転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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というわけで、フライング救済したりフライング種族登場したり原作より悪どい面があったりな一連の話の最終幕です。
本当に、詰め込みすぎって考え物ですね……。


17.破天荒は宣誓されて見送るようです

 

俗世に紛れるヴァンパイアとパレッティア王国が擁する破天荒第二王子の会合という裏の一大イベントは和やかに終わった。

互いにとって収穫も大きく、理想的な帰結とすら言える。

その割には、まだまだ互いに隠し刃を構えるような関係にも見えるかもしれない。

そんな物騒な代物も、この二人にとってはただの信用の証と化す。

そんな世界が転倒しそうな会合の後は、見る人が見たらひっくり返りそうな物理的大移動であった。

 

「わわわ……まさかこんな形でアーイレン帝国に密入国することになるとは、夢にも思いませんでしたよ」

「密入国?いやいやとんでもない。君たちはこの私の立派な来賓なのだから、これは単に国を跨いだというだけのことだよ」

「これに関しては同意だな。コネは使える時に使わねえとだぜ、エリオ姉さん」

 

これぞ蛇の道は蛇なのか、同類と言える世界的悪童二人はそれはもう悪い笑みを浮かべている。

ここにカルシオンとイグノックスがいれば、さしずめ悪童カルテットにでもなるのだろうか。

挙句かのぶっ飛び専属侍女や、天災ミケ族が集った日にはもはや何をしでかすか分かったものではない。

そんな絶対に起こってはならない集合絵を、エリオは脳内から必死に振り払う。

 

「ここが母の故郷……国境を越え足を踏み入れただけだというのに、懐かしさすら感じますね」

 

いつも通りのやり取りから少し離れた位置で、プリシラは街並みを眺めていた。

その表情は、一つの憑き物が落ちたからか穏やかそのものだ。

受け継がれた郷愁の念は、ただただ奥底で燻ぶらせざるを得なかった。

だからこそ、無事に成した時の反動も大きくなるもの。

プリシラを蝕む強迫観念は、この瞬間で完全に昇華されたと言えよう。

──しかし、ここで立ち止まってはいけないと己を奮い立たせる。

かつての自分はここを最終地点としていたが……今は違う。

この穏やかさにただ甘えるだけでは、また同じことを繰り返すだけ。

しかし、ただ逃避するように振り払うのではない。

あくまでここを始まりの場所とする……それだけのことだ。

 

「おっと、別に急ぐようなことでもねえんだぞ?」

「いつまでも浸っていたら、また甘えきってしまいますので。確かに一つの終着ですが……それは原点であり、いつでも戻ることは出来るのですから」

「それが分かってるなら、俺からはもう何も言うことはねえな」

 

絶望と共にひたすら沼に沈むことしか出来なかったかつての自分との決別に過ぎない。

破天荒の手により沼から引きずり出され、己の価値を見出すことの始端に立つこととなる。

しかし、そこから先は自分自身の足で立って歩かなければならない。

2週間と少々という短い期間ではあるが、どこぞのブートキャンプを彷彿とさせる濃密な時間はプリシラに確かな自立心を与えていた。

そんな師弟の様子を見て、姉貴分は今回の無茶苦茶スパルタは水に流すこととした。

それからは特に寄り道も立ち止まることもなく、『V3社』の支部の1つに入る一行。

こちらもカルリーゼ支部と同じく、大通りに堂々と構えていた。

二度目ともなれば、3人が浮かべる表情はただただ苦笑のみだ。

 

「こっちの支部の方が小規模……に見えて、地下に空間が広がってるってオチがあったりするのか?」

「流石のケルビム君、大正解だ。この間のブツを格納してなお余裕があるくらいだね」

「わわ、このタイミングで私の知的好奇心を刺激しないでいただけませんか!?」

 

