というわけで、カル渓谷探索の裏側のユフィリアサイドです。
ここまで積もりに積もったものに突っ込んで……いければいいなあ(逃避)
久々のマッド様の離宮訪問は、ある意味では確かな実りがありました。
彼のことを最もよく知る者たちと鉢合わせ、更に掘り下げた部分を聞くことが出来たのだから。
どれほどの無茶苦茶をしてきて、その原因となる滅茶苦茶な壁の存在も理解した。
──その代償も決して小さくはなかった。
何せ、自分でも薄々感づいていたことを改めて突きつけられてしまったのだから。
その帰り道は、ひたすら霧の中を彷徨うような感覚に陥っていた。
これまで知り得なかったマッド様の事情を知った、そのときに最初の綻びが生まれたのは間違いない。
アルガルド様との婚約解消を告げ、実質自由の身になった直後だったからか……襲い来る棘はより大きく感じた。
その後、アニス様と色々話をしてきてその突拍子の無さや噂通りの奇天烈っぷりを目にしては都度比較していた。
姉弟の性質の細かな違い、それは否が応にも自分に返ってきてしまうのを感じながら。
──アニス様の突拍子もないながらもどこか真理を突いていく様は、相対的に自分の立ち位置を理解させられてしまうほどで。
どこか既視感がある何かに駆り立てられるような嫌な感覚にただ振り回されそうになる。
振り払おうにもそうさせてはもらえず、むしろ症状は悪化しかねんばかりだ。
そこで私は、唯一相談に乗ってくれるであろう人物に昨日までのことを話した。
「なるほど……まずは、波乱万丈の日々を無事乗り切り大変お疲れさまでした」
そんな労いの第一声が、最初の返しでどこか安堵してしまう。
アニス様は現在工房に籠っていて、私は暇を持て余している状態だ。
助手になる際の事前講座の直後にマナ・ブレイドを見せて頂いて、その時に何かを思いついたようでその作業にかかりっきりとのこと。
昨日は必要なものを手配に街に繰り出し、そのついでで唐突の離宮訪問に走ってたまたま一緒になっただけだったとか……。
それに……このことはアニス様に相談するのはどうにも及び腰になってしまう。
実の弟君の裏事情を知ったのは時を同じくしていますし、あちらも思うところがあるかもしれない。
それに、この場合は半歩でも引いた位置と立場で状況を見ることが出来る人物が適切のはず。
そこで真っ先に浮かんだのは、それぞれの専属侍女だった。
ただ、セラに相談となると昨日の今日でとなってしまう。
そうなれば、最も手っ取り早いイリアに話すことになるのは必然と言えるでしょう。
「マドラーシュ様は幼い時から周りに恵まれていらっしゃったようで、更にその厚遇に一切の慢心を抱かず……常に出来得る限界を突き詰める。あらゆる要素を持って己を常に引き上げていくその様、やはり破天荒と呼ぶに相応しいお方ですね」
「その為に随分と無茶をなさっているみたいですが……そういう意味ではお二人は姉弟だと痛感できますね」
そもそも英雄という概念は、目標とするには本来遠すぎるもの。
グランナイツがマッド様の教育係となったのは彼が3歳の時と聞いた。
それくらいの歳で彼らに憧れその未来図を思い描くのはまあ、分からなくはない。
暫くの間はそれでも微笑ましいで済ませることも出来る。
しかし、あろうことかマッド様はその目標に本気で至ろうとしてしまっていた。
この12年間、一度もその高すぎる目標から目を逸らすことがなかった。
常人ならざることをひたすら己に課すことで……。
凡人の領域など、眼中にもないのだろう。
アニス様の魔法への執着と殆ど変わらないか、下手をすればそれ以上にも思えてならない。
一体何をそこまで彼を駆り立てるのか……。
そして、私自身もそんな狂おしく動く彼を思うと……何かに蝕まれるような感覚に陥りかけてしまう。
「どこまでも自我を主軸にしている点もお二方は一致していますね。マドラーシュ様は、本来アルガルド様の代用という役割が強いて期待されていたことのはずが……知ったことかと蹴り飛ばしてやりたい放題と来ていますけれど。かつての私とはまるで大違いで、聞けば聞くほど眩しくなるますね」
「……イリアも、アニス様と出会う前は型に嵌ってしまっていたのですか?」
「そうですね……今思えば、何故あのような扱いに疑問を持たなかったのかと思うくらいには嵌り切っていました」
かつての私の鎖……次期王妃に相応しくあらんと、愚直に進んでいた頃と似たようなものでしょうか。
イリアについてはアニス様から断片的にしか聞いていないので、どうしても気になってしまう。
というより、なかなか想像がつかないと言うべきでしょうか。
あの主に対してでも、程よく諫める術を持っている彼女しか知らないものですので……。
「親の言うことに疑問を持たないのは当たり前でした。それも『玉の輿を狙え』と言われれば従い、実家への支援と引き換えに私を求めた好事家の老人に嫁げと言われた時も……」
「待ってください。玉の輿まではまあ、よくある話だと思います。ですが後者はもはや道具扱いですよね!?」
「権力志向が強い実家でしたからね……まあ、そんな生き方も姫様が粉々にしてしまいましたが」
権力志向と言っても限度があると思うのですが!?
