第1章最終話でございます。
うん、ここまで長かった……のか?
兄上……もとい、アル兄さんを縛り付ける楔は無事に砕くことが出来た。
更には革命にも誘えて、兄弟関係もいい具合に落ち着いて……。
一石三鳥、三倍満どころかトリプル役満って言ってもいい素晴らしい出来だ。
その甲斐あって、本来の本題であるレイニ嬢についても事情聴取が出来た。
ここまで来れば、もはやナニモイウコトハナイ。
……別に喧嘩が楽しくてついつい忘れてたとかじゃねえからな?
ルドミラ姉さんの懸念はどちらかと言えば当たっていた。
最初はどうにも周囲に溶け込むことが出来ずに困っていたところを親身になって接していただけだったと。
それが暫く続く内に、レイニ嬢を中心に物事を考えるようになってきた。
その情から、まるで対照的に見えたユフィリアのこともより疎ましく思うように派生したと。
俺との喧嘩とか諸々のお陰で目が覚めて、少なくともレイニ嬢へのそういう感情は落ち着いたらしいけどな。
やっぱ喧嘩は全てを解決するってことだな、うんうん。
……ユフィリアのことをそんな風に見ていたことについては一発張り倒してやろうかと思ったが、頑張って耐えたぞ?
ここで俺が爆発したら、これまで隠れてやってきたことが全て台無しになっちまうからな。
それはさておき、この証言のお陰で一つの仮説が有力味を帯びてきた。
『レイニ嬢は魅了の魔法ないし能力を持っている』……というものだ。
その上、それを制御出来ていないないし無自覚でやってるのではないかというおまけつき。
交友範囲があまりに無節操かつ手口が雑すぎないか?という疑問から生まれた仮説だ。
アル兄さんやその周りだけだったら、本命とその周りで地盤を固めるために近づいたって説明できるさ。
その他でも好意を持ってるヤツが多くなってるって話だぜ?
後からルドミラ姉さんから来た追加報告だったんだが、流石にあからさまが過ぎる。
少しでも勘がいい奴なら1発で疑うレベルだろう。
仮にハニトラ要員なら、そんな無節操にやらかしたら同性の恨みやら妬みも買いかねないってよく分かってるだろうからな。
そうなれば、ユフィリアがやたら助言していたことも説明がつく。
魅了のようなもので好意を持った裏返しじゃないかってことだ。
ユフィリアに対してピンポイントで魅了を狙うのも無しではないだろうが、それは流石にリスクが高すぎる。
相手は魔法においては精霊に愛されていると称されるほどの才女だぜ?
ロクに魅了が入るかも分からねえし、維持できるかも怪しい。
まず俺ならば絶対にやらないね、そんなハイリスクローリターンは。
これらの仮定で行くと、彼女自身がハニートラップ要員である可能性は低い。
こうなってくると、ますますもって背後にあの連中がいるって疑いたくなる。
あわよくばアル兄さんを魅了状態に陥れ、不確定要素のユフィリアを排除しようと動く。
完全に国を掌握しようとしている動きだよな、こんなの。
これがマジだった場合は、俺は本格的に裏で動かなければならない。
これまで連中がしでかしたことがもしも俺の身内に及んだりしたらそれこそ……。
──おっと危ない、嫌な想像するものじゃねえな。
どちらにしろ、この背後関係は現状で分からない状況に変化はない。
アル兄さんには表向き何事も無いように振舞うよう頼んである。
背後関係が掴めない内から下手に動くくらいなら、持久戦に持ち込んじまったほうが確実だ。
幸い、それ以上の動きは現状見受けられないからな。
さて、長い裏話はこれくらいにしておくとしようか。
「にしても、本当に喧嘩でどうにかしちまうとはねえ……観戦できなかったのが本当に残念でならないよ」
「双子という血の繋がりがあるからこそ、時には本気で殴り合うことも必要と言うことさね。それでこそ我らのやりたい放題王子、そして我が弟子じゃな!」
先ほどの裏話だが、当然グランナイツの皆とも共有してある。
アル兄さんが抱えていた役目への憎しみやら姉上への複雑な感情、俺たちの喧嘩がもたらした顛末も含めてな。
あ、無断で話してるわけじゃないぞ?
