転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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前回までのあらすじ:古典的ひったくりに遭いました
ということで、スタートダッシュ3話目です。



25.龍の丘と地下霊廟

 

マドラーシュ一行が追跡中の盗人の逃走方角にある地下霊廟。

龍の丘と森林地帯を挟んだところに位置する場所で、普段はそれなりに穏やかな区画だ。

しかし、そんな場所も今は妙に剣呑な空気に包まれている。

その空気を作っているのは、普段よりも活発……否、もはや暴走気味に動く魔物たちであった。

この辺りに多く生息しているゴブリンが主ではあるが、その集まり方は普段とまるで異なる。

更には、少数ながらも霊廟の方からとんでもないものが沸いていた。

 

「やれやれ、まさか亡骸が蘇るとは。さっさと避難させておいて正解だったな」

「貴方がいなかったらどうなっていたことか……。感謝の言葉もありません、カルシオン殿」

「なあに、通りがかりだからいいってことさ。おっと、まだまだ来るぞ!」

 

群がるゴブリン、そして湧き出る亡者を流れるように狩っていくのはグランナイツ随一の遊撃要員。

通りがかっていたカルシオンが加勢してからは何とか押し返しつつはある。

しかし始まりから最悪に近い状況だったわけで、じわじわと尾を引いている部分もある。

早い話が、負傷者が多すぎて庇いながらの戦いを強いられていた。

指揮官であるフィオナは殆ど無傷で済んでいるが、まともに動けるのはかろうじて半分という目も当てられない悲惨さ。

かつての陰の英雄……その内の一人が加勢したとはいえ、まだまだ予断は許さない状況と言えよう。

 

「ん?……はは、どうやら最高のタイミングで心強い援軍が来たようだ。指揮官殿、一旦下がろうか」

「え、今ここで我々が下がったらまた押し返されますよ!?」

「言いたいことは痛いほど分かるが、そろそろ下がらないと巻き添え貰っちまうぞ!」

 

カルシオンの性急かつ珍しく強い剣幕な忠告に押され、残りの者は慌てて後退する。

これ見よがしにとゴブリンと亡者たちは進軍を試みるが……それはすぐに妨げられることとなった。

どこからともなく群れの中央部に現れた、謎の巨大なオーブによって。

 

「魔法!?──いや、これは……もしや?」

 

巨大なオーブはゴブリンたちを飲み込まんと熱風を起こす。

結果、その集団を一纏めにして宙に浮かせていた。

その光景に唖然としていると、今度はどこかからか軽やかな指鳴りが聞こえてくる。

その音に呼応するかの如く、魔物たちの頭上から深海色の剣の雨が降り注いだ。

ゴブリンたちはその攻撃だけで串刺しとなり動かなくなる。

亡者たちは進軍こそ止まっていないが、その歩みはほぼ停止しているかの如く。

まるで剣の降雨域だけ時が遅くなったのでは……そう言わんばかりの光景であった。

降雨自体は即座に止むが、その僅かな間は新手が射程範囲に入るのに十分なものである。

 

「安らかに二度寝しろ」

 

淡々とした一言と共に放たれるのは、かろうじて視認できるかどうかの複数の高速斬撃。

彼にしては珍しい神妙な面持ち、それと共に亡者たちは全てバラバラになっていた。

あまりに突然すぎる形勢の変化に、カルシオン以外の者は完全に呆けてしまっている。

貴族が気まぐれに助けにでも入ったのかと思う者もいたが、その白金色の髪を見てすぐにその説は否定された。

 

「刀の方も随分様になってきたじゃないか、マドラーシュ様。後は納刀タイミングかな?」

「風で誤魔化してるところが多いんだ、まだまださ。それにしてもカルシオンがここにいるとは……まだまだ俺たちにもツキがあるようだな」

 

わざわざカルシオンが略さないで呼んだことで、その場はざわめきだす。

騎士団の大半にとっては畏怖と憧憬の念を抱くべき相手なので、無理もないことだった。

そんな空気の中、この場の代表としてフィオナはかろうじて口を開くこととなる。

 

「まさか、王都周辺でマドラーシュ王子殿下にご助力いただけるとは……どう感謝を示せばよいのやら」

 

貴族の間では放浪王子と称されて評判最悪のマドラーシュだが、騎士団で事情を知る者からすればその評価はまるっきり逆転する。

幼い時からグランナイツの修行に食らいつき、若くして英雄に並びえる程の実力を得た不屈の王族。

レオンやカルリッツの任務に同伴する形で共闘した者も多く、その好感度の平均値は姉であるアニスフィアとそう変わらないほどだ。

 

