姉上&マドラーシュの親子+α面談会です。
後者に至っては初の親子対面描写です、ではどうぞ
あぁ……来ちゃったよ。
王城に登ると共に、一切の寄り道もなく向かった先は父上の執務室だ。
アルくんの婚約破棄騒動……まあ、実際は破棄扇動だったんだけど、それと先日のスタンピードを経て私の立場は結構変わっている。
表向きは実績の面でパッとしないアルくんへの対抗馬としての継承権第二位を持った私だが、むしろ腫物みたいな扱いを受けている風すらあった。
その大半は王城勤めの貴族たちからのもので、騎士や侍女からは好意的視線を向けられているのが救い……なのかな?
無論、想定より気が楽になっている理由はそれだけではない。
私の1歩後ろをついて歩く可愛い我が末弟が奇異な視線という形で一部を引き受けてくれているからね。
いや、むしろ私よりも比重を占めていると言ってもいいかも。
……私とマッドくんが一緒に歩いているなんて、事情を知らない人たちからしたら奇妙なことこの上無いからね。
更に、マッドくんは私と入れ替わる様に継承権最下位になってしまっている。
傍から見た立場は……元々が元々だから言うまでもないことだ。
(……軽い気持ちで同伴を頼んじゃったけど、明らかにアウトだよねこれ)
さっきも『第三位に落ちてますます無価値に』なんて陰口が聞こえてきたし。
そんな視線とか陰口に気が付いてないってことはまずないのに……マッドくんは勝手にしろと言わんばかりだ。
衣装もわざと浮くようにしているからかその白昼堂々兼傍若無人っぷりが余計に際立つ。
このオリハルコンメンタルとすら言えるふてぶてしさもまた、グランナイツの顔ぶれをもってして破天荒と称するところなのか。
──と、何かまた思考が良くない方向に向かいかけたところで目的の執務室に辿り着いた。
侍女が中へ入るためのお伺いを立てる少しの間、私は小声で話しかけた。
「……ごめん、予想以上に面倒な空気に巻き込んじゃって」
「針がいい感じでツボに入ってむしろ心地よかったくらいだ。ほれ、思い当たる節がねえんだったらもうちょいしゃんとしとけ」
それだけ言われると、軽く背中を叩かれちゃった。
ああもう、いちいち変な言い回ししちゃって本当にお年頃だね我らが末弟は!
でも様になっちゃう辺りが流石と思ってしまう。
というか、このやり取りを知らない人が見たら絶対に私が姉に見えないような……。
まあ、これまでのこと考えたら私に姉の威厳なんて無いに等しいのは今更な気がするんだけども。
っと、入室の許可が下りたみたいだね……よし、とりあえず気合一発でイクゾー!
「父上。アニスフィア、ただいま参りました……!?」
「ついでに保護者枠の末弟もご到着……おいこら姉上、回れ右しようとすんな気合どこ行った」
執務室の中にいたのは父上とグランツ公、そして……もう一人。
その人と目が合うや否や私は撤退しようとするが、まるでそれを予期していたようにマッドくんがきっちり退路を塞いでいる。
どっかのシャトルみたいな即閉じ込めコンボするのは止めてー!さもないと私の精神が危ないことに
「よく来たわね、アニス。──そして、わざわざ愚姉のお供をして貰ってごめんなさいねマドラーシュ」
私に向けられた声を聴いた瞬間に、冬でもないのに恐ろしいまでの悪寒が一気に全身を駆け巡った。
この声を忘れたことなど一度も無い、あるはずがない。
だって私が最も恐れて頭が上がらない人物……パレッティア王国現王妃、シルフィーヌ・メイズ・パレッティアその人なのだから。
そんな恐怖に足をガタガタさせている私とは対照的に、マッドくんは何てことなく一礼……したかと思いきや早速口を開く。
「面倒事を聞いてはわざわざ遠いところ飛んで帰って来た肉親を労わないなんて、それこそ息子失格になっちまうからな」
「デイジーから聞いていたけれど、相変わらず律儀ですね。私たちに向ける必要は無いのですよ?」
「何、色々ありながらもここまで人生謳歌出来てるんだ。それなりに礼は尽くさせてもらうさ」
って、マッドくんに対してだけ色々和らげてるし!
