転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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2つ前のフラグをすぐさま回収していくスタイル。
というわけで、1章からの再登場キャラその2です。


58. セカンド襲来で二乗混沌

 

遂に来た、この時が。

まさに石の上に3年、その研鑽の日々は長いようで短いものでした。

……この半年については同じ敷地内で過ごしていたわけですけど。

顔を合わせたら色々と暴発しかねないからと必死に己を律していたのだ、それはそれである。

そしてたった今、あの御方の傍付き……言うなれば専属侍女になるための最終試験を終えたところだ。

 

「これはまたなかなか……あの混沌としたマッド様の蒐集品をこうもきっちりと整頓するとは」

「もしかしたら私以上かもしれないという隠し玉ですからね。──そちらに栄転した後でも、まだまだこちらの助力をして頂きたいくらいには惜しい存在です」

「そこはマッド様の御意向次第ですが……今はもうアニスフィア様とは仲直りできていますからね。後は本人の意志次第かと」

「マドラーシュ王子殿下がお望みとあらば、砂漠のど真ん中だろうと火山の火口だろうと、海中だろうと何なら世界の果てでもどこへなりと突撃いたしますとも」

 

前者2つは実は行ったことがありますけれど……まあものの例えということで。

ここに来る前の2年半で、それなりの無茶振りへの耐性は仕上げてきたつもりです。

それくらいでなければ、あの御方の前にこの身を晒すことなどあってはならないのだから。

 

「それにしても、当のマドラーシュ様が姫様たちの相手をしている裏で進めてよろしかったのでしょうか」

「その程度でどうにかなるほど器の小さい御方ではございませんからねえ、心配は無用でしょう」

「セラ先輩の仰る通りです。それに、こうしたサプライズの方が感動の再会として喜んでもらえるかと」

「まあ、こうして貴女の素が見られただけでも儲けものと思っておきましょう。では、私はこれにて失礼しますね」

 

流石はあの奇天烈王女……失礼、アニスフィア様の専属というべきでしょうね。

この3年で身に着けた、私の業務向けの表情を容易く見破ってきましたか。

まあ、あの奇天烈王女に10年以上も仕えていればこの程度は造作もないことかもしれませんが。

あの方も大概敵が多いですし、その為の技術は必要不可欠でしょうね。

そんなことを考えながら移動している時……無意識で張り巡らせた網が感知した。

私が知る中で、最も苛烈で崇高な魔力。

 

「もはや無意識の展開で感じ取れるほどになったのですね……少々ばかり妬けてきます」

「……今の私、変な顔になっていませんよね?」

「貴女の場合はせいぜい口端が吊り上がるくらいなのですから、むしろ可愛いと言ってもらえるかもしれませんよ?」

 

それならば少しだけ抑えるのは止めておきましょうか。

思い返してみれば、変な表情の抑え方をしなくていいと教えてくれたのもマドラーシュ様ですからね。

……それにしても、近づいてくる魔力は以前に比べても更に強大さと尊大さが増している気がするのですが。

ヴィルジール様も目をかけるほどの成長スピードは伊達ではない、ということでしょう。

正直に申しますと……衝動のままにあの方の元に駆け付け、そのまま跪いてしまいたいほどだ。

ですが、そうしたら確実に堪え性が無いという烙印が押されかねない。

何としてでも耐えなければ……後少しなのだ、堪えるのだ私。

徐々に足音も大きくなってきて……扉が開かれた。

 

「おいおい……地に足がつかない時間が多くて俺の視覚がおかしくなったのか?噂をすれば何とやら、更に見違えた美しき愛弟子が出迎えとかなかなかのサプライズだ」

 

その声を耳にして、御姿が視界に入った瞬間──私は自然にその場に跪いてしまっていた。

私もこの3年でそれなりに上を向いて色々と伸ばしたつもりでしたが……もはや比べるのすら不敬に当たってしまいますね。

ラインヒルト様からも事前に聞き及んではおりましたが、やはり実際に感じるのとはまるで違いますね。

秘められた覇気は、静謐ながらも段違いという言葉すら生ぬるいものだ。

先ほどまでの緊張すら吹き飛び、何百何千と思い描いていた言葉は自然に口から発せられていた。

 

「プリシラ・ソーサラー、只今を持ちましてマドラーシュ王子殿下の傍付きもとい第二の専属侍女としてお仕えさせて頂きたく存じます……3年も待たせてしまった勝手については、弁明の余地もございません」

