転生疑惑な破天荒の彫魂革命   作:スダホークを崇める者

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原作でもあった組み合わせだけど、こんな形で成立だなんてとは誰が思うか。
まあ、生暖かく見守れるだけマシかなーと。


62. 禊の決闘

 

グランナイツ会館にある簡易訓練部屋。

普段ならば、鍛錬狂いのイグノックスとこっそり顕魂術の実験をするマドラーシュ、密かに追加訓練をしたいラスが使う場所でもある。

最近では頻繁に利用する者の中にカルトも含まれているが、今回の利用者はその誰でもない。

……今挙げた名の中に、今の状況を作り出した者が存在するのは確かではあるが。

 

「折角舞台に上がったっていうのに随分浮かない顔してるじゃねえか姉上」

「あのねえ……この状況で楽しそうにしてるのは君たち双子だけじゃないかな……いやごめん、まるでそうでもなかった」

「ラスとかガークはちょっとした賭けでもしてそうだな。これは白けさせたら問答無用の大根役者認定か?」

 

いっそキュイやカルトもいれば面白かったのに、これぞマドラーシュ内心の混沌要望だった。

そんなやりたい放題破天荒に対して、アニスフィアは少々ばかりの恨みを込めた視線を向ける。

『そんな状況に持ち込んでおいて何を言うか』と言わんばかりのそれは至って正当なものだが……柳に風とばかりに流されてしまった。

とはいえ、末弟の言わんとすることは理解は出来る。

逆サイドに陣取っている長男アルガルドは、かつてこの破天荒と半分殺し合いの喧嘩をしたという。

そのことはユフィリアからも呆れ混じりの証言があったため、偽りの無い事実だと認めてはいる。

──それが互いの過去と現在を否が応にも認識させるための儀式だったということも。

実際、その喧嘩を経たことでアルガルドは真っ当に前を向くようになり、双子仲も皮肉を交えながらも良好なものになった。

……そして今度は自分にお鉢が回ってきたということなのだろう。

問題はその方法にあるわけで。

 

「姉として弟と遊ぶ……仲睦まじき姉弟仲を取り戻すならこれが相場ってもんだろ?」

「いやいやいや、だからって何でこういう形式?それと、何でユフィがしれっと私のマナ・ブレイド持ってきてるのさ……」

「アニス様とアルガルド様がマッド様の立ち会いの元で顔を合わせるとなれば、これくらいは考えると予想してのことです。それにアニス様の及び腰は少々目に余りましたので、いっそこれくらい強引な方が手っ取り早いのではと」

「ほれ、今やユフィでも理解して後押しするほどの道理だ。いい加減諦めろ往生際が悪い」

 

かつて突き放した弟への接し方にどこか煮え切らない空気を曝け出す様は、ユフィリアとしてはこれまた過去の自分と重ねてしまっていた。

だからこそどこかイラッとしてしまい、勢いのまま強引に背中を後押しするような行為に至ってしまっている。

ある意味青臭く、ますます貴族らしさから遠ざかっているが……その拙さの残る様は、人間的なそれに一歩近づいたと言える。

そんな友人の些細な変化を喜びながら、マドラーシュは姉の背中を物理的に押して決闘の場へ赴かせた。

そしてまた何かを言われる前に、ユフィリアと共に観客席の方へそそくさと退散していく。

こうなれば、アニスフィアは目の前にいるアルガルドと向き合う以外他なかった。

 

「ユフィには俺の思惑に付き合ってくれたことに礼を言わんとな。まさかあの短いやり取りだけで意図を理解してるとは思いもよらなかったが……」

「先ほども言いましたが、アニス様は奇行塗れのやりたい放題な裏で踏ん切りがつかない面も時折見受けられましたから……誰かさんと似てますね?」

「……誰のことを言ってるのかまるで分からんな」

 

ちなみにこの時のマドラーシュ、本気で分かっていない模様。

その様はユフィリアも理解したようだが、あえて追及することはなかった。

──その代わり、その内で一体何を考えているかは蟹の味噌汁じゃなくて神のみぞ知る。

 

