グランサガと転天を繋ぐ要素の1つですね。
イグノックスはこの場にいる誰よりも、マドラーシュに共感した可能性すらある。
彼もまた、『魔法至上主義などクソくらえ』とまで思っている一人だから。
マドラーシュに即座に同調するほどの嫌悪は、彼の過去に由来するものだった。
彼が王都に移り住む前に住んでいた村は、かつて魔物に襲撃されている。
その際に、その村を含む領地を治める貴族は救援として来てはいたのだが……。
到着した際には既に、住人の大半が餌食になってしまっていた。
魔物もかなり残って檻、殆ど焼け石に水と言う状況を見て……挙句、尻尾を撒いて逃げ出した。
その後に到着したデイジーとノヒルリアが、自分とクリスティーナだけでも救出したことが不幸中の幸いだった。
──そして逃げ延びながら彼は思った。
『自分が強くならなければならない。そうでないと、己も守りたいものも守れない』
『魔法が使えるから自分たちは選ばれたと豪語し、その裏では自分可愛さで平然と逃げ出す連中の庇護など、むしろこちらから願い下げだ』
そこから王都に逃げ延び、遠回りは多少しながらもグランナイツに選出された。
しかし、その後も魔法至上主義が立ちはだかった。
決め手はマドラーシュも話した、黒龍討伐戦のグランナイツの関与記録のもみ消しだ。
黒龍討伐という栄誉を無かったことにされた怒りではない。
そこも腹は立つが黒龍の侵攻を食い止められた結果が第一だし、そもそもグランナイツに栄誉を求めるような者は誰一人いなかったのだから。
イグノックスが最も怒りを抱いたのは、自身も敬愛するノヒルリアの死をも厭わない献身の防衛すらももみ消すという最大級の侮辱に当たる行為に対してだ。
この一件で魔法至上主義を掲げる貴族、及び魔法省への信用は欠片も無くなったと言ってもいい。
一種の諦観と共に、今残っている守りたいものの為に剣を振るう。
もはや国すらもどうでもいいと思い始めていた。
そう思っていたところに、その守りたい者との一人が世界に喧嘩を売るとんでもないことを言い出した。
常に自分の後ろを死に物狂いで食らいついてきた、ある意味で愛らしくもある弟分からの革命宣言。
それを聞いた瞬間、6年前のあの日から燻らせていた炎が息を吹き返した。
どこまでも、そしていつまでも滾るあの感覚を思い出したのだ。
演説の終わりと共に、弟分の隣に立つのは彼にとっては必然だった。
「……いいのかよ、そんな簡単に結論出しちゃって。イグノックス兄さんらしいっちゃあらしいが、決断早すぎだろ……」
「お前の考えと内に秘めるものは、俺を突き動かすに必要十分だったということだ。特に不都合もないし、躊躇する理由もまるでない」
「それは俺も同じくなんだが……まさかの2番手になってしまうとはね」
イグノックスが真顔で律儀に説明するのと続き、マドラーシュの隣に立ったのは同じく兄貴分のカルシオンだった。
いつものようにポーカーフェイス寄りな笑みを浮かべているが、2番手ということは彼もまた賛同者ということ。
「理不尽に怒り、そして抵抗する。シンプルでいいじゃないか。正直俺も魔法至上主義には嫌気が差してたし、兄貴分としてしっかりと手伝ってやるよ」
「……ありがとうな、カルシオンも。上から目線かましてることはいつも通り目を瞑ることにしてやる」
「ははっそんなの今更だろ?さて、他は随分と復活が遅いが何かないのか?」
しれっと仕切り出すカルシオンは他の7人に発言を促した。
とはいえ、そんな簡単に切り出せるような状況ではないのも確かだ。
即賛同したイグノックスとカルシオンの思い切りがあまりに良すぎるだけである。
8歳の子供の演説としては、突拍子の無さよりも内に秘めるその重さが特に際立っていた。
教育係として最初に会った時に『遠慮なくビシバシ鍛えてくれ』とまだ3歳の彼に言われた時は微笑ましさを覚えたくらいだ。
デイジーがその特異な才に気付いてからは、教育係というには本気が過ぎるくらいの熱意で向き合ったが彼は見事それに応えていた。
カルシオンやイグノックスに実戦訓練で連れ出されて何度死にかけても、むしろ死にかける経験を楽しんでいたほどだ。
これには流石にどうかと思い、騎士団が担う護衛や防衛任務に混ぜて別方向の経験も積ませたがそれすらも文句の一つも言わなかった。
