転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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さて、この奇天烈長女と破天荒次男がそれなりの段階でわだかまりが解けたらどうなるか。
それがようやく示される回です、ではどうぞ。


52. 開き直りからの大爆走

 

ここまで複雑な溝は、まさに王族ならではというべきか。

それも権力を争う形ではなく、むしろ真逆……双方が過度に気に掛けたからこそ起こってしまった。

なかなかに皮肉で、善意が必ずしも良い方向に行くとも限らないという良き凡例ともいえよう。

とはいえ、そこはいくらかの人間の闇に立ち入ってきた経験がある破天荒……いつものように埋め立て工事を完了させることとなった。

あまりに上手く埋まってしまい、割と反動が凄まじくなっている節もあるが……そこはあえて見なかったことに。

そして、それは奇しくも『機会さえあれば割と何とかなってしまうのでは』というラスの呟きが現実となる形となった。

マドラーシュ側には、実はまだ懸念事項が残っているのだが……今回はあえて保留とした。

現段階で掘り下げると確実に面倒な展開になる……マドラーシュの第六感がそう囁いたが故だ。

今はひとまず、抱えなくてもいい余計なものを取り除くだけで十分だ。

そんな姉弟と専属侍女一名は、先ほどまでの論争は何だったのかと言わんばかりに平和な空気を作り出していた。

 

「そういえば姉上、マナー復習とかダンスレッスンから逃げて来たんだろ?ユフィリアと専属侍女の二人がかり包囲網をよく突破したもんだな」

「まあユフィがいい感じで隙を見せたからちょちょいとね……結構ぼーっとすることが多いのは分かってたし」

「何やってんだアイツ……豆腐屋のせがれの魂でも乗り移ったのか?」

 

『それ、十中八九原因は君だよ』……そうアニスフィアは内心で呟いた。

内心で留めたのは、本人がいないのに言うのも野暮と判断したから。

それに加え、今の彼女にはもっと大事な共有事項が存在する。

 

「それに、私の大事な研究の時間を削られてるんだよ!?そりゃあ必死にもなるよ!マナー復習はまだしも、ダンスだけは本当にいーやーなーのー!」

 

一体どれだけ嫌なのか、全身全霊を持って駄々をこねてしまっている。

その姿からは、王族らしさなど欠片も感じさせるところがない。

ただ、二人は苦笑こそ浮かべるが咎めたりはしない。

それどころか、さも当然のように同調する構えすら見せる。

 

「主役だからこそ、というのが猶更厳しいところですが……心中お察しいたします」

「ついでに婚約解消の話やら、ユフィリアの助手としての出向とか……貴族共に周知しないとならんことが多いからな。ったく、前者の件は俺も少し関わったからな……姉上の心境はよく分かるね」

「……もしかして、アルくんとユフィの婚約解消で立会人をやったってことでマッドくんも呼ばれてたり?」

「まあ、壇上に上がるとかは無いがな……ほれ、これが証拠だ」

 

先ほど二人を悩ませていた招待状を見せると、アニスフィアも同じく苦笑を浮かべる。

これまでそんな場には全く出てこなかったことは、互いが互いによく知っていることで。

アニスフィアもまた、マドラーシュの苦虫を噛み潰す表情を咎めるようなことはまずない。

大まかなところではやはり同類なのであった。

 

「ええー、マッドくんは大丈夫なの?マナーとかダンス、ちゃんとやってるイメージがまるでないんだけど」

「やれるって意味ならば問題はねえぞ?そこはグランナイツの教育範囲内さ」

「私共々、ルドミラ様とクリスティーナ様からきっちりと叩き込まれましたので。今すぐに放り込まれても溶け込めるかと」

「ルドミラって人はまだ会ってないから知らないけど、クリスティーナが先生かあ……想像できるような、出来ないような……」

 

クリスティーナは故郷では裕福の出であり、若干の心得があるからこそだ。

ルドミラは趣味である変装技術を磨く際に、そのような方向もきっちり網羅しているが故。

そこに元々知の方向で教師役をしているラインヒルトも加わることで、万が一の際にも備わった万全態勢。

──恐るべき、グランナイツとアニスフィアは密かに戦慄していたりも。

 

