実は後から追加した、執筆順としては新しい方の話です。
それなりにバトルシーンが入ってきます。
パレッティア王国はその辺りを歩けば精霊の気配を嫌というほど感じることが出来る。
その精霊の多さが自然の豊かさに繋がり、王国そのものの強みに繋がっていた。
そんなことはそろそろ9歳になろうとしている第二王子にはまるで関係のないことだが。
何せ、精霊の恩恵に当たる魔法を扱う才に全く恵まれていないというか、そのものが皆無なのだから。
「はいお前はよく燃えて偉い!お前はとりあえずよく切れてなさい!そしておまけに串刺しよろしく!」
少年の双方の手に握られるのは、2本の一般的な剣。
ブロードソードと称される、王国内で最も流通している片手剣だ。
理由はその生産性と汎用性の高さで、騎士団から冒険者まで幅広く用いられている。
そしてそんな第二王子がもたらしている光景は、同じ血を引く者か普通の貴族たちが見れば一体どれほどの驚愕を受けることだろうか。
マドラーシュ・リヴェ・パレッティアは、姉アニスフィアと同じく魔法が使えない。
それは例えグランナイツですらも変えようのない、ただ1つの事実である。
しかし、今黒の森で起こっている事象は、見事なまでにそんな現実に反していた。
ブロードソードの刀身に炎が帯びたり、漆黒色の槍みたいなものがどこからともなく現れては串刺しにせんと放たれたり。
その出自が故に、当たり前のようにあるはずだった王位継承権がただの代替品と化したことを知る者からすればまさに異常事態である。
その要因となっているのは言うまでもないだろう。
従来の魔法から完全に袖を分かつ新たな概念──顕魂術である。
『魔法至上主義』……その信仰において度が過ぎる部分を葬り去るために生み出された、マドラーシュの失望を経由した怒りを表した体系だ。
産声を挙げて1年足らずだが、それは静謐かつ着実に日進月歩の成長を見せている。
少なくとも開発者と初期テスターは戦闘において呼吸をするのと同義なほどには使いこなせていた。
「今日はその辺が主役の立食方式か?趣向は悪くないが、もうちょい食い応えが欲しいところだ」
二足歩行で槍を構えるカエル戦士を雷を帯びた魔力の斬撃を放って切り伏せる。
横からはツーテンポ遅れて四足歩行のトカゲが尻尾を叩きつけようと迫るが、カウンター気味に闇属性の掌底打ちを腹部に打ち込んで撃破する。
最後に真後ろからは長い尻尾の先にある毒針を遠慮なく振るおうとする4足歩行のカマキリのような魔物の対処だ。
ほんの軽く土属性の魔力を込めつつ震脚を放ち、マドラーシュ自身とその周囲に地鳴りを引き起こす。
作られた地鳴りはあまりに唐突だったので、カマキリ紛いが攻撃姿勢を解除するには十分だった。
この間合いで足を取れば、後はもはや単純作業だ。
双方の手に握られたブロードソードにそれぞれ水属性と風属性を纏わせ、尻尾を切り取って胴体を真っ二つに。
尻尾を切ったのは、毒針は素材になるであろうという推測からである。
「連続イメージと徒手空拳への付与も問題なし……さて、お前らの方は目新しさだけじゃ星5はつけてやれねえぞ?ほれ、とっとと食材補充しろよな!」
徐々にテンションが上がってきているマドラーシュの周囲はまさに死屍累々で、更に現在進行形で増えている。
グレイウルフにキラーエイプという国内では一般的な魔物から、最近王国内で発生頻度が上がって来たものまで含まれている。
先ほど襲い掛かって来たラーナ、ポーチリザード、ヌスクナッカーがまさにその類だ。
それなりに種類がいるが、今マドラーシュがいるのは黒の森と呼ばれる場所なのが要因と言える。
王国の中でも特に精霊の群生地と称されるということは、魔物の巣窟であるのと同義。
そんな危険地帯も、マドラーシュにかかれば現時点の顕魂術のテスト会場ないし鍛錬場に様変わりしてしまう。
要するに、マドラーシュの実力はこの森の平均レベルからしたら完全に役者不足と化しているのだ。
元々顕魂術なしの素の武術1本でもその傾向にあったので、顕魂術の存在は鬼に金棒といったところか。
「……おいおい、デカイ図体が自分から仕掛けておいて逃げるってか?」
最奥には群れのボスと言わんばかりにオーガが立っていた。
