まさかの負けイベからの独自なやりたい放題大暴れ、いざ開幕。
先に8章ハード大トリであり今でも関門(らしい?)な彼女の出番です。
あまりに情報量が多くて、私は未だ混乱の中にあった。
そもそも混乱していない人物など、この場においてほぼいないだろう。
アニス様は新種らしきドラゴンと空中で斬り合うも、相手はまるで歯牙にもかけていなかった。
飛行しているにも関わらず、殆ど動きを見せようとしなかったことからそれは明らかだ。
それでもめげず、むしろ対抗心を何とかその慢心に隙を見出そうとアニス様は速さを生かして奇襲を仕掛ける。
明らかに相手の背面を突くその一撃は、確実にドラゴンの翼を落とすと誰もが確信していたことだろう。
しかし、実際はそれすらも巧妙で狡猾で、それでいて効率を追求した誘いの一手だった。
結果、一瞬の隙を突かれたアニス様は咆哮の呪いで束縛され、黒い瘴気により空から引きずり墜とされてしまう。
──種としての強さに加え、その抜け目の無さに誰もが度肝を抜かれていた。
更に言うなら、この場にいる最大戦力がいとも簡単に倒されるという光景は私にすらも絶望の二文字を叩きつけてくる。
それでも、せめて落ち行くことしか出来ないアニス様を受け止めなければと、即座に己を奮い立たせる。
可能な限り魔力を凝縮して、爆発のような風で墜落地点まで一直線で行こうとしたその時だった。
禍々しくも見えながらもどこか神秘性も感じる、紫電走る翼がその場に現れたのは。
翼の持ち主である黒髪の男性がアニス様を抱えているのを見て、思わず安堵の溜息を吐く。
同時に、別の意味で警戒を怠ることは欠かさなかった。
(あの雷光の翼は、魔法なのですか?いえ、それにしては……明らかに気配がおかしい)
飛行していえ時点で十分に奇怪、更に言うならその言動も怪しさ満点だ。
しかし、それ以前の問題が彼にはあった。
何せ──精霊の気配がまるでしないのだから。
魔法を行使するには、魔道具を使わない限り精霊の存在が必要不可欠……アニス様からも改めて講義された大前提だ。
しかし、目の前で起こっている幻想的光景はまるでそんなことは知ったことではないと言わんばかり。
周囲はその違和感にまるで気が付く様子が無いのは無理もないだろう。
あそこまで出来て当然な空気を醸し出しているのだから。
相当な警戒と注意を向けなければ気付かない、かなり些細な見落とし処。
当然、そこに気付いたとしてもどういう原理なのかがまるで分からないのですが。
もし魔法でないのだとしたら……完全なる未知の技術に当たる。
あくまで魔法から派生した魔学とは全く違う、未開拓領域からの刺客。
そして、目の前の男性は一体何者なのか──
ただ一人警戒していると、その答えだけはあっさりと氷解させられることとなった。
「かき上げた黒髪に黒と金の異国風の装い……まさか、『無慈悲な主演』か!?」
「あの若さで一気にアダマンタイトまで駆け上がった、新世代の伝説ケルビムが来ただと!?こりゃあ幸運ってレベルじゃねえ!これならまだ行けるぞ!」
「ドラゴンキラーケルビムキター!新種とはいえドラゴンさ、今回も楽しくサンドバッグにしてやってくれよ!」
ケルビムって、もしかしてあの時に聞いた……!
以前にイリアが言っていた、人間を半ば止めてるとすら言われている『無慈悲な主演』……!?
最近の私の運……というより、この立て続けの奇妙な縁は一体どうなっているのであよう。
先日のグランナイツといい、そのような人間と会う流れが続いている。
怒涛の異常事態連打に、私は思わず頭を抱えてしまいそうになっていた。
「衰弱、魔力阻害、疑似毒、麻痺……なるほど、『ブラスター』を直に貰ったか。衰弱と麻痺は吸い尽くすとして──クロエ、疑似毒のゴリ押し回復の方は任せる」
ってそうです、今は呪いをいくつもかけられたアニス様の安否が最優先です!