ちゃんとグランナイツのことも話した上で了承は貰っているさ。
かつて黒龍を倒した裏の英雄たちが教育係であることについてじゃ?滅茶苦茶驚かれつつもどこか納得していたな。
それと、これからは同志でもあるから頼りにしてやってくれとも言っておいたり。
「それでいて、学院で密かに問題になりつつあった案件の芽を特定するとは……全く、これではいつものように独断専行を叱ることが出来ないではありませんか」
どうやらラインヒルト先生も学院のその手の噂は耳にはしていたらしい。
閉鎖的な貴族学院でのことまでアンテナを張るなんて、流石は防衛省すら頭が上がらない苦労人だ。
始まりはユフィリアの頼まれ事だったんだが、まさかそこまでの事態になりかけてたとはねえ……。
貴族社会ってのは本当に怖いもの、これからも注視していかねえとな。
「アルガルド君、やっぱり苦しんでたのね……私が気付いた上でシルフィーヌに添え口するべきだったのに……」
「周囲の心無い言葉、その上に過度な期待とあっては歪むのも無理はないな。そこに無自覚とはいえ、王女殿下の突き上げとあれば……まあ、取り返しがつかなくなる前に解決できて何よりだ。今回はマッドのやりたい放題が功を喫したな」
「今回は、じゃなくて今回もだろ?ほら、今は何ともねえんだからデイジー師匠も顔を上げようぜ!」
「……そうね。今日ばかりは、いくらでも調子に乗っても許してあげちゃおうかしら」
母上と親友であるデイジー師匠は特に思うところがあったみたいで、ちょいと自責の念が強いみたいだ。
でもこればっかりは間が悪いとしか言えない。
俺が介入できたのも、ただただ間が良かったってだけだからな。
にしても、姉上も別に追い打ちしたくて魔学に打ち込んだわけじゃないんだよなあ……多分。
実はパレッティア王家って、間が悪い呪いを代々受け継いでたりしてんじゃないか?
どこかのうっかり癖みたいに……どこかってどこだって話だがな。
「マッドとアルガルド王子が仲良くなってるってことは~……あれ、ユフィリア様との関係はどうなっちゃうの?三角関係って言うには随分と奇妙なことになっちゃいません?」
「いやいや、どうなるも何も──まさか、ユフィリア様を本格的に狙うならばむしろそっちも攻略してしまおうという流れですか!?我が弟分がそっちの道に……行けませんよマッド、健全に行かないと!」
そしてこらクリスティーナ姉さんにエリオ姉さん、俺がいるところで意味不明な雑談してんじゃねえよ!
特にエリオ姉さんは研究ばかりで遂に腐ったのか知らんが、人を両刀みたいに言ってんじゃねえ!
俺は至ってノーマルだからな!
別に赤の他人が両刀だの同性愛でも勝手にしろでスルーすればいいが、俺を巻き込まないで欲しい。
「お前らの思考回路は本当にどうなっているんだ……?兄弟仲が修繕されたことを素直に祝うべきだろうが」
「だってアニスフィア様がそういう気があるって話なら、弟のマッドもそうなっちゃう可能性もあるってならない?」
「レオン先生、クリスティーナ姉さんとエリオ姉さんが腐ってるようなんで浄化お願いします」
「こんなところでアイギスの盾は打てないぞ?」
イグノックス兄さん、本当にあなたの仰る通りです。
何でこんなところで腐女子が発生してるんでしょうね?
レオン先生、天然全開で冗談を真に受けないでください。
それはただの麻痺ぶっぱで、浄化どころじゃなくなるっての。
全く、何でこう毎回毎回締まりが悪いのやらか……。
「……早速来てみたんだが、俺は来る場所を間違えたのか?」
「お?言ってる内に華の主役二人目のご登場じゃないか」
やっぱり俺たちって間が悪いデバフかかってるよな!?
何で変な風に拗れてる時に来るんだよアル兄さん!
ああくそ、折角の顔合わせが台無しじゃねえか!
