なおこの分割前4話相当、まだ書き終えていません。
色々とゴチャゴチャ足し過ぎて、とんでもない長さになりそうです
本棚の仕掛けを解いてから現れた新たな入り口の先は、長い長い下り階段だった。
こういうのを黄泉への道だの、地獄への階段だのよく読んだものだが……それらに比べたら作りが些かチープに見えたね。。
そう時間がかかることなく階段は終わり、その先にあったのは……案の定というべきか、異空間のような様相だった。
しかし、地上の木造小屋とまるで違うのは視覚的な意味だけではない。
……真っ先におぞましさを感じ取ったのは嗅覚だった。
何せ、少し進んだだけで鼻を摘まみかけたくらいだからな。
後ろをついてきたレオン先生も、普段の3割増しで皺が増えるほどには不快感に苛まれていたくらいだし、よっぽどだよなこれ。
臭いの大元は大まかに分ければ2種類で、これらがもし別々で臭ってるんだったらまだマシだった。
嗅ぎ慣れてしまってるからっていう、まあいい気はしない理由なんだが……現実ってのはどうやら斜め上を行くことがよほどお好きらしい。
──そうじゃなきゃ、人と魔物、双方が混じったような血や死体の臭いが充満してるなんてあり得ねえだろうが。
確かに、魔物らしきものが誘拐犯に混ざっていたって話を聞いた時点で最悪の事態は考えていたさ。
だからって、何でこう……悲観的な予想ばかり当たってしまうのか。
常に最悪を想定しろとは言うが、こんな胸糞展開が的中したって何も嬉しくねえ。
部屋はいくつもあったので、片っ端から扉を蹴り開けては中のガサ入れをしていく。
いくつか資料を流し見したが、嫌な予感は最悪を確信する形に羽化してしまった。
──『神の霊石』を軸とした、人と魔物を融合した存在の創造。
詩的ではあるものの、適当に見ても解読できるくらいだったのは助かったが……マジでイカれてるな。
しかもこの『神の霊石』を使ってるってのも最悪そのものだ。
レオン先生もこの文言を見たら、すっげえ険しい顔になってた。
……お陰で、あの忌まわしい事件の黒幕も連鎖的に分かっちまったから当然だろうな。
ったく、精霊契約へのアプローチとして人を止めるのは勝手にしやがれとは思う。
だが、そんなてめえ勝手に他人を平然と巻き込むとは一体どういう了見なんだ?
挙句、その行為を『魔法という素晴らしき叡智を授ける』だなんて正当化しやがる。
もういっぺん処刑宣告かましても、誰も文句は言わねえよな?
そんなわけで、内心腸が煮えくり返る俺たち二手に分かれて探索を続け……結果的にはその無茶苦茶が功を喫した。
最悪半歩手前の現場に急行して、一人だけでも最悪のとばっちりから引きずりあげることが出来たんだ。
こういう時は、多少の無茶もするもんだよな。
「気に入らねえ舞台を壊しついでに、囚われのお嬢様を助けに参上だ。少なくとも泥船じゃねえから安心しておけ安心しな。この『無慈悲な主役』が気に入らねえ舞台を壊しに来たついでで囚われのお嬢様を助けたってだけの話さ」
とりあえず、囚われのヒロインは丁重に扱わねえとだ。
誰彼構わず殺気を向けるようなバーサーカーなんてやらかしたら、それこそイグノックス兄さんの拳骨が飛んでくる。
……にしても、なかなか歪な雰囲気を持つお嬢さんだな。
お姫様抱っこってやつをしてやってるんだが、そんな状況に困惑してるってだけじゃなさそうだ。
なんつーか……生きる希望すら失ってるような感じ?
そういや、さっきソーサラー家の庶子だ何だって聞こえたが……。
「貴様、どうやってここまで……まさか、補充に向かった連中がやらかしたのか!?」
「その娘は伯爵家から提供された貴重な素材だ!庶子という卑しい立場から成功例になり得るという栄誉を得る好機を自ら剥奪するというのかね!?」
「とっとと離れろ、卑しい冒険者風情が!」
おーおー、元貴族なのかそれとも現役なのかは知らねえが三下なセリフ吐いてやかましいこって。
ったく、そういうのはちゃんと本人確認しろよな?
