転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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場面変わって姉上とユフィリアサイド。
書籍2巻突入の流れになれば、彼女も来ますぞよ~。


55. 魂を彫る術と呪われ令嬢

 

アニス様の王位復権が周知されてから数日が経ちましたが、大きな動きは今のところない。

魔学研究の方は、アニス様の方で新しい構想が特に浮かばないので既存の効率化に努めている状態だ。

婚約破棄疑惑騒動についても、私とアルガルド様の証言に加えてマッド様の調書により裏向きでは鎮火している。

今はむしろ、その裏を探っている最中のようですが……そうなればますますもって私たちの出る幕ではない。

すなわち、私たちは完全に手持無沙汰な状況にあるのですが……正直、かなり好都合ですね。

ここまで色々とありましたが、その整理をするための時間が取れるのですから。

 

「……これまで当たり前のように使ってきたからこそ難しいですね」

 

私は一人、中庭でとあることを試していた。

整理事項の中には、あの特殊なスタンピードの時に目にした奇怪な現象も含まれている。

最上級冒険者のケルビムとクロエが用いていた、精霊を介さない魔法のことですね。

この世界に存在する魔法使いにとっては切っても離せないのが精霊という存在だ。

魔学という新境地に至っているアニス様でも覆せなかった大前提のはず。

しかし、あの時の二人からは精霊の気配は一切感じられなかったことも事実。

目の当たりにしてしまった以上、受け入れなければならないでしょう。

むしろ、新たな地平を切り拓けるかもしれない……そう思っての実験だった。

アルカンシェルを用いず、且つ精霊を介さないで魔法が使えないか。

ケルビムとクロエの戦っている様を基として、何とか魔力のみでイメージを現実のものにしようと試みてはいますが……。

 

「……実に脆いものですね。改めて精霊の有難みを理解する結果になってしまいましたか」

 

どのように放とうとも、イメージと魔力だけの状態ではすぐに霧散してしまう。

単純に火や水を現そうとしたとしても同じことだった。

呪詛を吸い取ったり、魔物を悉く消し飛ばしたり、上位種ドラゴンの防御を貫くなど以ての外だ。

ケルビムとクロエはその身に強大な魔石を宿しているのではと疑ってしまうほど、こちらの手応えはまるでない。

それとも、何か考え方を変える必要があるのでしょうか。

 

「目に見えない魔法の媒体が、精霊以外にも存在する……その説も通用しなくもないですが……」

 

これを証明するとなると、全く知覚できないものを認知するという話になってしまう。

雲を掴むように言われることとそう大差ない……いえ、それ以上の与太話と化してしまいますね。

ただ、クロエの瞬間的な高火力魔法とケルビムの纏った高位の魔物と見受けられる翼を見てしまうと……その説も真っ向否定が出来ない。

無論、そんなことが認められたら完全にお手上げです。

この白旗を揚げるような後ろ向きな解釈は、本当にどうにもならなくなった場合のみに留めておきましょう。

まだ仮説は1つだけ残っているから、諦めるには早い。

ただ……この仮定はそもそも実験方法がまるで分からないのが欠点で……。

 

「おーい──おーいユフィ、大丈夫?」

 

……意識の外から声が聞こえてきた。

唐突に耳に入ってきたそれは、深い思考の海から引き上げられるには十分なものだった。

思考の海から顔を上げると、目の前にいたのは現在の私の上司と友人を兼ねる人物……アニス様だった。

暫く呼び掛けてくれていたのですね……まるで気が付きませんでした。

……中庭にぼーっと突っ立って思考に耽るのはこれからは控えた方がいいですね。

 

「失礼いたしました、アニス様……少し引っかかっていたことを試して上手く行かず、色々な過程を浮かべては思考を展開していまして……」

「まるで進展が見られずに考え込んでたってところかー……私でもよくあることだし、気にしなくてもいいよ。むしろ色々試しちゃっていいから!」

 

確か、10年以上は魔学に対する試行錯誤ばかりと仰っていましたね。

そして……彼もまた、グランナイツに追いつくためにとあらゆることを試して10年以上。

お二方に比べれば、ようやく入り口に立てたというところでしょう。

それでも、新たな地平に立つための苦しみはほんの少しだけ理解しつつある。

──果てが見えないというものは、やはり苦しいものですね。

 

「さっきユフィが試してたのって、普段の魔法とどこか違った気がするんだけど……何やってたの?」

 

