こうして見ると結構webと書籍違うんですよね、当たり前なんですけど。
何でこの辺りをweb準拠にしたのかは、大筋の展開が丁寧に見えたからですね。
グランサガぶち込むならそっちのほうが都合が良かったので……。
色々と嵐のような謁見は無事に終わった。
何というか、昨日とは別の意味で疲れてしまいましたね……。
今はお父様と共に屋敷への帰りの途中。
馬車に揺られながら、今日あったことを一つ一つ頭の中で反芻させていた。
婚約解消については結果としてはいい意味で何も言うことはないでしょう。
これでアルガルド様も何とか踏みとどまることは出来るはずです。
その過程でお父様とも無事に本音をぶつけることが出来ました。
私の目的はほぼ完遂出来たと言ってもいいでしょう……あまりにあっさりでしたけど。
しかし、ここからは衝撃的な話ばかりだった。
マッド様の教育係が凄い人たちなのは彼の口ぶりから薄っすらとですが分かってはいましたが……。
それがまさか、一度は世界を救った英雄たちだったなんて一体誰が思うだろうか。
しかも幼い頃から書物で見たことがある、あの『黒龍討伐戦』の最大の功労者たちだったなど……夢かと疑ってしまいました。
そんな彼らも、地位を脅かされると危惧した魔法省や貴族に存在を陰に追いやられるという理不尽に曝されることとなった。
マッド様も口を酸っぱくして仰っていた人の業というものですね……。
貴族側としてやるせなさと義憤に駆られると伴に、改めて律しないといけないと感じた所存です。
──それにしても、彼らほどの超人的逸材はむしろ厚遇の上で重用し、最悪の事態に備える形の最高戦力とするべきだというのに……。
既得権益の為だけに追いやるなど、愚の骨頂以外どう捉えるべきでしょうか。
それと、マッド様が国にとっての危険因子と扱われていることも少々ばかり理不尽さを感じましたね。
最初は王位継承権を争わないように引き離されて、新たに教育係として就任したグランナイツの元で高い基準の教育を受けて。
その結果がアニスフィア様にも劣らないほどの能力と利発さを得て、王妃の保険ありきとはいえ無茶振りにも応えて……。
それで国の危険因子扱いだなんて、あまりに評価が振れすぎている。
マッド様がその気がないことをよく知っているからこそ、私はそれを聞いた時は少しだけ怒っていました。
私がこの場で怒りを抱いても仕方がないとすぐに思い直し、その場で落ち着くことは出来ましたが。
──そして私が一番堪えたのは、これだけの大事なこれらの情報をあの場で初めて知ったことです。
私は一応、3年来の友人のはずのに……これらのことを全く知らなかったのですよ?
思わず乾いた笑い声でもあげようかと思ったくらい、どこか悲しくなりました。
今思えば、これまで自発的に自身のことを話しているところを見たことも聞いたことも無かった。
大体私の愚痴や相談を受けては、時に一緒に悩んだり、少し変な回答をすることでおかしなやり取りに持って行ったりだ。
いえ、最初はそういう友人関係ですからそれでも良かったのですけど……。
もう3年の付き合いなのですから、少しくらいは話してほしかった。
アニスフィア王女、この件に関しては貴女に同調いたしますよ。
「ユフィ。1つ聞きたいことがあるのだが」
「──失礼いたしました。何でしょう、お父様」
……危うく色々と感情が爆発するところでした。
先ほど危険因子とまで称された第二王子のことで頭がいっぱいになっていたなんてことが、お父様には悟られてはいないのは幸いですが。
流石にそこを悟られても気にしない、なんて堂々と言える程私は図太くはない。
「アニスフィア王女についてだが、どう思う。お前の思うまま、率直に答えて構わない」
アニスフィア王女について……ですか。
マッド様と違って正直たったの2日しか彼女のことを見ていないから、はっきりと言えることはそう多くはない。
まあ、第一印象として率直に語るのであれば──
「奇人と呼ばれるだけあって、思考や感性は確かに独特ですね。困ったところは多々ありますが、悪人とは程遠い人物……現状の評価としてはそんなところでしょうか」
「好むことは出来そうか?あの方の助手となるからには、無理をする関係では長くは持たないぞ」
「それは問題はないかと。少なくとも、演技とはいえ窮地にいた私に理屈もなく、問答無用で手を差し伸べて頂きました。好ましい印象は十分でしょう」
「──その言い分だと、あの方の噂と沿ってもいいというわけではなさそうだな」
なるほど、お父様の言わんとすることは理解できました。
……が、そもそも実の娘をその道に促すというのもどうなのでしょうか。
それとも、そこまでアニスフィア王女を買っているということなのか。
「昨日も今日も何度かささやかなアプローチがあったのかもしれませんが、私にはどうにも……気の置ける友人までなら想像できますけど」
「あの方はなかなかの人たらしのはずだが、現時点で友人関係までと言い切るか。──既に心に決めた異性がいたりするのか?」
「いえ。婚約解消前後に関わらず次の相手を探す、なんて器用なことは私にはとても出来ません。今でさえ自分のことで手一杯ですので……」
もしこれがアルガルド様からの婚約破棄、という形だったら男性に嫌気が差していた可能性はあるだろう。
いや、それでも同性を慕う方向に走っていたかと言われたら……
ただ現時点では心に決めた、というのも……無論すぐに浮かんだ顔は言うまでもなくあの人ですが。
では彼とそういう仲になるのを望んでいるのか?
