転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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先に言っておくと、久々の転天側新たなキャラ登場回です。
これまで散々地の文で関係示唆されていた誰かさん、45話目でようやくお目見え。
どこぞの元黒薔薇の魔女じゃないんだからさあ……。


45. それぞれの束の間

 

マドラーシュ達一行がカル渓谷より帰還するかどうかのある日のこと。

色々見失っていたものを見つめ直しては開き直ったユフィリアはとにかくその身を苛めていた。

魔力の刃を振るっては、時折火球や水球、風刃や軽めの地鳴らしを起こす。

 

(せめて錆を落とす程度にと想定していましたが……これはこれで)

 

そもそも、魔学の主であるアニスフィアが工房に籠ってしまっては助手も何もあったものではない。

王妃になる為の教育、マナーの練習、学院の授業……これらのように、彼女を追い立てるものは何一つない状態。

これからのことを考えるには何もすることがないのはむしろ悪いことではないのが、あまりに何もしないのは流石にどうなのか。

自然とそう考え、思いついたのがマナ・ブレイドを用いた鍛錬だった。

先日の離宮訪問でマドラーシュが武術を重点的に鍛えていると聞いたことを思い出したことが最大の理由か。

アニスフィアに帯同して素材確保の為に魔物と戦う機会も増える可能性も十分あり得る。

学院で武術を学んでいて、優秀な成績こそ収めているがそれは所詮井の中の蛙でしかない。

災害級と類されるドラゴンを倒した経験があるアニスフィアとは、比較するのすら烏滸がましいだろう。

マドラーシュとの比較となると、判断材料は出てきているが憶測の域から出られないのが実情か。

しかし、英雄レベルのグランナイツから何度も死にかけるようなスパルタ教育を受けていることは既知のこと。

よって、最低でもアニスフィアと同レベルに位置するとあえて仮定する……本当に最低限で、確実に上振れが発生するであろう仮定だが。

何にしても、今後を考えると真っ先に浮かんだのが鈍らない程度には戦闘を見越した武術と魔法を扱うことだった。

マナ・ブレイドを用いたのは、現在アニスフィアが工房で作っているものに推測の目途が立っているからに他らない。

なお、本人が思っていた以上にのめり込んでいるのはこれまた朱に交われば何とやらなのであろうか。

 

(それにしても、魔力刃と他の魔法の併用に武術の動きまで考えるとなると追いつかない……!)

 

ここはいっそのこと思い切って、欲張りであることを承知の上であることを試していた。

ユフィリアが試したのは、簡潔に言えば3つの要素のマルチタスクである。

マナ・ブレイドに魔力を通して刃を生み出しながら他の魔法を使うだけでもリソースは一気に圧迫される。

そこに武術まで考慮に入れると、例えユフィリアでも処理はそうそう追い付かない。

以前マドラーシュと決闘をしたアルガルドでも、足掻きの末に別種魔法をストックする形式の連続発動が限界だったのだから。

そもそも魔法使いとしての評価は、如何に強力な魔法が打てるかに比重が置かれている節がある。

しかし、天才と称される令嬢は逆らうように舵を取っていた。

そのように駆り立てるのは、開き直りから派生した新しいイメージだった。

泥を啜りながらも、死に物狂いどころか死にかけながらも決して折れずに前を、上だけを見て行く。

彼と同種の生きる上で必要な熱を、ここに来てようやく得ることが出来た結果と言えよう。

 

「お待たせユフィ、やっと完成したよ!……ってありゃ、お邪魔だった?」

「いえ、今一段落ついたところですので問題ありませんよ」

 

離宮の広場で響くのは、今日も元気に奇天烈中のアニスフィアの声だった。

呼ばれたユフィリアはマナ・ブレイドの構えを解いて声の主の方に目を向け──

 

「アニス様……クマが凄いことになっていますよ。ちゃんと睡眠は取ったのですか?」

 

その『作業に集中しすぎて寝るのを忘れました!』と言わんばかりのやつれっぷりに目を丸くしてしまっていた。

足元も覚束無い辺り、割と本格的な睡眠不足ではないかと視覚的に分かるほど。

 