「まあ、マナーの方は最悪一夜漬けでもなんでも叩き込めばいいし、何ならいくらでも誤魔化しようがある。──が、ダンスはまるで別物だ」

「相手がいますからねえ……せめて気心の知れた異性だったら誤魔化せるのですが」

「見ず知らず、更にそんな気もねえ異性を相手に手を繋ぐだけでも勘弁願うってのに、見つめ合うってもはや何だよと言いたいね。んでもって、お相手には愛嬌を振りまかせる?ああもう何てかにて嫌に……ってうおい!?」

 

ある意味での男女平等論と言えなくもないか。

そんな心労をお互いに背負うくらいならば、いっそ殺し合いでもしていた方がよほど有意義という物騒かつぶっ飛んだ理も含まれてはいるが。

そこまで言い切ると共に、唐突に手が握られるとともに引っ張られるような感覚が襲い掛かる。

一体何事かと目の前を見やると、そこにはギャグ調の涙を流す姉の姿が。

まさに奇天烈というべきだが、水分と塩分の残量を気遣ってしまうほどの涙腺崩壊っぷりに流石のマドラーシュも戸惑いの色を見せてしまう。

 

「それだよおぉ!マッドくんとセラだけだよそこまで理解を示してくれるの!」

「マッド様、これはまた見事な一本釣りですね」

「やっべ、姉上がその手のことで痛い目見てたこと失念してた……ああこらこら、分かったから放してくれ。どうどう、落ち着け落ち着け」

 

もはや姉というより完全にペット扱いである。

身長差がなかなかのものだから、ということもあるのだが……この時のアニスフィアはいつもにまして小動物味が増してしまっていることも原因だ。

しかし、その宥める行為はより彼女の暴走を強固なものにしてしまう。

 

「もう私ここに引きこもる!あの地獄に帰りたくない、だからマッドくんが私を養って!あ、いっそのことダンスもマッドくんとずっと踊ってれば解決じゃん!姉弟仲良く壁の華回避で誰も損しないよ!」

「……ヒモ発言含む色々とすっげえ爆弾投下してるって分かってんのか?とりあえず正気に戻れ」

「大丈夫!私はしょうきにもどった!」

「ダメだこの姉、奇天烈通り越してクレイジーになりやがった」

 

挙句とんでもない宣言に加えてこのやり取りである。

見事なまでにストロングな形で翻弄されている破天荒マドラーシュに、セラの尊みゲージは鰻登りだ。

カルシオン、クリスティーナを代表とする弄り隊や最強恋愛脳ナマリエがいないことがこの上ない救いである。

ちなみにマドラーシュとしては匿ってやろうという気と放り出そう気が見事に半々だった。

前者はもっぱら心情的理由全開で、後者についてはアニスフィアを宥めてからずっと片隅に置いていた懸念から。

 

「これはなかなかに重症ですね……マッド様、どうなさるおつもりで?」

「なかなかどころじゃねえだろ……いや、俺としては正直匿ってやりたいんだがな?アイツが飛んでくる可能性を考えると……」

 

マドラーシュの言う『アイツ』、それは誰であるかは……今更語ることでもない。

何せ、既にその場に降臨しているのだから。

 

「──一体誰が飛んでくるというのですか、マッド様?」

「……噂をすればってやつだねえ」

 

瞬間、場の空気が見事に凍結した。

聞こえてしまったものはどうにもならない。

長女は角張ったような動きで、次男はどこか観念したように声の主の方へ視線を向ける。

噂をすれば何とやら、マドラーシュのそれは教科書通りの鮮やかなまでのフラグ構築。

やや幼くも美しき般若が、二人の背後でそれはもう楽しそうな笑顔を浮かべていた、

 

「ユ、ユフィ……どうしてここが分かったの?」

「アニス様にはこの離宮くらいしか逃げ場所は無いと推測しただけですが。奇行ばかりで思考すら抜け落ちてしまったのでしょうか?」

 

容赦の欠片も見当たらない鋭利な返しにアニスフィアは1発KO、戦闘不能となった。

マドラーシュも『デスヨネー』と内心で頷くことしか出来ない、それほどの一撃だ。

流石の破天荒でも、こうなっては負けの目しか見えてこない。

そんな意味の無い勝負には乗りたくないので、庇うという選択をする余地などこれっぽっちもなかった。

 

「そしてマッド様……すっかり姉弟仲を修繕したようですね?それはそれは微笑ましいことですが……少々近すぎではないかと。ご姉弟とはいえ、異性同士なのですよ?分かっていらっしゃいますよね?」

 

