転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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というわけで、スタイリッシュ(なのか?)ポエマー乱入者側です。
こちらもこちらで色々やりたい放題……なのか?


49. 龍よ音楽を止めるな

 

アニスフィアを抱えた時と同じように、ケルビムは紫電走る翼を展開して空を舞う。

多少燃費は悪くなってしまうが、この場における好敵手との殺し合いに手早く赴くためだ。

そしてドラゴン──否、ドレッド・ドラゴンはただその場で律儀に待っているだけだった。

地上にいる人間に手を出す素振りは微塵も見せないその姿は、黒竜の余波を受けた超越種のものとはとても思えなかった。

それもそのはず──何せこの竜は、ただただ強者を待ち望んでいただけだから。

先ほど戦ったアニスフィアに対しても、ドレッド・ドラゴンは人間としては悪くはないという一定の評価は下している。

軌道こそ直線的とはいえ、なかなかのスピードで自信を翻弄しようとしていたのだから。

少なくとも、あの速度で空を飛ぶのは自分には出来ない。

超越種ながら、自身では及ばない点をきっちり認められるのも立派な強みと言えよう。

──しかし、所詮は前座だった。

自身の身体を傷つけられるほどの刃を持ち得なかった。

挙句、決定的一撃の前に僅かな緩みを露わにしては自身の簡潔な策略にまんまと引っかかる。

その時点で、ドレッド・ドラゴンにとって自身の全力を叩き込むに値しないと相手……そう見限るには十分だった。

だからこそ、より手間の少ない束縛の呪いからの複合呪詛で決着をつけにいった。

恐らく地上にいる、少々ばかりおかしい存在が助けに入るだろうが……それでこの場は終いだろう。

どうせ他の人間なども大したことないと、見向きもせずに帰ろうと思ったその瞬間だった。

紫電を纏わせる人間らしき人型の生物が、新たに姿を見せたのは。

感じるのはただただ強烈な質の魔力、そして強者のみが纏うことが許される静謐にして鋭敏な気。

自身の殺気を受けて尚心地よさそうにする胆力も目を見張るものがある。

もう一人──クロエからは強烈な光の魔力を感じたが、竜がより興味を惹いたのは当然のようにケルビムの方だ。

だからこそ、あちらが地上に行ったのはドレッド・ドラゴンにとってはむしろ都合が良かった。

彼が自身と同じ土俵に上がってくるのを、闘志を滾らせながら待ち続けていた。

 

「随分と待たせてしまって申し訳ない。その代わり──合図は不要でいいな?」

 

言うや否や、ケルビムは初撃を仕掛けた。

残像が映るほどの速度で接近して放たれるのは2発の斬撃。

鞘に納められた剣──刀と呼ばれるものに翼を構成するものと翼を構成する魔力と同じものを込め、ただ斬りつける。

単純な行動ではあるものの、そのあまりの予兆の無さはとても読み切れるものではなかった。

結果、腹部に放たれたそれらをあっさりと貰ってしまうこととなる。

軽いジャブないし見のつもりだったからか、攻撃自体は浅い。

持ち前の防御力である程度は相殺出来たのは、ドレッド・ドラゴンからすれば救いとすら言える。

とはいえ、初撃から自慢の防御を僅かに貫いてきた相手に対して、戦慄と高揚を覚えるのも確かだった。

無論、不意打ちに対して怒りを覚えることは無いと言うかあってはならない。

ここは戦場──勝ったもの勝ちの弱肉強食が全ての殺し合いの舞台。

そこに作法や規則などといった、煩わしい秩序は存在しないのだから。

 

「ほう、やはり素で硬いな──ここはお手並み拝見の攻守交代と行こう」

 

アニスフィアが用いたマナ・ブレイドすらも寄せ付けないほどの硬度は伊達ではなかった。

更に言うならば、ドレッド・ドラゴンもただやられっぱなしでいるわけがなく……。

動く素振りをまるで見せなかった先ほどとは違い、能動的な様子をいきなり見せていた。

この為に温存していたと言わんばかりに魔力を用いて加速し、ケルビムに肉薄していく。

そこからは人間同士の殴り合いや斬り合いを彷彿とさせるやり取りが始まった。

ドレッド・ドラゴンはそのリーチを生かした掌底打ちや獰猛な爪で斬りかかる。

少し余裕が出来たら首を伸ばしての噛みつきまで放ってくる始末だ。

並の人間ならばまずどこかで致命傷を負う連撃だが、ケルビムは涼しい顔で捌き避ける。

適切な魔力──水と土の2属性をここぞとばかりに用いて受け流していく。

腕力の差は歴然であることは分かっていたので、受け止めるという愚は一切犯さない。

噛みつきに関しては受け流すのも難しいから最小限の動きで避ける。

 