しかし、その凶悪な風貌はどこか怯えを含ませている。
──あのワケの分からない人間に挑んだら、自分も周りの死体に仲間入りと化す。
マドラーシュの実力を肌で感じたオーガの思考はそんなことだろうか。
その短い思考の結果は言うまでもない。
最初の威勢はどこへやら、脱兎の如く逃げ出してしまった。
オーガの持つそれなりに強靭な図体で行われる逃走劇は、まさに滑稽以外の何物でもない。
そんな光景を見たマドラーシュは……完全に白けていた。
あまりに間抜けな光景に、このまま逃がしてやろうかと思ったほどである。
しかし、マドラーシュは忘れていない。
あのオーガは、接敵した初手で数で囲っていい気になっては喧しい咆哮で煽り散らした前科があるのだから。
売られた喧嘩をそのままにしない流儀も、追い打ちの択を取るのに十分な理由だ。
そしてこれはついでだが、オーガが森から下手に出たら近隣被害があるのでここで倒しておくのが吉という要素もあった。
「マナーがなってねえビビリ木偶の坊はそもそも入店お断りだ!こっちも萎えるから迷惑料置いてさっさと出て行け」
背を向けるオーガに苛立ちを向けながら追撃のイメージを作る。
彼の脳裏には、圧倒的加速とそれに伴って放たれる闇属性を纏った突き。
手空きになる左手のイメージを始める辺りで、既にマドラーシュの加速は始まっていた。
風を伴うその加速は、その単一属性で武を振るっていたと言われる母……現王妃のそれを彷彿させる。
加速に続いて光属性の魔力を剣の切っ先を基点に纏うと、マドラーシュ自身が光輝の槍と化していた。
一体化された光属性の槍はオーガの背中に見事直撃すると、その慣性が伝導して盛大にすっ飛んでいく。
「そして、当たりを引いたみたいだからこれはおまけだ!運がいいな筋肉ダルマめ!」
並行作業で形作っていた左手のイメージはドンピシャで終わる。
放たれるのは刀身に盛大に纏わせた雷属性の魔力刃。
ライトセーバーならぬ、エレキセイバーとかそういったところだろうか。
本来のブロードソードの刀身よりも長く厚く纏われた雷の刃は、突きですっ飛ぶオーガを真っ二つにするには十分なものだった。
「加速、突進と巨大魔力刃も行けたっと。やはりイメージの練り方と熟練度でどんどん短縮できてるな」
これで喧嘩を買ってやった魔物はきっちり全滅である。
精霊を介さない顕魂術の最大の利点はイメージ伝播の速さが真っ先に上がる。
魔法では『精霊に祈りを捧げる』というものが大前提だが、これはもはや無駄でしかないとマドラーシュは断じている。
辺りをうろついている精霊には意志などなく、魔力とイメージさえ捧げれば魔法が発動するという結果は変わらない。
ならば、余計なことを考えなければそれだけリソースを無駄に遣わないという理屈だ。
戦闘においてはその時間こそが致命的になりかねないのだから、尚の事である。
こんなことを国内で流布しようものなら確実に晒上げにあうのは今の世の中では必定なのが辛い所だ。
言いたくても言えない、本当に面倒で邪魔くさい信仰だとマドラーシュは内心で唾を吐いていた。
ちなみに、現状貴族の唯一の理解者と言える令嬢とはこの観点で意気投合して友人となっていたりする。
「さて、後はカルシオンと合流して帰るだけ……?」
適当に素材をちょろまかそうと思った辺りでその違和感に気付いた。
両手に感じる重量感が、見事になくなっていたのだ。
何事かと思って二振りのブロードソードを確認すると、そのいつもの異変に気付いてしまう。
「……やっべ、またやっちまった。言い訳考えておかねえとな……」
結論から言えば、どちらも鍔と僅かな刀身から先が綺麗さっぱり砕け散っていた。
そろそろ9歳になるマドラーシュ・リヴェ・パレッティアの現在の悩み。
それは、使う武器が悉くと壊れてしまうこと。
傍から見れば、物騒極まりない現状だった。
王都サーラテリアに帰還した俺を待っていたのは、労わりとかでは断じてなかった。
そもそも顕魂術の実験に赴いたこと自体が衝動的な行動だったわけで……。
敷地内に入った途端に有無を言わさず会館の中に引きずり込まれていく。
いやだってさ、思い立ったら吉日って言うじゃないか?
