転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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というわけでスタンピードin黒の森、ここは書籍版の流れも混ざってます。
エアドラ(試作)を使ってる?……まあほら、魔女帚も持って来てますので。
なお本作ではボスが若干変わっております。
また、結構『おい!?』な改変がありますのでそこもご注意を。



47. より暗きは黒の森

 

2度目の空の旅は、やはりというか過激なものでした。

しかし、最初の箒1本の時に比べれば天と地ほどの差はありましたね。

死にそうな目にはあっていない、この一点だけで随分な違いですよ……。

 

「ユフィ、もう着いたけど大丈夫?顔色ちょっと悪いけど、乙女の尊厳の危機とか平気?」

「もう少し優しく運んで頂けたなら、だいぶ違っていたのでしょうが……」

 

その心配は、移動する前からしてほしいものです。

うう、まだ少しばかり視界が揺らぎます……。

しかし、いつまでもこうしていては埒が明かないので、半ば意地で持ち直した。

もう目の前はスタンピードの現場。戦場においての心構えが出来てないと一瞬でやられかねないのだから。

 

「何か変な音がするかと思ったら、まさかの『狩猟の略奪姫』じゃねえか!」

「おお、見た目だけは可憐で奇行ばかりやってのけるマローダーが来たか!」

「こらぁ!誰が『狩猟の略奪姫』よ!せめてマッド……じゃダメだ。とりあえずクレイジーにしなさいクレイジーに!後見目だけって失礼しちゃうわね!これでもそれなりだと思ってるんだけど!」

 

アニス様の姿を見た他の冒険者たちがすっかり沸き立っている。

それにしても、『狩猟の略奪姫』って……。

一体どれだけの素材を独り占めしたらそんな二つ名がつくのでしょうか。

以前に聞いた『無慈悲な七ツ夜』や『無慈悲な主演』の方がまともな呼び方に思えてしまうほどですね。

『無慈悲』という単語もあくまで魔物に対してで、その様子から畏怖されて生まれたと推測できますから。

──要するに、アニス様のその評価は間違いなく自業自得ですね。

 

「アニスフィア王女殿下!?それにユフィリア公爵令嬢!?」

「お、スプラウト騎士団長!いいところに来てくれたね」

 

ただのスタンピードで、騎士団長が現場に急行している……?

彼の姿を見た時点で、私の中ではこの戦場に対し嫌な感覚が駆け巡っていた。

──何でしょう、この常時電撃が走るような感覚は。

 

「何故お二方が既にスタンピードの現場と化した黒の森に……?」

「高位ランクへの緊急招集があったから参上したんだよ」

「……私はアニス様の助手ですので、同行者として帯同しています」

 

──アニス様の返しを聞くと、騎士団長は頭を抱えていた。

ヘルムでその表情は窺えないが……恐らく、頭痛に苛まれている時のイリアと似たような顔をしていることだろう。

まあ、王族とあろう者がわざわざスタンピードの現場に直行すれば大体の人間がこうなりますよね……。

 

「王女殿下がゴールドランク冒険者であらせられることは存じております。魔物の素材をお求めになっていることも。ですが!今回はただのスタンピードではないのですよ!?」

「ただのスタンピードじゃないって、まさかドラゴンが現れたとか?」

 

──ドラゴン?いや、きっとこれはそれだけではないはず。

先ほどから徐々に強くなっているこの感覚は、もはや既知のものとは明確に違う気がする。

私のその予感は、次の騎士団長の言葉で現実となった。

 

「今回のスタンピードは『黒龍の余波』由来です。それに加え、奥に魔石持ち出現の兆候もあると報告がありました」

「黒龍の余波と魔石持ちの発生が同時に!?」

 

もはや完全に未曽有の事態ではありませんか!