……そういえば、ここまでのゴタゴタのせいでアニス様にはこのことを話していませんでしたね。

精霊の存在を感じることが出来ないアニス様は、あの二人が放ったものが魔法と異なるということも分かりづらいでしょう。

……ここは魔学側からのアプローチも欲しいところだ。

そうでなくても、素材収集であちこちに出向いているからこそ何か情報を持っているかもしれない。

それに、助手としてはこの異常事態を報告しないわけにはいかなかった。

 

「あのコンビ、そんなところまでとんでもなかったってこと!?精霊なしの魔法とか、もう何でもありじゃない……」

 

奇天烈王女と呼ばれるアニス様でもそんな反応になってしまいますよね……。

正直、驚かない者などこの王国でどれだけいるのだろうか。

何せ世界的な常識とすら言える概念に矢を向けているのだから……。

 

「でも、そんな噂自体は存在するね。流石に突拍子もなかったから流してたけど……まさかの実話だったりしちゃうのかな」

「その噂とは一体どのようなものなのでしょうか?念の為聞いておきたいのですが」

「えーっとね……『東より訪れし賢者、志は足るも無力な者に叡智の始端を与えた』……だったっけ?私が聞いたのは2年くらい前だけど」

 

確かに、抽象的過ぎてあまり信憑性の無い噂ですね。

その言い方だと、カンバスより更に東からその賢者が来たということになってしまいますし……。

ただ、志は足るも無力な者という表現がどこか引っかかる。

もし魔法を使えない者に置き換えることが出来たら……その叡智というのは精霊を経由しない魔法の可能性も出てくるわけで。

 

「アニス様でも気になってしまいますか?」

「そりゃあね……魔学とは完全に違う結果を見せつけられてるわけだからそれはもう気になってしょうがないよ。出来れば開発者と会いたいくらいだけど、見事に煙に撒いてる感じだから厳しそうだよね」

「……きっと、貴族への影響を懸念しているのでしょうね」

 

精霊を用いない魔法のような技術、それは精霊信仰者にとっては許されざる天敵のような存在だ。

だからこそ、その東の賢者は王国東部にのみその術を広めたのでしょう。

常時魔物の脅威に脅かされたり、亜人種が多い辺境の地ならば精霊を使う使わないなど些事に等しい。

そんなことに拘っては、自分たちの生き死にに関わってきますからね。

……そうなると、志は足るも無力な者にのみ教えているという部分も合点が行くというもの。

 

「実際に見たわけじゃないから何とも言えないけど、現にこの技術が広まってから東部の問題は少しずつ解決したって話だよね……ユフィ、まさかとは思うけど」

「……私も同じことを考えました。ですが、秘密主義そのものなあの方がわざわざ噂なんて痕跡を残したりするのでしょうか」

 

こんな今世に喧嘩を売るようなことをしでかしそうな人物は、私たちが知る共通人物の中では一人だけいる。

先日ようやく対等関係になれた……はずのやりたい放題王子、マッド様だ。

魔法が使えない上に、アニス様とは違って魔法への憧れは一切抱いていない。

『ただの技術でしかない、いくらでも代替が利く』と豪語していらした様子は、今でも記憶に新しいところだ。

そして、彼が王国東部でそれなりに動いていると私たちが知ったのもつい最近のこと。

これらの要素の1つ1つは、確かに状況証拠足り得るのだが……あの人らしくない。

何せ、あの人は自分が賞賛されることをむしろ忌避している側面すら見受けられるなので……。

 

「マッドくんのことだから、その辺聞いてもぼかしそうだもんなあ……よし決めた。ユフィ、今からちょっと外に出るよ」

「その様子だと、他に情報のアテがあるということですね?」

「賢者じゃないってのは確定だけど、何か知っててもおかしくはないかな?後は……野暮用を思い出したからそのついでってところ」

 

まあ、アニス様ならばそのような特殊な人脈があっても何ら不思議はありませんね。

野暮用があるということは、そこまで希薄な繋がりではないということでもある。

無論、私はまるで心当たりが浮かばない。

マッド様とグランナイツ、他にいるであろう数少ない友人以外に浮かびようがないですからね……。

──もう少し突いてみましょうか。

 

「ちなみに、その野暮用というのは?」

「健康診断……かな。ほら、以前にドラゴンの魔石を体に刻んだのを見せたでしょ?何か身体に悪影響ないかってことで定期的に通ってるんだ」

 

