穏やかながらまたジワジワ動く感じです。
それにしても4章執筆進まんなあ……。
久方ぶりの父上と母上との会合も終わり、俺はそのまま我が離宮に帰還した。
何というか、ちょっとは実は親子らしいことは出来たんじゃないかね……。
父上はまだまだ俺に負い目を抱えてそうだったのが、ちょいと痛々しかったがな。
そして、今日も色々ボロボロだった姉上のその後は現状俺の知る由ではない。
どこへ行ったのか知らねえが……まあ、後日ユフィと一緒に詰問してやればいいだけのことだ。
多分レイニ嬢のことで独自に動いているってことくらいは分かるがね。
にしても、俺に目を光らせるっていうユフィからの指令をすっぽかしてしまうほど母上のプレッシャーは効いたんだな。
お陰で変にひっつかれることなく、こうして堂々と話し合いが出来るってものだ。
──それにしても、だ。
「まさか3年で顕魂術やら諜報における経験ばっかりか、侍女としての役割まで完璧とはな……」
「あらゆる意味でマッド様に相応しくあろうとした結果ですが……私としてはまだまだと思っておりますよ」
「……向上心があるのは大変素晴らしいことだが、昨晩みたいなああいうのはマジ勘弁願うぞ……そこだけは鳴りを潜めて欲しかった」
「ふふ、据え膳命令はいつでも受け付けておりますからね」
俺ら以外誰もいないからってそういう危ない発言するなっての!
え?昨晩何があったって……まあR指定には踏み入れてないからそこは安心してほしい。
ただ、まあ……セラが俺に向けてるあのぶっ飛び感情をまんま闇属性にしたらこういう感じなのかあってことで。
人材的に見たら極めて優秀なのに、変なところで残念なのはまさにセラのまんま属性違いだ。
「マッド様、7人ともお揃いでしたので纏めてお連れ致しましたよ」
「よしナイスタイミング。ちょいと狭くなっちまうが何とかなるだろう」
とりあえずセラには今いる人員を集めて欲しいと頼んでいたが、全員集合はいいことだな。
まあ、10人もこの部屋に詰めるってなると流石に手狭になっちまうがそこは仕方なし。
「あれ、オルタ以外に追加人員なんて話はあったっけ?それも見るからに王宮付きの侍女の人だよね……」
「……アンタ、実は侍女狙いだったりするの?」
「流石は天然のすけこまし!──でいいんだっけ?」
「チビにしては珍しいな、ちゃんと当たってるぞ。つうか、呼び出されたかと思ったらとんでもねえものを見せられたもんだな……」
開口一番で続々と爆弾をぶちまけてくれるなこいつら!
特にナマリエ、勝手に歪な性癖つけるんじゃねえぶっ飛ばすぞ!
それ言ったら白馬の王子様狙いっていうスイーツ脳全開なお前はどうなんだってんだ。
「この度マドラーシュ王子殿下の第二専属侍女として王宮務めから異動してきたプリシラ・ソーサラーでございます。特別近衛騎士の皆さま方とも共同で事に当たることも多くなると思いますので、これから末永くよろしくお願い致します」
「前に話した色々虐げられた上で違法実験のモルモットにされた令嬢だ。滅茶苦茶見込みがあったから救出ついでに顕魂術を叩き込んだんだよ」
「……よくよく見ると、結構雰囲気出てるわね。ここに来る前傭兵みたいなことでもしてたの?」
「そうですね……傭兵よりは諜報員と称すべきでしょうか。マッド様の知人の元で王国、アーイレン帝国、偉志ノ大陸、カンバス方面を飛び回っておりました。今はラインヒルト様からの依頼で王宮付きの侍女としてアニスフィア様とアルガルド様の周囲を監視して、時期を見てマッド様と合流した次第です」
諜報員と聞いて一瞬ナマリエとカルトは眉を顰めるが、すぐさまその警戒は解かれた。
それはもうあっけらかんと経緯を話し、そこには一切の誤魔化しを感じ取れなかったからな。
プリシラとしても俺の身内だからか、特に警戒の様子は見せずスラスラと身の上を話している。
うんうん、距離の縮め方が自然で見ていて安心できる光景だな。
「ソーサラー伯爵と言うと、色々と悪い噂もあるが……まさか違法実験に手を染めていたとはな」
「今ではあのクソ親父には感謝しているほどですけれどね。こうしてマッド様の救いと導き、そして自立を与えられこうして馳せ参じることが叶ったのですから」
「ったく、実質捨てられたってのに随分とまあ……だからこそこの破天荒王子の侍女をやれるんだろうけどな」
これでも最初はかなりネガティブモード全開だったんだぜ?