アルガルドとグランナイツの面々の顔合わせは順調以外の何物でもなかった。
王妃の親友であるデイジーが積極的に仲介を取り持ったことも確かに大きい。
だがそれ以上に、アルガルドにとっても居心地が良かったことが最大の要因であろう。
次期国王という要素を大前提として持ってくる者も、『より良き王になるべし』という鎖を用いる者もここにはいない。
一部あからさまに不敬な振る舞いをしてくる者もいたが、むしろ清々しいとすら思ったとか。
その中でも特に口調がつっけんどんな男からは、『暇があったら弟同様に鍛えてやろう』と勧誘すらされていたり。
無論、ストッパー集団に見事に止められたのは言うまでもないだろうが。
「流石イグノックス兄さん、アル兄さん相手でも平常運転でむしろ安心したぜ」
「あれで平常運転なのか……誰も止めていなかったら、俺は果たしてどうなっていたんだ?」
「多分俺の二の舞じゃね?あの人がわざわざ誘うってことは、相当見込みあるってことだろうし」
「光栄に思うべきかどうか、まさに悩みどころだな」
とはいえ、かの英雄集団の一人に目をかけられること自体に悪い気はしていないのだろう。
その苦笑の中に喜色が含まれているのはマドラーシュも察していた。
これまで誰からも姉や婚約者と比較し続けられてきたからこその反応とも言える。
特にイグノックスは、グランナイツの中でも特に泥を啜ってきた雑草組筆頭である。
栄えある才がなくとも、愚直なまでの努力で伸し上がった不屈の騎士に認められることは凡才からすれば至高の誉れに当たる。
ただし、同類であるマドラーシュから認められていることについては素直に喜びを表に出すことは絶対にしない。
理由はここで語るまでもないことだろう。
「というわけで、アル兄さんの彫魂石の完成だが……この色、結構面白い属性適性かもな?」
「確かに、魔法においての属性適性からすれば随分と異なる印象だが……色だけで分かるものなのか?」
彫魂石の色は、文字通り持ち主の魂をそのまま表現した形となる。
レオンならば『光』を表すが如く透明に近い白色、カルシオンならば『闇』を表す色でありかつての二つ名でも使われる妖しさ溢れる紫色という風にだ。
イグノックスのように、『火』の中でも完全燃焼を表し、これまた二つ名を表す青と少々毛色が異なるケースもあるにはある。
マドラーシュについてはぐうの音も無いほどの純黒の彫魂石である。
これは『あらゆる要素を吸収する面』やら『全属性を使える、すなわち全ての色を合わせた結果』と、大半の者の見解は一致していた。
そして、出来立てほやほやのアルガルドの彫魂石の色も黒に寄っている。
ただ一色というわけではなく、燃え盛るような赤と静謐な青の双方が分断されながらも表れている。
「火と水、氷に闇だったりしてな?……まあ、まずは慣れ親しんだ属性から試運転と行こうか」
「まずは彫魂石を起こすところから……これは問題ないな」
自身の魂の分体を起こすという行為は、精霊に対して魔力を捧げるのとイメージは変わらない。
強いて言うならば、対象が自分自身なので対応を徹底的にフランクに出来ることが利点か。
元々は劣等感や憎しみから、魔法や精霊に対して忌避感すら抱いていたアルガルドからすればさほど難しいことではない。
しかし、これはあくまで
「……いきなり詠唱無しでもいいんだな?」
「どうぞどうぞ。アル兄さんなら3連続くらいいきなりやれちゃうんじゃねえか?」
煽りも含まれるマドラーシュの勧告に対し、アルガルドは口端を吊り上げた。
するとどうか、スムーズな魔力伝導と共に握る剣の切っ先からいくつもの水弾が放たれた。
初めての術の行使であることや、魔力をそこまで注ぎ込まなかったから威力はまるでない。
更にそこから氷柱の弾丸が第二陣として放たれる。
魔法使いであった時も用いた、流れるような『ウォーターバレット』と『アイシクルバレット』の連続行使を顕魂術においてもあっさりと成し遂げていた。
(これまでの努力がこうもあっさりと功を喫するとはな……)
しでかした張本人としても、まさかここまですんなり出来るとは思ってもみなかったこと。
それと共に、何故弟が自身に率先してこの術を与えようと思ったのかも理解出来た。
──泥を啜ってでも、それこそ這ってでものし上がろうと強く思う者にとってあまりに相性が良いのだ。
これだけでも試運転としては上々と言えるだろう。
しかし、今のアルガルドはここで留まることを良しとしなかった。