以前の私でも眉を顰めるくらいの反応はしたであろうこの扱われ方、もはや型に嵌るという領域の話ではないですよ!
アニス様、よくぞやってくれました。
それは褒められるべき行い……善の破壊工作とすら言えますよ。
それと、もしアニス様ではなくマッド様だった場合は……想像するのも恐ろしくなってしまう。
人を人と扱わない所業について『これだから人間は悪魔より恐ろしい、だからこそ胸糞悪い』と無表情で語っていましたからね……。
きっと生きていたことを無理やり悔いさせるような所業を……いえ、蛇足ですので止めにしましょう。
「今となっては実家の両親にはざまぁみろ、という感情でいっぱいですね」
「……今のイリアの表情、凄く既視感がありました」
「恐縮です。私にもそのような可能性があるとすれば、大変光栄なことですね」
──褒めていないですし、その物騒な可能性を探ろうとしないでください。
セラほどぶっ飛んではいないだけで、イリアも大概個性的ですよね……。
表向きの主への言動はセラが尊さ全開でイリアは雑な扱いと真逆ではある。
しかし、その親愛度の高さはどちらもそう変わらないだろう。
主をからかうことで楽しんでいる点まで見事に一致しているのはどうかと思いますが。
……もし主従を入れ替えたらどうなるのか、少し気になってしまった。
「私ごときのつまらない話はこれくらいにしておきましょう。簡潔にまとめると、ユフィリア様はこれまで楔だったものを解決することが出来て、更にその上でマドラーシュ様のこれまでを詳細に知ることが出来ました。──しかし、その実情はまさに怒涛の快進撃で……色々と見る目が変わってしまったと」
「纏めればそうなるのですが……整理している内に、それ以前の話ではと思い始めたところです」
イリアは何も言わずに、でも納得しているように頷いてくれていた。
思っていた通り、ある程度は察してくれたようで……私の目もなかなか悪くはないようですね。
「そもそも私自身、今の時点で何をすればいいのかが定まっていないのです。婚約を解消した上で自分で自分を縛る『次期王妃』の座から降りることは叶い、自由になれました……この際なってしまったと言うべきでしょうか」
「本来なら喜ばしいことのはずですが……必ずしもそうではないと」
「3年前からこのままでいいのかとずっと考え、ようやく先日決意したことでしたので。それが思った以上にすんなり達成できてしまい……正直戸惑いすら覚えています。状況が状況で、先のことを考えられる状況でもありませんでしたが……」
それほどに婚約解消がすんなり行ったと言ってもいい。
最大の関門とすら思っていたお父様とのすれ違い、それが思った以上に即座に解消できてしまったことが特に大きかった。
しかし、あまりに想定を上回ってしまったが故の前倒し……いえ、これすらも言い訳になってしまいますね。
それにしても……こうして止まって考えるとなかなか皮肉なものだ。
『次期王妃』という決まっていた未来は、義務や期待という鎖をもって私を縛っていたことは紛れもない事実。
その反面、確かな目標……ないしは理由にもなっていた。
他者からの期待や願望を汲み取ってさえいれば、この身を動かすことが出来たのだ。
その期待や願望が終わることが無いというのは、逆を言えばそこだけを向いていれば方角を見失うことも無い。
マッド様に虚無を指摘して頂き、自分でも違和感を感じて……鎖を自分で壊した。