果たしてエリオの脳内ではどのような光景が展開されているのか。

このまま自分も残ってしまおうか、そんな誘惑にも駆られているようにも見受けられる。

とはいえ、見た目は小柄なミケ族とは言え中身は立派な大人なのでかろうじて自重を心掛けることは出来ていた。

……もしマドラーシュとプリシラが同行していなかった場合は、グランナイツの一人が長期離脱ということになっていたことだろう。

そんな洒落にならないやり取りの後、カルリーゼ支部のものと似たような部屋に入る。

そこからは、プリシラの書類との筆記格闘が始まった。

ヴィルジールの組織の骨組みは、並の商会も霞むほどの徹底しているとのこと。

その分、入る時も去る時も記入する書類の数もそれなりになってしまう。

よって、残りの3人には少々ばかり空き時間が生まれた。

エリオはプリシラについてはどんな書類なのかをまじまじと眺めている。

そして、同類二名についてはやや機密内容に寄った会話に花を添えていた。

 

「……そういえばだ。あの違法研究所ってあっちの帝国の手が入ってるってことでいいんだよな?」

「流石に察するか……というより、よく存在を知って受け入れられたものだな」

「パレッティアでも偉志ノ大陸でも、んでもってアーイレンでも無いってなったら必然的にそうなったって話さ。王国内だけで燻ぶってたらまず気付かなかったろうよ」

 

ヴィルジールの口ぶりにマドラーシュは苦笑いを浮かべていた。

実際、その存在はこれまでの概念を覆しかねないものだったのだから。

しかし、今更そんなことでひっくり返るほど柔な人生を歩んだつもりなどない。

これまで受けてきた教えは、知的好奇心を刺激するとともにとにかく視野を広げてきたのだから。

地図の外に更に国があることなど、驚くに値すらしなかった。

 

 

「それについては流石にフェアではないので助言を1つ。──あくまで警戒態勢とだけ言っておこう。すまないが、これ以上は自身で掘り下げて欲しい」

「警戒……なるほどね。ったく、内部の問題を突いてくるだけのアーイレンが可愛く見えるな。お陰でとことん後手後手になってくるな。それにしても、アンタもこういう時は難儀だな?」

「やれやれ、君に気を使われるのはむず痒くなるな……」

 

ヴィルジールというヴァンパイアは、肩書こそ先鋭的に見えるがその本質は商人である。

確かに今回の一件で縁は結べたが、所詮はそれだけのこと。

彼の内にある優先度を考慮すれば、この呟きだけでも十分すぎる譲歩なのだ。

まともな返答を期待できない問いは、これまでの啖呵を掌返しするだけのことだということは理解している。

だからこそ、余計な口はちょっとした仕返しに費やしておく。

 

「まあ、君ならばその土俵に乗ることなど容易だ。諸々の事情が無ければもう少し早かったかもだがな……」

「悪いね。好き放題に生きようとしても、やっぱ後ろ髪を引かれるところは出て来ちまうもんなんだよ」

「ははは、それでいいのさ。その愚かさがあってこその人間なのだからな。──化石であることに固執する連中には到底分からんだろうが」

「化石、か。その逆もまた種族問わずなんだろうな……それこそ俺たちみたいにね」

「──違いない。実に愉快なことだよ」

 

最後は辟易を吐き出し、改めてそのドライな中にある共感を確認する。

立場や他の縁によっての齟齬は間違いなくあるが、この共感がある限り致命的な対立は起こり得ない。

互いにそこを再確認するとともに、軽めの殴り合いは幕を閉じた。

 

「おお、そちらの怪しい話し合いも終わりましたか?まさにドンピシャってやつです」

「ああ、実に間が良いな。後はカドラン君からの規約などの諸々の説明だけだが……」

「流石に機密事項に触れるわけにいかねえから、俺らはお暇の時間ってことだな」

 

いくら友好関係を持ったとは言っても、マドラーシュとエリオはこの場所においては部外者だ。

例え国を跨いだとしても、種が異なれど……親しき仲にも礼儀ありという言葉は適用される。

とはいえ、彼らの間ではどうにも別れの時という実感が沸いていなかった。

 

