転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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2章スタートダッシュ、2話目でございます。
ストック?ジワジワ書いてるからまあ何とかなるでしょ。


24.時を経て集う者たち

 

マドラーシュの離宮の一室は主がいないにも関わらずそれなりに賑わっていた。

4人の騎士と一人の侍女、更に一人どこか不安そうな表情な少女とその周りを浮遊する妖精っぽい何かが今の部屋の中にいる全員。

特に騎士たちはすっかりと寛いでいるのだが、近い未来の上司から許可は得ているので何ら問題はない。

 

「どら焼きって本当に美味しーい!セラ、これって何が入ってるの?いっそ売りに出さない?ウチが色々手配しちゃうよ?」

 

マドラーシュの侍女、セラがお茶請けにと出した『どら焼き』を気に入った様子のケモ耳少女はお馴染みマドラーシュとラスの幼馴染のキュイ。

年はマドラーシュの1つ上のはずだが、その外見も相まって完全にこの面々の中では妹か娘のようなポジションになっている。

ちなみに、マドラーシュと似た感じの問題児でもありそのやらかし度合いは奇天烈王女にも匹敵ないし凌駕しかねないほどだとか。

更に言うなら金の流れにとことん敏感で、今回のように変なビジネスチャンスを作ることも厭わない側面もあったりする。

 

「偉志の大陸産の豆を煮詰めたものですよ。マッド様が7年前に初めて口にした時に気に入って、それ以来真っ先に独自で取引をしていたりしますね」

「豆を煮詰める……なるほど、そんな手法もあるのか。流石はマドラーシュ様、異文化への嗅覚は本当に鋭いな」

 

全く異なる食文化に興味津々な様子のクラマ族はウィン。

少数民族であることから迫害を受けたり、抵抗軍に所属したこともある苦労人である。

先ほどマドラーシュが話していたスカウトした元抵抗軍というのは彼のことだ。

スカウトの際に、クラマ族に自立の力を与えた賢者ケルビムがマドラーシュと知らされた。

その経緯もあり、マドラーシュに対しての尊敬と忠誠心はなかなか大きい。

 

「そんな偉志の大陸と国交を繋げたのが、当時8歳の第二王子様だって話だから世の中分からないものよねー……あら、この苦めのお茶と相性抜群じゃない」

「偉志ノ大陸産の緑茶は甘めの菓子を想定したものですからね。初めてその組み合わせに出会ったマッド様は、それはもう大層お気に召しておりまして……」

「そういうところも昔からだったのね……らしいと言えばらしいけど」

 

マドラーシュの隠れた功績について語る紫髪長身のハーフエルフはナマリエ。

ハーフエルフ、言うなれば多種族の血が混ざっているということで迫害に遭い、村を出た過去を持つ。

その際に重い病にかかった唯一の肉親である妹を連れることとなる。

当然妹を看病するためには資金が必要ということで、騎士団に入る前は傭兵稼業をしていた。

ある時ケルビムとして活動していたマドラーシュと共闘し、その境遇を知ったマドラーシュが妹の厚遇を約束してスカウトに取り付けている。

『傭兵時代より平均的稼ぎはやや減ったが、その分日常における充実感は段違いだからお釣りが来る』とのことだ。

 

「そんなとんでもねえ実績を誇示してもいいってのに、むしろて公表する気はねえからな。その上王族らしさが欠片も無い無欲っぷりと捻くれお節介っぷりと来たもんだ。そういう面倒なところは幼馴染である俺らのリーダーと似てやがる」

「むしろ、ラスのそういうところはきっとマドラーシュ様からも受け継いだのだろうな……長いこと追い続けてきているんだ、影響を受けるのも無理はない」

「お陰で俺たちが色々面倒を被る羽目になるんだがな」

 