「えーっと、何か二人だけの世界を形成してるところ悪いんだけど……マッドも賭けはやるかい?」

「どいつもこいつもアルガルド様に賭けてて、俺の一人勝ちないし一人負けっていう怖い状況なんですよ!マドラーシュ様はアニスフィア様に賭けてくれますよね!?」

「えっと、それはガーク殿もアルガルド様にしちゃえばいっそ有耶無耶に出来る気が……」

「アニスフィア様から揺らぐことは流石に出来ないからそれは無理な相談だな」

 

エダンの指摘は御尤もでしかないが、ガークは引くつもりはまるでない。

まるで万馬券を手にしているようなその姿に、マドラーシュとラスはただただ苦笑を浮かべるのみだ。

そもそも、その立場にいるラスがしれっと賭けに参加している辺りがなかなかにあくどい。

そういうところまで見事に幼馴染から学び吸収してしまっているが、実の母が知ったらどのような顔をするのだろうか……。

 

「今回の賭けはどう足掻いても俺は当たるから遠慮しておいてやるよ。俺の好みは分の悪い中で足掻くような熱い賭博だからな」

「それでこそマドラーシュ王子殿下、見事なご慧眼です!というわけでガーク、貴方は一人負けに震えながら財布の中身を心配してなさいな!」

「エイパ様、そこはお手柔らかにして差し上げた方が……ところで、マドラーシュ王子殿下もそのような遊戯を?」

「そういう視野を持っておけば、否でも壁を壊す機会と手段を得られるからな。興味があるなら、偉志ノ大陸の『運』を不確定要素として取り込める遊びを布教してやるよ」

 

ちなみに、それは言うまでもなく萬やら字やらの稗を扱うあのゲームだ。

その手のおじさまと愉快に熱く遊びに興じるのもまた、マドラーシュの偉志ノ大陸での楽しみの一環として組み込まれていたのだ。

年齢ようやく2桁に乗った他国の第二王子が興じ、溶け込む様は異様そのもの。

無論現地民にとってはこの上なく大好評で、陽ノ花家現当主辺りがさぞ愉快そうにしていたのも言うまでもないことだろう。

 

「マッド様、その遊びはオルタもやるのですか?それを抜きにしても気になるところですけれど……」

「おいおい、こんなところでもアイツと張り合う気かよ……言っとくが、オルタもそれなりに出来るからな?」

「あの人にはあらゆる分野で負けたくありませんので。時間が合ったら徹底的にご指導願えますでしょうか」

「ははは、噂には聞いてたけどこれが負けず嫌いモードのユフィリア様か……確かに新鮮で面白いね」

 

なお、この時ちょうど冒険者ギルドに顔を出していた流浪人がくしゃみをしていたとか何とか……。

カルトやナマリエが見たらさぞ面白がりそうだ、とラスは内心では更に微笑まし気にしている。

これまでは身分の差や色々な都合で接する機会が少なかった令嬢の人間らしさは、その容姿も相まって強烈なギャップを生み出す。

マドラーシュが呆れながらもどこか笑みを浮かべている辺り、まさにその兆候にある。

それは、ラスとマドラーシュ以外にも言えることでもある。

 

「あのユフィリア様が誰かをライバル視するなんて……畏れ多くも親近感を抱いてしまいますね」

「俺はそんなにお目にかかることが無かったが、それでも凄い人ってのは否って程知ってたからな……今でも恐縮してるくらいだ」

 

それでも先行してしまうのは身分の差から来る畏怖というもので。

今は婚約解消されてこそいるが、相手は幼い時から次期王妃として指名されるほどの公爵令嬢だ。

マドラーシュという王族、グランナイツという英雄が身近にいたラスはまだしも……普通ならば問答無用で頭を垂れるほどの地位にいる。

その空気を読み取ったユフィリアが浮かべたのは、隣にいる破天荒に倣うかのような年相応の、そして僅かばかりの自虐を含んだ笑みだった。

 

「かつては魔法における天才だ、完璧令嬢だと讃えられてきましたが、所詮そんなものは胃の中の蛙の評価です。高みを目指す、という意味では私は若輩どころか赤ん坊そのもので、ちっぽけな存在でしかありません。公の場ならば仕方ないですけど、そうでない今はただの世間知らずと思って問題ありませんよ」