せっかくだからと言わんばかりに、しれっと装填していた3発目のイメージを水の刀身という形で顕す。
これもまたお試しの軽いものなので、1回振るうことであっさりと剥がれてしまうほどの魔力刃でしかない。
が、マドラーシュの煽りへの返答というあまりに些細な目的を果たしていた。
「なるほど、確かにこの感覚は心地がいい。それと共に、魔法に縛られていたこれまでがバカバカしく思えてきた」
「流石と言うべきなのかムキになんなよと笑うべきなのか……ったく、可愛くねえ意趣返しだな?」
「平然と4発連続行使をしでかしてるお前にだけは言われたくないな」
憎まれ口の叩き合いだが、そこに剣呑な空気はまるでない。
王族だの王位継承権だの、そんな面倒なものは一切関係なく接する……まさに普通の双子がそこにいた。
雨降って地固まるとよく言ったものだが、この二人の場合は血の雨降らせて地固まると物騒な分より強固な言い回しも出来ることだろう。
他の血が繋がる者が聞いた日には、一体どんな反応を示すのやらか……内心では悪戯顔で双方同じことを考える始末だ。
マドラーシュの言う通り、やはりなんだかんだで双子であった。
「だが、この術をすぐさま平民に周知というわけには行かないだろう。魔学以上に混乱をもたらしかねない上に魔法至上主義で凝り固まった貴族も黙っていられないはずだ。それとも、裏で動いているのか?」
「東の方でクラマ族とかミケ族、後はちょいとギリギリの線でクシャン族にも基礎を叩き込んだのは少なくとも当てはまるだろうな」
「待て、東だと?……まさか、『東の賢者』の噂は真実だったというのか?」
『東の賢者』……マドラーシュが8歳の時に発生した噂だ。
最初はクラマ族とミケ族の間でのみ伝わっていたが、今ではパレッティア東部では知らぬ者はいないほどの話まで膨れ上がっている。
ある時は『迫害されている亜人種に自立の術を与え、自らの地位を勝ち取るように促した賢者』と伝えられる。
少し経てば、『騎士団や魔法使いでも被害は免れ得ない凶悪な魔物を、それこそお使い感覚で手軽に間引きをする次世代の英雄候補でもある』と本人比で少しばかりの尾ひれがつく。
挙句、『滞っていた東部の交易路事情の改善を促し、食事情や環境問題にも見識もある救世主』などとも言われ出しているとか。
どれもマドラーシュがこの6年間で行ってきたことなのだが、正直ここまでの噂になるとは露にも思っていなかった。
ちなみに、領内の魔物の間引きの際には押しかけで弟子入りしている者がいたりもするがそれは別の話ということで。
「要するに……『東の賢者』は『無慈悲な主役』ケルビムで……マドラーシュ・リヴェ・パレッティアに繋がるということか」
「そういうこった。この辺の詳細は今はバラすなよ?特に父上は偉志ノ大陸の外交とか交易路については知ってるが、それ以上の裏事情は一切話してねえし」
「こんな真実が知れ渡った日には、代替品第二王子の話題で国中が大騒ぎ待ったなしだろうな……」
顕魂術だけでなく、それに付随する行動も十分に劇薬だったことをアルガルドは知ってしまった。
思わず天を仰ぎたくなるほどの心中というのは、まさにこのことだ。
「亜人種に顕魂術を伝えるまではまだ分かる。が、何故交易路だ辺境領内事情にまで首を突っ込んでいるんだ……そのついでで災害級を倒すなど、流石にどうかしているぞ」
「交易路は対偉志ノ大陸外交裏の責任者としての務めの範囲内だからまだいいだろ。領内の魔物事情はフェンリルその他の魔石とか素材が欲しくなったからそのついでさ」
「……ついでのようにやりたい放題をする辺りは姉上譲りか。しかも偽名かつ別の立場で狡猾に立ち回っている辺りが余計にタチが悪い」
「むしろ姉上が堂々とし過ぎなんだっての。折角革命の旗掲げたんだ、それっぽく動かねえと示しがつかねえだろ」
アルガルドも、その主張には首を縦に振ると共に弟の内申点を更に上げていた。
行動の派手さと共に兼ね備えられているのが、微に入り細を穿つと言わんばかりの緻密さと慎重さ。
理想をただの理想のまま突貫するのでなく、自分なりの現実に落とし込みながらも本来の現実を侵食していく。
本来なら相反するはずの真逆の要素だが、どちらかを排除するどころか双方を取り込み混沌としてきっちり飼い馴らす。
そんな愚弟の姿勢を見て、アルガルドは新たな答えを見出していた。
「……どうやら、俺は色々と急ぎ過ぎていたようだ。マッド、お前には改めて感謝しなければならないようだ」