ストレートな物言いが印象的な長い金髪のダークエルフはカルト。

強さを求める者が多いダークエルフの中でも、とある個人的事情でよりその欲求を強く持つ男だ。

ウィンとは旧知の中で、マドラーシュからのスカウトを受けたタイミングも完全に同じく。

最初はウィンと違い、集団に混じるつもりはないと断っていた。

しかし、己を大きく上回るマドラーシュの年不相応強さを目の当たりにして、関心を示してしまった。

そこから身の上話と、ウィンの軽い説得を受けて入団入りを決めたことまでが経緯となる。

普段から割と言いたい放題だが、この顔ぶれの中ではマドラーシュへの憧憬はかなり強かったりする。

それに伴い、ラス率いるこの一団への思い入れも強く何だかんだでついてきている。

口と行動が見事に一致していない捻くれっぷりはどこか破天荒と似ているような……というのがナマリエやキュイからのコメントだった。

キュイ以外の3人は水面下で7年活動しているマドラーシュがその最中で見つけ、色々あった上での縁を結んでいる。

無論、全員が『魔法至上主義』に何かかしらか思うところがあり、マドラーシュの革命の同志となっているところも立派な共通点。

ラスとキュイを含めてもなおバラバラな生い立ちと種族が集まっている辺り、グランナイツを彷彿とさせるところもある。

 

「セリアード、食べないの?これすっごく美味しいよ!」

「え、えっと……いきなりこの国の王子様が来るって話だから緊張してきちゃって……あ、でも私の分は取っておいてね、ロム」

 

そして最後に、ラス達に保護された件の記憶喪失の少女……呼ばれた名前はセリアード。

その近くでキュイと同じくどら焼きをちまちま口にしているのは現在正体不明の妖精または精霊っぽい何かのロム。

曖昧な説明ではあるが、この手の存在に最も詳しいであろうマドラーシュが来るまでは仕方のないことか。

 

「大丈夫ですよ、セリアード様。あのお方に会えばそんな緊張はすぐに吹き飛びますから」

「そうそう!ウチは6年の付き合いだけど、しょっちゅうこの国の王子だってこと忘れちゃうもん!」

「おいチビ、それは流石にどうなんだ……って言いたいところだが、確かに俺もたまに忘れるな」

 

セリアードの緊張を解そうという流れに思うが、始まるのは結局マドラーシュ弄りである。

ラスを含むこの顔ぶれの中に入ったとしても最年少であることもそうだが、やはりそういう気質にあるのだろうか。

どこぞの紫の刃や聖女辺りのそれに比べれば、全然優しいことが救いかもしれないが。

まあこの件に関しては、完全に身から出た錆なので擁護の仕様が無い……と誰もが口を揃えることだろう。

 

「容姿はそこそこイケてるし、王族の地位に胡坐をかかない辺りは高評価なんだけど……あの子供っぽい王子様らしからぬ振る舞いで大幅減点なのよね。弟として見るならいいかもだけど、それでも危なっかしいったらありゃしないわ」

「お前ら、流石に不敬が過ぎるぞ……マドラーシュ様がそういう方だからこそ、俺たちは今こうしてここにいるんだろうが」

「ウィン、それお前も暗に認めてるってことだから全くフォローになってねえぞ」

 

この中で唯一マドラーシュの呼び方が略称ではないウィンも間接的に肯定してしまうほどである。

とはいえ、言いたい放題の中には何だかんだの親愛の情が滲み出ている辺りが最大の本音であろう。

そしてこの絶妙なタイミングで、それはもう勢いよく扉は開かれた。

 

「王子らしくなくて悪いね!」

「流石はマッド様、見事なコントロールで蹴り入ってきましたね」

「いやそこは褒めるところじゃねえだろ、わざわざあんな飛び蹴りする必要どこにあるんだ!?」

 

当の本人様が早速王子らしくない言葉と共にご登場である。

しかもどこぞの満月スタイルのように空中から蹴りでのダイナミック入室というおまけつきで。

意味もなく盛大な蹴りで扉を開く辺りは、王族らしさなどとっくに裸足で逃げ出すほどだ。

その内戦闘中でこの足蹴をエネステから連打するのでは……そんな光景を浮かべる者も数名いたりとか。

 