事と次第では強要罪も加えて……あ、でもどうせ処刑だから同じことか?
「電波丸出しキチガイ発言が甚だしいが……アンタはその実験の成功とやらで一発大逆転かましたいのか?」
まあ、念には念を入れておくとしよう。
もしかしたら、本当に万に一つの可能性に縋っている可能性も……いや、ねえんだよなあ。
このお嬢様、俺が助ける寸前は生への執着を見事に無くしてたからな。
さっきのゴミの口ぶりを考えるに……庶子だからって人間扱いすらロクにされてなかったってところか。
そんで、クソな信仰のお布施というモルモット扱いでこんなところに送り込まれた……と?
推測の上でしかないんだが……また憤怒がぶり返してきそうだな。
そんな俺の内心を察したかは知らないが、ひたすら被害者なお嬢様はさっきまでとは打って変わっての微笑を浮かべていた。
「……ふざけたことを抜かしてくれますね。魔物との混ぜ物になって生き延びるくらいなら……今すぐ舌を噛み切ってやりますとも」
「さっきまで死にかけてた割にはいい返しだ。ただ、俺の後処理が面倒になっちまうし、こうして抱き上げた甲斐が無くなっちまうからまだ死んでくれるなよ?後でその辺は選ばせてやるからよ」
「……では、今はその時を素直に待つと致しましょう」
この口ぶりなら、俺が遊んでる間にマジで舌を噛み切るってことはしなさそうだな。
にしても、この状況で人の事を値踏みする辺り……随分と肝が据わってやがるね。
ここまで活力が戻ってるなら、助け甲斐もあるってもんだな……っておいおい。
「先ほどから勝手に話を進めるんじゃない!『ファイアボール』!」
「栄えある精霊契約に近づく実験の邪魔をするな、無礼者めが!『ウィンドカッター』!」
……魔力を駄々洩れにした上で詠唱付きとは、もはや救いようがねえな。
精霊を経由する都合、魔力を隠匿するのに不向きなのは知ってるがそれにしたってなあ?
当てる気あんのか?
「ドヤ顔でみっともねえ技術と思考回路を披露されても反応に困るな……そんなんじゃあ蠅でも欠伸ものだぞ?」
あの程度だったら、セイリオスも千紫万紅も必要ねえ。
とりあえずは適当に展開しておいた闇一色の槍と光雷の極小ブレスで相殺しておいた。
詠唱ありきの魔法が無詠唱で武器も構えてない雑な状態で打った下級顕魂術に負けるとか、ないわー。
そんでもって、何で一発無力化しただけでボケっとしてるんでしょうかね。
『自分たちの信仰は何者にも負けやしない』って感じの思い上がり丸出しで笑えてくる。
「……栄えと蠅を引っかけながらの無詠唱発動ですか……明らかに魔法には見えませんけれど、何をしでかしたのでしょう?」
「どっちも分かってくれるとは、なかなかの頭の回転の速さだな。ますます気に入ったから後で詳細を教えてやるよ」
「……恐縮です」
口もそれなりに回る様になってきたな。
もうちょい気を解してやろうと思って、結構適当にジョークを添えただけなんだが……吹雪は起こしてないようで良かった良かった。
まあ、そうなってたとしても適当に道化っぽくリカバリーしてたけど。
「この、どこまでも人の事をコケにしおって……!おい、アレを解き放て!」
「お前たちにも誉れある役割を与えてやろう……行け、失敗作共!」
おおっと、ちょいと怒らせすぎちまったか?
三流悪役のようなセリフと共に何か押してやがるぞ。
……で、失敗作ってのはもしかしなくても。
「まさか、魔石に食われた方々をそのまま……」
「
「後の世の礎になるのだ。むしろ光栄なことだと思わんかね?」
「くっだらねえ信仰に現を抜かす暇があるなら、ゴミ拾いでもしてた方がよっぽどマシだね」
さて、そうこうしてる内にワラワラと色々湧いてきたな。
どいつもこいつも、その殆どが見覚えのない。
これ、カンバスとかその辺で出て来るような魔物じゃねえか?
そのまんま
見た目からして何のこっちゃかってのがいねえのは救い……なのか?