「実際3年前までマジでお人形だったからなあ?要するにこいつはまだまだ経験不足で色々素っ頓狂なことしでかす人間3年生だ。お前らも色々と協力してやってくれ、最初の友人として俺からも頼んだ!」

「マッド様がそれをドヤ顔で言わないでください。そもそも誰のせいでその素っ頓狂になったと思っているのですか!」

 

これまでは離宮の一室でしか起こり得なかったやり取りが、今外部初公開となった瞬間であった。

アルカンシェルを用いたマジックハリセンも使いながらのツッコミは、絵面も相まって笑いを引き起こす。

そして、このとことん遠慮が無いやり取りを見た5人は異なるリアクションを取りながらも同じことを思っていた。

 

『これだけ夫婦漫才しておいて、なんでまだくっついてないんだ……?』

 

ユフィリア自身はまるで意識していないだろうが、この行為は確実に外堀埋めに貢献することとなっていた。

後ほどマドラーシュの『どうしてこうなった』な叫びもセットだろうが、それはこういう時の詰めの甘さが故のお約束だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の決闘の仲介役であるデイジーからのルール説明は本当にすぐさま終わった。

要は、『別に何でもありだが勝負ありと思ったら制止は入れる』ということ。

すなわち、私はドラゴンの刻印も使えるしアルくんも魔法は使いたい放題ということだけども。

 

「向き合うって言っても、こんな形である必要はあるのかな……」

 

確かにマッドくんとアルくんはこれ以上に凄まじい喧嘩をしたって話だよ?

互いが互いに煽り倒して、吐き出すものを吐き出して……その上で戦って。

そうしたら相互理解が生まれ、むしろ楽しい喧嘩に発展して……雨降って地固まるどころじゃない仲直りを果たした。

──でも、果たして私とアルくんの溝はこんなやり方で埋まるのだろうか。

マッドくんとユフィは何を思って私をこの場に立たせたのだろう。

そしてその元凶たちは……それはもう楽しそうにガッくんやラスくん、エイパ達と談笑していた。

ああもう、窮地の姉及び上司兼友人を放って自分たちは夫婦で挨拶回りとはいいご身分ですね!

 

「やはり姉上にとって、俺は視界に入れるに値しないか?観客席の方がよほど面白いと取れる」

 

しまった、思わずマッドくん達に意識を注いでしまっていた。

お陰でアルくんからのどぎつい皮肉を頂戴してしまった……これはよろしくない。

ただ、これまで向けられてきた憎悪は明らかに薄まっている感じがする。

まあ、そうじゃないと事務的とはいえまともに話なんて出来なかったんだろうけど……それでもだ。

今あそこにいるのは、私が知っているアルくんとはまるで別人物……そう思わないとだね。

そこを見極めようと思ったら、少しばかりやる気が出て来た気がする。

あ、別に喧嘩したいとかじゃなくて成長を見たいってだけだから!

 

「両者位置に着いたわね。では、始め!」

「よーし、行くよアルく……ん!?」

 

ちょ、試合開始コールと同時に水の刃が飛んできたんだけど!?

魔法名だけの簡単な詠唱すら聞こえなかった……要するに無詠唱ってことじゃん!

丁度ユフィが試行錯誤していることを、こうもすんなりと飛んでくるなんて誰が思うことか。

いきなりの怒涛の攻めに、すっかり出鼻を挫かれてしまった。

 

「目覚めの一発のつもりだったのだが、まだ足りないか?」

「全く、誰かさんみたいなあくどい真似してくれちゃってさ!もう目覚めスッキリだよ!」

 

口振りまでマッドくんに似せる必要は無いと思うけどね……。

それはさておき、小休止と言わんばかりにアルくんが放つ水の刃のペースが落ちている。

無詠唱で放ち続けるのもそれなりに集中力を要するということなのかな?

よし、それならこっちからも攻め立ててやろうじゃない!

マナ・ブレイドを構えて、一気に接近戦に持ち込まんと加速する。

アルくんもそれを望んでいたのかは知らないが、懐から見慣れない剣を取り出していた。

あれ、確か遠距離魔法一辺倒じゃなかったっけ……!?

