双子喧嘩の後半戦でございます。
どこまで行くんだブレイク工業、だがこれこそ本作のノリです。
まさか流れのままに兄上に打ち明けることになるなんてな。
兄上の劣等感とか自縛とかは自覚させられたし、いい方向に舵は取れるようには出来たと思うよ。
ただ、そこから先はちょいと饒舌が過ぎたかもな?
兄上は魔法を賛美するどころかむしろ憎んでいる節すらあったから、ついつい同調するように口が軽くなっちまった。
まあ、食いつきは悪くなさそうだしある意味好都合か。
「精霊信仰に対して見事に唾を吐いているな……先ほど言っていた欺瞞というのは『魔法至上主義』という認識でいいんだな?」
「それ以外に何があるんだっての。その憎たらしい理不尽をぶっ壊したいってのが今の行動方針さ。3歳くらいで初めて魔法の実物を拝んでやった時から何故か分からんがムカつく通り越して失望しつつブチキレてたな」
「3歳でそのような激情を抱くなんて普通じゃないぞ。一体お前の身に何があったんだ……?」
何が言いたいのかはよーくわかってるつもりだ。
俺の最も近しい身内と言えるグランナイツですら一部除いてフリーズしたくらいだ、そのコメントは至って普通だろうよ。
本能ってのはそういうものだから仕方ねえんじゃねえか?
俺自身もあの時は空っぽだったところにいきなり初めての激情が湧いてきたんだ、大目に見て欲しいぜ。
「それにしても……革命か。世界を相手取ることになる可能性もあるというのに大きく出たものだな?」
「宣言ぶちかましたのが8歳の時だったから、若気の至りならぬ幼気の至りってやつか?こういうのは勢いが大事だからな」
「……バカな愚弟と大物な愚弟、どう呼ばれたいか選ばせてやる。せめてもの情けだ」
「どっちにしろ愚弟はつくのかよ……さっきまでコンプレックス全開の愚兄には言われたくねえな」
世界を相手にするってのが超絶バカ行為なのは自覚してるつもりだ。
だがな、とある書籍にはこう書かれてるんだぜ?
『世界を変えるのは、常にバカを極めた者』……ってな。
さて、久々に初志を思い出したところで更に突き進ませてもらおうか。
まさに今はそういう流れと、俺の魂が訴えてきては喧しいくらいだからな。
「……兄上。この革命、乗る気はあるか?」
「──なに?」
「同情とかそういうのは一切抜きで誘ってるからな?アンタが加われば、俺としては心強いと本気で思ってる」
兄上はそれだけの資格と能力を有していると判断したからこその勧誘だ。
王としての責務と、それに必要なものばかり与えられていただけで世界すら呪っていた……それがアルガルド・ボナ・パレッティアだ。
その道に抗いの意志を示して、出来る限り足掻き続けて……それでもなお続く理不尽の壁を認知してしまった。
さっきまでは危うかったが、それでも折れず腐らずで泥まみれになりながらも藻掻いたその過程は間違いなく本物だ。
俺としても恩恵が大きいと言う理由も当然あるがね。
ただ、それ以上に俺はこの双子の兄に己の力で翼を作る術を授けたくなった。
「姉上ではなく、俺を勧誘するのか……?」
「兄上はどこまで行っても魔法至上主義の被害者だ、同志足る資格として十分さ。さっきのやり取りから見るに実力も申し分ない。後はちょいと、顕魂術の国内布教を手伝ってくれればいいなって打算の部分もあったりする」
兄上がどのような顕魂術を編み出して、成長させるかが気になるのが一番の本音だけどな。
そこはやはり第一人者としては新たな可能性は萌芽させたいし。
まあ、いきなり勧誘されても困るのは分かってるさ。
ただでさえ『姉上は理解不能な化け物』という既存概念が覆され、自分の迷走っぷりを突きつけられたところだ。
その辺を整理する時間だって欲しいだろう。
俺としても、何となく流れを感じたから誘ったってだけだし。
この場はお開きにして、後日かなーなんて思っていたが……。
「……その答えのためにも、喧嘩の続きはしなければならないようだな」
これまた意外な言葉が返ってきた。
喧嘩の続きと聞いて、まーだ拗らせてるのかと思ったんだが……表情を見てすぐに違うって分かったよ。
先ほどまであった余計な憑き物はきっちり霧散されている。
──いや、適切な形になっていると言うべきか?