「弟子の更なる成長は俺にとっても至福、それをきっちり味わうためならば3年くらいくれてやるさ──まあここは、俺の裏事情をわざわざ調べ上げた上でこの最高のタイミングで戻ってきてくれた上での働きで報いてもらうとしよう。後セラと同じように略して呼んでくれ、そっちの方がお互い楽だろ?」

「この身に余る寛大な措置、感謝の言葉もございません……ではそのようにさせていただきます、マッド様」

 

──ああ、ようやくこの呼び方が出来ました。

あちらの離宮で時折聞こえたり、先ほどまでのセラ先輩との会話でも耳にすることが多くて……どれほど疼いていたことか。

二重の意味でこの御方の性質を示しているこの愛称については、名づけ元のアニスフィア様には感謝しないといけませんね。

か烈で泥臭くてかつ狂気を秘めている、まさにこの御方そのものを指す愛称……最高ではありませんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まさかのセラの別行動の理由には流石にびっくらこいたな。

3年前に面倒を見ていた、超絶出来が良かった愛弟子がいきなり現れては専属侍女として配属されるとは……。

しかも俺のことを冒険者ケルビムじゃなくて破天荒王子マドラーシュときっちり認識した上でだから、余計におったまげたね。

姉上とユフィとは元々持ってる情報が違うってこともあり、辿り着く可能性は普通にあるとは思っていたが……。

ヴィルジールのところにいれば、偉志ノ大陸辺りで更に詰めることも出来るってのも大きい。

とはいえ、かなり情報は絞ったつもりだったんだがねえ……。

この愛弟子兼第二の専属侍女め、やりたい放題やってくれる。

本来ならセラの独断専行を諫めるべきところなんだろうが、目を瞑っておこう。

何せ、今まさに必要としている人材を迎え入れてくれたわけなんだからな。

 

「イリアがこっちにいた理由もプリシラ関係だったとはね……んでもって王宮の方の侍女として潜り込んでから合流とは、なかなかユニークな動きしやがる」

「ラインヒルト様からはきな臭い空気にある王宮内にて、侍女に成りすまして諜報活動を行って欲しいと依頼を受けまして」

「実際、婚約破棄疑惑騒動の際にも迅速な情報共有が為されたのは彼女の功績とのことです。スタンピードの際にアルガルド様からの出動要請の仲介、他にも細かい人払いも彼女がしれっとやってのけたようですよ」

 

あー、何か言われてみればその辺も妙にスムーズだったからな……。

プリシラが仲介という形で根回ししてれば、そりゃあスイスイ事が進むってものだ。

そういうさりげない雑務処理の早さもコイツの長所の一つだからな。

更にヴィルジールの元で更にパワーアップしてるんだろ?もう一人ヤベーのが増えてありがたい限りだ。

 

「いよいよもってラインヒルト先生もマジで動いてるな。姉上とかアル兄さん周りにも警戒態勢敷いてたとは……」

「連中から見たマッド様の弱点足りえるのは、身内にも敵が潜んでいる王族の方々……今回の事件でその推測は事実となりましたね。まあ、アルガルド王子殿下とユフィリア様の機転とマッド様の伏線が無事働き、一旦はざまあみろな展開になりました。そしてここから反攻ということですよね?」

「このやり取りも懐かしいな。こういう意味で背中と周囲を任せられる人材は多いに越したことはない……本当、いい弟子を持ったよ俺は」

「あの時も申し上げましたが……これでも尽くすべき相手にはとことんな女となりましたので」

 

2週間でアレだけ化けたんだ、3年となったらそりゃあこうもなるだろうよ。

あの自己肯定感皆無だった鬱屈令嬢が、今やユフィとかティルティに負けず劣らず……下手すりゃ上回るようになりやがって。

ったく、何でこう俺には勿体ないくらいの優良物件がホイホイと集まるんだか。

にしても、ヴィルジール経由で依頼を回すほどの人材不足とはねえ。

今度ラインヒルト先生に何か欲しいもの聞いておこう、これは流石に不憫すぎる。

 

「にしても、こんな急な異動で大丈夫なのか?ラインヒルト先生が良しとしてくれたからにしても、よくイリアに疑われなかったもんだ」

「私の事情はある程度把握しておりましたので、少しだけあることないことを加えてマッド様への崇拝をこれでもかと示したらすんなり通りましたよ」

「まさかのストロングスタイルだった……まあ、変に誤魔化すよりはマシなんだろうけどよ」

「むしろ賢い判断ではないでしょうか。彼女も『まあ、マドラーシュ様なら有り得ることですね』とほぼ納得しておりましたよ」

 

