割と書きたかった話であり、書きながら草を生やしたり腹を抱えていました。
ではどうぞ。
久々のティルティの御宅へご訪問の翌日、私はユフィを引き連れて意気揚々と歩いていた。
今回向かう先はマッドくんの離宮、理由は言うまでもなく顕魂術についての尋問だ。
婚約破棄疑惑騒動について進展がないからこそなんだけど、正直個人的な興味は完全にこっちに移ってると言ってもいい。
それほどまでに衝撃的だったからね、私としては。
「いくら何でもこの時間帯の訪問は早い気がするのですが……」
「いると分かっててもすぐにいなくなっちゃうのがマッドくんだし、これも立派な対策だよ。最悪お姉さま権限とユフィの泣き落としでどうにかする!」
「……そんなタチの悪いこと、私は絶対にやりませんからね?」
マッドくんってユフィには結構甘いから絶対効果あると思うんだけどなあ……。
ほら、この間の一件からようやく愛称呼びしたわけじゃない?
徐々にだけど精神的距離は縮まってきてるはず。
あの堅牢鉄壁の攻略に光が差してきたと言い換えることも出来るけど、それでもまだ僅かに綻びを生んだだけとも言える。
なら、こういう細かいところで少しずつ攻めないと……って、何でここで凝縮された魔力を感知するのかな!?
「ちょっとユフィ、何でまたアルカンシェル構えてるの!?しかも魔力がすっごい見覚えのある形になってる気がするんだけど……」
「魔力制御のついででマッド様の得意技を真似てみました。威力は皆無に等しいのでご安心を」
……むしろ私がツッコミ入れたい気分なんだけど?
確かに、魔力制御の練習はいいことだと思う。
なんだけど、何でこう微妙にズレた使い方もやりだしちゃうのかなあこの娘は……。
マッドくんどころか、それはもはやイグノックスみたいな方向になっちゃってない?
いや、イグノックスからマッドくんに継がれて、更にユフィが真似をしたってことなんだけどね。
真っ先に継承破棄したいスキルだけど、固定化される運命にあるんだろうなあ……。
こんな変わりよう、グランツ公もだけどネルシェル夫人が知ったら……ああでも、あの人なら普通に察しそうなんだよなあ。
いっそ二人の仲をとっととバラしちゃいたいくらいだけど、まだ色々不安定だからなー……。
「おや、おはようございますお二方。朝から楽しそうな漫才で健康に良さそうですね」
「おはようございますセラ。ごめんなさい、アニス様が朝からマッド様と会いたいと駄々をこねて止められず、こんな時間に訪ねることになってしまいました」
「別に営業時間を設けているわけではありませんからね。たまにはこんな午前様があっても、マッド様なら笑って許してくださいますよ……それに」
ん?セラが遠くの部屋に目配せしたけど……あの部屋って、もしかしなくてもマッドくんの私室だよね。
昔……私から突き放す前はあそこに一直線で忍び込んでいたから間違えるはずもない。
こっちの離宮の構造は大きく変わってるわけじゃないからね。
一体何事かとセラに視線を戻すと、そっちの方に行くように静かに促してからそのまま別の部屋に。
……えーっと、一体全体どういうことなんだこの状況は。
「もしかしてマッドくん、朝寝坊してるとか?」
「寝坊という言葉は無縁のはずですが……よほど昨日の帰りが遅くて疲労が溜まっているのでしょうか?」
「わあ流石通い妻、よく理解していらっしゃるあうぅん!?」
「ハリセンで叩いてどうしてそういう声が出るのですか……」
しょうがないじゃん、あまりの不意打ちで即死レベルに思えたんだからさ!