 

「マナ・ブレイドは物理的衝撃に弱い。俺の手持ちでも手段はあるが、こちらの方が消費が少ないからな」

「私に対する対抗策として魔力刃付与とか剣術も磨いたってわけ?私ってば随分と買われてるんだね!」

「やれることを徹底的にやって足掻く、ただそれだけのこと」

 

要するに、対抗意識を燃やしていたユフィに対しても策を講じているってことだよね……どんだけなのさもう。

これは……このままだと少々マズい気がする。

アルくんは至って冷静そのものだ。

握られている剣との鍔迫り合いを避けるため、ヒットアンドアウェイに即スイッチした。

もはやどこから仕掛けるとか考える間もなく、ひたすら速度重視なだけなんだけどこれでも普通の魔物相手ならどんどん倒して行ける。

しかし、アルくんは私のことをひたすら目で追うことに躍起になっていない。

 

「まるで亀みたいだけど、いっそ盾でも用意しておけばより盤石だったんじゃないかな!」

「この華奢な体形ででカルリッツのような役割はこなせと?愚弟でもそんな無理難題は言わないのだが、実は姉上も鬼畜属性持ちか?」

「やりたい放題がモットーなマッドくんと一緒にしないでほしいんだけど!?」

 

守備的であることに対して煽りを入れてもまるで手応えが無い。

むしろ余裕を持ったジョークを交えて返されてしまい、ツッコミを入れざるを得ないほどだ。

最低限の位置取りを把握して、攻撃の兆候を感じたらひたすら受け流す……これだけだ。

武器的に有利だから、自分から無理な攻めが必要が無い……いわばアドバンテージを徹底的に押すやり方。

派手さはまるでないけど、そこには確かな勝利への理を感じ取れる。

徹底的な合理っぷり、否が応にも息苦しさを覚えちゃうね……。

せめてものばかりと私はフェイントでアルくんの剣を足蹴にしつつ距離を取る。

軽い行動変化で、少しでもダメージを与えると共に息を入れ直そうと思ったのだが……前者は失敗に終わった。

これから私がしようとすることも読んでいるのか、アルくんからの追撃は無かったのが幸いだけども。

その視線は、まるで私の事を値踏みするかのようで……あまりいい気分にはなれそうにない。

 

「まあ、このままだとジリ貧一直線だからな。姉上としてはそれが正解だろう」

 

悔しいけどまさにその通りだ。

まだまだ体力的な余裕はあるのだが、それもいつまで持つか分からない。

スピードでの攪乱戦法は、手応えが無いと悪戯に体力を消耗するだけ。

対するアルくんはほぼその場から動かず、私の攻撃に合わせて受け流すような剣捌きをすればいい。

この状況を打破するには……もう、アレしかないよね。

 

「ほんっと、久々に会った弟がそれはもう嫌味なくらいに合理的だからさ……ちょっと強引にこじ開けさせてもらおっかなーと。たまにはそういう工事作業も悪くないよね?」

 

私の全身に刻まれたソレに、魔力とイメージをこれでもかと流し始める。

最初は使う気などまるで無かったけど、このままではそれこそマッドくんの言うどっちらけな戦いになってしまう。

幸いなことに、ここには口が堅そうな顔ぶればかりだし遠慮する必要はないだろう。

まあ、この簡易訓練部屋は多少犠牲になってしまうかもしれないが……そこはマッドくんに丸投げしてしまえばいい。

 

「人の身に宿す形とはいえ、相手は飛行トカゲ……まあ俺如きが主演では力不足は否めないか。まあ代役くらいは無難にこなすとしよう」

 

主演って……ああ、アルくんもケルビムのことは知ってるってわけ。

そこにかこつけて主演ってわけか……いや、今のアルくんも十分舞台の主演張れるくらい堂々としてるよ?

──まあ、ちょーっと行き過ぎている感じもしなくはないけどさ。

だってさあ、言うに事欠いて『飛行トカゲ』はねえ……?

随分とまあ舐めた口聞いてくれたものだよ。

お陰で刻印からは怒りの感情がひしひしと伝わってきて困っちゃうんだけど!