「マンネリ対策か、悪くない趣向だ」

 

上記の攻撃に織り交ぜるように、小規模の火炎放射も放ってくる。

それも、下位種に当たる第二王子曰く『飛行トカゲ』のような闇雲な追加攻撃ではない。

時には爪薙ぎや尻尾叩きと合わせるように、はたまた噛み付きのフェイント混ぜで放ったり。

その攻勢には明確な意志が見受けられ、本当に魔物と人間の殺し合いなのかと1名を除き自身の目を疑ってしまう。

しかし、それはさしものアダマンタイト級でも攻撃の隙が無いのではという不安にも繋がっていた。

このままドレッド・ドラゴンの攻勢が続き……いずれ回避が追いつかなくなるのではないか。

そんな未来を、観客の一部は描き始めている。

 

「ふむ……攻勢は悪くないが、変調が無いのが課題だな。もう少し音楽を嗜むことを勧めるぞ」

 

しかし、舞台に立つ者にとってそんな懸念はいざ知らず。

ケルビムから放たれたのは、まるで緊迫感が感じられない軽めの批評だった。

その発言をトリガーとして、その動きは纏う空気と共に様代わりする。

すると、先ほどまでの防戦一方な流れも当然のように変化を見せていく。

批評の後にドレッド・ドラゴンが最初に放ったのは掌底打ちだ。

始まりは先ほどまでと同じくの最小限の回避だが、今回はそこに一手間を加えるようだ。

横に逸れるような回避に合わせるように、放たれたドレッド・ドラゴンの掌に対して流れるような拳をぶつけていたのだから。

本来なら、腕力の差で押し負けるところであろう。

しかし、観客が目の当たりにしたのはその真逆の光景だった。

 

「最近見出した特性でな。感想は後で構わないぞ」

 

ケルビムは見事に能力差を覆し、その一撃にカウンターを見舞っていた。

本来ならば有り得ない光景だったが、ドレッド・ドラゴンはその要因だけは把握している。

しかし、そこから先の工程の部分を考察する暇などあるわけがない。

1発貰ったとはいえ、掌底突きが捌かれただけなのでさほどのダメージではない。

そう思い直すことで、中断された猛攻を多少強引にでも再開することとした。

先ほどのカウンターは全く意味を為していないのでは……不安に駆られている一部の観客はそう判断するのも無理はない。

現に、同じようなパターンの迎撃を幾度か繰り返すもドレッド・ドラゴンにダメージが入っている様子はまるでないのだから。

むしろ、その猛攻は激しさを増すばかりにも見えるほどだ。

しかし、ケルビムの表情はまるで変わることが無い。

──むしろ徐々に口端が上がっている節すら見受けられた。

 

「水面に顔をつけるのもきつくなってきたんじゃないか?」

 

ケルビムから発せられた比喩を理解できる者は、この場では恐らくクロエのみだろう。

他の観客が僅かにでも知ることが出来たのは、ドラゴンの攻勢に更なる変化が観測される頃だった。

この時ケルビムが重視しているカウンター攻撃は、確かにその威力自体大したことはない。

しかし、相手の力を上乗せするという特性が基礎威力の低さをカバーする。

それでも地味な威力なことに変わりはないが、自身の攻撃が一度も当たらない上の話だったら果たしてどうなるか。

この時のドレッド・ドラゴンは、ケルビムの技量を再認識していた。

その上で、この状況が続いた場合起こり得ることを計測していた。

──このままでは、いずれ消耗戦で敗れるのは自分の可能性すらある。

そもそも生命の格がまるで違うのに何をバカなと思うことだろう。

しかし、そんな格の差などまるで意に介さずにやってのけてしまうのではないか……これこそが、ドレッド・ドラゴンのケルビムへの現時点での評価だ。

だからこそ、この状況は確実に変えに行かねばならない。

その明確な意志は、僅かな焦りと共に攻勢を変化させるに至ったのだ。

 

「だが残念、それはハズレルートだ」

 