「勝敗に関わらず、俺は下を向いていた己に別れを告げる。その代わりに、お前はこれまで歩んできた道筋、そしてお前たちの可能性を俺に示してみせろ」
魔法への呪いや自身の取り巻く環境への絶望は到底消えるものではないだろうよ。
この15年、ずっと兄上自身を蝕んできた事実は変えようがないんだ。
当然、その傷跡は消えることはない。
それらをきっちり自覚して受け止め……その上で前に進もうとする。
やれやれ、進展が無いとか言うが……結構似てるじゃないか。
上手く行かないのは同族嫌悪ってやつなのか……まあ、そんなことはどうでもいいね。
「──要するに、マジのマジでやれってことか?はっ、面白え……さっくり倒れて興醒めさせんなよ?」
「そっくりそのまま返させてもらおう。俺を唸らせるくらいでなければ、世界を相手取るなど夢のまた夢だぞ?」
盛大な皮肉ではあるが、そこには顕魂術への期待も見え隠れしている。
その上で俺を値踏みするってか……随分と面白い上から目線だ。
──これまで貰った中でも最高の挑発だね。
これが笑みを零さずにいられるかってんだ。
俺としても、ちょいと欲求不満だったからな。
喧嘩を続けられるのは嬉しい申し出でもある。
……ああ、この流れは嫌でもニヤけちまう。
熱気と殺気が完璧なまでに混じり合って、もう何者にも止められる気がしないね。
「第2ラウンドは余計なこと一切抜きで楽しむとするかね!双子仲良く、殺し合いごっこと洒落込もうぜ!」
「──兄として、たまにはお前の遊びに付き合ってやるとしようか」
めっちゃ上から目線の厭味な口ぶりでありながら、その口角は見事に釣り上がっていた。
いい顔をするじゃねえか……それでこそイケメンが映えるってものだ。
最初こそ、何でこうも違うのかと思ったもんだが……撤回させてもらう。
──やっぱ双子だな、俺たちは!
中断された喧嘩は第2ラウンドという形で再開される。
先手を取るのは俺だが、先ほどのように様子見などする気はない。
出し惜しみなどしようものなら、奴の可能性を見る前に終わってしまいかねない。
最初から全速力で走らせてもらうぞ。
「『ウォーターバレット』!──『アイシクルランス』!」
俺が最も熟練度を上げた水の弾丸と氷柱。
姉上の魔道具に依存しがちな戦闘スタイルを超えるための対策に全力を注いだ結果、目の前のアイツが認めてくれた俺の魔法。
2種の魔法を連続で放つという行為はイメージの切り替えの面でかなり難しい。
普通ならば、より強力な魔法を習得する方に舵を切るものだ。
しかし、それでは意味が無いのだ。
その道には、忌々しいくらいに完璧なユフィリアがいるからな。
同じ道を歩んで超えられないなら、誰も通らないであろう道を通って回り道をしてでも超えるまで。
捨てられない……否、捨ててはならない俺の意地を見せてやる。
「いきなり熱い歓迎だな!それでこそこの喧嘩に意味があるってもんだ!」
この距離で既に背中に収めた剣に手をかけている。
それはすなわち、この距離からでも俺の布陣への対抗手段があるということだ。
一体何をするのか──そう逡巡していたその時、唐突にそれは起こった。
「なっ──!?」
既に水の弾丸の群れも、空中の氷柱の数々も突破されていた。
この瞬間的出来事は流石に想定外にも程があるぞ!
あいつ、一体いくつ魔法……いや顕魂術を発動させた?
剣を振りぬくと同時に発生した魔力の刃がウォーターバレットが相殺されたのは視認出来た。
ご丁寧に火属性が纏われており、弾丸を蒸発させてなお炎が残っているのでそれなりの魔力が込められているはず。
それだけの威力の魔力刃を放っておきながら続けて空中に移動して、氷柱を迎撃……というよりも突破していた。
「おらおら兄上、呆けてないで次行くぞ!ちなみに、今使った顕魂術は移動とか含めたら4つだからな!」
あの一瞬で4つを発動させただと!?
俺ですら2つの連続で苦慮していたのに、この弟はその倍をやってのけたというのか!
精霊を介さないだけで、そこまで練度を高められるというのか……。
しかし今、俺の中にあるのは屈辱ではない……むしろ高揚だ。
この目の前にある新たな概念に昂ぶりを覚えている。
「もう一度……『ウォーターバレット』!──更に、『ウォーターカッター』!」
ならば更に引き出させるように猛攻をかけるまで!