……要するに、共犯者みたいな関係ですか。

かつては内密にされていたアニス様のドラゴン討伐を知っているということは、それなりに親密な関係なのでしょうか。

マッド様ほどのやりたい放題ではないとはいえ、奇天烈と呼ばれるアニス様と親しくなれるということは……まあ、そういうことなのでしょうけど。

その上で、魔学に対する理解も最低限にあるとなると……東の賢者のことを尋ねるにはうってつけの人物ではありますね。

 

「私も助手として同行してもよろしいでしょうか?こちらとしても、後々のことを考えると人脈は増やしておきたいところですので」

「その意気やよし、むしろ大歓迎だよ!そういうことなら時は金なり、手早く支度をして向かいましょう──ところで、後々って?」

「肩を並べる存在になると宣言したからには、こういうところでコツコツと積み重ねないとなりませんからね」

 

このような場面でも自発的に動かなければ、実を得ることなど到底出来ない。

マッド様は僅かな機会も逃さず自分のものにしたからこそ、あの歳であれだけのことを成している。

確か……そう、『千里の道も一歩から』と偉志ノ大陸の格言もあります。

そういう真面目な理由ですので──その表情は止めて頂けないでしょうか。

 

「思わず手が滑ってアルカンシェルで何かが発動してしまいそうです」

「ちょ、ユフィ怖い、怖いから!その脅し文句、見事にマッドくんに寄せてきたね!?待って、そんな小さくても水と風のコラボレーションはダメだってばー!」

「日頃から調整に付き合ってきた身としては鼻が高くなりますね……ユフィリア様、見事な同時制御です」

「イリアー!暢気に褒めてないでたーすーけーてー!」

 

むしろ当たったとしても被害の少ない属性を選んでいるのですから、十分優しい方だと思いますけど。

それにしても、あの人に似せてきたと言われてしまいましたか。

……そんな最高の誉め言葉を受け取ったら、少しばかり笑みを零すのも無理は無いですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまで長い時間にはならないだろうが、やはり馬車の移動というのは退屈ではある。

景色の移り変わりが緩やか過ぎて、しかも多少の揺れがあるせいで夢の世界にそうそう旅立てないのが辛い。

ただ、迂闊にエアドラやらを使った日にはまた父上からどやされかねないわけで……。

まあ、一度同乗してもらってその有用性を理解してもらったから、接収という憂き目には合わずに済んだけど。

エアドラと言えば、今度マッドくんにも乗ってもらいたいなあ……何なら操縦してもらうのもよさそう。

すっごいピーキーなあの子もいとも簡単に乗りこなしてしまいそうで、何なら私以上にぶっ飛び運転しそうな意味では期待半分怖さ半分ってところだけど。

魔女帚なんかも『跨ぐくらいなら乗るわ』ってサーフィン紛いのようなことしでかしそう。

……自分で想像してアレだけど、すごい見たいなその光景!

あのやりたい放題破天荒っぷりを考えれば、絶対に映えるでしょ!

っと、色々と暴走しつつある想像は一旦止めておかねば……。

 

「貴族街に向かっているようですが……この時期に別邸にいるということは、そういうことですか?」

「あー……さっきは言いそびれちゃったけど、今回会うのはちょっとした引きこもりな問題児でもあるからね」

「クラーレット侯爵家の長女……と言えばご理解頂けるでしょうか」

 

イリアが発した言葉にはユフィも心当たりがあるようで表情を硬くしていた。

やっぱり悪い意味で有名なんだねえ……それなりに尾ひれもついてるんだろうけど。

だからこそ日の光を浴びたくないと言わんばかりに別邸に引き籠ってるわけで……。

 

「確か、名はティルティ・クラーレット……残虐非道とか暴虐っぷりが凄まじいとか、それこそマッド様よりも酷い噂は耳にしたことはありますが」

「あくまで昔の話なのにまーだそんなこと言われてるんだ……確かに私も一度は殺されそうになったりしたけど、それにもやむを得ない事情ってのがあったわけだし」

「殺されそうにって……いえ、歪みを正す為殺し合い待ったなしの喧嘩をしては仲直りをする双子もいるくらいですので今更驚くことではないですね」

 

そこは染まっちゃダメだよユフィ、そこから先は地獄だからちゃんと戻ってきなさい。

雨降って血固まる的な脳筋解決法に感化されたらどうなるか分かったものじゃないよ?

