転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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この章内で4体目の大ボス回、神獣グリフォン戦。
道中キンクリはここで全力を尽くすためです。


43. 窮極の地Ⅱ・(前)

 

月光魔石を入手した翌日。カル渓谷探索は2日目に突入した。

各々きっちり心身共に休め、早速グリフォンの巣に当たる場所へと向かう。

その間に、カルトからグリフォンと相対する時の要対策事項を聞いて即興の対策を施したりもした。

あの人がグリフォン戦の経験者でかなり助かったな……。

ぶっつけ本番で何とか出来るような、それこそレオン先生のような理論武装持ちじゃないからね俺は。

 

「グリフォンの知識をカルトに教えた人って、一体誰なのかしらね」

「小さい頃に聞いたって言ってたけど……。カルトの小さい頃って、なんか想像できないね」

 

カルトっていうか、ダークエルフの幼少期っていうのがなかなかイメージ出来ねえな。

まあそんなのはウィンとかキュイでも似たようなことは言えるがな。

特にナマリエの小さい頃とか……ええー、マジでどんな感じだ?

そこは種族が違うからこそだが、現在のイメージから幼くしたらっていうのがなかなか複雑怪奇だからな。

 

「これこれお前ら、あんまり詮索するなー。女の子泣かせてたとか弱い子虐めてたとか変なこと言い出すんじゃねえぞー特にロム助とキュイ」

「うぐ、流石はマッド。見事に先回りされたよ……」

「お前らは人を何だと思ってるんだ……」

 

まあ、それはチビとかドチビとか言ってるからだと思うが……まさに身から出た錆だ。

あだ名はもうちょいマイルドにつけてやらんとダメだぞカルト君。

え、俺のも大概?

いやいやいやいや、偉志ノ大陸風かつシンプルでいいじゃねえかロム助って。

 

「カルトさんに色々と教えてくれた人は……強さと優しさを兼ねて思慮深い方だったのかと思います。カルトさんは、その方が大好きだったんじゃないかと」

「セリアード。その人、誰か知ってたりするの?」

 

「い、いえ。あくまで話を聞いた限りの私の想像ですけど……。でも、こんな知識をわざわざ教えてくれるのですから、きっとそうだったんじゃないかと」

上手くそれっぽい言い方で纏めたが、やっぱり彼のことはハーピークイーンの時に知ったようだな。

カルトもあえて口を挟んでいないし、俺も黙っておこうかね。

──確かにあの人はセリアードが言った通りの人だったな。

だからあんなことに巻き込まれて……いや、今は止めておく。

下手に思い起こしてるとまたノヒルリア殿の時のようになりかねない。

 

「マドラーシュ様、ご指示通り調合したものを塗り終えました。これで安全位置も確保できたかと」

「よし、ウィンナイスタイミング!ベル教授、グリフォンと一戦交えるのでギリギリ安全位置までは下がっていてくれよ」

「分かっている。私とて、黒焦げにはなりたくはないからな。武運を祈っているぞマドラーシュ王子と見習い諸君!」

 

ベル教授は安全位置に避難するよう促し、これで準備は整った。

月光魔石を所定の位置に設置し、グリフォンが降りてくるであろう巣の最奥部に足を運ぶ。

わーお……絵画にでもありそうな幻想的な光景だな。

絵でも描けば、何か賞でも貰えそうだな……。

 

「うわあ、凄い綺麗な場所!何かお宝とかあったりしないかな」

「キュイ。グリフォンがすぐにでも来るんだからあんまりウロチョロしちゃダメだって」

 

流石はこの地に祭り上げられる神獣というだけあって、そのセンスはなかなかいい。

──そんな風景への憧憬を遮るように徐々に近づいてきているな、随分と楽しい気配が。

 

「この我をわざわざ呼びつけるか。嵐の怒りを受けたいとは、酔狂な人間どもだな!」

 

甲高いその声から感じられるのは、超越種に相応しい威厳。

さあさあ、この任務におけるメインディッシュだ。

目の前にいるのは、いささか暴虐になってはいるが神獣と言われる存在。

鷲を思わせる雄々しき翼、そして獅子を彷彿とさせる鋭い獅子を完璧な形で併せ持ったこの超越種こそが──

 