そもそも、これからの彼との関係をどうしたいのか……その着地点がだんだんぼやけてきている気がする。
……思った以上に疲れているのでしょうか、どうにも考えが纏まりませんね。
とにかく、変に悟られないように話は続けないと……。
「アニスフィア王女以上の相手となると、件のお前を変革させたきっかけの者か。一体どれほどの豪傑なのか、想像も付かないのだが」
「あの人については……そうですね。傍から見ると自分勝手で、更に北風のように酷薄な面が顔を出すこともしばしばです。痛いところをとことん突いてきてこちらを凹ませてくるのですが、その指摘には独特の温かみがあり……何だかんだで人を救ってしまう。そんな両面を同居させた、とにかく破天荒な方ですね」
「聞くだけならかなり滅茶苦茶な人物だが……そんな者だからこそお前の心の枷を外すきっかけとなったのだろうな。アニスフィア王女にもそのような身内がいたらあるいは……あの方はとにかく危ういからな」
──先ほども危険因子扱いされてた第二王子のことなんですけどね。
怖いもの見たさで暴露してしまいたいという欲も少々ありますが、まあ止めておきましょう。
……それはさておき、お父様の言うアニスフィア王女の危なっかしさについては私も薄々感じてはいた。
魔学へのアプローチなども含め、とにかく表向きの勢いは凄くまさに突風と言ってもいい。
しかし独裁を敷くと脅した時は……一種の危惧を感じた。
アニスフィア王女をそのまま女王にしたら、確実に孤独の王……はたまた王と言う怪物にしてしまいかねないと。
あのお方が風になるのを止めた時は、思った以上に儚い存在なのではないだろうか。
それならば、アルガルド様がすんなり王になった方がよほど安心できる。
今の彼ならそのまま研鑽を積めば普通に王座に付く資格はあるのだから。
資質の不足など後から補えるでしょうし……そもそも、既に上昇気流に入っていますからね。
アニスフィア王女のあの不安定さはどこから来ているのか……それは殆ど誰にも分からないのでしょう。
こうなると、やはり彼の出番なのでしょうか。
長いこと距離を空けて、傍観者でいたマッド様だからこそ……顔を合わせたら何かが起こるかもしれませんね。
……そんな彼のことを思うと、何故か心の靄が広がるのですが。
そこまで長い時間を空けているわけでもないのに、不安の蓄積がこれまでに無いほど顕著なものになっていた。
(アニスフィア王女の突撃に便乗したいところですね……)
思わずそんな物騒なことを考えてしまうほどに、私は己を急かしてしまっている。
聞こえてくる規則的な馬車の移動する音とは対照的に、私の内面はとにかく色々と喧しい。
婚約解消という一つの標に至ってなお、私は霧の中にいるのだと錯覚していた。
その解消法として、咄嗟に彼を求めてしまっているが……。
──本当に、このままでいいのでしょうか。
一方その頃。
婚約破棄騒動のもう一人の被害者と言えるアルガルドは、既に謹慎状態にならざるを得ない状況だった。
元々ここから大っぴらに動く腹積もりではないので支障はない。
むしろ彼にとってこの状況は予定調和と言えた。
強いて言うなら、退屈な状況に精神を削られることが辛いくらいか。
(──今日になっても俺に対する大きな動きはない。すなわち、ユフィリアへの事情聴取を優先したということだな)
彼にとっては想定通りの流れと言える。
そもそもこうでなければわざわざ咄嗟のアドリブで悪役寄りになった意味がない。
自身の姉に搔っ攫われる直前の様子は、あの場の誰も見抜けていない。
咄嗟に合わせた中でのあの役者っぷりを考えても、この展開は最悪の中では良い選択だったであろう。
即席芝居の被害者担当であるユフィリアが先に裏事情をある程度話せば、父と姉も流石に全く信じないということはないはず。
その場に彼女の父であるグランツまで同席して、前倒しする形になってでも婚約解消の話まで進め……更に承諾まで貰えばもう満点と言えるだろう。
──実際少し前、ユフィリアも好機と見て攻勢に出て双方の父からの了承まで得ているのでその満点に達しているのだが。