「正直、私としては出向という感覚でしかないのですが……」

「あくまでちょっとした門出を見送る気分だな。とりあえずは師として命ずる。この異端のヴァンパイアの元で思うままに研鑽を積んで来い!」

「おお、これまたちゃんとした師匠命令ですね」

 

そこまで湿っぽい空気にもなっていないし、それはこの師弟にとって不要なもの。

弟子は師の意向をきっちり汲み取っているし、師はそもそもそういう空気が好きではないのだから。

そもそも、今生の別れでもない……それがこの場の全員の共通見解だ。

 

「ケルビム様と過ごしたこの2週間は、これまで生きた中で最も充実した日々でした。心よりお礼申し上げます」

「こちらも心底楽しませてもらったから、そこはお相子ってことで。ここまで出来る弟子が出来るとは、俺ってやつはなかなかの果報者だ」

 

マドラーシュの評価は一切の嘘偽りは存在しない。

その独特な輝きについては、あの地下室で救ってからずっと目をつけていたのだから。

目に見えない稀有な才は、マドラーシュにとっても間違いなく刺激足り得た。

別れ際に改めてその評を受けたプリシラは、感極まると共にその場で跪く。

この時の二人は、師弟ではなく……忠義の上でやり取りを行う主従関係のような空気が見受けられた。

 

「この身に受けた恩は、全身全霊を持ってお返ししなければなりません。口約束ではございますが……いずれ必ず貴方様の下へ馳せ参じることをこの場において誓わせてください」

「おいおい、それは大げさすぎるっての……お前みたいな右腕がいてくれたら俺もありがたいけどな。まあ、その時が来ることを楽しみに待ってるとするよ」

「ええ、それはもう首を長くしてお待ち頂ければと。我ながら陰気が過ぎるところはありますが……尽くすべき相手にはとことん尽くす女ですので、ご期待ください」

「……これ、そんなに軽く考えてていいのでしょうか?後でとんでもないことになるような……」

 

──それは俗に言うフラグだ、とこの場におけるもう一人の異端は内心でほくそ笑んでいた。

洒落にならないぼやきだが、この時点で確信染みた予見を抱くのはヴィルジールだけである。

しかし、いちいち口に出すほど彼は無粋ではない。

ヴィルジールがマドラーシュに求めるのは、世界に激流をもたらすのと彼自身が引き起こす愉快な事態だ。

その愉快な事態は、気に入らないことがあればすぐに首を突っ込む捻くれたお節介気質で多数引き起こされるのは想定済み。

そして、それが異性関係ならば猶更観察のし甲斐があると言うものだ。

俗世に染まった彼にとっては、メシウマ案件も立派な愉悦の種で生きる上での活力なのだから。

カルシオンやルドミラと顔を合わせていれば、さぞ意気投合出来そうな思考回路であろう。

 

「かの女神の加護どころか、寵愛すらも受ける究極の異端……果たして何に化けるのやらか──ようやく楽しくなってくるな」

 

その傲慢かつ強欲を押し通して、世界をも気に入らないと断じて変えてしまうならば……それはそれで良い。

進むことすらも禁忌とされてきたかのような停滞っぷりを見せているのだから、ここいらで劇薬は間違いなく必要だ。

よほど極端に走ることが無ければ、その劇薬を撒く過程もどんなに悪くて黙認まで。

だからこそ、ヴィルジールはあちらの帝国が強いている体制も否定をしない。

自身がかつて留まっていたヴァンパイアの王国に関しても保留だ。

その在り方が気に入らないことは変わることは有り得ないが、余計ないことをしない分には放置するに限る。

そう考えると、ある意味一番獅子身中の虫と言えるのはこのアーイレン帝国なのかもしれない。

 

「まあ、それはそれで恩を売る好機ではある。こちらとしてはありがたい話だな」

 