「こいつが、グリフォン……!昨日会った2体とはまるで格が違う!」

「それと、凄い怒りを感じます。一体何がそうさせているの……?」

 

セリアードの言う通り、随分と暴走というかお怒りモードっていうか。

ああはなりたくねえよなあ……って言いながら、俺も普通にアレくらいキレ散らかすからもう手遅れなんだけど。

……アレに飲まれた症状はきっちり出てはいるようだが、何とも言えねえところだ。

とりあえず、少しばかり会話のキャッチボールと行こうか。

 

「神獣様とあろうものが情緒不安定になる変なの食ったとかじゃねえだろうな……拾い食いなんてみみっちい真似はあまり感心しねえぞ?」

「もしかしたら、コインだと思って拾ったもののせいでああなっちゃったのかもしれないよ?」

「おいおいんなお前みたいな守銭奴じゃあるまいし……いや待てよ?その説で行くと案外カツアゲとかやってそうだな……流石にストロングスタイルが過ぎねえか?」

「お金が欲しいんだったら、もう少し頭使わないとね!ウチみたいに上手くやらないと、後々余計な苦労を背負うことになるよビリビリ君!」

 

俺のぼやきにキュイが乗ったから、何となく返してみた。

流石に神獣様が守銭奴なんてあり得ねえだろうが、突拍子が無さすぎる仮定についつい口が滑ってしまう。

これだけの相手だが、雰囲気にのまれていない辺り流石はキュイといったところか。

っていうか、漫才のようにホイホイとキャッチボールが進んで俺もすらすらと口が回るな。

これで少しは皆の衆の緊張も解せるかね。

 

「あんたたちねえ……目の前にいるのは神獣なのよ?どれだけ図太い神経してるんだか……」

「あの、思いっきり聞こえているんじゃないですか……?心なしかグリフォンが更に怒ってるような……」

「ようなじゃなくて、明らかに怒ってるよね……?」

 

おお、セリアードの言う通りだな!

ただでさえ頭が鷲なのに見事にトサカに来てるようで面白いツラになってんぞ。

実は図星だったりするのか?だとしたら、今度の騎士団試験に問題として出すかね。

 

「『グリフォンの特性を以下の中から選べ 答:拾い食いする、カツアゲに走りやすい』ってところか?正答率どんなもんになるかね」

「全部1って答える人にその形式は優しくないから、どっちかにしないとダメだと思うよ?」

「あの、それってキュイちゃんのことじゃあ……」

「セリアードまで乗っちゃダメだって!ああもう、グリフォンの顔が怒りで凄いことになっちゃってるじゃないか!」

 

ラスに言われて再度グリフォンを見てみたら……おーおーもう茹蛸状態だな。

雷属性持ちが何で湯沸かし器みたいになっちまってんだ?

姉上の元に設計図だけでも……いや、流石に却下されそうだな。

 

「おいおい、そんなにキレたら過充電になっちまうぜ?もう少し落ち着いたらどうなんだ、カツアゲと拾い食いが趣味のグリフォン様よ!」

「ええい、喧しい!それ以上愚弄するなら、貴様らの命を持ってその代償を支払うこととなるぞ!」

「っておい!お前らが呑気に挑発するからいきなり来やがったじゃねえか!」

 

そりゃあ下等な人間にこれだけ言われれば来るだろうよ。

だがこの程度の悪口貰って素直に来るようでは、まだまだ甘いなグリフォン様!

俺はグリフォンとの距離を縮めながら、既にイメージしてある顕魂術を迎撃として打ち出す。

元々は光属性だったが、イメージ共有の末俺が放った場合は闇と火の混合となった魔力凝縮弾。

以前に放った同属性の拳や掌底の砲弾バージョンといったところだな。

事前イメージのお陰で高火力を発揮するためのチャージ時間は実質0に出来ているから迎撃としては何も文句はない。

更に追加でもう2発イメージ追加!