「相変わらずナイスツッコミだなカルト!にしても、だ……人の離宮で寛いでおいて、更にそこの主の悪口とはいいご身分だなてめえらはよ」

「仕方ないでしょ、アンタの話題ってなったら大体そうなるのがお約束なんだから」

「むしろマッド的には褒め言葉でしょ?いっつも『俺は常識を超越して三歩先を行ってやる!』って叫んでるじゃん」

「お前らだってそれに同調してるだろうが天才にして天災に恋愛スイーツ脳スナイパーめ。将来的に俺の下につくんだったら、むしろ格言にしてもらいたいくらいさ」

 

そうして始まるのは、傍から見たら間違いなく王族と騎士の会話にはとても見えないやり取りだ。

皮肉に軽口の応酬なのだが、その手の立場特有の厭味ったらしいやり口は全く存在しない。

王宮の敷地内のはずが、この一角だけ少々アウトローのような空気すら醸し出すほどだ。

一瞬でそんな空気に様変わりさせた問題児の登場に、ノリに置いていかれ気味になりそうなペアも存在していて。

全く遠慮のないメンバーに苦笑しながらも、そんな彼女らに寄り添うのがリーダーの役目であった。

 

「あはははは……とりあえず連れてきたよ、セリアード。グランナイツ並に頼りになる俺の幼馴染、そしてこの国の第二王子だよ」

「初っ端から飛ばすね……こんなんじゃあ確かに王子様だって忘れ去られても無理はないかも」

「ロ、ロム……不敬罪になっちゃうからダメだよ」

 

後から来るラスにも先ほどの評価は聞こえてはいたようだが、全くフォローの入れようがないので苦笑しか出来ない。

幼馴染として10年以上付き合ってきていることもあり、その辺りを熟知しているが故の反応と言える。

そしてマドラーシュはこの中で唯一初見の少女を視界に入れて……そして数秒ほど固まった。

言うまでも無いが、見惚れたとかそういうわけではない。

……その容姿は、彼にとって思い起こされるところがあったからだ。

しかし、それは即座に思い出せるものではなく、必死に記憶の海から欠片を探そうと逡巡させて──

 

「あれ、どうしたのマッド。セリアードを見て固まっちゃって」

「っ!──悪い、偉志の大陸の知り合いとダブらせてた。ちょいと似てるが違ってたな」

 

キュイの声で我に返り、咄嗟にそれらしく誤魔化した。

いっそ彼女に追究するかとも思ったが、記憶喪失と事前に聞いていたのでその案は即座に却下する。

この時点で引っかかるのであれば、接している内に思い出すかもしれない。

ひとまずは保留として、いつも通りの風を装うこととした。

 

「ちょっとちょっとマッド、あんたはマゼンタ家のご令嬢にご執心じゃないの?二股なんて止めておきなさい、アンタの場合失敗しそうだから」

「ユフィリアとは友人だって何べん言えば分かるんだ、恋愛小説ネタならイグノックス兄さんとかレオン先生にやってろ」

「ただでさえ菓子があるのに糖分過多にする気かよお前は、胸焼けしそうだ」

 

ナマリエの言動は、まさにグランナイツのクリスティーナやカルシオンを彷彿とさせるところがある。

一見クールビューティーで頼れる姉御肌だが、やたら他人の恋愛事情に首を突っ込みたがる。

これは恋愛小説を愛読していることが起因となっており、容姿の割に男の影が無い原因の一角とすらされている。

先ほどの通りマドラーシュからは『恋愛スイーツ脳』と揶揄されるのは、当然周知のことだ。

 

「さて、盛大に話が逸れちまったが……とりあえず初めましてだな。一応この国の第二王子に当たるマドラーシュ・リヴェ・パレッティアだ。長くて呼びにくいだろうから、気軽に略称のマッドって呼んでくれ」