この時のドレッド・ドラゴンが作った変化は、多用するパターンの変更に当たる。

掠ったとしても致命打を与えられる可能性があり、まだ迎撃をされていない攻撃……噛みつきに重点を置く形だ。

しかし、ケルビムからしたらそれすらも掌の上のことでしかない。

迎撃していなかっただけで、別に出来ないとは一言も言っていないのだから。

更なる批評と共に、ケルビムはドレッド・ドラゴンの顎にサマーソルトをかます。

そこから流れるように鼻周辺を足蹴にして、風属性の魔力と共に距離を取った。

変調を即座に感じ取ったら、後は新たなカウンターを見せればいいだけのことだった。

ちなみに、距離を取ったのはいい加減殴り合いに飽きただけという自分勝手な理由からである。

 

「興醒めの心配はもういらんな。やはり殺し合うなら、知性も理もきっちり備えている者に限る」

 

そんな歓喜の言葉と共に、ケルビムは新たな魔法らしきものを展開していく。

背にある深海色の剣を手に持ち、天高く掲げる。

無論、不意の最初の一撃からそのまま貰うつもりなどドラゴンにはない。

何を放つつもりかは分からないが、距離を取ったままではまずいという感覚が走ったのだろう。

荒れ狂う風の魔力を纏い、その巨体に相応しくない速度で接近を図る。

 

「ダンス用の楽曲提供というのもまあ、たまには悪くはないだろう」

 

しかし、ケルビムの展開はそれ以上の速さだ。

紫電の翼を、まるでおとぎ話に出てくるグリフォンのようにはためかせる。

それと共に放たれたのは、縦横無尽に展開される無数の赤雷の柱だった。

手前に位置する柱は既に直線状に走り出し、弾幕が如くドレッド・ドラゴンに向かっていった。

 

「バーベキュータイムにはまだ早いからな。せめて7割は避けてくれよ!」

 

音楽ゲームのようにノルマを掲示する辺り、一体何様なのかと突っ込みを入れたくなる。

まあ、実際放たれている赤雷の数々は見る人間が見ればそう見えてきてしまうかもしれないが。

無論、常人が当たったらそれこそ即座に焼肉待ったなしのデスゲームなのでよい子は絶対に真似しないように。

それほどの弾幕を前に、ドレッド・ドラゴンは流石に接近する速度を落とさざるを得なかった。

先ほどの殴り合いで蓄積したダメージを多少は気にしているからか、赤雷の柱を1つ1つ丁寧に避けて行く素振りを見せて行く。

巨体でありながらも回避を徹底するその様子は、先ほどまでの接近戦とはまるで逆の光景と見受けるには十分なものだった。

──相対している当の本人は、そんなこと露にも思っていないようだが。

 

「やはりこの程度なら読み切るか、それでこそ竜種というもの!」

 

その立ち回りは、先ほどと同じくケルビムに理を感じさせるものだった。

現在ケルビムが放っている赤雷の弾幕だが、よく観察すれば2種類しかないことが分かるだろう。

何せ縦か横、どちらを軸にしているかの違いしか無いのだから。

ドレッド・ドラゴンは、自身から見て手前向きに展開される赤雷の回避に特に力を入れている。

より魔力を凝縮されているのがこちらで、直撃イコールそれなりのダメージに繋がると判断してのことだろう。

その分確実な回避を徹底すれば、最悪末尾で掠る程度で済ませることが出来る。

対する横向き展開の赤雷はその真逆、すなわち範囲こそ広いが1発当たってもそれっきりだ。

それさえ分かれば、ドレッド・ドラゴンの中で取り得る選択肢は1つだった。

 

「意趣返しとは、なかなか面白いことをしてくれる……何よりその反攻の意志が心地よい」

 

生まれたその空白時間は早速利用されたようだ。

回避必須の赤雷を避けるとともに、ドレッド・ドラゴンはケルビムとの距離をより短縮するように舵を切る。

それとほぼノータイムで放たれるのは、同じく魔力を小規模凝縮させた極細のブレスだった。

魔力の兆候とドレッド・ドラゴンの動きから反撃は読んでいたので直撃することはない。

しかし、後1歩回避が遅れていたら間違いなく脚を貫かれていたことだろう。

身に纏う黒いコートの端に焦げた穴が開いているのが何よりの証左だった。

 

「そういうつもりなら、こちらも拍を変えさせてもらおうか」

 