ぐぅ、まさか魔力操作だけでなく身体操作の方もしれっと鍛え直してたりするのこれ。
それでいて、何でその努力を変なところで発揮してばっかりなのかな君は……。
そんな鍛錬狂い、天然を添えてな3人目は部屋の前で立ち止まっていた。
「……アニス様。ここがマッド様の私室でよろしいのですよね?」
「うん、間違いなくそうだけど……」
待って、どうしたの一体。
さっきまでの心配そうな表情から一転してその無表情は怖いんだけど。
というか、ドアに耳を当てるなんていくら何でも令嬢としてどうなのさ……流石にはしたなくない?
まあいいや、私もちょっと乗っからせてもらいますよっと……。
「それにしても、まさかこちらで布団を敷いて寝ることになるなんてね……違和感なく過ごせたよ」
「その割には長いこと起きていたようだがな……そんなに睡眠時間短かったっけか?」
「まああれから色々あってね……それはともかく、ここまであっちを再現する君の執念には驚かされたよ」
「何ならこの離宮の外観もそれっぽくしちまうか?兄弟店というか二号店みたいに」
聞こえてくる声は……あれ、二人分?
片方がマッドくんのものなのはすぐに分かったけど、もう一人は……え、誰?
この声の高さは十中八九男子だけど……イグノックスの声質じゃない。
アルくんでもなければ、父上でもないし……。
……待って、私とマッドくんの共通知人でもう当てはまる人物いないんだけど。
「私の実家が一号店ないし旗艦店舗になっていた件、といった感じで書籍を書けそうだ……我ながら、随分売れなさそうなタイトルだが」
「その場合は著者の顔出せば一発解決だろ。そうすりゃサイン会目当てで女性ファンが大幅に増えるし、増収見込めるぜ?」
「……うん、やはり止めておこう。荒療治とばかりにそういうことをされたら堪ったものじゃないし」
「ったく、そんなんだから無自覚に腐った餌与えてるんだっての……」
「いやマッド、君が言えた話じゃないよね?」
……え、腐った餌ってまさかそういうこと?
まさかのマッドくんにガチ衆道ないし両刀疑惑ありだとぅ!?
待って待った待ちなさい、そんなのあってたまるものですかってんだ!
なるほどそうか、だからユフィはこんな怖い顔してるんだそりゃそうだよね!
かくなる上は……もう手段なんて選んでられない。
「突撃弟の離宮事情パート2、可愛い末っ子の私室侵入編スターt」
「気配察した時点でその行動は読めてるんだよバカ姉上め!オルタ、お前も避けろ!」
「やれやれ、そういうところも姉弟なんだね君たちは……よっと!」
いざ蹴り開けるその瞬間でドアが開き、主が姿を現した。
って、待ってそこで開くなんて聞いてないんですけどー!?
ヤバイ、空振りの勢いがそのまま残って止まらないー!と思ったら、いきなりベクトルが操作された。
器用に進行方向を変えさせられて、気が付いたら私はベッドに飛び込んでいた。
あ、これもしかしなくても……って駄目駄目、私はそんな変態になるつもりはないから。
でもちょっと堪能するくらい……って、待って何か凄い殺気がするんですけど!?
「あっぶねー、ナイスオルタ。俺の唯一の蒐集品が台無しになるところだったわ」
「鑑賞用とはいえ、剣が滅茶苦茶になる様何て見たくなかったからね……ところで、この状況どうする気なんだい?」
「は?状況って一体何のこと……」
オルタと呼ばれた人は頭を抱えており、マッドくんも思わず固まるほどである。
うん、そこでビビらない辺りは流石と言えば流石なんだけどね?
その如何にも『身に覚えがないんですが』な表情は完全に火に油だと思う。
「相手が殿方とはいえ昨晩は随分と楽しそうにしていたのですね?そのことで少々お時間よろしいでしょうか」
「……何でユフィはそんなにキレてんだ?まるで意味が分からんのだが」
分かって!お願いだからそこだけは分かってあげて!
折角歩み寄りが出来たんだから、もう少し深く踏み込んであげてー!