そうまで自由を得たはずなのに……むしろ別の、それでいてより深い空虚を感じてしまっている。
心の準備も無しに大海原や大草原に放り込まれて、方角すら定まらない……そのような感覚です。
「私や姫様も想定以上に順風満帆と思っていましたが、まさかの弊害ですね。何も準備が出来ないまま放り出されてしまったのはお気の毒ではありますが……これもまた、自由の負の側面と割り切る以外にないかと」
「……自己責任ですね。マッド様もよく仰っていました」
彼は『他責にしないで済むから逆に楽』とまで豪語していましたね。
──ですが、いざこの立ち位置に来てそのことに疑問を抱いてしまう。
思い返してみれば、これまでの私は自分で自分の道を考えたことが無かった。
「しかし、自己責任だからこそ自分のペースで進めれば良いのではないでしょうか。何もそこまで焦らずとも、時間ならいくらでもあるのではないでしょうか」
「……私自身がそれでいいのかが不安になってしまうのです。それこそ更なる怠惰や空虚に繋がってしまうのではないかと思うと……」
「今のユフィリア様は性急に考えすぎるきらいがありますね」「姫様という劇薬も目の当たりにした上に、マドラーシュ様の狂気的憧憬やそれに付随する無茶苦茶な行動を知ってしまったからこそでしょうか」
イリアから見たら私は急ぎすぎ、ということでしょうか。
ですが、目標や目的を見失った状態はそれこそ早く解消するべきではないのでしょうか。
そのようなものこそが生きる上での導となり、そこを目指すうえで輝ける……誰でもないマッド様の言葉だ。
果たして今の私は、真っ当に生を光らせることが出来ているのか。
……答えは言うまでもない、否でしょう。
「アニス様は魔学を究めんと、マッド様はグランナイツに追いつかんと常に走っていらっしゃいます。そんな中で私だけ足踏みなんてしたらそれこそ……」
こうしている間にも、先鋭的な方々はどんどん先に行ってしまう。
アルガルド様も、これまでの苦い経験や劣等感を糧として先のことは常に考えては歩みを止めることは無いだろう。
今回の当事者で唯一私だけが、完全に立ち止まってしまっているのではないか。
足を運ばないといけないはずなのに、その方角がまるで取れない。
動きたくても動けない、何故か足がすくんでしまう。
……先を行く彼らの背中を眺めるだけしか出来ないのだろうか。
「その足踏みは何も特別なことではありませんよ。生きている内に次の目標や目的を探す間というものは必ず発生します。矢継ぎ早に動けるのはそれこそ……いえ、あのお二方でも休憩くらいはしないと身が持ちません」
「……アニス様ならば、そう言いながら私に寄り添ってくれるのでしょう。奇行だらけの問題児ではありますが、心優しく思慮深いお方です」
この数日の付き合いだけでも簡単に想像できることです。
ではマッド様はどうなのかと言ったら……彼はアニス様のように優しくはない。
それこそ、こんな私を見た日にはあっさりと見捨ててしまうかもしれない。
そんなことは考えてはいけないのに……そんな嫌な光景ばかりが浮かんできてしまう。
「対するマドラーシュ様は、常に上昇志向を描いているが故により鋭い考えをお持ち……そう見えてしまっているのですね」
「……イリアは、マッド様とお会いになったことは?」
「残念ながら、なかなか機会に恵まれず……しかし、ユフィリア様の中にいるマドラーシュ様に違和感を覚えるくらいにはあの方のことは理解しているつもりです」
私の中にいるマッド様に違和感……とは?
