とはいえ、冒頭からグランサガ全開なのはお許しを。
ここで出さないと、当分出番がないキャラもいるので……。
パレッティア王国のものとはまるで違う様式の部屋。
木造建築なのだが、格式はあちらより上に感じるのは果たして隣の芝は青いという言葉だけで済まされるのだろうか。
偉志の大陸は桜の領地、陽ノ花家の本宅である『白夜宮』。
俺は外交担当としてこの場所を訪れている。
「あー、やっぱりこっちは滅茶苦茶落ち着く。やることやったらいっそ移住してしまいたいくらいだ……」
ここに来るのも何度目になるんだかねえ……。
今の俺は14だから……かれこれもう6年くらい程の付き合いになるのか。
その上で結構な頻度で来訪しているわけだから、間違いなく両手じゃ足りねえな
移住したいっていうのは7割冗談3割本気だ。
理由は本当によくわからないんだが、この大陸は居心地が良すぎるんだよ……。
だからこそ、折を見ては来訪してるわけだからな。
「わはははは!そんなこと言わずに今からでも移住すればよいだろう?」
「いやいやヨシトラおじさん、いくら王位継承権無いからって、仮にも第二王子なんだぜ?俺のせいで余計な火の粉を振りかけるのは本意じゃねえ」
俺のぼやきに対し豪快に賛同してくれたのが、陽ノ花家当主のヨシトラ様だ。
偉志の大陸側の外交担当ということで、俺にとっては交渉だ何だののお相手ってことになるんだが。
俺にとってはもはや親戚のおじさまって感じなんだよな。
初めて俺がこの大陸に来て、何故だか一発で気に入られて以来こんな気安い関係になってしまっている。
俺を見て、次男坊と似たような雰囲気を感じたって話らしいが。
オルタと俺が似ているねえ……俺あんなに見た目爽やかなタイプじゃないと思うんだが。
後にこっちの師匠からもっと深いところの話じゃないかと補足を受けて何となくは納得したけどさ。
まあ、気に入られたのは素直に嬉しいんだがね。
このおっちゃんについては、ビジネス的にもプライベート的にもかなり好感度高いし。
「ならば、こちらの家門に婿入りするか?ウチならば……そうじゃな、相手はミココロということになるが、検討してみないか?」
──ただ、この5年でも理解してしまったことが1つある。
まあ、要するに……このおっちゃん、豪胆すぎて突拍子もないことしでかす傾向が強いんだよ。
今回もこれまた何言ってるですかねえ、このおっちゃん。
話の飛躍っぷりがもはや次元跳躍レベルだぞ。
っていうか、御宅の長女さんは……いや、別に好きか嫌いかで言われれば好きだぞ?
だがね、それとこれとは話が違う。
「なーんでそうなるのさおじさんや……検討とか以前の問題だっての。流石に馬に蹴られるのは御免だぜ?」
前にも言ったが、俺に横恋慕趣味などもっぱらない。
しかも、形式的婚約関係のあっちよりも余計に横槍は憚られる。
早い話が、傍から見て分かりやすくお熱い状態ってことさ。
兄貴分と姉貴分の恋路は見守るに限るってね。
勿論兄上とユフィリアの方も同じくだけどな?
「むう?……では、そうなると天ノ川家か……ユナ様となれば、明確に相手がいるという話は聞かぬな。同じくパルヴァネ様を師とする者同士でどうだ?」
おいこら、『なら対象変えればいいか』とかそういうことでもないからな?
確かにミココロと違って、あのふわふわお姉さまはフリーっぽいのは事実だ。
結構箱入りで育てられていたようで、その辺は俺も割と気にかけてはいるし。
ただ、それとこれとはまた別問題だ。
「ユナなら確かに問題なさそうだけど、何というか違うんだよなあ……。どっちかというと少し手がかかる姉、恋愛対象っていうにはズレがある」
「そういうものなのか?ワシから見れば、多少割り切った上でも問題ないように見えるがのう」
ああ、ユナのことが嫌いってことは絶対にない。
むしろ好ましいとは思ってるし、一緒にいて楽しい異性なのは事実さ。
弟分兼弟弟子としてなら、面倒を見るのもやぶさかではないし。
ただ、伴侶にするってなるとまたイメージが変わって来るだろ?