ちょっと母上、この末弟も色々裏でやらかしてますよー!
いや、むしろ私以上かもしれませんよ!
……なんて言った日には、私が色々な意味で終わりそうだから絶対に口に出来ない。
というかこの言い草、もしや……!?
「ま、まさかマッドくんは知ってたの……?」
「未遂に終わったとはいえ婚約破棄を扇動する騒動が起きたり、その上で新種のドラゴン込みの黒龍由来のスタンピード。その時姉上は独断専行かましてる。母上としちゃあ、緊急帰国条件は立派に満たしてるじゃねえか」
「マドラーシュが言ってくれた通りです。全く、愚姉賢弟とはこのことを言うのでしょうね」
刺々しい母上の言葉はそのまま私の精神に対するダイレクトアタックと化していた。
うう、それなら忠告くらいしてくれたっていいじゃない!
せめてもの非難の視線を向けようにも、ピンポイントに私に向けられる威圧感がそれすらもさせてくれない。
可愛らしい見た目に反して、若い頃は武人として戦場に立っては王国最強とすら言われることも多い女傑の圧は、それはもう半端ない。
なのに、マッドくんはいつも通り……いや、普段より饒舌になってる気配すらある。
……この親あってこの末っ子なのだろうか。
「まぁ、アニスはとにかく座れ。マドラーシュは……すまん、まさかお前まで来るとは思わなくてな」
「いやいやお構いなく。あくまで保護者枠だし、たまには背景に溶け込ませてもらうさ」
対する父上はマッドくんに対してぎこちない態度だった。
まあ、実質王位から切り離して殆ど接することが無かったからこうなっちゃうよね……。
それに対してジョーク混じりで返すマッドくん、どこまでも年不相応だ。
自分の境遇に対して腐らず、むしろ受け入れて生きてきたからこそというのは少し前に言い合った私だから分かる。
……何というか、ちょっぴり悔しくもある。
けど、それを吹き飛ばすほどの圧が再度私に襲い掛かってくる……!
「それで、アニスは私のいない間も随分と元気に過ごしていたようですね?そのお転婆な部分は未だ改善されていないようですが……久しぶりに母として教育を施すべきなのではと気を揉んでいるところです」
「お転婆なんて可愛いものだぞ?聞いた話じゃあ、あのスタンピードは『無慈悲な主役』と『光誓の座天使』がいなかったら真面目にヤバかったらしいからな。精密な危機察知と生還術を叩き込むための肉体言語安定かと」
ひぃぃ!?ちょっとマッドくん、ここぞとばかりに母上に味方するのは反則だってば!
っていうか、この間は二人の私たちに対する接し方もどうかと思うところもあるって苦言呈してたばかりだよね!?
……いや違う、これは傍観者なりと末っ子なりの立ち回りってヤツだ。
ぐぬぬ、こうなったらこっちも鬼札だ!
「は、母上!私は誠心誠意心を入れ替えて邁進しております!それはそれとして、マッドくんも私に負けず劣らずやりたい放題が過ぎていて」
「ええ、そこはアニスの言う通りですね。ですが、マドラーシュは決して無茶と無謀を履き違えることはありません。──時折やりすぎも散見されるものの、使えるものを使ってきっちり後始末をしては失敗もきっちり糧にしています。この後個別で話はしますが、少なくともこの場で説教をするほどではありません」
「そもそも何で弟を引き合いに出すのだ。それでお前の奇行が無かったことになるわけではないのだぞ?」
うわあ、分かってたとはいえあの母上の信頼を完璧に勝ち取っちゃってる……。
無論、適宜隠している部分もあるんだろうけど……母上のことだ、その辺りも感づいた上での評価な気がする。
グランナイツナンバー2で親友でもあるデイジーから極秘情報が行ってる可能性もあるからね。
というか、マッドくん連れて来ちゃったことで私の立場がむしろ悪化しているような……気のせい?