置き土産とばかりの最後の弾幕を放ち、続くようにケルビムはドレッド・ドラゴンとの距離を再度詰めにかかる。

そんな主演の動きを、ドレッド・ドラゴンは読んではいた。

しかし、最後の弾幕が視覚的にも魔力的にも隠れ藪となってしまい対応が僅かに遅れてしまう。

結果、最後の弾幕をやり過ごしたかと思ったら既にケルビムは射程範囲内に姿を見せていた。

とはいえ、反射に関しては先ほどのアニスフィアとの小競り合いでも分かる通りそれなりのものを持っているドレッド・ドラゴンだ。

即座に思考を回し、2発目として放とうとストックしていた魔力を再度ブレスとして放つ。

紫電を纏って突貫していたケルビムは、流石にそれを食らうかと思いきや。

 

「どん、ぴしゃりっとな」

 

強烈な風が、ブレスをあっさり打ち払ってしまう。

ブレスが放たれるかどうかのギリギリのタイミングで、突貫をキャンセルしてストックしていた風の魔力を解き放ったことが原因だ。

しかもご丁寧に散弾状で放たれており、突貫で用いられていた雷の魔力も魔力で発生した風圧にきっちり乗せられていた。

雷と風。2つの魔力によりブレスは完全に押し切られ、挙句ドレッド・ドラゴンにも数発当たって態勢を崩してしまう。

元々が派生属性とその元ということによる相乗効果、そしてその密度もえげつないことも相まっての結果だ。

それでもなお、ドラゴンの闘志に陰りは見られなかった。

 

「さあ、まだやれるだろ?」

 

盛大に挑発すると共に、ケルビムは再度弾幕を張る。

興が乗ったのか、先ほどとはまるで違う趣の魔力の流れを発していた。

左右から同時に襲い掛かるVの字を描く電撃と、高度を合わせるように来る横一線の電撃。

先ほどが横軸の動きを強制するのならば、今度は高度変更を余儀なくされるような弾幕。

回避に要される動きがガラリと変わり、展開速度が更に早くなっていることは確実な困惑を生み出す。

その弾幕に少し相対したドレッド・ドラゴンだったが、今度は長く付き合うことを選ばなかった。

即座に答えを自分なりの答えは、断じて回避などではない。

途中で回避を止め、横一線の赤雷をあえて受けながらも接近を図る。

そして、獰猛な牙が生えそろった口を大きく開いていた。

 

「咆哮で相殺狙い……!更にそのまま束縛の呪いを受けたら──!」

 

その動きは、クロエ以外の背筋を凍らせるには十分なものと言えた。

何せ、ほぼ全員が先ほどの光景がフラッシュバックさせられたのだから。

このままでは二の舞になってしまう──

ユフィリアがそう叫ぼうとするが、当然のようにケルビムは動いていた。

 

「焦ったか?流石にそれは狙いが丸分かりだぞ」

 

その速さは、姿が消えたと錯覚させるに十分なものだった。

咆哮の範囲から逃れるように、ケルビムは直線的に上空へと移動する。

その軌道は先ほどのアニスフィアが魔女帚で飛行していた時とどこか似ていた。

しかし、速度そのものはまるで比較にならないほど……まさに雷光であった。

何せこの時、ケルビムは飛行ではなく文字通り稲妻が走るように跳躍していたのだから当然と言えば当然だ。

生やしている翼は、あくまで魔力を噴射する加速装置としてでしか用いていない。

そして、ドラゴンの頭上を取れる位置に到達したタイミングで、ケルビムは勢いそのままに自身を落雷とした。

 

「一・刀・両・断!」

 

ぱっと見では、極限まで単純に落とし込んだ1つの斬撃である。

しかし、一瞬の脱力状態で手をかけ、抜刀するその一瞬──

そこにあったのは、完全に斬撃は落雷と一体化する主演の姿だった。

そして、そのたった一度の斬撃の威力はまさに一目瞭然と言えるものだった。

遠目でも分かるほどの深い切り傷を、ドレッド・ドラゴンの堅い鱗に覆われた胴体に与えていたのだから。

 

「あの防御力の上からあんなダメージを与えるですって?一体どういう魔力の込め方したらそうなるの……」

「しかもその魔力操作をあれだけの動きと共に、もはや呼吸をするように出来ています。あれはもはや──」

 

──魔法で出来得る領域から外れているかもしれない。

危うくユフィリアがそう言いかけるほどで、彼女にとってはそれほど圧巻の光景だった。

易々と口にしていい言葉ではないので、慌てて閉口することとなったが。

そもそも魔法で出来ないのであれば、ケルビムが使っているのは一体何なのだという話になる。

なおこの時点で既に、ユフィリアの中ではケルビムとクロエが使うものは魔法とは異なるという結論は出てしまっているのだが。

 