「最低限の寝食はイリアが調整してくれるからモーマンタイだよ!」

 

まあ、笑顔に陰りは無さそうだし何とか大丈夫なのだろう。

無理やりユフィリアは内心で結論付け、言いたいことを忘却の彼方へ追いやった。

そうでもしないと話が進まないと思ってのことでもある。

 

「ところで、そのレイピアが先日言っていたものですか?」

「ふっふっふ、よっくぞ聞いてくれましたー!刀身は精霊石を練り混ぜた魔力導体!接合して埋め込んだから魔力伝導率は向上したはずだよ!理論上は投信への属性付与もきっちり補助できるはずで、更に魔杖のように魔法の媒体としても使える贅沢品!まあまだまだ微調整は必要だけどね」

 

まさに立て板に水と言わんばかりのだ。

全破壊すると言わんばかりの激流が如くアニスフィアの早口を前に、ユフィリアは呆気にとられてしまう。

その一方で、要所要所で聞き取ったレイピアの仕様に思わず息を呑む。

以前にマナ・ブレイドを見せてもらったときに、何の気なしに提案したことがそのまま取り入れられているのだから。

突貫作業が故にまだ完全ではなくとも、一見突拍子もないアイデアをあっさり実現するその手腕は驚愕に値するものだろう。

 

「こうして広場にいることだし、ちょっと試してみよっか!」

「それもそうですね。では、早速……」

 

アニスフィアから渡された剣を手に取って構える。

先ほどまでマナ・ブレイドに対してと同じ工程で、剣全体に魔力を通していく。

──『まるで長年愛用していたような感覚』、真っ先に浮かんだ感想だった。

魔力を通したことで剣と自分が一体化するような、そんな錯覚にすら陥りかけている。

その証拠に、刀身に練り込まれている精霊石が歓喜を表すように光り輝いていた。

 

「魔杖としては特に問題ありませんね。次はちょっと魔法を使っていきます」

「了解。的はあそこにあるから、遠慮なく当てちゃって」

 

前置きを伝え、ユフィリアは新たに魔力を練り始める。

魔力と共に自身が放つものの明確なイメージを精霊へ送る。

慣れ親しんだはずだが、いつもよりスムーズな感覚に心を躍らせながら魔法名を口にした。

 

「『ファイアーボール』!」

 

剣先から火の玉が発生し、的である木へと飛来していく。

なかなかの速度で放たれた火球は寸分狂いなく的に着弾、そこから焼き焦がすように爆ぜる。

火属性魔法では基本に位置するが、お試しで軽く打った割には想定以上の威力だった。

試作品でまだ調整が必要とのことだが、ユフィリアはその使い勝手に確かな手ごたえを感じていた。

 

「精霊石で精霊を直に感じ取れる分、魔法行使のイメージがしやすいですね。──これなら、行けるのでしょうか」

「あ、次は刀身の方だね……って、実践するの早いよユフィ」

 

剣を覆うように、被せるように刀身を形成する様を思い描く。

火や風はいきなり試すには危険があるので、用いるのは最も安全な水属性。

先ほどの火球と同じように、水の精霊石がユフィリアの魔力に共鳴する。

 

「『ウォーターブレイド』……そして」

 

水の刀身を作り上げることを一瞬確認すると、そのまま別の的に向けて駆け出す。

まさかの行動にアニスフィアも目を見開いているが、ユフィリアのやろうとしていることは更に想定外に位置するだろう。

そのことに気付くのは、ユフィリアが空いている左手で的を指差した時だった。

 

「──っ『ウォーターバレット』!」

 

指先から放たれるのは水の弾丸。

大きさは火球ほどではないが、それでも命中精度は一切狂いなく的に着弾する。

命中を確認するや否や、形成した水の刀身を維持したまま的に斬りかかる。

 

「おおおっ!まさかの連続発動!?すっごいユフィ!」

 