さっきから『あの命知らずを切り刻め』って五月蠅くて敵わないし、責任取ってくれるよね!?

 

「ドラゴン舐めるなよアルくん!『架空式・竜魔心臓』(ドラゴン・ハート)

 

魔法名の宣言と共に、私の身にドラゴンのが表出される。

飛行トカゲと言われた怒りを何とか抑えながらも、展開は進んでいく。

ああ、ガッくんとかエイパはさぞ驚愕していることだろうな……。

ラインヒルト顧問とデイジーは……流石はグランナイツ、やはりというべきか全然平然としている。

ユフィは……ああそっか、これの展開自体は初めて見るからちょっとだけ目を見開いている感じだね。

そして、肝心の二人については……それはもう獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここまでの流れは想定通り。

冒頭から無詠唱の『ウォーターカッター』でいきなり出鼻を挫く。

かつての俺ならばそのまま攻め立てているだろうが、相手は姉上だからそれはむしろ愚策。

無詠唱での魔法発動、それはイメージと魔力を絶え間なく精霊に与え続ける必要がある。

当然、必ずどこかで切れ目がしてしまい……そこを察知されて急接近されたら主導権は完全に奪われる。

ならば、意図的に切れ目を発生させて相手の行動に備えておけばいい。

姉上の場合は、通常ならばマナ・ブレイド以外に決め手が存在しない。

『ウォーターカッター』が途切れれば、確実にしめたと言わんばかりに接近戦に持ち込むだろう。

そこで、今度はマナ・ブレイド対策は万全だとこれ見よがしに宣言する。

マナ・ブレイドは精霊石を刀身の媒体にしている都合、物理的衝撃に弱い……いわば鍔迫り合い厳禁の武器だ。

物理的な切断能力は確かに高いが、それも魔力刃を付与すれば対策可能。

あちらの長所は携帯性を重視した軽さだが、実戦においては欠点足りえる。

そこを徹底的に突いてしまえば、姉上の行動も読めてくる。

相手が普通の魔法使いであろう俺だからと生まれた無意識の慢心、そこに積み重なる僅かばかりの焦燥。

攻めのリズムがまるで単調になるのも当然で、捌くのもひたすら容易いものだ。

イグノックスやカルシオン、デイジーとの稽古と比べれば……それこそ目を瞑ってでも避けられる。

 

(それにしても……確かに愚弟の言う通りだな)

 

姉上は化け物などではない……俺たちと同じ人間なのだと。

魔学やら魔道具やら、少々発想が奇抜で目の向けどころが違うだけなのだと……改めて認識することが出来た。

 

(本当にドラゴンの力を具現化するとは……そこばかりは大した執念と思わざるを得ない)

 

目の前にいるのは、人型を基軸としたドラゴン……どこぞの愚弟が『飛行トカゲ』となかなかなあだ名をつけていたな。

その魔石を己が身に刻み付け、人の身でドラゴンの力を借り受ける……そんなとんでもを知った父上は卒倒しかけていたな。

そんな愉快な裏事情もあるが、目の前にいるのは災害級と称される力そのものだ。

滅茶苦茶やっているとはいえ、それを引き出すことが出来た姉上には敬服の念すら抱いている。

本来ならば恐怖や畏怖の感情でも抱くべきなのだろうが……。

 

「どうやら俺もすっかり染まったらしい……マッド、お前には感謝するべきだな」

 

強がりとかヤケではなく自然と口端が上がっていた。

そこに秘められた感情は……強いて言えば歓喜か?

姉上を同じ土俵に引きずり込めたことなのか、自分がその土俵に上がることが出来たからなのかは分からない。

が、そんなことはどうでもいい……どちらにせよ、あの奇天烈第一王女に目に物を見せる好機なのだから。

さて、ここからは俺も一段上げて行くとしよう。

 

「さあさあ行くよアルくん!飛行トカゲって言っちゃった手前簡単に倒れないでよ!?」

 

言われたくなければ、黙って攻撃に移った方がいいと思うがな。

さて、当然だが姉上のスピードとパワーは格段に跳ね上がっていることだろう。

先ほどのような受け流し戦法は武器の耐久力的にも危険を伴う。

ならば、方向性はこう定める他無いか。

俺は剣を地面に突き立てるようにしてから、水属性の魔力とイメージを叩き込み宣言する。

 

