というわけで、マドラーシュ&カルシオンサイド。
まさかのデビルメイクライ悪魔inグランサガ、果たして。
神の霊石が持ち得る魔力はまさに絶対的なものだ。
とはいえ所詮は慣れ親しんだもので、操るには容易い。
その圧倒的質と量で、叡智の深淵まで垣間見ることが出来た。
家門はとうに表舞台から去ったとはいえ、時代が故に貴人と呼ばれなくもない盗人は少なくともそう思っていた。
魔法……それは選ばれた貴き者のみが扱える神秘だ。
今相対する、王族崩れや亜人のような下賤な存在ではスタートラインにすら立てていない……神の御業とさえ貴族崩れは信じている。
その奇跡の中でも表にされていえるところではない、更なる深みに……より敬愛する精霊たちに近づいたはずだった。
……それなのに、だ。
「何なのだ……一体何なのだ貴様らは!」
取り込んだ強大な魔力に合わせるように巨大化した腕を、精霊への信仰を持たない二人へ力任せに振るう。
その速度は人からはかけ離れたそれで、更には元々その貴族は風属性の精霊に祈りを捧げることが出来る。
より強力な祈りも込めたその一撃は、彼の思う下賤な輩を今度こそ、跡形もなく消し去るはずだ。
それほど強く願っている……はずなのに。
「ひゅう、猿の腕のメリーゴーランドだって?お子様にはちょいと過激な絶叫系だが、まあそれなりか」
「これは流石にデザインが悪すぎるだろ。こんなの見ちまったら、大半の子供が泣いちまう。俺としては整形してほしいな!」
──この二人相手には、巨大魔猿と化したこの貴族の思考など全て妄想にしかならないのだが。
普通に避ければいいものを、必要もないのに巨大猿の腕の上に乗っている。
乗馬ならぬ乗猿とでも言うべきか。
あたかも遊園地のアトラクションの批評を行うかの如く、乗り心地の解説のおまけつきだ。
「私の上に気安く乗るな、触れるな無礼者が!今度こそ振り落としてくれるわ!」
巨大になったとはいえ、見た目は猿なので木々を縦横無尽に移動することにはなんら違和感は無い。
その速度もかなりのもので、普通ならば乗っているだけでも振り落とされるのが関の山だろう。
何故腕を振るったりして直接振り落とすことをしないのか。
その理由は言うまでもなく、既にやっていて全く手応えが無かったからと単純明快なもの。
ならばと自身の今の身体のアドバンテージを生かす手段を攻撃に転換していく。
思考の方向性は悪くないように見えるが……。
「そういえば、山籠もりとかってこういうことするんだったっけか?」
「イグノックスに頼めば、いい場所を知ってるんじゃないかね。俺はそういうのは好みじゃないからパスな」
雑談をしながら、迫り来る木々を軽々と避けているマドラーシュとカルシオン。
攻撃のつもりで行ったことのはずなのに、二人にとってはもはや雑談のネタでしかない。
しかも木々を避ける動きも時には無駄に跳躍したり、猿の腕に足を引っかけてぶら下がったりその他と自由すぎる大盤振る舞い。
結果、ただただ二人に弄ばれているという哀れかつ残念なことになるだけだった。
戦いが始まってからいくらか経つも、マドラーシュとカルシオンはこの調子で一貫している。
何故こんな無意味かつ無駄なことをしているのか?