斬りつけた結果、真っ二つになった的を見てユフィリアはひとまずほっと息を撫でおろした。

まさかの水属性の連続魔法発動を目の当たりにして、当然初見であるアニスフィアのテンションは鰻登りである。

しかし、実行した張本人の表情は明るくも暗くもない……要するにいつものポーカーフェイス。

その内心では、結果に対する納得と不満が見事に綯い交ぜになっていた。

 

「刀身の方も問題なしですね。魔杖と魔剣……どちらの媒体としても私の知る限りでは最高の一品と言えるでしょう」

「私なんか水を垂れ流すしか出来なかったのに、やっぱりユフィは凄い!頑張った甲斐があったってものだよー!」

 

魔杖兼魔剣の感想に関してはこの通り文句などあるはずがない。

精霊石の細工のお陰で精霊への知覚が更に高い領域に引き上げられた感覚すら感じるほど。

その恩恵もあり、先ほどはどこかチグハグになっていた刀身生成と普通の魔法の完全な併用も何とか可能になった。

──だからこそ、ユフィリアの胸中には新たに納得のいかない点が生まれているわけで。

 

「ただ、この余りある高性能が故に扱う私自身が追いついていない感覚もありますね。勿論使用する際の性能は素晴らしいのですが、まるで私が剣に引っ張られているような……主導権を握り切れていないというか……上手く言えないのですが」

 

操っているのは自分のはずなのに、魔剣兼魔杖に手綱を握られている。

本来の魔法使いならば感じる必要のない違和感だ。

魔法を扱うならば、精霊からもたらされる感覚に引っ張られるのは本来有難みを覚えるところなのだから。

しかし、今のユフィリアはどうしてもそのような楽観的な考えを持つことが出来ないし、その感覚に身を委ねることにも疑問を覚えていた。

何かに引きずられているだけという感覚は、自我という要素が希薄になってしまうのと同義ではないか。

かつての求められた役割に殉じて、己を殺していた自分に逆戻りしてしまうのではないか。

その無意識下の恐怖が、本来誉れと言われていい感覚に対して拒絶反応を示す要因となっていた。

 

「まあ、私の方もかなり張り切って性能盛っちゃったところもあるからね。その辺りも調整した方がいいかな?」

「いえ、アニス様のお手を煩わせるつもりはありません。性能面は間違いなく考え得る限りの最高級の武器ですのに、わざわざ下方修正するなどそれこそ勿体ないでしょう。手綱を奪い、乗りこなしていけばいいだけの話です」

 

性能調整で自分のレベルに合わせるのではなく、逆に自分自身が武器に合うようにレベルを上げると宣言するユフィリア。

その姿に、アニスフィアは一種の男気を感じて危うく見惚れかけていた。

しかし、彼女には想い人(仮)がいるので何とか踏み止まって見せる。

こういう空気が読めるところもこの姉にしてあの弟というべき……なのだろうか。

そんな気遣いと共に、一つの懸念事項が浮かび上がっては思わず口に出していた。

 

「……もしかして、イグノックスに言われたことを未だに引きずって無理したりしてない?」

 

グランナイツ屈指のひねくれ者から発せられた、かの破天荒に釣り合わないという忠告。

その言葉を受けてからのユフィリアは、とんでもない重しを担いながら五里霧中を彷徨っていたと言っても過言ではなかった。

そんな様子を身近で見ながら、奇天烈王女はどのように突っ込めばいいか頭の片隅でひたすら思案していたものだ。

もしそこから派生して、自棄のような行動を起こしているなら諭すつもりではあったが……。

 

「正直、未だに尾を引いているところはありますね。だからこそ、こうして我武者羅になっている側面もあるのですけれど」

「我武者羅かあ……うん、ある意味で開き直りってところか。でも無茶は禁物だよ?」

「無理の範疇であれば多少はお許しください。無茶や無謀の領域まで来てしまった時は改めて止めて頂けますか?」

「うん、その感じなら大丈夫ってことね。私の与り知らないところって言うのは複雑だけど、ユフィの中にある靄が無くなったからよしとしましょう!」

 

まさに、終わりよければすべてヨシ!