挙句の果てには偽名と変装で冒険者稼業を行い、外で生き抜く術を色々な方向から学ぶ徹底ぶりである。
上記のように、マドラーシュはグランナイツ全員が課したことに対して想定を遥かに上回る意欲と行動力を見せてきた。
しかし、その源泉は彼らが思っていた、明るいものだと思っていたがむしろ真逆で。
『魔法至上主義』という欺瞞に5年もの間抱き続けた怒りと破壊衝動。
そして目的の為にも『年など知ったことか、早く力を身につけなければ』という狂気。
完全に負の要素のオンパレードである。
破天荒と言えば聞こえはいいかもしれないが、一歩間違えれば破滅しかねないほどの危うさを秘めている。
ただ、マドラーシュ自身がそのマイナス面に完全に飲まれているのかと言われればそうでもない。
彼の野望を否定できない要因でもある。
自分たちに敬愛と親愛を向けてくれていることは間違いないのだから。
かつて受けた仕打ちに対して我が事のように怒りを抱いてくれることも、先人として立ててくれることも嬉しくないわけがない。
全く語られていないはずのノヒルリアのことまで調べ上げた執念も、本来なら全力で褒めたいくらいだ。
ただ、その敬愛と親愛があまりに強すぎるとも言える。
それこそが、彼の内に秘める破壊衝動や狂気を加速させている側面もあった。
そのせいで全てがごちゃ混ぜな状態となり、国どころか世界を見据えたとんでもない野望を抱くという結果を招いているのだ。
そこに一切悪意はない……それが故に複雑な心境になってしまう。
この今まで感じたことのない重い空気を破るのは、この場を代表できる者──グランロードと称される彼しかいなかった。
「──俺も手放しで賛同したいところではある。ノヒルリアの犠牲を無駄と切って捨てた連中には、今でも腸が煮えくり返る思いだ。当時のお前はまだ2歳で、本来ならこのようなことは知らなくてもいいはずが……俺たちに降りかかった理不尽を知った。その上でその時の怒りや無念を受け止め、更にこれまでの行動に報いるとまで言ってくれたんだ。俺たちも家臣として──いや、家族としてお前の覚悟に添いたいと思っている。俺の理想とする『あるべき世界』とも通ずるところも多いからな。だが、どうしても懸念が出てきてしまう」
レオンは消極的な賛同を示しているし、他の面々も同調するように頷いていた。
もはや家族同然と思っているのは、グランナイツの面々から見ても同じことだ。
間違った道に行かない限りは手助けしたい。共に歩んで行きたい。
しかし、『魔法至上主義』という現代における概念そのものに喧嘩を売るとなると話は変わる。
これまでに相手をしたどのような相手よりも、強大で狡猾、そして未知の部分もどれだけあるか分からない。
そんな相手に対して、自分たちにとっての可愛い弟・息子を戦いに赴くようなことはさせたくないだろう。
「勝算はあるかってことだろ?そのためのジョーカーならここにあるぜ」
「マッド様、一通りお持ちいたしましたよ」
まさにナイスタイミングという頃合いで入ってきたセラは、何やら色々なものを持っていたり携帯していたりしていた。
短剣だったり、普通のロングソードだったり、杖だったりだが、全て一目で分かるほどの普通の武器。
「見た目普通の量産品だが、まさか裏で鍛冶を学んでいたというわけでは……いや、違うな」
「んなわけないでしょカルリッツ父さん。武器自体は至って普通、本日の主役はこっちさ」
武器をとりあえず近くに置いて、登壇しているマッドの傍に着いたセラは手に持つ木箱を開いた。
グランナイツ全員が見えるように開かれた木箱の中身は、いくつかの真珠を彷彿させる白い珠だ。
「わあ、綺麗ー!これマッドが作ったの?」
「まさかとは思うのですが……カギとなる素材を見つけたのですか?」
クリスティーナの反応は年頃の女性としては普通のものである。
それに対し、事情を少し知るエリオは驚愕の表情を浮かべている。
マドラーシュはまだそれには答えず、ただどこか悪戯っぽい笑みを浮かべるだけだった。
「俺とセラ以外の人数分は揃えている。まずは各自その珠を持って、それに意識を集中させてくれ」
各々が珠を手に取るとともに、それぞれ異なる様子で意識を集中させる。
そしてマドラーシュは一人一人の手に軽く触れていく。