威力こそ落ちるが、連射が利くのが俺の方の利点だ。

 

「ウチだって、ちゃんとストックしておいたもんねー!」

 

キュイも俺に合わせるように火球と火属性光線の同時発射。

見た目の上では初っ端からやりたい放題だ。

俺の凝縮弾も合わせ、不意打ちへの迎撃に対して明らかにオーバーにも程がある火力と化していた。

 

「ちぃっ!そこを見越して挑発していたとは小賢しい人間どもめ……!」

 

頭に来ていても、危機感を感じるだけの余裕はあるらしいな。

グリフォンは即座にルートを逸らして、弾幕をきっちり避けていた。

 

「ははっ、流石にこの弾幕にはビビったか!この隙にいつもの陣形だな!」

「全く、あんまり無茶をしないでくださいよ!」

「上手く仕切り直しに持ち込めたけど、絶対あの挑発いらなかったよね!?」

「何を言うか、イグノックス兄さんやカルシオンの方がもっとパンチの利いた皮肉を言うっての!」

 

それくらいの余裕があった方がむしろ戦いやすいってものだろ。

さあ、いつもの陣形になったところで改めて俺たちは神獣に相対する。

ふうむ、カルトの事前忠告通り……強烈な風の魔力から雷の気も感じるな。

 

「その減らず口、いつまで続くか見物だな!」

「残念、それなら俺が死ぬまで待つ羽目になるぜ?」

 

随分と俺のことを目の敵にしてくれてるが、そっちの方が都合がいい。

ヘイトを存分に向けてくれるなら、随分と戦いやすくなるからな。

とはいえ、それでウィンやラスの負担が減るのかと言われれば──それはねえだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弾幕を避けてなお、過度な挑発に対するグリフォンの怒りは収まる気配はまるでない。

故に、グリフォンの次の行動は予測しやすい。

その憎き減らず口を切り裂くため、その獰猛な爪を風の魔力を乗せた突進と共に振るう。

しかし、それを前衛が良しとするわけがなかった。

 

「ぐっ……!あの新顕魂術を使っても押し返せないか!」

「マッド、どれだけ怒らせてるのさ……」

 

無視される形になっても、ウィンとラスはグリフォンの向きから進路を予測して立ちはだかる。

カトゥラザ神殿での実験で効力を確認した、防御力を向上させる土属性と火属性の顕魂術は陣形を組む際に使用している。

あくまで効力があると確認しただけの初回は本当に雑多と言える魔物相手だったので当然傷を負うはずもなかった。

しかし今回は遥かに格上の神獣で、それも怒りのままに突っ込んできている。

二人がかりでかつかろうじてだが、押し止めているということは向上した防御力は本物なのだろう。

 

「でも拮抗に持ち込めば上々さ!ヒットアンドアウェイで行くぞ、カルト!」

「その口を少しは閉じてろ!グリフォンを更にキレさせたらお前に全部押し付けるからな!」

 

拮抗状態に持ち込んだ隙にマドラーシュとカルトが接近を図る。

カルトが狙ったのは、背面に位置する後ろ足で、手始めに影縛り効果を持つ闇属性の鎖で縛りあげる。

相手の巨体っぷりと魔物としての格を考慮すれば、その効果は一瞬ではある。

ラスとウィンが作ってくれている状況を少しでも長引かせる効果はある程度は見込めるだろうが。

その稼いだ短い時間で、影と共に怒涛の斬撃ラッシュを浴びせる。

飛行可能な魔物とはいえ、巨体を支える足を執拗に攻撃されてはたまらないだろう。

そうしてカルトに注意を向けかけたところに仕掛けるのがマドラーシュだ。

既にその両手には闇と火のブレンド魔力を込めて追撃の準備は整っていた。

 

「爪が相手じゃ殴り合いは自殺行為、ちょいと一方的にコンボ決めさせてもらうかね」

 

左腕で掌底突き、続く右腕は竜が昇るようなアッパーをかます。

どこぞの623コマンドのように自身も上昇すると、更に空中に壁のように足場を作る。

その一瞬の壁を基点にマドラーシュは自信の移動に鋭角な変化を与える。

そしてグリフォンを襲うのは、千紫万紅により放たれる複数の斬撃だった。

 