男性……ケルビムはどこまでも冷静なのか、そこを忘れていなかったようですね。
周囲の喧騒を他所に、ひとまず地上に降りて手頃な木にアニス様を寝かせている。
ところで、一体誰を呼んでいるのでしょうか。
貴方の周囲には誰もいないはずですが……!?
「──仰せのままに」
短い了承の声と共に、その人物はいつの間にかケルビムのすぐ後ろに立っていた。
待ってください、一体どこから出てきたのですかこの人は!?
容姿は……紅の髪に、片面だけ覆う奇妙な仮面を着けたそこそこの長身で、体形からして女性ですね。
見た目からして派手ですね……ケルビムとは見事に対照的というか。
彼女はケルビムの部下なのか、それとも従者なのか……。
「って、今度は『光誓の座天使』かよ!?おいおい、これじゃあ俺たちの勝ちじゃないか!」
「プラチナランクまでいるって、もうどうなってるのこれ!?」
「ヒャッハー!今日も年甲斐もない面白いセリフを頼むぜ、残念美女!」
こちらもまた周りの冒険者が答えを出してくれていた。
ところで3番目の人、先ほどから貴方は彼らに何を求めているのですか!?
ついでに最初もそういう慢心は捨ててください!嫌な予感を覚えますので!
これまた大層な二つ名な女性ですね……それもプラチナランクときたものだ。
何だかもう色々と感覚が麻痺しそうです……。
そして、あれこれ困惑している内に彼女が回復作業を始めてしまいました。
見たところでは、典型的な光属性の回復魔法のようですが……って、ええ?
「あら、そんな熱烈に見つめられるのは久しぶりですね。手元が狂ってしまいそうですね」
「も、申し訳ありません……自分以外の回復魔法は滅多に見られないものですから」
回復魔法自体が貴重なので、まあ間違ったことは言っていないはずだ。
咄嗟にそれらしい理由で誤魔化すが、内心は気が気でなかった。
──彼女からも精霊の気配がまるで感じられなかったのですから。
見た目は完全に回復魔法そのものなのに……一体どういうことでしょうか?
それと共に、ケルビムはアニス様に向けて先ほどの翼と似たような紫電を走らせている。
呪いを吸い出すとさっき呟いていたので、それを実行しているのでしょう。
ただ……果たしてそんなこと、本当に出来るのだろうか。
少々の疑惑と共に暫く見守っていると、苦しそうにしていたアニス様の表情に徐々に変化が見えてくる。
「──うん?痺れが無くなった……何か徐々に生命力が奪われる感じももうない……魔力は相変わらず通せないけど」
兆しが見えてからそう経たずとして、先ほどまでの苦悶の表情はどこかへ消え去っていました。
纏わりついて離れる気配が無かった黒い瘴気も、今や消失している。
これなら呪いが本当に消えたのだと……そう認識してよいだろう。
それにしても、こんな短時間であっさりと解呪するだなんて……。
こんなこと、当然ながら私では出来ません。
というよりも……どの魔法使いでも出来ないのではないでしょうか。
誤魔化すことくらいなら出来るかもしれませんが……。
「麻痺だけでなく、衰弱効果と毒と魔力放出阻害もあの呪いには含まれている。前者はクロエが相殺しているが──」
「そちらも思ったよりは効果時間が短かったようで、既に完了しております。魔力放出阻害の方は暫く動かなければ自然治癒で事足りますね。では、私は大群の処理に移らさせていただきましょう」
「……ああ、確かに愉快な気配がビリビリ来る。今宵は楽しい祭だな」
……紫電の翼を纏って空を舞い、挙句呪いを抜き取るという強引だが確実な解呪法を可能とするケルビム。
アニス様の体内に残っている毒を完全に相殺するほどの回復手段を持つクロエ。
その上で精霊を用いないこの新たな魔法体系……もう何が何やらだ。
特にケルビムが用いた、呪いをそのまま吸い取るだなんて芸当は、考え得る限りの魔法では恐らく不可能だろう。
呪いの専門家がいれば、あるいはかもしれないが……。
ところで、今しれっととんでもないことを口にしていませんでしたか?