「お久しぶりだな、フィオナ指揮官。いやなに、ちょいとひったくりの現行犯を目撃しちまって見習いたちと追ってたところだったんだが……マジで間が良かったな」

「そのひよっこ共も来たようだな。まあ、最初の攻撃は明らかにマッドのじゃないからいるのも当然か」

 

先行したマドラーシュに少し遅れる形でラス達も無事合流する。

戦闘員6人の中で突貫力が高いのはマドラーシュなので、判断としては何もおかしなところはない。

ちなみに最初に放たれた巨大なオーブを放った者は、災厄すら呼びかねない範囲殲滅の鬼だ。

 

「ウチの残飯処理ご苦労だね相棒!──あ、指揮官がいる!それにカルシオンおじさんも!」

「先ほどぶりだな。まさかマドラーシュ王子殿下と共に戻って来るとは思わなかったが……」

「やっぱりあの熱風はキュイお嬢ちゃんだったか。それと、そのおじさんってのはいい加減止めてくれるか?これでも一応はまだ若いつもりなんでね」

 

エルフの寿命の長さ由来の時間間隔のズレである。

ちなみにキュイはレオンのこともおじさんと呼んでおり、一部面々は未だに吹きだしかねないとか何とか。

父親代わりになっているカルリッツやラインヒルトはそう呼ばないし、女性陣をおばさんなんて呼んだりはしていない。

というより、後者をやった日には確実に地獄が展開されかねない。

 

「怪我人がこんなに……話を聞きながら彼らの手当てをしますね。ウィン、薬草は足りるかな」

「この辺りなら薬草もある程度生えているし、手持ちのものと合わせれば問題ないぞ」

 

ラスの迅速な判断を見て、カルシオンは懐かしさと共に感心していた。

懐かしさの正体はグランナイツのリーダーの若りし頃、すなわちまだ特別近衛騎士として活動していた頃のこと。

状況が状況ではあるが、重傷者もいる状態を見過ごさない辺りは全く同じである。

マドラーシュもその判断に異論はないのか、完全にその作業を任せていた。

 

「すまないな、そちらも緊急事態だというのに……」

「魔物が活発化していたり、亡者が骨だけで動いてるなんてなったら放っておけないわよ。ところで、こっちの方に私たちが追ってる盗人が向かったらしいんだけど……」

 

流石にゴブリンと亡者の襲撃に遭いながらなので見ていない可能性も十二分にある。

あくまで確認程度だったのだが、目撃証言は意外なところから入ってきた。

 

「その盗人は先ほどの魔物や亡者たちを呼び寄せた者と同一人物かと……。光るブローチのようなものを持っていたのが見えました……」

「証言感謝する、レオナ副官。それと、先んじて魔物たちを食い止めてくれて本当に助かった。狂暴化してたゴブリンや復活した亡者なんて王都に行かせてたら大惨事だったからな。盗難に加えて魔物の扇動ってなったらもう俺の領分だ、安心して傷を癒しつつ休んでてくれ」

「いえ……私如きにはもったいないお言葉です、マドラーシュ王子殿下……」

 

彼女はフィオナの妹であり副官のレオナの証言でひったくり追跡の方も進展が出てきた。

王族としての労いの言葉を掛けると、ようやく安心したのか表情を緩ませていた。

見たところ負傷の度合いが最も酷い辺り、最前線で先のゴブリンと亡者の群れを相手取っていたのだろう。

 

「ブローチの気配は確かにこの入り口からするよ!」

「追い込むって段階はクリアしたな。まあまだ不安な面があるが……」

 

探知とも一致したことで、ひったくりの潜伏位置は確定できたのは確かに大きい。

しかし、マドラーシュの中で引っかかることはいくつかある。

その懸念は他の面々も同じく抱いていることで、すぐに突貫が憚れるのは共通意見だった。

 

「そういえば見慣れないお嬢さんがいるな。その様子だと、彼女の私物が盗まれたってことかな?」

「は、はい。グランナイツのカルシオンさん……ですよね?セリアードと申します」

「そう、俺がこいつらひよっこ達の先輩であり、マッドの最も信頼する兄貴分でもあるカルシオンだ。これからよろしくな」

「それ、イグノックス兄さんが聞いたら絶対キレるからぜってー公言すんじゃねえぞ?」

「こっちが見習いだからっていつまでもひよっこ言いやがって。──で、追い込んだはいいが……流石に挟撃するには戦力は足りねえよな?」

 

先ほども話した通り、地下霊廟ならば事前にトンネルなどを用意するというウルトラCが無い限りは逃げる手段はない。

しかし、流石にあまりに逃げ道が杜撰すぎて逆に誘い込まれている臭いもする。

とはいえ消極的になるのが正しい、というわけでもない。

バランスのとり方が難しい局面と言える。

 