あくまでlikeの最上級系って括り、恋愛感情ってのは皆無だし。
それに、あちらもどう考えても俺を弟として見てるし……。
政略結婚だとしても無理があるやつだと思うがなあ。
「やれやれ、その面倒な奥手っぷりもオルタに似てきているな……」
「そもそもがパレッティア王国と偉志ノ大陸はまだそこまでの関係じゃないだろ……そういうのは俺が高跳びする時が来たら検討してくれ」
本当にそうせざるを得なくなったらって話だけどな?
それなら確実にここに行かせてもらうが今はまだそんな時じゃあない。
──全く、折角ユフィリア関係で弄られるのから一時的に解放されたと思ったらこれだよ。
全く、こういう方向でも王族って面倒だな!
姉上が結婚嫌がってるってのも何となくは理解できるってもんだ。
そういえば、ユフィリアとは奇妙な友人関係を始めてもう1年以上経つわけなんだが。
あれから学院で起こったことを愚痴ったり、時折俺の発言にツッコミ入れたり、まあ、そこまで変わらずのお忍び友人関係はちゃんとやってる。
こちらとしても、割と顕魂術研究とかの合間の息抜きとしても結構楽しく付き合ってるよ。
……ただ、最近妙に人を困らせるようなことしでかすことがあるんだよな。
妙に距離感がおかしい時があるというか……心臓に悪い。
──っと、こんなことばかり考えてると変に勘繰られる……とここで唐突に別の気配が。
やっべえ、思考に気を取られてて見事に気が付くのが遅れた……って言っても、それなりに気配遮断してるからしょうがないよなこれ。
こんなことを日常的にこなせていて、この白夜宮にいる人物ってなったら候補はそんなにいない。
「ちょっとお父さん!どんな話してるのかなって思って聞き耳立ててたら、何でマッド君が陽ノ花家か天ノ川家に婿入りとかそんな話になってるの!?」
「これミココロ!国を代表する者同士の話し合いの最中だ、いきなり入ってくるでない!」
入ってきたのは陽ノ花家の長女兼末っ子、名はミココロという。
こっちの俺の友人の一人で、これまで会った中でエリオ姉さんと同列視できるくらいにはまともな姉貴分だ。
陽ノ花家お抱えの隠密部隊『陰の鬼志』に所属しており、術法の使い手としてもなかなかのものだ。
俺に体術の有効性とか身体操作の基本の拡張、更に隠密を教えてくれた鍛錬仲間でもある。
先ほど俺の感知が遅れたのも、きっちり気配を隠していたからこそ。
──こういう人材、王国の方でも取り入れた方がいいかもしれねえな。
以前にプリシラも言ってたが、今の王国は水面下で突かれたらあっさりと崩れかねない状態だ。
いくらラインヒルト先生がその手のまともな監視役貴族と手を組んで見張っていても、限界ってもんがある。
まあいい、それは王都に戻ってから話すとしよう。
「こんな突拍子もない婿入り話するような国同士があってたまるか!ミココロ、いい時に割り込んでくれたな」
この手の話題ってのは泥沼化待ったなしだからな
そうなったら俺は何のためにヨシトラおじさんと会ってるのか分からなくなってきてしまう。
いや、いつものように仕事半分プライベート半分の外遊なんだけどな?
前者は済ませられるなら早く済ませたいだろ。
これで元の仕事……特にヴィルジール経由の物流関係の話し合いに戻ることが──
「マッド君は今あっちで色々不遇な目に遭ってる次期王妃様を口説いてる最中だから、婿入りとか言い出したらむしろ私たちが馬に蹴られちゃうよ!」
「あれれー、おっかしいぞー?」
なんでユフィリアのことそこまで詳細に知ってるんだよミココロさんや。
しかもなんか、どこぞの最強騎士を彷彿とさせるようないやーな噂にパワーアップしてるんですが?
どこまで尾ひれがつけば気が済むんだよ、噂って本当にこええな!
しかも何で偉志の大陸でこのネタ聞かなきゃならねえんだ、まるで意味が分からんぞ!