早い話、普通に終わらせたら二人にとって何も面白くないからだ。
相手は巨大かつ強靭な肉体と強大な魔力をブローチから得ることで既に勝った気になってすらいる。
戦闘の心得すらなさそうな魔法使いならではの思考で、もはや失笑物でしかない。
実際戦闘に入っても、技術も何もないただ力を振り回しているだけのお粗末さをただ見せつけている。
二人からしてみれば、サンドバッグにすることすら面白みも感じることが出来なかった。
これまで散々振り回されてきたというのに、いざ相対すればこの程度ではただ倒すだけではあまりに味気が無さ過ぎる。
ならばと完全におちょくっては掌の上で遊ばせてやり、相手の尊厳を叩き潰す方面に走っている。
ラスの予想はほぼ当たっていると言ってもいい。
二人の意図を薄っすらとでも理解してしまえば、急激な勢いでフラストレーションを蓄積させるのは言うまでもない。
しかし、柳に風とすら言える手応えの無さにいつまでも相対出来るはずもなかった。
折角の猛攻もロクな一撃を浴びせることなく、ただ無駄に息を切らすという無様な結果に終わった。
「おいおいもう終わりか?これならとあるご令嬢に振り回される方が外見とのギャップも相まってよっぽど楽しめるんだがねえ」
「お猿さんのエスコートなんてたかが知れてるだろうに。っていうかマッド君、あの時間疲れるとか言ってたよな?へえ、実際は満更でもないと……微笑ましい話だなあ?」
「カルシオン君一言余計、座布団没収だ!退屈なお遊びよりはよっぽどマシだって話だ勘違いすんじゃねえ!」
マドラーシュ、また見事に墓穴を掘るの巻。
なお割と周知の事実なので今更なことだ、悪しからず。
戦いだと言うのに舐めているのか完全に雑談に興じながら、それでも攻撃は何の問題もなく避けていく二人。
そんな二人を目の前にしての魔猿の心境は果たしてどうなのか。
一体いつまでこの下らない、漫才染みたやり取りを聞かなければならないのか。
いつまで自分のことをただの遊具扱いにして、攻撃を仕掛けないつもりなのか。
そう考えた時……魔猿の中でプツンと何かがキレる音がした。
「ぐぬああああああ!どこまでも人をコケにしやがって!殺す!殺してやる!」
「ようやく少しはマシになったか。そうでなくちゃ張り合いが無いね」
むしろここまで持ったのが奇跡ではないだろうか。
蓄積した鬱憤を濃密な殺意に乗せて、魔猿はより濃密な魔力を込めた突進を仕掛ける。
しかもこれまでとは違い、適性属性であろう風の魔力を纏っているおまけつきだ。
破壊力は先ほどまでとは段違いと言っていいだろう。
闘牛士のようにギリギリをついて避ける二人だが、怒りと殺意に満ちた魔猿の猛攻はまだまだ止まる気配が無い。
「その軽薄な口を閉じろぉ!吹き飛べ!吹き飛べぇ!いや、元型すら残さぬぞこの愚者共があ!」
「さっきよりかは圧縮できているな。全く、これでようやく赤点モンキーから脱出か」
段違いの魔力を込めた空気弾、それも怒涛の連射が襲い掛かる。
怒りに支配されているはずなのに、まるで二人の回避ルートを読むかのような弾道が続く。
しかし、ここまでやっても二人は全く被弾する気配は無い。
その事実が、魔猿に宿す怒りを更に増長させることとなる。
「ぐおおおお!精霊よ、私にもっと力を!この下賤な無礼者二人を倒す力をぉぉぉ!!」
咆哮と共に、魔猿は地面に拳を叩きつけた。
するとどうか。先ほどまで使ってこなかった土属性魔法が発動していた。
適性があればこれまででも使ってきたはずなので、恐らく適性外だったものを発動させたのだろう。
しかも無詠唱。まあ魔猿になっている時点で詠唱も何もあったものじゃないかもしれないが。
その地響きは並の人間ならばそうそう身動きが取れないほどの揺れだ。
更には、尖った石の弾丸が二人に向けて大量襲来。
それに加えて、魔猿はお得意の圧縮空気弾も放った。
怒涛の3連続の魔法発動。それも土と風の混合となると大盤振る舞いもいいところだ。
ダメ押しにしては明らかに過剰。オーバーキルになるかもしれないが、魔猿からすれば知ったことではない。
目の前の二人を惨殺する。今の魔猿の頭の中は怒りに満ちた目的しかないのだから。