暫くすると、手中の珠の色が別のものに変化していた。
見事なまでに各々まるで違う色である。
「おお!?一体どんな仕掛けじゃこれは!」
「何かかつての二つ名を表すかのごとくの紫色だな」
「俺はそこまで変わって……いや、光沢が増えているのか?光を表していると言ったところか」
珠の色が示すかのように反応は十人十色である。
しかし、この色彩変化などまだ前座もいいところ。
お楽しみはこれからだ──そう言わんばかりにマドラーシュとセラはまだまだ悪い笑みを浮かべている。
「ほい皆の衆、誰でも……いや、ここはレオン先生にしよう。それ持ちながら訓練用武器を持ってくれ」
「俺でいいのか?そういうことなら先陣を切らせてもらうが」
ちなみにマドラーシュの中でレオンを選んだ理由はちゃんとある。
珠の色からとあることが分かりやすく、またそれがデモに相応しいから。
そして決め手はその際の安全性だ。
「『刀身全体に光を帯びさせる』、これを頭の中に思い描いてみてくれ」
マドラーシュの言われるままにレオンは脳内でその言葉を反芻させ、イメージに繋げる。
自身の中から少しだけ何かが放出される感覚と共にそれは起こった。
本来なら有り得ない光景に、普段表情をあまり動かさない彼も動揺を見せる。
「剣が光っているだと!?レオン、いつの間に魔法を使えるようになっていたんだ!?マッド、お前は一体何をやったんだ!?」
「待った待ったカルリッツ父さん、落ち着いてくれ。レオン先生にも、無論みんなにもばれずに人体実験なんて出来るわけないっての」
「そんなこと本当にしてたら、罰として1年おやつ抜きにするところだったわ。貴方の奇行は本当に読めなくて困るのよ」
じゃあ一体先ほどの魔法のような現象は何なのか。
答えを急かすような視線は当然マドラーシュに集中している。
当の本人は、どこまでも期待通りの反応でとにかく楽しそうなのがまた不気味だ。
彼は一息入れた後に、その確実な一歩を発表する。
「クリスティーナ姉さんとエリオ姉さんは気づいていると思うが、この現象は魔法とは違う。魔法は精霊に魔力とイメージを注ぎ込んで変化させたものだが、こっちはその辺にいる精霊を一切用いない。代わりに用いるのは己が分身……自分の魂と魔力をベースに作った『疑似精霊』だ。そしてこの珠──『彫魂石』に疑似精霊を収める。後はこの珠越しで疑似精霊に魔力とイメージを与えて、結果あたかも魔法のように形作られるってわけさ。これこそが精霊に頼ることなく、魔力さえあれば使える魔法。俺はこれに『顕魂術』と名付けた」
世界の欺瞞に向ける矢の1本とするため、俺が編み出した『顕魂術』。
度が過ぎた精霊依存に基づく歪んだ信仰への失望と怒りを一種の執念に変え、最初にやったことは魔法そのものの解剖だった。
精霊への祈り?そもそもその辺の精霊って意思なんてあるのか?
結果、そんなものはなくただ魔力を与えて精霊そのものを変化させてるだけだった模様。
意思も特になく、空気とかみたいにその辺を漂うだけの存在のようだ。
無論これが上位超越種なら話は変わってくるけどな。
レオン先生から話だけは聞いたことがある精霊王とか、偉志ノ大陸に点在する妖魔王とかな。
実はこの認知、学者の中では少しばかり浸透してるらしいな。
エリオ姉さんやそのお弟子さんがいい例だし。
次に、何故貴族や王族だけが精霊経由の魔法を行使出来るのか?
ここの部分は2択ルートがあったので、ひとまずどちらも検証しておいた。
貴族や王族しか魔力を持たないのか、それとも魔力は誰もが持っているがその質の問題なのか。
結果、魔力は誰もが持っているが精霊に適合できるのが貴族・王族のみだった説濃厚、要するに後者だ。
魔力が無いなら、精霊石で僅かでも魔法のような効力を得られるわけがない。
まあ、割と簡単に出た結論だった。
要するに、俺と姉上は魔力は持っているがその辺の精霊に好かれない性質だってことさ。
別に気にすることでもなかったよ。
それならグランナイツの誰かの長所がもっと欲しいくらいだし。
っていうか逆に『だが俺はレアな魔力持ちだぜ?』って自慢できねえもんかね。
……まあバカくさいからしないけどな。
精霊石と言えば、姉上が壁に埋まったとかって噂があったが……。
あれ空飛びたいからって風の精霊石使いまくって制御しきれなかったせいじゃね?