今やグランナイツとかヴィルジール、俺くらいしか知らないあの頃、3年前だってのに懐かしさしか起きねえな。
その分反動が凄まじくて今では色々と無敵の人ムーブがとんでもない状況なんだが。
「一度失っても再起できるなんて本当に凄いです!妹弟子として、私ももっと頑張らないと……」
「そういえば、セリアード様も直弟子でしたね……ふふ、姉として振舞える機会が増えて私としても喜ばしい限りです」
「私とパーシモン子爵令嬢を含めれば四姉妹ですか。どこまで増えるのか、実に楽しみですね」
「……しれっと物騒な集まりが出来てんじゃねえのかこれ」
何を言うかカルト君、ただの俺の弟子茶会的なノリだろうに。
直弟子同士の疑似的姉妹関係、こういうのも面白いじゃないか。
スタンピードで自身の命以外全てが無になったセラ、モルモットとして放り出されて一度全てを失ったプリシラ、そしてほぼ全ての記憶を失ったセリアード。
似た境遇が故に、互いにシンパシーを感じたんだろう。
さて、新たな同志の紹介もそこそこにしておくとしようか。
「次は本題に入るぞー。ついさっきまで婚約破棄扇動の状況確認と及び父上と母上の双方にに魔物の活性化の件も絡めた警戒を促すために王宮に行ってきたわけなんだが……」
「帰って来てたんだな、王妃様。一体どんな家族会議が展開されたか見てみたかったもんだぜ」
「こらカルト、あまり不敬なことは考えるものじゃないぞ?」
一体何を想像してるんだか知らんが、カルトは少々ばかり口端が上がっている。
別に何ともねえんだがな……父上が割り切れてなくて罪悪感が残ってるくらいで。
まあ、姉上とアル兄さんの前では互いに自重してるがな。
俺はともかく母上がそれはもう色々と大変なことになっちまうし。
「なるほど、アンタのその動きに合わせての新しい任務ってわけね。ラインヒルト様、動きを最適化しすぎなんじゃない?」
「ああ、それは私が頃合いを見て情報を流したからですね。陛下と王妃様からラインヒルト様を経由して皆さまの動きに繋げられれば、大義名分を得てより動きやすくなりますので」
「主が即断即決ならこっちも合わせる、か……セラもそうだけど、マッドの傍付きって本人の影響なのか本当にハードルが高いよね」
「え、むしろそれくらい余裕でこなせるほどでないと専属侍女なんてとても名乗れないのでは?」
「いや、それは流石に無いから(無いぞ、無いよ、ねえよ、無いって)」
何を今更と言わんばかりのセラに対し、セリアード以外の全員から見事にツッコミが入った。
そりゃあ、侍女にエスパー的能力まで問われたらなり手がいなくなっちまうし。
……俺としてはありがたいことだし、何も言えねえんだけど。
「で、ここで新しい任務ってことは……魔物狂暴化の調査か、はたまたレオン先生辺りが見つけた違法実験所の摘発か?」
「前者が主だね。後者はなかなか情報が集まってないって。オルタもそれらしきものを見つけたりして目処も立てているんだけど……」
「主にマッドやグランナイツも長いこと動いていた東部での話だからね。西部の方はそこそこ監視の目もあるだろうし、不用意な調査はご法度だろう」
「そこで、私たち見習いが魔物調査の体で探りを入れる……ってところね。魔物の動きがおかしかったり、そもそもの分布がこれまでと違ってたら重点的にとのことよ」
そうなってくると、具体的方針もあらかた固まってきたな。