「今回は全員で行っての速攻決着狙いが無難かな?」

「相手がどれほどかも分からない時に下手な戦力分散は却って危険よ。こっちはロムの探知という優位点をきっちり生かすべきね」

「ただそうなると、手当てが終わり次第移動しないとで少々酷なことさせちまうな……」

 

ラスとナマリエが現在状況から即座に策を編み出す。

亡者の復活というイレギュラーが発生している以上、相手の底はまだ読めないと思うべきと判断している。

特にナマリエは、戦力分散で各個撃破される危険性を重んじていた。

その考えに6人全員が賛同するが、その場合のネックとなるのはこの場の負傷兵である。

マドラーシュは真っ先にその懸念を暗に示すが、それを払拭するような声は指揮官より上がっていた。

 

「魔物を凶暴化させたり亡者を蘇らせる相手とあれば、尚迅速に対応するべきです。それに、マドラーシュ王子殿下が陣頭に立っておられるのに、我々が音を上げるなどあってはなりませんからね」

 

騎士団でのマドラーシュの評価が高いのは、行動で示すというその姿勢が最大の理由だ。

基本は前線にそうそう出ない貴族も少なくない中、王族としての身分など知ったことかと表に出てくるのがマドラーシュとその姉のアニスフィアだったりする。

特にマドラーシュは辺境においての過酷な戦場に出てくることが多く、しかも陣頭指揮すら取るほどの積極性を見せるほどだ。

例えカルリッツやデイジーの補佐があるとは言っても、王族が自ら前に出るのは立派な士気向上の要因に当たるが……その分リスクも大きい。

無論、当の本人はそんな損得は全く考えておらず、単に首を突っ込みたいからやっているだけなのだが。

当然周囲の気を揉ませてこそいるが、その分実利で返している辺りがある意味タチが悪かったりする。

 

「今のマッドは本当に王族って感じだね。ウチの相棒って枠もあるのに欲張りさんだ!」

「普段は自分勝手でやりたい放題なのに、こういう時の頼もしさは流石王族といったところね」

「やりたい放題してるだけで結果人の為とか、一体どういう補正かかってるんだろうな」

 

マドラーシュはこれらの評にあえて耳を塞ぐ。

彼の中では、ついやってしまうのだから仕方ない、それだけのことだから。

──傍から見れば、ただの照れ隠しだが。

しかし、彼もまたやられっぱなしではなかった。

 

「お前ら、あんまり言いたい放題言ってると……カルリッツ父さんに追加訓練頼んじまうぞ?特にキュイはな」

「うええ!?ちょ、それは勘弁してー!」

「キュイって普段からサボりがちだよね?俺からも言っておかないとかな……」

「おいおい、折角の真面目な場面が台無しになってるぞー……まあ、お前ららしいけど」

 

マドラーシュの言葉で重めの空気はすっかり霧散していた。

この空気の入れ替えの早さも、この破天荒の得意技と言える。

手当が終わった負傷兵の中には、いきなりのコミカル展開に吹き出す者もいる。

──カルリッツの追加訓練という言葉に過剰反応する者もいることには目を瞑っておこう。

 

「さてカルシオン。ここで鉢合わせたのも何かの縁だと思わねえか?」

「面白そうだからついていってやるよ。それに、お前さんはまだしもひよっこ共が少し心配だからな。ところで顕魂術とかの説明はいいのか?」

 

カルシオンの指摘で、ようやくマドラーシュは重要事項を思い出した。

かなり危険な状況だったので咄嗟に使ってしまったが、言い訳などまるで考えていなかった。

流石にキュイが全部使ったという言い訳は通じないので、こっそり実の姉から魔道具を拝借したと弁明しようとする。

結果的に、その必要はなかった。

 

「先ほど見せて頂いたものが、東部で最近噂の顕魂術なのですね。そのことでしたらどうかご安心を。基本口外禁止を前提としてラインヒルト様から通達がありましたので」

 

むしろそのどこかおかしい弁明は全く必要なくなり、それどころか騎士団内部でも認知済みという意外な現状を知ることとなった。

確かにマドラーシュは徐々に顕魂術を広めている最中ではある。

まさかあの慎重に慎重を重ねるラインヒルトがいきなり中枢に近いところに仕込みを入れるのは意外だったが。

カルシオンですら一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたので、尚の事だろう。

 

「ラインヒルトめ、相変わらずえげつない根回しの良さだな」

「何だかんだでノリノリってことだよな、ラインヒルト先生……やっぱ怖いわあの人も」

 