「……っておい?何かドラゴンの様子が……」

 

誰かがそう呟くと、その場の全員の視線はケルビムから上空のドラゴンへ戻る。

──ケルビムとクロエ以外の全員はその波動を感じて、背筋がゾッとしてしまう。

これまで発していたものとは桁違いの、けたたましい量の魔力。

それらは放たれるのを今かと待ち望むかのように、強烈な光を放っている。

 

「──最後は死中に活を求めるか……そういう考え方は俺の好みだ」

「防御に対して悠長に魔力を使ってジリ貧になるくらいなら、といったところですか……いい生き様ですね。ケルビム様が楽しんでいたのも頷けます」

 

その様は、まるで命を燃やし切ってでも勝とうという強い意志を感じられた。

生物としての強い闘争本能を理解した上で一身に受けたケルビムとクロエは再三の称賛の言葉を贈る。

凄まじい勢いで凝縮されていく魔力を前にしても、この二人はその思考を恐怖に染めることは断じてなかった。

 

「って、暢気に言ってる場合じゃないでしょ!アレは流石にやばいって!」

「あんなのを食らったら……!退避間に合いますか!?」

 

無論、二人以外の大半の人間は既にその場から退避している。

直撃どころか、掠ったりしても命はないと誰もが直感で理解してしまったからだ。

間に合うかは分からなくても、生存の為の行動に走るのは至極当然のこととも言える。

 

「なら、俺も真正面から行くべきだな。そうでないと礼を逸することになる」

「楽しい演目ほど終わりも早いものですね……折角これだけ観客がいることですし、派手にブチかましてやってください」

 

無論、その当然を笑顔で蹴っ飛ばす酔狂もこの場には存在するわけで。

二人の中では、逃走する選択肢など無かった。

相手の持ちうる最高の一撃に対しては報いるべき。

何とも律儀で、トチ狂った思考からの選択とも言えるだろう。

 

「って!そこ二人は何で笑顔で突っ立ってるんですか!礼とか演目とかいいですから、早く逃げ──!」

 

二人の頭のおかしさから、ユフィリアは思わずツッコミどころか怒号を発していた。

お得意のポーカーフェイスはとっくの昔に崩れてしまっている。

それほどの声を上げているにも関わらず、最後の迎撃に赴こうとするケルビムに耳を傾ける素振りを見えない。

そもそも、クロエ以外の声が聞こえているのかすら怪しかった。

ドラゴンが放とうとしている攻撃が具体的に何かは分からなくとも、人の身で耐えられるものでは到底ないのは明らか。

完全にケルビムのやっていることは自殺行為──おかしな期待を抱く者以外は誰もがそう思っていた。

 

「そこで吐くではなくぶつかりに来る愚直さも気に入った。真っ向勝負こそこの手の華であることをよく分かっている」

 

ドレッド・ドラゴンはその魔力を己に纏い、その巨体と共に突進の構えを見せる。

纏うオーラは黒龍の呪詛由来のものだけでなく、龍が持つ本来の魔力の色も綯い交ぜとなっていた。

禍々しさと神々しさのコントラスト、聖邪入り交ざるとはこのこと。

純粋な殺気とその威圧感を笑顔で受けながら、ケルビムも迎撃手段を展開する。

翼を含む魔力の鎧は、とある神獣を彷彿とさせる姿に形を変え。

剣と刀を突進するように構え、闇と風の2属性の魔力を纏わせケルビム自身も巻き込む。

 

「貴様も力を貸せ、神獣グリフォン。──さあ混ぜるな危険、ようこそカオスだ。ごちゃ混ぜ属性同士の夢の狂宴こそが今宵の殺し合いの終演だ!」

 

その宣言と、ドレッド・ドラゴンが動いたのは同時であった。

ケルビムは雷・闇・風の3属性が無秩序に混ざった紫電色の1本の槍となり真正面からぶつかっていく。

己が生命力を、何なら魂までも魔力に変換した……文字通り決死の一撃。

生物界においては超越種と劣等種、龍と人間……本来ならば対等の関係にあらず。

しかし、この時の一人と一体は間違いなく殺し合い関係という意味では同等の位置にあった。

まるで遊びに興じるように、互いの強大な魔力を遠慮なくぶつけ合う。

 

「嗚呼、殺し合いはやはりこうでなくては……楽しすぎて狂ってしまうな!」

 