「は、はい。私はセリアードと申します。既にご存じとは思うのですが、それ以外に記憶が無くて……」

「そして私はロム!同じく記憶喪失なんだけど、いつの間にかセリアードの近くにいたの!」

 

記憶喪失であることも相まってか、まだおどおどしている様子のセリアード。

対するマドラーシュは、この国では見たことないタイプの妖精とも精霊ともとれる存在に目を丸くしていた。

が、既にこの手の存在と契約している敬愛する師の存在を思い出して即座に思考を回す。

 

「いつの間にか近くに、そして同じく記憶喪失……とりあえず、対外的には別の国での契約形態の精霊ってことにしちまうか」

「まあ、それが無難ですね。そもそも彼女の存在は露呈しないようにするべきですが、どこに目や耳があるか分かったものではありませんので」

「ああ、ちなみにこのドチビはそのブローチから出てきてたところを全員が目撃してる。」

 

カルトの発言と共にセリアードはブローチを見せるように手に取っていた。

マドラーシュはそれを確認すると、再度脳内で思考を回し始めた。

 

(おいおい、これはまさか……)

 

……ブローチから感じ取れる魔力は、彼にとってあまりに心当たりがありすぎた。

確証に至るにはこの手の情報に明るい姉貴分やその助手に頼る必要があるが……7割ほど確定といってもいい。

だがその姉貴分は確か遠出しているはずなので、ここは一旦仮の設定で場を繋げることとした。

 

「このブローチがロムという精霊との契約の媒体と仮定しちまえば、まあ大まかに誤魔化せるだろ。後は……うん、ラインヒルト先生に丸投げしておくかね」

「誤魔化すって身も蓋もないわね……身元不明だからしょうがないんだけど」

「そうだそうだ、細かいことは大人に任せる!それでこそマッドだね!」

 

果たしてキュイの賞賛がそのままの意味で取れるのかはさておき。

あっという間にセリアードがこの国に滞在する場合の懸念点への暫定解消法を考え付いたマドラーシュ。

このあれよあれよな展開に当の2名はむしろ困惑していた。

なお、一部は余計な仕事が増えるであろうラインヒルトに対して合掌している。

 

「セリアード、マッドは精霊を介さない新たな技術、顕魂術を編み出した凄い発明家でもあるんだ。だからこうして連れてきたんだよ」

「記憶喪失の相手に宣伝活動するのってどうなんだ我が幼馴染よ。もうちょいステマっぽくしてくれ」

「グランナイツの話をする時と同じくらいに目を輝かせてるものね。幼馴染冥利に尽きるんじゃない?」

 

ラスとしては幼馴染が如何に頼り甲斐があるかを説明しているだけで、一切の誇張表現はないつもりだ。

彼にとってのマドラーシュは、年下でこそあるが常に自分の先を行き、今ではグランナイツと肩を並べつつある新しい英雄でもある。

そんなリーダーを、他の顔ぶれは呆れたり温かい視線を向けていたりと反応は様々である。

 

「精霊に祈りを捧げることで発動するのが魔法、でしたよね……あれ?それってもしかして」

「そう、マッド様は世界の常識にそれはもう盛大な喧嘩を売っているのです。国どころか世界ですよ?壮大かつ豪胆、そして破天荒!流石はマッド様ですよね!」

「やめい残念侍女。単に精霊依存が気に入らなかったってだけで人を英雄の卵みたいに言うな、こっ恥ずかしいわ」

「喧嘩を売ってるってところを否定しないのもどうかと思うけどね」

 

セリアードの気付きはマドラーシュ崇拝度MAXのセラの琴線にいい意味で触れてしまっていた。

危うくマシンガン演説が始まるところだったが、どこからか取り出したハリセンにより鎮静化させる。

この嵐のような主従関係ももはや今更であり、1年程度の付き合いである3名ももはや慣れてしまっていた。

 