「何だよ急にしおらしくなりやがって。急ぎ過ぎていたって、王位に立ったら究極の独裁でも敷こうとしてたのか?」
「端的に言うとそうなるな。ユフィリアを疎ましく思っていたと言ったが……実際、あの時は既に折を見て婚約を破棄してやろうと考えていた段階だった」
「それで、入れ替わるようにレイニ嬢を次期王妃として……その何者をも魅了する能力を利用しようって腹積もりだったってか?お望み通りの王になってやったぞって見事な皮肉だな」
アルガルドの無言の首肯は、マドラーシュの即席推理が正しいことを助長していた。
一見大雑把すぎる計画だが、カルシオンとルドミラの報告越しでその力を理解しているマドラーシュに絵空事と笑うつもりは微塵も無い。
実際、それを出来得る能力を持っている可能性がレイニにはあるのだ。
そうでなければ、これだけの人物を周りに囲って違和感を覚えさせるようなことは有り得ない。
「それで魔法こそが至上とする連中を消し去って、最終的には俺も消える腹積もりだった……お前からすれば、さぞ滑稽な話だろうがな」
「その後を姉上に押し付ける気満々だったってか?ったく、それはいくら何でも捻くれ過ぎだろ……って言っても、あんだけ派手に突き放されちゃあそうなるのも無理もねえな」
「いや、お前の指摘通り周囲の言うことに耳を貸し過ぎた結果だ。姉上の行動には確かに一度は絶望したさ。だが、所詮それは俺の勝手でしかない。これからは戒めとして胸に刻みつけ、同じ過ちを繰り返さないようにするまでのことだ」
憎悪が混ざった対抗心ではあるが、対象を認めていなければそんな心情は出てこないわけで。
むしろ、魔学という未知の概念の元突っ走るその姿に憧れを抱いていたからこそ反転も凄まじかったとすら言える。
そしてその反転のきっかけこそが、長女と長男を決定的に袖を分かたせた決定的出来事でもあった。
詳細はこの場では省くが、マドラーシュからしてもあの出来事……いや、その後の周りの言動については思うところしかなかった。
本来なら、アルガルドが自戒することでもないとすら思っているが……そこはあえて口にはしなかった。
新たなスタートを切ろうとする双子の兄に対して無粋な言葉を投げかけるような、空気の読めない人間ではない。
「とりあえず、今はこの彫魂石と共に再始動だ。──東の賢者様、もとい『無慈悲な主役』殿に少しばかり同行を頼むとしようか」
「賢者呼びは止めろっての、こっちについては滅茶苦茶恥ずかしいんだからな?……あ、待てアル兄さん、ここはお忍びモードにしねえと……」
第一王子の再始動は、自らの戒めを認知してそれを糧にするところから始まる。
それを促した弟は、また一つ不条理を壊したことでひとまずは満足な表情をしていた。
現時点での討伐目標である世界の欺瞞は未だその全貌が明らかになっていないが、今は脇に追いやることとする。
雨降って地固まるで取り戻したどこか捻くれた絆は、それほどまでに大きい物なのだから。
っていう風に締められると思ったんだが、どうやらまだ続くらしい。
アル兄さんの顕魂術初実戦に付き合って別れて、その日の内に唐突にそれは始まった。
兄弟仲が無事に修復され、更に個人的にずっと気にかかっていたアル兄さんの靄もある程度取り払えて満足して忘れてたんだよ。
……そもそも、この行動のきっかけが誰だったのかってことを。
「マッド様、今度は一体何をしでかしたのでしょうか」
向かい合う形で俺に尋問行為をしているのは、いつもに増して鉄面皮全開のユフィリア様である。
セラの方に目配せするも、一枚嚙んでいるとかそういう風でもなさそうだ。
ここは下手に取り繕わねえで、ある程度の事実は伝えておいた方が身のためだな。
「約束通り学院潜入とかはしてねえからな?あくまで使ったのは秘密兵器までで、俺は情報精査くらいまでに留めたが……」
「でしたら、何故急にアルガルド様が彼女との接触機会を減らしているのでしょうか。以前の様子からすると、アルガルド様御自身だけで行動を矯正するとはとても思えません。、そうなると第三者が深入りする形で介入した、という形でしか成り立たないと思うのですが……?」
あー、なるほどなるほどそういうことか。
ユフィリアから飛んできた鋭利な返しに、俺もセラもようやくその様子に納得が行った。
そんな唐突なパターン変化をやられたら、誰でもこれくらいは困惑するだろうよ。
っていうか、肝心のユフィリアに話してねえのかよあのバカ兄貴め……。
これまでの黒歴史を振り返って、罪悪感やら羞恥心やらがぶり返してあえて距離を取ってるとでも?