零れる笑みは、この場で初めて見せる童心に満ち溢れるもの。

その狂気的なまでの純粋な歓喜は、ケルビムの突進の勢いが更に増す形で現れている。

1名を除いて、その光景を見て寒気を覚えているのは言うまでもない。

そして──拮抗の時は、思ったより早く崩れることとなった。

 

「……何なのよ、あのメチャクチャっぷりはぁぁぁぁ!?」

 

この場を代表してアニスフィアは絶叫した。

必殺と思われていた全力の突進も、無慈悲き真っ二つに叩き割られることとなれば……必然と言えよう。

奇天烈だ奇行連打だ言われている彼女から見ても、ひたすら出鱈目な光景である。

更に、それをやった張本人が童心に還ったような無邪気な笑顔を振りまいているのがこれまた憎らしくも思えてしまう。

そのままケルビムはドラゴンの腹部に向かっていく。

ぶつかり合いによって勢いはそれなりに殺されているので、一気に貫通とは流石に行かないのだろう。

無論、それもケルビムの想定の範囲内でしかない。

もう一体の立役者に対して、そのような無礼を働くつもりはないのだから。

腹にぶつかる直前で風の魔力で勢いを相殺し、崩れた体勢を即座に立て直す。

その後は飛行するのではなく、足場を作って空に足をつける形としたようだ。

無茶苦茶行動の立役者である深海色の剣はいつの間にか背に収まり、刀も既に鞘に納まっている。

 

「魅せるとなったらこれしか浮かばんのでな……未熟ではあるが、礼として受け取ってくれ」

 

──刀を抜く前に一旦脱力し、代わりに魔力を静謐に滾らせていく。

簡易的かつ真似事ではあるが、その一瞬のみケルビムは内心を静寂で埋め尽くす。

今か今かと解放を待ち望むのは、雷と闇……そして水の魔力。

これまた混沌とした合成魔力を静から動への気の激流と共に……その一瞬の斬撃へ余すことなく乗せる。

翼と同じく紫電色の魔力が、三度の斬撃の跡として少しの時間残るほど。

この一瞬の光景だけでも、さぞ絵になることであろう。

最後は背を向けると共に納刀する。

特有の涼やかな音が確かに響き渡り……それと同時に、ドレッド・ドラゴンは鮮血を散らしながら崩れ落ちて行った。

その表情は、敗北したにも関わらずどこか満足げであった──少なくとも、アニスフィアにはそのように見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、最上級とされるアダマンタイト級の実力ってものなのか。

ゴールドランクでは測り切れないからと急遽作られた最上級冒険者……いや、並大抵じゃないというのは分かってよ?

でもまさか、ソロであの新種のドラゴンを殆ど傷を受けずに討つだなんて流石に想定してなかったっていうか。

その上、ケルビムが最初に呟いてたポエム、どっかで聞いたことあるような気がするんだよなあ。

まさかとは思うけど、私と同じく前世の知識を持ちだったりするのか?

いや、詩くらいならこの世界でもあるから違うとは思うんだけど。

 

「クロエ、こいつの受け止め頼んだ!」

「抜かりはありません。ケルビム様は芸術点の方に気をやってくださいな!」

 

無事ドラゴンを討ったケルビムは、再度翼を展開して問題なく着地する。

うん、なかなか絵になってはいて思わず見惚れちゃうし、芸術点満点上げたいんだけどさ。

……そんな仰々しく降りる必要って、ある?

もしかして、そういうお年頃だったりとか……いやそれにしたって堂々とやりすぎ。

こんな調子だから『無慈悲な主演』なんてとんでもない二つ名を付けられちゃったんじゃないの?

まあ、本人が特に否定してないからそこはいいのかもしれないけど。

そして堕落するドレッド・ドラゴンの方は、高強度の魔力の足場で受け止められ静かに地上へ降ろされた。

こちらはこちらで抜かりがないというか、この巨体を受け止められる魔力の足場ってなんだそりゃって感じだ。

それに、ケルビムの勝利をまるで疑っていなかったから行動もスムーズという……従者の鑑ってやつなのか。

イリアでもここまで出来るかと言われると……。

ところどころ残念口調が目立ったけど、このお姉さんもプラチナランクなんだよね。

地上での圧倒的な殲滅っぷりからも分かるように、その魔力操作はまさに一級品そのもの。

ケルビムと遜色ないとすら言えるだろう。

そもそも、彼らが使っているのが本当に魔法かどうかが疑わしいところなんだけど……。

さて、ここから瀕死のドレッド・ドラゴンにトドメを刺すのかと誰もが思う所だろう。

しかし、そんな大半の思考を『知ったことか』と無慈悲にあっさりと裏切っていくのがケルビムだった。

武器を収めたまま、血で濡れた地面などまるで気に掛けずに横たわるドレッド・ドラゴンに近づいていた。

 