更に魔石持ちの詳細が出てこないということは、斥候も上手く行ってない可能性が高い。

恐らく、私たちが王都から発つ時はまだ本格化していなかったのでしょう。

……何という、間の悪さ。

しかし、現場に入ってしまった以上は見て見ぬふりは出来ません。

何とか立ち回りを考えなければならないですね……。

 

「え、ということはもしかして素材も色々強化されてるかもってこと!?更に奥には強化魔石持ち!むしろ好都合じゃない!猶更行かないってのは有り得ないね!」

 

──ああ、失念していました。

魔法の憧れ過ぎて行動が突拍子もないことで定評がある人のことを。

未曽有の事態を逆にチャンスと捉えるなど、その思考回路はまるで理解でき──

『未知の事態への直面は、裏を返せば不足を埋める大チャンスなのさ。怖気づかずに突っ込んだ方が楽しめるぞ』

──なくもないですね、今の私なら。

脳裏に浮かんだのは、マッド様の経験談から来たこの言葉だった。

遥か先にある高みへ向かって、年齢や立場を言い訳にせず、ただひたすら進んで行く。

そんなあの人がこの状況に直面したとしても……きっと、同じ顔をするはず。

事態が事態だから、楽しむのは流石に不適切でしょうが……。

糧にするために足掻くくらいならば……許されますよね?

 

「それで、騎士団と冒険者の防衛線はどうなっているのですか?」

「かろうじて維持出来ている状況です。しかし、奥の魔石持ちが動き出したら甚大な被害は免れないかと」

「──しかもそれがドラゴンみたいな飛行種だったら王都に行かれる危険性すらある。だからここで食い止めておきたいってことだね」

 

最悪の事態まで想定するなら、アニス様の仰る通りですね。

現状防衛線を維持できているのは不幸中の幸い。私たちが急行してきたことがここに来て効いてきますね。

恐らくアニス様も、ある程度のところまでは同じことを考えているだろう。

 

「なら、私とユフィが遊撃で動いて魔石持ちのところまでの勢力を削れるだけ削る。その間に怪我人の救護と支援をお願いできる?」

「その間に防衛線を確実に立て直して、私たちが魔石持ちと相対する頃合いで殲滅役を交代する流れですね」

「おお、さっすがユフィ話が早い!これならもし奥にいるのが飛行種だったとしても、唯一と言ってもいい空を飛べる能力を持つ私が相手出来るっていう寸法!」

 

理には適っていますし、私もほぼ同じことを考えてはいました。

たった一つの懸念事項を無視すれば正着とすら言えるやり方でしょう。

──ただ、騎士団長はその懸念事項を逃していないようですね。

雰囲気からして、完全に納得している様子ではない。

 

「確かに貴方様の実績に匹敵する者は王国内でも決して多くはない。ですが──本気、いえ正気なのですね?」

「私は本気だし、ちゃんと正気だよ。これでも納得できないなら、あえてこう言わせてもらうよ。──これは、パレッティア王国の王女としての命令」

 

『私たちが露払いを先にして、未確認の魔石持ちの元へ向かう。私たちが大物と接敵したら、スタンピードを押し留める役目を任されて欲しい』

正式に王族の命令──従わざるを得ない大義名分を、アニス様は与えていました。

時間がないとはいえ、なかなか強引な手段を取るものです。

しかもその最終手段を自分から危険に赴く形で使おうとは……。

 

「──そこまでされては、従うしかありませんね。ユフィリア公爵令嬢も同行されるのですか?」

「初めからそのつもりでしたから。護衛は大丈夫……とは言い切れないですが、救護と支援の方に割いて頂ければと」

「むしろ私が護衛するつもりで行くよ。周りを見て、いざって時は大規模魔法で殲滅をお願い出来る?」

 

アニス様が前衛ならば必然的にそうなりますね。

理論上のアルカンシェルの性能ならば、ある程度前衛に回りつつ補佐も出来なくはない。

しかし、今の私では荷が重すぎる役割だ。

刀身を形成している、またはその発動を意識していると他の魔法の行使はどうしても遅れてしまう。

──ならば、基本後衛に徹して時折降りかかる火の粉を払えるように注意することを徹底するべきですね。

その上で余裕があったら、露払いをお手伝いするという方針でいきましょう。

 

「では、私は支援態勢を整えて参ります。お二人とも、ご武運を」

「騎士団長、貴方もね!さあユフィ、私たちも行くよ!」

 

騎士団長と同時にアニス様も駆け出していく。

きっと黒龍の余波を受けた魔物の素材がよほど欲しいのでしょう。

ですが、一つだけよろしいでしょうか。

 

「私を後衛に据えるのでしたら、もう少し陣形というものを考えて動いてください!」

 