じゃないと、私がベッドから出られない……いや、でもいっそこのまま隠れてやり過ごそうかな……。
「アニス様はとっととそこから離れてください、さもないとあることないことぶちまけますよ?」
「ひぃ!?分かった、分かりましたから父上とかには絶対に言わないでください!」
ああもうかんっぜんに修羅っていうか夜叉状態だよこれ!
今のユフィなら本気で誇張表現全開で周知させてもおかしくない、そうなったら私が別の意味で死ぬ!
まさか、セラはこうなるって見越してたとか……?
だとしたら、どんだけ自分の愉悦に忠実なのさあのぶっ飛び侍女!
いつもの屯する用途の部屋は奇妙な空気に包まれていた。
奇天烈&破天荒姉弟は怒りの笑顔を貼り付けたままのユフィリアに引きずられ、オルタも逃れようが無いと判断してついていく。
傍から見ても、何が起こっているのか意味不明極まりないことだろう。
まともに説明が出来るとすれば、こんな混沌とした場で楽しそうにしているセラとその同類クリスティーナくらいの者だ。
「いつだったかこんなことあった気がするんだが、何でわざわざ俺の隣を陣取るんだよ。後抓るの止めてくんねえか地味に痛えんだぞこれ」
「……もう友人関係は隠さなくてもいいはずです。これくらいなら許容範囲ですよね?」
「えーっと、ユフィそれくらいにしてあげよ?マッドくんの腕に一生ものの痣が残っちゃいそうだから、ね?マッドくんも普通に役得なんだから、ちょっとくっつくくらいは許してあげなって」
完全にアニスフィアが胃薬待ったなしの取りなし役となってしまっている。
それほどまでにユフィリアの暴走っぷりが凄まじいと言えるのだが、これもまた以前の開き直りの成果なのだろうか。
この二人の表面上くらいを知る者ならば、己が目を疑っては夢遊病に患っているのではないか心配する羽目になること請け合いだろう。
ちなみに、この中で唯一の他所者と言えるオルタは昨日の時点でラスたちからこの辺りの事情も聞かされているので多少の耐性はある。
まあ、そんな彼を以てしてもユフィリアの行動については読み切れなかったが……そこは流れに沿っておくこととした。
マドラーシュとの付き合いは7年、その対応速度はトップクラスで折り紙付きであった。
「……とりあえず、自己紹介から行こうか。私はオルタ、王国内をひたすら流浪している冒険者だ。以後お見知りおきを」
「あれ、冒険者だったんだ。てっきりどこかの貴族子息かと思っちゃったよ……」
「ですよねー。俺達よりよっぽど見た目高貴痛い痛い何でまた抓るんだコラ!?」
そう言われてほんの一瞬だけ冷や汗を流すが、何とかオルタは持ち直した。
まあ、その佇まいや振る舞いからどうしてもその手の気風が滲み出ているから致し方ないところだろう。
この場にいるのが奇天烈王女と夜叉モードな公爵令嬢だから何ともないのだ。
……と、オルタの異性への受けの良さを良く知る友も同意するが襲い来る痛覚に抗議せざるを得なかった。
無論、無言で流されているが。
「オルタ様は武勇に優れており、瞬く間にゴールドにまで上がっては絶賛大暴れ中の身。そんなところにマッド様の東部開拓活動とかち合っては……まあ、このように意気投合したわけです」
「もの凄いざっくり説明のはずなのにその光景が容易に想像できる……すっかり毒されてるってことなのかなこれって」
「あら、アニスフィア様もマッド様沼に浸かりたいと。ブラコン全開の姉君もなかなかカオスで面白いのでこちらとしてはむしろ歓迎ですが……」
「何か魅力的に聞こえるけど今は止めてー!ああほら、ユフィの夜叉オーラがまた増大してる!」
嬉々として火に油……否、ニトログリセリンすらぶち込む光景を見ても男二人は苦笑するばかりだ。