対するマドラーシュに対しては冷静にアニスフィアとの距離感への指摘だ。

二人は年頃の男女でそれも姉と弟。その言い分は至って真っ当にしてまともである。

──その裏にある無自覚なとある感情については、傍観者であるセラしか認知できていない。

そしてそんな彼女は主が巻き込まれる修羅場を前にますます楽しそうな顔をしていた。

 

「俺に対してはそっちかよ……まあ、思ったより真っ当なことで安心したが。というわけで姉上、ここは明らかにユフィの言い分が正しいから離れてくれ。俺にそういう気は一切無いのでな」

「え、離れたらドナドナされるの確定だから断固拒否させてもらうよ。今こそ姉孝行時だよマッドくん!さあ、悪い公爵令嬢に立ち向かう時だよ!」

「誰が悪い公爵令嬢ですか。これは相応のお灸が必要のようですね……」

 

姉の特権と言わんばかりに末っ子ヘルパー呼び出し発動である。

しかし当本人は既に庇うのを完全に諦めきっているのでまるで効果がない。

仮に子犬とかの縋るような目をしたところで結果は同じこと。

むしろそれをしなかっただけ、アニスフィアは首の皮1枚で繋がったとすら言えた。

 

「自分で蒔いた種は自分で回収してくれ。というわけで……ほい、引き渡し完了」

「何かもはや人間どころかペット扱いだよねこれ!?」

「ご協力感謝いたします。今後こういうことがあっても、下手に匿わないでくださいね?」

「それ以前に脱走できない包囲網をちゃんと作れっての……」

 

マドラーシュはまるで猫のように実の姉を引き渡した。

こうして顔を合わせるのは割と久々のはずが、あまりに鮮やかなコンビネーションを見せるマドラーシュとユフィリア。

その手際にアニスフィアも一瞬固まってしまうが、即座に抵抗と共に己を再起動させた。

 

「マッドくんの裏切り者!鬼!悪魔!さっき共感してくれたのはブラフだったの!?」

「勝ち目0の勝負には乗らない主義なだけだ。次からはもう少し上手くやれよー」

「まあマッド様がそうせざるを得ないなら……大変心苦しいですが、私も見守る外ありませんね」

「が、裏の頼みの綱のセラもダメ……!くっこれまでなのか私は……あっ!」

 

主が無理と判断するなら、よほどのことではない限りセラは強引に参戦したりはしない。

先ほどは確かに同情を示してはいたものの、その程度のことでマドラーシュ至上主義がブレることなどまずない。

さて、このまま何も策を講じなければ地獄の(アニスフィア・マドラーシュ比)パーティ講習に逆戻りだ。

確かに、末っ子とのわだかまりが解けて普通の姉弟としての関係の芽を作ることが出来た。

それだけでも、この逃避行の甲斐はあるだろうし収支としてはプラスだろう。

しかしそれだけでは割に合わないと思うくらいにはこの時の奇天烈は強欲だった……二重の意味で。

後少しで部屋の外判定、いわゆるゲームオーバーになるところで彼女の悪知恵が働いた。

 

「ユフィ、ちょーっとだけ待ってくれない?」

「……どうしたのですか、アニス様。抜け出すための言い訳でしたら、後でいくらでも聞きますが」

 

何を思いついたのか、アニスフィアの表情はそれはもう悪い笑みとしか言えないものだった。

あまりに状況と合致しないその様子は、ユフィリアも思わず足を止めてしまうほどだ。

 

「ほら、折角マッドくんと久々に会えたのにさあ……このまま帰るのは勿体ないよね?いっそ私と同じように拉致して、一緒にマナー講習受けて貰ってダンスでも男性パート担当して貰えみんなが得すると思うんだけど」

「……姉上、さっきのそのままそっくり返させてもらうよ。おいユフィリア、俺がいても邪魔になるだけだろうし応じる必要はねえからな?」

 

あまりに雑な道連れ狙いな発言である。

突拍子の無さもそうだが、そのあからさまっぷりにマドラーシュは呆れ果てる以外のリアクションが取れずにいるほど。

そもそも、ユフィリアとしては後日改めて尋ねればいいだけの話なのだから。

それくらいならば、マドラーシュとしては別に断る理由もないわけで。

むしろ、わざわざ女所帯のあちらの離宮に弟一人放り込むなどどうにかしているのではないか。

男女比率的に1:3、もはやその手のミニゲームが出来そうな構図となってしまうのだから。

紅一点ならぬ蒼一点、どこぞの亀の王様の気持ちにでもなって欲しいくらい。

ユフィリアならそれくらい察することは容易であろう。

よってこんな提案は軽く蹴ってくれるはず……マドラーシュは友の気質を信じて、そう高を括っていた。

 