「うーん、まだまだ浅い。居合で火属性はどうにもイメージが決まらねえな」

 

風属性一辺倒のグリフォンには火属性はやや効きやすい。

その基本を突く形で居合に火属性魔力を込めるが、あまりやらないからか威力はパッとしなかった。

そこは魔力の質と凝縮率で補っているが、イメージの強度を補えるほどではない。

並の魔物ならばこれでも致命打を与えられるところだろう。

今回の相手は防御面でも神獣の面目躍如と言わんばかりの最低限は備えている。

効率的な攻撃をより考えなければならないと簡易的な結論をまとめたところで、安心を運ぶ水の魔力が纏われた。

 

「マッド様、今シールドを張ります!」

「順番守ってて偉いぞ!やっぱセリアードは素直で教え甲斐があるってもんだな!」

 

このグリフォン戦が大型魔物戦となるセリアードは、事前にマドラーシュに課せられた指示を守っていた。

その1つは支援の優先順位について。

セリアードが可能な支援は現状回復とシールド、そしてこの2つを両立したもの。

顕魂術そのもののセンスは開発者であるマドラーシュが太鼓判を押すほどと言えど、纏まった支援にも限界がある。

シールド及び回復を顕魂術で行う場合、どう足掻いても発生するのが隙間時間というもの。

そこの隙間時間を如何に詰めるか。要は無駄なくシールドと回復を配れるか。

本来サポートは専門外のマドラーシュだが、ラス達を率いて戦う未来……まさに現在に先んじて教わっていたのだ。

王国内では天然ではあるが抜け目がないクリスティーナから。

偉志ノ大陸では唯一の後衛でありながら満遍ない支援が出来ていたユナから。

全ては当然時間の都合上教えられていないが、それでも最低限の基礎は叩き込んだつもりとのこと。

素直かつひたむきなセリアードはその教えを忠実に守り、己の出来得る限りの支援効率を追求している。

いざ神獣との対峙となっても、まるでブレることはなかった。

 

「いい感じの支援だよ、ありがとうセリアード!」

「ウチとマッドの次くらいには天才だね!」

 

その支援の恩恵を一番受けているであろう最前衛二人は現状大きな傷はない。

獰猛な爪による猛攻も、的確なシールドと回復できっちり相殺出来ているのは大きい。

元々自前で防御力を上げたところに、更に切れ目を感じさせない支援。

初参戦とは思えないくらいの貢献度合い。

その玄人染みた働きに師であるマドラーシュもご満悦の笑みを浮かべていた。

しかし、グリフォンとてこのままむざむざ接近戦で負けるほど愚かではない。

 

「ならば、その防護ごと吹き飛ばしてくれる……!」

「風の気配……!正面はダメ、飛ばされるわ!」

「ウチらは間に合うけど、前衛組避けられないじゃん!」

 

グリフォンから発せられる風の魔力を共鳴という形で察するナマリエだが、相手の魔力充填が想定以上に早い。

ロングレンジで攻撃しているナマリエとキュイ、支援のセリアードは距離の都合飛ばされても大したことはない。

対して、距離が近い男性陣……特に最接近しているウィンとラスは逃避するだけの時間が足りない。

 

「間に合わねえなら相殺させるまでだ!ラス、行くぞ!」

「ウィンは相性が悪いから少しでも下がってて!」

「なら、俺は横槍入れてやるまでだな!」

 

カルトは少しでも風の影響を落とすため、グリフォンの翼に攻撃を集中させる。

魔力手裏剣と自身の得物を闇属性魔力で強化して連続で斬り刻んでいく。

更には毒蛇を放って、一瞬でも毒を入れることでグリフォンの集中力を図った。

そしてメイン迎撃要員の二人はそれぞれまるで違う方法を用いる。

マドラーシュはセイリオスを裏手に持ってからの怒涛の連続魔力剣風を放つ。

先ほどの居合とは異なり、こちらは使い慣れた基本顕魂術が故に火属性魔力の密度も相応なものだ。

後方のナマリエとキュイの援護も相まって、これだけでもグリフォンに対してそれなりの妨害になっている。

 