イリアの言葉に対して、どうにも理解が追い付かない。
「これでも陛下やシルフィーヌ王妃の伝手で話だけは聞いておりますので……実のところ、その裏事情はある程度把握済みでした。──その上でお伝え出来るのは、まずマドラーシュ様はやはり姫様の弟君であるということです」
「マッド様とアニス様は似ている点があるということ……ですか?」
「傍から見れば自由奔放のやりたい放題なのに、結局のところ誰かを救ってしまうところはまさに顕著ではないかと」
その言葉を聞いて、私が真っ先に上がったのは昨日知り合った3人とセラだった。
あの黒竜討伐戦で文字通り世界を救ったのに、待っていたのは貴族と魔法省からの弾圧という憂き目であったグランナイツ。
しかし、今はそんな不遇な出来事があったとは思えないくらいに意気揚々と過ごしている……マッド様を中心として。
あの他者に厳しいはずのイグノックスが最大の生き甲斐とまで言い切るほどで、まさに実の息子や弟のような溺愛ぶりだ。
一体どれほどの救いとなったのか……それこそ私など比にならないほどかもしれない。
それはセラも同じくで……彼女もスタンピードの影響で故郷が全滅、自身も死に瀕するという悲惨極まりない目にあっていた。
そこをマッド様に助けられ、その年不相応の雄姿に一種の神性を悟ったとさぞ自慢げに語っていましたね。
最近の例ではアルガルド様もそうなるだろうか……普段の皮肉の応酬は、まさに敬愛と信頼の証にも見えてくる。
それを向ける余裕が出てきたからこそ、私に対して歩み寄ることなど有り得なかったわけで……。
例えマッド様にはその気が無かったとしても、色々な人間を救っているのは覆しようのない事実だ。
あくまで、『自分が気に入らなかったから首を突っ込んだ』……こう仰るだけだろう。
……この極めて自分本位に見える言い口を浮かべてしまうと、また胸の内に棘が刺さるような感覚がする。
「確かに、イリアの言うことは間違ってはいません……でも、あの人は決してあらゆる人を無条件で助けることはしないと自分で仰っていました。それでも、私の認知していないところでも手を差し伸べていることは事実です。それも私なんかよりも遥かに助け甲斐のある方々ばかりで……」
偉志ノ大陸との国交を裏で成就させた上でここまで維持してきたのも、やりたい放題師ながらもあちらに益をもたらし続けてきたからでしょう。
しかもこれまで何度も外遊で訪れ、あれだけ楽しそうな表情をしていることから……あちらでも完全に居場所が出来上がっているはずだ。
王国内にしても、相応しい場所はいくらでもあるはずだ。
グランナイツもそうだし、以前話していた爆発騒ぎを起こした幼馴染然り。
対して私は……結局、居場所を与えられてばかり。
環境が変わって、あの人の裏事情を知った末に思い知ってしまった。
「……アニス様の助手の任を受けたのは自分の中の空虚を埋めるためでした。婚約解消という私にとって大きな問題を解決したら、きっとマッド様は『もう大丈夫じゃないか』と手を放してしまう。──現に今、その通りになりかけてしまっている」
「確かに、どこか距離を置いている風とも捉えられますが……」
「ちょっと離れただけでここまで不安定になるって知られたら、誰かに依存しないと何も出来ない女とさぞ幻滅されるでしょう。無論、私も枷になりたいというわけではありません。──が、このままでは間違いなくそうなってしまう。そこを見抜いて、もう私のことを見限ってしまったのではないかと……」
結局、私はこの負の螺旋に陥ってしまう。
マッド様とのあの時間を知ってしまったからこそ、手放したくない……否、手放すことが出来ない。
それらすら無くなってしまったら、完全に私という人間は虚無に覆われてしまうことでしょう。
一度陥りかけたあの苦しみを、今度は真正面から受けなければならない。
……今の私でその苦痛をどうにかしようなど、到底無理な話です。
しかし、こんな私如きのために彼の歩みを止めるなど愚の骨頂でしょう。
まさに、二進も三進もいかない……進むのも苦、留まるのも苦といったところだ。
「マドラーシュ様のやりたい放題に対してグランナイツや幼馴染、そして偉志ノ大陸の友人は並び立ち、まさに対等かそれ以上の関係を築いている言っても過言ではありませんね。対するユフィリア様は、そんなマドラーシュ様とは到底釣り合わないと思っていらっしゃるし、忠告も受けてしまった。それでもと関係を無理に継続してしまえば、それはマドラーシュ様にとって望まぬ依存に繋がりかねない……二進も三進も行かない状況ですね」