「まあ、あえて言うならばマドラーシュ王子殿下は如何せん国を刺激しすぎているきらいはありますがね。特に東部の開拓を通り越した改編についてはアニスフィア王女殿下のそれ以上にこちらも忙しなくなったものです」
「殆ど事後承諾のような形になってしまったところは申し訳なく思っていますが、その分お手を煩わせるようなことを可能な限り減らす形にはしたつもりですよ?お陰で俺やグランナイツの面々が裏でコソコソと駆けずりまわる羽目になりましたけどね」
うわあ……マッドくん、グランツ公とも平然とやり合っちゃってる。
実は国家転覆狙ってるのではと危惧されてること、結構根に持ってたりするのかな……。
それとも、ただの売り言葉に買い言葉なのか。
グランナイツの名前出す時なんか、わざとらしく語気を強めてたからなあ……。
お陰で父上が更に申し訳なさそうと言うか、胃薬を求めているようなそんな表情になっちゃってるし。
……やっぱりマッドくんって、こういう場面だと鬼畜になりやすいよね。
まあとりあえず一言だけ内心で言っておきたい。
──あんまり調子に乗ってると、ユフィにお灸を据えてもらうからね!
将来義理の親子になるかもしれないんだから、変に火花を散らすのは良くないと思うよ!
「と、ところで父上!私はお説教されるために呼ばれたわけではありませんよね!?」
「あ、ああ……それはあくまでついで、ここからが本題だ。でなければ、ユフィリアを一時帰還させては間接的に離したりせぬわい。──マドラーシュ、こちらの都合に付き合わせて悪いとは思うが……」
「──なるほど、たまに傍観者気取りで口を挟む背景にランクアップか。俺自身も色々気にしてたところだし、構わないぞ」
ふぅ、何とか元の路線に戻せた……グランツ公もマッドくんに険しい視線を送るのを止めてくれたね。
国全体を見る立場からすれば目に余るところもあるかもしれないけど、マッドくんもちゃんと気を遣ってその上で自分なりをちゃんと貫いてるのは確かだ。
……まあ、マッドくんはきっと厳しい第三者がいてくれることを喜ぶ気もするんだけど。
だからと言って、変に煽るのはダメ、絶対。
「婚約破棄扇動の件、ようやく事情聴取が一段落してな。アルガルドについてはユフィリアの証言やマドラーシュの陳述書もあって今は謹慎も解除している。代わりに他の証言がなかなかに酷いというか、錯綜していて思わず頭を抱えたぞ」
「酷いというのはまあ、ユフィをわざわざ離したってことから分かるのですが……錯綜とは?」
「文字通りですよ。当事者3名への擁護と批難が入り乱れ、挙句覚えが無いという証言にすらならないものまであるほどですからね」
3名っていうのは、アルくんとユフィ、そしてシアン男爵令嬢のことだよね。
擁護と批難って……てっきりユフィに関しては後者ばっかりだと思ったけど……。
というか、覚えが無いって一体どういうことなんだろう。
「まず、婚約破棄扇動の時に挙がっていたシアン男爵令嬢への嫌がらせは普段からユフィリアの周囲にいた令嬢たちが実行していたようだ。彼女たちはユフィリアの意を受けてと言っていたが……」
「ユフィリア嬢が全く関与していないところでの話だ、そんな証拠はどこにもないんじゃないか?それならシアン男爵令嬢に対して指摘というか、多少の面倒を見ていたって方が兄上も見解が一致してることもあって信用できるんだがね。少しずつだが人当たりがいい方向に変わってきているって声も聞くらしいが」
はえーよ……もとい早いよマッドくん、まるで用意していたと言わんばかりの準備っぷりじゃない?