策略の成否とその度合いに思考を回していると、部屋からでも聞こえてくる軽快な音が耳に入った。
(──足音?もう見張りが付くのか?……いや)
急ぎ気味の小走りになっているのだろうか、音の感覚が短い。
見張りにしてはおかしいと判断するや否や、アルガルドは少しばかり警戒を強める。
あの時取り巻きとなっていた誰かの差し金で、何かを仕掛けに来たのかもしれない。
音の発生源が鎧を着ていないであろうことも分かると、あらゆる可能性を考えての対策を即座に編み出す。
精神的に作用する魔法のようなものを用いられる可能性があるので、顕魂術を扱う時の感覚で彫魂石の存在を意識する。
……足音が止まり、それと同時に扉が静かに開く。
その先にいたのは……
「突撃隣じゃねえけど兄の部屋!ってな。まるで問題なさそうだな、アル兄さん」
「余計なジョークはいいからさっさと入りなさい。アルガルド君、災難だったけどよく持ち堪えたわね」
「マッド!?……それに、デイジー師匠まで?」
小声とはいえ相変わらずの軽口と共に入ってきたのは、親愛なる(口には絶対に出さないが)双子の愚弟。
更に母の親友であり今の自分にとって数少ない相談役と言える弟の最初の剣の師であり、自身の師にも就いてもらったデイジー。
想定外ではあったが、今の状況で最も会いたかった人物ではある。
そんな彼らがわざわざ来てくれたことに、アルガルドは珍しく表情が緩んでいた。
「ラインヒルト先生やカルリッツ父さんから聞いただけなんだが、よく咄嗟に芝居が打てたな?デイジー師匠の言う通り、ナイスアドリブだ」
「いきなり婚約破棄しろなんて言われたんでしょう?動揺しないですぐ策を考える辺り、本当に逞しくなって師匠としては鼻が高くなっちゃうわ」
部屋の主が促す前に堂々と椅子に座っていることに特に何も言わない。
むしろ今はその慇懃無礼っぷりが心地良いくらいなのだから。
そしてグランナイツナンバー2に素直に褒められたことで、少々ばかりの気恥ずかしさも覚えてしまう。
が、そんな顔を見せたら愚弟に弄られることは確実であろう。
そればかりは勘弁願うところで、何とか喜色を表には出さず真面目に取り繕って話を続けた。
「あの場はどう反論しようが手応えが感じられなかった。そこに姉上が乱入してくれたから、場の空気が変わると共に俺だけでも悪役を演じる。その上でユフィリアを逃し、彼女に真実を伝えてもらう方が確実だと思っただけさ。」
「自分のしでかしたことを咄嗟に利用されたなんて知ったら、アニスちゃんはどんな顔するのかしらね」
「アル兄さん、警戒しとけよ?魔道具の実験に付き合わされたりしたら命いくつあっても足りないからな」
「そうだな、その時はお前を犠牲にして逃げるとしよう。ユフィリアとは違い、お前ならば自分で何とか出来るだろう?」
「っておい!そこは兄なんだからそっちが犠牲になるべきだろうが!」
マドラーシュの冗談は冗談で終わらなさそうだから困る……デイジーとアルガルドは苦笑と共にその可能性を考えていた。
あの奇天烈が擬人化した第一王女ならば、本当に矛先を向けかねないと。
ただ、残念ながらその不安はヒットしていないのだが……これまた別方向からの槍の飛来が確定してしまっている。
アニスフィアとユフィリアの八つ当たり気味の突撃と言う名の特大級の槍……いやミサイルが。
『どうしてこうなった!』と言う羽目になるのはむしろマドラーシュの方である。
この第二王子の流れ弾喰らい癖はもはや一種の呪いだろう。
「さて、真面目な話に戻るとだ。反論に手応えが無かったって言うのは……『ユフィリアがレイニ嬢にイジメをしていた』と、その場の全員が決めつけていたってことだよな?」
ここからが本題と言わんばかりにマドラーシュの表情から軽薄さが消える。
若干のリスクを負ってでも先行気味にアルガルドと接触を図ったのは、素早く当事者からの情報が欲しいからだ。
いつ見張りが来るかもわからないため、情報交換は手早く済ませたいところであった。
「ああ。レイニの取り巻きは以前の俺と似ている挙動だったが、その周囲は無意識下に同調している感じだった。明確に誘導されているような風だったぞ」
