転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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というわけで、年明け直前に最終話滑り込みアップ!
グランサガ片手に加筆減筆やりきりました……砂糖も吐きながら。



53. ふりまわしふりまわされ

 

陛下の宣言と共に宴が始まるや否や、アニス様の下に他の貴族たちが順番に挨拶しにやってきました。

まあ、今回の主役と言えるから当然のことですね。

さて、ここぞとばかりに私は周囲を盗み見ているのですが……。

……ものの見事に、それこそ影も形もマッド様の痕跡すら見当たらない。

上座に立った後のあの一瞬はすんなりと見つけることが出来たのに……。

 

(見事にやられましたね……それにしても、何故そこまでして気配を悟られないようにしているのでしょうか)

 

まさか、他の令嬢と仲良くやっているのを見られないようにするためとか?

……いえ、流石にそれはあの人に限ってまずあり得ない。

異性との付き合いには慎重に慎重を重ねるタイプだということは、よく分かっているつもりですので。

ならば、逆に迫られている……?

いえ、気配を消しているのだからそれはおかしいでしょう。

……何故そこまで頑なに私たちと……私と距離を取ろうとしているのでしょうか。

先日、ようやく顔を合わせることが出来たというのに……これでは逆戻りになってますよね?

 

「ユフィ、マッドくんを探すのは後にしないと……今はお勤め時だよ」

 

周囲に気を張り巡らせすぎていたのか、アニス様に小声で指摘されてしまいました。

確かに、このままでは不自然に映ってしまいますからね。

いくら面倒でも、己が決めた導線上の為すべきことは為さなければ。

……ただ、話の中身がこれというほどのことではないからどうしても仮面が必要になりますけれども。

婚約についてお気の毒とか言われても、自分で決めたことなのでとしか返しようがありませんし。

栄転と称した祝福は……魔学のことを知っていればそのまま受け取ることが出来るのかもしれない。

しかし、どうしてもアニス様が隣にいるから聞こえるように嫌味を言っているのでは邪推してしまう。

ただ、見たところ全員が偏見を持っている風にも思えないのですよね……。

とりあえず、そのような空気を醸し出す人物は覚えておきましょう。

このような場での普通の貴族同士のやり取りなど、これが平常です。

以前の私ならばもっと淡々とこなしていたのでしょうが……今はどうしても疲れてしまいますね。

疲労を自覚できる分、改善してるとも言えるのですけどね。

 

「落ち着いてきたかな……?そろそろ溜息吐いても大丈夫だよ」

「流石に素が出てきていますね……お疲れ様です、アニス様」

「滅多にこういう機会は無いからねえ……せめてマッドくんがいてくれればなあ」

 

たったこれだけのことなのに、お互い随分と疲弊してしまったようだ。

私はこれまでの経験があるからそれを軽減する術を持っていますが……アニス様はこれまでこのような催しに殆ど顔を出していない。

そんなアニス様のことを考えても、弟君であるマッド様には傍にいて欲しかったところなのですが……。

あの方ならば、一目見るだけで腹の内を探ってしまいそうですし。

改めて周囲を探してみるが……やはり見当たらない。

まさかここまでとは、改めてその隠密技術に舌を巻いてしまう。

だからこそ、この3年でアルガルド様以外に関係が発覚させなかったのでしょうけど……。

 

「……それにしても度が過ぎるでしょう。少しくらい手心を加えて下さっても良いのでは?」

「わ、ユフィがすっごい拗ねてる……ぱっと見凄い可愛らしいけど、これは後が怖いぞーマッドくん」

 

……後でたんまりと埋め合わせを要求いたしましょう。

そうしている内に、演奏曲が変わった。

会場全体が語らいの場から踊りの場へと変貌する。

それと共に、アニス様から『うげっ』という声が漏れ……これ以上に無いほど嫌そうな表情を貼り付けていた。

気持ちは分かりますが、ここが正念場なのでしっかりしてください。

 

「うえー、来ちゃったよこの時間……壁の華でいたいよう……マッドくん助けてよぉ……」

「辛抱してください。主役がそんなことでどうするのですか」

 