たまたまカルシオンが付き合ってくれたから保護者同伴の体は為してはいたわけだから、大目に見て欲しいと言うか……。
「ほぼ誰にも行方を知らせないまま黒の森に突撃した挙句、支給武器を壊したことに関して何か弁明はあるかしら?」
「そっちについては人に喧嘩を売っておいて逃げ出したオーガ君が悪いだけで、俺はただ追撃しただけ!何も非はないと思うのですが!」
ちょっかいかけるだけかけて背を向けるヤツを逃がす人間なんてそういないと思うぞ?
それにオーガは王国内でそこそこ危険扱いされているし、あの場で倒さねえと面倒ごとになる可能性もある。
結論、俺の判断に間違いなしのはず!
「オーガに哀れみを覚えるような弁明が真っ先に浮かぶ辺り、まるで反省していないなお前は……倒すのはいいんだが、武器に気を使うことは出来なかったのか?」
「別にこいつは実際壊したくて壊したわけじゃないんだぜ?もうちょいお咎めを減らすべきだと俺は思うがな」
そうそう、カルシオンの言う通り俺に一切悪気はない!
むしろ武器の方がついていかないのが悪いのでは説あるのではって思うくらいだ。
少なくとも武器の扱い方を乱暴にした覚えなど当然ない。
「もう少し込める魔力を減らすとか、そういう調整は考えたりしなかったのかしら?」
「むしろ量はそんなに込めてないぞ?俺のモットーは量より質、デイジー師匠も知ってるところだと思うが」
「それが原因じゃないか?ただ、凝縮の度合いを落とすのは本末転倒……困りどころはまさにそこだな。まあ、まさにマッドと言える面白い理由だけどな」
実際武器が持たないって気付いた辺りから、魔力量の調節はかなりシビアにやってるつもりだった。
大体顕魂術を使い始めて2ヶ月くらいでその兆候が出始めたんだよな……。
恐らく、熟練度が上がってイメージと共に込められる魔力の効率性が急激に上がり始めて武器に対する許容範囲を超えかねない状態になったんだろうな。
やれやれ、顕魂術そのものが順調に成長していることがここまで早く仇になるのは流石に想定外だ。
「そうなると、もはや顕魂術を使わないって以外に手がないのではないか?」
それは大いに困るし絶対に聞き入れるつもりないぞ。
ただ、こうホイホイ武器が壊れるってのはなかなかに困り事ではあるんだよな……。
デイジー師匠も分かってて強度ばかりを重視した武器を回してくれてるわけだし。
それでも正直なところ、殆どまともに持ってくれたことがないのが現実だ。
属性付与だけで戦ったとしても、多分3日目くらいには鍔より先は無くなってるだろうよ。
「いっそ、俺が使っているような槌でも試すか?」
「それも考えたんだが、多分似た結果になると思うぞ?むしろイメージの問題で余計に本末転倒な事態になりかねない」
その中でも槌とかそういう打撃武器は一番イメージが沸かないと言ってもいいな。
それなら杖を使って無理やり槍を模して使う方がまだマシだろう。
……ちょうどセラがそんなことやりだしてるんだよな。
杖は割と魔力に対する耐性はあるだろうし、俺も似た方向にしてみるとか?
ただ槍となると母上以外に教えられる人がいないってのがなあ……。
唯一まともな関係なんだが、王都に殆どいないってのが難点だ。
「このままじゃあ、交易路を拓く時の面倒事処理の際に大量の剣を持って行く羽目になるな……」
「ははは!それこそ姉上様に並ぶ寄行王子になってしまうな」
いやいや、姉上にはそう簡単に勝てないっての。
だって壁に埋まったり精霊石で生み出した岩で自分を生き埋めにしかけたなんて滅茶苦茶しでかしてんだぞ?