「これなら猿コンテストに出れば優勝間違いなしだ!まあ、躾がまるでなってねえから失格貰うオチがついてくるんだろうがね」
「躾とかは俺の仕事じゃないからな。第二王子直々の鞭を、それはもう有難く受け取っておけよ?」
──なんなのだこの光景は。
魔猿のこの時の思考はまさにこれだった。
精霊に懇願し、更なる魔力を供物として放った3つの魔法。
本来ならそう有り得ない、3連続発動は自身の中でも会心の出来と言える。
しかし、それでも届かないものは届かない。
それをカルシオンは地響きの影響を物ともせず、その場で己の得物と共に舞い自身の周囲にあるすべての石の弾丸を切り裂く。
もう一人の対象となっているマドラーシュは飛来する石の弾丸を足場として宙を舞っていた。
無論、飛来するものに当たるような愚は犯すなんてことはあるはずもない。
そして、後から飛来してくる圧縮空気弾に至っては──
「死に損なった魔法至上主義者のゴールにシュート!ってな」
子供がボールで遊ぶかのように豪快に蹴り飛ばしていた。
しかも狙いは無駄に正確無比。
ここまでの経路を速度をそのまま……否、むしろ加速して逆に辿っている。
完全に虚を突かれた魔猿が避けられるはずもなく、その醜い顔面の中央にヒットした。
この場に『超!エキサイティン!』と返すことが出来る者は誰もいないというのが、唯一の泣き所か。
「ありゃ、モロ顔面か。残念、これじゃあ1ポイントにならねえな。いや、むしろあっちが1つ先に進むのか?」
「おいおいルールがごちゃ混ぜになってるぞ。普通の子供の遊びも習った方が良かったんじゃないか?」
「俺の場合そういうの覚えてもラスかキュイしか付き合ってくれなさそうだが?」
「あっ……俺が悪かったよ。それならご令嬢も誘えるチェスとかの方がいいかな?」
──何故。何故。何故!
怒りだけでなく、その疑念も魔猿の精神を完全に支配していた。
精霊に近づかんと例のモノを手に入れ、その叡智を見せつけようと使ってやった。
それでもなおこちらを侮るから、怒りと共に精霊の力を賜るように祈った。
そこまでやっても、この下賤な無礼者たちを黙らせることすら出来ない。
もはや意味が分からない。思考が全く纏まらない。
「何故なのだああああああああああがふっ!?」
「いい加減うるせえし見苦しいぞ掃き溜めが。フィゴルとかクロボーから近所迷惑で苦情が飛んできたらどうするんだよ」
耳障りな絶叫を闇と火の混合魔力拳で強制終了させる。
こんなに派手に戦っている時点で近所迷惑とか今更では?
カルシオンはそう思うが口には出さない。
流石にそこは空気を読んだというか、そもそも口を挟めるような空気ではなくなってきている。
魔猿を殴り飛ばしたマドラーシュの表情から徐々に軽薄さが無くなってきていることが最大の要因だろうか。
「何度も何度も掃き溜め扱い、選ばれしこの私に対して何という口の利き方!やはり精霊は、その汚らわしい気質を見抜いているということだな!」
「あーもうそういうのいいって。魔法が使える?精霊へ祈りを届けられるし交流できる?だから自分たちは優れてる?毎度思うがくっだらねえわ。こんな連中に色々と縛られているって思うとマジで反吐が出るし、王族も本当に報われないものだよ」
マドラーシュは侮蔑の視線と共に半ばそう吐き捨てていた。
先ほどまでのお遊びムードはどこへやらで、もはや白けてすらいる。
もう何度も見て聞いた戯言はもはや馬耳東風安定としか思っていない。
不協和音と言っても足りない程の不快な雑音だが、相手からすれば知ったことかと言わんばかり。
どこまで行っても平行線、それが狂信者と不信者というものだ。
「縛られているだと?かつての精霊契約こそがこの王国の始まりだ!それを受け継いだ我々が、今なお繁栄を支えているのだぞ!?罰当たりが過ぎると思わぬのか、無礼者が!」
「てめえらのそれはただの押し付けだろーが。そういう自慰行為は自室でやってろ。平民など知ったこっちゃねえとばかりな働きぶりとか、既得権益に拘って脅威に足るような出る杭打ったりとか……挙句王族を支配して国を陰から操ろうと目論んで?その為なら取るに足らない人間を実験材料扱い……選ばれたからって何してもいいわけじゃねえだろうが。こんな所業の数々、掃き溜め以外何と称せばいいんだ?疫病神でも全然足りてねえよな?」