……依存に関してはかなり口を酸っぱくして言われましたからね。
そういえば、学院にいた頃に対等な立場の人間を作っておけと仰っていましたね……。
このような状況も有り得ると踏んでの忠告だったのでしょうか。
流石はマッド様というべきですね。
あんな雰囲気とは裏腹に、常に二歩三歩と先読みしていく。
……確かに、私では釣り合わないのも事実かもしれません。
イグノックスはその辺りを重々理解しているからこそ、変な虫を寄らせたくないが為にあえて厳しく言ったのでしょう。
マッド様のことをきっちり評価できていれば、必然的にそうなるものなのでしょうね。
「ユフィリア様の悩みは傍から聞くと複雑に見えますが、要点はただ1つ……快進撃が如くやりたい放題を貫き、時には人を導く陰のとんでも第二王子マドラーシュ様とご自身が共にあっていいのか……要するにその自信が無いということですね」
「今の私はただの公爵令嬢でしかない、大海を知ったばかりの蛙と言わんばかりのちっぽけな人間ですから……まさにその通りです。きっとイグノックスも、そこを見抜いた上であんな忠告を……」
「でしたら、何故マドラーシュ様はこれまでずっとユフィリア様を導き続けてきたのでしょうか」
これまで導き続けてきた理由……?
……暇つぶしとかではないですよね、流石に。
退屈と平穏を好き好んでこそいないものの、そこまで酔狂な方ではない……はず。
「聞くところによると、口喧嘩や口論までしてユフィリア様の根幹を壊したとのことですね」
「ええ……初見で私のことを人形と揶揄されたり、周りの期待や願望に応えてばかりではいずれ限界を迎えることや自分を主役に据えてこその人生だということを仰られていました」
「次期王妃たらんとしていた頃のユフィリア様の根幹、それはさぞ手強かったことでしょう。それだけ厄介な代物を相手取るような面倒なことをわざわざしたわけです。──さて、ユフィリア様。貴方がマドラーシュ様の立場だったとして、そう簡単に首を突っ込みますか?」
「自分の事は分かっているつもりです。だからこそ、そんなこと易々とは……」
実際、マッド様もあの時の私のことを頑固や強情と仰っていた覚えがあります。
根幹を壊すと言うことは、当然だが方法が千差万別な上に手間も膨大になる。
そんな面倒なことを誰にでもするなど、私でも出来ないしマッド様はやろうともしないでしょう。
そもそもあの方はそんな簡単に他者に手を差し伸べる人ではないと──って、あれ……?
「マドラーシュ様の話題になると陰りを見せると姫様から聞き及んでおりましたが……なるほど、これでは間に挟まる隙などどこにもありませんね」
「えっと……イリアはここまで分かっていたのですか?」
「最初から分かっていたというわけではありません……が、ユフィリア様のその考え方は少々ばかり覚えがありまして。まあ、少し離れただけでそこまでになるほどではありませんでしたが……」
イリアの苦笑を浮かべる様を見て、これまでの自分を思い返す。
……マッド様の元から離れた私、あまりにダメすぎでは?
ちょっと愚痴や相談が出来なくなったからって、勝手に情緒不安定になって……。
挙句の果てには、自分の中での人物像を歪める始末。
「……穴があったら入りたいです。先ほどまでの記憶を全て消し去れないでしょうか?」
「自虐はそれくらいにしておきましょう。さもないと、本当に見捨てられてしまいますよ?」
「この状況で追い打ちをかけるのですか……?イリアもなかなか厳しいところがあるのですね」
「必要だと思ったからそうしているまでのことです。ここはきっちり向き合わなければ、それこそ同じ轍を踏みかねませんよ?」
……流石はアニス様の専属侍女、抑えるところはきっちり抑えている。
あの奇天烈王女が太鼓判を押すだけのことはありますね。
その容赦のなさに、思わず目から塩水が出て来そうですけど。
「これだけの醜態を晒してしまったのですよ?見られていないとはいえ、私自身が顔向け出来ないのですが……」
「ええ、それは間違いないでしょう。そこを踏まえて……ユフィリア様はもう少し自意識過剰に寄って開き直ってしまってもよろしいのでは?いつまでも失態を悔いるくらいなら、そちらの方が楽ではないかと」
じ、自意識過剰……?