あの二人については私だってまだまだ色々と言いたいくらいだし……。

そもそもあの二人、仲直りしたらしたで裏で色々結託してそうですごく怖いんだよね。

先日の婚約破棄疑惑騒動でも、最初は私も掌の上で踊らされてたわけだし……。

っと、今はあの二人のことじゃなくて私の腐れ縁のことだね。

 

「その事情というのも魔法が上手く使えない……それも精霊に魔力を吸われやすいことが原因だからね。彼女自体はそこまで悪い人間ではないんだ……あくまで引きこもりなだけで」

「更に言うなら、姫様と同類と言える側面もございますが……それは会ってみれば分かることでしょう」

「イリア、私は引き籠ることもあれば外に出ることもあるからね!マッドくんと同類って言うならそれはもう喜んで受け入れるけど、あのジメジメキノコ令嬢と私が同類って言うのは撤回してほしいな!」

「ある程度の背景からどのような人物かはある程度想像がついてきましたが……まあ、結局はアニス様らしいご交友ということで流せる範疇ですね。ただ、その発言は本人が気味悪がりそうなので控えた方がよろしいかと」

 

まさかのユフィにまでそんなことを言われるとは、流石に心外だよ!

将来の義姉になるかもしれないんだから、今の内に点数稼いでおこうとか考えないのかね!?

……まあ、すっかり染まっちゃってるからこそそんなこと浮かぶはずもないか。

さて、そうこうしている内に目的地であるクラーレット侯爵家別宅へご到着だ。

前回来た時からそこそこ時間は空いてるけど……・相変わらず陰気が凄い。

あえて日当たりの悪い立地にするわ、庭の手入れとかは最低限だったり……狙ってやったのかと言わんばかりな場所だからね。

もし誰も住人がいなかったら、ちょっとしたオカルトスポットになってたかもしれない。

 

「いきなりこれを言っては失礼ですが……生活感がありませんね」

「ユフィは初めてだからね、その感想になっちゃうのは仕方ないと思うよ」

 

多分ユフィの中では私の離宮やマッドくん側の住まいと比較しているんだろうね。

特にマッドくん側は、あの細かいことを気にしない性格とのギャップが凄いから猶更比べちゃうかもしれない。

普段から管理をしているセラ曰く、マッドくん自ら手入れをすることも少なくないって話だ。

後はこの間のようにイグノックスたちが来てはついでに掃除していったり、母上の親友であるデイジーって人も時折手を貸してくれているという話だ。

そんなご近所づきあいみたいなことが日常的に発生している離宮に通い詰めて慣れていたってなると……うん、普通は驚くよね。

さて、特段何も起こらないビフォーアフターはこれくらいにしておこう。

とりあえず門番に声をかけると、そう時間が経たずに見慣れた顔が屋敷から姿を現した。

この屋敷の主に合わせたような雰囲気を持つ、紫色の髪のこの屋敷の専属メイドだ。

 

「アニスフィア王女殿下にイリア様、ご無沙汰しております。後ろにいらっしゃるのはマゼンタ公爵令嬢様ですね。ようこそ、クラーレット侯爵家別邸へ」

「最後に来たのってだいぶ前だったっけ……ティルティは元気にやってる?」

「色々な意味でぼちぼち、と言ったところでしょうか。ではご案内いたします」

 

んん?この人って前からこんな感じだったっけ。

特段表情を変えてない辺りは以前と同じように見えるんだけど……。

何ていうか……別の空気を纏うことを覚えたってところ?

いや、とてもいいことだとは思うんだけど……逆に不気味に感じてしまうのは私がひどいのだろうか。

そんな彼女の案内で私たち3人は屋敷の中を歩いているわけだが、外が外なら中も中と言うべきかな。

屋敷というにはあまりに質素で、やはり生活感が見受けられない。

引き続きユフィの視線があちらこちらに行っているのが何よりの証拠だ。

……イグノックスに鍛錬場所として紹介してあげようかと思ってしまうほどだよ。

彼にくっついてくるであろうクリスティーナとエリオも加わることでもう少しマシな感じにしてくれるんじゃないかな。

 

「お嬢様、お客様がお見えになっております」

「──ああ、来たのね。通しなさい」

 