アニス様の心境もまるで理解できない、なんてことはない。

男性と何が何でも添い遂げたくないとか、そこまで強固な意思があるわけではないのですが……。

この場の全く気のない男性を相手に踊る気になるのかと言われたら、それもまた違うと思ってしまいますね。

これもまた、自我が強くなってしまったことが一因となっているのでしょうか。

そういえば、マッド様も全く同じことを仰ってはアニス様とすっかり意気投合していましたね。

……これまで数あるすれ違いで疎遠になっていた姉と弟とはとても思えないほど、その姉弟仲は修繕されていた。

本来なら喜ばしいことですが……何故か小さな針でしつこく何度も刺されるような感覚に陥ってしまう。

 

「アニスフィア王女。私と一曲踊って頂けますか?」

 

おや、アニス様を誘う殿方が現れたようですね。

……本当は私を誘うことが狙いでアニス様は前座扱いの可能性もあるのですけど。

青みがかった銀髪に長身痩躯なその容姿。

まあ傍から見れば美男子ではありますね。

それも魔法省に勤める者の中でも筆頭とも言える、ヴォルテール伯爵家の次期当主ときたものだ。

アニス様の表情というか笑顔が、私にしか分からないほどに一気に限界ギリギリになりましたね。

あの伯爵子息への悪感情を必死に抑えているような表情……あれは間違いなく、一歩間違えたら爆発しかねませんね。

過去に魔学をこき下ろされた……その辺りが有力でしょうか。

ヴォルテール伯爵家と言えば、優秀な魔法使いを代々輩出している。

だからこそ、自分たちの信仰や地位を崩しかねない魔学の受け入れられないとしても不思議は無いでしょう。

……正直、そんな方々に私は一言申したいことがある。

 

(そんな風にいつまでも頑なでよろしいのでしょうか……明らかに兆候が出ているというのに)

 

アニス様が提唱した魔学……こちらは間違いなく、魔法技術を大幅に押し上げることになるだろう。

開発した本人曰く、政治的危険性も含まれているが……それを差し引いても利は大きすぎる。

それと共に、マッド様が築き上げたこの国と偉志ノ大陸の繋がり……いえ、彼の行ってきたことそのものも強烈な新風となることでしょう。

アーイレン帝国とも違う、精霊や魔法という文明が全く存在しない……まさに、未知の国。

その国交は、この王国の閉塞気味な空気に風穴を空ける要素足り得る。

極めつけには先日のスタンピードの際に現れたケルビムとクロエだ……というより、この二人が用いた魔法のような何か。

何度思い直しても、彼らが放ったのは間違いなく精霊由来の魔法ではない。

精霊に対する感覚がないアニス様もだが、あの場では私以外誰もそのことに気付いていなかった。

この宴の準備に忙殺されて、そのことをお伝えできていないですが……それは少し落ち着いたらにしましょう。

極めつけは、あの黒竜由来のスタンピードだ。

本来ならば有り得ない凶悪な事例、これまで発見例のない未知の魔物。

更に災厄級と称されたドラゴンに更に上位種が存在したという驚愕の事実。

これだけのことを全て知っていて尚、平穏な時と暢気に事を構えていられるのでしょうか。

この数年、明らかに色々なことが動き出している……そう思えてなりません。

……表向きは終息した婚約破棄扇動も、その流れの一端の可能性と疑ってかかるべきかもしれませんね。

そんな混沌とした状況で、果たしてその頑なが過ぎる信仰はむしろ枷になりかねない。

……そんなことを考えてしまう私は、すっかり信仰から脱してしまったようだ。

元々は当たり前だと思っていたが、マッド様に頂いた指摘を基に色々と見直した結果ですけれども。

その後にアニス様の講座を受け、実践という形で明確な事実に変わった。

……魔法の行使には、別に信仰が必要不可欠というわけではない。

使いこなすという気概と明確な着地点を思い描いて試行錯誤を重ねる方が、むしろ有益なくらいだ。

そんなことを思っていたら、何だかまた色々と試したいことが増えてきましたね。

……ふと外を見てみると、夜なのに随分と明るかった。

 

(今夜は満月でしたか……あら?)