……冷静に思い返しても、とても真似なんてしたいとも思わないことばっかりやらかしてんな。
「ちょっと待ちなさい。マッド、まさか交易路の開拓まで全部やる気なの?」
「だって俺が外交において窓口指名されてるんだから現場で動くべきなのでは?」
何を今更、という風に返したら盛大に呆れられた。
デイジー師匠だけでなく、カルリッツ父さんまで。
カルシオンだけが唯一納得してくれてるようだが……え、何で何で?
「現場視察くらいならまだしも、マドラーシュ様の場合は自分から突撃してしまって仕事を奪いかねないからですよ」
お、さっきから書類と格闘してたラインヒルト先生も参加してきた。
ただこちらも俺が参加することには反対気味のようで……。
だがその理屈ならば俺にだって論破出来る材料はあるぞ!
「交易路はフィルワッハと双子島を繋ぐ手筈だ。いくら辺境騎士団がいるとは言っても、何が出るか分かったもんじゃない未開拓地域を相手に戦力温存とか愚策じゃないかね」
「東側はただでさえ魔物が強くなりやすいし、未だ未確認の種類も多いからな。マッドの経験値にもなるし、俺も行くべきだと思うぞ」
「カルシオンは単に面白そうだからって理由で行って欲しいだけでしょう……」
カルシオンの言う通り、王国東側はやたらと強い魔物の出現事例が頻発している。
以前は『黒竜由来』のスタンピードが頻発して、かなりエグかったってグランナイツの皆の証言もあるし。
要するに、多少過度でもいいから警戒はするべきなんじゃね?ってことさ。
ただ、グランナイツをこの程度のことでホイホイ派遣するのは流石に目立ちすぎる。
そこで、一応戦力としてはそれなりの俺が出張ればいいって寸法だ。
「カルシオンとマッドの言うことも一理あるな。よし、その時は俺と部下たちを連れて行く。これならいい妥協案だろう?」
「ありがとうカルリッツのとっつぁん!さて、そうなれば武器の大人買いだな!ラインヒルト先生、また色々と苦労させるが頼んだ!」
「そこは出来る限り壊さない前提で動いて欲しいところですが……って、もう行ってしまわれましたね」
「即行動なところはアニスちゃん似なのよねえ、あの子は……。仕方ない、アレを……」
まだ8歳だけど、同伴ありきとはいえ冒険者活動してそろそろ2年の身だからな。
量産武器をある程度買いこむくらいなら懐はそこまで痛まんぞ!
ああ、一部はもう少し質を上げた上で耐久性も上げないとか。
……あれ、ところでデイジー師匠が何か言いかけてたけど何なんだ一体。
フィルワッハはパレッティア王国東部において最も栄えていると言ってもいい街である。
魔物との闘いが激化しやすい東側における防衛拠点として、間違いなくその役割は重要だ。
西のカルリーゼに比べると見劣りこそすれど、そもそもあちらは城塞都市なので比べるべくもない。
そんな東における生命線と呼べる街だが、マドラーシュにとってはそれなりに勝手知ったると呼べる場所に当たる。
カルシオンとイグノックスに連れられての無茶振りは、東側ないしその更に奥で行われるのだから。
黒竜討伐戦が起こったのが北東の方面だが、その余波を受けたスタンピードは東側で頻発している。
それを止めている……否、止められるのは現在はグランナイツとマドラーシュくらいしかいない。
無茶振りの中には当然のようにこの黒竜由来のスタンピードも多分に含まれていることが、マドラーシュを東側の常連にしている原因だ。
余談であるが、言動がどこか残念な侍女を拾ったのもこのスタンピードの鎮圧の時だったりする。
「まさかデイジーまで来ているとは……どういう風の吹き回しだ?」
「シルフィーヌが普段から外交で王都を空けてるんだったら、たまには私がこっちにいてもいいと思っただけよ」
今回の幼さと狂気が入り混じった遠征のお目付け役兼保護者役のカルリッツはその言い分には苦笑を返さざるを得なかった。
普段からやりたい放題の暴走特急なマドラーシュを叱っているから目立たないが、この第一の師匠も素はなかなかにお転婆だったりする。
一人息子を産んで前線を離れるまでは、兄レオンとほぼ同格とされるナンバー2としてそれこそ大暴れしていた。