内心でヘルメットを被ったネコのポーズを浮かべてその話題を終えることとした。

 

「それにしても、ユフィって結構負けず嫌いなんだね……そこもマッドくんの影響だったり?」

「……何故そこでマッド様が出てくるのですか?どうやら、寝不足で頭の働きが鈍っているご様子のようですね。早く睡眠を取ってください」

「誤魔化してるようだけど、顔がうっすらと赤くなってるよ?」

「どうやら視覚も怪しいようですね。本当に早く眠ってください。何なら、無理やり寝かしつけますよ?」

「ああもう分かった、分かったから!全く、変なところで強情なんだから……」

 

アニスフィアの睡眠不足で誤魔化そうとするごり押しっぷりは傍から聞いても面白かったようで。

唐突の眠気に襲われ、地面とお友達になりそうになる主の不手際を見事なカバーリングで回避したイリアからも。

 

「対マドラーシュ様の方も焦らずにですよ、ユフィリア様。そちらの方も姫様共々微力ながらお助け致しますので」

「だからどうしてそういう話に持って行くんですか!あくまで彼の背中を追うと、そう言いましたよね!?」

 

恐らくこの状況でそのような方向に持って行かないのはイグノックスくらいだろう。

それほどまでに今のユフィリアの表情は分かりやすいし客観的に見て弄りたくなる類なのだ。

眠気と最後の闘争をしながら、アニスフィアは誰にも聞こえないように呟く。

 

「ああ、これがギャップ萌えってやつなんだろうなあ……っていうか、イリアには相談してたってわけ、なのね……」

 

……少々ばかり寂しいところではあるけども。

ただ、イリアならば冷静に意見を述べて諭す姿が容易に想像がつくし……まあ、気を遣ってくれたところもあるのだろう。

──こんだけいいとこ尽くしの女子の無自覚アプローチを受けて何故その気にならないなんて、一体どういう精神構造をしているのか。

まだ顔を合わせられていない、妙にガードの硬い末弟を思いながらアニスフィアは睡魔との格闘に白旗をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カル渓谷への遠征から2日ほどが経過した。

あれから俺とラス達はベル教授と共に王都に無事帰還。

早々にラインヒルト先生とデイジー師匠、カルリッツ父さんに渓谷での事の次第を報告、ようやっと一息入れられるように。

神獣グリフォンと一戦交え、無事に鎮静させたことに関してはラス達がきっちり評価されていたな。

下手すれば王都に暴走グリフォンが来ていたわけで、そうなりゃどこぞの災害級トカゲなんざ比にならないことになってただろうし。

俺たちかグランナイツ以外誰も相手出来なかっただろうから、当然と言えば当然だな。

これでまたラスたちは一歩正騎士が近づいた……っていうか、もう手前だったりするんじゃね?