元々が貴族ですらないセラの時はレオン先生、ラインヒルト先生がかなり根回ししてくれたからねえ……。

その時に比べれば、まだ誤魔化しようがある分マシなんだろうがね。

表向きは普通にプリシラ伯爵令嬢として通すことは出来るからな。

あの時ヴィルジールと共謀して上手いことやっておいたのがここに来て効いている。

それに、クソッタレな親を徹底的に利用する形でジワジワ復讐出来てるってのもいいことだ。

義理の兄とかには全く害を与えていないという話も、よりえげつなさが伝わってくるね。

一見すると表情は動いてねえように見えるが、大体雰囲気で分かるくらいには自然になってるし。

 

「何にせよ、このタイミングでよく舞い戻ってきてくれた。そろそろ人のことをコケにしてくれた分のお返しをかましたくなってきたところだったからな」

「先日の一件でアルガルド王子殿下の傀儡化に失敗して、より焦っているはずです。強硬手段に出る可能性も考えられますが……その時こそ研鑽の成果をお見せする時ですね」

「プリシラの得意分野は私と正反対ですからね。後輩と役割を分けられるのは、正直こちらとしてもありがたいことです」

 

確かにこの二人は結構真逆な点も多いんだよな……。

得意属性は片や光オンリー、もう片や闇メイン次点で水・雷・風。

セラは大規模殲滅をメインとしたワンマンドレッドノート戦法が主体で、プリシラは事細かな探知と起爆条件が変幻自在の地雷設置が真骨頂。

まあ、セラは火力が限定される屋内戦でも戦う術はいくらでもあるし、プリシラもこの2年で他の手段を身に着けててもおかしくはないだろうから一概には言えんがね。

何にしても役割分担がきっちりして競合せずに済むってのは相当デカいな。

無論、この二人が組んだとしても相乗効果を発揮して鬼の殲滅力を発揮することだろうし。

 

「で、これからのことも軽く話すんだが……恐らく今回の一連の騒動を聞いて母上が飛んできそうなんだよな。姉上のやりたい放題もついでに叱りたがってそうな表情が容易に浮かんでくるね」

「デイジー様も同じことを仰っていましたね……ラインヒルト様が手引きしているなんてこともありそうですが」

「……ここだけの話、実は王妃様は既にお帰りになられています。経緯はマッド様の仰るままですね」

 

まあこんだけ色々と起きちまえばおちおちと外交なんてやってられないだろうよ。

それに、姉上の奇天烈っぷりには特に厳しいってのもある。

俺に対するそれとは偉い差に思えるが、まあ王族として育てているか否かは大きいってことだ。

──まあ、そうでなくても俺は反面教師にしながら立ち回ってるからこそなんだろうけど。

これぞピンポイント末っ子ムーブ、要するに衝動的に走ってばかりの姉上も普通に悪いってことで。

母上が外交を一旦中断したとしても、国外情勢ならキーストーン関係の調査ついでに王都残留3人以外のグランナイツが探りを入れてるから情報が滞ることはない。

恐らく、そこもラインヒルト先生が上手く繋いだんじゃないかねえ……プリシラの口ぶりからしても。

グランナイツという最強集団の使い方としては見事なまでに宝の持ち腐れ感があるが……そこも人材不足の影響だ。

それに、『いつまでも自分たちがついていると思って甘えるなよ』ってカルシオンもラス達に揶揄いながら言ってたからな。

これもまた試練の1つ、時には北風となるのも先達の役目ってことだろうよ。

そういう考え方は嫌いじゃねえし、むしろやってやろうじゃねえか。

 

「恐らくレイニ嬢及び囲い勢筆頭の3人関連の事情聴取の話もあるだろうから、そこを基点として動き始めるかね。姉上との仲を修繕したのが早速効いてくるな」

「──ああ、なるほど。相変わらずお人が悪くてえげつない……それでこそマッド様でございますね」

「派手ばかりでなく、このような悪童っぷりもこなしてこその我らが主ですからね」

 

一人の主と専属侍女二人が不敵に笑い合うのはさぞ不気味な光景だろう。

この立ち回り自体は、よくよく考えるとそれなりにあくどい面もある。

まさにクソガキムーブだが、まあそれを平然とやってこその俺だ。

その時点でバレないようにしておけば、後でいくらでも有耶無耶に出来るだろうし。

さあ、よからぬことを始めようじゃないかァ!