「……その手がありましたね。流石はアニス様、その名案に免じて戻った後のお説教はなしに致しましょう」

「そういうことでしたら、私も加勢致しますよユフィリア様」

 

ところがどっこい、公爵令嬢はまさかの2コマ即落ちという有様であった。

更には、アニスフィアを確実に連行するためにと待機していたイリアもしれっと部屋に入ってくるというイレギュラーも発生である。

まさかの友人の変わり身とその乱入を前に、流石のマドラーシュも脳内回線をショートさせざるを得なかった。

それは、体内時間をほんの一瞬だけ止めてしまうことと同義であり……。

その一瞬が命取りになるのは言うまでも無いだろう。

 

「……それは面白そうですね。ではマッド様、今度はこちらが突撃いたしましょうか」

 

更には、主の尊み成分の為ならとぶっ飛び侍女が乗っからないわけがない。

4対1の多勢に無勢、もはや10:0な完全不利ないしムリゲー的状況である。

マドラーシュの得意とする戦いの場ならばいくらでも打開できることだろうが……生憎とここは戦場ではない。

無情にも、彼の破天荒を支えるスキルは何の役にも立たなかった。

 

「って、何かしれっとお初にお目にかかる侍女に一瞬で縛られてるんだが!?ちょっと待てセラ、どこからそんな力出してるんだHA☆NA☆SE!」

「普段から姫様の捕縛で慣れていますので……そして、こんな形ですがお初にお目にかかります、マドラーシュ様」

「ああ、これはご丁寧に……じゃねえよ!しれっと器用なことしやがって、有能だなおい!」

 

実際その手際は恐ろしいまでに良く、マドラーシュでなくても感心してしまうほどだろう。

奇天烈行為をしでかしては、色々と逃げ惑う第一王女を無力化するためだけに身に着けた背景を考慮すると悲しくなること請け合いだが。

 

「流石はセラとイリア、仕事が早くて何よりです」

「イリアもナイスアシスト!はっはっは、これがアニスフィア流の道連れ戦法だよ!どうだマッドくん、恐れ入ったかー!」

 

侍女に担ぎ上げられて運ばれるマドラーシュ、何とも極めてシュールな構図だろうか。

知らない者が見たら誘拐にしか見えないが、この顔ぶれがそんな愚を犯すはずもなく。

これもまた、色々と接触と追及を上手いこと回避してきたツケに当たるのだろうか。

ある意味では鮮やかと言える手際でフラグを回収してしまう辺り、もはや一種の愉快な呪いの類だ。

腐れ縁兼共犯者の呪いオタクがこのことを聞いたら、さぞ楽しそうにそう話すことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マジで酷い目にあった……。

おのれ姉上め、まさかあそこまで諦めが悪いとは思わなかったぞ。

底意地の悪い道連れしやがって、次からは気を付けねえといかんな。

お陰でドレッド・ドラゴンの魔石のイメージ抽出が全然進まなかったぞ……。

しかも俺があっちの離宮に向かう様子をキュイに見られるという大失態もかますというおまけつきだ。

お陰で身内で見事に拡散されては同情めいた視線と謎の激励を貰うことに。

作法については元々そういうのに潜り込む機会があったりした時の下地のお陰で時間は食わなかった。

むしろユフィリアと共に叩き込む側に回れたから、まあこっちは問題なかった。

ただな……やっぱダンスの方でそれはもう色々と疲れた。

姉上を相手とする実演は、まあ別にそこまでの問題ではない。

強いて言うならば、身長差がそれなりにあるからちょいとやりづらかったって程度だ。

──無論口には出してねえぞ?じゃないと後が凄まじく怖いからな。

じゃあ何が問題だったか?……ユフィリアの目が据わってたのがとにかく気になったんだよ。

いや、俺本来の役目ちゃんと果たしてるよな……?