将来的に交わることが半ば確定する分かれ道を行く二組の様子を眺めながら、静かに笑みを浮かべる。

蛇を思わせるその笑みは、在り方は違えど人を食い物にしようとせんと企むヴァンパイアという魔物を彷彿させるものだった。

とはいえ、そこには間違いなく人間を踏みにじるという意図はまるで無い……一種の調和の姿勢が見て取れた。

やはり種族を超えた同類……そう思わせるほどには、濃い類似点だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知る人のみぞ事情を知る、まさに世界の裏で行われた会合から二日が経過した。

表は特に非常事態などは起こらずに、ただただ平穏そのもの。

そんな中、王都から伸びる街道から少し外れたところでよからぬことを企む人影が数名。

……正しく言うなら、企んでいるのは一人のミケ族だけなのだが。

 

「カルリーゼと帝国行ってきた時の土産って聞いた時は微笑ましく思ったのに……何でいつもとんでもないものを持ち帰って来るのかな」

「お金になるか分からないお土産よりも、こういう方がウチは嬉しいけどね!」

 

相変わらずの守銭奴発言と共にキュイは実験の準備を行う。

彼女が調整しているのは、神殿や遺跡で多く生息するパパラッシーという魔物に形状は似通っている。

その様子を三者三様の様子で眺めるのは、本日の保護者3人組である。

 

「うう……お願いですから魔力調整はしっかりしてくださいよ?折角の贈呈品が1日で壊れたなんてなったら……」

「……お目付け役が必要なのは分かるが、何で俺まで付き合わされる羽目になるんだ?」

 

かのヴァンパイアから友好の証で受け取った贈呈品は、エリオにとっては特に感涙級のお宝である。

何せ、カルリーゼの支部で目の当たりにした古代文明の兵器の亜種に当たる代物なのだから。

その喜びようは、王都に帰ってからも立て板に水と言わんばかりの熱狂っぷりを見せていたと言えば伝わるだろうか。

ちなみにマドラーシュだけには、『友好の品であり、先を行く者としての宿題』と伝えられていたりもした。

そして、当の破天荒王子はこの場に姿を見せていない。

 

「マッドなら大事なお客様の応対中ですよ~?可愛い弟の用事はちゃんと遂行させてあげないとね!」

「ごめんなさい、イグノックス様……俺がしっかり監視できれば、手間をかけさせることはなかったんですけど」

 

今回の来客は口から出まかせではないことはラスも理解していた。

クリスティーナがイグノックスを引っ張ってきてはお目付け役代行として同行していることが何よりの証拠だ。

ただ、いくら手が空いているからとはいえイグノックスはこんな遊戯に付き合うのは些か不本意の様子だ。

それならば、剣の素振りでもしていた方がより有意義……そう考えるのがこの鍛錬狂い兼合理性の鬼なのだから。

そこを重々理解しているからこそ、自身の友人の代わりにとラスは頭を下げる。

イグノックスは少しだけ表情から険を取り除きながら、ラスの肩を軽く叩く。

そこで八つ当たりをするほど、イグノックスは器の小さい男ではない。

 

「どうせこのバカとセラ辺りが共謀して、アイツを離宮に縛り付けたのだろう?お前はむしろ被害者でしかないから、謝る必要はない」

 

マドラーシュほどではないが、イグノックスは彼なりにラスに対しても情は向けている。

異常な成長速度を見せる弟分を追いかけ続け、愚直に鍛錬を積む様はかつての己を思い起こさせるには十分なものだ。

彼の母には教導に参加することは禁じられているのが歯痒いが、それでも助言くらいならとしょっちゅう面倒は見ているのだ。

だからこそ、もう一人の弟分の巻き込まれ癖についても何だかんだで理解している。

ぶっきらぼうに見えながらも見るべきところはちゃんと見ている不器用なだけの兄貴分、それがイグノックスという男だ。

だからこそ、第一の弟分も相当懐いていて敬愛していると言える。

 