どこぞの2クール友情ごっこ野郎と違ってそこまでゲスじゃないので、そこは悪しからず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

内心で特殊攻撃を倍にしながら、マドラーシュは姉の離宮に顔を出していた。

連日出向という形ではあるが、彼自身の時間は別に空けてあるので特に問題はない。

昨晩の内に顕魂術の開発はやれるだけやっているので、その手の発作も発動する兆候は見られず。

というのも、つい昨日第二の専属侍女として加入したプリシラとの共同研究が思いの外順調だったことが大きかった。

元々その素質に目をつけて弟子として導いたわけだが、今はマドラーシュ側も提供材料が大幅に増えている。

ウガルー、カルマ、ドレッド・ドラゴンという上位種の魔石がその最たるものだ。

他にもデーモンやガトプスなど『遊び場』の魔物から得た魔石も存在する。

これら中級の代物は金銭的価値はそこまででないにしろ、能力としての使い道は間違いなくドラゴンのそれを遥かに凌駕出来ると言ってもいい。

もはや工房が魔石の巣窟ないしは伏魔殿と称されてもおかしくない状態である。

これまでも自己研鑽で順当に己の稼動領域を鍛えてきたプリシラにとっては、まさに成長フラグの宝物庫とさえ言えた。

キュイとはまた異なる独自性のある発想の数々はマドラーシュのインスピレーションも刺激する。

そこにセラも混ざることで発想の応酬は更に加速して、どんどん組み上げる候補のイメージは積み重なる。

ちなみに、ふとしたタイミングで帰ってきたオルタが工房を覗いては『あの中に平然と混ざることが出来るのはユナかキュイ、後ミココロくらいだろう』と引いていたのは誰も知らない。

そんな悪の組織ごっこに興じていたことをまるで表に出さないまま、姉と共に友人の見送りのようなことをしていた。

 

「正直な話、マッド様にもついてきて欲しかったところなのですが……」

「ちょっとした里帰りにいちいちついて行くダチがいてたまるか。俺はそこまで粘着質じゃねえぞ」

「何でそういうところは律儀というか変にお堅いのかな……いやそこも軽いよりはよっぽど誠実でいいんだけど、マッドくんはもう少し柔軟性ってものをだね」

「おい引っかかるな姉上、ユフィのこの言い草は絶対よからぬことを目論んでたヤツだぞ」

 

その不敵な態度や軽い口調が際立つマドラーシュだが、その距離感の測り方は慎重にして丁寧そのもの。

今では幼馴染兼互いに深い理解者となっているラスでも、最初はどこかギクシャクしていたほどだ。

当時3歳から6歳ほどでその原因を察しては適切な距離を取る子供らしからぬ行動が、逆にあちらにいらぬ不信感を与えたのが悲しい所なのだが……。

何はともあれ、ユフィリアとの距離は以前よりは縮まっている……というより接近されている。

そんな状態で里帰りについて行く、すなわち相手のホームにノコノコと赴いたら……それこそ『線引き』すら危うくなりかねない。

──なお、よからぬことを云々については見事に人のことは言えないのでここで突っ込むに限る。

 

「……お母さまに紹介するくらいなら別にいいじゃないですか」

「素直に吐いたのは大変よろしいが、案の定洒落にならねえこと企んでやがったぞこのアホっ子!『不束者ですが』の下りで俺に挨拶させる気だったのか?とんだ腹黒ロマンチストだな!」

「アホも大概ですけど、腹黒ロマンチストは流石に発言の度が過ぎていませんか!?意味もよく分かりません!」

「じゃあどのように紹介しようと思ったか言ってみろ。俺に変な偽装をさせず、更に3年の付き合いその他諸々を隠した自然な友人として堂々と紹介できるなら考えてやってもいい」

 

言うまでもないだろうが、マドラーシュの啓示条件はかなりの無理ゲーである。

そもそもが第二王子……元婚約者の弟というだけでかなりの地雷物件だ。

この点を一切偽らない辺りで怪しい臭いで鼻を摘まめるほどである。

その上で3年の付き合い、要するに婚約関係が続いている中での危なっかしい関係もおまけつき。

腹黒はともかく、ロマンチストという言葉は大概間違ってはいないのが悲しい所だ。

更にアニスフィアはこの時別の懸念も抱いていた。

 