にしても、随分と余裕そうな顔してやがるが……外にもう一人いるって気づいてねえっぽいな。
数の暴力に酔いすぎだろ、流石は貴族崩れだね。
「本来ならば神の霊石を軸にして精霊に寄らせるところだったのですが……この素材共の貧弱さが原因で魔石から返ってしまったのですよ」
「律儀に説明どうも。ところで、とっとと逃げなくていいのか?」
「はっはっは、我々に逆らう愚か者の死を眺められる特等席から離れるなど……!?」
これまた三下丸出しのセリフは途中で遮られた。
壁ごとぶち破って新たに乱入してきたのは、あの馬だった。
薄暗いせいか、いつもよりも光属性の魔力が随分と眩くて困る。
あーあ、そんな乱暴な使い方したらまた俺に愚痴が飛んできそうだ。
「すまない、壁を破ってしまった。魔物の気配が濃かったから手段を選んでいられなくなってな」
「どんだけ壁壊したいんだよ……レオン先生、この際だから騎士から建築解体業にジョブチェンジしたらどうですかね」
未だ俺が抱えているお嬢様も流石に呆けちまってるじゃねえか。
そりゃあ、馬に乗って壁をぶち破ってくる騎士様なんてどこの世界の住人だってなるわ。
これが仮とはいえ世界最強クラスの存在なんだぜ?
全く、妹である師匠が時折頭を抱えているのも今では割と納得できるのが悲しいところだ。
「ところで、何でこんなところにカンバス生息の魔物がいるんだ?」
「神の霊石とやらを軸に魔石と人体を融合して、新人類を生み出そうとして失敗した結果だとさ」
「……要するに、拉致した人間を素材にしたということか。──下種共め」
この時のレオン先生の表情は……沈痛という言葉で片づけていいものか分からなかった。
以前から追っている『神の霊石』……正しく言うなら『血の祭典』のことも背負いこんでいるというのに。
……何でこう、俺たちの忌み嫌うようなことばっかり立て続けに起こすんだよてめえらは。
「……俺たちの目の黒い内はこれ以上の狼藉を許さん。一度表舞台から去った身だが……こうして裏から掃除をすればいいまでのことだ」
「表舞台だと──ま、まさかグランナイツ!?それもレオンってそのリーダーじゃないか!何でこんなところに来ているんだ!」
「そ、そんなことはどうでもいい!とっとと逃げるぞ!どうせここは放棄したところでさほど問題はあるまい!」
おいこら、そのリーダーなんだから何か敬称くらいつけろや掃き溜め共め。
さっきまでの強気な態度はどこに行ったんだろうねえ。
まあ、所詮は精霊とか魔法という虎の子を借りただけのゴミだからしゃあねえか。
三人しかいねえが、蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出すその姿は……まあ見ていて情けないことこの上なかったね。
思わず追撃をするのを忘れちまうくらいには滑稽だったよ。
「……追わなくていいのですか?」
「お嬢様がそんなこと気にしなくていいっての。とりあえず、後始末をしなきゃだから降ろすぞ?」
流石に人間一人抱えたまま戦えるほど器用じゃないからな。
懸念を発する余裕があるのはいいことだが……残念ながらその必要はねえんだ。
地上にはあの二人がいるから、どうせ連中はチェックメイトさ。
レオン先生も、それが分かってるから放っておいてるんだし。
「……せめてもの報いにもならねえが、この『無慈悲な主役』とグランロードで鎮魂と行こうか。とっとと解放してやるから、もうちょい我慢してくれよ」
俺の宣言に呼応するかのように、セイリオスと千紫万紅も輝いている。
こいつらもすっかりやる気満々のようで何よりだ。
──今回はレオン先生の魔力に共鳴させるという意味でも、光属性多めで行くとしよう。
その方が、ちょっとは弔いの意も出るだろうからよ。
レオンが先ほど言った通り、二人が相手している魔物は王国での発見例は皆無だ。
どれもこれも見るからに死霊やら悪魔と、とてもじゃないがいいイメージを持てない存在ばかり。
更には、纏う魔力もきっちりと闇属性ばかりの付録つきときたものだ。
貴族崩れ達の精霊信仰が最悪の形で表れ、マドラーシュとレオンの五感にその醜い現実を嫌というほど叩き込んできていた。