「流されるような子が多いのはまあ貴族学院だから有り得るとは思うけど、アルガルド君が否定しているというのに全員が決めつけるような空気というのは流石に行き過ぎてるわね」
アルガルドは最初その忠言を荒唐無稽と断じてユフィリアを庇っている。
一時期の対立関係の噂が尾を引いている可能性は確かにあるが、誰も彼もその影響が残っているというのは流石に奇妙だろう。
どちらの言い分が正しいかなどあの場で分かる者は二人以外おらず、普通ならば意見は割れてもいいところだ。
それがどうだ、あの時の場の空気はユフィリアが悪役で決まりという流れがあまりに形作られすぎていた。
その点については、乱入者であるアニスフィアも同じ違和感を抱いていたことでもあるのだが。
そしてマドラーシュはアルガルドの状況説明から1つの有力説が既に浮かんでいた。
「連中の作り出したブツのなかにはそういう思考誘導を促すってのがあったな。確か、ヴァンパイアの魔石の効力を再現する中で出来たプロトタイプだったか?」
「ヴァンパイアの魔石の再現だと?おとぎ話ではなく、実在するのは認知しているが……そんなところまで連中の手が及んでいるのか」
「確かにこれまでマッドや兄さんが潰してきた中には魔石の再現をやらかしてるところがあったわね。アニスちゃんとマッドに比べたら牛歩だけど、随分とあくどい方法で補ってるわ」
「……思い出したくもねえがな。ったく、あれはかなり反吐が出た」
デイジーとマドラーシュの表情からアルガルドは察してしまった。
そのあくどい方法というのが、どれほど人道から外れた行いなのかを。
同時に辺境、特に亜人種に顕魂術を広めるという最近の啓蒙行動……その意味も理解した。
──あれは、自衛手段の提供でもあったのだ。
施しを与えるのではなく、生きる手段の根幹を与えて使い方までを伝授する。
その根があれば、これまで厳しい環境と向き合ってきた者たちは各々でどうにか出来るだろう。
酷薄に見えるが、そこには一定の信用と尊重がある。
どこまでもマドラーシュらしいやり方とアルガルドは改めて感心していた。
「なーにこっち見て笑ってんだよ」
「お前のその芯だけは通ったチグハグさは相変わらずだと思っただけだ……話が逸れたな」
アルガルドは思考を自身の現状における問題に戻す。
とはいえ、既に答えは出ているようなものだったが。
ヴァンパイア──おとぎ話でしか語られていないが、実在する彼らの能力の1つはそこに描かれたままのものだ。
色々と変わる前の自分がちょっとした雑談がてらに聞いて、国を無理やりにでも変えようと思いもしたその能力を忘れるはずが無かった。
聞いた当初はどこか魅力的と思い、思わずそんな甘味ながらも破滅を招く誘惑に絡め取られかけていた。
今となってはそんな過去を忌まわしきものと断じ、アルガルドの人生において最大級の汚点として認識すらしているが。
それらを基点に考えれば、全体像は徐々にだが見えてきた。
「思い起こせば、レイニからはあの場の空気を更に強くした違和感を感じられたな。マッド、お前の以前の予測は確か──」
「魅了の魔法が使えるか、またはその手の魔石……それこそヴァンパイアの魔石持ち。顕魂術を学んである程度その手の感覚が鋭くなったアル兄さんが感じたのなら更に確率が上がったか」
顕魂術は己の魂の一部を精霊代わりとして用いる。
その影響の1つとして、自我に何かかしらかの影響を与える外的要因への感覚が鋭くなるのだ。
早い話、魅了に代表される精神干渉の傾向を察知することが出来る。
その顕魂術の副産物が功を喫して、マドラーシュが以前たてた仮説が3年越しとはいえ証明された。
事は既に起こってしまっているが、ならば先を見据えた利用法を考えればいいだけのことだ。
「レイニ嬢の立ち位置次第ではあるけど、相手の目的の方向性はハッキリしてきたわね」
「この国を裏から操ることが出来るように魅了でゴリ押しと来たか……やれやれ、ウガルーの時といい、行動が随分と強引になってきてねえか?」
「先日のセリアード嬢のブローチが盗まれた件か。全く、この2件が繋がっているなど他に誰が分かるのやらかだな」