「まだ見ぬ深淵より吠えろ、魔の轟き──『フリーライド・メガロアビス』!」

 

剣を軸に水棲生物が象られ、共に激流が発せられる。

水中を自由自在に舞うようなナニかを足場に、俺は劇的な推進力を得ることとなった。

我が魂に問い続けること1年、カルシオンとマッド、クリスティーナにセラの助力の元完成させた新たなる力だ。

ちなみに、水棲生物のイメージ及び術名は愚弟が持って来た禁書から拝借している。

 

「ちょ、魔力でシャチを編んでの魔法版水上ジェットスキー!?魔道具でやりたかったのに先越された!」

「まあ、これぞ水を得た魚というヤツということだ。──さて、攻めさせてもらうぞ」

 

暢気に感想を述べているところ悪いが、その馬鹿力を簡単に発揮させるつもりは毛頭ない。

速さそのものはこちらの方が劣っているように見えるが、そんなのやりようだ。

再度接近を試みようとする姉上の方に向き直りながら、俺は数多くの遠距離攻撃を放っていく。

『ウォーターカッター』、『ウォーターバレット』、『アイシクルバレット』、『アイシクルランス』……。

俺の得意とする細やかな攻撃を、文字通り雨あられと降り注がせる。

先ほどまでの防戦と打って変わっての猛攻っぷりに、姉上も戸惑いを見せているようだな。

 

「さっきと違って随分元気じゃない!もしかして最初は出し惜しみしてたってわけ?」

「さてな。ドラゴンの魔力に当てられただけかもしれんぞ?」

 

姉上が言いたいのは、無詠唱を続けることの魔力的スタミナのことだろうな。

明らかに許容量を超えている連続無詠唱発動を見れば、色々と疑いたくなるのは分からないでもない。

まあ、手品のタネは至って簡単なものなのだが……いちいち説明するまでもないだろう。

強いて言うならば、『フリーライド・メガロアビス』がただの乗り物ではない……というくらいにしておこうか。

さて、状況としては先ほどの攻守が入れ替わっただけでぱっと見は膠着状態だ。

弾幕となっている術の1つ1つの威力は大したことなくとも、確実に姉上の進路を潰して進軍を防いでいる。

その凶悪な爪による一撃必殺を狙う姉上からすれば、ネチネチと鬱陶しいことこの上ないだろう。

 

「この魔法が爪とか角だけの見掛け倒しだって思ってるようだけど……それは誤りだよアルくん!これでも食らって認識を改めなさい!」

 

そんな姉上の軽い宣言と共に膨大な魔力の充填が確認される……まあ、そうなるな。

一つ一つ対処するのが面倒になったのだろうな……放つのは恐らく、ドラゴンのブレス。

残念だが、それも想定済みだ。

魔石を起こすということは、ドラゴンが扱える技法も軒並み扱えることと同義だ。

確かに、そればかりはなかなかの化け物っぷりかもしれないな。

──だが、それを超える存在を俺はこの目で幾度も見てきたのだ。

多少の驚愕はあれど、恐れを抱くまでもない!

 

「水とはあらゆる意味で変幻自在の特性を持つ。俺の足を舐めるな」

「ちょっ!?そんなあっさり高度変更する魚がいてたまるものですか!」

 

そんなものは所詮イメージの問題だろうに……と、愚弟ならば返すだろう。

魔力で編んでいる都合上、高度を上げるにも限度が存在することが弱点だがな。

その分を小回りに回したのがこの顕魂術だからな。

──よし、ブレスは見事に空を切らせた。

ピンポイントで俺か船を狙ったが故に範囲を狭めたことが仇になる形だが、これも計算の内だ。

さて、そろそろ新たな手品に……と思った時に悪寒が走った。

 

「そうか、あの弾幕は次弾への布石……それなら!」

 