「今こそ二人のイメージを借りる時だ!」

 

手数のマドラーシュに対して、ラスは一瞬だけタイミングを見ての一発勝負。

お得意の古龍を彷彿とさせる突進──そこに火属性魔力を込めた剣の突貫を加える。

この2つの顕魂術同時発動は、まさにマドラーシュとレオンが接近用で用いる『スティンガー』の強化版に値する。

単純な突進のはずが、マドラーシュの連続剣風の総合威力と遜色ない──否、それ以上の威力を叩き出す。

自身のメイン顕魂術をベースにしたその先を目の当たりにすると、幼馴染である第二王子も流石に舌を巻く。

 

「流石我が幼馴染、どんなバ火力だよ!グリフォンちゃんもビビッてそよ風になってやがるぜ!」

「だから煽るのは止めなって!もう次の手に移ってるよ!」

 

風で吹き飛ばすことが叶わないと判断したグリフォンは、ここで己の本領を見せようとしていた。

暴走しながらもグリフォンの心中には神獣としての矜持は残っている。

──断じてマドラーシュが余計な茶々を入れたからではないと思いたいが、これについては分からない。

超越種としてのプライドは、遥かに格下である人間に対する典型的驕りに繋がっていた。

しかし、この序盤戦で格下たちが見せた立ち回りの前にその認識を改める必要が出てきたようだ。

持ち前の翼で大空へ舞い上がり、その強大な魔力を遠慮なく解放する。

するとどうか、先ほどまで広がっていた青空を遮るように暗雲が立ち込め始めてきた。

 

「──ほう、小賢しい真似をするものだ」

「ちっ!全員一旦散れ!目聡いこって、もう対策に気付きやがったから別のが来るぞ!」

「そういうことならば──この怒りを受けてみろ!」

 

6人は先ほどまで雲一つなかったはずの空にが暗くなっていく様に注意していたが、マドラーシュのみ魔力の流れに意識を集中させていた。

空は確かに雷が降ってきそうな様子だが、それは即座にブラフと判断して指示を促す。

感じたことのない魔力の流れが故に、完全に勘による指示だったが。

その指示は幸いなことにほぼ間違いはなかった。

 

「痛いっ!ってウィン、何か変なビリビリに囲まれてるよ!?」

「何だと?──ぐっ!?これは、電撃だと──っ!」

「ちっ、やっぱりそこは見逃さねえか。神獣様だけあって容赦なしだな」

 

ウィンを取り囲んでいるのは、グリフォンの魔力で編まれた電撃の檻。

一定周期で一見微弱な電撃を放つのだが、これがなかなかに面倒な性質を持っている。

この電撃そのものは威力より妨害──特に魔法や顕魂術のイメージの阻害に徹している。

微弱ながらも痛覚に対して明確に訴えてくるようなダメージを与えてくるので、足止め効果までついている。

そしてもう1つ。この電撃の檻は対象を取り囲むだけでなく、対象以外が入り込んだ場合も容赦なく電撃に巻き込まれてしまう。

先ほどキュイが痛みという形で反応を示したのは、檻の範囲に入っていたから。

即座に離れたので貰った電撃は1発だけで済んでいるが、対象として完全に狙われたウィンは別だ。

定期的に疑似結界から電撃が襲い掛かり、しかもきっちり対象を取っているので逃すことがない。

更に、対象を絞った分電撃への耐性を貫通する効果すら付随している。

防具に施した付け焼刃の対策も、これでは意味を為さない。

この厄介な性質により一時的にタンク役のウィンを完全に前衛から追いやることがグリフォンの狙いなのだろう。

序盤の鍔迫り合いから、どこを崩せばパーティ全体の戦力低下を招くのかをきっちり観察していたからこそできることだ。

暴走していて、更に自身の挑発で頭に血を昇らせたにも関わらずこれだけの素早い判断が出来る。

マドラーシュとしても流石に想定外だったが、そんなことで動揺している暇など微塵もない。

不測の事態だからこそ、最善でなくても善に寄っている策をとにかく脳内から手繰り寄せていく。

それこそが、この場における彼の仕事だ。

 