まさかこんなところまでフォローしなきゃならねえとは……ったく、貸し一つだぞ。
「あくまでレイニ嬢のことを調べるために学院に潜入なんて無茶はしないって約束だったはずだろ?そこで秘密兵器を使って安全に調べたんだが……どうにも進展がイマイチでな。そこで俺は自分の立ち位置……第二王子というポジションを利用させてもらった」
「アルガルド様に直談判をしたということですか?──そういえば、最近私に対するも陰口減った気がするのですが……何か心当たりは?」
「俺としても色々気がかりなこともあって、猶更都合が良かったからそうしたまでさ。陰口については……後でアル兄さんが色々動いたんじゃねえの?」
「え、ラインヒルト様に頼んで陰口を叩いた者を列挙して「あーはいはい事実無根だ、全く何を言い出してんだぶっ飛び侍女」」
余計なこと言わんでいいっての!
ああくそ、これ完全に感づかれたよなあ!?
──ダチが謂れのない悪口言われていい気なんてしねえだろうが。
ちょーっと添え口と言う名のお灸を据えただけだ。
それも次期王妃に対して変にあることないことほざいたら後で困るのは自分たちだってことを再認識させただけのこと。
ほら、至ってまともなことしてるからこの話は終わりでいいよな!
「……アルガルド様とはこれまで片手で数えるほどしか顔を合わせていないのに、よく話し合いに持ち込もうと思いましたね……?」
「時間が無かったからな。こういう時は即断即決、思いついたら電撃戦さ」
……ふう、スルーしてくれたことには感謝しておくか。
話を戻すと、アル兄さんの件は実質短期決戦を求められていたわけだからな。
少しでも後回しにしてたら、取り返しのつかねえことになってた可能性もあったわけで。
元々兄弟関係何てあってないようなもので、拗れて決裂したとしても特に失うものは殆ど無かったというのも大きいからな。
俺にとってはノーリスクハイリターン、躊躇する理由がどこにあるってんだ?
「そういえば、顔にどう見ても最近ついたであろう傷がありますね……話し合いとは仰ってましたが、まさか?」
……何で野郎の顔にある、なんてことない傷にわざわざ気が付くんだ?
ちょっとした兄弟喧嘩の思い出として、分かりにくいところで残しておいたはずなんだがな。
っていうか、完全にこの場では仇になっちまってねえかこれ。
ヤバイ、ユフィリアのジト目がこれまでで一番刺々しいものを感じる。
疑問形に聞こえるが、ほぼ確信している顔だぞこれ。
この状態のユフィリアに生半可な嘘を吐いたら……うん、これまでの経験上ロクなことにならねえな。
っつうか、下手に誤魔化したら後が怖いって直感による警報が凄まじい。
──しゃあない、おとなしく吐くか。
「あー……そりゃあ10年くらい会ってねえ双子の弟にいきなり色々言われて穏やかで済むわけないだろ?こちとら色々と吐き出させたかったから、ちょいと煽ってやった。そこから仲睦まじく取っ組み合いの兄弟喧嘩に持ち込んだんだが、何か問題あるか?」
「喧嘩という言葉が出てくる時点で問題です!──待ってください、今取っ組み合いって……真剣による殺し合いに発展したとかそんな話ではないですよね!?」
「え、むしろ模擬戦形式だと思ってたのか?」
ガチで喧嘩した方が手っ取り早いだろうに……。
貴族の間では久々に会った双子が殺し合い同然の喧嘩をする風習はないのか?
俺としては凄いしっくりきた展開だってのに。
グランナイツ全員からは、むしろよくやったって褒められたくらいだぞ。
「マッド様は相手を煽らないとお亡くなりになるような病でもお持ちなのですか?それともそうやって強引な手段に持っていかないと気が済まないのでしょうか。そもそも、どうやったらただの身辺調査から双子で殺し合いなんてそこまで物騒な展開になるのですか!?もはや破天荒を通り越した戦闘狂なのですか、貴方は!?」
やっべー、これ完全に火に油をやらかした。
挙句の果てにいつの間にか俺病気持ち認定かよ。
流石にそこまで言われるのは心外なんだが……。
別に高速屈伸したりとか、そういう煽りをかましたわけじゃねえんだぞ?