先ほどよりも水の弾丸は数を減らして1つ1つの強度を上げる!
そこに手刀と共に放たれるウォーターカッターを後続にして数を補う。
大きく横に避ける以外の選択肢以外は無いかと思われる布陣だ。
姉上だったら間違いなく苦慮するはずだが……。
生憎、今回の相手は吃驚箱を擬人化したようなとんでも人間だ。
果たしてどのように突破してくるか……。
「『エヴォリューション・レザルト・バースト』──グォレンダァ!はは、1回言ってみたかったんだよこれ!」
5という数字を何故か妙な形で強調している。
……何だ、一度言ってみたかったというのは。
突っ込んだら負けだろうから、あえて何も言わないが。
そして何故だか地震の予兆を感じたんだが……?
しかし、そのふざけた様子と違い放たれてる顕魂術はシンプルにして凶悪そのもの。
光属性と雷属性を纏わせたであろうそれは、おとぎ話でよく聞くドラゴンが放つブレスだ。
しかも宣言通り5本……それは1つの顕魂術で5本撃ったということでいいのか。
更にそれらはウォーターカッターを寸分狂いなく貫いていた。
命中精度も含め、本当に驚きっぱなしだがそうも言ってられん。
そうしている内にマドラーシュはもう1つの剣の取っ手に手をかけていたのだから。
「カイトからすれば邪道だろうが、まあ許してくれるよな!」
今度は凍えるような魔力だった。
鞘から剣を抜いたかと思ったら、強度を増して展開した水の弾丸は1つ残らず氷結させられる。
火、雷、光に加えて氷だと!?
お前は一体いくつの属性が使えるんだ!?
まさかユフィリアと同じく全てではあるまいな!?
それに加えてこの展開速度と制圧力の両立っぷりと来たものだ、正直その恐ろしさは比較にならない気がする。
その上で近接戦の凶悪さも考慮すれば……現時点で既に母上すらも食える実力なのかもしれない。
全く、やはりとんでもない弟だなお前は!
それにしても、やはりこの距離では分が悪い。
明らかにマドラーシュの手数と展開速度が圧倒的に勝っていて、俺の攻め手は悉くと潰されていくのだから。
ならば、俺の取り得る選択肢は1つしかないだろう。
──水の激流で加速する様をイメージして、精霊に叩き込む。
遠距離メインの魔法使いに対しての対策として、無詠唱でも使えるようにした単純な水属性の加速魔法だ。
自身にかける身体強化も合わせれば、マドラーシュの加速に引けを取らないという自負はある。
無論、この併用は魔法使いの定石からはますます逸脱しているがな。
元々は対ユフィリアを想定した距離詰め手段だ。
姉上にも奇襲の一撃として使えると踏んで、陰で試行錯誤を積んでいた地味な魔法だが……。
それをまさか、目の前の愚弟に使うことになるとはな。
先ほどはヤツに対して大いに慢心を抱いていたからな。
わざわざこれを使うという選択肢など浮かびはしなかった。
だが、この短い間で嫌と言うほど思い知ったさ。
──目の前に立つ双子の弟は、間違いなく俺が知る中で最強の相手だというただ一つの事実を。
「そっちから来るんなら、受けて立たねえとだよな!」
肉薄するまでは何も追撃は飛んで来ず、速度を殺されることなく距離を詰めることが出来た。
……少しずつ慣れてきたからか、愚弟の僅かな穴が見え隠れするくらいにはなってきたのかもしれない。
どうやら、氷の魔力刃に関してはそこまで慣れていないようだ。
先ほど見せてくれた怒涛の連撃に比べて、氷を用いた時のみ少し時間差が存在している。
とはいえ、よく観察しないと分からない程の差だ。
これを理解できたことは、凶にはならないだろうが吉となるかは……それこそ俺次第だろう。
水の魔力刃を纏わせた剣を右に、左は氷を纏わせた手刀で斬りかかる。
対するマドラーシュは、懐に忍ばせていた細見の剣を右で握り、左には背に背負っていた蒼い片手剣だ。
互いに二刀ということもあり、傍から見ればさぞ見栄えがいいことだろうな。
そして、接近戦においては思った以上に互角であることに俺は驚いている。
「くっそ、厭らしいタイミングで無詠唱弾丸撃ちやがるな!しかも氷の方もすぐに再生しやがったりそうじゃなかったりで、マジで厄介極まりねえ!」