「こういう時は女の子との用事は優先なの!ラスももう14でいい年なんだから、覚えておこうね?じゃないと、あ~んなぶっきらぼうでこ~んな可愛いお姉さんのことをバカって呼んじゃう酷い男になっちゃうよ~?ね~、エリオお姉さん?」

「あ、あはは……でもマッドと違って、俺にはそういう相手はまだいませんからね……それよりエリオ様を離してあげてください、何か生命の危機を感じる顔になっちゃってるので」

「ら、ラスの言うどおりです……ぐ、ぐるじい……」

「うわ、いつもの如くエリオが死にかけてるよ。クリスティーナ、ウチに飛び火するのだけは止めてね?」

 

同じミケ族だからこその牽制であった。

普通の人間ならば回避できる自信はあるが、クリスティーナだけはキュイにとっても例外に当たる。

大体説教を受けるのはデイジーかカルリッツが相手なので、マドラーシュのような天敵扱いまではしないが……。

相棒である彼が為すすべなく監禁紛いのことをされた時ばかりは、流石に戦慄を覚えていたが。

 

「あれ、キュイ……そんなに離れて大丈夫なのかい?」

「火と風の魔力を混ぜてぶち込んでたら、『しばらくお待ちください』なんて聞こえてさ。とりあえず時間を置こうかなって」

「待ってください。あの兵器、何か喋ったのですか!?」

 

天災がしれっと発した爆弾発言にエリオは即座に反応した。

彼女もあの手この手で色々な手法を試みていたが、兵器は何も反応を示さなかったのだ。

それをあっさりと突き崩したキュイに驚愕を覚えながらも、新たな発見に早速胸を躍らせていた。

 

「喋ったというより、返事してたって感じだったけど『残り20秒です』──ああそうそう、こんな感じの声!」

『19……18……17……』

 

明らかに生物のそれとは逸脱している音が耳に入ってきた。

キュイだけでなくその場の全員が聞こえる程の音量で、誰一人聞き逃すことはなかった。

その内容は至って無機質なものだったが……未知の兵器が発した音であることに違いはない。

 

「あ、本当に声がするね~。結構大きな声だけど、目立ちたがり屋さんなのかな?」

「多分何か動作を起こす前のカウントダウンですよ!ほら、早く近くに行かないと!」

 

真っ先に駆け出したキュイに続き、エリオとクリスティーナも数を刻むことに興じる兵器に近づく。

ラスも興味本位でその流れに乗じかけていたが……即座に思い直す。

『こういう流れになった時、その後は大体まともな状況になることなどない』と。

──この時ラスに電流走る、とはこのことだろうか。

破天荒を追い続ける内に、この手の危険探知はお手の物になってしまっていた。

 

「あの、イグノックス様。刻まれている数字に何となく嫌な予感を覚えるんですけど……」

「……あれは確実にロクでもない類の警告だろう。ラス、非常時の準備をしておけ」

 

危機感知能力が人一倍高いイグノックスと同意見であることは心強い。

非常時に備えて、かつてマドラーシュが壊しまくっていたものと違う支給用の剣を構える。

双方身体強化を張り巡らせ、加速用の顕魂術を展開直前まで持っていくことも怠らない。

何をしでかすか分からない未知の平気だからこそ、汎用的な準備で対応範囲を広げる形だ。

そうしている内にも、数えられる数字はどんどん終点に近づく。

 

『3……2……1……0。準備完了、上昇を開始します』

 

宣言と共に発生したのは突風だった。

古代兵器の背中についている筒のようなものからそれなりの圧の風が吹き荒れる。

下方気流は地上に叩きつけられても、その勢いはそこまで弱まることを知らないようだった。

 

「わわわ、と、飛ばされる~!」

「おわ、あの兵器、突風を吹かせてどんどん浮上してますよ!?やはりあの時の仮説は間違ってなかったんですね!後でマッドに知らせないとです!」

「エリオお姉さん、そんなこと言ってる間に折角のお宝が脱走しちゃいますよ~!早く何とかして~!」

 