 

そして近くのバルコニーに視界を移すと、月明りに照らされるように一人の白金色の髪の男性がただ立っていた。

月光浴でもしているのかと言わんばかりの様子は、神秘的な空気で思わず呑まれかけるが……その殿方の容貌を見て何とか踏みとどまった。

──この場において白金色の髪の男性なんて、一人しか該当者はいませんよね?

アルガルド様は仮初の謹慎の身で、今宵の宴には参加していないはずなのですから。

そうなれば、必然的に答えは一つ。

 

(見つけましたよ……マッド様)

 

まさかそんなところにいるとは思いませんでしたよ。

人混みに紛れているだろうという認識を逆手に取った……そんなところでしょうか。

相変わらず、その手のやり方に長けているようでむしろ安心いたしました。

……幸い、今の私は壁の華で自由に動くことが出来る。

私は給仕に一言告げると、そそくさとバルコニーへ向かっていった。

……もう逃がしませんからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンスの時間になって暫くしてから俺はバルコニーに出ていた。

姉上の位置は大体補足しているから、近づく輩を見るのはここからでも別に不可能ではない。

そもそも姉上をダンスに誘う勇者がいなければもっと楽なんだろうが、そうも行かないのが世知辛いんだよなあ。

正直ガードしてやりたいのは山々なんだが、それをすると余計に面倒なことになるのがまたね……。

何て思っていたことが見事なまでにフラグになってしまった。

 

「うっわ、姉上お気の毒……」

 

何せ、あの魔法省筆頭エリート……・ラング・ヴォルテールが勇者役を買って出てきたんだからな。

俺にとっても姉上にとっても不倶戴天じゃねえか……かなり魔学のこと毛嫌いしてなかったか?

多分ユフィリア狙いなんだろうが……面倒な手順踏んでるねえ。

見事に踏み台にされる姉上、今回ばかりはマジで同情するし後でいくらでも愚痴を聞いてやろう。

……何で貴族の大半を認知すらしない俺が知っているかって?

魔法省所属をじゃんじゃん輩出したヴォルテール伯爵家で、現状親子揃って所属だって話だから探りを入れたことがある。

早い話、あの貴族崩れ共と関係があるんじゃねえかって疑ってかかった。

無論直接ではなく、ルドミラ姉さんやカルシオンにも同行を頼んだ上での潜入任務だけどな。

いやあ、魔法省への潜入はなかなかにスリリングでちょっとばっかし楽しんでしまったよ。

結果的に見れば、親子どちらも白だったわけだが……ついでに内部事情を探ったら色々面白いことが分かった。

主に探ったのは魔学への反応だけどな。

やはり大半が拒否反応が凄まじかったが、一部そうでもない輩もいたんだよな。

完全に肯定するものもほんの一部いたくらいだし。

まあ、それが顕魂術への反応とイコールかは分からないのがちょいと辛い所なんだがな。

魔学はまだ魔法に寄ってる面もあるが、顕魂術はぶっちゃけ完全に袖を分かってるし。

……とりあえず、魔法省も一枚岩ではないってことは分かったのは収穫だ。

だから明確に『全部ぶっ壊す!』なんてことはしないように心掛けるようになった出来事でもある。

3年前の俺のままだったら、間違いなく怒りのままにやりかねなかったからな。

極端にやりすぎると、むしろ国内の混乱がやっべえことになって余計な犠牲が増えると自戒を覚えたきっかけでもあった。

無論、明らかに黒な連中はきっちりと叩き潰さねえとだがね。

……さて、姉上は頑張って仮面つけてダンスしてるみたいだな。

それなら今は誰も近づかねえよな……ってことで、俺は一旦視線を夜空に向けた。

こっちの満月もまあまあだな、月見酒には悪くなさそうだ。

──偉志ノ大陸産の酒でしかする気は無いがね。

 

「白夜宮でオルタとミココロ、ミツキさんと一緒に見たのを思い出すね」

 

あの時は領内の桜が舞い散ってたこともあって、その光景に目を奪われたものだ。

桜と月が完璧な比率で調和した光景があれほど美しいとは思ってもみなかったし、結構長い間眺めちまったものだ。

……そういえば、この間のフォックスリンクイーンが守ってた月光の森も俺好みの場所だったな。

もし偉志ノ大陸のみんなが来たら、あの時のお返しってことで案内でもするかね。

 