マドラーシュが愚痴を吐き捨てている通り、確かに剣戟の合間には小威力のウォーターバレットも交えている。
しかし、それはあちらも光と雷のブレスを小規模で放って相殺しているからお互い様だろう。
恐らく、ヤツがよほど面倒に思っているのは後者の方だろうな。
……どうやら、俺の行動はマドラーシュのテンポを少しばかり崩しているようだ。
少しずつだが、その攻め手が雑になってきているのが分かる。
「どうした、距離を詰められる程度で策が尽きるお前ではあるまい!」
雑になっているが故に、隙が見え隠れしている。
明確に一撃を与えられる致命的なものではないが、徐々に状況を好転出来るような類なのは間違いない。
俺はここぞとばかりに、やや割増気味に斬りかかり……。
「──なーんてな!」
──不敵な笑みと共に聞こえた言葉に、俺は強烈な寒気を覚えた。
しかし、やや大振りに斬りかかっている分行動を強制的に止めるにも僅かに時間がかかる。
その僅かを突くように、踏み込みの為に強く足をつけている地面が揺れた。
「好機を突く際に生じる僅かな緩みこそ、変調の兆し!カルシオン戦で得た教訓だ!」
改めて地面を踏みつける動作で、俺の足元周辺の地盤だけ揺らしたのか。
お陰で危うくもつれてしまい、攻撃の態勢も不完全なものとなってしまう。
くっ、こうなっては攻撃など無意味だから捨てるしかない!
「間に合ったぞ!『アイシクルシールド』!」
咄嗟に俺は両手を前方に掲げて氷の盾を作り出した。
あまりに突然の発動だったので、正直イメージの構成が怪しい所だ。
しかし、あのまま強引に攻勢に出ていたら間違いなくこの殺し合いが終わってしまう。
そんな無様な終幕など、俺もヤツも許すはずがないだろうからな。
「少しでもダメージを減らす心がけは悪くねえが、今の俺に対してはちょいと悪手だぜ!」
「ぐっ……!?何だ、この衝撃は!」
マドラーシュが氷の盾に打ち付けたのは右の掌底だ。
纏われている魔力は闇属性と火属性の混合……しれっと5個目の属性が含まれているが、今はどうでもいい。
掌底打ち自体を防いでいるはずなのにその衝撃がこちらに届いていることの方が肝要だ。
まさか……その闇と火の魔力によって盾や障壁を貫通して攻撃できる効果が付随されているとでもいうのか?
隠された効果という表現がこの上なく相応しいが……それにしたってえげつなさすぎやしないか!?
無論こんなもの、魔法では見たことも聞いたこともないぞ!
「おら、もう片方あるってことを忘れんなよ!」
そんなことを考えている内に、空いている左の掌底も飛んで……!
ただでさえ火属性を纏わせているだけでも相性が悪いというのに、防御を貫いてはこちらの痛覚に直接訴えてきている。
その上所詮は即席の盾でしかなく、破壊されるのは当然の帰結だ。
しかし、その状況は俺にとっても決して都合が悪いものではない。
「この距離で、避けられるものなら避けてみろ!『ウォーターバレット』!」
氷の盾は、防御と共に反撃と離脱の為の布石でもあったのさ!
想定外のダメージもあって、まともにイメージを描けたのは1つだけで、威力も想定の8割と言ったところだろう。
しかし、上下左右に散開するよう展開してるので回避はほぼ不可能だ。
いくらマドラーシュでも、この不意打ちの布陣の前では防御に徹さざるを得ないだろう。
その間に立て直しを図ればまだ……!?
「はっはっは、これも1回やってみたかったんだよなあ!」
待て待て待て、一体どこでそのような曲芸を覚えてきた!?
単純に被弾を防ぐならば、刀身がより頑強な蒼い剣を用いるところだろう。
または、どちらも用いる二刀で防御態勢を取るのが正着だろう。
それがヤツはどうだ、鞘に納まっている方の剣のみを取り出している。
そして何をしだすかと思えば、その場で器用に剣を回転させて着弾し得るウォーターバレットを全て受け流した。
あの一瞬の間で風の魔力を纏わせることで受け流すことを考えつく辺り、どういう頭をしているんだ。
……いや待て、今しがたヤツが使ったのは本当に風属性だけだったか?