「……クソッタレが。あんま言いたくねえんだが、マジで鼻が曲がりそうだぜ」
醜悪とすら言える妄信は、本来の魔物が持つ魔力すらも腐敗させてしまっている。
闇の精霊は安息の眠りを象徴するとされているのだが、これでは人間の醜い部分や後ろくらい部分をただただ表現しているだけだ。
それは皮肉なことに、マドラーシュの中にある闇属性への別解釈と一致してしまっていた。
確かに、闇は安息や受容の側面は勿論存在する。
しかし、その反面……留まることを知らない悪意や欲望、嫉妬などの底なし沼を表す側面もある。
むしろ人間の内面についてならば、こちら側の方が強いくらいであることもマドラーシュはこの12年間で嫌というほど学んできた。
その上で、誰しもが持つその二面性を律し調和する。
これでようやく正しい意味で闇属性……否、他の属性についても振り回されず使うことが出来る。
偉志ノ大陸で口を酸っぱくして言われたことを忠実に守っているからこそ、マドラーシュの中でその怒りはマグマのように煮えたぎっていた。
その怒りは、先ほどの貴族崩れもそうだが……それ以上に己に向けていた。
「……そんなアンタらに最低限の救いすら与えられない俺も、所詮は同じ穴の貉なんだろうがな」
目の前の死という救いしか与えるしか出来ない存在は、自分のこれまでの動き次第ではそうならなくても良かったのかもしれない。
そんな意味のない『もしも』を描いているとばかりの自虐と自嘲、そして無力感。
これらを綯い交ぜにした苦悶の表情と共に、二足歩行の悪魔を光と炎を纏わせた斬撃で一刀両断する。
いつものマドラーシュとはまるで異なる、焼却ではなく浄化をイメージとした魔力。
ただのエゴや自己満足でしかない……いつもとはまるで異なる雰囲気からは、そのような自嘲が見受けられる。
しかし、それでもそのままにしておくのは彼の気が済まない……というか気に入らない。
偽善だろうが何だろうが、己がやりたいことを出来る範囲でやる。
魔物に堕とされ、魂までもが食われるような苦痛に苛まれるよりは幾分かマシ。
そんな心境で、確実な一撃を心しているが故の隙も生まれていた。
「……やはりこちらに来ますか」
複数で取り囲んだとしても、的確に回避してからの反撃でマドラーシュはあっさりとかわされてしまう。
しかし、人間をベースにした魔石返りのような現象からか……この闇属性の魔物たちにはある程度の知性があった。
ならば、マドラーシュ以外の近くにいる庶子の令嬢を狙うのは必然だった。
魔法の素養をそれなりに備える者を簡単に狂わせかねない『神の霊石』の影響により暴虐欲求も混ざっているから、その目的は言うまでもないだろう。
「その手の業なんて俺にだけ押し付けてりゃあいいんだよ。自分から煉獄やら地獄に行く真似はやめとけ」
無論、それをマドラーシュが見逃すはずもない。
この広範囲に行き渡る状況把握能力もまた、『無慈悲な主役』と呼ばれる所以の1つだ。
自身から視線を外したことだけを頼りに、悪魔の頭と巨人の頭を足蹴にして即座に囲いを抜け出す。
そして宙に疑似的な天井を作り出して、一瞬の足場にするとともに加速する。
重力をも利用した加速と共に、セイリオスで兜割りを放つ。
先頭で迫っていたサイクロプスを光の元で一刀両断にすると、即座にセイリオスを収め今度は居合の構えに入る。
千紫万紅が抜き放たれると、三日月の形をした光輝く斬撃が発生する。
一瞬の静止から解き放たれた魔力は、次点で続いていたゴーストナイトや影の番人をまとめて押し返すほど。
これだけでも足止めとして機能しているが、マドラーシュは更に追撃をかける。
再度セイリオスを抜き、裏手で1発、その後順手に持ち替えてもう1発斬撃を放つ。
そこから再度裏手に持ち直して、少し溜めてからおまけとばかりの3発目だ。
2つの武器を合わせて計4発の魔力斬撃は、庶子の方へ向かう魔物を1体残らず鎮めていた。
「R指定な図を見せることになるが、そこは我慢してくれよ?」
「特等席で貴方様の雄姿を見物できるのですから、むしろ私めには贅沢が過ぎますね」