「ほう、次期王妃を口説くとはこれまた随分と豪胆なことをしておるな!かの吸血鬼とも友人になった件も含め、流石は時代を切り裂く新風!そうでなくてはな!」
「あくまであっちの愚痴聞いてやってる友人関係です、一切口説いていません、こちらとしてはやましい気持ちゼロです」
「え、通い妻とかそんな話も聞いた気がするんだけど……それで友人関係は流石に苦しくないかな?」
おい、何故にユフィリアが俺の離宮に通ってることまで知ってるんだ。
まさかセラとかクリスティーナ姉さんが情報バラ撒きやがったのか?
いや、いくら何でもそんなセキュリティ意識低い顔ぶれじゃねえし……。
その手の情報操作がお得意なヴィルジールに関しては、こっちとのコネは一切ない。
今回の訪問には、俺を経由したそっちのパイプ生成も目的にあるわけなんだが……って、今はそれはいい。
何とか誤解を解いておかねえと、俺のあらぬ噂が大陸中に広まっちまう!
「あらあら、あんなにやんちゃだったマッド様もすっかりお年頃なのですね……とてもおめでたいことです」
「ミツキさんまで!?いや、だからそれはあくまで色々相談役やってるだけで……というかいつからそこに?」
まさかまさかのヨシトラおじさんの奥方であるミツキさんまで話の輪に入ってきてしまった。
ああもう、ますますもってカオスじゃねえか!
折角その手の追及から逃れられると思ったらこれだよ、なけるぜ……。
とはいえ、このままでは仕事にも支障が出るので何とか無理やり流れを立て直した。
結果的にミツキさんとミココロまで会話に入って、何かもう色々会話の寄り道が凄まじかったがね……。
無論、変なこと広げないようにと釘は刺しておいたよ。
大陸の民衆にまで広がっちまったら、もはや外歩けねえからな!
陽ノ花家の当主、ヨシトラとの会合を終えたら残るは自由時間となる。
普段のマドラーシュならば、ここからはプライベートにあっちこっち物見遊山も兼ねた風来坊モードだ。
しかし、今回ばかりは少しばかり事情は違っている。
こちらの友人たちに詰問することが最優先事項に当たる仕事が残っているからだ
「さて?まさかミココロだけじゃなくオルタとユナまでほぼ同タイミングで知ったってのはどういうことかな?きりきり吐いてもらおうじゃねえか」
マドラーシュの目の前には、先ほどのヨシトラとの会合最中に乱入したミココロと他に3名ほど。
至って自然に集まっているが、全員がこの大陸においての次世代における有数な人材である。
王族でありながら、裏でも存在感が高まりつつあるマドラーシュと並んでも全く遜色のない顔ぶれだった。
「私はミココロ伝手で聞いただけだから見逃してくれないかな?そもそも、マッドが横恋慕なんて出来るわけがないってよく分かってるつもりだからね」
「その言い方もすっげえ釈然としねえな……鶏肉味の木偶とでも?」
「口の割には誠実で律儀だってことだよ。カイトもそう思うだろう?」
一人はマドラーシュと似た白金色の髪の美青年、名はオルタという。
陽ノ花家次男でミココロの兄に当たる。
ただ、ミココロ、そして長男と違って庶子に当たるので立場はなかなかに複雑なところだったり。
そんな複雑な事情がマドラーシュと互いにシンパシーを感じては、自然と仲が深まるという関係だ。
「オルタ様の御言葉で大体は察することは出来ましたが……マッド様、少々落ち着いてくださらないだろうか。その笑みが大変不気味に感じてしまうもので……」
「あー……カイトは明らかに知らねえって感じだから見逃してやろう」
堅い口調で話す、長い赤髪を後ろで結んでいる侍風の青年はカイト。
この中では唯一護衛の地位におり、陽ノ花家長女ミココロの専属護衛の役を担っている。
その口ぶりからは、この中で唯一事情を知らない完全な蚊帳の外な状態なのは明白。
幸運なことに、即詰問対象外となった。
「私はその、ユナちゃんから聞いて……でも、身内に等しい可愛い弟分の浮いた話が聞こえちゃったら普通浮かれちゃうよね!?」