もはや平常運転すぎるぶっ飛び侍女よりも、もっぱら対応すべきは暴走状態のユフィリアの方である。
「今回は色々と間が良かったからついでにと招いたってだけだ。別にやましいところは何にもねえからな?」
「私もこのやりたい放題王子に引きずられただけの身で、宿代が浮くならと世話になったまでに過ぎない。そんな関係性は無いとご理解頂きたいところなんだが……」
「……別に、この離宮に連れ込んだことは気にしていません。いえ、少しは気にしていますがまだ許容範囲です」
気にしてるんかい、と類似する髪色の3人は内心同時に突っ込んだ。
ただでさえマドラーシュとオルタは偉志ノ大陸で兄弟に見えると称されているので、これでは完全に三兄弟だ。
アルガルドも同席していたら、大陸を跨いだ奇跡の四兄弟の完成である。
……そんなおふざけを挟む余地は当然あるはずがないわけだが。
「普通なら客室に案内するところですよね?何故わざわざ自室に招いては共に就寝しているんですか?」
「うん、それは私も同感。そんなことしてるから私も色々と邪推しちゃったわけで……」
その表情は相変わらず憤怒……というより、単に拗ねているようにしか見えない。
が、飛んできた質問は至極真っ当であった。
しかし、真っ当が故にマドラーシュとセラの予測範疇内である。
一瞬の目配せの後、先にぶっ飛び侍女の方が口を開いた。
「マッド様がこれまた色々と調達してきて、客室の模様替えをしていたことをコロっと失念していたのですよ」
「で、俺の部屋なら床で寝る術もあるから一人くらいなら不便もねえし、男同士ならいいやってことでそうなった……これでいいか?」
「良かった、とりあえず今回のところはこれで容疑は晴れたってことでいいね!ほらユフィ、もう拗ねるのは止めだよ止め!」
「拗ねるって何だよ一体。これまでのどこにそんな要素があるんだ?」
ここで発動してしまうマドラーシュの弱点、しかしこれはどうしようもない。
これまでの経歴を鑑みれば、それは覚えようがないのはある意味では当然と言える。
そもそも、自分がそうなる余裕なんて生まれるはずがないという諦観から生まれている側面もあるわけで。
「……マッド様の自室なんて、私ですらまだ入れてもらってないのに……相手が殿方とは言え、何だか負けた気がするし、ズルいと思うし悔しいんです」
「ユフィはダチとはいえ野郎の部屋に入りたかったのか?そんなんただの間の良さにおける差だろうが……対抗意識燃やしてどうするよ」
「私にとっては看過できない、ただそれだけのことですよバカマッド様」
「これまで聞いた中で最も理不尽なバカ呼ばわれだな」
もはやその嫉妬心を隠すつもりは微塵もなく、感情を押し殺していた頃を思えばもはや別人ですらある。
確かに自重の意志は減らすと宣言を受けて、多少の突貫行動はマドラーシュも覚悟はしていた。
が、流石にここまでの攻勢に出られること、そもそもその動機も想定外でしかなくひたすら後手後手。
戦闘においての『無慈悲な主役』に対して押せ押せ戦法は愚策になりかねないが、このような場面ではその限りではないということだ。
「他人事みたいに言うけど、そうしたのはマッドくんなんだからね?ほら、ちゃんとフォローしないと……あ、この場合は責任取らないと、だね」
「うんうん、アニスフィア王女殿下の仰る通りだ。まさか、いつものように『やっちまったZE☆』で流すなんてそんな無責任極まることしでかす君じゃないよね?。あ、お邪魔なら一旦部屋の外出るけど」
「いっそもう同じようにしてしまえばいいのでは?人払いや根回しはお任せあれ!」
「どいつもこいつも他人事みたいに好き放題言ってくれるな!?つうかどさくさに紛れて逃げようとすんじゃねえぞオルタぁ!」
「……と言いながら一緒に逃げ遂せてそのまま逢引ですか?意地でも阻止させていただきます」