「ま、まあそういうわけだからマドラーシュ様は実際に頼りになるから安心してくれ。セリアードの身元保証人として、間違いなく最適解になるからな」

「で、でも……あんまりこの街でお世話になっていてばかりというのも……」

 

元々が控えめだからだろうか、セリアードは王都の滞在についてはまだ遠慮がちになっている。

記憶喪失だからと言って甘えるのは……という心境もあるのだろう。

しかし、この手の相手はマドラーシュもいい加減慣れてきている。

むしろ、これまでの相手に比べれば控え目というだけなので幾分もやりやすい。

 

「記憶が無いまま彷徨われるのは俺の寝覚めが悪いからな。さっきラスから聞いたんだが、変な奴に追われてたんだろ?ここは助けたラス達や俺のためだと思って保護されて欲しい。身の振り方は、ここに滞在しながらゆっくりと考えてくれ」

「ここまで言ってくれてるんだし、お世話になろうよセリアード」

 

実際マドラーシュとしても全く不都合はない。

それ以上に彼自身の感情と、水面下の実状という二つの意味でセリアードを庇護下に置きたい。

今回は前者をある程度表に出しており、結果としてマドラーシュにしては珍しい口ぶりとなって表れていた。

現に、ラスやキュイは彼の珍しい押しっぷりに少しだけ目を丸くしている。

 

「そう……ですね。暫くの間、お世話になります。マドラーシュ様……いえ、マッド様」

 

王国の精霊とは違った概念のものを連れる記憶喪失の少女、セリアード。

現時点では謎の多い、しかしマドラーシュにとって既視感のある少女は暫定的とは言え王国での保護が決まった。

そして、この出会いからこれまで静かだった歯車が遂に動き出すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セラにはラインヒルト先生とカルリッツ父さんにセリアードの保護や仮の身分などなどまとめて報告を頼んでいる。

グランナイツのみんなには絶対話は通した方がいいからな、今回ばかりは。

後でアル兄さんにも伝えておくか?もしかしたら別口の情報持ってるかもしれないし。

 

「お、コインみーっけ!セリアードもコイン見つけたらどんどん拾った方がいいよ!」

「キュイ、いたいけな女の子にそんなこと教えちゃダメでしょ」

 

というわけで、今は俺とラス達でセリアードを連れて王都案内の最中だ。

相変わらずコイン拾いに熱中してやがる守銭奴ミケ族がいたりするが、いつも通り過ぎるな。

まあキュイは結構壮大な夢を持っているから、塵も積もれば山となるって精神は確かに大事ではあるな。

が、それをコイン拾いで発揮するってのは何というか……みみっちいだろ。

小柄なミケ族だからこそ違和感は少ないのが救いなんだろうが、せめて一人でいる時にやってほしい。

 

「あれ?あの、何かが空を飛んでいませんか……?」

 

セリアードが空にいる何かを指差していた。

メチャクチャ遠目で分かりづらいが、見覚えのある輪郭だなありゃ。

あんなものを飛ばす人間はこの国では一人しかいねえから即特定安定だな。

エアーシップだったらどこぞのヴァンパイアって選択肢もあるんだろうが、大きさからして明らかに違う。

 

「姉上様がまーた空飛ぶ実験でもしてんのかね?一体今度はどんな風に父上の胃を痛めつけるのやらか……」

「え、マッドってお姉さんもいたの!?」

 

そういえば今まで話に出てこなかったし、俺も全く出してなかったからな。

ちなみに、俺以外の面々は苦笑いだったり少しばかり頭が痛そうにしている。

セリアードはそんな皆の様子を見て首を傾げてるが、こればかりはな。

 

「第一王女であるアニスフィア・ウィン・パレッティア王女殿下だな……色々ワケありで王位継承権を自ら放棄してたり、まあ少々ばかり変わったお方なんだ」

「ウィンが姉上のフルネーム言うとちょっとだけ面白いよな。ミドルネームが一致してるし」

「しょうもねえ茶々入れるなよ、吹雪でも起こす気か?」

「温いな、俺は一撃必殺ないし場をがら空きにする絶対零度の方が好みだ」

 