「黙れ!ならば貴様はどうなるのだ、このアルガルド王子殿下の代替品の無価値王子めが!」
咆哮と共に魔猿はマドラーシュに掴みかかるが、再度空を舞うことで避ける。
しかしそれは相手も織り込み済みなのか、既に次弾の装填も完了しているようだ。
「王族として生きる道も最初から無かった貴様は一体これまで何をしていた!?魔法が使えない偉志ノ大陸の連中……あの忌々しき蛮族共と傷の舐め合いがてらと魔法紛いを作ったのは、あの奇天烈王女と同じくただ自分も魔法が使いたかっただけではないのか!?魔法が使えない分際で武勲を立てた、そこの亜人含む英雄気取りのクズどもと手を結んだ上での革命ごっこも、単に衆目を集めたかっただけの承認欲求からだろう!我々は間違いなく国を思ってやっていることだ。だが貴様の場合はその飾りだけの地位と同じく下らない独りよがり!何もかもが見た目だけの張りぼてなのだよ!そんな程度の低い人間が我々の信仰を踏みにじることなど笑い話にすらならん、恥を知れ!」
事前にチャージしていたからか、それともこれまでの怒りを凝縮しているからなのか。
先ほどマドラーシュが蹴り飛ばしたものを更に大きくした空気圧縮弾が放たれていた。
しかし、マドラーシュの表情の色は全く変わらない。
憤怒を少しでも出してもいい言われようなのに、それすら沸いてこない様子だった。
「張りぼて、代替品、独りよがりねえ……まあ、どう足掻いてもそう見えちまうんだろうな」
もはや半身になりつつあるセイリオスと千紫万紅と共に、光と闇という相反する属性を纏った一本の矢となる。
当然と言わんばかりに空気弾を障害とも思わずに突破し、更に魔猿の右腕を切り飛ばしていた。
「この、腕1本程度を奪ったくらいで──!?」
鮮血と共に吹き飛ぶ右腕を一瞬眺めるも、痛覚を塗りつぶす程に殺気を更に増加させ反撃を試みようと振り返る。
腕を斬り飛ばす程の大技を撃った直後ならば無防備だと、そう予測しての行動だ。
確かにごり押し戦法ではあるが、現時点でのマドラーシュに対してはそこまで悪くはない方針ではある。
──それは無論、出来ていればの話だが。
「俺のことは好きに言え。どうせ全部事実だろうしよーく分かってる、まあ今更なことだ」
先ほどまでの軽口全開の空気を完全に霧散させ、その無表情から窺えるものは絶対零度そのものとすら評することが出来る殺意。
どうでもいいからという結果から生じたものでは断じてない。
むしろその憤怒が瞬間的に高まり過ぎ、熱を帯びるという段階をとっくに過ぎ去ってしまった。
しかし、その冷たき暴君の表情とは裏腹に、纏う憎悪、殺気そして憤怒は加速度的に高まっている。
「……偉志ノ大陸の皆が蛮族?グランナイツが英雄気取りのクズ?いざって時でも下らねえお祈りしか出来ねえ生ゴミ共が……随分と面白いことをほざくものだなあ?」
その宣言と共に放たれた、二振りによるシンプルな斬撃の連打。
セイリオスには火の魔力が、千紫万紅には光の魔力を纏わせたまさに魔猿にとって天敵と言えるに属性の猛攻である。
おまけにかまいたちを彷彿させる風の顕魂術が、魔猿の全身を切り刻んでいた。
溜めこんでいた憎悪と殺気は、三属性の同時使用を自然に行わせてしまうほどだった。
魔猿はただただ一方的に斬られるままで、マドラーシュはさぞつまらなさそうにする。
「グランナイツとか偉志ノ大陸の人たちを堂々とコケにしておいてそのザマか。張りぼて王族くらい簡単に捻り殺してみろよ。お得意の御祈りで精霊様にどうにかしてもらったらどうだ?土下座でもして惨めに願えば、哀れに思って俺を消してくれるんじゃないか?」
普段のように煽っているように見えるが、これまで以上に蔑みの色が強かった。
強烈な侮蔑は再度魔猿の怒りを復元させ、先ほど通りの俊敏さでマドラーシュへと肉薄する。
恐怖を振り払うような必死さと、自分たちの根幹である信仰をバカにする者に天罰を下さんとする使命感は魔猿に確かな意志の力を与えていた。