そこまで行ってしまったら、逆に引かれてしまいませんか?
これだけやらかしておいてそんな開き直り……もはやマッド様すら超えかねませんよ?
そんなとんでもないことを考えているなんて、あの人に知られたりしたら……。
「そもそもユフィリア様。貴女は本来の人らしさを得てようやく3年と仰っていましたね。実に12歳分の差があるというのに、それでもマドラーシュ様はユフィリア様を友人として……それこそ、略称を許すくらい対等に接することを望んでいる。それはマドラーシュ様がユフィリア様を掛け値なしに目をかけていることと同義なのでは?」
「か、掛け値なし……しかもそれが半ば公認の事実……?」
「って、まさかの自覚なしだったのですか……いえ、この様子だと当事者同士が揃ってという可能性もありますか……」
待ってください、何だか急に恥ずかしくなってきました。
しかし、この時にしてようやくクリスティーナとセラの言動の意図の一部が理解出来た気がします。
まあ、いつまで経っても解放してくれなかったことは少しばかり怒っていますけど……。
「コホン……とにかく、マドラーシュ様にとっての友人とは、それだけの行動をする意味と責任を向けなければならない存在なのは明白でしょう。ならばこちらも、もう少し強気に、いっそ開き直ったとしても罰は当たらないはずです」
……ええ、靄が晴れたら色々と鮮明に思い出してきましたとも。
何故私はこんなことでウジウジと悩んでいたのでしょう。
置いて行かれるという恐怖は、現実すらも蝕むということといったところなのでしょうか?
「軽く呆れられるかもしれませんが、結局手を離すことはないでしょう。まあ、姫様に似ているという点からの推測に過ぎませんが……ユフィリア様にも思い当たる節があるのでは?」
思い当たる節なんて……。
そんなの、あるに決まってるじゃないですか。
何せ、『人形であった私を壊した責任を取る』──あの時、そんなとんでもない契約を交わしたのですから。
珍しく隙があった彼から発せられた、どこかカッコつけていてかつおかしな契りですが。
それに、大小問わず私関係の問題に大体首を突っ込んでくるほどの律義な物好きな方なのだ。
いざキリが良くなったら、都合よく逃亡して後は無関係だなんて……絶対に『気に入らないから嫌だ』と仰ることでしょう。
そんな王族らしからぬ口調や軽口で煙に撒きながらも、本来なら発揮し得ないはずの血筋に準ずる貫禄を見せたり。
用意周到かつ弁も即座に回るほどなのに、どこか詰めが甘いところが散見されるも結果的に帳尻を合わせてしまう。
他にも数々の矛盾しそうな要素を同居させて、結果綻びが生まれてしまっているおかしくて……目が離せない人。
それこそが、マドラーシュ・リヴェ・パレッティアという人物だ。
(……結局、その引け目も私の勝手でしかなかったということですね。ハリセンを貰ってしまいそうです)
そこまで思い至ると、先ほどまでの後ろ向きだった自分が滑稽に思えてきてしまう。
そもそも少し会えなくなったくらいでいちいち不安定になっていたら、どこぞの書物からの引用で説教をしてくるはず。
やるべきことや歩むべき道を見失ったくらいで不安がっていても、きっと意味の分からない言葉で突っ込みを誘って前向きに引っ張り上げてくれる。
理不尽なまでのやりたい放題?──今更じゃないですか、そんなの。
過去に一度、私の根幹を徹底的に破壊してくれた……私が知る中でも屈指の破天荒なのですから。
引け目を感じるとか、むしろ烏滸がましいほどでしょうに。
その現実を正面から受け止めたら、むしろ清々しくなってきましたね。
……ああ、でも悔しさだけはどうにも増すばかりだ。
その差を改めて認識してしまったが……だからこそ、あのやりたい放題に食らいつきたくなってしまう。
この思考は、奇しくもあの人がグランナイツに感じたものと似ているような気がします。
「我ながらとんでもない回り道をして面倒なことをしていたものです。お陰でこれまでぬるま湯に浸かっているだけだったということを痛感致しました」
「自信が戻った上で色々と吹っ切れたようで何よりです。表情も自然体ですね……望みも見つかって何よりです」