ただの売り言葉に買い言葉、色々吐き出したらむしろ楽しくなって本気でやるかーって流れなだけで。
戦闘狂ってのは否定しないが、ここまでイカれてるって連呼されると抵抗くらいはしたくなる。
「ったく随分と言いたい放題になってきたな……誰の物真似だよ」
「学院潜入どころか実の兄と殺し合いをするほど深入りして強引に解決するバカな人には、これでも軽い方ではないかと」
「俺もアル兄さんも結局死なないで済んでその上で和解が成り立ち、更にレイニ嬢への怪しい接触が無くなったんだから結果オーライだろうがよ……」
……だから、罪悪感が沸くからその眼を向けるのは止めてくれ。
俺のぼやきを聞き取って無言のジト目を返すんじゃありません、反応に困るわ。
ったく、今回ばかりはしょうがねえと割り切ってほしいものだ。
アル兄さんとの殺し合い紛いの喧嘩は、互いに認め合うために必要不可欠な……いわば儀式みたいなものだ。
そうしなければ、今の円満解決など夢のまた夢だったわけで。
血反吐を吐いてる姿を見せられて、ただ上から目線で説法なんて言語道断横断歩道ってな。
あんな見ていられねえ様子をぶち壊せるんなら、死の危険なんて必要経費でしかない。
今は最悪を回避できそうな形になったことを喜ぶべきだろうに……。
「……アルガルド様とレイニ嬢へのあらぬ疑いを回避する形で私の心配事を解消してくれたことについてはお礼申し上げます。ですが、もうそんな滅茶苦茶なやり方は止めてください。いくら友人の頼みでも、自分を蔑ろにして血を流してでも叶えるだなんて本末転倒です」
「んなこと言われてもな……今回は俺個人の懸念事項の解消も含めた便乗ってのもある。それに、友人であるお前が理不尽に曝されるのは俺の本意じゃねえし、それをただ傍観するくらいならと思ったから首を突っ込んだってだけだ。こんなん、ただの自業自得だろ?こんなろくでなしに対していちいちそんなこと気に掛ける必要はねえっての」
そうしたくてやった結果だから、ただの自己責任の範疇。
まあ、そのもしもを起こさない自信あっての行動ではあるがね。
全く、何だかんだでそういう律儀なところは抜けねえよな……。
そこが可愛いところって言われればそれまでなんだが、どうにも心配になっちまう。
「まあ、マッド様ならそう仰ると思っていました……が、今回は言われっぱなしでいるつもりはありません」
ん?何故にセラに目配せを──っておい!?
いきなり浮遊感が襲い掛かってきたんだが!
原因は言うまでもねえんだが、もはや理解が追いつかず一瞬思考がショートして見事に反応が遅れてしまった。
「マッド様、お叱りは後でいくらでも受けるので少しだけおとなしくして頂けないでしょうか」
「ちょ、目配せだけで動くとか通じてんのかお前ら!?……って、こらHA☆NA☆SE!」
何だ何だ、ぶっ飛び侍女まさかの反逆がてら俺を誘拐か!?
……いや、セラならもっとえげつないやり口で攫うからそれは違うか。
俺のことを荷物が如く抱えたと思ったら、これまた丁寧にユフィリアの方に運搬していく。
……で、何でか知らんが寝かされた。
「えーっと、ユフィリアさんや。一体どういう状況なのかご説明願いたいんだが」
仰向けに寝かされたということは、俺は上を向いているというわけで。
とっとと戻ればいいんだが、変に暴れるのはどうなのかという状況である。
現在、俺の視界の大半を埋めているのユフィリアの顔だ。
……これだけ言えば俺の置かれている状況は分かるよな?
「……マッド様はこうすれば喜ぶとセラから聞いたのですが……」
「おいセラ、お前まさか……ああやっぱり逃げてやがったあんにゃろう」
状況を混沌と化した上での逃走とか、岩撒いたり痺れさせたりの起点要因みたいなことしやがって。
……別に今の状況が嫌とかそういうわけじゃねえぞ?
手札の中に右腕とか左腕が紛れ込んでるって感じで意味不明なだけだ。
そもそも、純粋無垢なユフィリアに膝枕は流石に早すぎやしねえか?
俺は婚約者の弟かつ友人なだけのある意味馬の骨だぞ?