そう言いながら、私も駆け出していく。

──先ほどから痛いほどに感じるこの感覚への恐怖は今はとにかく振り払わなければ。

とにかく、私は自分の出来ることをしなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒の森をアニスフィアはひたすら駆けていく。

今回のスタンピードが黒龍の余波によるものと聞いた時は歓喜で爆発しそうなものだった。

王国内のスタンピードは一般的に2つのケースに当たることが殆どだからだ。

13年前の討伐戦直後から暫くはかなりの頻度で発生したが、ここ数年ですっかり鳴りを潜めている。

その異端と言える事象を、彼女は知識でしか知らなかった。

しかし今、それが目の前で起こっている。

それも、魔石持ちも現れるというイレギュラーが重なるという未曽有のケースを携えてだ。

一体どれほど奇妙な素材が手に入るのか。

あわよくばでどのような魔石が手に入るのか。

そこから、どのような自分の『魔法』を編み出すことが出来るのか。

その顔はまさに、奇天烈上等奇行万歳といったところだろう。

 

「これは大漁だね……!それに気配も普通と違う。これだとみんなが苦労するのも頷ける──そうなると」

 

溢れ出す魔物の群れが視界に入る。

スタンピードの規模としてもかなりのものだが、それ以上に魔物が纏う濃密な気配を感じた。

アニスフィアの経験から測っても、大体の魔物が通常より強力になっている。

更に今回は露払いの役割も担うと豪語したので、彼女は開幕から奥の手を使うことを決めた。

 

「初っ端からエンジン全開で行かせてもらうかな!」

 

背に刻まれた刻印に魔力を通す。

以前に討伐したドラゴンの魔石を溶かした刻印は、アニスフィアの魔力を対価に秘めた力を与える。

アニスフィアを覆うのは、ぼんやりとしているが確かな力を感じるオーラだ。

魔石そのものに刻まれた力は、生前の姿を模すようにアニスフィアに装われていく。

角、爪などの分かりやすいところから、瞳の色彩や瞳孔という細かいところまで。

ドラゴンに近づいていくその様は、まさに呪詛をかけられたと言ってもいいだろう。

同じく竜であれ、同じく強き者であれ……そんな言霊をアニスフィアはいつものように感じていた。

 

「行くよー!まずはそこのグレイウルフからね!」

 

身体強化が馴染むな否や、マナ・ブレイドの魔力刃を展開し地を蹴る。

宣言通り、最も近くにいる薄っすらと黒い瘴気のようなものを纏う灰色の獣に肉薄していった。

接近するアニスフィアに気が付き視線を向けるも、その瞬間にその首は落とされた。

 

「まずは1つ。続いて2つ!更に行って3つ!4つ、5つ、6つ!どんどん行って7つ8つ9つ!」

 

もう片方の手にもマナ・ブレイドを握り、二刀で魔物の首を次々と落としていく。

その様はまるで円舞を彷彿とさせる。

魔物たちもやられてばかりではいられずに飛びつこうとするが、その瞬間にどこかしらかが斬り落とされてしまう。

黒龍の余波で強化された魔物たちでも、ドラゴン由来の身体強化を得たアニスフィアには届かない。

 

「グレイウルフ、キラーエイプ、更にコカトリス!おお、確かにちょっと上位種って感じがするね!素敵すぎる!」

 

明らかに質が違う素材たちを見て、一体どれだけ懐が潤うのだろうかと身を震わせていた。

しかし、喜びに水を差されるのもまたすぐのことだった。

 

「ちょっと、何しでかしてくれてんのよ!」

 

アニスフィアが見たのは、魔物たちが屠った死骸を踏みつけていく光景だった。

普通なら何でもないことだが、今の彼女にとっては死活問題である。

何せ、目的である素材が傷ついてダメになってしまう可能性があるのだから。

──怒りの琴線に触れた愚か者には天誅を。

そう言わんばかりに、マナ・ブレイドの刃は急速に伸びていく。

両手で握られているから、作られた刃はクレイモアを彷彿とさせるほどのものに。

そこから1回転して水平に刃を振りぬいた。

もし片手でやっていれば、どこぞの緑な勇者の回転切りそのままだったかもしれない。

逆鱗に触れるという愚行をやらかした魔物の群れは、1体残らず真っ二つの刑に処されていた。

 