親しく呼ばないようにしたり、その他諸々も上手い具合に隠しながらのそれっぽい擁護。
二人の仲を悟らせないためとはいえ、もどかしく感じてしまう。
「ユフィリアの擁護意見は大体そのような感じだな。アルガルドについても同じようなもので……シアン男爵令嬢については、ユフィリアの指摘に対して過剰に反応しただけでは?という意見と同情的意見と共にユフィリアに非があるのでは?と思う者で見事に割れている」
「……我がマゼンタ公爵家の娘が他者を陥れるような行いに手を染めると思っている者がそれだけいるとは、舐められた話ですな」
グランツ公から発せられた声にまるで温度を感じられなくて震えそうになってしまった。
なお、マッドくんは先ほどのやり取りはどこへやらか静かにうんうんと頷いている。
論理的に同調しているように見えるんだろうけど、かなり感情的なところなんだろうなあ。
これでそういう感情持ってないって絶対嘘じゃないかな……はたまた朴念仁が過ぎるだけなのか。
「嫌がらせを実行した者たちの言い分は『意を受けた』と曖昧かついくらでも取り繕うことが出来て、そもそも当事者たちへの証言も二分状態……確かに、何が何やらですね。そして、最後に覚えがないというのは……」
「あの場でユフィリアを糾弾する空気を作ったことに対してではないかと推測している。元々ユフィリアやシアン男爵令嬢と距離を離していた者の一部が必死にそう訴えておった」
「それ、シアン男爵令嬢を囲んでいた顔ぶれが怖いのと良心の呵責が綯い交ぜが原因じゃないか?」
「確かに……近衛騎士団長の息子、魔法省長官の息子、有力商会の息子。王太子が除外されたとしても反応に困る有力な顔ぶれですわね」
うん、ここもマッドくんの推測は普通にありそうだね。
有力子息が作った空気に対して同調も反抗も出来ず、その内日和見になってしまったってこと。
それが消極的同調だと理解しているからこそ、良心は痛みながらも自己保身に走ってしまう……そんなところかな。
何にしても、この混沌とした状況を打破するような証言じゃないから一旦スルーだね。
「纏めてしまえば、どの方向から真相を突き止めようとも証言が二分されてばかりで二進も三進も行かん。近い内にシアン男爵令嬢をシアン男爵と共に登城させ、かの令嬢の人となりを確かめようと思うのだが……」
「延々と後手を踏んでは時間の無駄、その方が手っ取り早いでしょうな」
「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』、男爵も同伴は僅かにリスクもあるだろうがそうしないとやってられないからな」
マッドくんの言うリスクは、シアン男爵が糸を引いている可能性かな。
その可能性も否定しきれない辺り、今回の騒動が如何に混沌としているかが分かる。
解明に近づくためにも、当事者で唯一霧まみれなシアン男爵令嬢を見極めるのはもはや必須事項だよね。
個人的にも色々気になってしょうがない、というのもあるんだけど……。
「アニス、お前もその場に同行するか?」
「許可を頂けるならばそうしたいですが……よろしいのですか?」
「その『気になりすぎて夜も眠れない』表情を見ればな……それに、これからはお前も王族としてこのような場面に直面せねばならん。経験を積む、という意味では悪くはないだろう」
うげっ……まさかの藪蛇やっちゃったか?
気になるけど、別に王族として云々な辺りはいらない……
「──今『うげっ』と聞こえた気がするのですが……アニス?」
自分では抑えたと思ってたけど口に出てたー!?
ヤバいヤバい自分からボロ出しちゃダメでしょーがぁ!
「あ、それなら俺が先日食した何かが化けて声だけ出演したのかもしれませんね。全く、そんなんだから狩られるってのに、空気は読んで欲しいものだ」
「一体何を狩って食用にしたのか、それは突っ込むべきではない……よな?」
「『栄養はゲテモノ肉でも変わらない』、この格言は国中に広めるべきだと思うがな。実際、東部では戦力拡充と共に拡散したら、それはもう見事に餓死の比率が減ったぞ」
何でもないように無理やり流れを変えるマッドくんが頼もしすぎて全私が泣きそうである。
っていうか、今母上こっち見てたから絶対に気付いてたヤツだよね……?