「だから違うって言ってんだろうが!都合よくバーサク補正で知性落としてるんじゃねえよこのブレーキ知らずの暴走令嬢!」
完全におまいう案件である。
そもそもそのように仕向けたのがマドラーシュなのだから、この上ないブーメランでもある。
無論、当の本人としてはまさしく『どうしてこうなった』としか思わないのだろうが……。
ちなみに、オルタは無事に逃げ遂せることが出来たとか。
流石に本気で追い回したら、それこそ別の騒動になりかねないので当然の帰結と言えよう。
完全アウェーの中で混沌を味方につけるやり方をする辺りは、やはり似た者同士だが。
そしてマドラーシュは健闘虚しく二度目の対極離宮への連行が決まった。
まさか、また姉上の離宮に連行される羽目となるとはな……。
くそ、オルタめ……身分隠した第三者だからってやりたい放題しやがって。
まあいい、やり返す機会はいくらでもあるし今は置いておくとしよう。
そういや、今回はセラが珍しくついてこなかったが……何かあったのかね。
「何だか流れのままに連行しちゃったけど、結果オーライってことでいいよね?」
「そのように綺麗に纏める要素が一体どこにあるのでしょうか。そこそこに早い時間から突撃訪問という非常識っぷりから始まり結果が再度の拉致とは……可愛い弟君の胃が潰れたらどうするおつもりだったのでしょうか」
「マッドくんの胃がそんな簡単に潰れるわけないじゃん。私だって朝からあんなことがあって体力ゲージ黄色状態なんだけど……」
「それは自業自得でしょう──それと、ユフィリア様もいい加減離れるべきかと。やりすぎは逆効果になりかねませんよ」
「……分かりました。大変不本意ですがそうさせて頂きます」
……やっとまともな味方が出てきてくれたか。
今回ばかりはと流石に姉上に毒舌をかましてくれてはユフィリアも諫めるのは忘れない、イリアは侍女の鑑とすら言えるな。
以前は俺のことを連行してくれていたが、基本はまともというかこちら側の数少ない良心というべきっぽいね。
まあ、こっちで例えるならエリオ姉さんくらいのポジションに当たるな。
……さて、そろそろ真面目に思考を張り巡らせてもらうとしようか。
まさか、さっきの詰問の続きってわけでもねえだろ?
元々俺に用事があるからこそ、一般的には早い時間からこっちに来たわけなんだろうし。
その要件も色々と考え得るが……まあ、最有力候補はアレだな。
婚約破棄騒ぎが一旦落ち着いてきた今が情報収集に最適だろう。
現に、ラインヒルト先生からもそのように動いているという情報も既に入っているしな。
「さて、色々と紆余曲折あったわけなんだけど……マッドくんって東部の事情にはそこそこ詳しいってことでいいんだよね?」
「知っての通り、これまで東部を中心にコソコソと身を粉にしてきたわけだからな。少なくとも姉上よりは事情通のつもりさ」
「……では、『東の賢者』の噂についてはどこまで存じているのでしょうか」
入りもまあ想定通り……っていうか現時点での切り口はそれしかないからな。
クラマ族やミケ族、後はパーシモン子爵を筆頭とした皆さまには感謝ってところだな。
噂って言うのは時に隠れ蓑にもなる……まあ、ヴィルジールの受け売りだがね。
さて、そろそろ自然な仮面を被らねえとか……。
「志はあるのに力はない者に叡智を授けたっていうアレか。傍から聞けば眉唾ものな話だが……その様子だと、何か確信でもあるのか?」
「その『叡智』に当たりそうなものを私たちは目の当たりにしたからね。一度目はこの間のスタンピード、二度目はつい昨日にね……この時顕魂術って正式名称を知ったよ」
……なるほど、ティルティも見せたってことか。
実物を見せて、軽く触りの部分を話した……そんなところか?