襲い掛かられるよりはマシだが、このままでは後の情報操作で面倒なことになりかねない。

そう判断したラスとイグノックスの行動はとにかく早かった。

突風が弱まるタイミングを見計らい、事前に掛けていた身体強化と加速の勢いを合わせた剣の投擲で兵器の姿勢を大きく乱す。

そこにクリスティーナが周囲の水分を利用して、大きな泡沫の牢獄に兵器を閉じ込める。

元々魔力の充填が不十分だったことが幸いして、結果的に多少の労力で脱走は阻止する形には持っていけたが……。

この後、キュイとエリオにクリスティーナの3人がデイジーからの説教を貰うことになったのは言うまでも無いことだろう。

ひたすら巻き込まれただけの男性陣二人は、知らぬ存ぜぬで上手いこと逃げ切ることに成功した。

当然3人から名前は上がるが、後の事情聴取で正直に話すだけであっさりと無罪になるので殆ど意味はない抵抗に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった2週間ちょっとだが、まあ色々あってか王都も少しだけ懐かしく感じた。

無事に再起を果たした愛弟子を見送り、あの俗物ヴァンパイアからの土産の品と共に俺とエリオ姉さんは帰還を果たす。

ちなみに、本来ならばある程度日数を食う工程なのだがそこは長年生きる大物人外は太っ腹なようで。

存在そのものが気になっていたエアーシップで王都付近までひとっ飛びして送ってもらう形になったよ。

こんなことで使って情報統制とか大丈夫なのかと思ったが、カドラン氏曰く『認識阻害が施されているので問題ない』とのことだ。

ただ、発動している最中は高度が多少制限されるっていう縛りがあるらしい。

流石にそこまで万能じゃねえってことだ。

動力については何か妙に馴染みがある力を感じたが、あえて聞かないことにした。

アイツらなら悪用するってことはそうそう考えにくいだろうし、そこは信用しておくとする。

想定以上に早い帰還だったが、あちらに送ってもらったって言ったらあっさり納得してもらえたよ。

むしろ持って帰ってきた土産の方にすっかり注目が集まっちまってたくらいだ。

それからひとまず諸々の情報整理をその日の内に済ませて、翌日にはキュイとエリオ姉さんとで早速土産のブツで遊ぼうといざ外へ……って時だった。

クリスティーナ姉さんとセラのコンビに止められそのまま離宮にとんぼ返りさせられた。

 

『女の子を2週間もほったからしにするのはお姉さんどうかと思いま~す』

 

なんてわけの分からねえ指摘と共にいつも屯している部屋に放り込まれた。

しかも放り込んだ当人たちはそのままどこかへとんずらこきやがる始末。

追いかけて文句の1つでも……と思ったその時だった。

 

「ご機嫌麗しゅうございます、マドラーシュ王子殿下。本日もいい放浪日和ですね?」

 

……部屋に着くなり覚えのない重圧攻撃を貰うなんて話は聞いてねえんだが?

魔力がまるで感じないから、魔法の類じゃねえってのが救い……いや、別に何も変わらねえっての。

事前に部屋で待機していたであろう公爵令嬢が重圧の発生源であることくらいは誰でも分かることだろう。

 

「あー……ユフィリア?何か青筋立ってるが……いつもの冷静全開のポーカーフェイスはどこ行った?」

 

最後に会った時の記憶を手繰り寄せてはみたが、特段変なことはした覚えはない。

単に虫の居所が悪いだけかとも思ったが、それなら最初に飛び出すのは愚痴のはずだ。

明確に俺がやらかした何かが原因で怒っているのは明白だろう。

──だが悪い、まるで心当たりが浮かんでこねえ。

 

「……この約2週間、私に何も言わないでどこをほっつき歩いていたのですか」

 

え、まさかのそこか?