「黒龍の余波があってもお構いなしか……」

「これ、魔石持ちがいたとしてもそのまま行けちゃう流れでは……?」

 

遠目で眺めている冒険者と騎士たちは恐怖に慄くとともに、そのままアニスフィアが解決してしまうのではないかと期待もしていた。

それに対して、アニスフィアの戦いっぷりを眺めながらも状況把握に努めるユフィリアが抱くのは──

 

「……これは、負けていられませんね」

 

恐怖や畏怖ではなく、あろうことか対抗意識だった。

見たところ、黒龍の余波を受けたとは言っても平均的な力量が劇的に上がったというわけではない。

1体1対を確実に処理をするか、一気に殲滅するか。

どちらの方針を取るにしても、これくらいは自分も何とかなる。

──そう思っているところに、早速自分の出番であることに気が付く。

 

「アニス様、一旦下がってください!あの喧噪に乗じてまとめて叩きます!」

 

アニスフィアを脅威と判断して再度群れを成そうとしている魔物たち。

しかし、ここで黒龍の余波の特徴である『挙動が一律ではない』という点が働いていた。

要は踵を返そうとする魔物も現れたのである。

それが起こったのが先頭に近い魔物のようで、完全にどこぞの即売会会場ですかと言わんばかりのもみくちゃ状態とかしていた。

マドラーシュとセラがこの場にいたら大笑いしていたことだろう。

 

「《此処に望むは灼熱の檻 目に映す全てを包み込み 悉く灰塵と化せ》」

(詠唱付き魔法!?しかも凄い早い……!早く引いておいて良かった!)

 

前世で散々噛んだ早口言葉。脳裏に浮かんだのはまさにそれだった。

雑に聞こえるかもしれない詠唱だが、ユフィリアがそのようなことをしないことはアニスフィアは分かっている。

アルカンシェルに対する熟練度を上げる際に、このような高速詠唱によるイメージも試したのだろうと結論づけていた。

問題はどれほどの威力なのか──

 

「『エクスプロージョン』!」

 

そんなアニスフィアの心配も杞憂に終わった。

魔物がごった煮返す中心をそのまま爆心とした上位火属性魔法『エクスプロージョン』

先ほどのアニスフィアが引き起こしたものとは別の地獄絵図を作り出していた。

クレーターと共に消し炭となった大半の魔物が確認されるが、ユフィリアはまだ警戒を解かない。

 

「──まあ、どうしても残りますよね。だからこれはおまけです、『フレイムウィップ』!」

 

それどころか、『エクスプロージョン』の範囲から逃れていたキラーエイプを火の鞭で追撃する。

詠唱付きの大規模魔法に続いての、単体攻撃を目的とする攻撃魔法の発動。

そのタイムラグは離宮で試していた時よりも更に短くなっていた。

まさか気付かれているとは思ってもいなかったのか、すんなり鞭はキラーエイプに巻き付き燃え上がる。

この魔法はアニスフィアも初見のものだったので聞こうとするが、その前にユフィリアは駆けだした。

 

「これで締めです、『ウォーターブレイド』!」

 

爆発から逃れていたもう1体、グレイウルフに肉薄してその首を斬り落とす。

まさかの一撃必殺。それも先ほどアニスフィアがやってのけたことそのままである。

その光景に目を見開きながらも、即座にその要因に気が付いた。

 

「ユフィ……その刀身、前の時より細いね」

「より鋭い切れ味にするために構成する魔力を凝縮したからです」

 

ダイヤモンドカッターのようなものかー……と、またまたアニスフィアは前世のイメージを引っ張り出す。

そんなことを考えながらも、ユフィリアの確かな魔法技術の向上に舌を巻いていた。

ハイスペックな魔剣に見合うよう技術を磨こうと足掻いた時間は確かにそう多くは無かった。

あらゆることを試行錯誤するその姿は、純粋に精霊を信仰する者からすれば滑稽に見えるかもしれない。

しかしユフィリアは藻掻くことをあえて選んだ。

その行為が自身の才能と与えられた魔剣に結び付き、彼女の中では小さいながらも確かな成果として実ったのだ。

 

「天才が藻掻くと、こんなになるのね。マッドくん、本当に凄いことになってるよ」

 