あの掴みどころのないカルシオン曰く、制御しきれないお転婆と称されるほど。
親友である現王妃シルフィーヌに当時を尋ねれば、若気の至りを隠さんとばかりに意地でも何も答えないだろう。
そんなデイジーが今はマドラーシュの専属師匠をやりながら臨時指南役をこなしているのだから、時の流れも奇妙なものと言える。
「それで、私の可愛いバカ弟子はどこをほっつき歩いているのかしら?」
「街に入るところまでは一緒だったんだが、唐突にいなくなったな。こっそり一人で突っ込むようなバカはしないと思うが、どうにも心配だな」
見事なまでにバカの言われっぷりだが、もはや慣れっこという類のものだ。
その一面に関しては、奇天烈王女という異名が周知されだしているアニスフィアと似ていると言ってもいいだろう。
ただ、マドラーシュの場合は無いわけではないが少ない損害でむしろ利を持ち帰ることすらあるのがある意味で質が悪い。
現在悩みの種になっている武器に関しても長期的に見たら少なくない損害に思えるが、それでも物品被害なだけマシだ。
やりたい放題のトチ狂った子供に見えて、安全マージンによる線引きを理解している辺りはやはり年不相応な王子であった。
ただ、戦闘になるとその境界線をギリギリ限界まで削ってしまう辺りは狂気しか感じられないところなわけだが……。
「お、噂をすれば……デイジー、可愛い弟子は街の中にはいてくれたようだぞ」
「あら珍しい……って、何か思いっきり雲行きが怪しくないかしら?」
「言われてみれば……誰かを庇っているな。あれはクラマ族か?」
二人が見つけたのは、一人の亜人種の子供を庇うマドラーシュの姿だった。
とはいえ、その姿は普段の容貌とはまるで異なっていて同一人物だと分かるのはデイジーとカルリッツのみ。
何せ、黒髪をオールバックにしていて服装も普段とは真逆の黒いコートを羽織っているのだ。
普段は姉と兄と同じ白金色の髪に王族ご用達の礼服なので、その印象はもはや真逆といってもいい。
そんな盛大な変装を施したマドラーシュだが、現在進行形で一目見て荒れくれ者と分かる男数名に囲まれている。
その場は見るからに一触即発の剣呑な空気を醸し出していた。
「こちとらそっちの人もどきに用があんだよ!てめえは関係ねえだろうが!」
「一丁前に剣を持ってるようだが、どうせ玩具だろ?騎士様ごっこは家でやってろ!」
見事なまでのテンプレかつ子供相手にまるで大人げがない恫喝っぷり。
普通ならそんな光景を見ていられないと駆けつけるのが騎士なのだろうが……。
デイジーとカルリッツはあえてそれをせず、そして近くの部下たちを手だけで制した。
「カルリッツ様、デイジー様!?何故……」
まさかの制止に一人が抗議の意を上げようとするが、見事に止まっていた。
原因は、上司たちの表情にある。
この状況で、見事なまでの呆れを盛大に含んでいれば誰でも困惑することだろう。
「玩具持ってるだけのガキ相手に恫喝ねえ……教科書通りで欠伸が出るな。田舎に帰って大根でも掘ってろ……あ、お前らじゃ分からんか」
対するマドラーシュの口からはまるで状況を意に介していない返答が発せられた。
普段と違う容姿も相まって、この光景を見て彼を代替品の第二王子だと誰が思うことだろうか。
その内容も見事なまでな挑発返しになっているおまけつきだ。
演技か本気かまるで分からない眠そうな仕草も見事に煽りを加速させている。
「このガキ……!その舌引っこ抜いてやる!」
「身なりからしてそれなりの地位のガキだ!とっ捕まえて身代金要求と行こうぜ!」
産まれて二桁行かないであろう子供からこれだけ分かりやすい挑発を貰えば、この手の輩のやることは1つだ。
そのあまりに分かりやすい行動パターンに、マドラーシュはもはや呆れを通り越してさえいる。
ギャラリーが制止を振り切って急行しようとするのを一瞬視認すると──
「ゴミ掃除に玩具を使うまでもねえっての」
剣を抜いて向かってきた誘拐未遂犯の一人を掌底打ちの一撃であっさり無力化する。