俺としても復習が出来ないわけでもないし、ユフィリアの手も煩わせずに済んだとなればそう悪いことではないはずだ。

姉上が味を占めては、錆を落とし切ってからもやたら俺を放流しようとしないことが強いて言うなら怪しいのだが。

いくら勉強の範疇とはいえ、また姉と弟がベタベタしてるんだからなあ……。

ただ、それは俺に落ち度は無いんだからその目を向けられるのはお門違いじゃねえかとは思う。

まあ、何にせよ盛大に疲れさせられたってことだ……こういう疲れは望むところじゃねえ。

やっぱ俺は、一発で死に追いやってくるようなキワモノ連中と殺し合う方がお似合いだな。

煌びやかな場で踊るなんて、まるで俺のキャラじゃねえし。

 

「私としても、血が舞う中で狂おしく踊っているマッド様の方がより尊く見えますね……本番は誘われないよう陰に徹するべきかと」

「そもそもその本番に行きたくなかったんだよなあ……面白いヤツがいれば話は別なんだが」

 

結局今日の宴には参加する羽目になってしまった。

姉上から強く、それはもう強く懇願された。

ユフィリアとイリアからも合わせて頼まれてしまい……いや、ユフィリアはもはや『え、来ないんですか?』って圧すらあったか。

そうなったら、招待状もある手前欠席は許されねえだろうがよ。

お陰で急遽そういう服を仕立てる羽目になっちまった……。

まあ代わりと言ってはアレだがちょっとした意趣返しを仕込ませてもらった。

どうせ気配同調の上で姉上とユフィリアへの接触を図る顔ぶれの監視がメインだし、ちょっとくらい遊ばせてくれや。

仕立てを担当した騎士団支援所長も兼任するお姉さまもすっげえノリノリだったし、俺もそこは楽しくやらせてもらった。

元々こういう風に服装での自己主張ってのも昔から好んでやってるからな。

さて、そんなこんなで途中まで付き添ってくれたセラと別れて会場入りしたわけだが。

聞こえてくる話はただの探り合いというか、周回遅れの推測ばかりというか……輪に入る気も起きねえ。

まあ、アル兄さんとユフィリアの婚約破棄の話が出た時は思わず吹き出しかけたけどな。

『婚約破棄じゃねえ、婚約解消だ!』って大声で言いたくもなったな……それはもう融合じゃねえ!ってノリで。

……そんなこんなで暫く退屈オーラ全開で辺りを見回していたら、一時的にささやかな沈黙が訪れた。

今回の宴の意図を知る人間にとっての主役に近い一人……ユフィリアがグランツ公と共に入場してきたからだ。

 

「……ったく、人の事をしょっ引いてくれたやつと同一人物とは思えねえな」

 

水を得た魚のようだった先日までとは大違いだ。

仮面をきっちりと被っているという意味ではこっちでも同じことなんだろうが……見事に演じ分けしてきてやがる。

その手の使い分けが出来るとこういう時に強いからな……。

と、今度は鈴の音が聞こえてくる。

まあここでユフィリアが来たってことは、お次は今晩の主役のご登場だろうな。

ゆっくりと扉は開かれ、先に歩み出てきたのは国王である父上。

その後ろには姉上が続いてるんだが……やれやれ、これまた随分と視線を奪っているな。

まあ普段の行動でそういう評価が台無しになってるってだけで、持っているものは軒並み最上級って言われてるからな。

上の下が関の山な俺に比べれば、そりゃあそういう視線も貰うだろうよ。

それにしても、こっちも大した役者だな。

その気になれば俺みたいな演者系の二つ名貰うことも出来るんじゃねえか?

さて、いよいよもって父上からの発表の始まり始まり……場も静まり返った。

 

「先日の貴族学院での卒業を迎える生徒達を讃え合う宴での事だ。色々と憶測や噂が飛び交い、不安を呼んだ事は我等王族一同、猛省するばかりである」

 

俺は関係ないんじゃね?と思いたいところだが、むしろ俺が発端って可能性すらあるのが何とも……。

まあその可能性を知ってるのはグランナイツとラス達以外ではアル兄さんとティルティくらいだけど。

この事件自体には殆ど介入できなくて、二人にはマジで悪いことしたと思ってる。

 

「しかし、アルガルドが婚約者であるユフィリアに婚約破棄を宣言したという噂については誤りだと明言する。詳しい経緯は……アニスフィア、説明せよ」

 

おうおう、周りの驚愕の表情が面白いねえ。

そりゃああれだけ現実味があるように広がってた噂がただの事実無根の出鱈目でしたーなんてなあ。

裏事情を知ってたらひたすら高笑いしたくなるけどな。

 

「ごきげんよう、皆様方。我らが親愛なる陛下より説明の任を受けたアニスフィアです。先ほど陛下も明言したように、アルガルドが婚約破棄を宣言したというのは事実ではありません。むしろ円満に関係を解消することを双方が望んでおり、そのための協議も進めていたとのことでした」