保護者役としての顔を立てて免じてくれたのだろうか。
……ところで、ゲテモノ肉って聞こえたんだけど君たちは普段から何食べてるのさ。
「貧民にまで向けられる視野は流石ですが……中途半端に踏み込むばかりでは、互いに火傷しかねないかと」
「明日どうなるか分からない立ち位置の人間については、これでも多少は理解しているつもりです。それにこれは施しじゃない。各々が勝手に救われる選択肢を掲示したまでのことですよ……こちとら威張り散らす趣味は持ち合わせていないので」
──そしてまーたグランツ公に対して食ったような笑みを向けてるし。
マッドくんとグランナイツのこれまでの背景を分かってる者からすれば、この上なくキツイ皮肉を返す辺りも凶悪過ぎる。
それにしても、この二人は見事なまでに反りがあってない……というより、グランツ公のマッドくんへの警戒っぷりが本当に凄い。
マッドくんの得体の知れなさは同感したいところだけど……それは私も知識の面では似たり寄ったりだからなあ。
ただ、マッドくんも如何せん好戦的すぎるって……。
イグノックスの貴族嫌いがそのまま移ったような物言いは本当によろしくないから。
「オホン──まあ、ひとまず一連の騒動については以上だ」
あ、流石に父上も待ったをかけたようだ。
とはいえ、マッドくんは最大限の返しをしたまでのことだからまるで痛手がない。
うん、やっぱり怖いよこの末弟……一体どういうこと教えてもらったのやらか。
……ところで、私としても拍子抜けなわけなのですが。
「──あの、もしかして本当にシアン男爵令嬢のことについてだけ……?」
「ああ、そのつもりだが……何だ、お前はまた何かやらかしたのか?」
しまった、気が抜けてつい余計なことを口走ってしまうなんて!
MATTE☆マッドくん、これは不幸な事故なんだ!
そんなユフィみたいなジト目で私を見ないでください、そんな趣味は流石にない!……はず、きっと恐らく多分Maybe以下知らない!
「そもそも、マドラーシュをこの場に同伴させたのも無理やり引きずってとかではありませんよね?」
「な、何でそうなるんですか!?ちゃんと二つ返事で了承を貰いました!ちゃんと合意の上です!」
「普段の奇行っぷりからそう思うのも無理はないが、今回はあくまで個人的利害の一致も多分に含まれているってだけだから安心してくれ母上」
個人的利害って何だって思うけど、ひとまずナイスアシストぉ!
お願い、せめて母上の折檻だけは……それだけは回避させてくださいませ!
嫌だ、私は干物になりたくないぃぃ!
「……では、助手として迎えたユフィリアにはどうなのですか?彼女に迷惑はかけていないと、胸を張って言えますか?」
「は、はい!私は彼女が心健やかに過ごせるよう粉骨砕身のつもりで日々を過ごしております!決して母上の思うようなことはございません!」
「どうしようもなかったとはいえ、ぶっつけ本番の魔女帚でグロッキーにさせてる時点で初っ端ファウル1じゃね?」
そもそもそれは余計だから口にしないで欲しかったなあ!
その辺りまでカウントしちゃったら、もはやとっくにレッドカードでドナドナ安定だってば。
だから、そこだけはいっそ無かったことにしてほしいんだけど……。
「件の騒動こそ未遂に終わりましたが、そもそも婚約解消については王家側の責です。マドラーシュと入れ替わる形で継承権第二位を持つのですから、せめて王族としての務めは最低限果たせるようにならないと困ります。この間のスタンピードでも上位冒険者だからと真っ先に突貫していたとのことですが、そもそも王族として有り得ないこと……せめて状況判断のため立ち止まることを覚えなさい。しかもユフィリアまで巻き込んで……末弟の爪の垢を煎じて飲ませるべきでしょうか」
「母上、お説教は程々にしておいてくれよー。じゃねえと俺の番が回るのが明日になっちまうからな」
「そう思ってるならマッドくんはもっと助け舟出してよ!」
「すぐそうやって弟に泣きつくとは、一体どういう了見ですか!やはりここは久々に稽古でもつけてその甘ったれた部分を少しでも……」
ひぃぃ!?それだけは本当に勘弁してくださいってば!
本当に何でマッドくんに対してここまでピンポイントに親バカ発揮しちゃうのさあ!
ああもう、父上は頭を抱えてるしグランツ公は我関せずだし味方が見事なまでにいない!