「はあ……年頃の女子だから仕方のないことかもしれないけど、もう少し立ち止まって判断してほしかったな。後で母上に叱られるよ?」
「安心しろオルタ、ミツキさんにはきっちりとチクっておいたから。後で生け花の追加授業があるから覚悟しておけよミココロ姉さん?」
「ええ!?マッド君それはひどすぎない!?」
陽ノ花家長女でオルタの妹に当たるミココロも必死に弁明する。
伝手で聞いてはこちらでもいい意味でやりたい放題の弟分に春が来たー!と変に拡大解釈したといった辺りか。
マドラーシュ的にはそれだけでも普通にアウト案件であり、兄であるオルタの言うことはまさに御尤も。
なお、マドラーシュの仕返しも全く大人気ないのは言うまでもない。
「妾も師匠から聞いただけじゃからな……じゃからここは一旦落ち着いてほしいのう。マッドの顔が修行を抜け出したことがバレた時の師匠に似て色々思い出してしまってな、ちょっと震えてしまって……」
「いやそれはそもそも抜け出すなよ……俺が言うのもアレだが、そちらの御先祖はもっと精力的に修行してたって話だぞ?」
古めかしい口調で話す、ふわふわな雰囲気の女性は天ノ川家の直系に当たるユナ。
大陸の歴史、偉人を記録する役目の担う『彫魂師』でもある。ちなみにマドラーシュの姉弟子になる。
なおまだまだ修行中の身とのこと。
たまに抜け出しては必ず見つかって怒られている様子をマドラーシュは何度も目撃している。
この4人が偉志の大陸初訪問時からマドラーシュの面倒を見て、意気投合した友人たちだ。
全員マドラーシュより年上でこそあるが、元々グランナイツを筆頭に大人とやり取りしてきた彼にとっては今更なことだ。
その気質や実力をこちらでも大いに見せつけることにより、多少の年齢差は問題にならない程の深い交友関係になっている。
ちなみに、普段からも普通に文通もして互いの現状把握に余念が無かったりも。
「ふむふむ、スタートはパルヴァネ師匠ってわけか。妙にこっちの地理理解してるなと思ったが、さては……」
「その通りじゃ。たまたま、外の弟子の様子を見に行ったら大変面白いものを見てしまってな。意外とお主もやりおるのう?」
唐突に聞こえた女神の声は、その場の5人を驚かせるには十分だった。
彼女こそがこの世界を裏で見守っている女神の一柱、『調和』を司る者パルヴァネだ。
マドラーシュに彫魂石を作るきっかけとなった技術を教えた師であり、またユナの師でもある。
ちなみに、海を渡ってこの大陸に来る場合は彼女が交通機関役を担うこととなっている。どこぞの赤い竜みたいとか言ってはいけない。
仮にも女神なのにいいのかそれで?と思うかもしれないが、現状それ以外手段が無いので仕方ない。
「勘弁してください。あくまでユフィリアとは愚痴聞いてやったりとかその他の友人関係です。そもそも、俺がそんなやましいこと考えると思いますか」
女神の何でもありっぷりの職権乱用についてはあえて何も言わないのは、言いくるめられるのを理解しているから。
マドラーシュが数少ない口で勝てない相手、その一人がこの女神なのだから。
それでも譲れない部分だけは抵抗しているだけマシなほうだ。
「お主の意図は分かっておる。だが、人の心などどうなるかは分からんからな。お主もじゃが、そのユフィリアという女子の方もじゃ」
「要するに、マッドにも春が来るかもしれないってことじゃな!うむうむ、姉としては嬉しい限りじゃのう!」
マドラーシュとしてもこう言われては反論の仕様が無かった。
これ以上頑なになっても、恐らく勝ち目はない。
事前に感じる手応えの無さは、セラやクリスティーナをも超えるだろう。
それでこそ女神……と言うには少々ばかりしょうもないことかもしれないが。
「いやいや、ユナもそろそろその辺りは気にするべきじゃないかね。カイトもそう思うだろ?」
「確かに、ユナ様のそのようなお話はあまり耳にしない。ただ気にするにはまだ時期尚早かと……」
「それはどうだろうね。私たちはもう二十歳前後だ。そろそろ急かされても不思議はないよ」