オルタの言うように、東部は俺たちが動いていたり独自の人脈があるから迂闊な動きはそこそこ封じ切ってる……はずだ。
あっちの諸侯は、軒並み俺に与していると言っていいくらいだからな。
まあ、あのアホ共が幅を利かせている東の賢者が『無慈悲な主役』であり、更にマドラーシュであることまで分かっていること前提なんだがね。
世の中どういう慢心抱いてるバカがいるか分かったもんじゃねえから、そういう警戒も必要だ。
それでもまあ、バレてること前提で立ち回った方が絶対にいいだろうけど。
「ラス達は任務通りに、俺とオルタが別行動を取ればいいと」
「でしたら、プリシラをお二人の方に付けましょう。私はラス様たちに帯同し、戦力補佐を全うさせて頂ければと」
こっち側は人数が少ない分より隠密特化が欲しいし、それが正解か。
……プリシラの表情がものすっごい輝いているねえ。
オルタもいるし、そもそもコイツは公私混同はするようなタイプじゃないが……はっちゃけすぎないようコントロールはしてやらんとか?
「あはは……セラがこっちってことは、高火力が二人ってことになるのかあ……上手く制御しないとだなあ……」
「それだけじゃないわよ?潜入ってなったらセリアードも初めてなんだから、そこもきっちりフォローが必要になるわ。まあマッドだけじゃなくてアンタもそれくらいしないとね」
「そ、そうでした……潜入なんて上手くやれるか心配です……」
あーそうだった、セリアードにまだそういうの教えてなかったな……。
まあ、今回はセラに徹底フォローを頼むしかないか。
ラスはやたら心配そうにしてるが、コイツの多芸っぷりは隠密行為でも発揮されるからな。
じゃなきゃ、7年前からグランナイツと一緒に行動なんてできないし。
色々ぶっ放したくなる衝動も、隠密とあらば抑えられるだろうし……抑えるよな?
……と目配せしておいたが、意図はきっちり理解しているようで何より何より。
んで、ナマリエは真面目に注意しているように見えるんだが……そのスイーツ脳空気を少しは隠せっての。
何だ何だ、俺が見ない間にラスとセリアードってそういう進展あったりするのか?
「まあ、ラインヒルト先生の口ぶりからすれば少しは長い目で見るべき任務だ。俺もシアン男爵とレイニ嬢の登城に同席したりとか色々あるし、ある程度は好きに動いてくれ」
「そちらの方にも首を突っ込むとなると、マドラーシュ様もかなり忙殺状態ですね……ゆめゆめご無理はなさらぬよう」
「何だかんだで一番働いているのは間違いないからね。まあ、主に疲弊しているのは女性関係の方なのだろうけど」
「うっせえ、異性の前ですぐ石化するような残念イケメンよりはマシだろうが」
まあ、二人の相手が疲れるのは否定しないがまだ許容範囲内だ。
バレないような絶妙な言い回しやら立ち回りの方がむしろ面倒なんだよ。
しかしまあ、こうなったら姉上もユフィもとことん首を突っ込んでくるだろうからな……。
やれやれ、陰の王族ってのもやはり楽じゃないね。
「というわけで後は進展あるまで自由行動!俺はちょいと工房に籠るぜ!」
「ウチも行くー!例のドレッド・ドラゴンの魔石のイメージ見てみたいし!」
「そういうことなら、私もお目付け役としてついて行こうかしら。属性的にグリフォンの魔石もちょっと気になるし」
やっぱこういう時は顕魂術の研究に限るってな!
もはや趣味になっちまってるが、楽しいんだから仕方ない。
根を詰めてばっかじゃあ為すことも為せねえってデイジー師匠も言ってたからな!