普段から冷静沈着で、一部やんちゃ組の事後処理ばかりしているイメージが先行しがちなグランナイツでも屈指の苦労人。

現在は防衛省にも口添えできる騎士団の顧問役の地位にいるのだが、その中で『魔法至上主義』の歪さを散々見てしまったのかもしれない。

そうでなければ、こんな効果的ではあるものの大胆不敵な策など彼が取るはずも無いのだ。

機会が合ったらその辺の愚痴を聞いてやろうと、カルシオンとマドラーシュは全く同じことを考えていた。

 

「ではマドラーシュ王子殿下、ご武運を」

「おう、ちょっくら行ってくるとするさ!」

 

負傷者の手当てが完了したら、亡者が湧き出る可能性のあるギリギリまで全員が無事移動するところまで見送る。

その間にも霊廟の入り口を何名かで見張るが、特に動きは無い。

結果、マドラーシュ達は後ろ髪引かれる要素を無くした上で地下霊廟へ降りていくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひったくりを追った先でフィオナ指揮官たちとまた会うとは思ってもみなかったけど、結果的に良かったよ。

まさかあのブローチを使って魔物を狂暴化させたり、亡者を蘇らせるだなんてね。

遠距離から制圧が出来るマッドとキュイがいたお陰で、迅速に倒せて本当に良かったよ。

怪我人の手当と避難を見送った後、地下霊廟の中に駆け込んだんだ。

……中はものの見事に、不気味なくらいに静かだった。

ただ、中では物陰に上手いこと隠れている管理人さんがいて、話を聞くことが出来たよ。

ついさっきこの辺りで亡者が蘇って、入れ替わるように誰かが入ってきたのは目撃したらしい。

間違いなく、あの盗人とブローチで蘇らせた亡者とひったくりのことだね。

それにしても、犠牲者が出ていなくて本当に良かったよ……。

いや、既に兵士の方で怪我人が出てるから素直に喜んではいけない。

一旦霊廟の外へその管理人さんを避難させた。

その際に奥の方で英雄と呼ばれるべき方々が蘇ってしまっていたら安らかに眠らせてほしいと頼まれ、マッドが真っ先に二つ返事で了承していたよ。

これまた珍しいってみんなで揶揄ってたね。

さっきもマッドが普段と違うってやたら弄られていたけど……俺は昔からあの顔をよく見ている。

普段は確かに軽い感じでいることが多いし、いざ行動を起こした時は確かに見た目はやりたい放題だ。

その裏で先を見据えていたり、細かい思慮が為されてることを知る人はどれほどいるんだろう。

グランナイツ……特にカルシオンやイグノックス様と行動を共にすることが多かったから、自然とそういう考えが出来るようになったって言ってたっけ。

そして俺は、そんなマッドをずっと傍で見て育ってきた。

確かに呆れるような行動や言動も多いけど、いざという時は国王陛下よりも頼りになるんじゃないかって思うくらいだ。

だからこそ、俺はマッドを年下とか一切関係なく、ただただ尊敬してるんだ。

マッド付きの特別近衛騎士になるって宣言したのも、単純に友人の手伝いがしたいからっていう軽い理由じゃない。

……これ以上言うと恥ずかしくなってくるから、一旦止めにしよう。

 

「間違いなくこの中なんだけど、気配というかオーラが満ち溢れてて分かりづらいね……」

「それは無理もねえな。これだけ魔力とかでグチャグチャなんだ、判別も苦労するだろ」

「精霊まで活発になってるもんね。大体燃えてくれ無さそうなのが残念だよねー」

 

ここが地下霊廟で良かった……水とか土、後は闇の精霊が多いって感じだろうし。

もし火の精霊が活発化してたらキュイが自重を忘れて大変なことになるからね……。

精霊が活発になるほど魔力が充満してるなんて……あのブローチ、一体どれだけ凄いものなんだろうか。

以前にセリアードを追っていたあの魔物もブローチ狙いだったのだろうか。

 

「あの、一つ聞きたいことが……。どうして奥に埋葬されているのは英雄と呼ばれる『べき』方々なんですか……?」

「あ、それ私も気になった!それに、何でもっと日当たりのいい場所とかに埋めてあげないの?」

 

セリアードの質問は事情を知らない場合は自然に出てくるものだ。

そして、それらの質問は普通の平民では答えられない。

──俺やマッドにとってはもの凄い身近な話でもあるからね。

 

「時にはこのパレッティア王国を、時には世界すら巻き込みかねない災厄に立ち向かった人々だからな。ただ、彼らはその大半が魔法を使えない。それだけのことで、彼らを讃えることは許されなかった。──要するに、忌々しい『魔法至上主義』と、それを妄信するクソ共の所業ってことさ」

 