「ウィン、とりあえずこの精霊石をあの防御顕魂術で増幅させて無理やり耐えろ!精霊石経由の属性変化は暇つぶしで試したことあるから効力は実証済みだ!」

「さ、流石はマドラーシュ様。抜け目がないですね……!」

 

マドラーシュがウィンに投げ渡したのは現地調達した火の精霊石。

彼が行った暇つぶしとは、早い話が精霊石を用いて強引にイメージとは属性だけ異なる顕魂術を発動できないかというもの。

ちなみに実験は成功こそしたのだが、精霊石を経由する都合発動速度が遅くなる欠点も見つかった。

だからよほどの緊急事態でない限り使うことはないと判断したが、今回は念には念を入れたことが功を喫したと言える。

 

「マッド様!今のウィンさんに回復やシールドは感電して逆効果なのは分かりますが、他のみんなには使っても大丈夫ですか!?」

「雷雲をブラフにした上であの檻を使ったほどだ、ウィンに張る余裕しかなかったんだろうよ。俺たちは檻の範囲にさえ注意すれば感電による二次被害の心配はなし!水の魔力の流れには注意しておけよ!」

 

要するに、支援する側もされる側も雷の檻を避ければいいだけの話。

至ってシンプルで、有効な回答にセリアードは安堵した。

下手をすれば何もさせてもらえない可能性もあったので、杞憂に終わったことは彼女の中では大きいことなのだ。

 

「いや、そう安心してられねえぞ……畳みかけるように雑魚を大量に呼んで来やがった!」

「よりによってウィンが戦力外に追いやられて、更にこっちの動きが制限されるこのタイミングで!?しかも何か見覚えのない魔物混ざってない!?」

 

戦線を崩したところに雑魚を大量に呼ぶグリフォンの周到さに一同は舌を巻いていた。

大量のハーピーに加え、王国内では見慣れない魔物が2種ほど混ざっていた。

茶色の鳥類と、ややスケールを小さくしたドラゴンの亜種。

この2種を見て唯一反応を示すのは、もちろん王国の外にしょっちゅう出向いている第二王子だ。

 

「フリズベルグにディアトリマ!ははは、姉上がいたら目を輝かせそうだな!特にディアトリマは色々素材になるし猶更だろうよ!」

「今それ言ってる場合じゃないよね!?確かにアニスフィア様ならそうなるだろうけどさ!」

「鳥の方はまだいいが、もう片方は劣化ドラゴンみたいな見た目してやがるが大丈夫なのか!?」

 

グリフォンと似たような嘴こそ持っているが、その姿はそのままハゲワシのフリスベルグ。

手足が無いドラゴンと称されるワイバーン種に類されるディアトリマ。

パレッティア王国では発見事例が無い魔物を目にしてマドラーシュの声色は喜色に満ちている。

ディアトリマがまだ様子見でいるのが救いだが、それでも大量のハーピーと2体のフリスベルグが一行の地上へと殺到し始めていた。

数の暴力の前に圧倒されそうになる面々だったが、ここで出番と言わんばかりに前に出るのは小さきケモミミ勇者だ。

 

「へっへーん、見覚えのないのがいても、この量ならウチの出番!ぜーんぶ燃やしてやる!」

 

王国一とすら言える範囲殲滅要員、問題児とすら言われるその容赦の無さがここで生きることとなる。

この数ならば遠慮なくぶっぱできると言わんばかりにキュイが意気揚々と前進、昨日からあまり打てていない範囲殲滅特化顕魂術をここぞとばかりに放っていた。

空中に打ち上げるオーブを放ち、これまでより小規模になった隕石群を放つ。

が、数で勝るハーピーと火への耐性が多少はあるフリスベルグが相手ではこれでも分が悪い。

流石に分かっていたのか、キュイには特に焦りはなかった。

 

「そういうことなら、更に手数増やしてやろうじゃんか!やっちゃうからね、相棒!」

「──ああ、とっておきを見せてやれ天才!」

 

示し合わせるように発動許可を友から得ると共に、キュイは更に動き出す。

魔力で鍋のようなものを一時的に作り出し、おとぎ話の魔女のように中身をかき混ぜる動作を始めた。

問題児による土壇場の新顕魂術行使の様子に焦る一同だが、よりその様子が顕著なのはラスだった。

 