まあ、今でもピンピンしてるからいいけど普通少しずつ調整するもんじゃねえのか?
……って話が盛大にずれてるな。
ここまでの推察と実証はそこまで時間はかかっていない。
ほぼ机上で済む話だったからな。
エリオ姉さんが元々同じ疑問を持っていたこともあって、更にお弟子さんと一緒に議論を進められたのも結構大きかった。
さて、魔法そのものの神秘性がどんどん剝がれていって俺は俄然やる気を増していった。
自分の魔法使用不可の原因は判明した。
次は王族・貴族以外にも恩恵を与える方法だが……。
即座に思いついたアプローチは至って単純だ。
『その辺の精霊に合わない魔力しかないなら、いっそ魔法行使の元である精霊の方を解決してしまえばよくね?』
要は精霊の代わりになる魔法行使の基を作ればいい。
ただ、適当に代用が利くものじゃねえってことは流石にわかっている。
そこで、あえて魔力の方に目を向けた。
そもそも魔力って何なのか、そもそも何であるのか?
これまた誰も考えすらしなかったらしいこの疑問をエリオ姉さんと議論した。
後からお弟子さんも混ざってあれこれ話し合ってると、ふと思い出したことがあった。
『魔法が上手く使えない貴族は身体が弱かったり、素行が荒っぽかったり不安定なケースが散見される』
この件はエリオ姉さん経由でとある令嬢から詳細を聞いた。
魔法を使うと情緒不安定になるって当人の話だ、説得力の塊だろ?
発動出来る魔法そのものの練度はかなりのもので、猶更奇妙だったからな。
まあ、やたら物騒かつ暴れん坊な状態だったから抑えるまでちょい紆余曲折あったが。
言うまでもないがその令嬢は魔法を呪いと称して嫌っている。
その魔法に対するスタンスの方向性がどこか似通ったからか、何故か気に入られて友人になってしまっている。
……それはさておき、一般的凡例と真逆の例がどちらも揃ったことで俺たち3人は大体同じ方向性の仮定を思いついた。
細かいところをあーでもないこーでもないと色々と議論した結論がこんな感じだ。
『魔力とは魂という器から溢れだしたもの。体内に溜め込みすぎたり、逆に魂の維持が危うくなるほど魔力を使うと心身のバランスが崩れる』
まあこの仮説も精霊石しか使えない平民はどうなるん?とかのツッコミどころこそあるがな。
ただ、そこまで外れてはいない感じもあったのでひとまずはそう仮定義した。
そして、『魂が魔力の基ならば、その辺をベースに加工してそれを精霊の代用品としてしまえばいいのではないか』と唐突に閃いた。
自分の魔力及び魂同士で反発するということは流石に考えづらいだろうからな。
これをそのまんま疑似精霊と名付けたんだが、最大の問題がまさにここだった。
俺にとってはどうでもいいが、精霊に近しいものを作り上げるなんて精霊冒涜もいいところだろう。
言うまでも無いが精霊の代わりを作るなんて技術は王国内には存在などしない。
王国内は当然としても、国外でも全然だった。
カルシオンやイグノックス兄さん同伴の実戦の傍ら、素材方向からもいろいろ探った。
武器素材として優秀だが採掘自体がなかなか進まないデスメタルとか、トレント系狩ってたら出てきた神木材とか、割と貴重だったり魔力伝導率が高いとされる素材にも注目した。
しかし、どれもダメだったな。
全く、お陰で使い道が現状あまりない貴重な素材が倉庫に貯まりまくってしょうがない。
更に冒険者ギルドにも偽名+変装で登録して、ルドミラ姉さん同伴で活動範囲を広げても結果は同じく。
やべえ、詰んだか?アプローチ変える必要あるか?と焦りが出始めた丁度その時に、母上からこれまた無茶振りな外交手伝いを依頼された。
不干渉状態にある国、というか地域の『偉志ノ大陸』に赴いて、プライベートレベルでもいいからあわよくば友好を結んでほしいと。
そこは海を隔てての距離にある場所だが、噂によると神と人間と他にも色々な温厚だったりそうじゃない魔物の共存を志している大陸。
不干渉な理由は距離もあるのだが、それ以上に『魔法至上主義』と相容れず輪から外れたということが原因だとか。