ちなみに、火傷の詳細を根掘り葉掘り聞かれてはデイジー師匠に軽く怒られた。

軽くなのは、過程でどうしても必要だったと理解してくれたこととグリフォンにとどめを刺したのは俺だからだとのことで。

あっぶねー、俺が倒してなかったら正座半日コースだったかもってことか。

まあ、その分帰り道でナマリエにしつこく言われ続けたんだけどな……。

キーストーンについては一旦はベル教授に預けている。

彼自身も気になるブツって言ってたし、ならばと研究材料として貸与したってわけさ。

落ち着いたら真っ先に俺に返すという約束も取り付けられている。

俺としては別にあちらが持ったままでもいいんだが、そこは防衛の強固さを考慮しての事だと。

後は……キーストーンを求める不届きな連中が他にいるかもしれねえって話もあったな。

当然、先日のブローチ盗難事件のことも踏まえてのことなんだろうけど。

最近の王国内の魔物の活性化の件も踏まえ、より手広くその手の情報に注視することとなった。

まあ、暫くの間はキーストーンの争奪戦になってくるってわけだ。

あの連中が狙ってるのは分かりきってるのだが、他にもどんな勢力があるかが想像も付かねえ状況だ。

アーイレン帝国の過激派辺り、存在を知ったら血眼になって探しそうだからな。

ああ、偉志ノ大陸はほぼ除外と言ってもいい。

あそこもキーストーンの存在は認知しているが、悪用されないように守る側だからな。

パルヴァネ師匠とユナが主にその役目を担い、陽ノ花家も加わってたし。

……だからこそ、あちらのきな臭い状況ってのもキーストーン関連じゃないかって思っていたりする。

キーストーン関係はこれくらいにして……後は、俺たちが渓谷に行ってる間に姉上とユフィリアが離宮を訪れたとか何とか。

何で俺の嫌な予感ってのは、ここぞとばかりに当たるんだ?、

しかもそのタイミングでイグノックス兄さん、クリスティーナ姉さん、エリオ姉さんまで訪ねていたとまで聞いた時は流石に固まってしまったぜ。

俺の代わりに離宮内掃除してくれたのはありがたいことだから、そこは何かかしらか礼はさせてもらうとして。

だがその代わり、二人に随分とまあ色々と暴露してくれたんだよな……。

まあ、肝心なところは随所で隠してくれたってのが唯一の救いか?

陰のやりたい放題の更に裏でやってることなんて、あの二人には特に知ってほしくねえ。

とまあそんなこんなで、俺とラス達は普段通りの日常に一旦戻ってきたわけだ。

そんな中、俺は単独で貴族街から盛大に離れたところのとある別邸に訪れていた。

7年前からちょこちょこ来ているが、今回は割と間隔が空いてしまったな。

 

「こうやってそのわけの分からない傷と魔力の状態を見るのもすっかり日常と化してしまったわけだけど、これで変な噂が立ったらどう責任を取ってくれるのかしら?」

「こちとら代替品意味なし王子だぜ?こんな辺鄙な別邸に通い詰めたところで、大した噂になりゃしねえだろ。ティルティお嬢様が昼間から俺と外出していましたなんて、そんな目撃情報があれば話は別なんだろうが」

「あら、口説き文句で私に死ねとか言い出したわこの第二王子。怖いわー」

「日に当たって死ぬとか、日光の克服を見事に忘れたヴァンパイアか。まあ強要はしねえが、忠告はしたからな?」

 

グリフォンとの戦いで魔力を吸った際に起こった火傷と、異質な魔力を吸った副作用が何か無いかの検診をテキパキと行いながらも、口を開けばいつもの皮肉混じりの雑談。

そんな器用なことをするのは、雰囲気から服装まで陰気で染まり切ってもはや闇色清一色な侯爵令嬢の名は、ティルティ・クラーレット。

『食料の番人』と呼ばれるほど民からの信頼が厚いクラーレット侯爵家の長女。

そして、さっきのやり取りで分かるように重度の引きこもりである。

俺にとっては7年ほどの付き合いの友人ないし腐れ縁、んでもって姉貴分と思えるところもある存在かねえ。

……そういう怪しい関係じゃねえからな?

 

「それにしても、暴走した神獣の魔力を例の呪い対策で対処だなんて随分思い切ったことをしでかしたわね。それで魔力に何もおかしなところが無いと来てるのだから、いよいよもって姉君に倣ってトチ狂い王子も秒読みかしら?」

「『無慈悲な主演』とか『無慈悲な七つ夜』があるから間に合ってるっての。まあ、魔力に問題ねえんだったら何よりだ」

「傷の方も少しは気にしなさい……あくまで単純な雷属性由来の火傷みたいだし、いつものを用意しておくわ」

「酒みたいなノリで薬を用意するんじゃねえよ、呪いオタク」

 

ミルクでも貰おうか……って言うべきだったなのかね。

にしても──トチ狂ってるとは、随分と嬉しい言葉を寄こしてくれるじゃねえか。

顕魂術とか俺の冒険者時の二つ名とか、本来なら隠すべきことをしれっと混ぜて大丈夫なのかって?