「……所詮はその程度なんだよ、お前らは。本当につまらねえ……やっぱゴミはとっとと廃棄処分してやらないとだな」
──それらが目の前にある憎悪と憤怒に届くとは誰も保証はしていない。
最小限の動きで突進を捌いたマドラーシュは、千紫万紅を抜刀して魔猿の左腕の付け根を縦一文字に切り上げる。
その初撃で与えた傷を、今度は返す刀を両手で握り直した上で切り下ろすことで通していった。
二撃目で込めた魔力はこれまででも最大の凝縮度だったのか、それとも外に溢れ出るほど滾る憎悪と憤怒が見えない要因となったのか。
それは分からないが、マドラーシュは確かに魔猿の左腕を美しい断面を与えると共に切り落とした。
突進の途中で腕を失ったことでバランス感覚に狂いが生じたのか、魔猿は童のように盛大に転んでしまう。
「愉快で無様な格好だな?見掛け倒しなてめえには相応しい……いや、いっそ両足も落として達磨にしてしまおうか?」
「こんな、ことが……!いや、まだ私はやれ……!?」
両腕を失ってもなお薄れぬ闘志には誰もが舌を巻くところだろう。
現にマドラーシュも嘲り全開でこそあるが拍手を送るほどだ。
対応する賛辞は、深海色の雨を降らせるという形で送られることとなった。
無論、受け取った魔猿は一瞬だけだが完全に身動きを封じられてしまう。
「……待機させちまってるところ悪い。最後の一手間だけ頼む」
「流石にあの問答に俺が入るのはお門違いだからな。俺は空気の読めるお兄さんなもんで」
弟分と元貴族現在お猿さんの問答を見守っていたカルシオンは終幕とばかりに動き出す。
狙うは体躯の中心、その禍々しい肉体を削岩するかのように闇属性の斬撃を放つ。
暫くすると、マドラーシュの視界の奥の方に薄っすらと妖しい光が認識された。
頃合いと判断出来たのならば、その後の行動はもう彼の中では決まりきっている。
セイリオスを握り、絶妙な調整と共に魔力刃を3発ほど放つ。
遮るものを切り払い、目標となる妖しい光のおおよその座標を徐々に絞り込んでいく。
いい加減面倒になったのか、それともまだ憎悪と憤怒が残っていて雑な手段を取りたくなったのか。
あろうことか、マドラーシュは空いている右腕を魔猿の身体に抉り込ませていた。
汚らわしい肉の感覚に対しても知ったことかとその体内へと掻き分けていく。
「その傲慢さの前には言うだけ無駄だろうが……盗みを働くならせめて相手を選ぶんだな」
魔猿が動けるようになったのと、何かが抜き取られる感覚が生じたのはほぼ同時だった。
失われた腕以外を動かせるようになった途端、穴が開いたような喪失感が襲い来る。
信仰をコケにされた怒りを恐怖で塗りつぶすには十分すぎるほど。
一体何事かと焦燥感も加わり、忙しなく目だけでもと動かして──魔猿は目にした。
叡智の深淵に辿り着くための鍵となる石をあろうことか下賤な無礼者が手にしている光景を。
「返せ……!貴様如きが、手に触れていいものでは……」
手を伸ばせないにも関わらずなお奪還を試みるが、むしろその意識は薄れ行くばかり。
魔猿の核となっている石が完全に抜き取られ、供給元を失ったのだ。
当然の結果と言いたいところだが、魔力は切れているにも関わらず未だ元の姿に戻る気配が無い。
盗人の内で滾るだけ滾っている、尽きることのない醜い妄執がその逆行を妨げているのだから。
しかし、それも無駄な抵抗に終わる。
『無慈悲な主役』に相応しい死刑宣告だ。
共に放たれたのは、ただ1つの居合の体勢から放たれる千紫万紅による斬撃。
本来ならば、それは往生際も無く妄執に縋る者に死を味合わせるほどの一撃ではない。
件の石と切り離されても、その醜悪とすら取れる信仰は増幅するばかりだったのだから。
しかし、結果としてその一閃を以て、盗人は醜い姿のまま屍を晒している。
まるで盗人本人だけではなく、内に潜むそのおぞましい妄執もまとめて切り伏せた如くだった。
それをしでかした張本人は、まるで意に介すことなく血を払い、千紫万紅を静かに納刀しているが。
「どうせ今生かしたとしても、後で内密に処刑ってなるだけだから変わらねえんだろうが……わざわざお前が手を汚す必要なんて無かったんじゃないか?」