基本的に利害の一致での共犯関係ではあるが、俺とアイツは共感するところもやたら多い。
だからこそ、接触したとは聞いても余計なことは話さねえって信じてたが…まあ、案の定ってことで。
前にも言ったが、顕魂術そのものを秘匿する段階はとっくに終えている。
こっちからあえて色々と仰々しく噂をばら撒いて存在をチラつかせてるのは、揺さぶりをかけるのも狙いだったわけなんだが……。
しかし、こうなってくると迂闊なことは一切言えねえな。
俺が開発者本人だって証拠は全くないが、候補としては間違いなく挙がってるはずだ。
完全に結びつけるには、顕魂術が偉霊器由来の……要するに、偉志ノ大陸由来だってことを知らないといかねえからな。
要するに、肝心なところをおくびにも出さなければひとまずは問題ない……いつものことだな。
「まあ柔軟でフットワークも軽い二人だ、自然に辿り着くだろうとは思ってたが……想像以上にいい巡り合わせしてるな。使いたいって話なら、ちょいと間が悪いがね」
「術を行使する際に必須の彫魂石を新たに得る手段が現状無いから……ですね?」
「ユフィ、正解だ。この資源豊かな王国でも存在しないものがメイン素材って話だからな。量産化の目処を立たせるためにも、今はその素材の出所を探ってる段階だ」
これについては見事に虚実が入り混じった……いや、嘘はついてねえか。
傀魂の結晶の影響下じゃねえと発生しない特殊な鉱石がベース、すなわち現状は完全に偉志ノ大陸由来で。
量産化の目処についても、傀魂の結晶に類似するものを探すか人力でどうにかするかの二択。
それをこれまた絶妙な曖昧さ加減で誤魔化してるだけ。
まあ、この辺はトップシークレットでグランナイツとあっちの有力家門、ヴィルジール達『V3社』しか知らないから漏れる心配はまずいらないんだが。
「その口ぶり……マッドくんはあくまで監督役ってところだったの?」
「亜人種の問題は根深かったから、とにかく迅速確実に解消したかったからな。そんなところに顕魂術って面白い話が降ってきたから、折角だからと乗らせてもらった……これこそが東の賢者の噂の真相ってわけさ」
「うん、噂の流れとかについてはほぼ納得が行った。後はケルビムとクロエだけど……まあ、これは機会を窺うしかないから気長にってところか」
これでひとまず尋問イベントはクリアってところか?
こういう時は下手に知らぬ存ぜぬよりは部分肯定の方が却って煙に撒きやすいってね。
後はケルビム状態の時にボロを出さないようにすればひとまず深入りさせずには済む。
……ラス達やアル兄さん、ティルティには革命の事まで話しちまった以上手伝ってもらわねえとこっちが罰当たりになる。
が、二人はそんな汚い水面下を一切知らない……っていうか別に知らんでいい。
特に姉上はただでさえ魔法省やら王宮貴族との衝突が絶えねえ状態で、これ以上やらかしたら何されるか分かったもんじゃねえ。
あの連中も、姉上とユフィに対して警戒を怠ってるとは到底思えねえからな……。
これまでは随分と隠れ蓑にしちまったんだ、その分こっから俺たちが暴れ回ってやる。
「よーし、じゃあ重い話はこれくらいにして一気に流れを変えましょうか。マッドくん、魔女帚お試しで使ってみたくない?」
「随分唐突な方向転換だなおい……ガキの頃の俺の答え、根に持ってないのか?」
「ぜーんぜん?あの頃のマッドくんならしょうがないよなーって今なら納得できるし」
「もしかして、『空を飛んでみたいと思うか』……そんな問いですか?」
ユフィもそこだけは知ってた……いや、推測したのか?