「あちらが自由気ままに先を行くのなら私もそうするまでのこと……ただそれだけのことですよね。人間始めて3年ならば、もうなるようになれです」
人間として再起して間もない私の出遅れは凄まじいものだろうし、今もなお遅れている。
しかし、焦っていても何も始まらないしまともに歩くことも出来ない。
それに、周りがどんどん先を行くならば……私はその歩み方を参考にして自分なりのやり方で歩けばいいのだから。
マッド様がグランナイツの方々の教えを受け、それこそなりふり構わずの形で自分なりに吸収していったように。
──流石にイグノックスが施したスパルタのようなものまで素直に受け入れるところは真似しないようにしますけど。
「ご心配なさらずとも、これからは姫様も友人としてついてくださります。その望みを貫いて突き進むもよし、一旦立ち止まり悩むのもよしです。今日この日が、ユフィリア様ご自身の自由の始まりとなったことを心より祝福いたしますよ」
「──ありがとうございます、イリア。改めて、私はこの離宮に来られて良かったと思います。こうして、新たに悩みを打ち明けられる友人が二人も出来たのですから」
「それは、大変光栄なことですね。微力ではございますが、もちろん私もお助け致します。──その代わり、姫様の制御も手伝って頂けると幸いなのですが」
「私としてもアニス様は手が焼けると思っていたところですので……むしろ望むところですとも」
こういう時、第三者の存在が必要だということも理解出来ましたね。
これまでは、マッド様とセラ以外に友人付き合いが無かったから尚更その有難みが分かる。
私の中にある物差しは彼らだけだった……そういうことですからね。
(そういえば、マッド様はやたら他の友人を作れと仰っていましたが……まさか、ここまで見越してのことだった……?)
そうだとしたら……本当に忠告通りと言えますね。
全く、相変わらず憎たらしなってしまうほど先読みに長けているようで。
……ああ、どのような形でもいいのでまた慌てさせたくなってきました。
が、それは置いておきましょう……まずはアニス様の助手業務に専念しなければ。
成り行きではありますが、これもまた自分で決めた道ですからね。
あの時は口から出まかせではありましたが……魔学に興味があるという言葉は嘘ではありませんので。
どのような未知が待ち受けているかは想像も付かないが、あらゆる形で糧にしてみせましょう。
その先に、マッド様をぎゃふんと言わせる術がきっとあると……そう信じて進むのみだ。
「当のマッド様は今どこで何をしているのでしょう……?」
昨日から遠出しているとは聞いているが、その遠征先で無茶苦茶なことをしでかしていないか……そればかりは心配ですね。
クリスティーナから聞いた話では、昔から明らかに強い魔物を見たら真っ先に突っ込んでいくとのことですから。
素材を求めて魔物狩りに向かうアニス様と確かに似ていますが、明らかに危なっかしさではこちらの方が上でしょう。
「吹っ切れた勢いで今からマドラーシュ様の後を追うなんてことだけはなさらないよう。姫様のような方がもう一人増えてしまうと、私も制御しきれませんので」
「流石にそこまではしませんよ……奇天烈公爵令嬢なんて呼ばれたとしても、それは流石に荷が勝ちすぎていますから」
確かに、改めてマッド様と顔を合わせて話したい気持ちが無くなったわけではない。
しかし、今となってはそこまで焦る必要は無くなりました。
いずれ何かの拍子で顔を合わせられる、そう思っておくくらいがちょうどいい。
まずは私なりに出来ることを模索して……自分なりに走り始めなければ。
──足踏みと称した休憩はもう十分にとりましたからね。
知らない一面を知って、勝手に引け目を感じて変な風に距離を取るっていうなさそうであること。
そこできっちり開き直って、改めてユフィリアは再スタートを切れましたという話。
書籍2巻の流れを引用しつつ、相談役はあえてイリアに。
ここでアニスフィアはちょっと違うかなーと……実の弟のことということもありますし。
ストックからかなり手直ししましたが、まあ何とか違和感のない内容……だといいなあ。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)