マッドが真っ先に答えていたけど、その顔はまさに無表情そのもの。

誰も茶化すことすらしようともしないのは当然だね。

それだけ、マッドは内に怒りをため込んでいるってことだから。

意外かもしれないけど、対象こそ選ぶもののマッドは先人を尊ぶ精神がかなり強い方でもある。

この霊廟で安眠している人たちは問答無用で尊敬の対象に入っているはず。

だからこそ、いつも以上に既得権益に縋る連中に怒っている。

 

「本来なら、精霊信仰を脅かすからともっと密やかな場所で忘れ去られるように埋葬されるところだったんだ。だが、死者に対してそれは流石に過干渉が過ぎると現国王やマゼンタ公爵が貴族や魔法省をギリギリ抑え、何とかこの場所を設けたという経緯でこの霊廟は存在する」

「この場所が選ばれたのは、光も影もあるからね。英雄という概念は確かに光の象徴と言えるけど、その裏には争いという影がある……コインの裏表のように、切っても切れない関係なのよ」

「この場所の存在意義は、英雄への感謝と争いの痛みを忘れないこと……この2つってことだね」

 

ウィン、ナマリエ、そして俺と順番に補足していった。

マッドと共にカルリッツからよく言われたことの受け売りだけどね。

 

「命を懸けて国を守ってくれた方々なのに、どうしてそんなことを……」

「精霊信仰や魔法が使える優越感に浸る、そのためならいくらでも既得権益を守るのが奴らだ。俺たちからすれば、本当にこの上なく下らねえ理由だがね」

「そしてそんな状況を革命で変えてやると7年前から裏で動いているのが、我らがマッド様ってわけさ」

「か、革命!?顕魂術の発明どころかもっとすごいこと考えちゃってるじゃん!」

 

普通は革命って言葉を聞くとこんな反応になるものだ。

字面では確かに大それたイメージが先行しちゃうからね。

確かにマッドが言うそれも、過激な面が強いように見えてしまうだろう。

でも、俺たちはその過激な裏にある不器用な優しさをよく知っている。

 

「マッド様なりに魔法が使えない者に対する酷い仕打ちが続くこの現状を憂いていている……ということですか?」

「大体その認識でいいんじゃないかしら。元々は精霊依存への怒りと失望が始まりで、その辺は調べている内に後発的って自嘲気味に話してたけど……まあ、私たちにもちゃんと利はあるから手を貸してるのよ」

「確か3歳の時に魔法を見て、『どいつもこいつも精霊にどっぷり依存してるんだ、バカじゃねえの?』って感じで怒ったんだっけ。そういう感性、ウチにも欲しいなー」

 

確かにその認識で間違いはないはずだし、3歳の時っていうのも合ってる。

でもキュイの場合、そんな感覚持ってたら絶対にお金稼ぎに回すよね。

 

「精霊と何の縁も無い平民や魔法が使えず無能って言われる、レッテル付きの貴族まで含めた自立の選択肢を与えたいって言ってたな。確かに打算の側面もあるが、アイツはアイツなりに下々のことも考えてるってことさ。その上で自分勝手な部分も貫いてるんだ、バカなのか大物なのかがまるで分からねえ」

「俺たちクラマ族や他の亜人種は、皆顕魂術の普及や仕事の斡旋とマドラーシュ様には助けられたからな。確かにアニスフィア様の方が平民の評価は高いが、辺境……特に東部の者から支持されているな」

「私もカルトもあの王族らしからぬ考えと行動力に惹かれて、かつての環境から飛び出してこっちに来たクチよ。まあ、さっきも言った通り子供っぽいところが多いのが難点だけど」

 

こうして聞くと、本当に俺の幼馴染は裏で色々と動いていることが実感できるね。

始まりはただの怒りだったのかもしれない。

色々と知った子おとかとやりたい放題している側面も無いわけではない。

でも、結果的に色々な人を救っては導いているのがあの破天荒第二王子なんだよね。

ウィンも、ナマリエも、カルトも、キュイも、俺も……そして今のセリアードも。

他のミケ族やクラマ族、その他の王国東部の民……何なら偉志ノ大陸の人たちもかな?

グランナイツのみんなもマッドのお陰で燻ぶっていたものが蘇ったって言ってたくらいだし。

そんな色々な人を救うであろう革命だからこそ、俺たちは全力で手を貸しているんだ。

 

「あー、ロム。そろそろ探知終わったか?いい加減盗人をひれ伏したくてしょうがなくなってきたんだが」

「うん、今丁度見つけたけど……マッド、もしかして照れてる?何で顔逸らしちゃってるの?」

「こらこらマッド君、賞賛はちゃんと素直に受け取らないとだぞ?どこかのグランロードおじさんみたいになっちゃうぜ?」

 