聞こえてきたのは、相も変わらずの気だるげな声だ。

そんな返しを特に意に介さない様子でメイドは扉を開く。

──と、同時に刺激的な薬品の匂いが素敵な直接攻撃をかましてきてくれた。

私とイリアはそれなりに慣れているから大丈夫だけど……ユフィは思わず顔を顰めながら鼻を塞いでしまっている。

まあ、いきなりこんな刺激臭貰ったら誰でもそうなるよ。

そして部屋の中はどこかで見たことのあるかのような様相だった。

強いて違うところがあるとすれば、試作の薬品と思しきものがいくつか存在しているくらいだろうか。

その奥には、まさにこの場の空気そのものを司るように一帯の主が鎮座していた。

 

「随分とご無沙汰じゃない?新種のドラゴンに対抗できるほどの魔薬なら、幸いいくらか用意出来なくもないけれど」

「……開口一番で傷口抉らないでくれる?あんなのがホイホイ出てくるなんて、ちょっと考えるだけでゾッとするから止めて欲しいんだけど」

「あら大変、あの奇天烈王女アニス様が縮こまるだなんて……臆病風に効く薬なんてあったかしら?」

「……今日のティルティはやたらと舌が回るじゃない。何かいいことでもあった?」

 

一般的に見れば可愛げが微塵も感じられない口調。

容姿は結構……いや、正直かなりいい線行ってる癖にこの陰気全開の雰囲気に加えてこの皮肉全開の口調はさぞ幻滅を貰うことだろう。

大体の男……というか、大半の貴族子息はそっぽを向くこと間違いなし。

まあ、範囲を広げた場合はその限りじゃないんだろうけど。

 

「まあ、ちょっとした掘り出し物を貰ったってだけよ。──で、そちらがマゼンタ家の秘蔵っ子かしら」

「お初にお目にかかります、クラーレット侯爵令嬢。ユフィリア・マゼンタと申します」

「そっちの方が爵位が上なんだから、そう畏まる必要はないわ。そもそもそういう扱いをされるのって好きじゃないのよ」

 

初対面のユフィに対してもまるで遠慮を見せる様子がない。

確かに理には適ってるんだけどさ……ここまで一言一句に愛嬌ってのが無いとむしろ感心しちゃうよ。

イグノックスも大概つっけんどんな言い草ばかりだったけど、あっちは不器用って印象が強かっただけだし。

そんな開口一番のティルティ節に対してユフィは……全然驚いてないような?

っていうか、むしろ笑みを浮かべてる気がするんだけど。

 

「では、ティルティと呼ばせて頂きますね。私としても、肩肘張るような関係は望むところではないので」

「──あら、噂と違って随分と柔軟なのね。この閉塞の中でささやかながらも反抗期を見せつけるだけのことはあるってことかしら」

「そうでなければ、これから来るであろう『波』に抗うことなどとても出来ませんからね」

 

ちょっとちょっとちょっと、何なのこの空気は。

っていうか、会話を成立させるどころかもはや同調すら出来ている感じに見受けられるんだけど。

これが3年間行われたマドラーシュブートキャンプの成果ってヤツなの!?

──それにしたって、何か面白くないなあ。

 

「今回は色々魔改造済みのユフィが相手だから良かったけど、もう少し身分相応の態度はとるべきじゃない?そんなんだから、日光にも当たることが出来ない陰険ジメジメキノコ令嬢なのよ」

「貴女がそれを言ってしまったら身も蓋もないって思わない?キテレツ暴走王女様は『人の振り見て我が振り直せ』って言葉を知らないのかしら」

 

むしろ何でアンタが知ってるのさ!?

……いや、偉志ノ大陸の書物を掻き集めるくらいならやってもおかしくはないか。

思わぬカウンターを貰い、助力を求めてユフィとイリアの方に視線を向けてみる。

……が、どちらも見事なまでに呆れ顔だった。

 

「知る人の大半がティルティ様と同じように指摘するでしょうね……姫様、白旗は早めに上げた方がいいかと」

「姿見用の鏡もご用意いたしましょうか?」

 

ここに私の味方はいないのかな!?

というかユフィ、そういう言い回しほんっとうにマッドくんないしセラ譲りだね!