「あの、今大群と仰っていましたが……」
「ええ。ドレッド・ドラゴンの咆哮に触発されたのか、奥の大群が動き出して第二波を形成しつつありますね」
ドラゴンが残っているこのタイミングで大群ですって!?
アニス様は呪いの影響が残っているので現状は動くことは出来ない。
ケルビムは出てきた時の口ぶりから、恐らくはそのドレッド・ドラゴンの方に向かうのだろう。
それで従者の役目として、残りの大軍を一人で相手取るというのですか?
そんなこと、無理難題にも程があります!
「クロエならあの程度の有象無象ならどうということはない。ユフィリア嬢はこの辺で待機して、他の怪我人を回復しつついざという時の後方支援に徹してほしい」
「むしろ私一人じゃないと巻き込みかねませんので。フフフ、今宵も楽しい殲滅戦になりそうですね……」
そんな私の考えを先取ってのケルビムからの支援要請とクロエの忠告。
後者はさっきまでの頼もしい雰囲気はどこへやら、物凄い不気味な笑顔を浮かべている。
ただ、とてもじゃないですが許容できるようなことではありません。
そこまで任せっきりなんて、二人の負担があまりに重すぎる。
力量差は明確なのは分かっているが、それでも少しくらい負荷を軽くするくらいならば出来ないことはないはずだ。
「一人でなんて行かせられません!せめて私だけでもどちらかに付いて──」
「そのやる気を汲んでやりたいのやまやまだが……ここは適材適所というやつだ。確かにクロエは殲滅が大得意だが、億が一に逃がれる輩も出る可能性もある。そんな時の保険を任せられる……言うなれば、動けてまともな戦力はユフィリア嬢だけなんだよ」
「要するに、背中を任せたという意味ですよユフィリア様。私たちだけに任せきりとか、そんな卑屈に考えることはございません。役割分担も大事なことですよ」
あれ、今……。
二人とは初めて会ったはずなのに、何故私は既視感を感じたのでしょうか。
ケルビムとクロエ……何故この二人を……
──あのハチャメチャで止まることをまるで知らない、そんな主従関係の二人と重ねたのだろう。
「さて、待たせてしまっているようだから俺は行くとしよう。折角のピンチヒッターだ、せめて見ごたえのあるものにはしないとな」
「では、私も参りましょう。ケルビム様に捧げる一網大魔神タイム、いざ開幕です!」
「それを言うなら一網打尽だよ!何かもう意味わからないし四字熟語ですらなくなってるじゃない!」
ってアニス様!ツッコミを入れたくなる気持ちは分かりますが安静にしていてください!
ところで、このやり取りもものすごく覚えがあるのですが……具体的に言えば、つい最近あったような……?
……気のせい、ですよね?
第二波として現れた魔物の群れは、さも当然のように黒い瘴気を纏っていた。
その濃度たるや、最初の群れが児戯だったのでは言わんが如く。
更には、最大戦力のアニスフィアが戦線離脱であることが冒険者・騎士団連合側にとって大きく響いていた。
ただでさえ普段よりも強力な魔物を相手にして、他の人員の被害も深刻なところに起こった最悪と言えるアクシデント。
ケルビムとクロエの実力を知らない大半の騎士、そして稼業が短い冒険者は未だ立ち直り切れていない辺り、その絶望は深いと見える。
しかし、二人の実力を知る者はこれから起こり得る劇場に楽しみすら見出してすらいる。
何せ……地上側の殲滅を担当するのはかの『光誓の座天使』なのだから。
そんな対照的と言える、チグハグとさえ言える状況が全体の士気をかろうじて保っていた。
「どいつもこいつも活きがよろしいようで。これは蹂躙し甲斐があるというものですね」
渦中の片割れはといえば、その口調はもはや丁寧さと荒々しさが見事に混ざってすらいた。
そんな混沌とした口ぶりと共に、無詠唱で光属性の魔力を自分自身を対象に込めていく。
全くの無詠唱でかけた補助の魔法のような何かは数にして3つ。
彼女にとっては基本と言えるものばかりだが、誰一人としてその内容は理解できない。
そもそも、魔力の流れが静謐なので発動に気づく者すら稀だ。
警戒をしたままその様子を観察していたが故に、ユフィリアはかろうじて察することは出来ていた。
無論、その全容の把握には程遠いわけだが。
(防御の魔法らしきものしか分からない……もう1つは治癒のような感覚がしましたが、まだ戦闘に入っていないのに何故……?)