まさかの事態に二名を除いて誰もが一瞬固まってしまうが、この後の行動から分かるように誘拐未遂犯たちには知性が見事に足りていなかった。
この一瞬で少しは分かるであろうマドラーシュの技量の一端、それすらも把握しないという愚行。
それと共に、数でかかればどうにでもなるという哀れなまでの単純な行動に出てしまったのだから。
しかもその数は5人と、マドラーシュはもはや呆れることにすら無駄な労力を感じていた。
最も近くから飛び掛かってくる賊に対してはほんの僅かに自身の位置をずらすことで避け、即座に回し蹴りを無防備になった背中に放つ。
当人の勢いと回し蹴りの威力が合わさり、真逆から向かっていた別の誘拐未遂犯の方に勢いよく倒れ込んでしまう。
それを確認する間もなく、今度は短刀を持つ未遂犯にあえて近づく。
鴨が葱を背負ってきたと錯覚した未遂犯は勢いよく短刀を振るうが、あろうことかその腕は左手一本で止められる。
挙句斬りつけた時の勢いすら利用され、型も何もなくただ雑に投げ飛ばされた。
その方向調整も完璧なもので、きっちりもう一人を巻き込む形を作り上げた。
残った一人は混沌とした状況に虚を突かれる形でアッパーカット1発で意識を刈り取る。
「辺境騎士の皆さま、雑魚の山盛りを提供するんで早急に処分よろしく」
「──はっ!?い、いつの間に……協力感謝する!こいつらを取り押さえろ!」
それこそ大人と子供の体格差が酷い小競り合いのはずが、剣を抜くこともなく秒で制圧した手腕に大半が現実逃避を促すには十分なものだった。
後のことは辺境騎士団に任せ、マドラーシュはそそくさとその場を離れてデイジーとカルリッツの元に。
勿論保護対象であるクラマ族も連れて行っている。
ちなみに、見事なまでに第二王子だということはバレていなかった。
「あ、ありがとう……。でもいいの?僕、クラマ族なのに……その、助けちゃって……」
「お前は理不尽な目に遭わされそうになって、それが気に入らなかったから俺は潰したってだけさ。クラマ族やら何やらは関係ないぞ」
「何でそういう捻くれたことしか言えないのよこのバカ弟子は!」
不器用全開なぶっきらぼうな返しであった。
これがもし救助対象が年長者だったらもう少し素直に返せたのだろう。
この時点でのマドラーシュの交友関係は、見事に同年代との付き合いを稚拙なものに変えてしまっていた。
唯一の例外がラスと、顕魂術の手がかりを得る時に知り合った令嬢1名くらいだ。
とはいえ、それにしたってあんまりな言いように師であるデイジーは強めに手刀を入れていた。
「要は、こいつにとっては普通の人間もクラマ族も、他の亜人種も守る対象だということだ」
「いてて……悪い悪い、俺はこういう大人のお友達ばっかり作っちまってな……子供とはあんま話さねえから慣れてねえんだ」
「いっぱいいた大人の悪いヤツをすぐに倒せちゃうのに……凄いんだけど変なお兄さんだね」
「はっはっは、それくらい変な方が面白おかしく暮らすにはちょうどいいんだっての……あ、そうだ。お近づきの印と口下手の詫びとして面白いものをやるよ」
カルリッツの取り成しで上手いこと持ち直したマドラーシュ。
上手いこと年相応の空気をある程度纏って持ち直すと、クラマ族の子供も波長を合わせてくれた。
変な空気になるのを避けられたら、至って自然な流れでマドラーシュは懐からそれを取り出した。
「それをちょっとだけ強く握って……そうだな、『俺だって悪い奴をやっつけたい!』って感じでイメージしてみな」
「い、イメージ?……じゃあ、さっきのお兄さんみたいな感じで……って、色がついてる!」
無色の珠に色がついただけかもしれないが、子供にとってはこのような些細な光景でも魔法のようなものに見えるもの。
ここで種を教えるような無粋な思考はマドラーシュには当然ない。
子供と接する機会が無いだけであり、空気が読めない第二王子ではないのだ。
「コイツはちょっとしたお守りだ。住んでいるのはこの辺なのか?」
「うん……。でも、最近物騒になってきてるから引っ越しするかもって父さんが言ってるんだ」
マドラーシュだけでなく、横で話を聞いていたデイジーとカルリッツも察した。