今はこの場にいない、ユフィリアに多大な影響を与えたであろう末弟に向けての小さな呟き。

きっちりと会って成長っぷりを見せてあげよう。

──ついでに、これまで散々すれ違ったこととか、その他色々と文句も言わなければ。

地上にまで響くほどの咆哮が聞こえてきたのは、そんなフラグ染みたことを考えていたその時だった。

 

「アニス様……!これってまさか」

「……どうやら、最悪の中の最悪が出てきたみたいだね」

 

アニスフィアにはこの咆哮に覚えがあった。それはもうありまくりだ。

何せ自身の背中に刻まれているそれの同胞だ、当然である。

しかし、今は一旦引いて後方の状況確認が先決だ。

ユフィリアと目を合わせ頷き合うと、そのまま後方に下がっていく。

暫く見慣れた景色と共に戻ると、先ほど別れた騎士団長の姿が見えてきた。

 

「お二人のお陰で避難及び救助は完了しました。残りの露払いはこちらにお任せを!」

「うん、分かった!私たちはあの大物の元へ向かうとする──っ!?」

 

言い終わる前に豪風が地上を襲った。

背後を振り返ると、それは明らかにこちらからでも見えるくらいの高度にいる。

その姿は、まさにこの場において空の覇者を名乗っても許される佇まいと言えた。

 

「……前見たのより大きいんだけど。黒龍の余波ってのは、ドラゴンによく効いたりするの?」

「薬の効能みたいに言ってる場合ですか……とりあえず、これを渡しておきますね」

 

空中戦を想定して事前に持ち出していた魔女帚をユフィリアは手渡す。

箒を受け取りながらも、アニスフィアは空にいる大物を現時点で出来るだけの観察をしていた。

単純に黒龍の余波を受けた同種なのか、はたまた変異を果たした存在なのか、そもそも未確認の別種なのか。

 

「そもそも緑色って……前戦ったのは赤色だったはず。後は細かい部位の発達具合がまるで違う……」

「私は文献で見ただけですが、あれは明らかに別種ではないかと」

 

簡易的とはいえ、まともな分析を行えているのはアニスフィアとユフィリアのみ。

他の者はその威容に恐れを為してその場を離れたり、後方に下がる者ばかり。

そんな状況ではあるが、二人の見識はほぼ一致していた。

 

「まあ、まずはぶつかってみてなんぼね!ユフィ、この場はよろしくね!」

「えっ!?あ、アニス様!?──独断が過ぎるとまた陛下に叱られますよ!?」

 

まさにその様は案ずるより産むが易しである。

何やら気が気でない言葉も聞こえてきたが、内心で耳を塞いだ聞か猿状態でやり過ごす。

手早く魔女帚に跨ると、凄まじい速度で新種であろうドラゴンとの距離を詰めていった。

勢いだけならば行きのエアドラによる飛行とそう大差なく、あっという間にドラゴンと相対することとなる。

向かい合う一人と一体という状況だが、その様子はまるで対極的であった。

未知の存在を前にした高揚と、刻印となったドラゴンが織りなす闘志が織り交ざりただただハイテンションなアニスフィア。

対する未知の龍は……静かに対象を見据えるのみ。

威嚇するわけでも、凄みを利かせるほどでもなければ相手に賞賛を示しているわけでもない。

結果的に空気は重くなる一方なのだが、その状態は当然維持されるわけもなく。

 

「初めまして、新種さん──挨拶は期待できそうにないから、代わりに1発喰らえ!」

 

そんな沈黙に早速焦れたのか、先に仕掛けたのは当然のようにアニスフィアだった。

まさに『こんにちは、死ね!』であり、言葉が通じるならば完全に不意打ちになり得た一撃だったことだろう。

最初の一撃から全速にして全力。

それに対し、ドラゴンは特に動く気配を見せなかった。

──慢心から動かないのならば、そこを突いて一撃を差し上げよう。

そう思いながらもアニスフィアは不敵な笑みを浮かべ、マナ・ブレイドを渾身の力で叩きつける。

 

「……うわっ弾かれた!?」

 