……ちなみに俺たちが工房で籠っている間にラス、オルタ、カルトがめっちゃ手合わせしてたとか何とか。
そっちにも混ざりたくて、分身生みだす顕魂術なんてのを本気で考えようと思ったのは言うまでもないことだった。
ナマリエとカルトに全力で止められて断念することになったが。
先日通った道を眺めながら、私ははやる気持ちをひたすら抑えていた。
1日だけとはいえ、私がいない間にあの姉弟……特にマッド様は変なことをしていないだろうか。
言い含めてから発ったとはいえ、本人がきっちり認識していなければ何にもならないのだ。
場内の様子からしても、何か問題事が起こった風には見受けられないが……いや、油断してはならない。
アニス様はともかく、マッド様のしでかすことは表にはまず出てくることはないのだから。
しかも、今あちらの離宮には気の知れた冒険者の友人であるオルタがいる。
彼もマッド様には振り回されている風だが、もしかしたらスイッチが入ったらむしろやりたい放題を助長する可能性だって……。
──その光景が浮かんだ瞬間、私の胸の内に黒い何かが噴出しかけたのを知覚した。
「って、アルカンシェルの暴発は流石にダメですよね……何をしているんですか、私は」
暴走を認知すれば、抑えきることはすぐさま出来るのですが……これはよろしくない。
全属性の適性を持つからこそ、その魔力はきちんと制御しなければ……それこそマッド様に笑われてしまう。
いえ、そもそも私を変に不安がらせるあの人が悪いんです。
──と、そんな一人漫才をしている内にアニス様が住まう離宮が見えてきましたね。
既に出迎えに来ているであろう人影も……ああ、遠くからでも誰だかすぐに分かってしまいました。
……全く、貴方はこういう時に限って律儀なんですから。
上司やその侍女ではなく、最も親しい友人の出迎えにようやく表情を崩すことが出来た。
「せっかくだから、この俺が出迎え役を務めてやろう!──ってな。ほれ、きっちり五体満足だから約束は果たしてるだろ?」
仁王立ちで大声を出すなんて……本当に童心が抜け切る気配がありませんね。
まあ、そんな変わらない様子に安心感を覚えたのも事実です。
これで変に畏まっていたり、沈んでいたらそれこそ大事件ですからね……。
「何がせっかくだから、ですか。──いつも通りの物言いで安心しましたけど!」
「おいこら、姉上の真似して飛び降りるんじゃねえよ!運転手が吃驚してんだろうが、少しは気を遣ってやれ!」
いちいち面倒でしたので、半ば馬車から飛び降りて一気にマッド様の元へ赴く。
いっそ飛び掛かって受け止めてもらおうかと思いましたが……流石に羞恥心が勝りました。
ちなみに、これはアニス様ではなく貴方の真似ですからね?
着地の時にだって姿勢はちゃんと意識して……いえ、それはどうでもいいです。
とりあえずは無事に帰ってきたことですので……まずは約束を破っていないかの確認です。
「……体調は問題なさそうね。外傷もなし……服の中に傷を隠していたりしませんよね?」
「ちょいと久々に母上と父上と話した以外はおとなしくしてたっての……どんだけ心配性なんだお前は。イリア、証言頼む」
「マドラーシュ様については一切の偽証はございませんよ。叱られることを恐れた姫様に泣きつかれ、王妃様を労うついでで同伴しておりました」
シルフィーヌ王妃様が帰ってきていたのですか……。
──少し思考を回せばすぐに納得できることですね。
娘であるアニス様がしでかしたことが耳に入ったとすれば、とてもではないが外交に身が入るわけがない。
なるほど、今回のマッド様は本当に白のようですね……イリアの証言も真実そのままでしょう。
アニス様に泣きつかれてる様子なんて、今となっては想像することなど容易いこと。
本当に姉と弟なのか、と言われたら疑問符が生じますが……むしろ兄と妹の方がしっくり来るほどでしょう。
正直、私から見ても手のかかる妹分と思ってしまう節がありますので……。
「……その様子ですと、オルタと逢引紛いなこともしていなさそうですね。やっと安心できます」
「どんだけ警戒してたんだよお前は!?何度も言うがオルタはただの冒険者仲間であってだな……」