先ほどは未遂で終わったが、恐らくそれは氷山の一角に過ぎないということを。
今回の遠征の後もやるべきことは山積みであると、暗に示していた。
「俺たちはこれからちょいと魔物退治をしなきゃならねえから一旦行かなきゃなんねえが、それが終わったらこのお守りを作るよりもすごいことを教えてやるよ」
「このお守りよりも?もしかして、魔法よりもすごいの!?」
「ああ。魔法よりもすごくて便利で、更に強くなれる優れものさ。なんなら魔物だって倒せるようになるかもな」
やはりこの頃合いの男児というものは強い者に憧れる傾向があるのだろうか。
マドラーシュは目の前のクラマ族の子供を師の一人息子兼自身の幼馴染にどこか重ねていた。
無論、自分の中でもその憧れはいまだ燃え尽きることはないのだが。
「分かった!約束だよお兄さん。魔物退治、頑張ってね!」
そう言い残したクラマ族の駆け足はなかなかに早かった。
この出来事を家族に少しでも早く話したいのだろう。
そんな後姿を微笑まし気に見守り、無事その影が小さくなることを確認してマドラーシュ達は集合場所に戻った。
「末っ子の癖に先輩風ならぬ兄貴風吹かせちゃって、ちゃんと約束は守らなきゃダメよ?」
「未来がある子供の期待を裏切るなんてことは教わった覚えは無いし、俺の辞書にも載ってないぞ」
「ふふ、兄さんも言いそうなことね……貴方もまだ子供に分類される年齢だってことは目を瞑るべきかしら」
「そこは可愛げが無いガキってことで流してくれよ、デイジー師匠」
末っ子とは言っても、姉と兄とは離れて育ったので実質一人っ子のようなものだ。
彼の幼馴染でもあり、家族ぐるみの付き合いであるラスが現状唯一の友人であり兄のような立場である。
しかし、殊更武術においてはマドラーシュの方が兄弟子なのでそこから兄弟関係が逆転することも割と多い。
ラスの方もマドラーシュの異常な面を度々見ているから、そこは容易く受け入れてしまっているとか。
「それにしても、彫魂石をあんなあっさりと渡してしまって大丈夫なのか?」
カルリッツの懸念は至極真っ当なものだった。
そもそもが世界に根付きすぎている『魔法至上主義』への抵抗の矢であり、扱いは慎重になるべき劇薬に当たる。
その根幹に当たる彫魂石を子供に渡してしまっていいのか。
下手をするとクラマ族全体を変に巻き込むのでは?
そんな凶兆とも言える疑念に対しても、マドラーシュは至って冷静そのものだった。
「クラマ族には抵抗軍ってのがあるからな。自衛手段を提供する体でテスター増やせないかって思ったのさ。それに……クラマ族含む亜人の迫害等の問題は気に入らねえ」
「そういう人種の差別や迫害の話になったら殺気丸出しになるものねえ……それもまたマッドらしいわ」
「そこまで考えているなら、これ以上俺から言うことはないな」
息子分のしっかりとした答えを聞いて、カルリッツはどこか満足そうだった。
例え根幹の理由が『気に入らないから』だとしても、その考えは彼の中にある騎士道に通ずるところだ。
口は悪いし、姉譲りの突拍子の無いところに気を揉むことも決して少なくはない。
顕魂術を開発した経緯も、『魔法至上主義』への侮蔑と憎悪と決して表に出せるような感情ではない。
それでも、行動原理には人間として持つべき真っ当な義憤も含まれているのも確かだ。
矛盾はあるかもしれないが、それでも悪くないと言える息子分の成長曲線にカルリッツは静かに笑みを浮かべていた。
ホイホイ武器を壊しているのはあの悪魔狩りの過去イメージです。
最近小説版を電子書籍で読んだので、つい入れたくなりました。
更にここでグランサガ原作とのちょっとした相違点、そして後の転天側にも繋がるちょっとしたフラグです
まあこのフラグが生きるのは別種族キャラですけどね
そしてしれっとグランサガ以外のモンスター。
今回のポーチリザードとヌスクナッカーは、サガシリーズの系譜で隠れた名作、ラストレムナントからの登場です
このように他作品からの登場はしれっとやっていきます。
大物は滅多にやらんつもりですが。