「うわ、キュイそれ未完成とか言ってなかったっけ!?」

 

ラスは知っている。何せその顕魂術の試行錯誤の過程を何度か見たことがあるから。

だからこそ、こんな大事な場面で放つなど流石に正気を疑いかけていた。

 

「安心しろラス!安定させるカギは既に俺が仕込んである!折角のお披露目だ、ありったけ召喚しちまえ!」

 

そんな不安を跳ね除けんと、マドラーシュは再度ゴーサインを叫んでいた。

顕魂術開発者から発せられたまさかの青信号に、一同は盛大に驚く。

そして、キュイはその顕魂術の為の動作を完了させ──見かけ通りに愛らしく宣言した。

 

「言われずともやっちゃうよー!ウチの可愛いファイヤームムズ!初陣から遠慮なく暴れちゃって!」

 

魔力の鍋から、まんま火属性ですよと言っている見た目の新たな生き物が現れる。

現れたのは至って単純な純粋魔力生物……ムムと呼ばれる種だ。

精霊よりは明確な形状を為している、スライムのような魔物。

自然に発生するものより小柄ではあるが、それは確かにキュイの魔力から生み出された実質使い魔のようなものだった。

 

「マジかよ!?単純構造のムムとはいえ、自分の魔力とイメージだけで召喚しやがったぞこいつ!」

「あんな意味不明な顕魂術を爆発させないで完遂させたことにも驚きだわ……」

 

カルトの驚愕は至って普通のものだ。

何せ、召喚術に当たるものは顕魂術はおろか魔法でも存在しない。

もしユフィリアを筆頭とする魔法使いがこの場にいたら、卒倒間違いなしの光景だった。

アニスフィアだったとしても、確実に数秒はフリーズしたことだろう。

そんな新境地とも言える顕魂術だが、天才キュイをもってしてもその工程は険しいものだった。

これまでは全く生成が安定せず、時には魔力が暴走して爆発するなんてこともしばしば。

ラスが危惧していたのは、その危なっかしすぎる失敗光景を何度も見ていたからだ。

複数属性魔力を用いたり、雑多なジャンルの書籍でイメージを再構築したり色々奔走するが結果には結びつかず。

ついには独力ではどうにもならないと判断して、昨晩周囲の見回りをしながら暇を持て余していたマドラーシュに相談したのだ。

 

『ムムを自力で作り出す、か。イメージの大元は魔女の鍋って感じだからいいとして……』

『ぜんっぜん形にならないんだよねー。出来たと思ったらすぐ魔力に還っちゃったり、量が多すぎて爆発しちゃったり全然結果が安定しないの』

 

キュイの証言を聞いてマドラーシュが真っ先に浮かんだのは、そもそも疑似生物としての核が無いからでは?という仮定だ。

そこで試しに現地調達をしていた火の精霊石をムムの核として、イメージを再定義させる。

その上で、同じ動作をしてみた結果が──

 

『やはりな。魔石持ちの原理でやってみたが、疑似生物なら精霊石でも事足りるわけか』

 

何とあっさりと火属性のムムが召喚できてしまったのである。

魔力と彫魂石以外に精霊石も必要になるのでが物資面でやや高くつくのは玉に瑕だ。

ただ間違いなく、コスト面を差し引いても顕魂術としても次の段階に進む大きな前進と言える。

まさに、天才のとんでも発想と開発者の泥臭くも幅広い見識の合作。

恐ろしいコラボではあるが、この場面では間違いなく最高の戦力となっていた。

 

「キュイちゃん、すごい!ムム達でハーピーを足止めが出来てる!」

「この天才キュイ、そして我が相棒のマッドのコンビに出来ないことはないってね!」

「なら、この場は天才のお前に任せたぞ!俺は空中サーカスの予約があるから失礼するぜ!」

 