別にこれは俺の不注意とかそういうのではなく、この呪いオタクは知っていて何ら問題ないからってだけのことだ。

ティルティはかなり稀少な例外……グランナイツとラス達、セラとアル兄さんと同じ側の人間だ。

そもそもの馴れ初めは、エリオ姉さん経由の魔法が上手く使えない色々な事例の聞き込みをしていた頃。

すなわち、顕魂術開発の前段階……魔法解剖を嬉々としてやってた頃だ。

上手く使えないというのにも種類があるが、このお嬢さんの場合は魔力を精霊に取られすぎるってより面倒なケースだ。

しかもそのせいで当時は荒れてて、碌なコミュニケーションも取れなかったっけか?

すぐにキレたりイライラしたり、見た目に似合わず随分な暴れん坊令嬢だったな。

俺も一度魔法を向けられたが、最小限の労力で傷つけずに抑えてやったぞ。

あの頃は既に王国の東側でそれなりの魔物を相手取れるほどの地力ではあったし、デイジー師匠から対人制圧も学んでたらな。

そんないい練習相手がてらに抑え込んだら、改めて自身の境遇と如何に魔法を嫌い呪っているかを話してくれたっけな。

 

「もう8年経つのね……あの時は本当に驚いたものよ。暴れる私を魔法が使えない第二王子に綺麗に抑えるなんて、それはもう色々な意味で面白かったわね?」

「傷は作ってねえんだ、そういう責任はノーでよろしく頼むぞ」

「あら、なら私を呪術の道に引きずり込んでくれた責任なら取ってくれるのね?」

「それはお前が勝手に沼落ちしたんだろうが、この呪いオタクめ」

 

呪術の道とはなんじゃらほいってなりそうだから、続き行くぞ。

始まりこそ随分物騒ではあったが、とある理由から俺たちは時折顔を合わせてた。

俺とティルティは魔法に対するスタンスがそれなりに似通っているという、至って単純な理由だな。

先ほどの事情から、ティルティは魔法を呪いとまで称している。

俺は魔法至上主義に嫌悪を抱いていて、魔法そのものも精霊依存を強要される一種の鎖と思っている。

3歳から抱えているこの激情をその経緯と共に話したら、それはもう見事に意気投合したってわけさ。

嫌いなものを共有しているからか、割と強固な一致団結じゃねえかって俺は思ってるよ。

そんなティルティだからこそ、顕魂術のことも話したらさぞ面白そうにしていたな。

最悪と言える制約が無いからやりたい放題出来るってのもあるが、それ以上に既存概念としてある魔法の面目を潰し得ることに喜色満面だったな。

『滅茶苦茶楽しそうだからいいぞもっとやれ』って活動を推されたくらいさ。

顕魂術そのものが最終テストのみになったって段階では、グランナイツよりも先にテスターとして志願してきたくらいだからな……。

偉志ノ大陸の技術体系も用いられてるって知ってるから、新たな呪いを生み出せるかもしれないとそれはもう陰気全開の意気揚々っぷりだったよ。

その見事な陰陽矛盾しまくりな様子は、見ていて微笑ましくなったくらいさ。

それで顕魂術をベースに生み出される呪いということで、『呪術』という新たな体系を勝手に名付けたと。

王国外や偉志ノ大陸にいる魔物の魔石は呪いのイメージがあると知ったらもう色々催促されて。

……まあその見返りとして半ば専属薬師兼医師やってもらってるわけだから割と関係としてはwin-winなんだがな。

ちなみに、薬師兼医師なんてやってるのは薬や医学で治せない症例……要するに呪いを見つけやすくするためだとか。

こういうところもまた呪いオタクである何よりの証左だ。

まるで救いようがねえが、これぞティルティ・クラーレットってことで流してるがな。

コイツとの共同研究はキュイのそれとはまた違った楽しさがあるし、腐れ縁やってて悪い気もしない。

だがどこかの麗しき公爵令嬢の方で責任を果たすってのは満腹なんだ。

そういう責任はもう受け付け終了だ、じゃないと俺がやってられん。

 