結構辛辣な口調も目立つが、この二人も結構友人同士やれるようになってはいるよな。
ここに来るまででも、何か特注の魔剣でハリセン作ってツッコミ入れてたし……。
何だかんだで俺以外の交友関係をしっかり作れて何よりではある。
……後は謎の暴走癖がどうにかなればなー、そこマジで解決法求むってヤツだ。
「そうそう。それでマッドくんは『別に飛ぶ必要はなくね?』ってリアリスト全開な回答をしたんだよ!あの時はなんじゃこの可愛くない弟はって手刀連打したものだよ」
「あの頃は如何にグランナイツという目標に向けて最適化していくことしか頭になかったからな……まあ、幼気の至りってやつさ。今なら姉上の実験に付き合うくらい造作もねえよ」
「そう、こうやってすっかりとノリも良くなったからね!そんな末っ子を私は愛してるよ!」
「お二方が共同で事に当たるなんて嫌な予感しかしないのですが……それとアニス様、冗談とはいえそういうことを変に口走らないでください」
まあ、付き合うっていってもやり過ぎない程度に留めないとだけどな。
派手にやっちまって裏で露呈した日には、それこそ姉上が弱点になっちまいかねないし。
──ところでユフィ、その言い草はちょいと看過できねえぞ?
「何だよ嫌な予感って。件の魔女帚といい、以前父上に叱られる原因になったドラゴンの部位改造品といい最近はだいぶ安定してるんだろ?」
「平民の方と一緒に街の外で爆発騒動を起こしては隠蔽工作も抜かりない、なんてしてやったり顔で話していたこと、忘れていませんよ?」
それは半ば俺も巻き込まれだったんだが?
大半の原因はあの爆発大好き天才兼天災にあるわけで……俺は完全にもしもの為の避難誘導員だったっての。
一番の巻き込まれは大体ラスだけどな。
「ちょっと待った、要するにマッドくんも立派な前科持ちってことじゃん。まあでも、それはそれで実験に抵抗はないってことだから都合はいいのかな……?」
「毒と毒を混ぜたらむしろ薬になる理論で纏めようとしないでください。どうしてもと仰るのなら、私の徹底監視の下でやって頂きます」
「おーい魔学開発主任、助手が完全に社会科見学取り仕切ってるがそれでいいのか?」
「……なーるほど、読めたよユフィ。でも魔女帚は流石に私がレクチャーしないと危ないからそこは譲ってね?」
「色々と感極まった結果姉弟揃って行方不明になっては色々顔向けが出来なくなりますので却下です。軽く飛ぶ程度でしたら私でも制御は出来ますので」
何だ何だ何なんですかこの状況は。
くっそ、こんな時に使えるカオス侍女砲がいねえのが悔やまれる……。
……そういや、こういう時にツッコミ入れてくれるであろうイリアの姿が全く見当たらねえんだが。
最初思いっきりいたのに、いつの間にか消えてやがる。
この状況をどうにかしてくれる唯一の希望だったってのに……父上に呼び出されたりしたのか?
俺としたことがまたたるんでるな……気配察知は常に緩めてるんじゃねえよボケナスめ。
どうにもこっち来ると色々緩まる悪癖があるみたいだし、矯正していかねえとだな……ってうおい!?