「あー……そんなこと考えてたら無性にみんなに会いたくなってきた。オルタやカイトと手合わせしたい。ミココロと鍛錬したり術法で色々変身したい。ユナと一緒にまたパルヴァネ様に修行つけてもらいたい」

 

ゴタゴタのせいで暫く行けてない第二の故郷を思うと出てくるのはこんな泣き言だった。

セカンドホームシックって称するべきなのかねえ……って、どういう状態だそれ。

あーくそ、何で満月ってだけでこんなしんみりとしちまうんだ、らしくなさすぎるだろうが。

この満月を独り占めするのも悪くは無いんだが、一人だとどうにも辛気臭くなってしまう。

……俺って実は割と寂しがりなところあったりするのかね?

 

「こんばんは。こんな綺麗な夜にお一人では勿体ないですよ?」

 

なんて時に聞こえてきたのは、さっきまで謎の追いかけっこを展開していたご令嬢だった。

全く、何でこういい時に来てくれるんだお前さんは。

……そういや、ちょっとした寂しさからなのか気配同調見事にすっぽかしてたわ。

それにしても、口が回る様になったもんだな。

 

「俺が本来言うべきセリフを取られたな。やるじゃねえかユフィリア、お前に先取り令嬢の称号を授けるとしよう」

「どんな称号ですか……何だか一気に位が落ちそうな感じがしますけど」

「少なくとも、この俺に対してそうできるという意味では十分すげえってことだよ」

 

ラス達とかグランナイツ、アル兄さん辺りじゃねえと出来ないことだからな。

ダチにそういうことをしてもらえるのは割と素直に嬉しいところではある。

え、俺が分かりやすいだけだって?……それは知らねえな。

 

「そういえば、今日は王国とは随分と趣が異なる装いなのですね。偉志ノ大陸からわざわざ取り寄せたのですか?」

「いや、これは偉志ノ大陸とパレッティア王国のイメージを調和させるって体の特注品だ。調和の精神を基に自己表現したくて、仕立て役と相談してこうなった。半分くらいはこんなところにわざわざ呼んでくれた当てつけだがね」

「宴に着ていく服1つでそこまで考えるのですね……マッド様のことだから、もっと雑にそれらしいものを適当に選んでいるものかと思っていましたが」

「俺を何だと思ってるんだよ……普段から結構頭回して色々考えてるところ、前から見てるだろうが」

 

まあどうでもいいことは無論考えないけど。

服は色々な場面においては仮面を彩る要素だ、真面目に考えるところさ。

重要なのは、頭の回転のメリハリさ。

 

「では、実は衣服に気を遣えるマッド様。今の私について何か思うところはありませんか?」

 

……で、何でかそんな振りが飛んできた。

全く、何でいきなり俺の服装の事を聞いたかと思ったらそういう前振りかよ。

で、実際どうって言われたら……。

 

(……改めて見ると、何だかんだでこっちが気恥ずかしくなってくるほどには綺麗だよなコイツ)

 

うん、俺の方がちょっとばっかし落ち着かなくなってきた。

考えてみたら、こういう場でのユフィリアを見るのが初めてだったな。

んでもって、コイツはれっきとした公爵令嬢なんだよ……当たり前なんだけどよ。

これまでフランクに接しすぎてて、すっかり忘れかけてたわ。

だがここで口に出さないと負けた気がするから、何とか言葉を絞り出さねえとだ。

よく見ると少しばっかり口端が上がりかけてやがるし……白旗にはまだはええからな?

 

「……まあ、今改めてちゃんと見たら、普通に見惚れた。ストレートに言えば、やっぱユフィリアは綺麗だと再認識させられたよ。──悪いな、気の利いた感想じゃなくて」

「ふふ、そのように素直に褒められる方が私は嬉しいです。てっきり煙に撒くと思ったのですが……そんな言葉が聞けただけでも、この宴に参加して良かったです」

「……ユフィリアだって今日の主役の一人じゃねえか。っていうか、こんなところにいていいのか?」

 

なんだなんだ、新しいマドラーシュ弄りネタってか?