有力家系のこの手の話は、パレッティア王国でも偉志の大陸でも変わらない。
ただ王国側は長女アニスフィアが結婚したくない宣言をぶっ放すという奇行をかました。
更には末っ子マドラーシュという名ばかり継承権持ちがいるので、ワケありが二人もいるカオスな状態だ。
次期国王アルガルドがユフィリアと婚約している状態なので、極端な問題になってはいないが。
浮いた話が出てこないのと、果たしてどちらがマシなのだろうか。
そんなことを考えているマドラーシュであった。
「あー、あー、妾は修行だけで手一杯じゃー、その辺りの話は聞きたくないのじゃー。それより、ミココロの方を気にするべきだと妾は思うがのう……」
まさか自分に火の粉が飛んでくるとは思ってもみなかったが、耳を塞いで聞こえませんジェスチャーで強引に乗り切ろうとする。
挙句の果てにはもう一人の女子に爆弾を投げつける辺り、ふわふわしていながらも抜け目がない。
そんな弟子に呆れながらも、
「いつもいつもこっそり抜け出そうとしおる癖によくもまあ……そこは勤勉な弟弟子を見習ってほしいところじゃ。ミココロのことについては儂も同意じゃがな」
「わ、まさかのこっちに飛び火させるんですかパルヴァネ様!?」
「当たり前だ。一人……いや、お前ら二人だけ我関せずは俺が許さんからな?」
先ほどの弄りを根に持っているのか、マドラーシュの顔が大変生き生きとしている。
なお、兄であるオルタも同じような表情をしていた。
髪色が似ていることも相まってか、兄弟一緒になっての悪巧みという構図に見えなくもない。
ヨシトラはこういうところも似ていると評したのかどうかは分からないが、この絵だけで見れば確かにその評は間違ってはいなかった。
「マッド殿にオルタ様……何故そんな笑顔になっているのですか?」
「いやあ、兄である私としても早く君が折れてくれないかなーって思っていてね。早く君から義兄さんって言葉を聞きたいなあ」
「代替品王族な俺よりもよっぽど大事なことだっての。ミココロとはどうなんだよカイト君?さあきりきり吐きましょう、吐くんだ、吐きなさい」
二人が何を言っているかをうっすらと察したカイトは見るからに分かる動揺っぷりを見せる。
その様を見て、オルタとマドラーシュはここぞとばかりに攻勢に出ていた。
なお、パルヴァネとユナに詰問されるミココロも完全に同じ状況だ。
「せ、拙者はあくまで護衛です。そのような関係になってしまっては、その……」
「……まあ、そういうことです。本当にカイトは……」
「有事の際は果敢に突っ込んでいくのだから、その勢いで行けばいいというのに……見守る側の気持ちも考えて欲しいところだよ」
「その堅いところはカイトの良いところでもあるのじゃが……マッドの豪胆なところを分けてやることは出来ぬかえ?」
「確かにそうしたら面白いことになりそうだが、無茶言わんでくれユナ姉さま」
護衛の侍はこの手の話題はマドラーシュ以上に苦手なのか、すっかりしどろもどろな状態になってしまう。
見れば分かるだろうが、要は主君側の方は押せ押せだが当の護衛側が恐縮している。
そしてここでマドラーシュは気付いた……否、見逃してはいなかったというべきか。
さりげなくこの手の話題を振られていない人物がまだいることに。
この時の彼の心境はまさにどこぞの山手線由来の彼らだ。
最終セーブ場所は間違えたら詰みそうな雰囲気でマドラーシュはその人物に詰め寄った。
「逃がさん、お前だけは……というわけで一人だけ上手いこと逃げ遂せようとしてるオルタ君!そこら辺どうなってるんだこのイケメン次男坊!」
「って、私にまで来るのか!?くっ、今回は傍観者でいられると思ったが流石に甘かったか……」
「まさに以心伝心って言葉がぴったりじゃな!」
逃がさないように肩を掴まれるというおまけつきで、二重の意味で逃避を許さないマドラーシュ。
先ほどまで攻勢に出ていたオルタも、この話題は同じく苦手なのか一気にその勢いは無くなっている。
女神除くここにいる顔ぶれ、見事にその手の強者がいなかった。