「インスタントアイシクルランス、完成!応募者は1名なので、送り先は即決だな!」
ああそうだ、薄っすらとだが感じていたのは冷気……すなわち氷属性だ。
クソっ、至近距離の不可避のウォーターバレットに対して防御に徹するどころか更にカウンターだと!?
このハチャメチャ極まりない思考の愚弟め、どこまでこちらの想定を斜め上に突っ切る気だ!
お陰で追撃分の魔力をも離脱に回さなければならなくなった。
それでもヤツの放った氷の槍は想定以上の速さで、かすり傷を負わされてしまう。
しかし、何とか最低限の為すべきことはクリアした。
「『ウォーターハンマー』!──っ、更に『アイシクルプリズン』!」
離脱の最中からイメージを練っていた、俺が使える中でも処理が重い魔法の連続発動だ。
普段でも五分五分の成功率の博打技だが、ここで使わないでいつ使う!
双子とはいえ、俺が兄なのだ。
博打だろうが何だろうが、ここで決めてやって意地を見せるのみさ!
「おいおいそこまでは流石に見たことも聞いたこともねえぞ!やるじゃねえか兄上!」
「はっ、褒めるくらいならおとなしく食らっていて欲しいものだがな!」
憎たらしい誉め言葉と共に、マドラーシュは巨大な水の槌を猛加速で避ける。
だが、後詰めのアイシクルプリズンの方はどう対処する気だ?
先ほどとは違い、マドラーシュ自身にもそれなりの量の水分が付着されている。
その上、先ほどの斬り合いから離脱までの流れで俺が放ち、撒かれたままになっている水もそれなりの量だ。
発動さえ出来れば、相当な密度の氷の牢獄が完成することだろう。
突破手段があるとはいえ、僅かにでも動きを抑えることは出来るはずだ。
後は、氷牢の突破に気を取られている隙に保険で設置した罠にかけてやればいい。
「こりゃあ、顕魂術叩き込んだらどうなるか猶の事楽しみになってきたな!」
楽しそうに笑う姿を見て、俺は猶のこと警戒をした。
明らかな距離がある中で、マドラーシュは剣を構え突進してくる。
無論、顕魂術でスピードを上げて突っ込んでくるのは想定内だ。
氷牢屋の完成までに範囲から逃れればいいだけのことだからな。
しかし、それならば第2の罠で対処するまでのこと……?
「そっちが策をいくつも弄するってんなら、まとめて吹っ飛ばせばいいだろうがよ!」
今度は何をしでかすのかと思っていたら、マドラーシュはあろうことか奇妙なタイミングで停止、それと同時に風属性の魔力の塊を放っていた。
巨大な風の塊の爆発は、マドラーシュ自身に付着していたアイシクルプリズンの媒体になる水分を吹き飛ばす。
更には、俺が仕掛けていた地を這う水の鞭の排除まで同時に行っていた。
挙句、形成されつつあった氷牢とその周りの水分もまとめて弾き飛ばすという効力も発揮している。
──お前は未来視の能力でも持っているのか!?
何故あの一瞬で、最少労力かつ最大効率を追求できるんだ!?