こんな時にまで披露しなくていいってのに……。

 

「……またそれです。何でそういう意味でも貴方は距離を取るのですか」

 

ん?何かいきなり空気が不穏になってきたんだが。

え、俺なんか変なこと言ったか?いや、全く覚えが無いんだが……。

距離を取るって……今物理的にそんなにおかしな距離か?

そういや、最初の下りでも少し眉を顰めてた気が……。

……ダメだ、そっちを思い返しても全く分からねえ。

 

「マッド様……私たち、もう3年の付き合いですよね?」

「待て待て、何だその妙に棘がある言い方は……」

「そこはどうでもいいです。それよりも、何故貴方は私に対してだけ未だに他人行儀なのですか?」

 

他人行儀って……一体なんのこっちゃだ?

俺の場合、そもそもそこまで行ったら話すらしねえぞ。

 

「おいおい、それならここまで世話焼くわけねえだろうが。俺の性格多少分かってればそれくらいは」

「でしたら、何故私には愛称を呼ばせておきながらマッド様はそのままユフィリアと呼ぶのですか?」

「愛称?……って待て待て。それ言ったら、俺の場合は結構な人数が他人行儀になっちまうんだが?」

 

ラスやキュイの将来の特別近衛騎士たち、オルタやユナもまんまの呼び捨てだぞ?

グランナイツでもカルシオンはそうなるし、後はティルティとかセラもそうなる。

まあ、この辺りは明確な愛称が無いからそうなるってところもあるんだが……。

 

「アルガルド様のことはアル兄さんと呼んでいますよね?」

「あ、はい。それはぐうの音も出ねえわ」

「アニス様のことも、その内アニス姉さんとか……いえ、もっと親密に呼びそうです」

「あー……アニス姉さんは確かになくもねえか……っておいいきなりむくれながら抓るなっての」

 

何で俺だけ呼ばないかってそれは……いや、別にマジで他人行儀とかそういうのではねえからな?

知っての通りだが、俺の戦いはこれからどんどん泥沼化していくこと間違いなしだ。

そもそも俺のことをきっちり知ってる面々は、最初から巻き込まれに来ているようなものだからまあいい。

だがユフィリアは、そんな俺の裏面を知らねえわけで……これこそが少し距離を置く最大の理由でもある。

下らない上にしょうもないエゴだってことは承知の上さ。

でもこればかりは譲れないというか、何より目の前のこのお嬢様の為でもあるわけで……。

 

「……私だけ他人行儀なんてやです。アニス様のように、呼んでください」

 

……っ、ああもう、頼むからそんな顔するんじゃねえよ……。

ものすっげえ罪悪感が沸くっていうか、とにかくやりづらい!

ってこのやり取りつい最近やったばかりな気がするんだが!?

ええい、そうだような呼び方くらい何だってんだ!

それで劇的に何かが変わるってわけじゃない、そうだよなオーディエンス!

もし下手な何かがあるってんなら、無理やりにでもどうにかしてやればいい!

そんな内心の咆哮と共に、俺はもうヤケクソ気味に腹を括る。

いや、腹を括るには随分しょうもないことなんだが、とにかく括らせてもらった。

最近の俺やたらとヤケクソになること多すぎね?

 

「……ああそうだ、全くお前の言う通りだった!そうだよな、あまりに不公平だそれは俺の望むところじゃない!だからそんな辛気臭い顔するな!えー……その、悪かった……ユフィ」

「……最後だけよく聞こえなかったのでもう一度お願いします」

 

こんにゃろ、どっかで聞いたことのあるネタ使いやがって……!

しかもしれっと表情もいつものそれに戻してやがるし!

今夜は随分とまあ人の事随分と掌の上で転がしてくれるな!