この婚約破棄騒動単品で怪しいと睨むことが出来る人間はまあいるだろう。
現にアニスフィアもユフィリアもそこは疑いの目を向けることが出来ている。
しかし、その裏に控える連鎖的事情はそもそも知る機会すら与えられていないのだ。
先導して対応しているマドラーシュが必要最低限の人員以外には行動そのものを悟らせないようにしているのだから。
「しかし、こうなってくると父上と母上にはある程度のところまで知らせた方がいいんじゃないか?お前の可動範囲では限界があるぞ」
「私もアルガルド君に賛成。下手な影響を与えたくないっていうのは分かるけど、このまま手をこまねくと何もかもが手遅れになりかねないわ」
「……そうするしかないのかね。やっぱ人生ままならねえし、俺もまだまだってことか」
アルガルドとデイジーの指摘はマドラーシュも薄々理解はしていたことだ。
相手の規模に対して、こちらは動ける人員とその範囲が厳しい。
自由に動き回ることが出来るのはそれこそルドミラとカルシオン、そしてレオンの3名くらい。
先陣を切っているマドラーシュと裏の潤滑油となっているアルガルドはどうしても王族という立場が枷になっている。
グランナイツ王都残留組は騎士団含む王都内の動きの把握や抑制で身動きが取れない。
ラス達は見習いではあるがマドラーシュが目をかけていることでマークが厳しくなる可能性がある。
いくら超強力な人員揃いだとしても、一人一人のキャパシティという壁はどうしても立ちはだかる。
それでもこの数年、あちこちでこの国に巣食う膿の一部を片付けてきたものの……行動規模の差が顕著にここに来て表出していた。
「仕方ねえ、母上と父上には折を見て多少の部分は共有しておく。だが今はタイミングが悪い」
「──ただでさえ俺の王位継承権周りが揺らされている最中だからな。そこにこんな裏事情を持ち込んだら間違いなく混沌と化す」
「後、本当にどうにもならないと思ったらラス達にも声をかけること。貴方が色々動いてるのはあの子だって知らないわけじゃないし、結構気にしてるのよ?」
「まだ見習いだからって思わず除け者にしちまってたが、アイツらもウガルー倒せるほどだもんな。……やれやれ、こんなんだと風穴空けられたり燃やされたり、なます切りにされそうだ」
マドラーシュとしても初めから将来の近衛騎士の面々を除け者にするつもりはない。
あくまで時期尚早なのではと、少しだけ過保護になっていただけのこと。
先日のウガルー撃破という大金星から、その評価が間違いだったということは痛いほど理解していた。
もう1つ2つ任務を終えれば、というか多少強引にでも正騎士にしてしまってもいいとラインヒルトからのお墨付きもあったり。
マドラーシュとしてもその成長速度は鼻高々でありながらも、一抹の寂しさも覚えているところ。
この時、伯父バカな某グランロードにシンパシーを感じてしまっていた。
「さて──ある程度の方針が固まったところで、一旦王都から離れても問題は無さそうだな」
「待て、お前が王都から離れるだと?……何か急を要することなのか?」
まさかのタイミングでの王都離脱宣言に流石のアルガルドも面食らった。
一瞬自分たちを見捨てるのか?と思ったが……即座に思い直した。
そもそもこの不器用北風太陽系愚弟がそんなこと出来るわけないと。
「セリアードちゃんから預かったブローチについてベル教授って人を尋ねたんだけど、間が悪いことに不在だったの。そこで実績の上積みというお膳立ても兼ねて教授を連れて帰るという任務を与えたのよ」
「そしてベル教授ってのが俺の古い……それこそ魔法の解剖を行ってた頃からの知り合いでね。割と偏屈な人だから、知り合いの俺がいた方が話も楽だってことで同行することになったってわけさ」
「──確かに、俺たちの方はあらゆる方面で出待ちだからな、合間を埋めるには丁度いいだろうが……それだけではないだろう?」
マドラーシュが水面下で精力的に動くのは今に始まったことではないし、そこに疑いを持つ余地はない。
だが今の彼にはどこか焦りというか、やたらと王都を離れたがっているように見受けられた。