更にはその風の塊が起こした反動までも利用して、マドラーシュは再度空を舞っていた。
「特別サービスだ、残った氷もきっちり掃除してやるよ!」
鞘に収まっている方の剣に手をかけていたが、その後はまるで目が追いつかなかった。
分かったのは、まるで空間を斬るかの如く完成しかけていた氷牢の残りを破壊したことだけだ。
月明りが差していることもあってか、鞘に納めた直後のヤツの姿は幻想的という言葉が相応しいと言える。
これまでの動きも相まってか、マドラーシュは完全に戦場を華やかな舞台に変えてしまっていた。
そんなことを即座に脳内逡巡しながらも、俺は今の状況に対して頭は回転させることを忘れてはいない。
この状況、そしてこの距離でアイツが取る行動は……一つしか有り得ないだろう。
──恐らく、ヤツはここでケリを着けにくるだろう。
ならば、俺に出来る現状可能な最大のイメージをありったけの魔力と共に精霊に叩き込んでやる。
「『アイシクルウォール』!来い、全て受け切って見せるぞ!」
俺は幾重もの氷の防壁を作り上げた。
言うまでも無いが、即席の氷の盾など比べ物にならないほどの堅牢さは備わっている。
正直、ウォーターハンマーとアイシクルプリズンの連続発動の反動はかなり厳しかった。
これまでの互いの立ち回りのぶつかり合いもあって、俺の方は恐らく魔力も精神もギリギリだ。
恐らくマドラーシュもそれなりの消耗はしているはずだが、俺よりは確実に余裕はあるはずだ。
そうなったら、今こそが決着の好機と言える。
ならば、俺が取り得る選択肢もう迎撃戦しかない。
多重層から成る氷の防壁は、俺の残存魔力の大半を使っていることも相まって堅牢鉄壁そのものだ。
俺の精神が高揚していることも相まって、過去最大の壁となっている……そう信じている。
この氷壁で僅かでもアイツの進軍の勢いを弱め、強引に消耗させ……隙あらば反撃で討ち取る。
「ドンピシャ!さあ、フィナーレと行こうか!」
それに対してマドラーシュは2本の剣を左右の手それぞれ順手で握っていた。
それぞれには光属性と闇属性、異なる魔力を纏わせている。
そこからヤツは跳躍してから空中で軌道を変え、一本の矢となって真っ向勝負で来た。
対極とすら言える2つの属性を見事に調和させている。
──お陰で俺の作った防壁がものすごい嫌な音を立てていた。
いや、既にマドラーシュの突貫に負けて風穴が開き始めている箇所があるほどだ。
クソ、ここに来てまだそんな隠し玉を持っていたのか……!
だが、みすみす突破を許す俺ではないぞ!
「──『アイシクルバレット』!『アイシクルニードル』!……そして、『ウォーターバレット』!」
防壁に出来た穴を縫うように、氷の弾をマドラーシュに向けて放つ。
そこからはもはや本能で氷の槍と水の弾丸も加えていく。
強大な氷壁を作った反動を気にもせずに、最後まで抵抗の意思を見せつけてやる。
魔力残量?そんなことを気にして何になる?
今こそ限界を超え、死力を尽くすべき時だ。
「そっちがリミッター解除ならば、俺も更にスピードアップだ!」
「ちっ、そこは合わせて限界突破するべきところだろうが!」
この喧嘩は互いの抵抗とこれからを刻み付けることが最大の目的だ。
マドラーシュもそれを分かっているからか、全く避ける素振りもない。
俺が限界を超えつつも放った弾幕に対して、ただ愚直に向かってくるのみ。
──そうなれば、結果はもう見えていた。
ヤツの滅茶苦茶っぷりを表さんが如くの光と闇の魔力は、まさに内に秘める破壊衝動そのもの。
『魔法至上主義』を初めとした理不尽を砕く、生物の足掻きという本能そのものとすら言える。
俺が限界を超えながらも放った弾幕を超えていくのは当然のことだろう。
……憎さ余っての賛辞、といったところか。
その可能性、きっちり見極めさせてもらったよ。
「──楽しい喧嘩だった。今度やる時は互いに最初から大盤振る舞いでやろうぜ」
「最後までその憎たらしい顔なのが気に食わないが──俺の負けだな」
完全に接近を許し、喉元に剣を突き付けられた。
誰がどう見ても見事なまでの完敗だな。
だが、流石に愚弟も無傷というわけには行かなかったようだ。
1回戦の時点ではコートに穴を空けてやるのがせいぜいだった。
それに対して、今回は明確なダメージを与えている。
ヤツの足元が赤い液体が滴っていることから、それだけは理解出来た。
それだけでも、今後の糧に繋げられる。
──足掻きが通じたのならば、今回はそれでよしとしておいてやろう。
これで負けたからと言って、次が無いわけではないからな。
敗北の泥が追加されることなど、今更苦にも思わん。
……目の前の愚弟も同じように血反吐を吐いて泥を啜って来たのだ。
兄である俺も同じくそうでなければならない、そうだろう?