こんなことになるって分かってれば、縛り上げてでもマッドくんを連れて来てたよ……。

勿論、普通に動かしたらあっち側に行くのは目に見えてるからあくまでデコイ役としてね。

 

「前置きはこれくらいにして……一体今日はどうしたのよ。掌返してやっぱり魔薬増量とか?」

「あの、早速申し訳ないのですが……魔薬というのは一体何のことでしょうか」

 

そういえば、見事にこの話はすっ飛ばしてたっけ。

そもそも今ではドラゴンの魔石刻印で事足りてるから、端折っても問題ないって思ってたんだけど……。

一応、小耳に挟んでもらう程度には知っておいてもらおうかな。

 

「早い話が魔石を砕いて薬として調合したものだね。ドラゴンを倒す前の私は魔薬で自分を強化して魔物と渡り合ってきたの」

「なるほど、魔石を薬としたから魔薬というわけですか。ある意味刻印の前段階……即席の刻印といったところですね?」

「飲み込みが早いわね……アニス様の助手なんて命がいくつあっても足りないし、今からでも私の方に来ない?」

「冗談でもそういうヘッドハンティングは止めてもらえないかな!?」

 

折角いい方向……とは言い切れなくとも、真っ当な方向に舵を切ってるユフィをこんなところに預けられるわけないでしょうが。

こんな綺麗で可愛いユフィに一体何を叩き込むつもりか分かったものじゃないし。

そんなことになったら、マッドくんにしばかれる羽目になるの私なんですけど。

……あ、でもむしろそっちの方が好みだったりする可能性もあるのか?

いやいやいやいや、ダメったらダメ、将来の義姉としてそんなこと許しません。

 

「とりあえず、魔薬は刻印があるからってことで使用は控えてきた。大体それで何とかなったからね……でも、この間の新種は見るからに別格だった」

「……『無慈悲な主役』と『光誓の座天使』がいなかったら壊滅的被害になっていた。その様子だと、与太話でも何でもなさそうね」

 

よし、何とか本題に戻すことは出来たね。

こっちでちゃんとペース握らないとどんどん脇道に逸れて行っちゃうもの。

さて、いざ続きを……という前に、ティルティがメイドに退室を促していた。

その後、何かを小さく呟くと闇属性と思しき薄い膜が部屋を覆った。

 

「待ってください。──今の魔法らしきものは、まさか……!」

「その様子だと初見ではないようね。お陰で私も話すべき内容が纏まってきたわ」

 

ユフィだけでなく、イリアも表情に出るほど驚いている。

そんな二人の反応から、ティルティが何をしでかしたのかについては容易に理解に及んだ。

全く、世間は狭いって言葉はこういう場合でも適応されるのかしら。

 

「『無慈悲な主役』と『光誓の座天使』……ケルビムとクロエが使った魔法に精霊を用いた痕跡がないって知った時、真っ先に浮かんだのがティルティの顔だったからね」

「ただの魔法なんて私にとっては呪いそのものでしかないもの。その原因について懇切丁寧な説明を受けて、更にその解消法に加えて面白い使い道まで示されたら……ねえ?」

「……やはり、根底部分は魔学と同じなのですね」

 

『精霊を用いない魔法』に至るには、本来の魔法の解剖が必要なのは当然だろう。

そういう意味ではユフィの言う通り、スタートは魔学と全く一緒ということ。

でも、とにかく魔法が使えるようになりたかった私とは明らかに思い描いているものが違う。

既存の魔法と言う概念をぶっ壊したかった……とか?

私は憧れ、あっちは破壊欲……推測でしかないけど、見事なまでに道が分かれてしまっている。

 

「ねえティルティ。色々教えてくれた人って既存の魔法について何か言ってた?」

「魔法に対して……というより、『魔法至上主義』に対しては強い怒りを示していたわね。私の主張も特に否定はしなかったし、何なら同調さえしてくれたもの。ああ、その人が開発者かどうかは私にも分からないので、悪しからず」

 

うわー……何だか会いたいような会いたくないようなって感じになってきた。

この陰険ジメジメ令嬢と同調できるなんて相当な猛者だし、何なら魔法を忌み嫌っている可能性もあるわけだ。

まあ、『魔法至上主義』に怒りを抱いてるだけだったら分からないでもないけどね。

魔法が使えるのは王族と貴族で、今のこの国は平民と貴族の間にある溝がなかなかに深い状態にある。

そうなると、あの噂もますます現実味を帯びて来る上に開発者についても少しだけプロファイルが進みそうだ。

 

「今の国内において否応なしに弱者的立ち位置に追いやられる者に向けた技術なのでしょう。魔法そのものではなく『魔法至上主義』……精霊信仰に弓を向けるということは、開発者は平民か魔法が上手く使えない貴族……ほぼ前者だと思いますが」

「そうなると、賢者は東から来たって話は全部本当って可能性もあるんだよね……一気に候補が広がっちゃって、探そうにも探せないよ」

「アーイレン帝国、カンバス王国、偉志ノ大陸……これだけ挙がってしまえば、いくら姫様であっても辿り着くのは困難ですね」

 

開発者本人への接触を当てにしていたら砂漠で物探しを強要されるのと同義になっちゃうね。

こうなったら、切り口を変える……というより、妥協策を取るべきね。

一旦思考の海から顔を上げて、再度ティルティに視線を向けると……それはもう嫌な笑みを浮かべていた。

自分は運よく巡り合えたからって、優越感を表に出すとか本当に性格悪いね!