まだ裏に何かあるのかとどこか身構えるアルガルドとデイジーだったが……。
「何ていうか、嫌な予感がするんだよ。姉上とユフィリアが二人まとめてこっちに凸かましてきそうな……」
何ともバツが悪そうな表情で言い放たれたのは別に何でもない、恐ろしいまでに個人的な理由。
当然、二人にとってはある意味どうでもいいことである。
見事に面食らった二人は見事なまでにズッコけていた。
「何だそのしょうもない予感は……」
「そんなのどう考えても貴方の落ち度でしょ。先延ばしするのは勝手だけど、後で泣きついてもスルーさせてもらうわよ?」
「えぇ……何の落ち度だってんだ一体。泣けるぜ全く」
アルガルドとデイジー双方からは当然のようにツッコミの槍が放たれる。
そして、その予感は如何にも当たりそうなのは言うに及ばず。
何の落ち度かと問われたら……普段の過度にやりすぎている秘密主義のツケとでも返すべきだろうか。
──そんなふざけた空気とは裏腹に、マドラーシュは別の予兆も感じ取っていた。
(あのベル教授が急行するほどだ、確実に何かとんでもねえことがあるんだろうが……タイミングがあまりに妙だ。まあ、行ってみるしかないんだろうけど)
まるで自身を王都から引き離すよう誘導しているような……そんな動きとも捉えられる。
偶然と片づけるのも不可能ではないが、マドラーシュはどこまでも疑り深かった。
やりすぎな位に疑いの目を向けると、必然的にこの婚約破棄扇動という厄介事に重ねているが如くだ。
わざわざそのタイミングでマドラーシュに別行動を強要する勢力となれば、それこそ『連中』以外そうそう候補は上がらないだろう。
誘導どころか、一種の罠である可能性も捨てきれないが……マドラーシュにとっては赴かない理由が無かった。
(ユフィリアを独り立ちさせるにはいい機会だからな……せいぜい活用させてもらう)
アニスフィアとユフィリア……特に後者と距離をついでに置けるので、まさに一石二鳥の状況だ。
今回の一件は、確かに友にとってはよろしくない状況を引き起こしている。
が、裏を返せばピンチ是即ちチャンス……マドラーシュ流のスパルタライト版を叩きつけるにはちょうどいい機会となる。
今のユフィリアにとってのマドラーシュは、いわば居心地のいい鳥籠だ。
機会に恵まれなかったと言えばその通りだが、それでも付き合いの狭さは見て聞いて明らかになっている。
その弊害は、互いにとって良くない結果を招くこと請け合いだ。
面倒な芽は早めに取り除くに限る、そうと決まったマドラーシュに行動はとにかく迅速だ。
即決即断が過ぎると言われれば、それも間違ってはいない。
(まあ、鬼だ悪魔だ揶揄されるんだろうが……そんなん今更だからな)
傍から見れば無情に思えるだろうが、マドラーシュにとってはそのように評されることなど痛くも痒くもない。
無慈悲だの悪辣だの、自身が最も理解しているところなのだから。
上記の行動指針を固めたのは、奇しくも『時に北風のように厳しい時もある』と自身の評価を伝えられているタイミングであった。
ユフィリア自身の手による原作フラグ一刀両断炸裂。
まあ、物理的ダメージを負った分はある程度帳消し出来てるけど……ってくらい。
耐性はきっちりあるし、あちらの陰のやりたい放題っぷりを知ってしまったのでそもそもそれどころじゃない。
そして見たことあるような曇りフラグ、まあそうなるよねーなところもあるか。
マドラーシュ側はあえての距離を離しましょう宣言、これはまあ彼の経験ならでは。
……どういう15歳だとか言ったら負けです、っていうかこれくらいならセフセフ。
そして最後に、グランサガ2周年おめでとう!これからも数多くの笑いと戦いの苦しみを味わせてくれよ!
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
-
グランサガの二次がレアすぎて
-
バトルハードモードに釣られた
-
ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
-
その他(そもそもの作風とか)