「マッド様、最初の印象というのは大事なのですよ?オルタはその点でやらかしてしまったというだけのことです」
「だったら俺はどうなる?初っ端盛大な口喧嘩かましてるじゃねえかよ……」
……あれはいいんです、私としてはむしろいい思い出に当たるのですから。
でも、オルタだけはどうしても警戒してしまう。
──あの絶妙なマッド様との距離の近さに、どうしても不愉快に感じてしまいます。
今だからついでのように言うと、アルガルド様との皮肉の応酬は羨ましいと思う側面はあったりしますね。
そして、姉弟としてよりを戻してからのアニス様もつい苦言を呈してしまう。
グランナイツ……特にマッド様が懐いているイグノックスにはそのような感情は抱かないというのに。
これらのモヤモヤは軒並み魔法訓練、特に魔力制御で制するようにしていますが……。
屋敷では普段より制御が上手く行かず、お母さまに見つかってしまい……色々不思議がられました。
こんなことに至った経緯やら何やらを口にしたら、何故か笑みを向けられて……。
今にして思えば、あの時のお母さまはセラやクリスティーナと同じ感じだったような……?
「さて、俺に対する尋問はもういいだろ?むしろ問題は姉上のほうなんだが……」
マッド様に言われると共に、この場にいないこの離宮の主をようやく思い出した。
通りで賑やかさが普段より少ないわけですね。
──いえ、別に忘れていたわけではありませんよ?
「工房に籠っていらっしゃるのでしょうか。新しい魔道具や何か新しい仮説を実験していたり……」
「助手が帰って来たってのに、出迎えを弟任せとはひっでえ魔学主任だな……ここは一発クレーム入れねえとか?」
それはマッド様が勝手にやったことでは……。
いえ、勿論嬉しいですけどもね?
ただ、アニス様のその様子は確かに気がかり……いえ、色々怪しいですね。
「恐らく、その必要があるかと……マドラーシュ様と別れてからスプラウト伯爵家を訪問していたとのことですので」
「スプラウト伯爵家、要するに騎士団長の屋敷だって?しかもユフィがいないタイミングってなったらこれは随分と……」
「異臭……といったところですか。これは変な香害を引き起こさないよう詰問しないといけませんね」
「ユフィも言葉回しってのが分かってきたようだな。その内お忍びで舞台女優やったりしてな?」
「存外そういうのも悪くは無いですね……勿論その時はマッド様も一緒でお願いしますよ?」
冗談はさておき、イリアからの新たな証言は明らかに妙な感覚を私に与えていた。
最近芽生えてきた、人間としての本能……ないし勘というべきでしょうか。
マッド様が最も頼りにしてきたもの、それをようやく自分でも認知できるようになってきた。
この感覚は、もう二度と失わないようにしないといけませんね。
──ところでイリア、居た堪れなくなるのでその生暖かい視線は止めて頂けないでしょうか。
工房に籠ってはこれまでの情報をひたすら精査していた。
先日母上にこってり絞られ、干物になりながらもマッドくんと別行動になった後のことだ。
げんなりモードに突入していた私はたまたまスプラウト騎士団長と鉢合わせた。
暫くは世間話というか、母上に厳しく躾けられていることを愚痴ったり親子の話をしていたのだが……そこで私は思い出した。
そう、騎士団長の息子のナヴル君も思いっきり当事者じゃないかってことを。
そこで多少無理を言ってお宅訪問をして、ナヴル君と個人的なお話をさせてもらった。
「シアン男爵令嬢、かあ……」
人物相関図のようなものを描きながらのぼやきは、言うまでもなく溜息混じり。
当事者オブ当事者と個人面談できたのは確かに大きかったけど、その分謎も増えたからなあ……。
そんな感じで脳内迷宮を彷徨っていたせいか、私の意識は完全に視界の外にはなかった。
──だから、半ば轟音と共に扉が開かれたことへの反応も見事に遅れてしまった。
「突撃隣どころか対極位置の離宮、末弟満月リヴェンジャーズ編ってなあ!」
「ヒエッ!?ちょっと、警報なしで奇襲なんて聞いてないんですけどマッドくん!?」
しかもその『悪いね☆』とでも言いたげな急降下蹴りは何なのさ、満月ってそういうこと!?