振るった刃はまるで金属を相手にしたか如くあっさりと弾かれてしまった。

その手応えから、アニスフィアはその理由を瞬時に理解した。

──正しく言うなら嫌でも理解させられた、だろうか。

彼女がかつて戦ったドラゴンは、どこぞの主役が目の敵にされているものと同じ種類だ。

その防御性能の大半を魔法障壁に依存している、これが最大の特徴と言える。

アニスフィアが相対したその時も、マナ・ブレイドによる斬撃の悉くが受け流されるという彼女からすれば奇怪な状況にあった。

ただ、出力を上げるという単調な手段を以て徐々に手ごたえを得ることが出来ただけマシではある。

最終的にはマナ・ブレイドにリミッターを超えた魔力を与え叩き込むことで障壁の許容量を強引に突破して勝利の糸口を掴むことに成功したのだ。

だが、今回はその成功体験とはまるで事情が異なっている。

 

「魔力障壁の感覚がまるで無いって……単純な個体としての防御力に弾かれたってこと?くっそ、こんなの完全に計算外だよ!」

 

マナ・ブレイドによる攻撃は魔力による斬撃に当たるので、物質の切断という意味ではより効果的なはずなのだ。

しかし、目の前のドラゴンはその特性を知ったことかと言わんばかりに弾いてみせた。

一体どれほどの防御力を以てすれば、そのような芸当を当たり前に出来るようになるのやらか。

たった一度の接近で、以前戦った種よりも格上であることを嫌でも分からされてしまう。

──しかし相手をすると豪語した以上、このままとんぼ返りするなど有り得ない。

そもそも、尻尾を巻いて逃げるなど魔法使いにあってはならない……アニスフィアを支えるのはそんな矜持であった。

ならばと、少しでも情報を得ようと立ち直ろうとしたその時。

唐突に寒気がすると共に、それは振るわれていた。

 

「見向きもしてない癖に器用なものだね!?」

 

態勢を立て直して距離を取ろうと思い直したところに、不意打ちが飛んできた。

長い尻尾を鞭のようにしならせた一撃を、アニスフィアはかろうじてのところで態勢を整えては避けていく。

殆どノーモーションで放たれたその一撃は、一見するとそこまで重いものとは思えない。

しかし、アニスフィアは魔女帚に跨っていることにより半ばノーガードなのだ。

そこに重い一撃などまるで必要ない。

当てやすいタイミングで、それこそ羽虫を落とすような感覚の一撃で事足りてしまう。

更に、加速に用いる遠心力を増幅させる目的で魔力も込められていることもアニスフィアは察した。

ぱっと見は露払い程度のものだが、結果的にドラゴンが放つに相応しい初撃と化していた。

 

「鱗を貫けない私なんて羽虫程度ってこと?──それなら、攻撃個所を考えればいいだけでしょ!」

 

軽い初撃を嘲りの意志と判断すると、アニスフィアは更に闘争心を燃やす。

現状ドラゴンは魔法障壁を張っていない、それはすなわち身体の作りそのままの防御構成であるということだ。

先制攻撃で判明した事実から、次なる策を編み出したアニスフィアの行動は早い。

 

(流石に図体がデカいだけあって、攪乱は通じるみたいだ)

 

すぐさま目標に向かうのではなくある程度の軌道変化を加えることで翻弄していく。

1回の直進距離を5段階ほどでコントロールして、少しでも読みづらい軌道にするよう心掛ける。

流石の新種ドラゴンも、その巨体も相まって徐々に目が追い付かなくなってきているようにも見える。

苦し紛れのような尻尾の一撃、または翼をはためかせての風圧が飛んでくるが明らかに的外れとなっているこちがその証拠だ。

 

(普通に体表を狙うのは愚だろうけど……そこだけは流石に堅牢に出来ないはずだ)

 

狙うは当然、飛行種にとって最重要部位──翼だ。

これほどの図体を浮かせては動かすだけの翼は、間違いなく可動域で最も肝になる部分。

柔軟に動かすには、堅牢な鎧は明らかに邪魔になるはず。

魔法障壁が確認できない分、通常ドラゴンより脆いであろう箇所だ。

懐に潜り込むというリスクはあるが、そこは魔女帚の出力を自身が制御し得る限界まで高めることで補う。

──そうこうしている内に、視線が明らかに追いつかなくなったタイミングが遂に訪れた。

 

「──今っ!今度こそその舐めた態度を改めさせてあげようか!」

 