ちなみにこの治癒の気配は単発のものではない。
自動治癒効果をもたらす、時間制限型の駐在型だ。
傷を喰らった傍から勝手に回復するという、補助のはずなのに相手を絶望させてしまいかねない代物である。
そこに防御増強、更には魔力流動活性化も同時にかけている。
結果、この時点でクロエはそんじょそこらの攻撃ならば恐れる必要が無くなるワンマン要塞と化していた。
3つの補助をかけた時点で、準備完了と言わんばかりにクロエは大群の方を見据え……。
「さあ、まずは景気よく参りましょうか!」
迫り来る魔物の群れに、意気揚々と号令を発しては杖を向ける。
補助はばっちり、いざ攻撃に転じるのは誰もが理解した。
そこからどのような詠唱が入るのかと思う者が大半の中──ほぼ時間差無しで閃光と共にとんでもない爆撃音が発生していた。
「──え?」
あまりに突然の事だったので、ユフィリアはその眩しさや騒々しさを感じることすらできず。
我に返った時には、魔物の群れの一部はいつの間にか焼け野原という異常な光景を目の当たりにすることとなる。
大半の騎士や数名の経験が浅い冒険者も、まさに同じ状態だった。
「いよっ!いつもの1発だな残念美女!」
「割り込んだりしたら同じようになるからな!新顔はきっちり覚えておけよ!」
対照的に、彼女をよく知る者はまるで酒場のようなノリで沸いていた。
もはや空気を読もうとすらしていない言葉も飛び交い、もはや戦場であることを忘れ去ったかの如くだ。
そんな声はとりあえずスルーして、ユフィリアは何とか思考を現実に追いつかせる。
そして、クロエが放った魔法もどきの考察を何とかして進めることとした。
(杖を向けるだけの時間であの威力、当然無詠唱なのでしょうが……一体何がどうなっているのですか?)
無詠唱で魔法を放つという行為は、本来ならば相当熟練度が要求される。
その上で、工程が極めて少ない単純な魔法であることが基本条件だ。
複雑で工程が多い魔法となってしまうと、無詠唱ではとてもイメージが追いつかないのだから。
その結果、どうしても威力も高くなりづらいので一般的な魔法使いは滅多なことで至ろうとしない。
例外と言えるのは、実戦の上での有用性を理解しつつあるアルガルドとユフィリアくらいだろうか。
大半の魔法使いは、それならばと威力や規模を重視した大魔法の習得により労力を割いていく。
しかし、クロエが放った閃光は完全にこれらのセオリーを無視している……否、合わせ持っていると言うべきか。
魔物の群れのど真ん中に見事な小規模クレーターを作るほどの威力を、杖を向けたとほぼ同時に放って見せたのだから。
ユフィリアが殲滅用に放ったエクスプロージョンよりは、流石に威力や範囲は抑え気味と言ってもいいかもしれない。
しかし、無詠唱の上で発揮していい威力というには……あまりに程遠いものだった。
(……威力を調整した上で、という可能性も捨てきれませんね)
わざと威力を抑え、コストパフォーマンスを重視した行動の可能性もユフィリアは浮かべていた。
現に、今もまた無詠唱でドガスカ打っているが……二次災害を生み出す気配がまるでない。
1体1体を打ち抜き続けている……それも、微小なタイムラグや相手の接近順まで頭に入れた上で。
少々頭のおかしい言動こそ先立つが、その思考回路は極めて理路整然なことは明白だ。
狂乱の炎と冷静沈着な氷をしれっと発現していることに気がつくと、寒気がするほどの凄みを感じさせられた。
「やはり黒龍の余波持ちには光がよく効きますね!さあ、今度はダンスタイムと行きましょうか!」
「よっしゃー!マローダー以上の暴れっぷり、頼みましたぜ!」
「だからマローダー言わないでっての!」
気を良くしたような声色と共に、あろうことかクロエは自身で作ったクレーターに向けこれまたとんでもない速度で移動する。
本来なら距離を取らなければならない魔法使い(厳密には違うが)が近接戦を挑むのは、本来なら蛮行に当たるであろう。