予想以上にシンプルな理由で、俺の方が拍子抜けしちまった。

あー……要するに、愚痴とか聞いてもらえなくて拗ねてるのか。

冒頭の皮肉と不意打ちの圧力を貰う程度であっさり目が曇るとは、我ながらこれは立派な反省ポイントだな。

ただ、随分可愛いらしいと思う反面でどこか妙な感じもする。

 

「俺がこの離宮に閉じこもってる奴じゃないってのは分かってただろうに……これまでも2回くらい行き違いはあったが、その時は別に怒ってなかったじゃねえか」

「それはまだ一日二日の範疇でしたから。今回は2週間とそれなりの期間、それも東に赴いたと耳にしました。最近東部ではならず者が増えて、治安悪化の傾向にあるのですよ?どれほど心配したと思っているんですか……」

 

これ、絶対にセラがこっそり口添えしやがったよな……?

適度に隠してくれたのはいいんだが、お陰で余計に面倒な風に捉えられて過度に心配させちまってんじゃねえか。

……その人攫いを調査しに行くのが主だったから急行せざるを得なかったとはいえ、何も言わなかったのは俺の落ち度だがな?

まあ、正直に吐いてしまえばさぞ楽なことだろうよ。

増加しつつある人攫いの調査ってだけなら、まあ多少誤魔化す程度でいいからな。

だが、その過程で処刑されてたはずの貴族崩れが生き残ってたという仰天ニュース付きだって分かっちまったらなあ……。

しかも奴隷やら拉致した人間で魔法関係の人体実験をしでかしてたんだぞ?

こんなん、どう考えても安易に口にしていいことじゃねえ。

どこに目や耳があるかも分かったもんじゃねえし、こんな王国転覆すら有り得るレベルの裏事情に巻き込むわけには行かねえだろ。

実際、グランナイツ内部でもきっちりと緘口令は敷かれている。

ラスやキュイは勿論のことで、父上も母上も知らないはず……というか、絶対にいらん自責の念に駆られるから知られないようにしたいね。

今はとりあえず、上手いこと誤魔化しながら我が友を宥めるとするか。

いつまでもそんな顔見せられたら、俺もいい気はしねえし。

 

「流石にその手の情報は把握してたさ。ただどうしても物資方面の急ぎの用事があったからやむを得ずでな……お陰でユフィリアに話す間も無く発っちまった。そこは言い訳するつもりはない。余計な心配かけちまってすまなかった」

 

虚実入り混じった感じだが、まあ急ぎ気味になっちまったのは立派な事実だ。

流石にダチが2週間音信不通ってなれば焦ったり嫌な想像をするのも分からんでもない。

俺ならすっ飛んでいくだけの身軽さがあるからいいが、ユフィリアはそういうわけには行かねえだろうし。

 

「……マドラーシュ様がただ遊び呆けるだけの王族ではないということは重々承知していますし、貴方を縛る権利などないことも理解しています。……申し訳ございません、私も少し言いすぎました」

「俺としては心配してくれて嬉しいくらいだし、それくらいは可愛いもんさ。にしても、ちょっとは人間っぽい感情出てきたんじゃねえか?」

「……そこで茶化すのですか。ああもう、何故か恥ずかしくなってきました……」

 

あ、そっぽ向きやがった。

このお嬢様、ますます弄り甲斐が出てきたぞ?

 

「とにかく!今回のような心配事は出来るだけ避けて頂きたいのです!マドラーシュ様に何かあったら……それこそあの契りを反故にしたと判断させて頂きますからね!」

「おい、そこで黒歴史を持ってくるのは反則だっての!」

 

くっそ、カウンターの切れ味は相変わらずだな!