カルトのツッコミは今日もキレッキレだねえ。

ミココロと顔合わせたら『ツッコミ役さん』ってあだ名つけられそうだ。

吹雪を起こしてほしければ氷で出来たあの武器を強奪してくるんだな。

すんなり取れるか、抵抗にあうかは知ったこっちゃねえけどな。

 

「確か、男児が継承権において優先されるんだっけ。自分から放棄してるって辺りで何かありそうに聞こえるんだけども……」

「アニスフィア様はマッドと同じく魔法が使えないんだ。貴族もそうなんだけど、魔法が使えないとなるとこの国では一気に立場が無くなって無能貴族ないし無能王族なんて言われてしまうんだ……世知辛いよね、本当に」

「魔法が使えないというだけなのに、そんな扱いを受けるんですか……?」

 

セリアードの反応は、大体の民とかその辺りの思想に染まっていないまともな貴族も同じく思っていることだ。

ただ、あまりに魔法至上主義を掲げる連中の影響が強いからそういう声も簡単に潰されちまうのもまた腹立たしい。

──ああ本当に、考えるだけで反吐が出る。

何とか抑え込んだが、根幹の破壊衝動が思わず表に出て来そうになっちまった。

 

「ただアニスフィア王女はその境遇に折れることなく、色々試行錯誤した結果……魔学という新たな境地を見出したんだ」

「それも結局、固定観念に縛られた連中には邪道として見られてるのが酷い話よね。よっぽど自分たちの既得権益が脅かされるのが怖いんでしょうけど」

 

何でこう、既得権益ってのは毒にしかならねえ定めなんだろうな?

その流れが強くなったのも先王と現国王……要するに、俺の祖父と父上の間で王位が移る辺りにも問題があったってカルリッツ父さんが言ってたっけ。

あの頃は随分と国が揺れてしまい、魔法省に借りを作る羽目になったとか。

まあ、貸しがあるとはいえこの国にそういう圧力をかけている方が悪い。

父上や母上の世代はただでさえ苦渋の決断の連続だってみんな言ってたからな……。

やれやれ、特に父上は胃を痛めつけられる嫌な宿命でもあるのかね。

今度そういう特効薬が無いかユナやミココロに聞いてみるか?

 

「その……アニスフィア様が発明した魔学と、マッド様が発明した顕魂術には何か違いはあるのですか?」

「魔学は『精霊への祈り』っていう中途半端な認識しかなかった魔法という概念をアニスフィア王女がどんどん掘り進め、自身が魔法と対等の効果を得るに至った成果だ。分かってねえヤツばかりだが、要するに魔法の延長線上の技術なんだよ。まるで注目されてなかった精霊石の使い方なんてまさにそのまんまだな」

「対する顕魂術も、魔法の認識を掘り進めるところまでは全く同じだ。マドラーシュ様はその過程で『あまりに精霊への依存が過ぎるのではないか?』と疑問を抱き、度が過ぎる信仰を諫めるために顕魂術を産み出したんだ。この場合、意図的な枝分かれに当たるのか」

「何だか見事にマッドとお姉さんの考え方は逆だねー、さっきの話し方からしてもあんまり仲良くないのかな?」

 

逆の考え方ねえ……それはちょいと違うかな。

そもそも、姉上はあくまで魔法に憧れ続けたってだけ。

対する俺は魔法には何の感慨もなく、あくまで技術の1つとしか思っていない。

それをバカみたいに崇め、行き過ぎる場合では他者に強要する無様さがひたすら腹立たしいんだよな。

姉上の対極って言ったら、そもそも魔法そのものに嫌気が差しているアル兄さんとか呪いオタクが当てはまるんじゃないかね。

 

「姉上との仲はいいも悪いもないという表現になるな。そもそもあっちが先に俺に会うのを避け始めたから、俺も合わせて邪魔にならねえように動いているってだけさ」

「昔はアニスフィア様がマッドの離宮に忍び込んだってこともあったけど、ある時を境にぱったりと疎遠になっちゃったんだっけ?」

 