「自分のケツは自分で拭く……いつものことだ」
「ラス達を離したのもそれだって?ったく、血生臭さを誤魔化すのだって楽じゃないんだぞ……?」
実際、カルシオンの言うことも間違ってはいない。
生かして引き渡したとしても、ラインヒルト辺りが表沙汰にならないように手回しをすることだろう。
そして、この盗人は文字通り死に損なった亡者で、本来ならいてはいけない人間だ。
しょっ引きさえすれば、今度こそと確実に処刑されるのは間違いなし。
しかし、この第二王子はその工程を是とせずに自分で片を付けてしまった。
一見、ただ自分でトドメを刺したかった以外に意味がない行動に見えるが……カルシオンは理解していた。
──その行動と言動、そして無慈悲な仮面の裏を。
「やれやれ……相変わらず面倒だねお前さんも」
「張りぼてで代替品などうしようもないヤツでも……いや、だからこそ最低限の矜持を保つ。ただそれだけのことで、面倒と言われる筋合いはないね」
「誰でもないマッド様がそうおっしゃるなら、これ以上は何も言わないでおいてやるよ」
カルシオンがその面倒臭さに気が付いたのは果たしていつだったか。
最初に気付いたのはある意味で同類のレオンで、時折彼が妙な視線を向ける辺りがきっかけだったのは何となく覚えている。
今ではグランナイツ全員が共通認識となってしまっているが……。
それを指摘したところで、本人も自覚はしていて……だからこそどこ吹く風で逃げられてしまう。
最も過保護なクリスティーナは、今でも何とか引っ張り上げられないかと試行錯誤しているようだが……。
それを見てのイグノックスやカルシオンは、果たしてどうなることかと呆れか苦笑を浮かべている。
手遅れになる前に引き戻すのは可能かもしれないが、果たしてそれが正解なのかを見定めているのが兄貴分二人だから。
だからこそ今回はあえて軽い指摘で留めておいた。
(そもそも、コイツの場合はそれこそ望んでいないって節があるからな……)
全く心配ではない、と言えば嘘になる。
どんなに強く、巣立ちを推奨していようが彼にとっても大事な弟分なわけだから。
しかし、過干渉行為はそれこそマドラーシュの望むところではない。
それに、いい加減自分たちも弟離れないし子離れするべきではないのか。
それこそが、互いの為ではないのか。
──距離が近すぎると、却って見えづらいものもあるとよく聞いたものだ。
何だかんだで兄貴分として慕われているのを理解しているからこその、彼なりの少しだけ曲がった愛情表現とも言える。
マドラーシュ側としても、その不器用さを容認しているからこそ幼き頃から憎まれ口を交えながらも懐いているのだ。
「おっと、ひよっこ達もお嬢さんと合流したようだ。では、そろそろお先に失礼するよ。後始末までってなったら面倒だからな」
「んなこと初めから期待してないから安心しろ……ここまで同行してくれてありがとな」
「こちらこそ、久しぶりに楽しい時間だったよ──無茶は程々に、そして無理だけはしないようにな。次会う時はユフィリア嬢関係で面白い報告付きでよろしく頼むぞ」
「最後までその弄りを止めないのは褒めてやるよ。褒賞がてら反撃貰いたくなければ早く行け、不敬な紫の刃め」
それだけ言い残すと、カルシオンは風のように去って行った。
一人残された破天荒は苦笑と共に何とかいつもの空気に戻す。
流石に殺戮者の空気のまま彼らと顔を合わせるのは彼の望むところではない。
ただのひったくり犯追跡にしてはあまりに濃密すぎる時間は、この時ようやく終わりを告げることとなった。
というわけでオラングエラもどきというにも失礼な醜悪貴族崩れ、アウト。
まあマドラーシュにとっては仇敵そのものなので、容赦する理由など微塵もありません。
加えてあっさり地雷踏み抜かれたらそりゃあこうなるってものです。
秘密裏に始末するならいっそ自分で、まあらしいということで。
そして言わせたかったこのルビ、やっぱ鬼いちゃんと言えばこれ(他にも色々あるけど)
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)