強か通り越してマジで悪女路線に走る気じゃねえだろうな……。

 

「お前、本当にいい根性しているな……お陰で色々バカらしくなってきたぞ。ユフィ──これでいいな?」

「はい、よくできました。これで少しだけスッキリしましたね」

 

色々と悟りながらもそう呼んだら、先ほどまでの不機嫌そうな顔はどこへやらだ。

及第点とか言っておきながら、きっちり満足したような綺麗な笑みを浮かべやがって……。

そういや、その顔見るのもあの時以来だな。

しかもあの時と違って、月明かりが背景になってるせいかより鮮烈に映っている……気がする。

3年も経って互いに成長してるってこともあり、もはや幻想的とすら言える美しさだ。

少なくとも、俺の琴線には触れることは出来て……

 

「折角ですから、他人行儀を卒業できた記念も欲しいところですね。幸い、まだ時間は残っているようなので……」

「ちょ、おま……今度はダンスのご要望かよ。随分と強欲になったもんだな……」

「誰もお願いは1つだけ、とは言っていませんよ?これでも優しくしている方なのですが……」

 

このっ……確かにそんなこと言ってねえから反論しようもねえな。

色々な調和させてはいつもより幻想的で美人で可愛くなってるってのに、やっぱり中身は相変わらずだなおい!

これまでの他人行儀やら色々隠されていたことがよっぽどフラストレーションだったのか?

しかもこれで断ったら、何されるか分かったもんじゃねえというおまけつきときたものだ。

中に連れ戻されて強引に踊らされるなんてことも有り得るぞ……。

そうなったら確実に俺の平穏(カオス)が終わる!

そんな惨劇を引き起こすくらいなら、更にヤケクソブーストをかますしかない。

 

「あー、分かった分かった降参だ……ユフィ、一曲踊って頂けるか?」

「謹んでお受けいたします」

 

一息入れてから、身体操作という面で王族モードにスイッチする。

形式上だけなんだろうが、ユフィもちゃんと合わせてくれたようだ。

……こういうところも、しれっとノリが良くなった気がするんだよな。

さて、俺の方は心は割とかき乱されている状態のはずなんだが……割とちゃんと出来てるんじゃねえか?

この間拉致された後は、あくまで俺自身は感覚を取り戻す程度の話で大半は姉上の相手してたわけだし。

実質ユフィをリードするのは初めてだっていうのに、何てことないようにらしくないことがこなせている。

他人行儀から脱した結果とやら、なのかね?

これこそ本当にまるで意味が分からんぞ!だな……。

 

「苦手と仰っていましたが、普通にこなせているではありませんか」

「……何でだろうな?まあ、お前以外ではこうはいかねえんだろうが」

「……それは私もですよ。今回の騒動で少しばかり新たな親交を得ることは出来ましたが……こういう関係はマッド様以外では考えられませんね」

 

あー、何か踊って身体動かしてたら体温上がって来たぞー!

思ったよりダンスってカロリー消費来るもんなんだなー!

おーい夜風足りねえぞー誰か風ムム追加で呼んで来い!

……ったく、そんなこっ恥ずかしくなるようなセリフを平然と言うんじゃねえよ。

っと、そろそろ曲も切り替わりそうな感じか。

ユフィもその兆候を察したのか、何か名残惜しそうな表情になってたな。

だが、残念ながら終わりなものは終わりなんだよ。

それでも最後まできっちり呼吸を合わせて最後のステップを踏んでいき……。

 

「──よし、完璧な音ハメで終幕だ」

「仕方ありませんね……続きはまたいずれの機会ということで」

「お前が言うとマジで実現しかねないから怖いっての……まずは気配消しつつ踊れるようになってからだ」

「そのような術はとことん疎い身ですので、ご教授くださいね?今回のように、気配を消されても私だけは捕捉していたいので」

 

あ、これは絶対に教えたらやべえやつだ。

下手すれば俺限定の人間コンパスになりかねない。

……ま、まあ気配を読むってのは一朝一夕でどうにかなるもんじゃねえし?