そのことはグランナイツしか見たことはねえし、ラスはデイジー師匠辺りから聞いたんだろうな。

まあ、その辺りの下りは追々掘り下げるとしてだ……。

こちとら別に姉上と魔学を否定するつもりは全くないし、何ならいいぞもっとやれって気分だ。

今のところ、俺の活動を邪魔してるわけでもないからな。

逆に、あちらが顕魂術のことを知ったとしてどんな反応をするかはまるで想像はつかないが。

姉上も貴族や魔法省には随分と煮え湯飲まされてるみたいだし、話してみれば気が合うのかもしれんね。

だが、結局ここでも周りが邪魔するんだよ。

──かつてアル兄さんと姉上が決定的に仲違いさせられたようにな。

 

「お兄さんとは今は普通に仲良くできてるんだから、アニスフィア様ともそうしちゃえばいいのに。相変わらず王族って面倒だよねー、ウチはそうじゃなくて良かったよ……お金がいっぱいあるのは羨ましいけど」

「こればかりはあまり外野が口を挟むことじゃないわ。冷戦って言うほどでもないんだから、いずれ好機もあるはずよ」

「何とか仲直り出来るといいですね……影ながら応援します!」

 

あーセリアードにナマリエ、若干申し訳ないんだが……。

口にするつもりはないが、嫌ってはいなくてもモヤモヤは抱えてるんだよ。

傍観者として状況を見てきたらこそ感じるものは、姉上に対しても当然あるわけで。

……まあ一言で言うなら、姉上も遺伝してるんじゃねえのかってこと。

少なくとも、あの一件の影響を俺にまで及ぼす理由はワケわからねえからな……。

っと、すっかり湿っぽい話になっちまった。

こりゃあ空気の入れ替えをしねえとやってられないな。

 

「この話はロクな空気にならないから強制終了!ほれ、案内の続きだきりきり動け皆の衆」

「そうだそうだー!コインを拾える場所の方がよっぽど大事だよ!」

 

キュイの必殺天真爛漫ストロング話題転換だ。

ナイスアシストだが、この守銭奴ミケ族殆ど話聞いてなかったんだろうな……別にいいけどさ。

さーて、後はどこか紹介すべきところは……。

 

「あっ。す、すみません……」

 

おっと、セリアードが俺ら以外の誰かとぶつかってた。

幸い少しよろめくレベルだから大丈夫だろうが……っておい、相手はすたこらさっさと早歩きで去りやがった。

おいおい感じ悪い輩だな……ん?いやちょっと待て。

そもそも全然混雑してねえよなこの辺り……こっちはそこまで余所見するような状況じゃねえはずだ。

……このパターンもしや王道のそれでは?

 

「おいセリアード、ブローチはちゃんとあるか!?」

「えっ?……あ、あれ?無いです!どこかに落としたとか……?」

「いやちげぇよ!あの野郎、このご時世に古典的なひったくりしやがって!」

 

カルトが俺の言わんとすることを先んじてくれたおかげで全員の理解が迅速に進んだ。

早歩きしていたひったくり(仮)は俺たちの様子に気付くや否やで既に走り出している。

ああ、これは黒ですな。

第二王子の前でひったくりとは……なかなかいい度胸じゃねえか。

あいつは本名が何だろうが、もう表示名はどろぼー固定だな。

 

「って走るの随分早くない!?魔法でも使ってるでしょあれ!?」

「くっ、街中では顕魂術が使えないから離されるばかりだぞ!」

 

あれは明らかに魔法の類使ってるな。

王都を出れば……って、セリアードまだ顕魂術使えないからついていけないじゃんか。

チクショウメー!空の彫魂石持ってきてセリアードも超簡単な顕魂術使えるようにしておけばよかった!