「そんな昔話はいいとして、そっちの進捗はどうなんだよ。楽しい呪いのイメージは降って来たか?」

「そうホイホイ出来るものじゃないわよ。じゃなければ、私の求めるような呪いなんて夢のまた夢よ」

 

まあ、今日顔を見た時の様子でそれは分かってたけどな。

さっきも言ったが、呪いってのは一般定義で薬や医学で治せない症例を指す。

魔力の強制枯渇問題が解決したとしても、顕魂術となるとより強力なイメージが必要になるからな。

行き詰まる時は、とことん行き詰まってしまうものだ。

 

「マンネリ解決するためにも外出た方がいいんじゃねえか?精神的刺激がねえと、彫魂石ごと魂が腐っちまうぞ」

「精神的刺激ねえ……それなら、件の突然発生したグリフォンの魔石を見せなさいな」

「何が何でも外出るつもりねえんだな。更にはしれっと自分の欲求ぶちまけやがって……」

 

流石は引きこもりの権化、全くブレねえな。

まあそんなこともあろうかと持って来てある俺もどうかと思うんだがな……。

グリフォン……いや、個体名『カルマ』の魔石を取り出し、渡してやる。

本体は呪いとか一切関係ないだろうが、元々がキーストーンによる反転で産み出された代物だ。

この呪いオタクに見せれば何か面白いことが判明するかもと思い、初めから見せるつもりだったのさ。

その手の魔力知覚は俺でも敵わねえからな。

その特化っぷりは、キュイやセリアードとはまた趣が異なる天才と俺は思ってるくらいだ。

 

「……これまでに見た魔石とはまるで違うわね。神獣を反転させた例の──キーストーン?その魔力が呪いみたいに残留してる感じね。ふふ、これはこれでなかなか……」

 

やっぱり暴走した際の副産物だからそうなるか。

ところで、呪いが残ってると知るや否やすっげえ嬉しそうな顔してるところ悪いんだがな。

折角の美人が台無しになってんぞ、おい。

別に俺にとっては今更で気にすることでもねえが……回を経る度に、徐々にホラーの度合いが高まってきてるぞ。

この様子じゃあ、俺レベルの物好きじゃねえと貰い手出てこねえんじゃないか?

まあ、本人その気が無いようだからいちいち説教かますつもりはないがね。

 

「……いっそのこと、マッド様も呪いを刻む気とかあったりしないかしら?いえ、もうその気になりなさい。『マッド』って呼ばれてるくらいなんだからそうなるべきよ。そうすればインスピレーションなんていくらでも沸かせてやるわ」

「わー何も知らねえヤツが見たら美味しい場面のはずが、現実を知ったら色々と醒めるヤツだこれー。それ以上やったらマジで外に連れまわして溶かすぞコラ」

 

そんな恍惚のヤンデレ顔で迫るんじゃねえ、素が美人な分怖いんだっつーの!

肩を掴む力が入ってる辺り、余計に物騒極まりねえんだが!?

この引きこもりめ、パレッティア王家を極道にでも染め上げる気か。

にしても……刻印を自身に刻むなんて取り返しのつかねえこと、よくもまあ姉上はやったものだ。

何か魔石そのものに屈服している感じが腹が立つから、俺はご遠慮願う。

全く、俺からすれば姉上のあの魔法への憧れと執着も呪いの一種に見えてくるよ。

まあ、傍から見れば俺の魔法至上主義に対する憎悪やグランナイツに追いつきたいという憧憬も似たようなものなんだろうがな。

ただ、あの人の場合は魔法への執着以外にもなんかあるんじゃないかって最近思ってる。

行動の1つ1つを切り取ると、何か強迫観念みたいなものが見え隠れしてるような気がするんだよな。

まあ、俺の気にしすぎかもしれねえけど。

 

「……考えてみたら、アニス様の持ってきたドラゴンの魔石に比べてかなり小さいわね。これじゃあ刻印に使うなんて勿体ないじゃない。これだけ希少なケースの魔石を刻印で全部消化なんて以ての外……危ないところだったわ」