これ、生きて離宮に戻れるのかなあ……。
シルフィーヌの説教とマドラーシュの援護射撃は相当に堪えるものであることは言うに及ばず。
半ば干物となったアニスフィアはグランツと共に退室する。
結局いつものように、何とも言えない喜劇を撒き散らしたこととなるのだが……それもここまで。
かれこれ対面するのはいつ以来か、残った3名による面談の後半が始まった。
さて、最初から王族として育てられることすら良しとされなかった末っ子との対面である。
どれほど面倒で気まずい空気が流れることだろうと思うところだが、実際はそうでもなく……。
「オルファンス、そろそろ腹を括ってはどうなのですか。マドラーシュに示しがつきませんよ」
「すまん、あっさりこんな状況になったことに戸惑いを抑えられなくてな……」
「それについては突貫気味になっちまった俺の責だ、あんまり突かないでやって欲しい」
とはいえ、気を重くしているのは1名だけなわけだが。
オルファンスが気を重くしているのは、生まれた時から課さざるを得なかった次男への不遇な扱いに対してが主である。
まるでおかしくもない、普通の罪悪感と言える。
対するマドラーシュがむしろ気遣う側に回っているのがおかしく見えるほどだが、彼にとっては最初から何も無いのはむしろ都合が良かったのだ。
その上、自身を含む王族の状況が本当にどうしようもなかったことも理解した上で、何なら今二人が相対しているものもきっちり受け止めている。
だからこそ、傍観者としての立ち位置を得たからこその大立ち回りを演じてやろうとも思えたのだ。
一見捻くれた情だが、結局のところいつもの『気に入らないから首を突っ込んだ』理論であった。
「かつての私に似たのかと思えば、オルファンスのような気の使い方まで覚えて……だからこそ、アルガルドの歪みをも正して最悪の可能性を避けることが出来たのでしょう。あの子については私たちも自省するべき点ばかりでしたので、本格的に貴方には頭が上がらなくなってしまいますね……」
「事前に察知する形でアルガルドとユフィリアの仲介をして書面も残してくれた。正直、あれが無かったらもっと泥沼になりかねなかったからな……お前がいなかったらどうなっていたことか。この国の王として、そして父として礼を言わせて貰いたい」
「その辺はあくまで行き当たりばったりで気に入らないから動いてたのが上手く働いただけのことさ、二人とも頭を上げてくれって……それに、後者についてはまだ終わってないからな」
その言葉と共に、マドラーシュはスイッチを切り替える。
先ほどまでの軽口ながらも穏やかな空気は取り払われ、ある程度裏の顔を見せるための仮面を被る。
『無慈悲な主役』になるほどではなく、ちょっと裏をかじる程度の匙加減はまさに絶妙の一言に尽きた。
「その様子……裏で何か掴んだのか?最近はグランナイツもかなり忙しないようだが……」
「最近の魔物の活性化。明らかに人為的なものに2回ほど立ち会った」
「あのスタンピードは黒龍由来かつ新種のドラゴンとイレギュラーだらけだったけれど……まさか、それは隠れ蓑だったと?」
「どちらもスタンピードより前に起こった事象だからそこは分からねえが……魔物の凶暴化が散発し始めたのが1回目の後で、2回目は婚約破棄扇動の真っただ中。繋がりというか、どうにも王都から俺を含めた有力人物を離そうって動きに見えてならない」
実際、レオンやカルシオンについては1回目の直後からあらゆる方面で動き始めている。
2回目のカル渓谷の件も、仮にマドラーシュやラス達がいなければカルリッツとデイジーが動くことになったことだろう。
特に後者については、マドラーシュの言うような戦力分離という狙いにも見えなくはない。
聞く人によっては一蹴するような推測だが、オルファンスとシルフィーヌにそのような浅慮は一切ない。
深部こそまだ知らされていないとはいえ、二人もまたマドラーシュのやりたい放題をある程度目の当たりにしてきたことは何より大きかった。
「婚約破棄扇動に繋がる可能性……王位継承権関連の混迷を狙ったものということか。そうなると国内だけでも疑わしいところは多いな……」
「その上で国外……特にアーイレン帝国への睨みも利かせる必要がありますね。スパイとして潜入しては扇動している可能性も拭いきれません」
「偉志ノ大陸もどっかからの干渉を受けてるっぽいし、母上の懸念がどんぴしゃりって可能性は普通にあるな。引き続きレオン先生やイグノックス兄さんは外で動いてもらい、俺とデイジー師匠にカルリッツ父さん、ラインヒルト先生が王都内で睨みを利かせる……当面この方針だね」