アニスフィアはここぞとばかりに突貫した。

可能な限りの直進速度に、しれっと出力限界を取り払ったマナ・ブレイドによる相当な出力の魔力刃だ。

更に忘れてはならない要素として、今のアニスフィアには竜由来の身体強化が施されている。

今彼女が手に持つマナ・ブレイドにもその魔力は上乗せされており、それはかつてのドラゴンにとどめを刺した時の一撃とほぼ同レベルのもの。

例え素の防御能力が高かろうと、構造上防御が脆くなりやすい翼の根本を狙った一閃。

これだけの好条件がそろえば、前回同様この空の覇者を堕とすことが出来る。

当のアニスフィアだけでなく、下で様子を窺うユフィリアも成功を確信していた。

──しかし、現実というものは無情なのが常である。

 

「なっ……!?」

 

確かに、この時のドラゴンはアニスフィアに視線を向けていなかった。

しかし、それは断じて視界の移動が追いついていないということ同義ではない。

現に、マナ・ブレイドで斬りかかる直前にドラゴンは明らかにその獰猛な顔をそちらに向けていた。

『決定的な一撃を与える時は、逆に言うならば最も油断が生じる場面』

ドラゴンは、視界が追いつかなかったのではなく追う必要を感じなかったから追わなくなっただけだった。

それをあえて、視界から外れたように演出した。

その地味ながらも狡猾なやり口でアニスフィアをまんまと欺き、僅かな慢心を見事に招いてみせた。

本来なら種族的弱者が利用する強者の隙を、まんまとこの強者は演出してしまった。

まさにその様は『それはどうかな』……どこぞの決闘哲学だが、これはネタではなく生死の世界で通じる概念なのだ。

当然、誘き寄せられたことに気付いた時にはもうとっくに手遅れである。

新種のドラゴンはその巨体に似合わない敏捷性を持って振り返り、けたたましい咆哮を放った。

 

「ぐっ……決定的な一撃入れられると、思ったのに……!」

 

背後を取り切れなかった以上はどうにもならない。

しかし、耳を塞ぐような強烈な音波こそ放っているが直接的なダメージは全くない。

あくまで必殺の一撃を妨げることを優先して攻撃する余裕が無かったのだろうか。

これならば態勢を立て直して再度挑みかかればよい。

そう判断して再度距離を取ろうとするが……。

 

「え!?ちょ、ちょっとどうしちゃったの!?」

 

魔女帚はまるで機能を停止したか如く自慢の速度が出せなくなっていた。

無理な加速による故障かと思ったが、あまりにタイミングが急すぎるし自身も身動きが取れないと来ている。

そして、その場に縛り上げられるような感覚によってその説は否定せざるを得なかった。

いきなり起こった金縛りのような感覚は、その唐突さと異常さにアニスフィアですら混乱させ、原因の特定すらさせようとしない。

対して、戦いを観察している者にはそれは一目で分かってしまうことだ。

 

(あの咆哮……まさか、あれだけで束縛の呪いが付与されるということですか!?)

 

精霊の寵愛を受けていると言われるほどのユフィリアは特に顕著だった。

その精霊由来の対極にすら見える未知の現象……それは、一種の呪いと言っても過言ではない。

それも、対象をその場に縛り上げる束縛の呪いときたものだ。

本来ならばある程度手間暇かけて起こすような類のものを、超越種はただの咆哮1つだけで引き起こしてしまったのだ。

 

(これが黒龍の余波の力だというのですか!?私はおろか、いくらアニス様でもあまりに荷が重すぎる……!)

 

先ほどまで自分たちが相手していた魔物は、小手調べにもなっていないことを理解してしまった。

そもそも、瘴気の基は世界そのものに災厄どころか破滅をもたらしかけた黒龍だ。

下級の魔物を強化するなど児戯に等しい。

その本質は、御伽噺で語られる魔王のそれに準ずるやもしれない。

──そう思わざるを得ない光景が起こったのは、次の瞬間だった。

 

「周りに黒い瘴気!?それを受けたら……!」

 