この話を俺は前のめり気味に受けさせてもらった。
無茶振りは二人の兄貴分で慣れていたし、文化レベルで異なるからこそヒントが得られるかもしれないと思ったからだ。
外交に比較的慣れているレオン先生とルドミラ姉さんと共に海を渡り大陸へ初訪問した。
海自体はあちらの女神様がわざわざ迎えに来てくれて、しかもいつの間にか渡り終えていた。
俗に言う転移ってやつだが……この時点で神秘のレベルの違いを感じ取ってしまったね。
大陸では4人の新たな兄・姉とも言える友人を得て、更に有力家紋……特に『陽ノ花家』当主に気に入られた。
色々な素材にも触れ、女神様に弟子入りとそれはもう充実した日々だった。
新たな友人たちは血筋こそ当主の子息やその護衛だったりと高貴な顔ぶれだが、そんなの気にならないくらい一緒にいて楽しかった。
しかもその護衛役が『居合』という、大陸特有の武芸で若いながらもそれなりに名を知られる実力者と知って一緒に鍛錬とかもしたし。
修行仲間が出来たってあちらも嬉しそうで何よりだったぜ。
居合ってスマート&スタイリッシュでかっこいいし、戦闘技術交流会は一晩中出来る勢いですっげえ楽しかったなあ。
他にも『陽ノ花家』の長女に『陰の鬼志』という隠密部隊の体験入隊に誘われて切磋琢磨したりとか。
他国の王子を、体験とはいえ入れていいのかと思ったが……。
『早熟大使君の生い立ちと性格を考えたら、私たちが危惧するようなことはしなさそうだし大丈夫!』とのことで。
まあ信用されてるからにはそれに応えるけどね。
こっちも隠密訓練とか、後は『術法』ってものにも触れた。
外交面の成果もまあまあと言うか、あっち側から友好の証で将来的な交易という流れまであっさり決まってしまった。
しかも、連絡窓口が俺になるという無茶苦茶っぷりだ。
『陽ノ花家』現当主のおっちゃんが大陸中にあろうことか俺みたいなただのお子様ランチに対して随分と言ってくれてな……。
『この童こそが、世界に新たな風を吹かせるであろうパレッティア王国の第二王子だ!』
ここまで言われたら引くにも引けないだろ……。
まあ悪い気はしないけどさ。
ただ、俺は表向きあくまで母上のお手伝いさんだからね?
その辺の細かいことは母上が、ラインヒルト先生やレオン先生が相談に乗ってくれたりもするけどさ。
ああ、だからといって丸投げはしてないぞ?
適宜数字との睨めっこもしてるし、俺が個人で手配してる素材も1つだけあるからね。
で、肝心の詰みかけていた研究にも光明を見出せた。
偉志の大陸には、過去の偉人などの魂を『彫魂』することで力を貸してもらう文明が存在すると聞いた。
『偉霊器』という、本当に緊急時でしか振るわれないが通常の武器どころか、魔法をも平然と凌駕しかねないレベルの代物だとか。
過去の偉人の魂、この部分が凄い気になったので更に詳細を尋ねた。
魂は魔力の基という仮説があったからこそ気になったんだろうな。
流石に教えてくれないかと思っていたが、意外とあっさり、そして簡潔に教えてくれたよ。
『彫魂師が偉霊を傀魂の結晶に刻むのじゃ。そのため、彼らは普段からこの大陸の歴史や人物を記録しておる』
この時俺に電流走る……そんな感覚だったね。
まさかのパズルの最後のピースがこんなところにあるとは思ってもみなかった。
俺は即、その女神様に術法理論と現在詰まっている部分について洗いざらい話してしまう。
その上でその方面で自分を鍛えて欲しいと、自分の魂の模写くらいは出来るくらいにしてほしいと頼み込んだ。
当然のように土下座で。
だってとんでもないこと頼んでる身だぞ?当たり前だろうが。
半ば勢いの行動ではあったが、女神様は答えはまさかの快諾だった。
その際『きっちり鍛えてやらんとな』と言ってたが……まああちらにも何か事情があるってことで流しておいた。
ちなみに友人の一人が彫魂師として女神さまに鍛えられているということで、姉弟子も出来た。
まあすーぐ抜け出そうとしたり、ふわふわと風のようにどこかに行ったりと困った人だけどな。
その護衛と共にしょっちゅう頭を痛めてたよ。