この場は問題ないと判断して、一足先にマドラーシュは空中足場を繋げてグリフォンとディアトリマの元へ向かう。

地上の殲滅に加わるという手もあるのだろうが、奇襲混じりの挟撃を受けることの方に脅威を感じたのだろう。

──まあ当の本人はそんなことはどうでもよくて、単純によりキツイ方が楽しいと判断して飛んで行っただけなのだが。

 

「ラス、キュイ、セリアード!ハーピーと一部そっちに行ったフリズベルグとかいう鳥は任せるわ!」

「俺たちはあえてキツイ方に行ったバカ王子の援護に行かせてもらう。──ご丁寧に足場を残しやがって、人のことこき使う気満々だな」

 

それだけ言い残すと、ナマリエはマドラーシュと同じく空中に風魔力の足場を作って跳躍して後を追い、カルトもそれに続く。

いくらマドラーシュと言えど、単騎で神獣とディアトリマをまとめて相手取るのは厳しいと判断していた。

更に言うなら、それで変に無茶をされて変な怪我でもさせた日にはこちらも流れ弾で説教を貰うことを避けるためでもある。

真っ先に向かうマドラーシュも大概だが、援護する側の理由も十分どうなのかと思えるがこれもまた平常運転だ。

普段はあれだけ面倒だ何だ言いながらも保護者役をやっているナマリエとカルトに、ラスとセリアードは揃って苦笑を浮かべていた。

 

「……俺も加勢するぞ。この程度のダメージを言い訳にしていたら、それこそマドラーシュ様に叱られるからな」

「ウィン。無理はしなくても……あ、檻は無くなってるのか」

「恐らく、あちらが接敵したからだろう。それにこの量だ、お前だけではキツいんじゃないか?」

 

マドラーシュが接敵したからかは分からないが、ウィンを痛めつける電撃の檻はいつの間にか無くなっていた。

とはいえ、ダメージの累積は小さいわけではない。

メンバー内で最もタフと言っていいクラマ族が息を切らしていることから、そこそこの疲弊だろう。

しかし、いくらキュイが大量の戦力を用意したとはいえまだまだ地上側の戦力も欲しいのもまた事実だ。

調子よく攻撃しているキュイや支援に徹しているセリアードの方に群がらせないためにも、ウィンの防衛力は間違いなく必要だ。

ウガルーの時と同様、分隊を任されたラスは確実な戦況分析が出来ていた。

 

「──分かった。セリアード、ウィンに回復とシールドをお願いできるかな。俺はまだまだ余裕はあるから、暫くはウィンのカバーを優先してほしい」

 

やや酷な判断だと自分では思っているが、状況が甘えを許してくれない。

ならば、自身がより動くことで、もう一人のタンク役の回復という要件を確実にしてしまえばいい。

次善策を用意して最悪を回避できるようにする。

幼馴染の思考パターンは、今回もラスの中で確実に生きていた。

 

「はい。でも、ラスも無理はしないでね……?キュイちゃんも、あんまり魔力を使わないようにしないとすぐに枯渇するから……」

「大丈夫大丈夫!いっぱい爆発出来るようにそこの効率も研究してるし、ウィンが無理しなくてもいいようにたくさん燃やしてやるから!」

 

新たな顕魂術を会得したからか、キュイの調子に乗り方がいつも以上に凄まじい。

状況が状況なので、地上に残った3人もご相伴に預かることにした。

今の流れを作っているのは、土壇場で顕魂術そのものを新たな地平に誘ったキュイ以外他ならないのだ。

彼女が作るその強烈な流れに乗るのは攻めとして最善と3人は判断する。

視線だけで互いに示しあうと、地上組は各々の役割を果たさんべく動き出した。

 





マドラーシュとキュイ、この二人が揃って挑発すると効果は二乗。
ここぞとばかりに悪魔狩りなセリフが混ざるのはご愛嬌、ちなみに今回は4からですね。
キュイはまさかのセヘラザドスキル、要するにファイヤームム召喚を土壇場でお披露目。
精霊石こそ用いていますが、実は精霊顕現とほぼ同義なことをやらかすという地味なフライングやらかす天才。
こんなことをしでかす破天荒と天災はやはり凶悪タッグなんですよねえ……。
なお、こういうところは後の伏線にもなったりそうじゃなかったり。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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