『アイシクルプリズン』で身動きを封じるつもりだったが、術の行使より先に姉上は動き出した。

予想より早く気付かれたか……流石は姉上、勘が鋭い。

これは方向転換をせざるを得ない、さもないとこのまま切り裂かれてジ・エンド。

氷の牢獄のイメージから即座に切り替える……狙いは当然、姉上の接近妨害。

地上に散布された自身の魔力由来の水を、全て氷に変換しながらそれは象られていく。

 

「ちょ、ドラゴンは私の十八番なんですけどー!?」

「ドラゴンではなく龍だ、被りの心配は無用だぞ!」

 

マッドが偉志ノ大陸の天ノ川家から譲り受けたとされる書物には、王国のものとは異なる龍が描かれていた。

飛行トカゲと言いながらドラゴンを狩り放題の愚弟も、その存在には大きく敬意を払っていたのは今でも覚えている。

さながら、俺が生み出したのは氷龍といったところだろうか?

無論、形だけで本物の影を踏める気配すらも微塵も無いがな。

 

「いくらドラゴンの姿をしてようが所詮は氷、砕いたり溶かせばいいだけでしょうがあ!」

 

そう、所詮は氷で姿を模しただけの虚像に過ぎない。

本物のドラゴンそのものには到底敵うはずもなく、爪で砕かれブレスで溶かされ為す術などあるはずがなかった。

だが、時間を稼ぐには十分な足止めになる。

何とか捻出した時間で『フリーライド・メガロアビス』に追加の魔力を注ぎ込み、生物としては最も単純な攻撃法に移らせる。

推進力の激流もここぞとばかりに攻勢に移せば、双子島辺りじゃないとお目にかかれない光景の出来上がりだ。

 

深淵生物(メガロアビス)、最大出力で突進だ!荒波と共に呑まれるがいい姉上!」

「一転して真っ向勝負とは面白い趣向だ!でもそれは慢心が過ぎるんじゃないかな!?」

 

さながら童話の怪獣大戦争が如くだが、それを人の身で引き起こすことになるとは笑うに笑えないな。

対する姉上は挑発的な笑みを浮かべながら、ドラゴンの力を引き出しての突進。

その暴虐的な魔力に呼応するように、マナ・ブレイドの刃もまた恐ろしいことになっていた。

恐らく、大半はこの結果は予想できただろうな。

……あくまで、このぶつかり合いの結果の話だが。

 

「デイジーからの止めが無い……!?まさか、アルくん!」

 

『フリーライド・メガロアビス』最大出力、確かに俺の持ちうる手でも相当な火力手段だ。

しかし、それでも姉上の力に及ばないのは百も承知。

相手はドラゴンだ、力勝負で勝つなど愚弟かグランロードぐらいしか出来んだろう。

だからこそ、囮に使うのに躊躇する理由など無かった。

込められた魔力量は本体の隠蔽にも繋がるし、それは

やはり、決着はこれでつけなければ締まらないだろう!

 

「トドメは確実かつ正確に……そうでないと最大の隙となるぞ?」

「ここに来て不意打ちからの接近戦って、どんだけ多重に策施しちゃってるのさ!」

「絶望的な能力差を補うためだ、この程度は朝飯前でないとな」

 

無論、実戦の中で調整を重ねた即興に過ぎない。

まあ、マッドやイグノックスが常日頃やっていることを真似ただけで大したことではない。

水の魔力刃を付与した剣を構え、不意を突く形で接近に成功する。

しかし、流れを作ることが出来ても綱渡りであることに変わりはない。

 

「ほらほらアルくん、そんな攻撃じゃあ傷をつけるのは無理だと思うよ!?」

「よほど中のドラゴンはご立腹のようだな。全く、その寛容性の無さが災害級と呼ばれる所以じゃないのか?」

「ああこら、また挑発なんてして!更に怒っちゃってるよどうしてくれるのさ!」

 

今のところ攻めの流れは俺にあるが、単純な力の差はまるで埋まっていない。

少しでも甘い攻めをしたら、凶悪な刃に叩き切られて一発逆転待ったなしだ。

冒頭の姉上が行ったスピードを利用した連続攻撃に、牽制の風味を増し増しにしていく。

……俺の見立てなら、もうそろそろのはずだが……まだか!?