女神様……師匠は術法理論について『人の空想を自由に具現化する術か。魔法よりよほど自由で痛快じゃな!儂は好ましく思うぞ』って肯定してくれた。
まあこの時点でその奥にある俺の破壊衝動とか憤怒も見抜いていたと思う。
力に溺れないために、彫魂技術の扱いへの戒めをかなり口を酸っぱく教えられたからな。
ホント俺は先人に恵まれすぎてるな。返せるのかねこれだけの恩を。
お陰で魔力操作技術がかなり高まり、魂や精神など内面の感覚的理解も進んだ。
偉志の大陸の初回訪問を終え、手土産で貰った特産素材の数々と共に王都へ帰還した。
これがほんの3カ月前の出来事だったりする。
そこからは母上への報告とか、戻ってもなお続く鍛錬やら色々と並行して最後の詰めに入った。
偉志ノ大陸で貰った素材を加工して、彫魂石も完成させた。
後は念入りにテストの連続……そして今に至るというわけだ。
時間的にはそうでもないように見えるが、これはハッキリ言って運が良かったとしか言えねえ。
巡り合わせにとことん助けられ、目に見えるチャンスは全て生かし切ったのだ。
俺としては5年間の集大成としては悪くない発明だと思うが……さて皆の反応はどうだろうか。
「お?何か影色の俺が出てきたぞ?これが何かで読んだ影分身ってやつか。武器はあくまで指標性を持たせる補助具で必須じゃないんだな」
「これは自分の身体強化も出来るのか……ん?炎を出すのと並行すると何か時間がかかるな。これは短縮できるのか?」
「わあ、本当に精霊を意識しなくても発動できる~!凄いじゃないマッド!お姉ちゃんとして鼻がどこまでも高くなっちゃうな~!」
「これなら精霊石を使わんでも弾が撃てるんじゃないかい?要するに、銃の調整が楽になるということか!これはエルフにとっても画期的な発明じゃな!」
ってめっちゃみんな試してるしもう使いこなしだしてる!はええよ!
クリスティーナ姉さん、嬉しいけど水出し過ぎ!イグノックス兄さん、それ外でやろう危ないから!
後カルシオンすげえな!しれっと媒体無しで使ってやがるし天才か!
ルドミラ姉さん、喜んでもらえて何よりだ
今まで魔法が使えなかったとされた者も、貴族や王族でもないが何故か魔法が使えた者も、等しく楽しそうな光景だ。
ちなみに、カルシオンの影分身(仮)は流石にすぐに消えたし、イグノックスの戦闘方面の試行錯誤はデイジーが即座に止めていた。
「先ほどの理論を聞く限りの推測ですが、この術法と言う新たな概念は我々だけでなく他の民も使用は出来るのですね?」
未だに騒がしさが収まらない中、まだ冷静を保てている方のラインヒルトが尋ねる。
「セラも出来てたし、魂さえあれば出来そうだ。最大の狙いはそこだったからな。他にもテスター候補はいるから色々試してもらうけど」
『魔法至上主義』の根幹は魔法が使える者が限定されることが由来の優位性。
その根幹を揺るがす最も手っ取り早い方法が技術の普遍化である。
貴族でさえも魔法が上手く使えないというだけで無能の烙印が押されてしまうが、そのような者に対する十分救いの手ともなり得るだろう。
魔法が使えない平民や辺境の民は言うに及ばずである。
「誰もが使えるなら、危険性も確かにあるがそれ以上に可能性も広がるな。頭の中で浮かべることが鍵なら、誰からどのような術法が出てきてもおかしくはない」
「まあ、自由には責任が付きまとうって言うからな。そこはもっと研究を進めて安全性と拡張性を両立できるようにするよ」
マドラーシュのその答えを聞いて、ラインヒルトはどこか納得したような表情となった。
彼はこの顔ぶれの中でも特にマドラーシュの心境を思い、内心冷や汗をかいていた。
いきなり『魔法至上主義』の破壊を怒りと共に宣言したのだ。
確かに家族としては乗りたかったが、危惧もその分大きかった。
しかし蓋を開けてみれば……想定以上に理性的な手法を取っていることと、現時点の懸念事項も熟考されていると知ってようやく安堵出来た。
「そこまで考えているなら、私も反対する理由はありませんね。その心躍る革命、是非乗らせて頂きたく存じます」