というか、この部屋の扉ってかなり頑丈に出来てるはずなのに何平然と蹴り開けちゃってるの!?
スプラウト伯爵家で蹴り開けやらかした私が言える義理ないかもしれないけど……いや、それはそれだよ。
「姫様、あまり工房に引き籠っていてはいずれティルティ様のことが言えなくなりますよ?」
「手書きの人物相関図……アニス様はいつから副業として探偵業を営むようになったのでしょうか。あまりにやらかして資金提供を凍結されたのでしたら、ご愁傷様ですね」
「何だ何だどうしたユフィ。随分とまあ楽しそうに口を回すじゃないか……まあ、凍結はやらかしが度が過ぎたら実際有り得そうで草生えるな」
うわわわ、マッドくんに気を取られていたらイリアに身柄を確保されその上ユフィまで乱入して物的証拠抑えられた!?
だから複数形だったのか、単なる語呂の問題かと思って油断してた!
というかユフィ、帰ってきてたんだね……お出迎えはマッドくんがしてくれたってところか。
それは微笑ましいことなんだけど、マッドくんの暴挙を咎めるどころかむしろノリと勢いに乗っちゃってるのは何故に?
とんでもなくカオス全開な流れに、お姉さまはとっても混乱しているんですが。
「っていうか資金提供凍結とか洒落にならないよ!?本当にそうなったら、私はマッドくんの元で居候して研究続けるからね!」
「ええー姉上養うとか勘弁願うんだが……週休6日謳うヒモになりかねないし。色々と黒字持ってきてくれそうで、そもそもが勝手知ったるユフィならむしろ歓迎だがな」
「アニス様が居候となったら、むしろ赤字を拡大することでしょうね……でも、矯正の為なら王妃様にそのように直訴するというのも……」
「マッドくん、姉をディスるついでにしれっと惚気るんじゃないの!そしてユフィは何でさっきから怖いことばっかり言うのさ!」
何でここまで息の合った風に、それも急激になってくれるのかなこの二人は!
ああほら、二人には分からない位置にいるからってイリアもどこか呆れ半分微笑ましさ半分で見てるし。
っていうか、母上帰ってきてること思いっきり知られてるんですけどー!
「私がいない時にこれ幸いにと独自調査をする人には、これくらいがちょうどいいと思っただけですが」
「ど、独自調査って……えっ二人とももしかしなくても」
「俺もユフィも姉上がスプラウト伯爵家に訪問したことはその目的も合わせてとっくに知ってる。──ったく、もうちょい上手くやれっての」
イリア、二人には言わないようにって厳重に言ったよね……?
批難の視線を思いっきり向けるが、柳に風と言わんばかりにスルーされていく。
ぐぬぬ……みんなして不敬案件じゃないかなこれは。
「だって、いくらか策謀が混ざっていたとはいえ、ユフィにとっては聞いていい気分になるような話じゃないよね?マッドくんの耳に入ったら、絶対に裏で更に動きそうだったし……」
「母上と父上、何ならグランツ公も前者については同じ考えなんだろうよ。──だが、それはユフィの意志を軽く見過ぎてるんじゃねえか?むしろ余計な弱者扱いにすら見えるぞ」
「勿論、気を遣って頂くこと自体に悪い気はしません。ですが、それも度が過ぎると却って居た堪れなくなってしまうのですよ」
「美点も度が過ぎると反転しかねない。そういうところですよ、姫様」
……うん、これは完全に私が悪いやつだ。
アルくんの時と同じ轍を踏んじゃってるわけだからね……本当に見事にやらかしている。
良かれと思ってのやりすぎ、私のお得意芸になりつつあるじゃん……
うう、ものすっごい気まずい……──なんて負のスパイラルを吹き飛ばさんと、割と強めなデコピンが飛んできた。
魔力が込められてるせいか、結構痛いんだけど!?