しかし、半ば殺し合いの双子喧嘩でここまで清々しい気分になれるとはな。
全く癪に感じないわけではないが……悪い気はしない。
千紫万紅を離すと同時に兄上は盛大にぶっ倒れた。
あの量の魔法を2ラウンド連続で使えば、魔力残量もイエローゾーンくらいには突入してんだろうよ。
……かく言う俺も、倒れこむほどではなくとも座り込んで息を整えなければならないくらいに消耗していた。
兄上の戦い方はかなり抜け目がなく、とにかくいい意味で狡猾だった。
俺としても普段よりも魔力の流れに神経を張り巡らせる必要があって、それが摩耗に繋がったんだろうよ。
お陰で静動入り混じる猛攻を捌き切ることは出来たが……正直パルヴァネ師匠の修行が無かったらヤバかったな。
魔力の流れを深く理解してなかったら、間違いなく絡めとられていたのは俺の方だった。
そして、その泥臭いとすら言える戦い方は……見事なまでに俺の琴線に触れ、心を躍動させてくれたものだよ。
だからこそ可能な限り頭を回し、兄上に合わせる形で出来る限りの全力は出した。
顕魂術だってそれなりに大盤振る舞いしたし……いくつ使ったか数えるの忘れちまったくらいさ。
結果、今までのそれとは異なる趣の充実感を味わうことが出来た。
俺としても美味しい展開だったってわけだ。
こんな双子喧嘩ならいつでも歓迎だ、次いつやるかね。
「大暴れしてちょっとは靄は晴れたか?」
「……これだけ大っぴらに戦えば、嫌でも晴れるさ」
「それは重畳だな。俺もこれだけ傷を負った甲斐があるってものだ」
憎まれ口は相変わらずだが、明らかに吹っ切れているのは顔を見ずとも分かった。
生まれてから抱いた、向けどころが難しい怒りや憎悪、劣等感は消えないだろうが……いいんだよそれで。
そういうネガティブな感情もまた、人生に必要な傷だ。
傷の無い人生なんて、それもまたおぞましいからな。
「で、兄上は俺のスカウトを受けてくれるのか?ああ、別に敗者だからって強制はしねえからそこはご安心を」
「そこは従わせるわけではないのか。変なところで甘いんだな、お前は」
「元々そういう喧嘩じゃねえからいいんだよ」
そりゃあそもそもこの勧誘は想定外だったからな。
元々そのつもりだったら、もう少しやり方は考えるっての。
まあ、今ダメだったとしても今度また別の方法で誘うまでだが。
「……これまであらゆるものを恨み、呪ってきた身だ。ならば、いっそのことこれまで人を散々縛り付けてくれた礼に反旗を翻してしまうのも悪くない。その上で、俺が思う国作りの踏み台にさせてもらうがな」
清々しいくらいに今の兄上らしい答えだった。
そうそう、いっそ開き直っちまえばいいんだよ。
父上や母上、後は姉上が聞いたら果たしてどう思うのかは気になるところではあるが……。
この件はあの人たちもそれなりにやらかしてたわけだし、否定なんてさせねえがな?
「人間味に溢れる上々な答えじゃねえの。踏み台で結構!周囲のくっだらねえ評価を叩きのめして、この国そのものも変えちまいな!」
「お墨付きをもらったのなら、遠慮なくそうさせてもらう……全く、兄弟でする会話じゃないな」
かれこれ十年以上引き離されていた俺たちだったが、結果的には血縁としてはどこか妙な関係に着地することとなった。
まあ、兄弟にしては馴れ合いが少ないって思われるんだろうが俺はこれでいいと思ってる。
少なくとも双方にある抗いの意思は共通しているんだからな。
これぞ最高の共犯関係……いい響きじゃないか?
「……次にやる時は、俺は必ずお前と同じ土俵に立ってみせる。その時は白星をもぎ取ってやろう」
「ほーう、言ったな?俺はその時までにどんどん顕魂術を切り拓いて、誰も追いつけない高みに至ってやるよ」
もう早速次の喧嘩の約束をしている俺たちってどんだけバカなんだろうな。
この時の俺たち、やっと傍目でも双子と分かるようになったんじゃないかね。
全く、やっと双子の兄弟らしいことが出来て感無量だ。
え、随分物騒な双子だって?
いいんだよ、俺たちはこれで。
原作思いっきり百合なのに、そんなの知ったことかと男同士の双子でこんな楽しそうに殺し合いしてるというやりたい放題っぷりです。
え、盛大にジャンルが変わってるって?今更だし知ら管です。
皮肉混じりで熱血に、そしてクレイジーに喧嘩する双子はいいものですね(悪魔狩り脳)
お陰でバトル面もなかなか色々書けてそれなりに満足しました。
即席アイシクルバレットはDMC3のとあるムービーから引用していたり。
グォレンダァ!は唐突に浮かんでぶち込みましたが、まあサイバー流にとっては必修科目なので……。
さて、次話で過去編最終話……のはず。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)