「何でここぞとばかりに残像が残るような高速移動しちゃうのさ!?そんなポーカーフェイスしておいて、実は相当心待ちにしてたんじゃないの!?」
「有意義な結果を残してくれそうという意味でも、マッド様は最有力候補ですから。では、色々と危ない奇天烈姉君は放って行きましょう」
放って行きましょうじゃねえんだよ、またとんでもねえ勢いで人の事攫いやがって……。
そんなこんなでそそくさと中庭に移動させられ、何かもう流されるままに俺による魔女帚の試運転が強制的に始まった。
姉上はもうユフィの暴走っぷりは諦めたようだな。
「……展開スピードのインフレについていけねえが、まあいい。とりあえず動かせばいいんだろ?」
「魔力は慎重に込めてください。急激にやりすぎると一気にすっ飛んでいきますので」
ああうん、ちょっと魔力込めれば大体そこのところは分かったわ。
箒という形状で飛行を再現する都合、魔力を噴射させるような感じなんだろう。
こういう手合いは確かに扱いが難しいが……次元斬とか疾走居合に比べれば何てことない。
「魔力放出調整の練習台にはちょうどいいんじゃないかこれ。何ならこういう風とかどうだ!」
直進だけじゃあ芸が無いからとちょいと色々遊んでみる。
急降下に急上昇に始まり、ひとまず跨った状態で出来得る限りの動きは試しまくっていく。
「いきなり空で回ったりしないでください!後ろの私のことはまるで考慮なしですか!」
「性能実験ってのはギリギリのラインを見極めつつやらねえと意味無いだろ!これでも安全考慮は十分のはずだが!?」
「私から見たら普通に危険域です……!」
戦闘となると勝手が違うからそこはやはり
例えば、俺がこっちを操作してナマリエやキュイを乗せて遊撃の足掛かりにしちまうのも手だ。
セリアードを乗っけて支援を余すことなく振りまくのもアリだね。
……と、暫く空中芸を繰り広げている内にちょっとしたことも思いついた。
「いっそきっちり扱えるヤツ育てて『競箒』なんてやるのも面白そうだ。そうすりゃ魔学そのものの親しみやすさも増すだろうよ」
「……意味は分かりませんが、ロクでもない予感しかしないのは確かです」
「確かに平民の生活水準を上げるのも大事だろうが、娯楽も世の中必要不可欠だ。少なくとも俺はそう習ってきたがね」
「貴方の娯楽は些か危なっかしいから言ってるのです。──まあ、アニス様でも至っていない斬新な意見として内に留めておきますけれど」
正直、この国の現状は窮屈というか閉塞感が凄まじいからな。
東側は俺たちの尽力あって多少なりとも余裕は出て来たが……それは頭の固い連中の影響が少ないからこそであって。
そうなれば、あらゆる方向で魔法至上主義に対して切れ込みは入れていかねえと気が済まない。
父上と母上は相当踏ん張っているが、それでも徐々に浸食されちまってるわけだし。
……デイジー師匠にも言われちまったんだが、二人にも話は通しておかねえとだよなあ。
寄っかかるようなことだけはしないが、それでも頼らざるを得ない部分も絶対にあるわけだし。
……さて、真面目な話はこれくらいにしてだ。
「ところでユフィ、いつまで後ろでしがみついてるつもりだ?せめて少しは離れて欲しいんだが」
「こうでもしないと振り落とされかねないですので。それとも密着して何か不都合でも?」
「……仮にも公爵令嬢なんだから慎みを持つべきじゃねえか?」
「そういうものは捨ててしまえと以前に仰っていたからその通りにしているまでなのですが……」
「都合のいいところで人の忠言を曲解すんじゃねえよ!」
そもそもこの状態どうなってるのか分かってないのかお前は。
俺の方からは意地でも口には出さねえからな?
……意外とあるんだなーとか別に思ってないからな?
「心なしか顔が赤くなっているような……慣れない飛行で体調を崩したらそれはそれで大変ですね」
「お前分かってて言ってるのか?それとも天然が限界突破してるだけか?」
……開き直り人間3年生がここまで恐ろしいものとは思いもよらなかった。
くっそ、ゴリ押しされてなりふり構わずを許容しちまったあの夜の自分を果てしなく恨んでやりたい。
というわけで暴走ユフィリアさん2回目です。
しかも嫉妬対象がまさかのオルタ君、実は本作書き始めの段階からやりたかった場面だったり。
お陰で早速塩投げてやる状態……マドラーシュ君はこうやって不意打ちから崩れるの書いてて面白すぎる。
やっぱユフィリアはガン攻めしてなんぼですよねー……些か攻め手が強すぎる気もしますけど、相手が相手だからむしろちょうどいいという。
そして姉上もとばっちり、これもやりたかった。
こっちもこっちで紛らわしいことしてますからね、しょうがない。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
-
グランサガの二次がレアすぎて
-
バトルハードモードに釣られた
-
ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
-
その他(そもそもの作風とか)