「随分と口が回るようで。アルコールを用意した覚えはねえんだがな!」
憎まれ口ながら、その表情はほんの少しだけだが復調していた。
この場にいる中での唯一無力な生存者は、無自覚にもマドラーシュに前向きな理由を与えていると言っていい。
罪悪感が晴れることは無いが、後ろ向きな理由ばかりよりはよほどマシだろう。
軽口がある程度出てくるようになったことが、懺悔の泥沼から少しだけ這い出ている何よりの証拠である。
一方、マドラーシュと同じく魔物に堕ちた者たちを解放しているレオンの表情は相変わらずの鉄仮面だ。
「……俺がもう少し的確に動いていれば、より多くの者を救えたのかもしれん」
その仮面の裏はマドラーシュ以上の混濁っぷりで、顔には出ずとも攻撃の鋭さに現れている。
懺悔と後悔の念と共に放たれるのは、地上では鎮圧に用いられた魔力盾の一撃、『シールドオブアイギス』だ。
更にそこからマドラーシュの稽古試合で決め手にした『シャインスプラッシュ』を続くように放つ。
せめて痛みを感じないよう、気絶させてから纏めて斬り伏せていく。
更に、飛沫状になった光の魔力は周囲の死霊や巨人の動きに明確な制限を与えることで後の接近で有利にしていく。
マドラーシュと同じく……否、それ以上の制圧スピードを見せる辺りは流石グランロードといったところか。
「恨んでくれてもいい。女神の啓示を受けながらも、救いにすらなれなかった愚か者だからな。全ては、あれらを連中の手に渡らせてしまった俺に責がある」
周囲に魔力で構成された剣を生成しながら、同じ工程で馬も作り出しては嘶きと共に突進していく。
その最中で、周囲の剣は的確に魔物たちに向けて降り注がれる。
1体だけ、離れた位置から闇の魔力弾を放つ狡猾なウィスパーがいるも……。
「お前で最後だ。来世があるかは分からんが……せめて安らかに眠れ」
馬から飛び降りて、マドラーシュと同じく宙に足場を作り加速の軸とする。
自身を光の矢として、最後に残る死霊に一切の痛みを残すことなく一瞬で蒸発させた。
マドラーシュのそれとは異なる、文字通り奔流と言える光の魔力は、攻撃が終わってなお粒子として散っているほどだ。
その様は、この場の解放者2名に何かを語っているかの如くだ。
無論、それはそのように見えるだけで二人にとっては何の慰めにもならないのだが。
「マ……いや、ケルビムの方も間もなく終わるか」
鉄仮面を辛うじて維持しながらも振り向くと、マドラーシュの方もトドメの一撃を放っているところだった。
水と光、更には風の魔力が織りなすその一撃は、邪念を清廉な水流と風の麗らかな情景を持って洗い流すというイメージだろうか。
グランロードの光の魔力の残滓と共に、その場の淀んだ空気を換気しようと言わんばかりに浄化の役割を果たしていた。
「この様子だと、その手のおぞましい実験はここでしかやってなかったのか?」
「他の部屋はあくまで拉致された者たちを監禁しておくだけの場所だった。恐らく、上の連中は文字通り補充をしようとしていたのだろうな」
「そこを未然に防いだ上で、このお嬢様を救出しただけでもよしとするべきなんだろうが……」
そうやって割り切ることが出来れば、確かに精神的負荷はもう少し違うのかもしれない。
しかし、そうそう己を楽にすることを出来ないし、そもそもしようともしないのがこの二人だ。
傍から見れば随分と違うように見えるが、その根源はどこか似通っている。
そういう意味では、この二人の関係性もまた親子関係に近しいところはあるのかもしれない。
だからこそ、二人してこの結果に対して悲観的な表情になってしまっていた。
が、いつまでもそうしているわけにも行かないので気を取り直す。
正確に言うならば、唯一の生存者の方に目を向けていた。
「そういやアンタ、庶子とか言われてたが……まさか、厄介払いとばかりにこんなところに送り込まれたのか?」
「……そういうことと捉えて頂いて構いませんよ。すっかり名乗りが遅れてしまいましたが……プリシラ・ソーサラーと申します」
「おっとこれはご丁寧に。一応冒険者をやってるケルビムだ。『無慈悲な主役』とか一応言われてるよ」