「俺も乗らせてもらうぞ。柄でもないが、少しばかり楽しいと思えるからな」
慎重派の筆頭だったラインヒルトとレオンが、微笑と共に賛同した。
普段は表情を崩さなかったり、生真面目な二人が笑みを浮かべるということは、内心の躍動が相当なものである何よりの証左だ。
「だが……あまり無理はするなよ。先ほどの演説でも思ったが、お前の危なっかしさはかなりのものだからな」
「いやいや流石に慎重にやるって。ちゃんとみんなのことも頼るからそこは心配しないで欲しい」
「お前の場合、心配事はそこではないんだがな……まあいい」
彼の心配は二重にある。
マドラーシュの危うさは分かりやすいものと極めて分かりにくいものがあり、後者は本人ですら気付いているのかが怪しい。
しかし、そちらを指摘するのは完全に水を差す形になりかねない。
更にはある意味ブーメランになるから言うに言えなかった。
「頼ってくれるなら私も勿論手伝うよ!あ、でも危ないことしようとしたら止めるからそこはよろしくね?」
「全く、アニスちゃんの魔学よりある意味凄いの作っちゃって。これはラスにも教えてあげないと後で拗ねちゃうわね」
「研究を手伝った身としても、姉としても鼻が高いです!これからもじゃんじゃん手伝いますよ!」
「騎士としても反対する理由がないぞ!騎士団に普及すればより多くのものを守れるようになるからな!無論、正しく使えるようにしなければならんが」
「ふっふっふ、これから忙しくなりそうだね!世界を変える、やってやろうじゃないか!」
他の面々も、弟分だったり息子分の幼き王子の隠れた偉業に鼻高々な雰囲気と共に賛同を示している。
その様子を見て、ますます水を差せるはずもなく。
(そこをどうにかするのが、俺の仕事……か)
表向き引退を余儀なくされ燻っていたグランナイツにとってマドラーシュ・リヴェ・パレッティアは同類とも言えるし、光とも言える存在だ。
魔法が使えないことが早々に分かってから代替品扱いで血筋通りの生き方はほぼ絶たれ、間もなく何者でもなくなった第二王子。
それでもその現実から腐ることも逃げることもせず、幼いながらも初志を貫こうと努める姿は9人の心に火を灯したのだ。
そんな彼の一大決心。
それが例え国を、世界を揺るがすほどのことでも止める理由はない。
懸念があるならば、先達である自分たちが先回りして摘まんでやればいい。
時には逆境における糧に出来るよう導くのも役目だろう。
レオンはその一抹の不安を何とか振り切ることが出来た。
「さーて、覚悟しておけよ魔法至上主義。人間舐めたら痛い目見るっていうのは物語の鉄板だからな?」
世界に疑念を向け、偉人を嘲る優生思想者に憤り、時代の闇に葬られた英雄たちの導きと今はまだ見ぬ新時代の人材に恵まれた破天荒王子はようやく立ち上がった。
というわけで、実はここまでで大まかな第1話部分
基本的に1話分を書くだけ書く→加筆修正ラッシュ→分割上げって流れです
この1話部分でばっさりと転天側のキャラが出てきていませんが……
そもそもこの1話部分で転天原作スタートから7年前なんですよね。
話の流れを考慮すると、無理やり出すくらいならこうした方がマシかなあと。
あの呪い大好き令嬢くらいは出せたかもしれませんが……まあ、色々描写が怪しくなるので没にしました。
グランサガ側の大きな相違点、それはデイジーの生存。
彼女が生きているお陰で、グランナイツ自体はギクシャクせずに済んではいます。
更にはシルフィーヌ王妃と友人同士という、しれっと二作品を繋ぐキャラとなり重要度が更に上がっているという。
まあ、その煽りでグランナイツ全体が魔法至上主義の被害者になってししまいましたが……。
後、彫魂石について。
素材はまだあやふやというか、結構誤算があったのでぼかしています。
最初は傀魂の結晶の欠片って設定にしてたんですが、流石に聖木扱いのそれをいちいち欠片頂くのはまずくないか?ってことで急遽変更しました。
これもまた、ストーリー展開中の厄介なところですね。