うん、俺も精進すればいいだけだ。

ミココロから貰ったその手の指南書を読み直しておくとしよう。

 

「そういや、姉上は大丈夫なのか?二人目以降ってなったら絶対にやべえことになってると思うんだが……」

「壁の華に徹しようとしても、周りが逃してくれるとは限りませんからね……そろそろ様子を見に行きましょうか」

 

中からその手の喧騒は聞こえてこないから、ストレスが限界になって大暴れしてるってことはないだろうが……。

ただ初っ端から不倶戴天の仇と踊らざるを得なかったから、二人目なんてなったら基本誰であろうと限界突破しちまうだろう。

父上が見逃してくれてればいいんだろうが、果たしてどうなんだろうな。

 

「マッド様……戻る前に、最後に1つだけよろしいでしょうか」

「もう今更だろうが。よっぽど変なことじゃなければ聞いてやるよ」

 

仮にもあの場の主役を蔑ろにするのはどうなんだとは思うんだが、咎めることは許さない雰囲気だった。

今のユフィの表情は真面目ではあるが適度に気負う……何か一世一代の宣言でもかましそうなものだったから。

そんな顔をされたら、ちゃんと真摯に聞いてやるのがダチとしての義務ってなっちまうものだろ?

悪い姉上、さぞ重度のグロッキー状態だろうがもう少しだけ耐えてくれ。

 

「マッド様。貴方には殻を破るきっかけを頂き、更には人間としての清濁を調和する考え方を軸にここまで導いてくださって……この場を借りてお礼申し上げます」

 

何だ急に改まって。

俺としても素直に吸収していくユフィを面白がってたところもあったんだ、それこそお互い様だっての。

 

「ただ、同い年であるはずの貴方に、先人の顔ばかりされるのは悔しく思うこともありました。どんどん先を行く貴方が羨ましかったり、妬ましく思うことも本当に多かったです。これらの感情を踏まえて、マッド様に1つ挑戦状を叩きつけようと思います」

 

一呼吸を置くと、鋭いとさえ称されたその眼差しを一身に向けられる。

その姿は先ほどとはまるで趣向が異なり勇ましいものなのだが、それでいて美しさも損なわれていない。

むしろ、この鋭利とも力強いとも言える雰囲気が猶更それを際立たせていた。

そこに、この3年で急激に感じさせられるようになった人間らしい生命力と、自縛の種になっていた義務や使命を超えた自我や欲もひしひしと感じさせられる。

……元が元だから、よりその輝きは鮮烈に感じるな。

なるほど、姉上がユフィに対して眠れる獅子と評してた理由も改めてよくわかった。

俺と一時期離れていた時期も糧にしたってことなら、むしろ功を喫したって言ったところか?

 

「どうやら私は負けず嫌いのようなので、ずっと後ろにいるのは性に合いません。よって、これからはただ導かれるだけではなく……マッド様の隣に立つに相応しい者になってみせます。私なりの宣戦布告、受けて頂けますか?」

 

挑戦状、宣戦布告ね……つくづく俺好みな面白い言い回しをしてくれる。

後ろにいるだけなのは癪だから、追いついてみせる……随分と大きく出たものだな。

……7年前のイグノックス兄さんやカルシオンの心境って、こんな感じだったのか?

そうだとすれば……返しはこうすべきだろうか。

 

「随分と大きく出たな。なら、俺はここから二の脚かまして先を行ってやろう。──やりすぎは勘弁してくれよ?」

「もうそういうじゃれあいも許容範囲ではないのですか?やっと対等な関係になれたのに、今更そんな細かい制限を設けると?」

「あー、とりあえず落ち着けユフィ。開き直りが過ぎてる感じがあるからここらで自制を覚えてくれ」

 

親しき中にも礼儀ありって言葉もあるんだ、頼むから自重してくれ。

その猪突猛進っぷり、下手すると姉上よりやべえことになってるから。

 

「……まあ、今日のところは勘弁して差し上げます。では改めて……これからもよろしくお願いいたしますね、マッド様」

「頼むから明日からもそうしてくれ……これほど先行き不安になりながらする握手ってどうなんだよ」

 

関係性を確認するように俺たちは握手していたが……最後くらい真面目に締めさせろっての。

その呟き、何ていうかクリスティーナ姉さんを彷彿とさせる恐怖を感じたんだが?