あ、ロムの指摘を盛大にスルーしてる。

さっきのフィオナ指揮官の時もああなってたけど……相変わらずだね。

素直に褒められるとすぐ照れ隠しに移るのは、普段の捻くれた軽口の裏返しってところだ。

おだてとか一切ないちゃんとした評価なんだから、素直に受け取ればいいのに。

だからカルシオンとか、後はルドミラ様に面白がられて揶揄われ続けてるんだよ。

 

「で、何で今度はこっちを見るんだよ」

「べっつにー?あの素直じゃないところがどこかの誰かさんに似てるなーって思っただけよ」

「マッドはまだ面倒じゃないし付き合いもいいから、カルトよりは全然マシだよね!」

 

確かにカルトもそういう素直じゃないところはどこかマッドと似てる。

だからってあんまり煽らないであげて欲しいな。

みんな、そんなことしてるとマッドとカルシオンがどんどん先に行っちゃうよ?

またカルシオンにひよっこって言われちゃうけど、いいのかな……。

 

「マッド様もそうですけど、皆さんといると本当に楽しくなってきます。それに──何というか、暖かいですね」

「あはは……そう言ってくれると、俺も嬉しいけど」

 

このいつもの光景を見て言われると、ちょっと苦笑いせざるを得ないところだけど……。

でも、さっきまでどこか堅かったセリアードの表情が少しでも緩んでくれて俺も安心した。

さて、気を取り直してひったくり追跡を続けるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロムの探知を頼りに、マドラーシュ一行は地下霊廟を進んで行く。

幾度か蘇った亡者たちを相手取ることとなったが、不意打ちさえ貰わなければどうとでもなる程度の強さでしかない。

マドラーシュとカルシオンの出る幕は当然なく、的確な連携を基に省エネ撃破をする余裕があるほどだ。

 

「皆さんすごいですね……」

「まだグランナイツほどとは言えねえが、特別近衛という枠にはもう釣り合うくらいか?」

「今回の実績で一気に正騎士入りもアリなんじゃないかね……そこはラインヒルト次第だが」

 

ラスたちが将来的にはマドラーシュ付きの特別近衛騎士になることは当人たちの間では決まり切っている。

しかし、実力を示す程の実績がまだ足りていないのも事実だ。

マドラーシュやその周囲……レオンやラインヒルトが無理やり昇格させることも不可能ではないが、それは明確な悪手だ。

確実に騎士団内部で妬みを基に亀裂を起こしかねない。

そんな懸念から、特別扱いは表に出てこないように動いている。

ラスとキュイについてはデイジー、カルリッツが主に面倒を見ている。

キュイはそちらの方面はサボってマドラーシュと顕魂術研究に明け暮れることが多いことが玉に瑕か。

結果、自身の魔法と両立する形の研鑽に繋がっているので結果オーライなのだろうが……。

カルト、ナマリエ、ウィンのスカウト組についても、最初の基礎固めの段階では同じだった。

その後は、各々の武器に合わせた特別教官の元での専用訓練をあてがわれていた。

カルトは得物がリーチの伸縮が自在な鎖剣で、顕魂術の属性も一致することからカルシオンが徹底的に面倒を見た。

結果、遊撃要員としての質を見事に受け継いでいる。

ウィンは特にバトルスタイルが一致することから、カルリッツからより専門的な訓練を受けている。

武器も同じ槌ということで、再前衛で敵を抑え込みつつ面制圧を図るタンク役として順当に成長していった。

『銃』を得物とするナマリエについては、驚くことにマドラーシュが直に面倒を見ている。

訓練というより、顕魂術方面の試行錯誤や鍛錬が主でその関係性はキュイとのそれに近かった。

銃は王国北部の未開拓地域に住むエルフのみが使う特殊な武器だ。

顕魂術で扱う際のイメージもまさに独特そのもの。

その為、唯一その辺りの知識に明るいマドラーシュが直に担当することになるのは必然とさえ言えた。

マドラーシュの変装の師がナマリエの師と同一人物であることも判明してからは、更に意気投合していたり。

──と、結局はそれなりに濃密な過程になってしまっている。

ラインヒルトもついでのように情報統制を行うくらいには、

とはいえ、紆余曲折はあれど見習いながらも既に一目を置かれるほどの確かな存在になっていた。

やっかみ自体もないわけではないが、そこまで多くはない。

 

(これならマッドのことも任せられそうだな。レオン、俺たちの荷も少しは軽くなりそうだぜ?)