しかしわざわざブローチを盗るってことは──全く、白昼堂々とやるようになったじゃねえか。

要するに、大当たりってことだ。

……絶対に逃がしてやらねえぞ、クソッタレめ。

何か打つ手は無いかと考えていると、光明は思ったより近くにいることに気付かされる。

 

「大丈夫、あのドロボーの向かってる方角は分かるよ!ブローチの気配の探知は任せて!」

 

ロムはあのブローチから出てきたって言ってたから、パスみたいなものがあってもおかしくはねえな。

ありがたいことに役割理解も早く、先行して方角を示してくれている。

これなら大まかな方向を間違う心配はないな。

この中で疑り深い方のカルトとナマリエも、緊急時で藁にも縋りたい思いからか素直に従ってくれた。

 

「ロムのナビがあるなら多少離れても大丈夫だな。方角は──北東?」

「北東と言えば……近いところは龍の丘と地下霊廟よね。逃走ルートにしてはどこかおかしい気がするけど」

 

地下霊廟は読んで字の如くの場所だ。

どこかに繋がってるとかありそうにも思えるが、少なくとも俺は聞いたことねえな。

アル兄さんとの雑談がてらの情報交換でも話題には挙がってなかったし。

 

「誘い込まれてる……?でも、行くしかないよね」

「後手になっている以上はどうしようもないな。皆、警戒は怠るなよ」

「大丈夫、罠があってもウチがぜーんぶぶっ飛ばしてやるから!」

 

おいバカ止めろ、仮にも霊廟でやらかしたらマジで俺に責任降るから。

いや、責任回避は出来るけどお前らのやらかしでそれをしたくないんだよ。

だから頼む、特にキュイは最小被害の最大功績を心掛けてくれよ。

あ、そういえば妙に軽いと思ったら相棒たちがいなかったわ。

流石に無いと舐めプにも程があるから、呼ぶとするかね。

 

「ま、マッド様!?何か剣みたいなものがこっちに来てますよ!?」

「ああ、俺の武器だ。使い込み過ぎてたらちょいとばっかし曰く付きな感じになっちまってな──よーし、いい子だ」

 

まあセリアードじゃなくても初見は驚くわな、無理もない。

セイリオスと千紫万紅、この2本はどちらも魔力伝導率が極めて高くなってしまっている。

俺と専属鍛冶師の調整の末にその特性は更に強化され、もはや並大抵の武器では半分の伝導率にすら到達できるかと言われるキワモノと化してしまった。

その上で顕魂術の媒体として使ってたらこういうちょっとした心霊現象紛いなことも可能になってしまっていたというわけ。

その理屈は完全に解明しきれてないが、自身の魂の部分コピーである疑似精霊を軸にパスが出来上がったという仮説は立っている。

あんまり離れすぎると感知してくれないが、工房からこの位置くらいなら余裕だ。

一体どんなルートを描いたかは知らんが、かなり上空を飛んでってくれたのかはたまた次元突破でもしてきたのか。

 

「いつ見ても慣れませんね、その光景は……」

「いい加減慣れなさいよウィン。幽霊とかじゃないんだから言うほど怖いものじゃないでしょ?」

 

他の面々は慣れっこなのだが、唯一心霊現象の類が極めて苦手なウィンは別だ。

最初見た時はガチで固まったもんな……いつかモノマネで弄ってやろっと。

そんな呑気に雑談をしながらも、俺たちは歩を緩めることなく地下霊廟に向かっていく。

どろぼー追跡ついでに観光地巡りなんてどういうツアー組めばそうなるんだ?

 





というわけでグランサガ1章部分の始動。
後のプロット的にもこのタイミングを逃すと都合が悪いので、お許しをば。
スタートからして見事に変えたり、姉上に対してどう思ってるのかなどなどの追加。
グランサガ全開でも上手いこと混ぜて行かないとクロスの意味が無いですからね。

セイリオスと千紫万紅が飛んでくるのは、悪魔狩りアニメのリベリオンが飛んでくるイメージで。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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