(ネルシェル夫人は勘づいててもおかしくないし、むしろ喜ぶかもしれないけど……問題は弟のカインド君なんだよねえ。絶対水と油な気がする)

 

ユフィリアを助手として招く際に改めて公爵家に訪れた時に顔を合わせた実の弟の姿を浮かべると、思わず苦笑が漏れてしまう。

経緯は省くが、アニスフィアもあまりいい顔されなかったことは記憶に新しい。

同性でこれならば、果たして異性で且つ普段は不敵な軽口全開王族らしさ0のマドラーシュの場合はどうなるか。

まず間違いなく、一方的な喧嘩になる。

カインドがひたすら口撃してはマドラーシュは柳に風でかわしきる、そんな光景がアニスフィアの脳裏に一発自摸であった。

その点も考慮すれば、ますます慎重論を掲げるマドラーシュの方が優勢だろう。

先ほどの懸念に対して返しが出来ていない時点でユフィリアの優勢はほぼ有り得ないわけなのだが。

 

「まあ、今回はマッドくんの勝ちだね。一応あの件もまだ完全に解決したわけじゃないし、流石に二人の関係はまだ隠した方がいいよ。今他にもやれることはいくらでもあるから今は耐え時だよ」

「……分かりました。アニス様の顔を立てて今日は負けておいてあげます……今日のところは、ですけど」

「上から目線の敗北宣言ってのも新鮮だなおい──後アンタはどっちの味方なんだよ蝙蝠姉上め」

「可愛い弟と可愛い親友、そりゃあどっちにも幸せになって欲しいから両方の味方だね!」

 

堂々と究極の中立発言を言い放つ姉に対し元祖ハリセン芸が炸裂したのはこの直後。

しれっとユフィリアからアルカンシェルを渡され、彼女の真似をするという芸当まで何気なくこなす器用っぷりも発揮していた。

使用者に合わせる形のオーダーメイドでピーキーそのものな魔杖兼魔剣、それを奇妙な用途で使いこなす。

そんな何気なく恐ろしいことをしでかす辺り、完全に頭のおかしい魔力制御スキルの無駄遣いである。

貸した張本人は『まあ、マッド様ですし』と流して、ハリセンを貰った姉は思った以上に痛かったのかその場でうずくまっててそれどころではなかったようだが。

そんな喧騒という名のBGMもそこそこに、ようやくユフィリアは用意された馬車に乗り込む。

窓から見えるその顔は、先ほどまでのやり取りとはまるで違い至って真面目なものになっていた。

 

「マッド様は私の目が無いからと変なこと、ないし無茶なことはなさらないよう。絶対ですからね?」

「変なこととか無茶って言われてもな……こんな平時にむしろ何をしろと?」

「水面下で何をしでかすか分からないのがマッド様ですから。私が帰ってきた時にまた傷を増やしたり体調不良を押して無理をしていたりしたら……」

「ああもう分かった、分かったからはよ戻れ、高速移動じゃなくてとんぼ返りしろ早さは十分だろうが!クリスティーナ姉さんの受け売りみてえに詰め寄るな後ジト目止めろ!」

 

既に水面下で既に動こうとしている辺り、ユフィリアの予感は絶妙な感じで当たってはいる。

そもそも、マドラーシュのやりたい放題は未だ表に出ていない部分も多いのだ。

だからこそ、こちらはマドラーシュとケルビムが同一人物で更に顕魂術の開発者であることまで繋がっていないわけで。

そこを全く表に出さずにちょっと問題児なくらいを演出する辺りは『無慈悲な主演』の面目躍如といったところか。

現状ではレオンやイグノックス、セラやプリシラほどの理解度でないと偽装は見抜けないようになっている。

上演期間12年は伊達ではない、そういうことだ。

 

「アニス様も無茶苦茶な行動は控えること、そしてマッド様の行動には目を光らせておいてください。それこそクリスティーナやエリオのように」

「あの二人のようにかー、出来ればいいけど……あ、ゴメンちゃんとやりますのでその目は止めて!」

 

むしろこっちの方が表向き何をしでかすか怖いだろう、口には出さないがマドラーシュのツッコミである。

そしてこのままだと埒が明かないということで、無理やり話をぶった切っては半ば馬車に押し込む形となる。

実際ユフィリアは特にマドラーシュに対して言いたいことのあるような雰囲気だったので、正しい判断だったと言えよう。

……視界に収まる限りでジト目を向けていたのは、せめてもの抵抗といったところか。

 