「……レオンだ。一応元近衛騎士だったが、今は引退している」
救助からいきなりの魔石返りとの戦いの中で行われていなかった自己紹介だ。
どれだけ激動の展開だったのかと思い直し、苦笑するほどには立て直せた。
ちなみに、マドラーシュは外行き状態なので偽名を名乗る。
本来の名を告げてもいいのかもしれないが、この場においてはどこに目や耳があるか分からない。
故に警戒に警戒を重ね、あえて控えることとした。
「レオン様にケルビム様……それと、地上の方にもまだ何名か仲間の方が待機しているという認識でよろしいでしょうか」
「おいおい、さっきまでマジで死にたがってたヤツとは思えねえ頭の回しっぷりだな……こんなところで燻ぶらせるには勿体ねえ」
「……私のような卑しい庶子に賞賛とは。身に余る光栄ですね」
恭しい一礼を一身に受け、マドラーシュは少しばかり気恥ずかしそうに頬を掻いてしまう。
彼の場合、自身の立場や周囲の環境からこのような態度を取る人間との対面の機会はほぼ無い。
更に、少しばかりの歳の差があるとはいえほぼ同年代の相手からそのような態度を取られるのはほぼ初と言っていいだろう。
ちなみに、かの公爵令嬢についてはスタートからおかしなことになっていたから除外されているだけだ。
そしてプリシラの推測についてだが……こちらは特段難しいことではない。
魔石返りの魔物の集団……それも王国での発見例は皆無のそれらを無傷で倒したマドラーシュとレオン。
それほどの二人が、みすみすあんな貴族崩れを見逃すのか?
見逃したのではなく、好きに動かしたのは……地上にアテがあるからではないのか。
たったこれだけのことだが、自身も魔石返りになる可能性もあった状況下からの急転という場面で至れる思考なのかと言われたら……大半は否と答えるだろう。
そんな肝の座っていたプリシラの在り方に、マドラーシュは舌を巻いていた。
「ソーサラー伯爵家……そんな西の大物まで関与しているとはな。この分だと、全てを摘出するのにどれほどかかるのやらか……」
「腐ってるところはとことんってわけだな。流石にこれは想定外だぞ……」
先ほどの地上の貴族崩れがクーデターを鎮圧した際の生き残りであることは既に確定事項である。
その粛清されたはずの元貴族が裏で暗躍しているという今回の件は、想定以上に根深いことだ。
本来ならばいてはいけない存在そのものに目を向けられるが、マドラーシュとレオンはその裏も考慮している。
だからこそ、今回の一件はあくまで氷山の一角に過ぎず……長くしんどい戦いが始まってしまったことを憂いてすらいた。
「その口ぶりですと……お二人は国の膿落としを為さっているのですか?」
「あくまで気に入らないから出来る範囲で叩き潰してるってだけさ。ただのモグラ叩きで嫌になるんだがね」
「だが、放っておけば世界全体に腐敗が及びかねない。例えイタチごっこでも、俺たちがやらねばならないことだ」
グランナイツが表向き引退してからの動きは主に二手に分かれている。
国の内部、時には世界的な不穏分子を探る者達と、その不穏分子を調査して時に潰す者達だ。
マドラーシュの革命発起をきっかけに、最初はレオンが一人でどちらも一身に受けていた。
しかし、それを見かねた妹のデイジーがマドラーシュやイグノックスと共に強引に首を突っ込みだす。
当然その時に一悶着あったが、仮にも革命の旗印であるマドラーシュが強気に出て綺麗に纏め上げたのだ。
活動の方向が明確したことで、貴族の不正や人道に反する行為を密かに取り押さえる事例も増えてくる。
今回の裏任務もその一貫ではあるが……これまでと比べ物にならないほどの巨大な膿で、氷山の一角の可能性すらあるおまけつきだ。
レオンの脳内スケジュールでは、既にグランナイツと第二王子全員集合の話し合いが組み込まれている。
「そろそろ上に戻るぞ。あの二人をあまり待たせるのも良くないだろう」
「あー、それもそうだな。細かいことは後でじっくり話して……いや待った」
マドラーシュは出口とはまるで違う方に踵を返していた。
あまりの唐突な行動に、彼の破天荒っぷりをよく知るレオンも少々ばかり面食らう。