「姉上のその癖が簡単に直りそうにないってのはとっくに分かってるっての。だがそれが美点であるのもまた事実だ。なら、上手く付き合ってけ」
「アニス様が誰かさん譲りな無茶を隠れて行うくらいは理解しているつもりです。時折陛下のように胃が痛くなる時もありますが、そんな貴女と友人でいられること、そして助手でいられることにはこれでも『楽しい』という感情を抱いてるんですよ?だから、変な遠慮はもう止してください」
「あのユフィからの友情発言に胸が熱くなりそうなんだが……その誰かさんってのはどこのどいつだ?」
いや、それはどう見ても君だよ君!
でも、そっか……ユフィは私の事友達って思ってくれてたんだ。
……ダメだ、目頭が熱くなりそう。
今やらかしたらただのギャグ泣きだから我慢するけど。
「さて……湿っぽい空気はこれまでだ。姉上にはユフィとの約束破った罰としてスプラウト伯爵家であったことを証言してもらうとしよう」
「え、その罰決めるのって約束を交わした私ですよね……?」
「どっちが切り出したってどうせ一緒だろ?んなこまけえこと気にしてるようじゃあ……まだまだだね」
出た、マッドくんのお得意芸『こまけえこたあいいんだよ!』
更にこれまた前世で聞いたことのある決まり文句も加わり、完全に空気は転換された。
こういう時に道化になれるのがマッドくんのいいところなんだよね……意図して空気を読まない術に長けてるっていうか。
お陰で私も随分切り出しやすくなったよ
「知っての通り、スプラウト伯爵家に行ったのはナヴル君と話をするためだった。シアン男爵令嬢を囲っていた3人の一人ってなったら、それはもう有力な手がかりだからね」
「有力というか、本来ならかなり核心に近づきましたね……流石の行動力というべきでしょうか」
「そんな虎の穴に入ったって割には工房に引き籠って悩んでいた……となると、随分と頭の悪い主張でも聞かされたってところか?狂信者の戯言ってのはまともに受け取ったら疲れるだけだぜ?」
確かにあの時のナヴル君はそんな感じだったけど、それは流石に辛辣すぎだってば……。
よっぽどユフィが貶されて、アルくんも嵌められかけたことを怒っているのかな。
……それ以上の何かを感じる気もするけど、今は置いておこう。
「最初は私が何を言おうとシアン男爵令嬢は悪くないの一点張りで、本当に彼女がそれを望んでいるのかって問いを投げかけたら色々とおかしいことに気付いたよ。すっかり自己嫌悪に陥っちゃったけど、ちゃんと指摘すれば後戻り出来るって感じなのが救いかな……」
「その上で、私の人間的に取っつきづらいという評価も残っていた……だから私を口撃したということですね?」
「……実際ユフィに直接言っても聞く耳持ってもらえないとか、そんな感じなことを並べてたからね。そうなっちゃうのかも」
「過去の自分が蒔いた種、ということですね。昔の自分が本当に嫌になってしまいます……」
案の定ユフィは額を抑えていたよ……ここまで自己嫌悪に陥る彼女も珍しい。
過去のユフィは、言うなれば王妃という型に徹底的に自分を当て嵌めてたってことだからね。
それをマッドくんがぶっ壊して、今に至るまで人間らしさを必死に取り戻そうと試行錯誤してきた。
だからこそ、過去の自分は空虚でしかなくて……目を向けるのも嫌になんだろうね。
「──それにしてもナヴル様のその妙な状態……マッド様、確か1年前は……」
「アル兄さんのことだろ?あっちは姉上やユフィへのコンプレックスや自縛他縛への怒りと嘆きの方が強いくらいだったな。まあ、そのご子息と同じようにシアン男爵令嬢に惹かれ始めていたってのも認めてたがね」
「そして、マッド様とのトチ狂った喧嘩をきっかけに正気を取り戻したら私への態度も軟化していましたね……それなりに類似点はあるのではないかと」
「要するに、アルくんにも話を聞いた方がいいってことかー……」
ユフィの言わんとすること、それは正着だとは思う。
危うく同じ道を歩みかねなかったアルくんなら、もしかしたらより核心に近づく話も聞けるかもしれない。
……ただ、あちらが仮に良くても私の方がいいかと言われると……。
「ユフィ、それはなかなかの名案だな。じゃあ善は急げってことで早速向かうとしよう」
「行きますよアニス様。この際色々と面倒なことも解消してしまいましょうか」
「お二人の仰る通り、いつまでもウジウジしていても仕方ないですよ姫様」
……んん?