「マッド君、お兄ちゃんも相変わらずだよ。もちろん悪い意味で」
「あ、うん知ってた」
「知ってたのなら何であんな風に詰め寄ったのさ……。前から思っていたのだが、君も大概奇天烈じゃないかな」
「んなもんその場のノリだっての」
マドラーシュのドヤ顔にオルタだけでなくパルヴァネ以外は全員が苦笑していた。
さて、これで女神以外の全員が傍観者から引きずり降ろされたわけだが、各々のその手の事情を纏めると──
ユナはふわふわな性格が裏目に出たり、パルヴァネの修行が厳しい状況で考える暇がない。
ミココロとカイトは先ほどの通り、押しても押してもカイト側がなかなか折れない。まんざらでも無い癖してだ。
では、最後に残ったオルタはどうなのか──
「色々あったってことは理解してるが、何で自分に好意持ってる異性と対面するときに限って石化するんだ?どういう条件だよ」
「かーっ、若い者が揃いも揃ってこれとは。豪胆なことをしてるだけマッドが一番まともとは……」
そんな形で一番まともと言われても微塵も嬉しくない……と言いかけるが、あえて止めた。
マドラーシュも齢14、本人は全く気にしていなくても周りが気にしだす頃合いとすら言える。
クリスティーナやセラがその辺りを考えだしているのは、無論本人はあずかり知らないところだ。
「ま、まああれじゃ!妾達にもまだまだ考える時間はあるということで、この手の話題はこれでよし!うん、それがよいかのう!」
完全に話題がループしかねないのを察して、ユナが強引に流れをぶった切った。
勝者のいない弄り合い、これ以上に空しいものはない。
全員の見解が一致したところで、話はやや真面目な方向に転換した。
「ところでお主ら。マッドから託された顕魂術の方はどうじゃ?」
「陽の闘志ではそこそこ、といったところでしょうか。具体的な状態はマッド殿が見てから判断して頂く必要はございますが、拙者含め実戦で扱い出した者が多数いる状態であります」
「陰の鬼志でも、マッド君が特に適性があると見込んだ者については基礎の反復で徐々に熟練度が上がってきていますね……術法との混合も視野に入っている状態です」
「天ノ川の方でも少しずつ広まっているぞよー。元々が彫魂師の技術から派生していることもあって、皆好意的に受け止めておる。妾も色々な伝奇を参考にして日々邁進じゃ!」
「当主も毎日試行錯誤している最中で、カズヨシが思わず止めるほどのめり込んでしまっているよ……ああ、私も勿論適宜鍛えているから安心してくれ」
想定以上の浸透具合に、マドラーシュの表情はまさしくご満悦そのもの。
王国内では、顕魂術の存在は現状都市伝説レベルでしかない。
グランナイツ含む初期テスター組と、クラマ族やミケ族を筆頭とした東側の一部平民や口が堅い領主くらいしか顕魂術の詳細を知らないのだから。
魔法至上主義を掲げる連中に早期に知られ、妨害工作を受けることを懸念しての水面下の活動に徹しているのだ。
その噂の広げ方については、2年前にビジネス上の関係を持ったヴィルジール率いる『V3社』も一役買っている。
結果、王都周辺や西部では、『魔力があれば誰でも使える魔法モドキを東から来た賢者が伝えたらしい』のようなどこかズレた噂でしか伝わっていない。
そんな王国に対して、偉志の大陸ならば魔法省や貴族の干渉は無いに等しいのでやりたい放題が利く。
更に言うなら、元々魔法やら精霊やらの文明が皆無であることが逆に顕魂術を広める土台となっていた。
その結果が4人の話すように順風満帆と言える状態なのだから、笑みが零れるのも当然である。
「各々がやりたい放題に枝を作り、時には交わって混沌という可能性を生み出す。これこそ、閉ざされし世界を貫く我らが新風ってな」
「お主も随分詩人になってきたものじゃな……些か吸血鬼染みてきておらぬか?」
「むしろ良きことじゃないかえ?この大陸の根幹とも言える調和の心に、マッドもぱぱらっしーを感じて実践しているということじゃからな!」
「ユナちゃん、それだと王国によくいる魔物になっちゃうよ……?」