 

マドラーシュと共に戦闘を見守っていたカルシオンも、ひよっこと弄ってはいるが内心では成長を大いに喜んでいた。

今はこの場にはいない、1回はこの手で倒したいと思っているリーダーにもこの光景を見せたいくらいだった。

甥の成長についてどう思うのかも気になるところなのだろう。

 

「あ、オーラが物凄く強くなった!こっちだよ!」

 

奥の方に差し掛かったところで、ようやく本命と呼べる反応があったようだ。

そんな探知役の様子を見て、一行は一斉に駆け足となる。

そしてこの時点で、カルシオンとマドラーシュの内には嫌な予感がひたすら走っていた。

霊廟の最奥部は、彼が埋葬されている場所だからだ。

恐らくこの場にいるのがレオンやイグノックスだったとしても、全く同じことを考えていたことだろう。

そしてその予感は──

 

「ようやく来ましたか。英雄共々待ちくたびれてしまいましたよ」

「──掃き溜めのクソめ。やっぱりやりやがったか!」

「……ノヒルリア──当たり前なことだが、変わってないな」

 

ものの見事、最悪の形で的中してしまっていた。

ようやく盗人に追いついた、追い詰めたかと思う一行の目の前にいるのは全身を鎧で覆った大男だ。

カルリッツと異なるのは、兜を被っていることでその顔面が伺えない点だろう。

マドラーシュはその姿を見て即座に毒を吐き、カルシオンはどこか懐かしんですらいる。

 

「まさか最奥部の英雄を蘇らせるなんて……セリアードは一旦下がってて!」

 

知る者にとってはまさに英雄と呼べ、親しかった者にとっては戦友と呼べる存在の復活は脅威でしかない。

考え得る最悪の事態の前に、ラスはセリアードを安全位置まで下がらせるよう促す。

 

「そう!彼こそが黒龍討伐戦において、裏で讃えられた文字通りの英雄!防衛の鬼神ノヒルリアだ!」

「汚物吐き出すようなノリで語るんじゃねえ。魔法に縋るだけのクズが!」

 

13年前に戦死したとはいえ、今でも敬愛する存在を愚弄される。

相手が相手だけに、その所業は火にニトログリセリンと言ったところだろう。

マドラーシュの纏う空気からは、普段の軽薄さは一切合切なくなっていた。

増強された憎悪と、蓄積されていた怒りをひたすら吐き捨てる様は我を失いかけてると言ってもいい。

その勢いのままに、ひったくりに向けてお得意の突貫を放つ。

間違いなく速度は出ている、それなりの一撃ではある。

現に、周囲の亡者たちは何の問題もなく通り過ぎるどころか吹き飛ばしているのだから。

しかし、彼の強固な防御の前には通用するわけが無い。

 

「クソッタレが、人形扱いするんじゃねえ!」

 

膨れ上がり過ぎた怒りと憎しみは、十八番である魔力制御を曇らせてしまっていた。

更に本来のマドラーシュならばとっているはずの、妨害を考えた上での攻撃行動がとれていないことも大きい。

精神の乱れは、顕魂術においては致命的でもある。

ついでに言うなら、魂そのものは過去を彷徨っていたとしてもその肉体は当時のノヒルリアそのものであることも大きな要因だ。

結果マドラーシュはものの見事に弾かれ、強制的に振り出しに戻される。

その事実は、マドラーシュの苛立ちを更に加速させようとしていた。

 

「らしくねえぞバカ王子!どうしちまったんだ、少し落ち着け!」

「そこまで魔力制御が雑になっていては、ヤツを捕らえられません!気持ちはわかりますが、一旦冷静になってください!」

「そうだよ!どこか腹が立つ感じで相手を挑発して、俺たち味方も呆れて頭を抱えさせる『無慈悲な主演』はどこに行っちゃったんだよ!」

 

カルトとウィン、更にラスのが三人がかりでなお暴れようとするマドラーシュを抑え込む。

ノヒルリアが盗人を守護している今の状況下で、実質最強戦力が錯乱するのは最悪そのものだ。

三人の行動は忠臣としてどこまでも正しい行動だった。

 

「私はまだやることがあるのでね!ひとまずは、英雄たちと遊んでいてくださいな!」

 

どこまでも嘲笑うかのような口調、それと共に盗人は逃走を図る。

何をしでかすのかと、後衛にいるナマリエとキュイは警戒を強めた。

しかし、盗人はまるで意に介すことなく行動に移る。

 

「あ、こら待て逃げるなー!」

「あのブローチ、そんなことも出来るの!?ちっ、ここまで来て逃がすものですか!」

 

ブローチが強い力を発するように発光、盗人はまるで転移したかのように囲いから抜け出ていた。

そのまま出口へ駆け出していくが、そうはさせまいと二人は足掻く。

ナマリエは即座に得物のライフルを数発ほど発砲し、キュイは即席の小規模火球を進路妨害狙いで放つ。

どちらも狙いそのものはドンピシャと言える出来だったが、盗人はブローチの力を更に開放することで強引に突破していた。

 