まあ、こういう『お後がよろしいようで』っていうのも俺とユフィらしいっちゃあらしいんだろうけど。

……さて、これが終わったらまた試行錯誤その他諸々で忙殺される毎日に戻らなければならない。

己が根源を忘れないためにも、寝て起きたら色々引き締め直さねえとだな。

休憩は十分、むしろこれ以上は過充電で腑抜けになっちまう。

その為にも、残りの時間は至って普通にやり過ごさねえと……。

 

「娑婆の空気ウマー!さあ、後はここで何とか逃げ切って……おや?おやおやおやぁ?」

 

げぇ、姉上……じゃなくて、何で今ここにいやがるんだよ。

てっきり干物になりながらも壁の華に徹しているかと思ってたんだが……。

この時、もう本日をまともな形で締めくくることが不可能であることも確定しちまった。

 

「私はSAN値削りながらも頑張って踊ってたのに、何で二人はこんな秘蔵スポットでイチャついてるのかなー?」

「たまたま一緒になってちょっと話してただけだっての。俺にもユフィにもそんな火遊びする度胸あるわけねえだろうが」

「前者のくだりは確かにその通りですが、後半は訂正してください。そんな根性無しはマッド様だけです」

「何で根性無しとかそんな話になるんだよ……配慮なしよりかはよっぽどマシだろうが。後どさくさに紛れて腕を抓るんじゃねえ」

 

しれっと微量の身体強化として魔力が込められてるせいで微妙に痛てえ。

……で、さっきから姉上から発せられる気配に既視感を感じるんだが。

具体的に言うと、どっかのスイーツ脳スナイパーを彷彿とさせる……待て、俺何かやらかしてねえか?

 

「マッドくん、今ユフィって呼んだ?呼んだよね?遂に陥落の兆し!?お赤飯用意しちゃう!?」

「……マズった。弛みすぎだろ俺」

 

せめてもの抵抗で他の人間がいない時限定でそう呼ぼうと内心で決めていたものを、何で俺は数分で自己崩壊させてんだ!

どんだけ気を緩めてるんだよこのボケナス、セイリオスでセルフ串刺しにするぞ!

っていうか姉上、アンタはどこぞの紫の刃か……全く同じこと言いやがって。

 

「何にせよようやく一歩前進!良かったねユフィ!」

「これだけ経ってようやく、それも本当に小さな一歩ですけどね……」

 

流石にあの顔はすっげえムカつくな……。

いくら煽り耐性高めの俺とて流石に限度ってものがあるぞおい。

そもそもなんだよ一歩前進って、アンタらはこっから更に何をしでかすつもりだ。

そんなことより魔学の研究とその補佐に集中してくれ。

ちくしょう、この流れは真面目に呪いじゃねえか?

くそ、こういうのって彫魂師がお祓い出来ねえのか?

 

「よーし、じゃあ私のことも親愛を込めて姉上じゃなくてアニス姉さんって呼んでみようか!あ、いっそお姉ちゃんでもいいよ?むしろそうしてくれると嬉しいな~って」

「誰が呼ぶかボケナス。むしろバカ姉上に格下げしてやろう」

「実姉とはいえもう少し節度を弁えてください。ここばかりはマッド様の度が過ぎる慎重さを見習うべきですよアニス様」

「二人して不敬だ不敬!むしろそっちはもっと大っぴらに動いたらいいんじゃないかな!」

 

姉上との関係修復、ちょいと早まっちまったのかねえ……。

水面下で暗躍しようと思っても、踏み荒らされないようにするの大変だぞこりゃ。

まあ、嫌な喧しさじゃないのが救いと言えば救いなんだが。

……とりあえず、緩んでいられるのも今の内だ。

ここまではむしろ前哨戦、連中が牙を見せてようやく後半戦に入る。

とにかくその時が来るまで……まだ陰で動かねえとな。

 





第2章『立体交差する者たち』、これで終わりです。
とりあえず塩投げてやる!……と冗談はさておき。
まあようやっと愛称を呼ばせることが出来たユフィリア。
それで53話まで来るってどうなのか?そういう面倒なタイプのオリ主だからしゃあなしです。
むしろ長いのはここから……見ての通り、凄まじきガードの堅さなので。
ちなみにこの形で章を終わらせたのはそのまんま原作通りですね。

というわけで、2024年も『転生疑惑の破天荒の彫魂革命』をどうかよろしくお願いいたします。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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