まるでトチ狂ったかのような行動だが、これまた彼女を知る者たちは止める気配が微塵も無かった。
……しれっとアニスフィアがその止めない者たちに混ざっていることについては、今回はお咎めなしとした。
今のユフィリアは、彼女しか知る由の無いとんでもない概念の真相を少しでも確かめようと必死なのだから。
しかし、これがまた危うく目を逸らしたくなるような事態となってしまう。
「皆さま、実はハムか大根か何かだったのでしょうか!?やられ役にしたってもう少し上手くやってくれないと困りますわね!」
「主に似て無慈悲発言だー!」
まさに、斜め上を突き抜けていくような裏切り方であった。
杖を槍のように振るっては、魔物の大半を悉く一撃の元で無力化する残念美女の姿には、それだけの破壊力があった。
当然のように杖の先端には光属性の魔力刃が形作られており、その切れ味もひたすらえげつない。
ハムか大根というのは、まな板の上での食材の如くという比喩かとこの時のユフィリアは思っていた。
そうだとしたら、無慈悲に切り裂いているのはあちらなのに酷い言いようである。
もはや魔物側の方に哀れみを向けたくなる光景だった。
更には、それだけの凄惨な光景を作り出しておいて狂気を帯びた笑みを浮かべているのだ。
返り血を浴びた姿でもその美貌が損なってはいないことは一部の同性が羨むところかもしれないが、見事その表情で全てが台無しである。
これぞ彼女が残念美女と言われる所以の1つだ。
彼女のことを知る者たちは、その悲惨な光景をむしろ生暖かい視線……いやむしろ熱狂的空気で見守る始末である。
『ダメだこの人たち、早く何とかしないと……』という言葉がユフィリアの脳裏に浮かんできたが、何とか飲み込む。
言ったら色々とおかしなことになる気がするからだ。
「いや、そんな一方的にやってたら誰でも大根役者になっちゃうような……」
「だからアニス様、ツッコミを入れるくらいならちゃんと休んでください」
思わずアニスフィアも一言言わずにはいられなくなるほどの光景であるのは確かだ。
しかし、その場の者は大体こうも思っている。
『それ何というおまいう案件』……と。
なお、大根はともかくハムの意味まで正確に把握できているのは彼女だけだったりもする。
──さて、そんなワンマン殺戮ライブな蹂躙劇の中クロエに近づく影が。
「よく恐れもせず近づけますね……あれ?」
真っ先に気配を察したユフィリアは、そんな魔物のはずなのに勇者ポジションにいる者の全容を目にする。
……それは、これまで生きてきた中で明らかに見たことのないものだった。
4足歩行でありながら、更に2本の鋭いかぎ爪付きの腕も生えている異形。
その容貌は、黒い瘴気で強化されていた魔物が多数いる中でも明らかに浮いていた。
「……な、なんだあれ?見たことねえんだが……」
「ま、まさかあのドラゴンと同じく新種!?」
その様はまさに異端にして異形である。
もはや何度目か分からない驚愕の声だが、無理もないことだろう。
ちなみにアニスフィアも初見ではあるが、前世の知識から朧気なイメージではあるが合致していた。
「あら、まさかのデーモン種とは……あの洞窟からの長距離走、大変お疲れ様でした」
「やっぱりデーモンかー……何かで読んで認知はしてたけど、王国では全く発見例無かったよね……一体どうなってるの?」
「まさか、悪魔をこの目で見ることになるなんて……しかし、流石にあれほどの相手が3体というのは厳しいのではないでしょうか……?」
新種のドラゴンだけでも異常事態なのに、更に現れるはクロエ以外初見の魔物の出現。
これまた前世の記憶のお陰でアニスフィアのみが現実逃避しなくて済んではいるが、そのあまりのイレギュラーっぷりに驚きを見せてはいた。
ユフィリアは……立て続けの異常にもう今日はそういう日だと完全に割り切り、むしろそんな未知の脅威が3体もいることを警戒する。
そんな周囲の驚愕を他所に、四つ足の悪魔は颯爽とクロエを包囲していた。
