奴隷の女性のことを思い出して……その事実に遅まきながら至った。
あの人こそが、私の実の母なのだと。
奴隷だからと虐げられていたが、恐らく娘である私の事を庇っていたのかもしれない……と。
今となっては推測でしかないが……どちらにせよ同じことだ。
死んでしまってから認知するなど、親不孝者もいいところでしょうに。
せめて母の無念に報いるためにも、死に場所だけは自分で決めたい。
そんな歪んでいて、ちっぽけな願いも……叶うことはなさそうだ。
「次は……確か、ソーサラー家の庶子でしたか?それなら魔力的には期待できそうですね」
「伯爵家からの素材提供はありがたいな。潜在的に見れば、一番見込みがあるんじゃないか?」
「念のため、『神の霊石』の出力は調整しましょうう。せめて魔石に食われないでいて欲しいものですが……」
──どうやら、次は私の番のようだ。
会話から察するに、私の体内に魔石を取り込ませる算段なのだろう。
しかも、あの時私を狂わせかけた紫色の宝石も用いて。
それにしても、『見込みがある』と来ましたか。
全く持って、嬉しくないことこの上ない評価ですね。
評価されているのは、所詮あの人の姿をした悪魔たちの血筋なのだからね。
更にはその評価の裏返しとばかりに、変に暴れないようにと手足の拘束まで為されてしまった。
成功にしろ、失敗にしろ……さぞ凶悪な魔物にするつもりなのでしょうね。
……これはもう、本格的にどうしようもない。
今度こそ、変な抵抗は止めにするべきですかね。
仮に生き延びたとしても……その時の私はもう人ですらなくなっているのだから。
もしかしたら、カタチだけは維持出来ているかもしれませんが……。
いえ、どちらにせよ同じこと。
それだったら、せめてまともな形で死んでやろう。
人間として、あちらにいる母の元へ会いに逝きましょう。
──そうと決まれば、形だけでも奇跡を祈っておきましょうか。
いっそ起こり得ないものに縋った方が、諦めもつくでしょうから。
……そう思い至った時だった。
「今の貴族様の流行は邪教ごっこってか?どんな設定かは知らねえが、そういうのは十代の内に卒業しておかないとただただ痛いだけだぜ?」
祈りを頭の中で唱えようとしたところでその声は聞こえてきた。
そのあまりに軽薄な口調は、陰鬱としたこの場には全く相応しくない。
しかし、その軽口はその場の空気を見事に払わんとする鮮やかさが感じられた。
場面の変化を示すように、風を切るような涼やかな音と共に私の両手両足は解放される。
唐突に落下する感覚に襲われるが、当然のように受け止められた。
「レディの扱いもなってねえ時点で論外もいいところだな。学院に入り直して一般教養から学び直してきたらどうなんだ?」
拘束を破壊する時の余波のせいか、私の目を遮っていたものも砕かれていたようだ。
床に落ちないように抱きかかえられると共に、私は久方ぶりにはっきりと目を開いた。
最初に映ったその顔は、私よりも年下に見える。
背丈は推定年年齢を考慮してもそれなりにあるようですが……全体的に、どこか少年っぽさが残っている容姿だった。
その子供特有の無邪気さと怖い物知らずな不敵さの双方が表された笑みを浮かべている辺りもまた、童心を思わせる。
しかし、その風格は明らかにその見た目とは分不相応だった。
背中に剣を背負っていて、服装もどこかあちこちを巡って来たかのような……そう、まるで歴戦の冒険者。
「気に入らねえ舞台を壊しついでに、囚われのお嬢様を助けに参上だ。少なくとも泥船じゃねえから安心しておけ」
そんな矛盾をまるで衣のように纏う謎の乱入者は、私に不敵な笑みを向けていた。
童話で目にするという、白馬の王子とは程遠いものかもしれないが……むしろ心地よく感じてしまう。
何せ、この場において必要なのはただ光っているだけの上っ面な存在ではないのだから。
どうしようもない理不尽を前にしても、涼しい顔で悉くを打倒していく。
こちらがどれほど深い闇にいたとしても……表情一つ変えずにその闇に飛び込み、そのまま拾い上げてくれる。
まさに、自ら闇に深入りすることも恐れない……確か、ダークヒーローと言いましたか。
私が求めていたのは、きっとそういった存在だったのでしょうね。
というわけで、二人目の転天キャラは名前こそ出てないけど家名やら描写で分かると思いますがプリシラです。
web版では第二部から、書籍では7巻から登場なので作中期間大凡5年も前倒しの大フライングですね。
web版で描写されていた部分をこちら風に掘り下げてしまいました。
まあ、書籍版はどうなるか分からんのですが……本作ではこの設定で貫きます。
彼女ともう一名くらいですからね、直接的な貴族の闇の被害者キャラは。
この救助シーン、完全にメインヒロインのそれな気が……。
筆の悪乗りで主人公に色々DMC風なセリフ回しさせた結果ということにしてください。
そしてついに魔法史上主義の悪辣部分登場。
正直、web版から読んでてずっとこういうのが殆どいないことにモヤモヤを抱えていたんですよね。
やっぱり邪悪成分が欲しくなる。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)