 

「そんな細かい攻撃を刻むなら、いっそ受けきってから……ちょ、体勢が!?」

 

いざ姉上が強引に攻勢に出ようとしたところでようやくそれは起こってくれた。

『フリーライド・メガロアビス』が切り裂かれることで出来た水溜まりから闇色の鎖が発せられる。

更なる不意打ちが重なることとなり、姉上は体勢変化の際に縛られてその暴虐的力を発揮しきれない。

 

「言っただろう、水は変幻自在だと……魔力生物を構成する水の魔力を足元の水溜まりとして組み直し、闇属性の魔力核を鎖として展開させてもらった」

「まさか、さっきの挑発とかもこれを組み直す布石だったの?本当、徹頭徹尾技巧派で行くんだねアルくんは……!」

「一つ一つの出力は弱くとも、全ては使いよう。使えるものは何でも使う……どこぞのバカの受け売りだ!」

「憎たらしいくらいに御尤もなお言葉、確かに言いそうだよねそれ!後でマッドくんにハグでもしちゃおっかなー!」

 

止めておけ、そんなことをしたら隣にいる徐々に見た目だけになりつつある公爵令嬢に消し炭にされるぞ。

更に言うなら、テンションを上げながら無理やり束縛を引き千切らないでくれるか?

お陰で、俺の手癖足癖がますます悪くなってしまう。

闇属性の鎖の影響が少なくなり、姉上の力押しが顕著になるそのタイミングが最後の締めだ。

 

「ちょっ、いきなり魔力刃解除……うわわ!?」

「変幻自在なのは水だけでなく、俺自身も同じこと。潮が引くのもまた道理というわけだ」

 

ダメ押しとばかりに、鍔迫り合いの間で展開していた水の鞭が体勢を崩した姉上を捕らえ、きっちりと転倒を促した。

最後は残った水属性魔力を全て氷に変換して姉上を包囲させる。

俺自身も反転して、再展開した水属性の魔力刃を地面に転がる姉上に突きつけた。

この瞬間、勝者と敗者の立場は決定的となる。

──これまでとは、まるで逆の立場として。

 

「……徹底的なまでの王手だね。やられたよ、アルくん」

「これでようやく1本……俺の初白星だ」

 

その宣言と共に、俺の心の中にあった最後の幻影に決別を告げた。

──ようやくだ。

ただひたすら先を行く姉上という鎖を取り払うことが出来たのは。

地を這い泥を啜るだけの俺でも、部分的とはいえこの奇天烈な姉に勝てる部分があったのだ。

……ようやく、この呪い塗れの自分自身をきちんと認めることが出来る。

ふと視界を横にやると、この光景を見せてくれたきっかけが仁王立ちをしながら笑みを浮かべていた。

全く、偉そうな賞賛だが……今回ばかりはお前には最大級の感謝を贈らねばな。

──その返礼は、遠い未来でお前を超える形で為すとしよう。

 





はい、そういうわけで姉弟決闘はアルガルド勝利です。
姉上のドラゴン・ハートに対抗するのは、これまた精霊顕現もどきの先行版。
詠唱はバハムートサメからです、作ってるのはシャチですが。
キュイ、マドラーシュに続く系譜をきっちり習得する辺りは抜け目なし。
更にはグランサガのとあるお侍さんのスキルを先行で放つやりたい放題っぷりです。
勝因はドラゴンの刻印で得た力を生かしづらい状況作りを徹底的にやったから、これに尽きますね。
これぞ凡夫ないし凡骨の意地、双子の弟も御満悦です。

場外では相変わらずオルタ君に対抗心バーニングユフィリア、どんだけやねん。
そしてしれっとぬるりと来たりする賭博の話が出てますが、完全にぶっこんでるだけです。
多分本作で強いのはマッド、キュイ、オルタ、カルシオン、ルドミラ、クリスティーナ辺りだろうなあと。
いや、流石に闘牌なんて書けないからやりませんけど。



Youは何を求めてこの作品を?(要するに需要調査です)

  • 転天キャラでのNLとか他絡みを所望
  • グランサガの二次がレアすぎて
  • バトルハードモードに釣られた
  • ちらほらある(?)デビルメイクライ要素
  • その他(そもそもの作風とか)
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