「ちっ、コケにしやがって……置き土産つきってのが余計に腹が立つな」

「とりあえず俺とマッドでノヒルリアを抑えるから、ひよっこ共は先に周りを鎮めてやってくれないか?」

 

そう言いながらいきなり手頃な位置の亡者を仕留めるカルシオン。

そしてマドラーシュの方へ向き直る。

普段は飄々としているカルシオンだが、今回ばかりは彼もまた怒りを抑えるかのように無表情だった。

 

「俺だってノヒルリアには生前散々世話になった身だ。──正直お前よりも怒ってるくらいだよ。ただ、自分で『負の感情も使い方』ってことを偉志ノ大陸で学んだって豪語してそのザマは良くないんじゃないか?今のお前を調和の女神とか裏彫魂師のお嬢さんが見たら、きっと説教大会が始まるぞ」

 

同調しながらもあくまで檄を飛ばす。

しかし、マドラーシュの獣染みた暴走を止めるにはこれしかなかった。

カルシオンの言っていることがあまりに的を射ていることを本能で受け止め、論理的思考が再起動される。

内心で安堵の息を吐きながらもカルシオンは続ける。

 

「逆に考えてみろよ。折角お前の革命のきっかけになった英雄がいるんだぞ?前から言ってたじゃないか、生きててくれたら戦ってみたかったってな」

 

カルシオンのこの言葉と共に、狂気じみた怒りは急停止する。

憎悪に塗れた空気は急速に薄れ、

あっという間にこの場の誰もが知るいつもの破天荒王子に戻っていた。

醜態を晒していたことから、少々ばかりバツの悪そうな表情ではあるが。

 

「……悪い、カルシオン。相手が相手だから根本の憎悪とか怒りに完全に吞まれちまってた」

「まあ仕方ないさ。きっとイグノックスがいたらお前以上にキレて今頃地下火災になってたところだろうよ」

「後はデイジー師匠が修羅になってそうってところか?めっちゃ有り得るな」

 

どちらも笑おうにも笑えない冗談だが、実際あり得ないことでもないので二人して苦笑を零す。

余裕が戻り、冷却が着実に進む中マドラーシュは三人に向き直った。

 

「──流石に頭に血が上りすぎちまったようだ。三人とも、迷惑かけた分1発ずつ殴ってくれ」

 

発せられたのは何とも不器用な謝罪表明だ。

簡単に頭を下げる王族らしからぬ様子も健在で、三人は安堵を浮かべることが出来た。

 

「落ち着いたならそれでいい。てめえは仮にも王族なんだ、簡単に頭を下げるんじゃねえよ」

「彼らもちゃんと眠らせてあげましょう。それが今俺たちの為すべきことです」

「俺たちだって同じくらい怒ってるんだから、一人で突っ走らないでくれ。俺たちは近い内にマッドの特別近衛騎士になる、いわば一蓮托生だからね」

 

だからこそ、こちらも同じように応対するだけだ。

マドラーシュは自嘲の笑みを浮かべながら改めてセイリオスを抜く。

グランロードと同じく、最も敬愛していると言っても過言ではない英雄に正面から相対する。

その表情からは先ほどまでの憎悪や憤怒に支配される様子はまるで見受けられない。

 

「あんなクソに起こされてさぞ不本意だろう……さぞ無念だろう。13年越しの恩返しとしてきっちり二度寝させてやる……もうちょい辛抱しててくれ」

 

地下霊廟という静かな劇場で始まるのは稀に見ることすら有り得ない激闘そのもの。

英雄と英雄の卵たち、そして二世代を跨ぐ者という豪華な顔ぶれによる演目はここに幕を開くこととなった。

 





すっごい長くなりましたが、変な切り方になるのであえてこんな感じで。
段々地理が怪しくなる理由、それはこうやってグランサガのフィールドが入るから。
双子島は描写そのものがほぼ無い辺りで誤魔化したが、龍の丘やら渓谷辺りはさて大丈夫なのか……なおまだ砂漠やら火山やら霧の要塞もあるという。
そしてマドラーシュ、しれっと五月雨幻影剣を使っている件。
効果時間はより短いが、それでも一瞬ストップさせるのはやはり強いということで。
更に、アニスフィアと同じく騎士からの人気は高いという。
特にカルリッツやデイジーの元で共闘経験がある者は、実力と成長過程を知っているからこそ憧憬の念がかなり強かったり。

そしてノヒルリアを蘇生させてはいいように使われてブチキレる主人公。
あの決意表明から分かるように、2歳で死に別れてから13年経ってもなお敬愛しているということです。
その地雷を平然と踏み抜く連中はイッタイナニモノナンダー(棒読み

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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