マッドくん、今何と仰いました?
待ってユフィ、何で私を強制的に立ち上がらせてるのかな?
あれイリア、何で逃がさんとばかりに縄で縛り付けているのかな?
「待って待った待ちなさーい!私にだって心の準備と言うものが……ほら、アルくんもいきなり私が来たら迷惑がるんじゃないかな!?」
「疎遠状態だった俺の離宮に逃亡してた癖に何を言うか……あ、やべ居場所知らねえわ」
「よっしゃあ!ほら、そういうことなら今すぐ中断だよ中断!まさかこの状態で王城内を駆けずりまわるわけにもいかないよね?」
「アルガルド様は現在ラインヒルト様のところですよ。マッド様の命でしたら、今すぐご案内いたしますが」
ふはは、今回こそは孤軍奮闘ながら勝利……なん、だと……?
何か聞き覚えがあるような、無いような声で盛大なカウンターを貰ったんですけど。
しかもユフィやセラ以外に『マッド様』と呼ぶなんて一体誰なのさ!?
「おいおいプリシラ、来てくれるのはありがたいが手間かけさせるようなことでもねえぞ?」
「主が些細なことでお困りの際は速攻対応……セラ先輩の受け売りですよ」
「……その受け売りに免じて、どういう耳かは聞かないでおいてやるとするかね」
視界を向けた先ではすっごい主従的やり取りをしているマッド君と 群青髪の侍女の姿がありますね……。
……今の会話から察するにセラの後輩?
えーっと、要するにマッドくん付きの二人目の侍女ってことだよね……。
こらこらこらこらマッドくん、君まーた何しでかしてくれてるの!?
オルタでも十分すぎる問題になったって言うのに、よりにもよって女子しかも新たな侍女なんてなったら……!
「──マッド様、道中でたっぷりとお話を聞かせてくださいね?」
「やっぱり折角鳴りを潜めてたダークネスユフィが復活しちゃってるー!」
「プリシラ、何というタイミングで出没しているのですか貴方は……」
「おーいユフィ、姉上の腕がミシミシ言ってるから止めてやれ……いや、何で今度は俺が対象になるんだよ!?クソ、対象耐性どこ行った!」
いやいやマッドくん、ここは君が責任もって鎮めるべきだよ!
全く君という人は……オルタといい、この第二の侍女といい何で人物関係が発覚する時に限って間が悪いのさ!
後、唐突に出てきたセカンド侍女は何楽しそうに笑ってるのかな!?
さては、セラと同類の混沌製造要員タイプか!勘弁してほしいんだけど!
一緒になって姉上を弄る時に限って色々飛び越えて夫婦漫才発動な二人。
このチグハグなはずの一致感もまたこの二人ならではじゃないかなーと。
そして次回、原作と違って健全な姉弟対面。
良くも悪くも過去改変の影響が凄まじくなる予定です。
Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)
-
転天キャラでのNLとか他絡みを所望
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グランサガの二次がレアすぎて
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バトルハードモードに釣られた
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ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
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その他(そもそもの作風とか)