「……何か言いたげのようだな。勝敗の文句以外ならいくらでも聞いてやるよ」

 

挙句、先ほどまで殺し合っていたドレッド・ドラゴンに向けて話し出した。

うん、ユフィを含めみんな完全に何を血迷っているのかって表情になってるよ。

クロエは彼のやることを根っから信頼しているから何も口を挟む気配が無い。

意外かもしれないけど、私もこっち側なんだけどね……。

死にかけの相手に対して、随分とまああっけらかんというか軽い話し方をするのは果たしていいのかとは思うが。

 

(あの時の私と同じだね……多分、ケルビムとドラゴンにしか聞こえない会話だ)

 

脳裏に浮かんだのは、この時と似たような……死力を尽くし、やっとの思いでドラゴンを倒した時のことだった。

私の時もこんな感じだったんだけど、その死の間際にドラゴンの方から念話のようなもので話しかけられたのだ。

その際には『稀人』とか気になる用語を聞いたりもしたっけ。

今でもその単語の意味がよく分からなくて、とりあえず何か私って異端?ってくらいの意味にしか思ってないんだけど。

後は、願いと言う名のまじない……呪い?どっちとも言えるような言葉も頂戴したかな。

結果そのドラゴンの呪いとか知識とかを受け継いで、刻印を軸にした強化魔法として使えるようになったってわけなんだけど。

それにしても、こうして傍から見れば朦朧と独り言を呟いている危ない人にしか見えないのがまた……。

私の時は、周りに誰もいなかったから本当に幸運だったかも。

そんな数多の怪訝な視線など知らぬ存ぜぬなケルビムは、一体どんな鋼メンタルを持ってるのやらか。

いや、アダマンタイトメンタル?いや、少しゴロが悪いからアダマンメンタルとしておこう。

幾ばくか二人にしか分からない時間が経つと、ドレッド・ドラゴンはその瞼を静かに閉じていた。

もう事切れたんだろうね……とても安らかで満足したような表情だった。

 

「地獄で会ったらまた遊んでやる。俺が逝くその時まで精進してろよ」

 

いやいやいや、死んだ後も遊ぶとか貴方はどれだけ戦闘狂なのさ!?

あっちも絶対に真に受けちゃうヤツだよねそれ!?

そんな静かに狂気を見せるケルビムの手には、漆黒の中に炎のような紋様が入った色調のドラゴンの魔石が。

……あれ?もしかして勝手に体内から出てきた系なのかこれは?

私なんかわざわざ腹を掻っ捌いて取り出したと言うのに、何だその親切仕様!

そしてその当の魔石なんだけど、何というか私が手に入れたものに比べて随分とコンパクトだね。

 

「──やれやれ、主役ってのも案外大変だな」

 

普段ならその手にある魔石を羨ましそうに見るところだけど、これは正真正銘彼のものだ。

いくら欲しいとは言ってもそこまで意地汚い真似は絶対にしない。

それよりも、私は彼に聞きたいことがあった。

 

「さっきまで、彼と話してたんだよね?貴方も何か変なこと言われた?その、例えば稀人とか……」

 

私はケルビムのドラゴンとの会話がどうしても気になってしまった

──もしかしたら、彼も私と同じかもしれない

 

「──そんなことを確かに言われたな。まあこれまで色々とやりたい放題してきた身だし、この手の超越種からそんなみょうちきりんな風に言われるってのは、むしろ光栄と思うべきだろう」

 

不可解な言葉を光栄ってすんなりと割り切っちゃってるよ。

根っからの冒険者だからこそなのか、はたまた本人がそういう気質なのかは分からないんだけど、

……その考え方はちょっとだけ羨ましいなあ。

私の場合、生い立ちというかちょっとした経緯を考えるとどうしても色々と余計に考え込んでしまうから……猶更そう思ってしまう。

 

「さて、スタンピードは収まったから俺は帰らせてもらう──っと、その前に。このドレッド・ドラゴンの素材についてだが、王女殿下にも配当を多少譲渡するが構わないな?」

 

帰ろうとするケルビムがとんでもないことを言い出してきた。

それも私にとっては願ったりかなったりが過ぎる話で、良識があったら反射的に断ってしまうだろう。

現に私も即座に首を横に振ってしまっていた。

 

「いやいや、私はいいようにやられていいとこなしだったんだよ!?そんなの受け取れないってば!」

 

倒したのは誰でもないケルビムなわけで、対する私はこのドラゴンに正直傷すら与えられていない体たらくだ。

いや、そりゃあ新種のドラゴンだから魔石以外の素材は欲しいよ?