それにしても……先行きがちょいと不安になるな。

つい先日までプリシラの面倒を見てたから、悪いと分かっててもついつい比較してしまう。

アイツはあくまで一個人としての価値をどこまでも歪められ、自分自身すらも呪うようになったことから悲惨な過去ではある。

だが、その原点は間違いなく人間のソレなんだよな。

だからこそ、鎖をぶっ壊すよう抵抗や足掻きの精神を促してやれば後は何とかなるって確信も持てた。

それに対し、ユフィリアの歪みの原点は人間らしからぬ自我の薄さだ。

これまではまさに他者から役割を与えられるだけの人形として生きてきたから、自身から発せられる感情ってのがどこまでも弱い。

それがこうやって俺のことを心配したり、呆れたり、怒ったり色々と出せるようになってる。

そのこと自体は間違いなくいい傾向だろうよ。

ただ……俗に言う雛鳥現象になりかねないのが懸念なんだよな。

俺とセラ以外に人脈を持つべきなんだろうが……これがまたなあ。

安易に俺の数少ないコネを使えないのは当然のことだが、ユフィリアの立ち位置もその対策を難しくさせている面がある。

まあ、あくまで俺に対する感情もまだ友人であろうことが幸いだ。

学院で同性のダチを作ることを祈るしかないね。

ユフィリア本人がその手のことで切羽詰まった状況に直面しない限り、下手な深入りは止めておこう。

何でもかんでも干渉するなんて、俺のやるべきことではないしそれ以前にしたくもない。

 

「では、この2週間の空白は埋め合わせという形で補填を要求いたしますね」

 

そんな真面目なことを考えている内に爆弾は投下された。

──はい?埋め合わせ?補填?

いやちょっと待て、行動を縛る権利は無いって今言ったばっかじゃねえか。

 

「上手いこと余分に王宮の方に来ることが出来るよう調整するだけです。共に外出するとかその手無茶を要求するつもりはございませんので、そこはご安心ください」

「そんな危なっかしいことしたくねえからそこは助かるが……来る機会増やすって、兄上を出汁にする気か?」

 

婚約者と会う機会を増やすって言っておけば何とかなるだろうが……それだけじゃ不自然すぎねえか?

というか、そっちともちゃんと会ってやれよ……仮にも婚約者なんだぞ?

っていうか、自分から危ない橋を渡りたがってるの気が付いてるか?

……いらんギャンブル属性を起こしてしまったなんてことないよな。

 

「この手の融通でしたらいくらでも利かせてみせますよ。そこで、マドラーシュ様の暫くの日程も確認したいところなのですが……」

「おい、まさかの事前予約かよ……随分と積極的にやりやがって」

「不本意な待ちぼうけを避けるためです。同じ轍を踏むつもりはありませんから」

 

早速意趣返ししてきやがったよこの公爵令嬢……負けず嫌いにも程があるだろうがよ。

決断力と行動力、そして権力を見事なまでに無駄遣いしてやがる。

仕方ねえ、顕魂術の研究とかあの古代文明のブツの研究は上手いこと睡眠時間削ってやるっきゃない。

偉志ノ大陸への外遊は……まあ、期間短縮するしかねえか。

これくらいのスケジュールを成り立たせねえと、それこそヴィルジールに笑われちまうだろう。

……いや、アイツの場合はこの状況になった時点でもう腹抱えてそうだな。

何かムカついてきたな……よし、絶対にこの綱渡りは完遂してやる。

 

「よくぞやってくれました、ユフィリア様。そうやってどんどんマッド様を振り回すことこそが後の為になりますから……それにしても、お返しを貰ってあたふたするマッド様も尊い……」

 

おいこらぶっ飛び侍女……表出ろや。

そしてちょっと頭冷やそうか?




というわけで、もはや字数的に実質5話目まで来てしまっている一連の話は終わりです。
しれっともう1つの帝国とか出てきてますが、これはグランサガ側のお話です。
あの防壁自体は一応存在している、とだけ。

この過去編というか前日譚に当たるこの第1章も次のお話で最後です。
そして次からはストック分を順次公開するので暫くは安定供給がほぼ確定。
とはいえ、先を書かないとジリ貧になるのでゆっくり書いていきます。
個人的には書いててだんだん面白くなってくるところなので……主にキャラ同士の絡みが。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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