「論理的に戻ってきてくれて何よりだ。その分貰うイメージには期待できそうだし、落ち着いたらまたサンドバッグを探しに行くとするよ」

「ドラゴンがキーストーンを誤飲して、それが暴れてくれたらまた面白い呪い由来の魔石が増えるのよねえ……いっそ、マッド様が自分から試したらどうかしら?」

 

確かに楽しそうかもしれねえが、面倒にもなりそうだから余計なフラグ立てるのはマジで止めろ。

せめて俺たちアダマンタイト級トリオ辺りが事前察知できる範囲にしてくれ。

無論、事前に分かっていても面倒なもんは面倒だけどな。

これ以上持たせてたら、いつまた呪いオタクの本領を発揮されるか分かったもんじゃねえな。

ということで、カルマの魔石はキュイのちょろまかし癖防御術と同じように取り戻させてもらった。

さて、一応用は全て済ませたからこのまま帰っても何も問題はねえんだが……。

 

「久しぶりに来たんだから、私の呪術開発を手伝いながらもう少し近況報告を聞かせて欲しいものね」

「そこは嘘でも『数少ない雑談相手が来て嬉しいからもう少し一緒にいろ』ってくらい言ってくれりゃあもう少し快く受けてやるんだがな」

「あら、マゼンタ公爵令嬢と仲良くやっておいて更に私まで?第二王子様は気が多いわねえ、姉上様と兄上様が泣いちゃうわよ?」

 

確かにティルティは呪いオタクで引きこもりで……一般的に括るとそれはもうどうしようもないお嬢様だ。

だからこそ面白いし、付き合い甲斐があるわけで。

一緒にいても突っ込み過ぎず引きすぎず、そんな絶妙な距離感を互いに保っているのも腐れ縁を続けられている要因だろうよ。

……まあ、個人的には普通にいい女に分類されるわけだ。

ユフィリアも別ベクトルではあるが同じことで……まあ、俺のようなロクデナシにはもったいねえだろ?

──だが、今の俺にはそんなことを考える余裕などありはしない。

いや、仮にあったとしても現を抜かすつもりはねえな。

余計な寄り道をしてしまえば、その分腑抜けになりかねない。

あの日から滾っている魂がそう言ってるんだから、どこまでも従ってやるさ。

 

「──またそんな顔をして。アンタの呪いは本当に難儀でどうしようもないわねぇ……ま、だからこそ見ていて飽きないしこうして腐れ縁続けてるわけなんだけども」

「ああ、まさにその通りだ。だが、この呪いがあるからこそ俺は俺でいられる……っと、蛇足だったか。とりあえず他にも持ってきたもんで色々試すとしますかね」

「そこまでやる気ならとことん付き合ってもらうわよ。フフフ、久しぶりに腕が鳴るわね……」

 

──ったく、日常に戻ったはずなのにこれはどうなんだ。

実はまだグリフォンの魔力の影響が残ってて、魔石と共鳴したりしてんじゃねえのか?

腑抜けにならないようにとは言うが、スイッチ一つで切り替えられないってのも問題だ。

恐らく姉上とユフィリアの方も一旦落ち着いただろうし、いずれ顔を合わせる時も来る。

俺もまた上手くやらねえといかんのだが、この状態の俺だけは絶対に見せられないし見せたくない。

こんな狂気に塗れた姿を、自分から見せるつもりは毛頭ない。

今の段階では巻き込むなど以ての外だ。

まあいい、今はこの腐れ縁との顕魂術研究で色々紛らわすとするかね。

 





呪いオタクことティルティ・クラーレット、満を持してご登場。
割とお待たせした自覚はありましたし、何ならもう少し早く出せたんじゃね?となったところはありました。
今回の話で分かる通り、マドラーシュとは腐れ縁かつ共犯関係で、互いの理解度も相当深め。
それでいて適切な距離を互いに保っている、絶妙かつ相当美味しいポジションにいたり。
互いにどう思っているかは、まあ見てまんまということで……。
今回二人がしていたような話が後に役に立つのは……まあ原作知っていれば分かるはず。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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