「本当はお前にそこまでさせるのは心苦しいが……人材不足故致し方なし、か」
「その点はこれを機に色々見直す必要がありますね……壁が多くて、頭が痛くなるところですけど」
シルフィーヌのぼやきに含まれる壁については、マドラーシュからすれば心当たりしかない。
既得権益に囚われた、ある意味では哀れだが同乗の余地なしの連中……破天荒にとっての不倶戴天の仇。
その連中は国を縛り上げ、挙句自身の肉親たちに頭を抱えさせては苦心させている。
改めてその事実を確認して、マドラーシュは内心でどす黒い笑みを浮かべる。
──例え後に鬼、悪魔と罵られようと打倒しなければならないと。
「そうなると……先ほどのシアン男爵令嬢の件、マドラーシュにも同伴を頼むべきだな」
「それは好都合。こちらとしても彼女については以前から気にしていたからな……ざっと1年越しか」
「先ほどあまり口を挟まなかったということは、彼女については別口で情報を持っているというわけではないのですね」
「強いて言うなら、シアン男爵令嬢が仮にアル兄さんを狙ってたってなると如何せん手口が雑過ぎやしないかって疑問があるくらいだ。まあ、全ては人となりを見てからだがね」
ここだけはピンポイントにぼかしを入れていく。
既にマドラーシュの中では、件の令嬢には魅了の特殊能力ないし魔法が備わっていることは8割以上確定している。
意図的に隠すのは、状況証拠しか無い状態で口走ることによる混乱を防ぐため。
それでいて、件の令嬢ばかりに注意を向けることの危険性もさりげなく伝える。
先ほどの魔物凶暴化との兼ね合いも加われば、警戒範囲を自然と広げさせるのも容易だ。
そしてそれこそが、秘匿戦力を自然と動かす口実にも繋がる。
「ひとまず、秘密裏に話すべきことはこれくらいか。──やれやれ、こうなってくるとお前の実績をいつまで隠しておくのかとなってくるな。王族から外れた生き方を強かれて尚、これほど化けるとは誰が思うことか……」
「だから私やデイジーは常日頃からこの子には早めに相応しい地位を用意しておくべきと忠言したのです。今となってはあまりに活躍が多岐に渡って、どこに置いても役不足という有様でしょう?偉志ノ大陸からの冗談交じりの婿入り話を聞いた時は、本気であちらに取られるのではないかと肝を冷やした程です──あらゆる意味で結果論ですが、いっそマドラーシュとユフィリアを婚約させていればどれほど良かったか……何でこう、裏目に出てばかりなのでしょうか」
「こらこら待つんだシルフィーヌ、それは流石にグランツも難色を示しかねないぞ!そもそも裏目ばかりなことは私も同じなのだ、せめて今出来得る限りで共に挽回の道を探ればよいだろう!」
「母上まで面倒になったら俺はともかくとして、姉上とアル兄さんが不憫だからしゃんとしてくれ!後その婚約話については父上に同感だ、俺にそんな浮いた話いらんから!」
末っ子の前では王妃の仮面は割と簡単に外れてしまうのがこの母である。
その際に負のループに突入するのも割といつものことで、今回はオルファンスとマドラーシュが宥めるが時にはデイジーがその役割を務めることも。
その最中でしれっと最後の方に放っている言葉は、本人としてはあまりに洒落にならない仮定ときたものだ。
彼らの現状を知る者が聞けば、確実に吹き出すわ弄りが始まるわの混沌空間が展開されることだろう。
マドラーシュの内心は珍しく汗の滝行が出来る状態だが、何とか表情に出さないように必死であった。
……他に事情を知る者がいたら、間違いなく盛大にニヤつく場面でもあろう。
と、本作では末っ子限定でかなり親バカ発揮する母上でした。
そして親子関係についてはこんな扱い受けておいてめっちゃ良好、というか息子側の気遣いっぷりがなかなかのもの。
ある意味、これも魔法至上主義への対抗理由の1つなんですよね……本来の家族と義理の家族、どちらも苦しめられたらそりゃぶっ壊そうぜってなる。
そして色々警戒しまくりなグランツ公、でも回避カウンターかましまくる。
まあこれについては姉上の独白通りちょっとした仕返しです。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
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転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)