ちなみに、パパラッシーと間違えている言葉はシンパシー……ある意味器用なものである。
ユナのお得意芸である横文字間違いがここで炸裂すると、マドラーシュは思わず吹きかけ残りは盛大に苦笑。
今回は留守番だが、セラも混ざったらこちらは漢字や諺、格言間違いをしでかすのでより混沌空間と化していたことだろう。
「さーて、そうなったら期間内に天ノ川家の方にも顔を出そうかね。読みたい書物もまだまだあるし、現状も見ておきたいからな……では本日の予定募集タイムスタート!」
「じゃあ、私たち陰の鬼志が一番乗りで!みんなマッド君の顔を見たがってるし、術法と顕魂術の混合について聞きたいって声も山ほどあるんだよ!」
「はええよミココロ。だがそれは俺も滅茶苦茶気になるから熱い議論を交わすとしようかね」
偉志ノ大陸における『術法』とは、世界が異なれば忍術と呼ばれるようなものの総称だ。
そのアプローチは魔法とは大きく異なるのだが、魔物の体液などを使うこともあるので魔石からイメージを取り込むことがある顕魂術とは傾向が似ているところも少なくない。
そもそもマドラーシュが魔石から術のイメージの基幹を作れないかと考えるようになったきっかけでもある。
「では、その後拙者と部下たちとの手合わせもお願いしたい。顕魂術の方もそうだが、貴殿の技も改めて見てみたいのだ」
「そうなると双方の剣術を扱うマッドの姿がまた見られるというわけか……カズヨシに採点してもらおうかな?」
「おいバカ止めろ!あの人の採点めっちゃ厳しいから俺はともかく他の面々が凹みかねないぞ!」
名前だけ出てきたカズヨシなる人物は、オルタの剣術の師匠であると共にマドラーシュが若干苦手とする人物でもある。
理由は至って単純、とにかく堅いから。
剣術的な意味でも、性格的な意味でもだ。
「儂の修行も滞在中に行わねばな?ふっふっふ、今回も楽しい外遊にしてやるから覚悟しておくのじゃぞ?……これユナ、そんな風に縮こまって逃げようとするでない」
「し、師匠~?今日のところはマッドとミココロたちの方を見学ということで、ここは見逃してくれぬかえ?」
「それなら、見学しながら修行すればいいだけのことじゃな。何なら、今日はセイランがやっておった肉体作りの方で……」
「マッド~!麗しい姉弟子の危機じゃ、ここは一つ助けておくれ~!」
あれよあれよと埋まっていくマドラーシュの脳内予定表。
見事にハードスケジュールになりそうだが、マドラーシュからすればプライベートの延長線上なので苦になどならない。
この楽しい忙しなさこそが偉志の大陸での日常。
第2の故郷と公言するだけあって、その愛着は本来の祖国より上にも見えてしまうほどだ。
4人の友人や女神兼師匠と別行動をする時でも、セラと共に現地住民と交流も図っているくらいなのだから。
本来なら異国の王子で明らかな異端のはずが、大陸全体で受け入れられていると言ってもいい。
むしろパレッティア王国内よりも知名度が高いほどで、顔の広さはとんでもないことになっていた。
ヨシトラが陽ノ花家か天ノ川家への婿入りを提案したのも、マドラーシュのこの独自の立ち位置を確固たるものとするため。
もはやただの親バカのようなものが入っており、妻のミツキ共々普通に並んだら親子にしか見えないとまで言われているほどとか……。
革命の矢の誕生のきっかけとなったこの地での体験は、それはもう凄まじい充実感をあらゆる方面で破天荒に与えている。
現段階ではまだ芽吹いて暫くな関係だが、後に更なる満面開花を見せることになるのはまだ誰も知る由もないことだった。
偉志ノ大陸キャラ、結構出せました。
前回まで重たかったり裏の話だったりなので、今回はちょっとだけ箸休めって感じです。
結構こちら側のキャラも日常方面は書きやすかったり。
ヴァレルロード系の召喚口上は短いながらカッコいいのでつい使ってしまう。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)