ユフィリア含む地上の人間が見たのは、アニスフィアを取り囲む黒い瘴気にも見える魔力だった。

それは先ほどまで相手をしていた地上の魔物たちの一部が纏っていたオーラと似ているが、その密度がまるで異なる。

そこまで視認した時、ユフィリアはそれを喰らう危険性を理解してしまった。

しかし、未だ束縛の影響から逃れられないアニスフィアに回避の術などありはしない。

その願い虚しく、黒い瘴気は嘲笑うようにその身に取り憑く。

瞬間、機動力の方面で頼みの綱だった魔女帚は即座に動力を失った。

それだけでなく、能力面を補う竜の魔力も同じ時に霧散し脱力感に襲われる。

 

(魔女帚と身体強化、両方に使ってる魔力を無理やり剥がしたってこと……?更に体が痺れて……これ完全にヤバイかも)

 

せめて魔女帚を再起動しようと魔力を練ろうにも、全く手応えが無い。

それどころか、動かそうにも身体そのものが動かない。

翼をもがれてしまえば、残るは墜落の未来しか無いのは当然だ。

もはや恐怖すら感じる間もない。それくらいあっという間の出来事だったのだから。

 

「アニス様……!くっ、間に合わせなければ……!?」

 

地上から必死に自分を受け止めようとする声が聞こえてくる。

恐らく間に合わないだろうが、やろうとしてくれるだけでもありがたいものだ。

どこか達観したように、または諦観したように、アニスフィアは目を閉じようとした。

そろそろ地面に叩きつけられるから、意識を失う心つもりで……。

 

「──やれやれ、飛行は性に合わんな。どうにも消費が粗すぎる……移動用で使うなら要調整か」

「……え?」

 

結果から言えば、アニスフィアはそのまま地面から叩きつけられることはなかった。

再度起こった浮遊するような感覚に思わず目を再度開いてしまう。

目に入ったのは、それなりに整った男の顔。

その背には、翼のような何かが生えていた。

時折紫電が走っているその光景は不気味に感じるところもなくはない。

しかし、間違いなく幻想的なそれにアニスフィアは驚愕の言葉も忘れるほどに魅入られる。

 

「『十分すぎるものを知ることなしには、何が十分なのかを知ることは決して出来ない』──トカゲなどで満足しないで正解だった。これだから混沌極まる世界というものは飽きが来ない」

 

静かに地上に降りながら、黒髪をオールバックにした男はどこかで聞いたことのある詩を挟みながら独白に興ずる。

その風格は『この場の主演は自分だ』と主張するかの如く。

ただそこにいるだけで、その場の空気を塗り替えてしまっている。

アニスフィアを抱えている姿が、その主役然とした雰囲気を更に加速させていた。

相対する竜を賛美する辺り、この場の空気など知ったことではないと言わんばかりだが。

しかしその横暴さもまた演出となっているのはこの男ならでは。

誰もが強引に納得せざるをえなかった。

最初の襲撃者を退けた空の覇者も、完全に視線を遅れてやってきた主役にのみ向けていた。

その目に込められたのは、まるで強者への渇望から来る純粋な殺気。

周囲は怯える者、戦慄を覚える者とその威光に飲まれかける中──

 

「よき殺気だ、褒めてやろう。メインイベントとはかくあるべきだからな」

 

主役は歓喜の笑みを浮かべる、それはもう心地よさげに。

呼応するように、周囲で紫電が踊り狂う。

まるで焦がれた玩具を見つけたような……眼前の遊戯に心を奪われた、一種の狂気を含む童の空気そのものであった。

 





誰だこのポエマーな乱入者はー(棒)
ちなみにイメージは、あの鬼い様の別たれた片割れでございます。
そして、前書きで書いた改変というのは姉上の負けイベント化です。
何やらかしてんねんと思う方もいるでしょうが、これは世界観的な都合。
色からして違う新種ドラゴンですが、色々な事情が入り込んで転天で出てきたドラゴンを『ごとき』と言えるほどのやべえヤツです。
咆哮1つで色々な状態異常っていうのは、ラスレムのドラゴン種ベース、そこにとある存在の介入がありますので。
状態異常の対策を装備か回避か、どちらかで考えるのはグランサガベースの考え方。
バトル面ハードモードの一側面はまさにここ。
それでいて生物的格下相手への慢心が無いのも決め手ですね。
色々な意味で相性が最悪な相手、という風に捉えて頂ければと。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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