そんな人間に対して、何しでかしてくれてるんですかね……。
ったく、どいつもこいつも……やりたい放題じゃねえか。
「いつもに増して落ち着きが無いようですが、変に動かないでくださいね?無理やり抑えるなんて本意ではありませんから」
「この状況で落ち着けるわけねえだろうが……ああこら、頭に手を置くな子供扱いすんのやめろって!」
「普段から私のことを子供扱いしていることへの意趣返しと、私の不安を解消して頂いたことの礼を兼ねてますのでその要望は却下です」
意趣返しと礼ってだけで俺を甘やかすような行為に身を投じるんじゃねえよ全く。
ここまで滅茶苦茶っぷり読めるわけねえだろ……キュイでももう少し理路整然と動けるぞ。
お陰でさっきから搔き乱されっぱなしだ……全く、やりづらいことこの上ない。
ただ、俺の羞恥心が限界だからって理由で退いたりしたら果たしてどうなるか。
……それを考慮したら、脱出しようにも出来るわけがなかった。
「やはり相当お疲れのようですね。普段のマッド様ならば、上手いこと抜け出すところですのに」
「……ここで無理やり抜け出したら次は何されるか分かったもんじゃない。要するに、無駄な抵抗はしないってだけだ」
「はあ……お礼くらい素直に受け取ってください。その捻くれた態度を変えるつもりがないのでしたら、かくなる上は……」
……ヤバい、何でかここに来て遂にガス欠の予兆がきやがった。
考えてみれば、偉志ノ大陸への外遊からずーっと休むことなく動きっぱなしだったからな。
連中が関わってる可能性もあるからって、色々根回しもしてて文字通り休む間もなしだった。
くそ、まだやることあるのに寝落ちは勘弁願うぞ……。
……ああこら、だから頭撫でるんじゃ……ん?
「おいユフィリア、まさか闇属性の魔法を……」
「……止まり木の役目でしたら、こんな私でも出来ますから」
おい、本来なら顕魂術の副産物でこういうのは効かねえはずだよな。
何で今に限ってすんなりと受け入れちまってんだよ我が魂……。
そもそも、こんなことされること自体が生まれて初めてで……正直戸惑ってる。
そのまま腑抜けになっちまうんじゃないかって、無意識下で避けてきたからな。
それなのに……何でユフィリアの顔を見てると『それも悪くないか』って気になっちまう。
──ああくそ、むず痒さを感じると共に勝手に瞼が落ちてきやがる……。
意識が、勝手に沈んでいく……そこに一切の抵抗は挟まる余地もなかった。
「……こんな年相応の姿を見ることが出来るだけでも、友人というのは役得ですね。ゆっくりお休みください……マッド様」
……意識が落ちる前に聞こえてきたのは、そんな穏やかな声調の言葉だった。
ここぞとばかりに楽しそうにしやがって……後で、覚えてろよ……。
というわけで、1章『破天荒はやりたい放題』やっと終わりです。
まともに上げ始めて2カ月でようやく原作前が終わるって、ペース的にどうなんでしょうか。
ちなみに、転天もですがグランサガもメインストーリー前が終わったといった感じ。
まあ割と掘り下げ足りてないんですけどね、クリスティーナとかその辺りが……。
最後の膝枕ネタはねじ込みたかったからやっただけです。
原作でもやってんならこっちでもやらなきゃ駄目だろってことで、ストックから強引に挿入しました。
流石に偉志ノ大陸での日々から戻ってきて早々にアルガルドとレイニの調査と例の連中が関わって無いかの調査、更に双子喧嘩となったらそりゃあ疲労状態安定でしょう。
何とかグランナイツや兄の前では隠し通しましたが、最後の最後でユフィリアの前でボロが出る辺りマドラーシュらしさ全開です。
まあ、そこにちゃんと気付くユフィリアもなかなかです。
徐々に影響は受けている、すなわちそういうこと。
さて、いよいよ次からは2章……転天原作時間軸にほぼ追いつきます。
が、1章が無事に終わって区切りがいいので本編更新は1週間ほど空ける予定でいます。(あくまで予定)
代わりに前からどうしようかと思っていたキャラ紹介とか、後はちょっとした幕間も書ければいいかなと。
後者はふとしたタイミングでも上げるかもしれません。
割とグランサガプレイ中にネタが降りかかることも少なくないので……。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)