 

「いい加減精霊要らずの魔法なんて長ったらしいし、そろそろ正式名称である『顕魂術』と呼ばせてもらってもいいかしら」

「『顕魂術』……って、随分とまあガラリとイメージが変わるネーミングだね。個人的にはいいセンスだと思うけど」

 

字からすると、魂を顕す術ってところかな?

何だか前世の『陰陽術』とかみたいなノリを感じるね……私としては違和感が薄い。

ユフィとイリアはしっくり来てなさそうだけど、まあしょうがない。

こればかりは前世の知識を持つが故の感覚ってやつだから。

 

「大層なものに聞こえるかもしれないけど、ぶっちゃけ精霊を使わないことを除けば既存の魔法と同じでしかないわ。まあ、その違いこそが最大の特徴であることは……実際に見たなら理解出来てるんじゃない?」

「……そうですね。発動速度と威力の両立が極まり、魔法では及ばないであろうイメージ領域にも届いているようでした」

「無論、その域に達するのは容易じゃない。精霊が不要な分、確かに入り口は広いわね。ただそこから潜ったり上昇する工程がひたすら苦行なのよ。精霊信仰が深い貴族様にとっては苦痛の上塗りでとても耐えられるものじゃないでしょうね」

 

うん、聞く限り確かにキツそうだしその通りなんだけどね?

それを目の前に公爵令嬢がいるって時に楽しそうに話すのってどうなのかな。

まあ、今更なことだし……ユフィも全然気にしてなさそうだからいちいち口を挟むことはもうしないけど。

 

「まあ、元々魔法適性オバケでありながら依存脱却を図ろうとしているユフィリア様なら問題はないはずよ。私が口添えすればすぐに会得出来るだろうし……何なら自分も『波』になってしまってもいいんじゃない?」

「しれっと自分の愉悦に巻き込まないであげないでくれるかな……魔法省と軋轢を生んでなお無事で済むと思ってるわけ?」

「少なくとも開発者は最終的にこの世界をも飲み込むつもりじゃない?この国にとっては、案外そっちの方が手っ取り早いかもしれないわね」

 

いくら何でも物騒すぎじゃないかな……仮定の話とはいえさ。

マッドくんがグランナイツや偉志ノ大陸の面々をバックに反乱を起こすよりも怖い話になってるもの。

確かに『魔法至上主義』が蔓延してる現状はいいこととは言えない。

でも、いきなりその根本をぶった切るなんてことをしたら確実に混乱が起こる。

クーデターとか黒龍討伐戦の影響が落ち着きを見せつつあるのに、また混沌がぶちまけられたら本末転倒でしかない。

魔学で引っ掻き回している私が言えることではないのかもしれないけど、それでも私は私なりに注意して取り組んでるわけで……。

──ああ、この手の話をするとどんどんドツボに嵌るから、話題転換が欲しい!

 

「ところで、先ほど入り口は広いと言っていましたが……顕魂術というものは、簡単に始めることが出来るのですか?」

「そうだ、その問題もあったよ。魔学はこれまで見向きもされなかった精霊石を精霊の代わりにしたわけだけど、顕魂術にもそういうのはあったりするの?」

 

まるで図ったようなタイミングで話を戻してくれた、流石ユフィだね。

……さっきの話を聞いてまるで動じていないっていうのも凄いけど。

 

「『彫魂石』って代物が必須になるわね。はい、実物はこれよ」

 

彫魂石って、これまた大層な名前だね……。

ティルティが見せたのは、夜空を思わせるような色の珠みたいなものが収まったアミュレットだ。

多分この珠が本体なんだろうけど……これまたきっちりした細工が為されているね。

何だろう、このジメジメ陰険キノコ令嬢に限って有り得ないとは思うんだけど別の何かも勘繰ってしまう。

 