そこから1体は近接戦を仕掛け、もう1体は電撃のブレスを放ち、最後の1体はドレッド・ドラゴンが放ったものと似た咆哮を放つ。
動きこそバラバラだが、同志撃ちをやらかすような愚を犯す気配はまるでない。
むしろ、それぞれに的確な対処が求められるように見えるほどだ。
あんまりすぎる奇襲染みた動きに、流石の『光誓の座天使』でも手傷を負わされると誰もが思ったが……。
「ふわあぁ……その程度では寝ながらでも避けられますわね」
上空から聞こえてきたのは、可愛らしい欠伸から始まる暢気な声だった。
もう驚くのも疲れてきたが、それでも何とか声の方に目を向けると……。
紅茶を啜っているようなポーズを取った残念美女が優雅に座っていた。
ご丁寧に魔力で椅子を編むという恐ろしく無駄に器用なことをやってのけている。
無論そんなことにツッコミを入れられる者は誰もいなかった。
「では、悪魔三名は天使の元へご案内です♪魔力凝縮かーらーのー『フォトン・ストリーム』!」
そしていつの間にか充填していたのか、放たれるのは最初に放った閃光……というより、明らかにドラゴンが放つブレスそのものだった。
特にアニスフィアは、過去に相対したドラゴンのそれを見たことがあるからこそ、余計に既視感を感じている。
上空から放たれていることもあり、多少眩しくても分かったのが幸いか。
なおトドメだからか、クロエのはしゃぎようは最高潮に至っているかのようだった。
その発動時の茶目っ気丸出しな感じが余計に内に秘める狂気を感じて、年考えろとか命知らずなことは誰も思っていない。
──この残念美女は、いちいちそんなことを気にかけるわけがないのだが。
「あーっはっはっはっは!粉砕!玉砕!大喝采ですわ!」
「待って、何か微妙に違う気がする。懺悔の用意とかの方じゃないのかな?」
「……アニス様、ツッコミを入れるのは構いませんのでせめて分かるようにお願いします」
これまたどこかで聞いたことがある高笑い、もはや完全に悪役にすら見える。
地上の状況は見るも無残、かなりの数の魔物も死体すら残っていない有様だ。
こんな状況で、彼女が正義の使者とか正義の味方と思う者はどこにいるだろうか。
他の冒険者や騎士たちにとっては助かったことには変わりないので、救世主ではあるのだが……。
「あーもうやりたい放題の滅茶苦茶だよこれ……私は知らぬ存ぜぬを貫かせてもらうからね?父上に怒られたくないから」
「……今回ばかりは同調いたします」
唯一何とか現実に踏みとどまれたアニスフィアとユフィリアのぼやきは、誰の耳にも届くことは無かった。
地上の戦いはそんな洒落になるようでならない光景と共に幕を閉じる。
それと打って変わって、空の方はまだまだ戦いが続いていた。
ドラゴンの咆哮や雷が落ちる音に、一同は気を持ち直して今度はそちらに目をやっている。
「ふふ、相変わらず楽しそうにしていらっしゃますね。今宵も尊み補給させて頂き、誠にありがとうございます」
従者であるクロエが満面の笑みを浮かべている。
それはすなわち、そこまで緊迫とした状況ではない。
唯一クロエの大暴れと交互に見物が出来ていたアニスフィアも、それは同意見だ。
……尊み補給と言う、知らない人間が聞いたら危ない匂いがする言葉については、ひたすら聞かなかったことにしていた。
章ボスが味方だと頼もしいですねー(棒)
作者もクロエ突破した時はマジモンで叫んだものです。
なお動画も上げてたり……9ヶ月前で環境も全然違うのですが。
攻撃名銀河眼なのにセリフそっちかい!は言ってはいけないお約束で。
ノリと勢いなので……ほら、脳筋だし。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
-
グランサガの二次がレアすぎて
-
バトルハードモードに釣られた
-
ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
-
その他(そもそもの作風とか)