エアドラちゃん2号機とか作れちゃうかもしれないし、他に一体どんな未知の素材があるのかは期待に胸が膨らむし。

でも流石にそこまで業突張りじゃないというか、良心の呵責が凄いことになるというか……。

 

「あの僅かな時間稼ぎがあったから俺たちが間に合ったんだ、理由なんてこれで十分だ。それに、魔学の探求にはこの手の素材も必要なのだろう?これで面白い発明をどんどんやって俺を愉快にしてくれ」

「ケルビム様なりの期待を込めた、いわば将来への投資ということです。勿論下僕である私も同じく期待の目は向けておりますので」

 

このアダマンタイト級ドラゴンキラー、とんでもないくらいに気前が良すぎない……?

挙句従者と口を揃えて私と魔学に投資するとか期待するなんて言ってくれちゃうし。

その言い分は、私からすればあまりに反則が過ぎる。

 

「ああもう分かった!なら有難く活用させてもらうよ!ありがと、ケルビム!」

 

そんなこと言われちゃったら受け取らざるを得ないじゃない!

私がヤケクソ気味に答えると、二人は静かに笑みを浮かべていた。

こんな強者が魔学を認めてくれて、期待までしてくれることから私も釣られるように笑ってしまっていた。

具体的な配分は二人がドレッド・ドラゴンを運んでそのまま手配するという話になり、そのままどこかへ帰ってしまった。

というか、二人がかりとはいえあの巨体をあっさり運ぶなんてしれっと何やっちゃってるのさ。

本当、世の中規格外が満ち溢れてるなあ……。

グランナイツといい、ケルビムといい、クロエといい……。

 

「あの、アニス様……彼と一体何を話していたのですか?」

「新種ドラゴンの素材の分け前は私にもある程度はあるって話だよ。私としては想定外なんだけど、時間稼ぎをしてくれただけでも対価は得るべきだって押し切られちゃった」

「凄い気前の良さですね……アニス様も見習うべきでは?」

「一言余計じゃないかなあ!?っていうか私は魔学の成果として還元してるから多分!」

 

流石にドラゴンとの会話については伏せておいた。

まあ、ユフィなら信じてくれる可能性は十分あるけど……勝手に話すのはケルビムに悪いからね。

──ちなみに、帰りはエアドラちゃんを使うのは止めにした。

ユフィが首を縦に振ってくれなかったことが主な要因だ。

あれだけ拒否反応が強いと無理強いは出来ない。

ドレッド・ドラゴン以外の魔物の素材については、この部分における一番の功労者の私が取り分を取って、後は全体で功績などを考慮して分配することとなった。

この辺りはいつも通り、冒険者たちが食いっぱぐれるような荒稼ぎはダメ絶対だからね。

私とユフィは騎士団から借りた物資運搬用の馬車に乗って帰ることになった。

その帰り道の途中で、ユフィからちょっと気になることを聞いたんだよね。

 

「あの二人のやり取りにどこか既視感があったのですが……いえ、忘れてください。流石にそんなことがあったら私はどうなってしまうか分かりませんので」

 

ケルビムとクロエのやり取り、かあ。

確かに言われてみるとちょーっと何か違和感というか既視感というか……そういうのは感じたかも。

でもその原因がどうしても分からない。

答えが出そうで出てこない、ひたすらもどかしい感覚ばかりだ。

まあいいや、いずれまた会えるだろうしその時にまた色々聞けばいいでしょう!

──そしてこの時の私は見事に失念していたことがあった。

この後、あんな事になるなんて思いもよらなかったよ……。

 





ドラゴンといきなり殴り合いの接近戦かと思ったらどこぞのマレット島なサンダーバードの弾幕再現とか、いきなり雷の律者のトドメやりだしたり(倶利伽羅はいない)、挙句真正面からぶつかりあう……結構盛った方ですね。
ちなみに描写を避けた二者のやり取りですが、当然姉上側と内容は異なります。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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