「あっちが気を利かせてくれたってだけよ。甘味が欲しいんだったら王都でハニーバターミルクでも飲んでなさい」

「まあ、こんな陰気全開な女はあっちからも願い下げだろうからね」

「人のことを棚に上げるだけの姫様はさておき、この珠……魔力を封じ込めているのですか?」

「いえ……単に封じているだけでなく、何かに変化させているような気がします。これが必要不可欠ということは……まさか」

 

ぐはっ!?……いやいや、思わぬ一撃を貰って悶えてる場合じゃない。

そう、必要不可欠っていうことは要するに……。

 

「読んで字の如くね。魂を彫る……すなわち、自分の魂を複写して珠に刻む。そうして生まれたものを疑似精霊として扱い、魔力とイメージを与えてあたかも魔法のように放つ……これこそが顕魂術の全貌よ」

 

──言われてみれば、何てことない技術に聞こえるかもしれない。

確かに私は魂は魔力で出来ていると言ったし、その理屈で言えば珠に収めるくらいなら出来なくはないだろう。

でも、この彫魂石は……個々に存在する魂の細部まで刻まれているんだ。

そうでないと、精霊の代用として魔力とイメージの受け皿になれるわけがないからね。

一体こんな高等技術をどこから引っ張り出してきたのよ開発者……。

禁書でもこんなのあるかどうか怪しいところだよ。

 

「自分の魂が精霊代わりということは、ティルティのように精霊に魔力を過剰に吸われたり、その逆の場合でも特に関係が無いということですね?」

「ご名答。お陰で私も薬師兼医師として動きながら顕魂術で独自の研究も出来て、更に対象そのものの幅も広がるとお得尽くしよ」

 

精霊を経由しないってことは相性も無視できるってこと。

極論言ってしまえば、精霊を認知できない平民や私のような存在でも顕魂術は扱えてしまう。

根底は同じで、その過程は真逆なのに行き着く結果は一緒になるというのもなかなか奇妙な話だね。

──ただ、同じ結果なのはあくまで『使える』って部分だけ。

魔学には魔道具と言う成果があるから、誰が使おうがある程度の平坦化は図ることが出来る。

顕魂術は熟練度一本で、出来る人間と出来ない人間の差はどんどん広がるばかり。

魔学を見出した身としては前者の方が望ましく思えるけど、後者も間違ってるとは言えないんだよなあ……。

──怖いところもあるけど、やっぱり開発者と会ってその胸の内を是非聞きたいところだ。

 

「薬師兼医師の部分はこの部屋で納得行く面もあるのですが……かつての自分が苦しんだからとか、そのような殊勝な理由からではありませんよね?」

「未知の症例を見つけるのに手っ取り早いからやってるだけのことよ。この私が慈善事業で動くわけないでしょう?」

「呪いとすら称される現象を見つけては解明することに情熱を注ぐ『呪いの蒐集家』。これこそがティルティ・クラーレットっていうロクでもない女の本性ってわけ」

 

私とティルティは、その目的だけは一致しているんだよ。

魔法と呪い……言い方は違えど、その解剖が最終目標と言う意味ではね。

でも、私は魔法に焦がれて焦がれて仕方ないのに対してティルティはとんでもなく魔法を嫌っている。

だからこそ、理解は出来ても相容れることは絶対にない……腐れ縁というのはそういうこと。

 

「魔法が使えない癖に魔法の為ならとトチ狂ったように命すら放り投げる、そんなとんでも王女様にだけは言われたくないわね。流石の私でもそこまでは出来ないし」

「呪いと聞いたら陰キャ全開の不気味な笑みで飛んでくるのに比べたら、まだまだ私は可愛い方だと思うけど?」

「……まあ、このような感じで結局は似た者同士というわけです」

「受け売りになってしまうのですが……『五十歩百歩』、または『団栗の背比べ』という言葉そのままですね」

 

こらユフィ、マッドくんから教わったであろう言葉をつらつら並べるんじゃありません。

っていうか、命すら投げるって意味ではあっちの方が酷いんじゃないかな!?

 





書籍版と同タイミングなんだけど、これまた差異が凄まじいユフィリアとティルティの最初の対面。
既にマドラーシュという前例を知ってはある程度理解しているのでこの手のタイプは慣れっこと言ったところです。
ティルティ側も染まりつつある状態を理解しているので、結果原作よりも互いの好感度は最初から高いと言う状態に。
若干蚊帳の外に置かれる姉上はそりゃあ面白くないよね~……でもこれはあくまで友人への感情範囲であり、それ以上は一切ございません。

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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