 

破棄と解消、結果は同じなのかもしれないがその過程はまるで違う。

ざわめきはどんどん大きくなってきてますます楽しいことになってきたな。

高みの見物マジ楽しい。

 

「二人の関係が思わしくなかったことは身内として残念ではあります。それでも冷静な話し合いの場を設けていたことは、同じくとある要望の下でアルガルドと協議を進めたかった私としても幸いと言えました」

 

事実と若干違うというか、時系列を若干変えて姉上が関わったっていう風に軽く捏造だな。

無論俺の名前を下手に出すわけには行かねえからこれは全くもって妥当なやり方だ。

まあ事実そのままで公表したら『あの放浪王子が何故二人の婚約に口を出しているのか』って疑念から絶対に面倒ごとになる。

そんなところを考慮してくれた姉上と父上には感謝しねえとだな。

さて、この上手いこと口裏合わせた話でリアクションを取るアホなお客様はいらっしゃいませんかー。

……何となく見回してみたが、流石にそんな間抜けはいなかったか。

っていうかこの宴に参加すらしてるのかすら怪しいかもしれん。

 

「一つ、この場を以て正式にアルガルドとユフィリアの婚約解消を宣言する」

 

おっと、怪しいヤツを探ってたらいつの間にか父上パートに戻ってやがった。

にしても、ルドミラ姉さんとかカルシオンがいないとやっぱこういう行動はキツイな。

ただいつまでも二人に頼るわけにも行かねえし、状況が状況だから俺単騎ってことになったが……どうにも向かんな。

王国にも陰の鬼志みたいな隠密部隊が欲しいところだ……俺直属で。

 

「二つ、ユフィリアには魔学の研究補佐として正式に助手の地位に就いてもらうこととする」

 

まあこれで婚約解消によってユフィリアの地位が危なっかしくなるという懸念もクリアってわけだ。

魔学を上昇気流に持っていけさえすれば、それだけで安泰とすら言えるし。

そこはまあ、情勢を考慮すれば言うほどハードモードでもねえからな。

外部から邪魔が入れようにも、父上を筆頭にしたガードがあるからそうそう手は出せんだろ。

あー、これでもう俺があんな危なっかしい時間を過ごす必要が無くなる!

ユフィリアのことを考えても、引き出しを増やすという意味でいいこと尽くしだろうしな!

それに、これで姉上に弄られ役などなどの諸々を押し付けることもでき……!?

 

「……何だ今の悪寒は」

 

まるで蛇の一睨みを食らったような感覚を思いっきり叩きつけられる。

その手の妖怪、確か偉志ノ大陸でもいたような気もするが……いや、場所が違うだろ正気に戻れ。

一体どこから……と気配の発生源はすぐに理解した。

……そして、そちらに目線を向けたことを即座に後悔することとなる。

 

「──これはマゼンタ公爵家への補填と、今後とも我が親愛なる家臣として重用していく姿勢を示すものである」

「………………」

 

……今、視線思いっきり合っちまったぞ。

ユフィリアさーん、何で上座からピンポイントに俺のこと見てるんですかねえ?

それも何か意味深な笑みを一瞬だけ浮かべるというおまけつき……。

うん、圧が凄まじいせいか寒気すら感じてしまった。

そもそも、陽ノ花家直伝とすら言える気配同調術を平然と破ってるんだお前は。

……まさか考え事のせいで気配同調緩まってたか?

何にせよ、見つかっちまったからには何とか撒かないといかん。

少なくとも、すぐに捕まったら拙い気配しかしねえ!

父上の宣言と共に演奏が始まるタイミングを好機と判断して、俺は何とか人混みに紛れつつ気配同調を再度施した。

こちとら更に空気になった継承権第三位だ、いっそ空気王になってやろうじゃねえか!

リミッターを外させてもらう……ってそれはアカンだろ!二重の意味で自壊するっての!

 





まあ色々と振り回してくれるというわけです、そりゃあそうなる。
とはいえ、今回はしてやられましたがここからはお互いさまになる……はず。
ちなみに、一応まだもう一段階先があるんですよねえ……分かる人は分かると思いますが。
そして遂に暴走機関車ユフィリア降☆臨……これはずっとやりたかった。
今回は姉上の脱走とか色々含んでの結果とも言えますが、開き直っても何だかんだ溜め込んでいたということで。
ここから時折こうなるはずなので、草を生やしてあげてください。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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