「マッドくんも愛されてますなあ……この状況下じゃなかったら塩投げながらはよくっつけってヤジを入れたいよ」

「……早くくっついて欲しいという点は同意いたしますが、塩が勿体ないですのでお止め下さい」

「単に俺が一番付き合いが長くて、容赦なく素が出せる相手ってだけだろ……そこに過度な心配性が加わってああなってんじゃねえのか?」

 

『ダメだこりゃ』と主従二人は首を横に振らざるを得なかった。

とはいえ、それはマドラーシュ側の事情を完璧に知らないが故の反応とも言える。

それに加えて、その手の感情に対して無自覚なのか本当に分かっていないのかユフィリアの攻め方もどこかおかしいというかズレていた。

結果、傍から見れば完全にチグハグな関係であり、大体の者はトゲトゲボールを投げたくなる衝動に駆られる羽目に。

そうならないのはマドラーシュの行く末を終始見守ることに徹することが出来るイグノックスくらいのものだろう。

 

「ところで、先ほど王城から言伝がありましたよ。ユフィリア様が公爵家に戻り始め次第、姫様は登城するようにと陛下からの呼び出しでございます」

「父上から……?ちょっと待って、呼ばれるようなことやらかした覚えないんだけど」

「覚えがないんじゃなくて、次から次へと上書きされてるだけじゃねえか?」

「まるで私が歩くトラブル製造機みたいな言い方だね!?でも本当にここ最近はそれなりにおとなしくしていたつもりなんだけど!?」

 

最近のアニスフィアは問題を起こしていない、これは確かに事実だ。

しかし、これまでの行動の数々から警戒するなと言われるのが無理難題でもある。

対するマドラーシュは、そもそも王城に呼び出されては説教と言う事態が一切ない。

その分デイジーやクリスティーナに説教を貰っては、先ほどのようにユフィリアから痛いところを突かれるところはある点は一見すればどっこいどっこいに見えるだろう。

が、彼の場合はメインとする活動で致命的な問題を起こさない、または露見させないことが最大の狡猾ポイントだ。

まさに立ち回りの差であり、末っ子ならではのちゃっかりも発動させてるとも言うべきか。

 

「ティルティ様の元に向かったことを嗅ぎつけられたのではないでしょうか。一応魔薬の前科もありますからね」

「……事情聴取まではありそうかなあ。誤魔化しようもあるにはあるけど……ねえ?」

「そこで何故子犬のような目をマドラーシュ様に向けるのでしょうか。もしやユフィリア様との関係を暴露しておとりに……」

「そんな酷いことしないよ!?怖いから一緒に来て欲しいな~って思っただけだよ!」

 

どちらにせよ姉の威厳などあったものじゃない言いようである。

そこまでしてでもお叱りを受けたくない、まあお年頃と言えなくもないのだが……。

そんな姉の心境を理解している様を、マドラーシュは軽い溜息一つで表す。

 

「ったく、しょうがねえ姉上様だ。ストロベリーサンデー1週間分で手を打ってやるよ」

「随分可愛らしい見返りだね──はっ!?もしかしてそれにかこつけてお姉ちゃんとのデート希望!?」

「頭使うと糖分欲しくなるのは性別関係なくだろうが。何なら、その仲間としてイグノックス兄さんとアル兄さんも誘うぞ?」

「……マドラーシュ様、そういうところですよ」

「そうだよ、何でそこで見事に一人すっぽかしてるのさ」

 

何故そこで実の兄やら兄貴分の名前が真っ先に出てくるのか……イリアの指摘の意味することはそういうところ。

当本人はそれこそ、なんのこっちゃと言わんばかりの表情をしているのが何とも言えない。

こればかりはアニスフィアも一緒になって盛大な溜息を吐くこととなる。

──つい先ほどいなくなった公爵令嬢に更なるエールを送ることも忘れずに。

 





光のゴリ押しやりたい放題セラ、闇の暗躍やりたい放題プリシラ。
光と闇が揃ったら混沌になる、まあ必然ですよね?
お陰でどんどんマドラーシュ側勢力が魔窟状態に。
というわけで、まだ書籍2巻部分のはずなのに圧倒的フライング本格参戦です。
もはや誰だよ状態?いやでも原作の方でも一応崇拝要素あったしセーフ……じゃないよねえ(´・ω・`)

Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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