先ほどまでの口ぶりだと、一秒でもこの場所から離れたいものだと思っていたから尚更だった。
「……急にどうした?」
「どうにもまだ匂いがするから俺はもうちょい探索していく。レオン先生はプリシラ連れて先に地上行っててくれ」
「……それなら逆の方がいいのではないか?」
マドラーシュの言う匂いが、先ほどの魔物と同レベルまでの存在ならば何も問題は無いだろう。
しかし、この段階でマドラーシュが存在を感知したという点が引っかかっていた。
戦力的観点で考えれば、レオンの主張は全く持って正しい。
マドラーシュもそのことは理解しているのだが……首を縦に振ることはない。
むしろ、彼には立派な反論材料があるくらいだった。
「逆の役割にしたとして、レオン先生はこの地下施設に余計な傷つけないで帰還出来るのか?穴ぼこだらけにした挙句、大事な証拠とかぶっ壊されたらこちとらたまったもんじゃねえぞ」
カルシオンやルドミラがいたら間違いなく全力で首を縦に振って同調する場面であろう。
なかなかに辛辣な言い分ではあるが、この施設に入る前のやり取りを浮かべれば容易に浮かぶことだ。
現に、ここに来るまででも全ての部屋で強硬手段を働いていたりもする。
その前科を自覚しているからか、この点については何も反論は出来なかった。
「……危険を感じたらすぐに退くこと、これだけは守ってくれ。お前に何かあったら、俺やイグノックスまでデイジーに説教を貰う羽目になるからな」
「それも悪くねえ気もするが……まあ、俺も自殺願望者じゃねえからな。引き際はきっちり弁えるよ」
「もし破ったら、何としてでも引きずり戻して……クリスティーナによる監禁も含めた説教フルコースだな」
「それだけは勘弁だな……真面目に気を付けるとするかね」
突っ走る行為が過ぎることが多い第二王子に対して、せめてものとレオンは釘を刺す。
監禁からの説教フルコースとは何事だとプリシラは思うが、ラスやキュイが見ればいつも通りと流す光景である。
こうなれば、後はマドラーシュのギリギリ分水量の采配を信じるしかない。
甥っ子に対しては伯父バカを発動させるが、マドラーシュに対しては絶妙な放任主義を発動させていた。
「……本来、親子とはこのような関係なのでしょうか」
レオンとマドラーシュに血の繋がりがないことは、断定こそできずとも推測は出来る。
しかし、血の繋がりなどまるで関係ないと言わんばかりの親子の絆は間違いなくある。
対する自分はどうなのか。
実の父からは人間扱いすらされず、実の母との関係は彼女がこの世を去ってからようやく認知するという始末。
そんなプリシラにとって、血が繋がっていなくとも……否、血が繋がっていないからこその強固な関係は眩しいものでしかない。
血が繋がっていても、まるで親子関係が認知できない。
特に父については、親として認めたくないが……それでも血縁という呪縛からは逃れられない。
この事実は、御伽噺で見たような救出劇による興奮から醒めるに値する冷や水だ。
レオンの後に続くその表情からは、生きるための熱がまるで無くなっていた。
というわけで、今回はグランサガ6章モンスターオンパレードでした。
ハードモード実装当時、明確に難易度が跳ね上がって楽しくなってきたあの辺りを思い出しますね。
『神の霊石』は、グランサガのとある重要アイテムの別称です。
ありそうでなかった魔石(魔物)と人間の融合実験、盛大にぶちこみました。
web原作を読み進めていた頃は、魔法至上主義って単語を聞いて『DMC4の魔剣教団みたいな流れある?』と期待してたんですよね。
まあ、無いならこっちでやっちまえってことでやってしまいました。
ちなみに、グランサガ側の教団は分かる人は分かると思いますが存在しません。
割とこの辺りも後の伏線に……したいですね。
原作ではレオンとカルシオンだけが黒騎士団として活動しているの対して、本作では存命しているグランナイツ全員と主人公が実質的な黒騎士団です。
ここでもしれっと救済が入っていたり。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)